説明

減圧揚液装置及びこれを用いた液体散布装置

【課題】減圧管内での液体自然高さを大幅に超える高揚程の揚液装置を実現する。
【解決手段】 液体源30から揚液管10を介し、高位に配した揚液受け部40に液体を汲み上げる減圧揚液装置であり、揚液管内を減圧する減圧手段(50)、液面より高く減圧下の揚液管内での液体柱自然高さより低い位置に揚液管内気圧より高圧力のガスを導入するガス導入手段200を有する。揚液受け部40の内部空間では、揚液管の上部終端部10bが底面42から突出し、かつ上部終端部10bは上面44に当接しないよう離間して配置されている。揚液管内に導入したガス泡で揚液管内の液体柱を上下に分断し、管内を上昇する該ガス泡により、分断した上側の液体柱を押し上げ、液体を汲み上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、低位にある液体を真空ポンプなどの減圧装置を利用して高位に汲み上げる減圧揚液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水などの液体を汲み上げるためのシステムでは、従来より簡易な真空ポンプが広く用いられている。図22に示すように、例えば地下などに溜まった水530を真空ポンプ500で汲み上げる場合、真空ポンプ500に連通された揚液管510の吸引口を地下の水中に挿入して、真空ポンプ500を駆動する。これにより揚液管510の吸引口から吸い上げられた水530が、地上に設置したタンク560などに汲み上げられる。
【0003】
しかし、真空ポンプ500を用いた場合、汲み上げ可能な揚程Hdは、水の場合に約10mが限界である。真空ポンプ500によって揚液管510内を完全に真空にできたとしても、大気圧下(標準大気圧:760mmHg=1013.25hPa≒10.33tf/m2)において、水面H0から真空揚液管内に押し上げられる水柱の高さHvが約10mだからである。従って、揚程Hdが10m以上となる場合には、真空ポンプ500だけで揚液を行うことはできない。このため、10mを超える深所から液体を汲み上げる場合には、吸引部付近の深所に渦巻きポンプや往復ポンプ、ジェットポンプなどを設置して液体を汲み上げる必要があり、装置が大がかりになり、また高価な装置が必要となるという問題があった。
【0004】
そこで、本願発明者らは、特許文献1などにおいて、真空ポンプを利用し、減圧揚液管内での液体柱自然高さ以上にまで液体を汲み上げるシステムを提案している。この減圧揚液システムでは、減圧された揚液管内に、これより高い圧力のガスを導入し、揚液管内を上昇しながら膨張するガス泡によって管内の液体柱を分断し、分断した液体柱の上側に位置する液体をこのガス泡によって押し上げるシステムを提案している。このようなシステムを採用することにより、真空ポンプを利用し減圧揚液管内での液体柱自然高さ以上にまで液体を汲み上げることを実現している。
【0005】
また、特許文献2にも減圧管内の外部水面より高い位置にガスを導入し、減圧管内のガスの上部に存在する水を、10m以上の高さに汲み上げるシステムについての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3805920号
【特許文献2】特開平11−193800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に実例を示しているように、このシステムによって、現実に、10m以上、具体的には11.3mの揚程の揚水が達成されている。このシステムによって、理論的には、11.3mをさらに超え、例えば20m、30mのような揚程であっても、汲み上げが可能であることは予想されている。しかし、本願発明者らの研究によれば、上記原理を用いた揚液装置において、揚程を例えば20m以上とした場合、十分な揚液量を実現できていなかった。
【0008】
本発明は、高揚程であっても、液体の汲み上げが可能な減圧揚液装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、低位にある液体源から、該液体源中に吸引口が挿入された揚液管を介し、高位に向けて液体を汲み上げる減圧揚液装置であり、前記揚液管内を減圧する減圧手段と、前記液体源の液面より高くかつ、減圧下における揚液管内での液体柱自然高さより低い位置において、前記揚液管内へ、前記減圧された揚液管内気圧より高い圧力のガスを導入するガス導入手段と、前記減圧手段によって内部空間が減圧可能であって、前記揚液管の上部終端領域に設けられ、前記揚液管内を上昇して該揚液管の上部終端部から吐出する揚液を受ける揚液受け部と、を備え、前記揚液受け部の内部空間では、前記揚液管の上部終端部が前記揚液受け部の底面から突出し、かつ、前記揚液管の上部終端部が前記揚液受け部の上面に当接しないよう離間して配置されており、前記ガス導入手段から前記揚液管内に導入したガス泡により、前記揚液管内において前記吸引口から連続する液体柱を上下に分断し、前記揚液管内を上昇する該ガス泡により、分断した上側の液体柱を押し上げ、前記液体柱自然高さより高位の前記揚液受け部に液体を汲み上げる。
【0010】
本発明の他の態様では、上記減圧揚液装置において、前記揚液受け部の上面は、前記揚液管の上部終端部から吐出した揚液を、前記上部終端部から離間させる方向に反射させる面を備えている。
【0011】
本発明の他の態様では、上記減圧揚液装置において、少なくとも前記液体柱自然高さ以上の高さ位置において、前記揚液管は、その流路径が、該液体柱自然高さより低い位置における前記揚液管の流路径よりも小さい領域を有する。
【0012】
本発明の他の態様では、上記減圧揚液装置において、前記揚液管の前記吸引口と、ガス導入位置との間に、前記揚液管内に導入したガス泡が降下して前記吸引口から液体源中への漏洩を防止するガス逆止機構を有する。
【0013】
本発明の他の態様では、上記減圧揚液装置において、前記ガス導入手段は、前記減圧された揚液管内気圧より高い圧力のガスの導入高さにて、前記ガスの前記揚液管を貫通し、前記揚液管内へ前記ガスを吐出するガス吐出口を有し、前記ガス吐出口には、前記揚液管の外側から供給されるガスを受け、前記揚液管の内周壁側から管内部の上方に向けて吐出させるガス整流フィンを備える。
【0014】
本発明の他の態様では、上記減圧揚液装置において、前記ガス導入手段は、前記揚液管の上部から、前記揚液管内をその途中まで挿入され、そのガス吐出口が、前記液体源の液面より高く前記液体柱自然高さより低い位置になるよう挿入長が位置決めされ、前記揚液管内へ前記ガス吐出口からガスを吐出可能な送気管を備える。
【0015】
本発明の他の態様では、上記減圧揚液装置において、前記揚液受け部の底面に設けられた送液口は環流管に接続され、前記環流管の下端部は、前記液体源に挿入され、又は、前記揚液管の少なくとも上部終端部よりも低い位置に設けられた該揚液管の環流口と連通され、前記揚液受け部に汲み上げられた液体を、前記送液口から前記環流管を介して、前記揚液管を通って汲み上げられる液体として環流させる。
【0016】
本発明の他の態様では、上述のいずれかの減圧揚液装置を用いた液体散布装置であり、前記揚液受け部から直接、または、前記揚液管に連通し前記減圧手段によって所定タイミングで内部が減圧され、前記揚液受け部からの液体を貯留する揚液貯留部を介して、前記揚液管で汲み上げられた液体が内部流路に供給される液体散布用パイプを有し、前記液体散布用パイプは、パイプ終端及びパイプ経路のいずれか、または両方に液体吐出口を有し、かつ、該パイプは少なくとも一部経路が、前記揚液受け部又は前記揚液貯留部の配置される高位置から前記液体源の配置される低位置へ向かう方向に沿って配置され、前記高位置から低位置への落差によって前記内部流路の液体を低位置へ向けて流して前記液体吐出口から吐出される液体を散布する。
【0017】
本発明の他の態様では、低位にある液体源から、該液体源中に吸引口が挿入された揚液管を介し、高位に向けて液体を汲み上げる減圧揚液装置であり、前記揚液管内を減圧する減圧手段と、前記液体源の液面より高くかつ、減圧下における揚液管内での液体柱自然高さより低い位置において、前記揚液管内へ、前記減圧された揚液管内気圧より高い圧力のガスを導入するガス導入手段と、を備え、少なくとも前記液体柱自然高さ以上の高さ位置において、前記揚液管は、その流路径が、該液体柱自然高さより低い位置における前記揚液管の流路径よりも小さい領域を有し、前記ガス導入手段から前記揚液管内に導入したガス泡により、前記揚液管内で前記吸引口から連続する液体柱を上下に分断し、前記揚液管内を上昇する該ガス泡により、分断した上側の液体柱を押し上げ、前記液体柱自然高さより高位に液体を汲み上げる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明においては、減圧手段によって揚液管内を減圧するとともに、管内において、低位の水面より高く真空管内での液体柱自然高さより低い位置に、正圧(例えば、大気圧以上)のガス(例えば空気)を導入する。
【0019】
