説明

混合装置並びにそれを用いたアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法

【課題】 (メタ)アクリル酸エステル精製工程にて製品中の乳化成分及び着色成分等を効率的に除去することを目的とした混合装置及びそれを用いた(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を課題とする。
【解決手段】 本混合装置は、凹みが形成された底面を具備する攪拌槽と、該攪拌槽内の中心部に垂設される回転軸と、該回転軸の下端に配設され該攪拌槽の底面形状に沿った形状の下端攪拌翼と、を備えることを特徴とする。また、上記底面は円錐形状であり、上記下端攪拌翼は略V字形状パドルである。更に、本(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、この混合装置を用いて(メタ)アクリル酸エステルの精製をおこなうことを特徴とする。このような混合装置及び製造方法は、比較的粘度が高い溶液を攪拌しても、分離沈殿することなく効果的に混合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合装置並びにそれを用いたアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、中和剤等を効果的に混合させることで、アクリル酸エステル等の精製を容易におこなうことができる混合装置並びにそれを用いたアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料、接着剤、印刷インク及び電子材料等の分野においては、環境保全、省資源及び省エネルギー等の観点から、紫外線硬化型又は電子線硬化型の樹脂を用いる場合が増加しつつある。また、これら樹脂の反応性希釈剤として、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル並びにこれらの混合物(以下、これらを(メタ)アクリル酸エステルとする)が広く使用されている。特に印刷インク等の分野では、耐乳化性がインクのにじみ防止等に対して不可欠である。更に他の分野においても、上記樹脂の色調が高いのは望ましくない。
【0003】
一般に(メタ)アクリル酸とアルコールとの脱水エステル化反応は、その際に原料の他に強酸触媒、重合防止剤及び着色防止剤等を共存させる。これらは製品には不要であり、製品中に存在すると製品である樹脂の品質に強く影響を及ぼす。
このため、反応の後はこれらを除去する必要があり、例えば蒸留によって精製することで行われる。また、生成した(メタ)アクリル酸エステルの分子量が大きく蒸留による精製が困難な場合には、精製工程として水、苛性ソーダ及び飽和食塩水等の水洗剤によって洗浄し、反応時に用いる強酸触媒や重合防止剤、未反応原料等の除去が行われる。更に、反応時に副生する乳化成分も精製工程で分解除去が行われる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−043451号公報
【特許文献2】特開2001−187763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記精製工程では、乳化成分が除去されるにしたがって製品相と水洗剤相との界面張力が大きくなるため、攪拌能力が不十分であると図8に例示するように、水洗剤3が攪拌槽11の底部に沈殿して、十分に攪拌することができなくなり、乳化成分等を除去することができなくなる場合がある。また、図8に例示するように攪拌槽11の底面111が円錐形状等の凹みを備える形状である場合は、攪拌翼161、162によって攪拌されない領域が生じ、未反応の水洗剤が残存しやすい。更に、脱水エステル化反応時に発生する着色成分を分解除去するためにも、この精製工程で効率的な攪拌を実施することが必要である。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、主に(メタ)アクリル酸エステル精製工程にて製品中の乳化成分及び着色成分等を効率的に除去することを目的とした混合装置及びそれを用いた(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
1.凹みが形成された底面を具備する攪拌槽と、該攪拌槽内の中心部に垂設される回転軸と、該回転軸の下端に配設され該攪拌槽の底面形状に沿った形状の下端攪拌翼と、を備えることを特徴とする混合装置。
2.上記底面は円錐形状であり、上記下端攪拌翼は略V字形状パドルである上記1.記載の混合装置。
3.上記底面は球面形状であり、上記下端攪拌翼は略円弧状パドルである上記1.記載の混合装置。
4.上記回転軸は、上記下端攪拌翼より上部位置に1段以上の上部攪拌翼を更に具備する上記1.乃至3.のいずれかに記載の混合装置。
5.上記上部攪拌翼は2段以上具備し、且つ該上部攪拌翼間距離/上記攪拌槽内径=0.1〜1.0である上記4.記載の混合装置。
6.上記上部攪拌翼翼径/上記攪拌槽内径=0.1〜0.9であり、該上部攪拌翼の翼幅/該攪拌槽内径=0.01〜0.3である上記4.又は5.記載の混合装置。
7.アクリル酸又はメタクリル酸と、アルコールとのエステルの精製に用いる上記1.乃至6.のいずれかに記載の混合装置。
8.上記1.乃至7.のいずれか一項の混合装置を用いてアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの精製をおこなうことを特徴とするアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法。
9.精製をおこなう溶液の粘度が100mPa・s以下である上記8.記載のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の混合装置によれば、凹みが形成された底面を具備する攪拌槽で比較的粘度が高い溶液を攪拌しても、分離沈殿することなく効果的に混合することができる。
底面が円錐形状であり、且つ下端攪拌翼が略V字形状パドルである場合は、下端攪拌翼を底面に接近させることができるため、分離沈殿しにくく効果的に混合することができる。
底面が球面形状であり、且つ下端攪拌翼が略円弧状形状である場合も、下端攪拌翼を底面に接近させることができるため、分離沈殿しにくく効果的に混合することができる。
【0009】
1以上の上部攪拌翼を更に具備する場合は、更に効果的に混合することができる。
更に、上部攪拌翼を複数設け、攪拌槽の内径に比例した所定比率の間隔を空けた場合は、より効率よく攪拌することができる。
上部攪拌翼の翼径及び翼幅を攪拌槽の内径に比例した所定比率とした場合は、効率よく攪拌することができる。
(メタ)アクリル酸エステルの精製に用いる場合は、水洗剤等との比重差や界面張力が大きい場合でも十分に攪拌することができる。
【0010】
本アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法は、比較的粘度が高い溶液を攪拌しても、沈殿することなく効果的に混合し、(メタ)アクリル酸エステルを生成することができる。
また、粘度が所定範囲の溶液の場合は、特に効果的に混合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1〜8を例にして本発明の混合装置並びにそれを用いたアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法を詳細に説明する。
本混合装置は、例えば図1〜3に例示するように攪拌槽11と、該攪拌槽11内の中心部に垂設される回転軸12と、該回転軸12の下端に配設される下端攪拌翼13と、を少なくとも備える。
本混合装置は図4〜6に例示するように、更に上部攪拌翼141を備えることができる。また、攪拌槽11の内周に邪魔板15を設けることができる。更に、混合装置における他の付帯設備として、例えば、水洗剤導入装置、熱交換装置、液循環装置、温度測定装置、液面計及び観察用窓等を備えることができる。
【0012】
上記「攪拌槽」は、横断面の形状が円形及び多角形等である、有底の縦型容器である。また、直胴形であってもよいし、側面が膨らんだ形状を有する等、くびれ部を有してもよい。更に、底面の面積より、上部の開口面積が大きいバケツ形状でもよい。また、底面は、液を排出するための排出口を有してもよい。
更に、攪拌槽は、例えば図1に例示するように攪拌槽底面111に凹みを具備する。底面の凹みの形状は任意に選択することができ、例えば図1に例示する円錐形状、及び図7に例示する球面形状等を挙げることができる。
また、円錐形状の場合は、攪拌状態や水洗剤の液切り等を考慮すると、内角が45〜170°、特に60〜150°が好ましい。
【0013】
上記攪拌槽の構成材料は、混合原料及び混合方法等の種類により選択される。この例として、金属、合金及び樹脂等を挙げることができ、酸及びアルカリ等に対する耐性に優れた材料、耐熱性に優れた材料等が適宜、選択される。具体的な構成材料は、ステンレス、ジルコニウム又はその合金、ニッケル合金等を挙げることができる。
【0014】
上記「回転軸」は、下端攪拌翼及び上部攪拌翼を固定及び回転させるために配設されるものであり、通常棒状体である。その表面は、平滑であってよいし、突起及び溝等が形成されていてもよい。また、回転軸の構成材料は、通常、金属又は合金である。
尚、回転軸は、通常、回転駆動装置の所定箇所に挿入され、常時、攪拌槽の中心部に位置するように固定される。