したがって、揚液管内に導入したガス泡によって液体柱を汲み上げ可能な長さに分断し、分断された液体柱の上側液体柱を、揚液管内を上昇するガス泡が揚液管の上部終端部まで、押し上げる。ガス泡によって押し上げられた液体は、揚液管の上部終端部から揚液受け部内部に吐出する。
【0020】
ここで、本発明では、揚液管の上部終端領域に設けられた揚液受け部の内部空間において、揚液管の上部終端部が揚液受け部の底面から突出配置されているため、上部終端部から吐出した液体が、揚液管の上部終端部から吸い込まれることなく、受け部の内部に溜まる。また、揚液受け部の上面が揚液管の上部終端部に接しないように離間して配置することで、上部終端部から吐出した液体が、揚液受け部の上面に衝突して上部終端部に逆流する可能性を大幅に低減することができる。
【0021】
このように本発明によれば、揚液管の上部終端部付近までガス泡によって押し上げた液体を無駄なく揚液受け部に汲み上げることができる。よって、減圧揚液管内での液体柱の自然高さを大幅に超える高揚程について、減圧手段、ガス導入手段によって、揚液管から揚液受け部に液体を汲み上げることが可能となる。
【0022】
また、本発明において、揚液受け部の上面が、前記揚液管の上部終端部から吐出した揚液を上部終端部から離間させる方向に反射させる面を有することで、汲み上げた液体が揚液管の上部終端部から逆流することをより確実に防止することができ、汲み上げ効率をさらに向上させることができる。
【0023】
本発明において、少なくとも液体柱自然高さ以上の高位置で、揚液管の流路径を、該液体柱自然高さより低い位置における流路径よりも小さくすることで、より多くの液体を無駄なく汲み上げることが可能となる。揚液管内に導入されたガス泡は、膨張しながら上昇し、液体源の液面から例えば20m程度の高さに到達するときには、押し上げている液体柱の一部をガス泡が追い越してしまう現象が確認されている。しかし、少なくとも液体柱自然高さ以上の高さの位置において、揚液管の流路径を上記液体柱自然高さ以下の低位置の流路径より小さくすることにより、ガス泡が上部の液体柱を追い越しにくくすることができる。また、減圧状況下における液体柱の自然高さ位置までの揚液管流路径に応じ、ガス泡で分断される液体柱の上部液体柱の体積、つまりガス泡による揚液量が決まるため、揚液管の流路径が高位置で小さくても、液体柱の自然高さ位置までの流路径が大きければ、揚液量の減少はない。したがって、より効率的に揚液することが可能となる。
【0024】
また、本発明において、揚液管の吸引口と、ガス導入位置との間にガス逆止機構を設ければ、ガス導入時に、その位置に印加されている液体圧の影響でガス泡が下降しても、吸引口からガス泡が漏れてしまうことを防止できる。このため、液体源中への揚液管の挿入量が小さくても、導入したガスが途中で失われず、深さの浅い液体源からでも、効率的に液体を汲み上げることができる。また、導入ガスの下降が防がれるため、ガス導入位置をより液体面に近い低い位置として、ガス泡によって分断される液体柱の上部柱の体積、即ち一回当たりの揚液量を増大することも可能である。
【0025】
本発明において、この揚液管を貫通してガス吐出口を設け、揚液管内にこのガス吐出口からガスを供給する単管構造において、ガス吐出口に、揚液管の外側から供給されるガスを受け、前記揚液管の内周壁側から管内部の上方に向けて吐出させるガス整流フィンを設けることで、ガス泡による液体柱の分断をより迅速かつ効率的に実行することが容易となる。
【0026】
本発明において、揚液管の上部から管内の途中まで挿入された送気管を利用して揚液管内にガスを導入してもよい。このようないわゆる二重管構造では、揚液管内にガス導入手段の大半が収納でき、装置の外形が小さく、装置の持ち運びに便利であるとともに、ガス導入手段の破損の可能性が低くなる。さらに送気管は、揚液管内に配置されるため、決められた位置でガス吐出ができれば、特別高い強度は要求されず、材料の選択幅が広くなる。従って、減圧揚液装置の製造コスト低減に有利となる。また、送気管の挿入長さを調整することでガス吐出口の高さ、つまりガス導入位置を容易に調整することができる。
【0027】
また、本発明において、揚液受け部に汲み上げられた液体を、環流管を介して揚液管を通って汲み上げられる液体として環流させれば、環流装置を得ることができる。
【0028】
本発明において、上述の揚液装置を用いた液体散布装置では、簡易な構成で、かつ非常に少ない電力消費量にて、低位から減圧管内での液体自然高さ以上の高位に、液体を汲み上げることができる。さらに、一旦、高い位置に汲み上げた液体を、液体散布用パイプに供給し、この液体散布用パイプを高位から低位に沿って配置することで、汲み上げられた液体の位置エネルギを利用して液体を散布することができる。よって、非常に簡易な構成で、液体散布に必要な電力を最小限に留めることができ、省電力かつ簡易構成で液体散布装置を実現することができ、その装置の製造コストの抑制も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態1に係る減圧揚液装置の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る揚液受け部の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る揚液受け部の他の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る送気ノズルの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る送気ノズルの他の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る送気ノズルの他の構成を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係るガス逆止機構の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る減圧揚液装置の構成を示す図である。
【図9】本発明の実施形態3に係る減圧揚液装置の構成を示す図である。
【図10】本発明の実施形態3に係る減圧揚液装置の他の構成を示す図である。
【図11】本発明の実施形態4に係る減圧溶液装置の構成を示す図である。
【図12】本発明の実施形態5に係る減圧溶液装置の概要を示す図である。
【図13】本発明の実施形態5に係る減圧溶液装置における制御タイミングの例を示す図である。
【図14】本発明の実施形態6に係る液体散布装置の概略構成図である。
【図15】本発明の実施形態6に係る液体散布装置の他の概略構成図である。
【図16】本発明の実施形態6に係る液体散布装置の他の概略構成図である。
【図17】本発明の減圧揚液装置の適用例を示す概略構成図である。
【図18】本発明の実施例1−1に係る揚液実験結果を示す図である。
【図19】本発明の実施例1−2に係る揚液実験結果を示す図である。
【図20】本発明の実施例2−1に係る揚液実験結果を示す図である。
【図21】本発明の実施例2−2に係る揚液実験結果を示す図である。
【図22】従来の真空ポンプを用いた揚液装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を用いてこの発明を実施するための形態(以下実施形態という)について説明する。
【0031】
[実施形態1]
図1は、この発明の実施形態1に係る減圧揚液装置の原理を概念的に示している。本実施形態に係る揚液装置は、真空ポンプなどの減圧手段を用い、揚液管及び揚液管の上部終端部に設けた揚液受け部内を減圧し、液体源の液面H0より上で、減圧下において揚液管内に吸い上げられている液体柱の自然高さHvより低い位置に正圧(例えば大気圧)ガスを導入する。揚液管内に導入されたガス泡が管内で液体柱を分断し、このガス泡の上部の液体柱を、上昇するガス泡によって、上記自然高さHvよりも大きい揚程Hdまで汲み上げる。
【0032】
この装置は、減圧手段である真空ポンプ50と、真空ポンプ50に連通され、管内で液体柱を汲み上げる揚液管10、揚液管10の所定位置にガスを導入するガス導入手段200、揚液管10の上部終端領域に設けられて揚液管10の上部終端部から吐出する液体を受ける揚液受け部40、減圧やガス導入のタイミングなどの各種制御を行う制御部100を有する。
【0033】
揚液管10は、その下端の吸引口10aが、地下水や、地上に溜まった水(池、川、湖、海、水槽)など、いわゆる液体の溜まった液体源30中に挿入されて用いられ、揚液管10の上部終端部10bは、揚液受け部40の内部空間内に配置されている。
【0034】
揚液受け部40は、揚液管10とともに真空ポンプ50に連通されており、内部空間は、揚液管10と同様に減圧可能である。揚液管10の上部終端部10bは、揚液受け部40の底面42から突出し、かつ揚液受け部40の上面44に当接しないように上部出端部10bから離間されてこの揚液受け部40の内部空間に配置されている。
【0035】
後述するように揚液管10の中に導入されたガス泡の上部に位置する液体柱は、上昇するガス泡によって揚液管10内を上昇し、上部終端部10bから揚液受け部40の内部に吐出され、揚液受け部40の底部に溜まる。続いてガス泡も揚液受け部40の内部に吐出し、この揚液受け部40において自動的に汲み上げられた液体とガス泡との気液分離が行われる。
【0036】
揚液受け部40は、本実施形態において、図1に示すように送液管70を介して揚液タンク60に接続されており、揚液受け部40に汲み上げられた液体は、送液管70を介して揚液タンク60に貯留される。
【0037】
ガス導入手段200は、送気管22、送気ノズル24、送気ノズル24への給気を制御する給気バルブ26を有する。なお、給気バルブ26の開閉は、制御部100によって制御することができる。
【0038】
送気管22は、本実施形態において、揚液管10の外部に設けられており、バルブ26が開状態の期間、大気中から取り込んだ空気が、揚液管10に取り付けられた送気ノズル24から揚液管10内部に導入される。ガスの揚液管10への導入位置は、液体源30の液面H0と、真空下の揚液管内における液体柱の自然高さHv(v点)との間の位置a(高さHa)である。本実施形態において、減圧揚液装置の使用時に、送気ノズル24がこの該当する導入位置Haになるよう、送気ノズル24は、予め揚液管10の下部の該当する領域に取り付けられている。また、送気管22は、図1に示されるように、ガス導入位置Ha以上の高さに配置することができる。このようにガス導入位置Haよりも高い位置に配置することで、揚液管10から送気ノズル24を介して液体が送気管22内に侵入しにくくなり、特に、給気バルブ26の開放時において送気管22内への液体逆流を防止でき、迅速かつ効果的なガス導入を容易とする。
【0039】
真空ポンプ50は、互いに接続されている揚液管10、揚液受け部40、送液管70及び揚液タンク60の内部空間を減圧しており、図1の例では、真空ポンプ50は、揚液タンク60に接続されている。なお、揚液タンク60と揚液受け部40との間の送液管70の経路中に管路バルブ72が設けることもできる。この管路バルブ72は、減圧、揚液動作のために必須の構成ではないが、後述の動作において説明するように、真空ポンプ50が排気動作を開始する際に一旦管路を閉じるように制御され、排気動作の効率性、安定性を高めることを可能としている。
【0040】
次に、揚液受け部40について、さらに図2を参照して説明する。なお、図2は、揚液管10の上部終端付近における揚液受け部40、揚液管10及び送液管70の構成を示している。
【0041】
揚液受け部40の底面42には、揚液管10の上部終端部10bを挿入可能な挿入口42aが設けられている。挿入口42aは、揚液管10をはめ込んで固定した後にこの挿入口42aから内部に溜まった液体が漏れないよう設計されている。具体的には、例えば、挿入口42aと挿入された揚液管10の外周面との間に、汲み上げる液体に耐性のある材質(例えば水を汲み上げる場合にゴムやプラスチック等)を用いた防水リングなどの漏水処置部材42bを採用することができる。なお、図2に示す例では、揚液受け部40の底部には漏水機能のある管状の部材42bが取り付けられ、この部材42bの下端に揚液管10が連結されている。この場合にも、実質的な揚液管10の上部終端部10bは、上記のように、揚液受け部40の内部空間に位置決めされている。もちろん、揚液管10を挿入口42aから揚液受け部40の中に直接差し込んだ構成でも良い。ここで、揚液受け部40と上記漏水処置部材42b、または揚液受け部40と揚液管10とは、最初から一体的に形成されていても良い。
【0042】
揚液受け部40の底面42には、さらに、揚液受け部40に汲み上げられた液体を排出する送液管70の挿入口42cも設けられている。送液管70の挿入口42cにおいても、揚液受け部40に溜まった液体が漏れないように、例えば挿入口42cと送気管70の外周面との間に漏水防止部材42dが設けられている。なお、送液管70の挿入口42cは、揚液受け部40の底面42に限らず、側面に設けても良く、この場合、底に近い低位置に設けることが汲み上げた液体を無駄なく送液管70に送る上で効率的である。
【0043】
送液管70及び揚液管10の口径比、管路バルブ72の開放期間等の設定によって、送液管70からの排出量と揚液管10による汲み上げ量との関係を、適切に調整することができる。また、揚液管10の上部終端部10bを揚液受け部40の底面42から所定距離だけ突出配置させることにより、揚液受け部40内に汲み上げられた液体の液面が上部終端部10bを超えないように制御できる。よって、揚液受け部40に汲み上げた液体が揚液管10に逆流することを防止できる。
【0044】
本実施形態では、揚液管10の上部終端部10bは、揚液受け部40の上面44に当接しないように上面44から離間して配置している。このため、揚液管10の上部終端部10bまで汲み上げた液体を、揚液受け部40の上面44で妨げることなく、揚液受け部40の内部に吐出させることができる。また、揚液受け部40の高さを十分にとって、揚液管10の上部終端部10bから上面44まで充分な距離とすることで、揚液管10の上部終端部10bから液体が勢いよく吐出することを妨げないようにすることにより、液体汲み上げの揚程を大きくすることができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、揚液受け部40の上面44について、少なくとも揚液管10の上部終端部10bから吐出する液体が衝突する可能性のある領域において、液体の吐出方向に対して直交しないように傾いた面(平面又は曲面)を設けている。したがって、上部終端部10bから吐出して、揚液受け部40の上面44に衝突した液体は、この上面44で反射されても、上部終端部10bとは異なる方向に進む。よって、揚液受け部40内に汲み上げた液体が上部終端部10bから逆流する可能性を大幅に低減することができる。
【0046】
図2では、上記揚液受け部40の上面44は、衝突した液体が揚液管10の上部終端部10bから離れる方向に反射するように傾く平面(斜面)を備えている。この斜面は、反射後の液体が、上部終端部10bに近接する壁面からも離れる方向に進むように傾いている。図2において、揚液受け部40の上面44は、揚液管10の上部終端部10bから送液管70の送液口(挿入口42c)の方向に行くほど底面からの高さが大きくなるように傾いている。揚液受け部の上面44をこのような斜面とすることで、上面44で反射した液体が、上部終端部10bの近くの揚液受け部40の側面に進み、この側面で反射して上部終端部10bに戻ってしまう可能性を低減でき、逆流を確実に防いでいる。
【0047】
なお、揚液受け部40の水平方向における断面構造は、特に限定されるものではなく、図2の上方に示すような円形の他、楕円形や、四角形などの多角形などが採用可能である。
【0048】
次に、図3を参照し、揚液受け部40の他の構成例を説明する。上記図2において揚液受け部40の上面44は、傾いた平面としているが、図3(a)及び図3(b)に示す揚液受け部40の上面44a、44bは曲面を備える点が相違する。
【0049】
図3(a)では、揚液受け部40の上面44aは、半球状の曲面を備える。また揚液管10の上部終端部10bは、半球の中心からずれた位置に配置している。このような構成を採用することで、揚液管10の上部終端部10bから吐出した液体が上面44に衝突しても、上部終端部10bに戻ることを防ぐことができ、揚液管10から吐出した液体を逆流させることなく、高揚程の揚液を実現できる。
【0050】
図3(b)において、揚液受け部40の上面44bは、ほぼ楕円半球形の曲面を備える。また、少なくとも揚液管10の上部終端部10bをこの楕円の一方の焦点(焦点1)の近くに配置する。この構成により、上部終端部10bから真っ直ぐ(鉛直方向)に吐出して楕円球面に衝突した液体を、上部終端部10bから離れた他方の焦点(焦点2)に向かって進ませることができる。図3(b)の揚液受け部40では、上面44bによって、より確実に、上部終端部10bから離間する方向に吐出した液体を進ませることができ、揚液受け部40の高さを低減することも容易となる。なお、上面44bを楕円半球状として、他方の焦点(焦点2)の付近に送液口を位置させれば、送液管70に効率的に上部終端部10bから吐出した液体を集めることができる。
【0051】
次に、本実施形態に係る装置の揚液動作について説明する。揚液管10の吸引口10aを液体源30に挿入し、真空ポンプ50の排気動作を開始すると、真空ポンプ50に連通された水封式の揚液タンク60、送液管70、揚液受け部40及び揚液管10の内部空気が排気されて減圧される。揚液管10の管内が減圧されて所定の負圧となると、管内の液面が上昇し、高さHv(液体が水の場合に約10m)付近まで到達する。
【0052】
ここで、給気バルブ26を所定の短期間だけ開放し、送気ノズル24から、高さHaにおいて揚液管10内に正圧ガスとして例えば大気圧の空気を導入する。揚液管10内の高さHvの液体柱は、この導入されたガス泡によって、高さHa付近で上下に分断される。高さHaにおける揚液管内の圧力とその位置でのガス泡の圧力との圧力差と、ガス泡の受ける浮力とに応じ、ガス泡は、図2に示すような先端が尖った砲弾形状で管内を急速に膨張しながら上昇する(なお、ガス泡の上昇速度は、上に行くほど速くなる)。このような導入ガス泡によって、一旦液体柱が分断されると、その上側のHv未満の長さの液体柱はガス泡の上昇力によって上方に向けて勢いよく押し上げられ、液体が、高さHv(真空管内での自然液面v)を超える高さHdまで汲み上げられ、Hd点にある上部終端部10bから吐出して揚液受け部40の内部に溜まる。