【0015】
上記「下端攪拌翼」は例えば図1、3に例示するように、回転軸12の下端に設けられ、四角形、楕円形又はこれらの変形形状(平板状、曲板状、ねじれ形状等)の翼(以下、「羽根」ともいう。)を備える部材である。また、攪拌槽の底面形状に略沿った形状である。下端攪拌翼の形状を攪拌槽の底面形状に沿った形状にすることによって、下端攪拌翼の全下辺を攪拌槽の底面に接近させ、攪拌槽の凹みを具備する攪拌槽底面の最深部の攪拌を行うことができ、溶液が分離沈殿することなく効果的に混合することができるからである。
更に、攪拌槽の底面形状が円錐形状(コニカル形状及びコーン形状ともいう)の場合は、例えば図1、3に例示する下端攪拌翼13に示すように、略V字形状のパドル翼を挙げることができる。また、攪拌槽の底面形状が球面形状の場合は、例えば図7に例示する下端攪拌翼13Aに示すように、略円弧状を挙げることができる。更に、下端攪拌翼は攪拌槽の底面形状に合わせたものであればよく、上記各パドル翼以外の、例えばプロペラ翼や逆三角形型の板状大型翼等を用いることができる。また、この羽根は、切り欠き、溝、穴及び貫通孔等を有してもよい。
また、下端攪拌翼の翼端、即ち、羽根の先端は、羽根の形状にかかわらず、回転軸における下端攪拌翼の固定部から見て平行方向にあってよいし、斜め方向にあってもよい。
【0016】
更に、下端攪拌翼の羽根の数は、特に限定されず、1枚、2枚及び3枚以上のいずれであってもよい。羽根の数が2以上の奇数の場合、各羽根の長さはすべて同じであることが好ましい。一方、上記数が偶数である場合、各長さがすべて同じであってよいし、1つおきに同じ長さであってもよい。即ち、同一形状の、又は、互いに異なる形状の2種類の羽根を備えてもよい。
【0017】
下端攪拌翼を構成する羽根の長さは特に限定されないが、略V字形状パドル及び略円弧状パドルである場合、次に示す大きさが好ましい。例えば図1に例示するように、下端攪拌翼翼径、即ち下端攪拌翼13の翼端から回転軸12の中心までの最短距離の2倍値であるx、即ち、更に言い換えると、下端攪拌翼13の羽根の最先端から、回転軸12の中心線に対して垂線を引いたときのその長さの2倍した長さであるxは、攪拌槽11の内径をrとした場合、好ましくは0.1≦x/r≦0.9、より好ましくは0.15≦x/r≦0.7、更に好ましくは0.2≦x/r≦0.5である。
また、例えば図1に例示するように、下端攪拌翼13の上下の幅yは、攪拌槽11の内径をrとした場合、好ましくは0.01≦y/r≦0.3、より好ましくは0.03≦y/r≦0.2、更に好ましくは0.04≦y/r≦0.1である。
【0018】
更に、下端攪拌翼は、底面からの距離が所定の範囲内であることが好ましい。この距離は、例えば図1に例示するように、下端攪拌翼13の下辺と攪拌槽の底面111が最も接近している箇所の距離yであり、攪拌槽11の内径をrとした場合、好ましくはy/r≦0.3、より好ましくはy/r≦0.2、更に好ましくはy/r≦0.15である。また、y/rの下限は特に限定されないが、混合状態の面で好ましくは0.01≦y/r、より好ましくは0.01≦y/r、更に好ましくは0.015≦y/rである。
また、下端攪拌翼の構成材料は、通常、金属又は合金であるが、混合原料の種類により選択される。
上記「下端」は、回転軸の最下部であることをいい、下端攪拌翼より下方に回転軸が突出していてもよい。
【0019】
上記「上部攪拌翼」は、回転軸の下端攪拌翼より上側に設けられていればよく、通常、四角形、楕円形又はこれらの変形形状(平板状、曲板状、ねじれ形状等)の羽根を備える部材である。この羽根は、切り欠き、溝、穴、貫通孔等を有してもよい。
上部攪拌翼としては、〔i〕例えば、図4、6に例示する上部攪拌翼141、142のような、羽根が水平に対して傾斜した傾斜角を有するパドル翼、プロペラ、タービン翼等を備えるもの(以下、併せて「傾斜型攪拌翼」という。)、〔ii〕羽根が水平に対して傾斜していない、即ち、羽根が水平に対して垂直にある、パドル翼、タービン翼等を備えるものを用いることができる。傾斜型攪拌翼の場合、その傾斜角は、水平に対して、好ましくは10〜80度、より好ましくは20〜60度、更に好ましくは30〜50度の各範囲である。この範囲とすることにより、混合を円滑に進めることができる。
【0020】
上部攪拌翼を構成する羽根の長さは特に限定されないが、次に示す大きさが好ましい。例えば図4に例示するように、上部攪拌翼翼径、即ち上部攪拌翼141の翼端から回転軸12の中心までの最短距離の2倍値であるx、即ち、更に言い換えると、上部攪拌翼141の羽根の最先端から、回転軸12の中心線に対して垂線を引いたときのその長さの2倍した長さであるxは、攪拌槽11の内径をrとした場合、好ましくは0.1≦x/r≦0.9、より好ましくは0.2≦x/r≦0.7、更に好ましくは0.3≦x/r≦0.5である。