【0053】
このように真空ポンプ50を駆動した状態で、給気バルブの開閉を繰り返せば、負圧となった揚液管10内に間欠的にガス泡が導入される。この導入ガス泡により管内で高さHvの液体柱が順次分断され、Hvを超える高さに液体が汲み上げられる。また、揚程Hdが真空管内の液体柱自然高さHvを大幅に超える例えば20m、30m以上の断続的な揚液を真空ポンプだけで実行することができる。
【0054】
次に、送気ノズル24について説明する。本実施形態において、送気ノズル24は揚液管10に取り付けられ、揚液管10の外部に配された送気管22から送られるガスを揚液管10の内部に導入する。図4は、送気ノズル24aの概略断面構造を示している。この送気ノズル24aは、揚液管10のガス導入高さHaに相当する位置に後発的に取り付けることができるが、揚液管10に一体的に構成することも可能である。
【0055】
送気ノズル24には、円筒状のノズル筐体240の筐体周面に筐体壁を貫通する送気通路242が形成されている。送気通路242のノズル筐体240の外周側には、ほぼ水平方向に延びる管状の送気管接合部246が接続されている。この送気管接合部246には送気管22が接合可能であり、送気管接合部246及び送気通路242を通って、送気管22からのガスがノズル筐体240の内部に到達することができる。
【0056】
筐体内壁側の送気通路242の終端には、この終端と所定距離を隔てて対向するようにガス整流フィン244が設けられている。このガス整流フィン244は、ノズル筐体240の内壁から、ノズル筐体240の円筒の中心側に向かって図4に示すように略L字状に立ち上がり、この立ち上がった壁面が筐体内壁の全周に渡って続いた円筒形状を備えている。ガス整流フィン244の円筒の開放端部分には整流用肉厚部244aが設けられている。したがって、送気管22から送気通路242を通って筐体の内側に向かって供給されるガスは、このガス整流フィン244の壁面と整流用肉厚部244aによって直進が妨げられる。このため、送気管22から供給されるガスは、ガス整流フィン244と筐体の内壁との間の通路(以下、ガス整流通路という)248を進み、筐体内壁の全周に広がる。
【0057】
また、整流用肉厚部244aとノズル筐体240の内壁との間には、僅かな隙間が設けられている。したがって、ノズル筐体240の内側の管路には、この隙間からリング状のガスを、ガス整流フィン244の開放端方向に沿って噴出させることが可能となっている。
【0058】
なお、図4に示す送気ノズル24aでは、上述のようにノズル筐体240の側面には上述のように送気通路242が形成され、この送気通路242に送気管接合部246が差し込まれている。さらに、上記ノズル筐体240の上下には、それぞれ揚液管10と接合させるための揚液管接合部252,254が嵌め込まれている。そして、この上下の揚液管接合部のうち、下側の揚液接合部254のノズル筐体240への嵌め込み部には、ガス整流フィン244が形成されており、ノズル筐体240にこの揚液接合部254がはめ込まれた状態でノズル筐体240の内壁との間にガス整流通路248を構成している。このように、図4に示す送気ノズル24aは、ノズル筐体240に別部材が取り付けられて構成されているが、もちろん、一体形成されていてもよい。
【0059】
以上のような送気ノズル24aを採用し、揚液管10にこの送気ノズル24aを取り付け、送気ノズル24aのガス噴出位置が、減圧揚液装置のガス導入高さHaとなるように揚液管10の位置を調整すれば、目的とするガス導入高さHaでガスを揚液管10の管内に導入することができる。図4に示す送気ノズル24aを用いることにより、揚液管10の管内には、送気通路242の形成されている片側からだけでなく、ノズル筐体240の内周面から均一のリング状のガスを噴き出すことができる。このため、管内に導入されたガス泡が膨張する際、均一かつ迅速に液体柱を上下に分断することができ、30m程度の高揚程であっても、確実な液体の汲み上げが可能となる。なお、上記送気ノズル24aは、揚液管10に一体的に形成されていてもよい。
【0060】
図5の送気ノズル24bは、上記図4に示す送気ノズル24aを上下逆にして揚液管10に取り付けた状態を示している。図5のように揚液管10に取り付けることで、揚液管10の管内へ下向きにリング状のガス泡が噴出する。図5の送気ノズル24bにおいても、リング状のガスを噴き出すことができるため、均一かつ迅速に液体柱を分断できる。
【0061】
なお、図4のように、上方に向かってガスを噴き出すような送気ノズル24aに揚液管10に取り付けた場合、導入したガス泡が揚液管10の管内を下降し、揚液管10の吸引口10aから外部に漏れる可能性を低くできる。このため揚液管10の液体源30への挿入深さが浅い場合にも効率的な汲み上げが容易となる。また、ガス導入高さHaは、揚液管10内に導入したガスが一旦0.8m程度下降してから上昇に転ずる可能性を考慮して、液面H0から1.0m程度に設定するが、上方に向かってガスを噴き出すようにすることで、導入ガスの下降距離を小さくすることが可能となり、より液面H0に近い位置にガスを導入し、ガス泡で分断される液体柱の上部堆積を多くすることが可能となる。
【0062】
図6には、さらに別の送気ノズル24cの構成例を示す。図6に示す送気ノズル24cは、上記送気ノズル24a、24bのようなガス整流フィン244は採用せず、送気管22から送られるガスは、送気通路242を経て、直接ノズル筐体240の内周、つまり揚液管10の管内に導入する。
【0063】
また、図6では、ノズル筐体内周に、導入ガスの一時的なガス溜まり270が形成されている。このガス溜まり270は、送気通路242とほぼ水平方向に同じ高さにおけるノズル筐体内周径が、他の位置でのノズル筐体内周径、具体的には上部揚液管接合部256、下部揚液管接合部258の内周径よりも、広く形成されて構成されている。とりわけ、上部揚液管接合部256の内径よりもガス溜まり270の内径を広くすることで、揚液管10の管内の液体柱をこのガス溜まり270において導入ガスによって確実に上下に分断できる。よって、ノズル筐体240の片側に形成されている送気通路242から単にガスを導入する場合と比較して、揚程の向上、汲み上げ効率の向上を図ることができる。
【0064】
なお、以上に説明した送気ノズル24に代え、ノズル筐体240を貫通する送気通路242の開口部(管の片側に形成)から、ガスを揚液管10の管中へ導入しても、液体の汲み上げは可能である。しかし、図4〜図6のような送気ノズル24の構成を採用することで、送気ノズル24による揚程の向上や、汲み上げ効率の向上が可能となる。
【0065】
次に、図7を参照して、ガス逆止機構280について説明する。
【0066】
ガス逆止機構280は、ガス導入位置Haより低い位置に設けられており、図7には示さない揚液管10の吸引口10a(図1参照)から取り込む液体の通過を妨げずに、導入されたガス泡が逆止機構280より下に移動することを防いでいる。より具体的には、このガス逆止機構280は、ノズル筐体240の下部領域に設けられ、図7に示すように、ガス逆止用ボール282、このボールを内部に収容するボール配置室286、ボール282のボール配置室286より上方への浮き上がりを防止するボール浮き止め284を有する。なお、図7の例において、ノズル筐体240の上部に設けられる上部揚液管接合部252は、上述の図4に示す接合部252と同様な形状であるが、図6に示す上部揚液管接合部256のようにノズル筐体240との内径差がより大きい接合部構成としても良い。
【0067】
また、図7(b)に示すように、ボール配置室286の内周径(直径)286Rは、下部揚液管接合部260の内周径(直径)260Rよりも大きく、ボール282の直径282Rは、ボール配置室286の中で上下左右に移動できるようにボール配置室286の直径286Rよりも小さく、かつ、下部揚液管接合部260よりも下方に移動しないように該下部揚液管接合部260の直径260Rより大きく設定されている。図7(a)の例では、ボール配置室286の下部揚液管接合部260との間の通路286aは、下ほど径が小さくなるテーパー形状を備え、下降するガス泡によってボール282が押し下げられる際に、ボール282が、円滑かつ確実に、下部揚液管接合部260へのガスの下降流路を塞ぐことを可能としている。
【0068】
ボール配置室286の上部には、ボール浮き止め284が設けられており、図7(c)により具体的に示すように、このボール浮き止め284は、内径が、ボール配置室286の内径とほぼ同じリング部284aと、このリング部284aの内側に、ボール282の通り抜けを妨げる押さえ部284bが設けられている。
【0069】
押さえ部284bは、図7(c)の例では、リング部284aの中央を横切るように設けられているが、ボール282の通過を妨げることができれば、押さえ部284bはどのような形状であっても良い。例えば、ストライプ状、網目状であっても良い。但し、揚液管10の吸引口10a(図1参照)から液体を吸引してボール282が上昇し、ボール浮き止め284の押さえ部284aに当接した状態において、吸引した液体がボール浮き止め284を通過して上昇できるよう、液体の流路を確保できるだけの隙間がリング部284aの内周と押さえ部284bとによって形成されていることが必要である。
【0070】
なお、ガス逆止機構280は、図7の例では、送気ノズル24dの設置領域に送気ノズル24dと一体的に形成されている。この送気ノズル24dは、上記図6と同様、ガス導入位置Haにおいて、ノズル筐体240の内周側にガス溜まり272を備え、ガス整流フィンのない構成を備える。しかし、ガス逆止機構280は、図7に示すように送気ノズル24dに一体的に形成する構成には限られず、ガス導入位置Haよりも下方であって、揚液管10の吸引口10a(図1参照)よりも上の位置において、送気ノズル24とは別に設けても良い。
【0071】
以上のようなガス逆止機構280を揚液管10に設けることにより、送気ノズルについては、上記図4〜図7のいずれの構成を採用することもできる。特に、図4に示すようなガスを上昇方向に向けて吐出させるガス整流フィン244aを設けない図5〜図7に示すような送気ノズル24b、24c、24dを採用した場合であって、液体源30が浅い場合や、揚液管10の吸引口10aの液体面H0から挿入深さが浅い場合でも、吸引口10aの先端から外部へ導入ガスが漏れることを確実に防止できる。また、導入ガスの下降が防がれるため、ガス導入位置Haをより液面H0に近づけることも可能であり、これにより導入ガスによって分断する液体柱の上部柱の体積を増やし、即ち、一回の導入ガスによって汲み上げられる液体量を増大させることが可能である。なお、もちろん、図4のようなガス整流フィン244aを備えた送気ノズル24aと組み合わせた場合にも導入ガスの漏れを確実に防止して、揚液量、或いは揚液効率を向上させることができる。
【0072】
[実施形態2]
図8(a)は、実施形態2に係る高揚程の減圧揚液装置の構成を示す。上述の実施形態1に係る減圧揚液装置では、揚液管10の内径は、図1に示されるように、吸引口10aから上部終端部10bまでほぼ一定である。これに対し、実施形態2に係る減圧揚液装置では揚液管10の下部(以下、下部揚液管)14の内径14Rより、揚液管の上部(以下、上部揚液管)16の内径16Rが小さい。上部揚液管16の下端、つまり内径16Rを下部揚液管14の内径14Rよりも小さくする位置は、減圧揚液管内における液体柱の自然高さHvよりも高い位置とすることが好適である。
【0073】
上部揚液管16の内径16Rは、図8(a)のように一定としてもよく、図8(b)に一部拡大して示すように、上部揚液管16の内径16Rが、下部揚液管14との接合部から上方に連続的に減少するテーパー形状を備えていても良く、あるいは、図8(c)に示すように上部揚液管16の途中でステップ状に減少していても良い。
【0074】
ガス導入手段200は、例えば、図8(a)に示すように、上記実施形態1と同様、揚液管10の外部に設けた送気管から送気ノズル24を介し揚液管内にガスを導入する構成を備える。送気ノズル24としては、例えば、単に、揚液管10の側方からガスを導入可能な導入口が形成されているだけでも良いし、上述の図4〜図7に示すいずれの構成を採用することも可能である。図4〜図7に示すような各送気ノズル24a,24b,24c,24dの採用により、更なる揚液効率の向上或いは、最大揚程Hdの拡大を図ることができる。
【0075】
また、図7に示すガス逆止機構280を揚液管10のガス導入位置Haより下に設けても良く、この場合、送気ノズル24としては、図4〜図7のいずれの送気ノズルを組み合わせても良い。
【0076】
本実施形態2の減圧揚液装置において、下部揚液管14の内径14Rと、ガス導入高さHaと、導入するガス量とは、減圧揚液管内に導入したガス泡によって上下に分断された液体柱の上部柱を、少なくとも自然高さHv以上の高さに汲み上げ可能な条件とすることができる。つまり、内径14Rに応じた液体柱断面積Bと、自然高さHvとガス導入高さHaとの差に等しい液体柱長さCとの積に等しい液体量[B×C]を、Hv以上の高さに、導入ガスによって押し上げることができるよう、下部揚液管14の内径14R、ガス導入高さHa、ガス導入量を決める。このような条件設定を採用しながら、内径の小さい上部揚液管16を採用することにより、自然高さHvを大幅に超える20m、30m、或いはそれ以上の最大揚程Hdを実現することができる。なお、図8(a)の構成において揚液管10の管内には、送気ノズル24より上の位置に他の構成が存在せず、揚液管の内径(揚液管の内部断面積)は、汲み上げる液体の流路径(流路断面積)に等しい。
【0077】
上部揚液管16の内径16Rは、下部揚液管14の内径14Rに対して1.0未満であれば効果があるが、例えば、1.0未満〜0.3程度の間とでき、一例として、0.5程度や、0.8程度とすることができる。図8(b)に示すようなテーパー状や、図8(c)に示すように段階的に内径が減少する上部揚液管16の場合には、下部揚液管14の内径14Rに対し、最小径位置において上記関係を満たせばよい。
【0078】
減圧揚液装置において、揚液管内に導入されたガス泡は、膨張しながら上昇して液体柱を押し上げるが、従来の減圧揚液装置では、ガス泡によって押し上げられた液体柱の高さが、自然高さHvを超え、例えば20m程度の高さに到達する際には、押し上げている液体柱の一部をガス泡が追い越してしまう現象が確認されている。
【0079】
しかし、実施形態2のように、少なくとも液体柱自然高さHvより高い位置(上部揚液管)において、揚液管の内径を自然高さHvより低い位置(下部揚液管)での揚液管内径より小さくすることにより、ガス泡による上部の液体柱の追い越しを抑制することができる。
【0080】
追い越し抑制の原因の一つとして、上部揚液管の管内径が小さいため、ガス泡とその上部の液体柱との接触界面の面積を小さくできることが挙げられる。上部揚液管内、特に、最大揚程Hdに近づくにつれ、揚液管内では、液体の管内の通過抵抗やガス泡の通過抵抗のばらつきや、揚液管10の上部終端部10b付近からの揚液逆流などが無視できなくなり、ガス泡と、ガス泡が押し上げている液体柱との界面形状に乱れが発生しやすくなると考えられる。本実施形態2のように、このような乱れが生じやすい高い位置で、液体柱の断面積が小さく、ガス泡と上部液体柱との接触面積を小さくすることで、乱れの確率を低減し、ガス泡による液体柱の追い越しを低減でき、その結果、装置による最大揚程Hdを大きくすることができると考えられる。
【0081】
本実施形態2において、図8(a)に示す構成例では、揚液管10の上部に、実施形態1で説明したような揚液受け部40を採用している。つまり、揚液管10の上部終端部10bが内部に配置される揚液受け部40であり、少なくとも、揚液管10の上部終端部10bが揚液受け部40の底面42から突出し、かつ、揚液受け部40の上面44に上部終端部10bが当接していない構成を採用している。このような揚液受け部40を利用することで、最大揚程Hdの一層の向上を図ることができる。
【0082】
揚液受け部40を採用する場合、さらに、図2、図3に例示したように、揚液受け部40の上面44に、揚液管の上部終端部10bから吐出した揚液を、上部終端部10bから離間させる方向に反射させる面(44,44a,44b)を設けてもよい。このような上面44を採用することで、汲み上げた液体の逆流をより確実に防止でき、汲み上げ効率をさらに向上させることができる。
【0083】
また、本実施形態2のように上部揚液管16の内径を下部揚液管14の内径より小さくすれば、上記揚液受け部40を採用しなくとも、内径の変更を行わない減圧揚液装置よりも、最大揚程Hdの向上を図ることが可能である。例えば、図8(c)に示すように、揚液管10の上部を逆U字状に折り返し、折り返した先に真空ポンプ50に連通された揚液タンク60を直接接続しても良い。なお、揚液管10の逆U字の上部経路に管路バルブ72を設けてもよい。この管路バルブ72は、例えば、真空ポンプ50による揚液タンク60及び揚液管内の減圧を開始時には閉状態とし、内部気圧が一定となってから開状態に制御することができる。また、揚液タンク60に溜まった液体を例えば加圧して噴霧するなどの場合において、管路バルブ72を閉状態とすることにより、揚液タンク60に連通する揚液管10の管路に、加圧用の気体や、タンク内の液体が逆流することを防止できる。もちろん、この管路バルブ72は省略しても揚液の妨げにはならない。
【0084】
[実施形態3]
次に、図9を参照し、実施形態3に係る減圧揚液装置について説明する。本実施形態3では、上記実施形態1と同様、真空ポンプ50で揚液管10内を減圧し、揚液管10の管内に、ガス液体源30の液面H0より高くかつ減圧下の揚液管内での液体柱自然高さHvより低い位置においてガスを導入し、ガス泡によって揚液受け部40に液体を汲み上げる。実施形態1と異なる点は、ガス導入手段20の構成であり、送気管222が揚液管10の外部ではなく内部に設けられたいわゆる二重管構造を備えていることである。
【0085】