また、例えば図4に例示するように、上部攪拌翼141の上下の幅yは、攪拌槽11の内径をrとした場合、好ましくは0.01≦y/r≦0.3、より好ましくは0.02≦y/r≦0.2、更に好ましくは0.05≦y/r≦0.1である。
【0021】
上部攪拌翼の配設場所は、回転軸上であり、下端攪拌翼より上側であれば任意の位置とすることができる。また、上部攪拌翼の羽根の枚数は、下端攪拌翼と同様に特に限定されない。
更に、上部攪拌翼は1段又は2段以上設けることができる。2段以上設ける場合は、各上部攪拌翼の上部攪拌翼翼径、及び上下の幅は、全て同じでもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、例えば図4に例示する、上部攪拌翼141、142のそれぞれ回転軸取付位置までの距離yは、攪拌槽11の内径をrとした場合、好ましくは0.1≦y/r≦1.0、より好ましくは0.2≦y/r≦0.8、更に好ましくは0.3≦y/r≦0.6である。更に、上部攪拌翼は、平面から見て各段の羽根を同じ位置に揃えて配設してもよいし(例えば図4に例示する上部攪拌翼141、142を参照。)、ずらして配設してもよい(図示せず)。
例えば図4に例示する、各上部攪拌翼のうち最も下側に設けられる上部攪拌翼141と下端攪拌翼13との回転軸取付位置までの距離yは、攪拌槽11の内径をrとした場合、好ましくは0.1≦y/r≦1.0、より好ましくは0.2≦y/r≦0.6、更に好ましくは0.3≦y/r≦0.5である。
更に、上部攪拌翼の構成材料は、下端攪拌翼と同様に、混合原料の種類により任意に選択される。
【0022】
攪拌槽の直胴部に設置する邪魔板15は、例えば図4、5に例示するように、攪拌槽11の内壁に、略回転軸方向に張り出すように配設された、通常、板状及び棒状等の形状を有するものである。邪魔板15が板状の場合は、例えば四角形等の平板及び曲板等とすることができ、それらを組み合わせた変形形状でもよい。また、棒状の場合は、直線でも、曲線でもよい。いずれの場合も、各断面の形状及び面積は、特に限定されない。更に、これらは、途中から屈曲していてもよい。更に、切り欠き、溝、穴、貫通孔等を有してもよい。
【0023】
邪魔板の配設数は、特に限定されず、1つでもよいし、2つ以上でもよい。2つ、又は、3つ以上とする場合には、通常、同じ形状及び長さのものを用い、攪拌槽の内壁における同じ高さに、略等間隔(2つの場合は略180度間隔、3つの場合は略120度間隔、4つの場合は略90度間隔、以下同じ。図4、5参照)に配設する。このうち、1〜6枚設置するのが良く、混合状態や必要となる動力数を考慮すると2〜4枚であることが特に好ましい。
また、邪魔板の構成材料は、通常、金属又は合金であるが、混合原料の種類により選択される。
【0024】
本混合装置における攪拌回転数は攪拌槽の容量や攪拌翼の種類によって適宜選択することができるが、概ね10〜1000回転/分とすることが好ましく、動力部や回転軸の強度、攪拌混合状態を考えて20〜700回転/分とすることが特に好ましい。
【0025】
本混合装置は、任意の混合物の混合に用いることができる。このうち、(メタ)アクリル酸エステルの精製に用いるのが好ましい。
本発明の対象となる上記「アクリル酸エステル」及び上記「メタクリル酸エステル」とは、蒸留による精製が困難であるオリゴマーであり、特に制限はないが、例えば、アルキレンオキサイド変性フェノールの(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド変性ノニルフェノールの(メタ)アクリル酸エステル、(ポリ)アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エチル、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAの(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド変性p−クミルフェノールの(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド変性2一エチルヘキシルの(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールFの(メタ)アクリル酸エステル、トリシクロデカンジメチロールのアクリル酸エステル、アルキレンオキサイド変性(ジ)グリセリンのアクリル酸エステル、(ジ)ペンタエリスリトールのアクリル酸エステル、(ジ)トリメチロールプロパンのアクリル酸エステル、アルキレンオキサイド変性(ジ)トリメチロールプロパンのアクリル酸エステル、アルキレンオキサイド変性ペンタエリスリトールのアクリル酸エステル、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。