本実施形態3に係るガス導入手段200は、揚液管10の上方よりその管内の途中まで挿入された送気管222と、揚液管10内へガスを間欠的に吐出するために、制御部のon−offタイマ226によって動作タイミングが制御される給気バルブ26とを備える。揚液管10内に挿入された送気管222の下端はガス吐出口224を構成する。送気管222は、その吐出口224が、液体源30の液面H0より高く、減圧管内での液体柱の自然高さHvより低い位置aになるように、揚液管10に対して位置決め固定されている。
【0086】
また、図9に示す減圧揚液装置では、実施形態1と同様、揚液管10の内部流路径が一定となるように構成されている。即ち、二重管構造を持つ本実施形態3では、揚液管10の内径と、揚液管10の管内に挿入される送気管222の少なくとも外径が、管の延在方向において概ね一定で構成されている。
【0087】
なお、図9の構成において、送気管222は揚液管10内に一本挿入されているが、複数本挿入されていてもよく、また一本の送気管222に複数のガス吐出口が設けられている構成も採用可能である。いずれの場合にも、送気管222のガス吐出口は、水面H0より高く、真空管内での液体柱自然高さHcより低い位置に設定する必要がある。
【0088】
揚液管10の上部終端付近には、実施形態1と同様、揚液受け部40が設けられている。実施形態1の揚液受け部40と相違する点は、本実施形態3の揚液受け部40では、揚液管10に挿入された送気管222が、貫通部48において、揚液受け部40内の気密性を損ねることなく、該揚液受け部40を貫通可能に構成されている点である。図9において、送気管222は、揚液管10の上部終端部10bの位置から揚液管10の外に露出し、真っ直ぐ上方に延び、揚液受け部40の上面を貫通して揚液受け部40の外に延びている。また、給気バルブ26は、揚液受け部40の外部において送気管222に取り付けられ、揚液受け部40の外部に設けられているon−offタイマ226によって開閉が制御されている。ここで、送気管222は、図9に示すように揚液管10の上部終端部10bから垂直方向に真っ直ぐ延びる構成に限らず、送気可能な範囲で屈曲していてもよいし、揚液受け部40の側面を貫通する構成であってもよい。
【0089】
図9に示す減圧揚液装置では、上記の通り揚液管管内の流路径は一定であるが、本実施形態3に係る二重管構造は、図10に示すように揚液管管内の流路径が途中で変化する構成としても良い。図10に示す減圧揚液装置では、上述の実施形態2において説明したように、下部揚液管14の流路径よりも上部揚液管16の流路径が小さくなるように構成されている。より具体的には、揚液管10の下部揚液管14の内径よりも上部揚液管16の内径を小さくし、送気管222の外径は一定としている。
【0090】
また、送気管222の外径を、減圧揚液管内の液体自然高さHvより高い位置において、Hvより低い位置での外径よりも大きくしてもよい。揚液管10の上部揚液管16の内径を下部揚液管14より小さくすると共に、送気管222の外径を上記高さHv以上の位置において、拡大しても良い。流路径の変化は、実施形態2において説明したように、1段階でも、2段階以上の多段階でもよいし、連続減少させてもよい。
【0091】
本実施形態3において、揚液受け部40は、実施形態1において説明した図3(a)、図3(b)のような構成を採用することもできる。また、図7を参照して説明したガス逆止機構280を揚液管10に設けることができる。このガス逆止機構は、具体的には、図9及び図10に示す送気管222のガス吐出口224よりも低い位置であって、吸引口10aよりも高い位置において揚液管10に設ければよい。本実施形態3の二重管構造にガス逆止機構280を採用することで、ガス吐出口224から揚液管10に下向きに吐出されるガス泡の不必要な下降を防止できる。よって、ガス吐出位置Haをできるだけ液面H0近くまで下げて、一回の汲み上げ量(ガス泡で分断される上側の液体柱の体積)を増やし、液体の汲み上げ効率の改善を図ることも可能である。また、浅い液体源30からの汲み上げ又は揚液管10の液面Ha下への挿入量を少なくしても確実な汲み上げを行うことができる。
【0092】
本実施形態3において、図10のように揚液流路径を上部ほど小さくする構成を採用することで、実施形態2で説明したように、汲み上げ限界近くの高い位置におけるガス泡の液体柱の追い越しを抑制し、汲み上げ効率の改善や、Hvを大幅に超える高揚程での液体汲み上げを実現することが可能となる。
【0093】
また、揚液受け部40を省略し、揚液管10をその上部において図10(b)に示すように、逆U字状に折り返し、折り返した先に、管路バルブ72、真空ポンプ50に連通された揚液タンク60を接続する構成を採用することも可能である。なお、この場合、送気管222は、揚液管内の気密性を破らないように、揚液管10の上部を貫通して上方に真っ直ぐを延在させればよい。なお、この図10(b)の構成おいて、揚液管10のガス導入位置Haより下方で吸引口10aより上の高さに逆止弁280を配置しても良い。
【0094】
以上に説明した本実施形態3に係る二重管構造によれば、図9及び図10に示されているように、揚液管内にガス導入手段200の大半が収納できるため、装置の外形が小さくできる。よって、地中深く等、装置の設置スペースに制約が大きい場合であっても、最小限、揚液管10を通すことができるスペースさえあれば、20m、30m以上深い位置にある液体を汲み上げることができる。また、装置外形が小さいため装置搬送に便利であり、搬送中におけるガス導入手段200の破損の可能性も低減することができる。
【0095】
さらに本実施形態3では、送気管222は揚液管内に配置されて用いられることとなるため、決められた位置でガス吐出ができれば、この送気管222に特別高い強度は要求されない。よって、送気管222の構成材料の選択幅が広くなり、製造コスト低減に有利となる。また、送気管の挿入長さを調整することでガス吐出口の高さ、つまりガス導入位置を容易に調整することができる。
【0096】
次に、実施形態3に係る減圧揚液装置の動作について簡単に説明する。まず、送気管222が内部に挿入された揚液管10を、その吸引口10aを低位にある液体源30中に挿入し、管路バルブ72及び給気バルブ26を閉じ、真空ポンプ50を駆動する。タンク60内の空気が排気されて圧力が低下し、所定の負圧で一定になった後、管路バルブ72を開放する。すると、揚液管10は、急速に液体源30から液体を吸い上げ、揚液管10内に揚水された液体柱の高さが、負圧(真空)管内での液体柱の自然高さに相当するHv程度となる。なお、管路バルブ72を開放した際、減圧されている揚液管10によって瞬時に揚液が行われるため、送気管222内は、そのガス吐出口付近までガス(例えば空気)で満たされている。
【0097】
次に、on−offタイマ226を作動させ、間欠的に給気バルブ26を開ける(例えば開放時間0.63sec、閉鎖期間10.01sec)。給気バルブ26が開放されると、送気管222のガス吐出口からガス泡が吹き出す。給気バルブ26は、短期間しか開放されず、また真空ポンプ50が動作し続けているため、正圧のガス泡が吹き出すことで、一旦上昇した管内の圧力は、給気バルブ26が閉鎖するとすぐ所定の負圧に戻る。
【0098】
吹き出されたガス泡は、一旦、高さHaから下降するが、ガス泡の圧力(正圧)と管内Ha点付近の圧力(負圧)とで圧力差が存在すること、ガス泡が浮力を受けること、及びガス泡が液体(水)より軽いことから、その後揚液管内を上昇し始める。
【0099】
揚液管内を上昇するにつれガス泡は膨張し、また、間欠的に吐出された複数のガス泡が上昇に従って集合することで、やがて揚液管10の内径を占めるような砲弾型のガス泡(スラグ流)を形成し、このスラグ流が揚液管内を上昇することとなる。このようなスラグ流が形成されることで、ガス泡が吐出される前に高さHvであった液体柱は、発生したスラグ流によって上下に分断される。
【0100】
上記スラグ流34によって減圧管内での自然高さHvの液体柱が途中で分断されるため、分断された液体柱の上側の長さは、例えばHvより小さくなる。従って、このHv未満の高さ(長さ)の水柱は、負圧状態の揚液管内を上昇することが可能となる。さらに、揚液管10内は上に行くほど真空ポンプ50に近づいて圧力が低くなるため、スラグ流は管内を上昇するにつれ、膨張するとともにその上端における上昇速度が速くなる。
【0101】
このため、一旦スラグ流が形成されて管内の液体柱が分断されると、分断された上側の液体は、スラグ流によって揚液受け部40等が設けられた上方に勢いよく押し上げられることとなる。
【0102】
従って、結果として、本実施形態においても、低位にある液体源30から高さHvより高い位置Hdまで液体を汲み上げて、揚液受け部40に一時貯留し、或いは揚液受け部40を介してタンク60に貯めることが可能となる。このように、真空ポンプ50を用い、自然高さHvを大幅に超える20m、30mのような揚程Hdで液体の間欠的な汲み上げが行われる。
【0103】
なお、本実施形態3及び上記実施形態1及び2の減圧揚液装置において、汲み上げる液体に固体が混ざっている場合にも適用可能である。
【0104】