【0026】
本発明のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法は、本発明である上記混合装置を用いて、(メタ)アクリル酸エステルの精製工程に用いるのが好ましい。
上記「精製工程」とは、強酸触媒、重合防止剤及び着色防止剤等を製品である(メタ)アクリル酸エステルから除去する工程であり、例えば、反応時に用いる塩化銅等を除去するための水洗段階、強酸触媒及び未反応(メタ)アクリル酸を除去する中和段階、合成時に副生する乳化成分をアルカリでけん化して除去するけん化段階等を挙げることができる。また、各段階は任意の順、且つ任意の回数だけ実施することができる。
また、精製工程における上記(メタ)アクリル酸エステルの粘度は、100mPa・s以下、特に50mPa・s以下、更に30mPa・s以下が好ましい。100mPa・s超であると混合不良となりやすくなるためである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明の混合装置及びそれを用いた(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を具体的に説明する。
本実施例の攪拌槽は、アクリル酸とアルコールとのエステルの精製工程に用い、攪拌槽と回転軸を具備する。
1.混合装置の構成
本実施例の混合装置1は図4〜6に示すように、攪拌槽11、攪拌槽11の中心に垂下するように設けられている回転軸12、回転軸12の下端に設けられている下端攪拌翼13、回転軸12の下端攪拌翼13より上側に設けられている2段の上部攪拌翼141、142、及び攪拌槽11の内周に設けられている4枚の邪魔板15とを備える。
【0028】
攪拌槽11は、底面111が円錐形状の円筒状容器であり、その内角は90°である。また、内径rが130mm、容積は2.5Lである。
下端攪拌翼13は、翼径xが36mm、幅yが6mmであり、回転軸12の周囲に4枚の平板を垂直且つ等間隔に設けたパドル翼である。また、対向する2枚の翼は、攪拌槽11の底面111の形状に沿うように90°の角度を持った略V字形状を形成するように設けられている。更に、下端攪拌翼13と攪拌槽11の底面111との距離yは、10mmである。
上部攪拌翼141、142は、翼径xが50mm、幅yが10mm、ピッチ角が45度の4枚ピッチドパドル翼であり、上下に70mmの間隔yを設け2段備えている。また、下側の上部攪拌翼141は、下端攪拌翼13と50mmの間隔yを空けて設けている。
邪魔板15は高さ80mm、幅8mmであり、攪拌槽11の直胴部に4枚設置した。
【0029】
2.実施例1
実施例1は、以下の(1)反応工程、(2)精製工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程を経て、ジペンタエリスリトールとアクリル酸とのエステルの製造をおこなった。
(1)反応工程
攪拌機及び温度計を備えた反応器に、ジペンタエリスリトール240g、アクリル酸485g、トルエン400g、第二塩化銅1.15g、及び78%硫酸11.5gを仕込み、53.2kPaの圧力下、反応器温度を102℃としてエステル化反応を開始した。
エステル化反応中に生成する水は、トルエンとの共沸により系外へ排出させ、17時間後にエステル化反応を停止した。このときの反応液重量は1,050gであり、反応液の酸価は1.65meq/gであった。その後、反応液を冷却し、トルエン580gを加えて希釈した。
【0030】
(2)精製工程
実施例1の精製工程は、以下の(a)第1水洗段階、(b)中和段階、(c)けん化段階、(d)第2水洗段階及び(e)脱溶剤・ろ過段階をこの順に実施する工程である。また、図4〜6に示す本混合装置1を用い、各水洗剤との混合をおこなった。
(a)第1水洗段階
第1水洗段階は、反応時に使用する塩化銅を水洗剤である純水により除去する段階である。回転軸12の回転数を300rpmとし、反応液及び純水55gを仕込み、粘度を100mPa・s以下にして15分間攪拌した。その後、1時間静置して上層の製品相1,620g及び下層の水洗剤相65gを分離して得た。尚、上層の酸価を測定したところ、0.91meq/gであった。
【0031】
(b)中和段階
中和段階は、反応時の強酸触媒及び残存するアクリル酸を水洗剤である水酸化ナトリウム水溶液で除去する段階である。(a)第1水洗段階の製品相に20質量%水酸化ナトリウム水溶液295gを加えて15分間攪拌した。その後、1時間静置して上層の製品相1,500gと下層の水洗相415gを分離して得た。
【0032】
(c)けん化段階