[実施形態4]
次に、図11を参照して実施形態4に係る減圧揚液装置について説明する。本実施形態4は、揚液受け部40に汲み上げた液体を還流する構成を備えている。具体的には、揚液受け部40の底面42に接続され、揚液受け部40に汲み上げられた液体を環流管74によって揚液管10の途中、又は図11に点線で示すように液体源30に戻している。液体の汲み上げ原理、汲み上げ方法は、上述の実施形態と同じである。
【0105】
本実施形態の還流構造は、減圧揚液装置の揚液管10を建物の壁面に露出するように取り付けて、液体及びガス泡が揚液管10の管内を上昇する様子を観察者に表示する装飾用途などに利用することができる。また、揚液管10の管内に液体の有無によって透過率などの変化するパターンを設け、揚液管10の管内を液体が間欠的に上昇することでパターンを点滅表示させる表示機能を設けることもできる。このような装飾機能、表示機能を利用することで、屋外の10、20m、30m或いはそれ以上の高さに、装飾を施し、広告表示を行うなどが可能となる。また、揚液管10は、例えば、外径が2cm〜5cm程度とできるので、水平方向に対して非常に省スペースであって、鉛直方向に長い装飾・表示装置を提供できる。また動力が真空ポンプ50のみでよいため、非常に低消費電力で斬新な装飾や表示を行うことができる。
【0106】
揚液受け部40の還流管74への送出口の口径(還流管の口径)は、減圧溶液装置が減圧、ガス導入、液体汲み上げの動作をしている際に、揚液受け部40に汲み上げられた液体が還流管74を介して全て排出されずに、残るように設定する。即ち、揚液量よりも排出量が小さくなるように設定する。
【0107】
ここで、揚液管10の途中に還流管74が接続されている構成を採用する場合、還流管74の還流口の口径は、揚液管10の内径より小さく、ガス泡及びこのガス泡によって急速に上昇する液体柱が、還流口から還流管74を介して逆流しない又は逆流の程度の少ない小径とする。また、還流管74の還流口は、揚液管10の液体の上昇方向に対して直交又は鈍角より大きい角度で揚液管10に連通するように接続することで、下方から揚液管10の管路の延びるほぼ鉛直方向に上昇する液体が、還流管74に逆流せず又は逆流の程度を少なくすることができる。揚液管10への還流管74の接続位置は、揚液受け部40の底面より低い位置であれば特に限定されない。
【0108】
実施形態4において、ガス導入手段200は、図11では実施形態1、2と同様、揚液管10の外部に配置した送気管22から送気ノズル24を介して揚液管10の管内にガス導入する構成を採用している。送気ノズル24については、上述のいずれの構成を採用してもよい。また、揚液管10の内部に送気管を挿入した実施形態3の二重管構造を採用しても良い。実施形態2のように揚液管10の液体流路径を上部位置において下部よりも小さくする構成の採用も可能である。揚液管10のガス導入高さHaより下の位置に、図7に示すガス逆止機構280を採用しても良い。
【0109】
揚液受け部40は、実施形態1と同様の構成を採用可能であるが、本実施形態4では汲み上げた液体を大量に貯留する必要性が低いため、液体タンクを省略することができる。このため、真空ポンプ50を直接揚液受け部40に連通し、揚液受け部40の内部空間及び揚液管10の管内を真空ポンプ50によって減圧する構成を採用している。
【0110】
なお、汲み上げた溶液を、還流させずに他の実施形態のように用いる場合において、本実施形態4で説明した表示機能や、装飾機能を採用しても良い。
【0111】
[実施形態5]
次に、図12を参照して実施形態5に係る減圧揚液装置について説明する。本実施形態5では、上述の実施形態1〜3で説明したいずれかの減圧揚液装置において、さらに、液体タンク60に貯まった液体を加圧して利用するためのコンプレッサーを備える。図12は、このようなコンプレッサー90を利用した装置全体の概略構成を示している。揚液管、ガス導入手段及び揚液受け部等の構成は、上述の実施形態と同じであり、既に説明した構成と共通する構成には同一符号を付している。
【0112】
また、上述の実施形態と同様に、液体タンク60は、経路中に管路バルブ72が設けられた送液管70を介して揚液受け部40に接続されており、液体タンク60には、揚液受け部40から揚液管10によって汲み上げられた液体が貯留可能となっている。本実施形態5では、この液体タンク60には、電磁バルブ(電磁三方バルブ)52を介して真空ポンプ50が接続され、電磁バルブ(電磁三方バルブ)92を介してコンプレッサー90が接続されている。さらに、本実施形態5では、液体タンク60には、タンク内部圧力を監視するための圧力センサ62、タンク内の液体貯留量を監視するための液面センサ(水位センサ)64、液体タンク60からの液体の送出を制御する電磁バルブ(電磁開閉バルブ)66、内部空間の大気開放用バルブ68a、不要となった液体を廃棄するための排出バルブ68bが設けられている。
【0113】
本実施形態5において、制御装置100は、電源110からの電力供給を受け、真空ポンプ50、コンプレッサ90を制御すると共に、バルブ52,72,92及び送気管22に設けられている給気バルブ26の開閉タイミングを制御している。また、制御装置100は、圧力センサ62による液体タンク60の内部圧力、液面センサ64による液面を監視し、その結果に応じて、汲み上げ期間と揚液利用期間との調整や、給気バルブ26の開放期間(ガス導入タイミング、ガス導入量)、液体送出用のバルブ66の開放期間(液体使用量)などを制御する。
【0114】
以下、図12に加えて、装置の動作タイミング波形を示す図13を参照し、上記制御部100によって制御されている本実施形態5に係る減圧溶液装置の各部の動作タイミングを説明する。図13(a)に示すタイミングで電源が投入されると、図13(x)で示すように大気開放用バルブ68aが開放制御され、液体タンク60の内部空間が一旦大気圧となる。また、期間T5を計測するタイマ(T5)が起動し、期間T5が経過すると(図13(m))、上記バルブ68aが閉じ、かつ図13(b)に示すように真空ポンプ50がオン制御され減圧動作が開始する。また同時に図13(n)のように真空ポンプ50と液体タンク60の経路にあるバルブ52が制御され、大気に対して閉鎖状態となり、かつ、経路内を開状態とする。
【0115】
圧力センサ62で検知される圧力は、図13(c)に示すように減圧開始から徐々に低下し(図中は折れ線が上昇するほど圧力が低く表現されている)、予め設定された圧力(一例として−80kPa)を超えると、超過期間中、圧力センサ62は、図13(d)に示すように目標圧力到達信号を発生し、この信号を制御装置100に出力する。なお、目標圧力への到達判定は、圧力センサ62から随時供給される圧力値によって制御装置100が実行しても良い。
【0116】
目標圧力到達信号が発生すると、図13(p)に示すように管路バルブ72は閉状態から開状態に切り替え制御され、また同時に、図13(f)に示すように、期間T4を計測するタイマ(T4)が起動し、期間T4を計測する。
【0117】
管路バルブ72が開状態となると、非減圧状態であった液体タンク60に揚液受け部40及び揚液管10が連通されるため、図13(c)に示すように圧力値は、一旦、少し上昇した後、真空ポンプ50の動作継続にしたがって再び低下する。この圧力値が再び目標圧力になると、図13(d)のように目標圧力到達信号が再び出力される。再び目標圧力に到達し、かつ、上記期間T4の経過が計測されると、図13(g)に示すように汲み上げ期間に移行する。なお、バルブ72を開放してから再び目標圧力に到達するまでの期間は、装置構成に応じて概ね一定であるため、図13(f)に示すように、最初に目標圧力到達信号が発生してから汲み上げ開始までの期間T4をタイマーによってカウントすることができる。
【0118】
汲み上げ開始期間が始まると、図13(h)に示すようにon−offタイマ(図1の226)が、給気バルブ26の開放期間(T1)と、閉鎖期間(T2)とを計測する。そして、給気バルブ26は、図13(i)のように開放期間(T1)のみ開放制御される。このような制御により、減圧され液体が自然高さHvの高さまで上昇している揚液管10のHaの位置に、給気バルブ26の開放期間だけガスが導入され、導入ガス泡が分断した液体柱の上部が揚液受け部40に汲み上げられる。このとき管路バルブ72は、図13(p)のように開放中であるから、揚液受け部40から送液管70を介して液体タンク60に汲み上げられた液体が送られる。
【0119】
通常の装置動作時おいては、図12の排出バルブ68bは閉鎖されているので、タンク内には間欠的に送られてくる液体が徐々に貯まり、液面が上昇していく。液面が液面センサ64の下側センサ64dよりも高くなると、図13(d)に示すように下側センサ64dから下限液面検出信号が出力される。
【0120】
更に、図13(i)のように給気バルブ26の開放を繰り返し、液体の汲み上げを繰り返し、液面センサ64の上側センサ64uの位置まで液面が到達すると、図13(j)に示すように上側センサ64uから上限液面検出信号が出力される。
【0121】