けん化段階は反応時に副生する乳化成分を水酸化ナトリウム水溶液でけん化除去する段階である。(b)中和段階の製品相に20質量%水酸化ナトリウム水溶液490gを加え、1時間攪拌した。その後、1時間静置して上層の製品相1,430g及び下層の水洗相560gを分離して得た。また、抜き出した水洗相から求めた消費した処理液1kgあたりの水酸化ナトリウム量は348meqであった。
また、本けん化段階では攪拌状態は終始良好であり、界面張力増加による攪拌不良は認められなかった。
【0033】
(d)第2水洗段階
第2水洗段階は、けん化段階の処理後に製品相に残存するナトリウム分を水洗剤である純水で除去する段階である。けん化段階の上層に純水160gを投入後15分間攪拌した。その後、3時間静置して上層の製品相1,430g及び下層の水洗相160gを分離して得た。
【0034】
(3)脱溶剤・ろ過工程
(d)第2水洗段階で得た製品相にハイドロキノンモノメチルエーテル(以下MQと表記する)を固形分で450ppmとなるように添加した。次いで、この溶液をジャケット温度80℃とした脱溶剤槽に移し、減圧下で残存トルエン濃度が1%以下になるまで脱溶剤を実施した。その後、固形分の助剤ろ過を実施し製品470gを得た。
【0035】
3.比較例1
実施例1の(1)反応工程と同じように生成した溶液を、図8に示す従来の混合装置9に入れて、実施例1の(2)精製工程、及び(3)脱溶剤・ろ過工程をおこなう、比較例1を実施した。
(1)反応工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程は、実施例1の(1)反応工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程と同様であるため省略する。また、(2)精製工程は、図8に示す混合装置9を用いた他は、実施例1と同じ手順でおこなった。
混合装置9は、攪拌槽11、攪拌槽11の中心に垂下するように設けられている回転軸12、回転軸12に設けられている2段の攪拌翼161、162、及び攪拌槽11の内周に設けられている4枚の邪魔板15を備える。
このうち、攪拌槽11及び邪魔板15は、実施例1と同じである。また、攪拌翼161、162は、翼径が50mm、幅が10mmの4枚ピッチドパドル翼であり、上下に70mmの間隔yを設け2段備えている。また、下段の攪拌翼161と攪拌槽11の底面111との距離yは、47mmである。
【0036】
更に、混合装置9以外の条件は実施例1と同じ条件を用いて(2)精製工程をおこなった。
精製工程のうち、(a)第1水洗段階及び(b)中和段階で得られた製品相量は実施例1と同じであった。また、(c)けん化段階においては、製品相1,440gと水洗相550gに分離した。更に、消費した処理液1kgあたりの水酸化ナトリウム量は276meqであった。また、攪拌開始30分頃から製品相と水洗相とが分離し始め攪拌不良が起こっていることを確認した。
(d)第2水洗段階においては、製品相1,440g及び水洗相160gを分離して得た。
(3)脱溶剤・ろ過工程後、得られた製品は475gであった。
【0037】
4.比較例2
比較例2は、(c)けん化段階の攪拌時間を3時間とした他は比較例1と同様に(1)反応工程、(2)精製工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程をおこなった例である。
精製工程のうち、(a)第1水洗段階及び(b)中和段階で得られた製品相量は実施例1及び比較例1と同じであった。
また、(c)けん化段階においては、比較例1と同様に攪拌開始30分頃から製品相と水洗相とが分離し始め攪拌不良が起こっていることを確認した。また、静置後、製品相1,440gと水洗相550gとが得られた。更に、消費した処理液1kgあたりの水酸化ナトリウム量は280meqであった。
(d)第2水洗段階においては、製品相1,440gと水洗相160gとが得られた。
(3)脱溶剤・ろ過工程後、得られた製品は475gであった。
【0038】
5.比較例3
比較例3は、比較例1の条件のうち、けん化段階の攪拌速度を400rpmとした他は同様に(1)反応工程、(2)精製工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程をおこなった例である。
精製工程のうち、(a)第1水洗段階及び(b)中和段階で得られた製品相量は実施例1及び比較例1と同じであった。
また、(c)けん化段階においては、攪拌開始40分頃から製品相と水洗相とが分離し始め攪拌不良が起こっていることを確認した。また、静置後、製品相1,440gと水洗相475gとが得られた。消費した処理液1kgあたりの水酸化ナトリウム量は284meqであった。
(d)第2水洗段階においては、製品相1,440gと水洗相160gとが得られた。
(3)脱溶剤・ろ過工程後、得られた製品は475gであった。
【0039】
6.製品の評価
上記実施例1及び上記比較例1〜3の評価を耐乳化性試験によりおこなった。
本製造方法で得られた製品の色調(APHA)を、耐乳化性試験により評価した。
耐乳化性試験は、製品3.3g、パラキシレン6.6g、純水9.9gを試験管に入れ、この試験管を30秒に10往復の割合で上下を反転させて攪拌し、静置する。耐乳化性の判定は静置時に分離に要した時間及び上層(パラキシレン相)と下層(水洗相)の透明度を目視で評価した。また、濁りがない場合は◎、やや濁りがある場合は○、試験管を通して向こう側が見通せる範囲の濁りがある場合は△、白濁して試験管の向こう側が全く見通せない場合は×とした。このような方法で評価した結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、実施例1は、1分未満でパラキシレン相及び水洗相が分離し、濁りもほとんどなかった。また、色調(APHA)も比較例1〜3と比べて25と小さく、優れていた。また、(c)けん化段階でも攪拌不良が見られず良好であった。
【0042】
7.実施例2
実施例2は、ジトリメチロールプロパンとアクリル酸とのエステルの製造をおこなった実施例である。また、以下の(1)反応工程、(2)精製工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程を経た。
(1)反応工程
攪拌機及び温度計を備えた反応器に、ジトリメチロールプロパン270g、アクリル酸350g、トルエン330g、次亜燐酸0.2g、MQ1.0g、78%硫酸7.3gを仕込み、50kPaの減圧下、反応温度を100〜105℃の範囲内にしてエステル化反応を開始した。
エステル化反応中に生成する水は、トルエンとの共沸により系外へ排出させ、13時間後にエステル化反応を停止した。このときの反応液重量は880gであり、反応液の酸価は1.09meq/gであった。その後、反応液を冷却した後、トルエン500gを加えて希釈した。
【0043】
(2)精製工程
精製工程は、以下の(a)中和段階、(b)けん化段階及び(c)水洗段階を備えた工程である。また、実施例1と同様に図4〜6に示す本混合装置1で各水洗剤との混合をおこなった。
【0044】
(a)中和段階
中和段階では、上記トルエンで希釈した反応液に、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を190g加えて15分間攪拌した。その後、1時間静置して上層の製品相1,330g及び下層の水洗相250gを分解して得た。
【0045】
(b)けん化段階
けん化段階では、(a)中和段階で得られた製品相に20質量%水酸化ナトリウム水溶液380gを加え、1時間攪拌した。その後、1時間静置して上層の製品相1,290g及び下層の水洗相420gを分離して得た。また、抜き出した水洗相から求めた消費した処理液1kgあたりの水酸化ナトリウム量は205meqであつた。
また、本けん化段階では攪拌状態は終始良好であり、界面張力増加による攪拌不良は認められなかった。
【0046】
(c)水洗段階
水洗段階では、けん化段階で得た製品相に4質量%硫酸アンモニウム水溶液170gを投入して15分間攪拌した。その後、3時間静置して上層の製品相1,290g及び下層の水洗相170gを分離して得た。
【0047】
(3)脱溶剤・ろ過工程
(c)水洗段階で得た製品相にMQを固形分で200ppmとなるように添加した。次いで、この溶液をジャケット温度80℃とした脱溶剤槽に移し、減圧下で残存トルエン濃度が1%以下になるまで脱溶剤を実施した。その後、固形分の助剤ろ過を実施し製品455gを得た。
【0048】
8.比較例4
比較例4は、実施例2と同様の方法で反応を行った反応液を、図8に示す比較例1と同様の混合装置9に入れて実施例2の(2)精製工程、及び(3)脱溶剤・ろ過工程をおこなった例である。
(1)反応工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程は、実施例2の(1)反応工程及び(3)脱溶剤・ろ過工程と同様であるため省略する。また、(2)精製工程は、図8に示す混合装置9を用いた他は、実施例2と同じ手順でおこなった。
【0049】
(a)中和段階においては、製品相1,330g及び下層の水洗相250gを得た。
また、(b)けん化段階においては、製品相1,300g及び水洗相410gを分離して得た。消費した処理液1kgあたりの水酸化ナトリウム量は160meqであった。更に、攪拌状態は良好で製品相と水洗相が分離することはなかったが、経時的な液滴径の増大が確認された。
(c)水洗段階においては、製品相1,300g及び水洗相170gを分離して得た。
(e)脱溶剤段階
(3)脱溶剤・ろ過工程後、得られた製品は460gであった。
【0050】
9.製品の評価
上記実施例2及び上記比較例4の評価を耐乳化性試験によりおこなった。耐乳化性試験は、実施例1及び上記比較例1〜3と同様に行った、この結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すように、実施例2は、1分未満でパラキシレン相及び水洗相が分離し、濁りもみられなかった。また、色調(APHA)も比較例4と比べて29と小さく、優れていた。また、(c)けん化段階でも攪拌不良が見られず良好であった。
一方、比較例4は、パラキシレン相に濁りが見られたほか、色調(APHA)が41と、実施例1と比べて好ましくなかった。
【0053】
尚、本発明においては、上記実施例に限らず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、実施例1、2では、円錐形状の底面の攪拌槽を備えた混合装置を用いたが、これに限られず図7に示すような球面上の底面111Aの攪拌槽11Aを備えた混合装置1Aを用いてもよい。このような混合装置1Aは、底面111Aの形状に沿って湾曲した略円弧形状のパドル翼13Aを備えることによって、実施例1の混合装置1と同様の効果を備える。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本混合装置の構成を説明するための模式断面図である。
【図2】本混合装置の構成を説明するための模式平面図である。
【図3】下端攪拌翼を具備する回転軸の模式斜視図である。
【図4】上部攪拌翼及び邪魔板を具備する混合装置の構成を説明するための模式断面図である。
【図5】上部攪拌翼及び邪魔板を具備する混合装置の構成を説明するための模式平面図である。
【図6】上部攪拌翼及び下端攪拌翼を具備する回転軸の模式斜視図である。
【図7】他の形態の混合装置を説明するための模式断面図である。
【図8】従来の混合装置を説明するための模式断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1、1A、9;混合装置、11、11A;攪拌槽、111、111A;攪拌槽底面、12;回転軸、13、13A;下端攪拌翼、14、141、142;上部攪拌翼、140;羽根、15;邪魔板、161、162;攪拌翼、2;液面、3;水洗剤相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹みが形成された底面を具備する攪拌槽と、該攪拌槽内の中心部に垂設される回転軸と、該回転軸の下端に配設され該攪拌槽の底面形状に沿った形状の下端攪拌翼と、を備えることを特徴とする混合装置。
【請求項2】
上記底面は円錐形状であり、上記下端攪拌翼は略V字形状パドルである請求項1記載の混合装置。
【請求項3】
上記底面は球面形状であり、上記下端攪拌翼は略円弧状パドルである請求項1記載の混合装置。
【請求項4】
上記回転軸は、上記下端攪拌翼より上部位置に1段以上の上部攪拌翼を更に具備する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の混合装置。
【請求項5】
上記上部攪拌翼は2段以上具備し、且つ該上部攪拌翼間距離/上記攪拌槽内径=0.1〜1.0である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の混合装置。
【請求項6】
上記上部攪拌翼翼径/上記攪拌槽内径=0.1〜0.9であり、該上部攪拌翼の翼幅/該攪拌槽内径=0.01〜0.3である請求項4又は5に記載の混合装置。
【請求項7】
アクリル酸又はメタクリル酸と、アルコールとのエステルの精製に用いる請求項1乃至6のいずれか一項に記載の混合装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項の混合装置を用いてアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの精製をおこなうことを特徴とするアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項9】
精製をおこなう溶液の粘度が100mPa・s以下である請求項8記載のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−152260(P2007−152260A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352674(P2005−352674)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】