この上限液面検出信号が出力されると、図13(g)のように汲み上げ期間が終了し、図13(p)のように管路バルブ72は閉状態に切り替わり、かつ図13(l)に示されるようにバルブ52の閉鎖制御信号が発生して、図13(n)に示すように、バルブ52が閉状態となって、真空ポンプ50と液体タンク60との経路を閉じる。
【0122】
また、上限液面検出信号が出力されると、図13(k)に示すようにタイマ(T3)が動作し、期間T3を計測する。この期間T3中、図13(x)に示すように大気開放用バルブ68aが開状態となって溶液タンク60内が一旦大気圧状態になる。期間T3が経過すると、この大気開放用バルブ68aは再び閉状態となり、かつ図13(r)に示すようにコンプレッサー90と液体タンク60との間のバルブ92が開状態となり、液体タンク60内が加圧される。また同時にミストノズルや、スプリンクラーなどの加圧液体噴射機構に連結された送出管のバルブ66が、図13(q)のように開状態となる。コンプレッサー90の液体タンク60への接続と、バルブ66の開放により、液体タンク60に貯まった液体は、加圧されて加圧液体噴射機構に送られ、ここで噴射、噴霧に用いることができる。
【0123】
液体タンク60に貯まった液体が以上のように散布などによって使用されると、液体量が減少して液面が低下する。そして、下側センサ64dの位置まで液面が下がり、図13(o)に信号の立ち下がりで示すように下限液面検出信号が出力されると、図13(q)に示すようにバルブ66が閉制御され、また、図13(r)に示すようにバルブ92も閉制御され、汲み上げた液体の使用期間が終了する。
【0124】
下限液面検出信号が出力されると、図13(m)に示すように、再び、タイマ(T5)が起動し、期間T5の経過が計測されると、図13(n)に示すように真空ポンプ50と液体タンク60との間のバルブ52が再び開状態となる。バルブ52が開状態へ切り替わると、図13(b)に示すように液体タンク60の内部圧力は再び減少を開始する。そして、圧力センサ62で検出される内部圧力が再び目標圧力に到達すると上述のような液体汲み上げ動作が実行される。
【0125】
以上のようにして、液体くみ上げ動作と液体利用動作を効率的に切り替えることで動力源として真空ポンプ50のみにより液体を高位に汲み上げ、そして、高位に配置された液体タンク60からコンプレッサー90を利用することで加圧液体噴射機構に液体を供給することができる。なお、減圧時には大気中に開放されている真空ポンプ50の排気路を、液体加圧利用時には、液体タンク60への加圧給気路に接続するように切り替え制御すれば、真空ポンプ50をコンプレッサー90としても利用することが可能である。
【0126】
[実施形態6]
図14は、上述の実施形態5の減圧溶液装置を利用した実施形態6に係る液体散布装置の一例を示している。図14の液体散布装置では、水を液体源30から揚液管10によって、上位(例えばビルの屋上)に配置した液体タンク60に汲み上げ、汲み上げた水を散水している。
【0127】
この散水装置400は、図14に示すように例えば建物440(例えば、高さ30m程度を超えるような高層ビル)に設置して、植物への給水、冷却や清掃のための散水などとして用いることができる。
【0128】
例えば、近年問題となっているヒートアイランド現象を抑制する目的等により屋上や建物壁面に緑化植物を設置する取り組みが行われているが、本実施形態6の散布装置400を用いて、水を散布すれば、例えば地上30m程度以上の8階建てまたはそれ以上の高層ビルの高い位置に設置される緑化植物に対しても、極めて簡易で、低消費電力な構成によって、給水することができる。
【0129】
また、上記実施形態5のようにコンプレッサー90を利用することで汲み上げた水を加圧して噴霧することも容易であり、ミストノズルから水を噴霧して気化熱によって周囲気温を低下させるミストクーラとして利用することもできる。また、建物表面に光触媒塗料などを塗布しておき、この建物表面に本実施形態6の散水装置によって散水することで、建物表面の掃除や建物の冷却に利用することもできる。
【0130】
これらの用途における散水は、間欠的に実行すればよいため、本発明のように液体源30から間欠的に液体を汲み上げる揚液装置を利用することで、極めて高効率な散水装置を実現することができる。
【0131】
また、高層の建物440の屋上は日照条件にも優れているため、図14に示すようにソーラパネルを屋上に設け、ソーラパネルで得られた電力を、本発明の液体散布装置の電力(制御装置、真空ポンプ、コンプレッサー等の電源)として用いれば、商用電源を用いることなく、液体の屋上などへの汲み上げ、及び汲み上げた液体の散布を実行することができる。
【0132】
また、本発明の揚液装置によって汲み上げた液体をソーラパネルの冷却に利用することで、発電時などにおけるソーラパネル周辺温度の上昇及びそれに伴う発電効率の低下を抑制することができる。なお、ソーラパネルの冷却は、パネルの背面に、汲み上げた液体を循環させる水冷式のラジエータによって行っても良い。或いは、図14に示すように液体タンク60に接続された給水管410にパネル用パイプ412を接続し、このパイプ412の先に設けたパネル用ミストノズルからパネル周辺に水を噴霧することで、パネル冷却を実行しても良い。
【0133】
同様に、屋上への緑化植物への給水、屋上冷却のための散水は、給水管410に屋上散水用パイプ414を接続し、このパイプ414に複数取り付けられたミストノズルから行うことができる。
【0134】
建物壁面に対しては、給水管410に壁面用パイプ416を接続し、この壁面用パイプ416の先に取り付けた複数のミストノズルから散水することができる。ここで、図14に例示されているように、壁面用パイプ416を任意の高さ毎に分岐させてそれぞれ壁面に固定すると共に、各分岐パイプの先に複数のノズルを取り付けて各ノズルから散水することにより、壁面に配置された緑化植物への給水、建物表面の洗浄、冷却を人手を解することなく間欠的に実行できる。
【0135】
なお、図14には、給水管410に接続され、建物の低位まで延びたパイプ418を示している。例えば、建物の出入り口付近は、人の出入りが多く、また夏期などの高温時には、外気温との温度差を感じやすい場所であるが、このような場所にパイプ418を設置し、その先端にミストノズルを設けて水を噴霧すれば、効率的な外気冷却を実行することができる。
【0136】
また、液体タンク60を例えば建物の屋上のような非常に高い位置に設置しているので、このタンク60に接続され、低い位置に設けられるパイプ418のノズルには、液体タンク60の設置高さと、パイプ418のノズル位置までの高低差に応じた高い水圧を自動的に加えることができ、より安定して微細なミストを噴霧することができる。
【0137】
次に、図15を参照して他の液体散布装置の構成例を説明する。上記図14の散布装置では、実施形態5に説明したようにコンプレッサー90を用いて加圧液体噴射機構からの散水を行っているが、図15に示す液体散布装置では、コンプレッサー90を省略している。よって、図15に示す液体散布装置では、加圧ミストを噴射するのではなく、高位に汲み上げられた液体の位置エネルギを利用し、この液体を下位まで効率的に流しながら途中で冷却、散水を実行する。
【0138】
具体的には、例えば動力源としてソーラパネルを用いる場合のパネルの冷却は、液体タンク60に接続された給水管420に、冷却用パイプ422を連通し、この冷却用パイプ422をパネル背面に屈曲配置して実行する。
【0139】
また、冷却用パイプ422の先には、少なくとも建物の下部まで連なり、途中に複数の散水孔426hを備える壁面散水パイプ426を連通している。ソーラパネルが、液体タンク60とほぼ同じ高さに設けられている場合、液体タンク60から排出される液体は、同じ高さに位置する冷却用パイプ422を流れ難い。しかし、より低い位置までつながり、かつ、散水孔426hを備える壁面散水パイプ426を連結することで、下位に向かって流れる液体がこの冷却用パイプ422を経由でき、パネルなど、目的とする対象を自動的に冷却することができる。また、同様の原理で、液体タンク60とほぼ同じ高さの屋上面に散水する場合には、屋上散水用パイプ424を、給水管420と壁面散水パイプ426と間に接続することで、特別な動力を用いることなく、屋上にも自動的に散水することができる。なお、図15の例では、この屋上散水用パイプ424を冷却用パイプ422と壁面散水パイプ426との間に接続している。
【0140】
植物への給水は、上述のように連続して実行する必要も、特に微細なミスト状で水を撒く必要もない。よって、図15に示す液体散布装置を用いて、間欠的に汲み上げられる水を、間欠的に、また、植物を痛めることなく穏やかに徐々に散水することで、効率的な給水が可能となる。もちろん、途中経路の冷却も可能であり、壁面等に徐々に水を流すことで光触媒塗料などを併用した自動的な壁面清掃を行うこともできる。
【0141】
ここで、図15の右上側には、壁面を蛇行(ミアンダ状)するように配置した壁面散水パイプ426の蛇行の角部分についての拡大構造の一例を示している。この構造では、角部にカップ状の水受け部430が設けられ、上側パイプ426aは水受け部430の底部付近に接続され、上側パイプ426aから流れてくる水が水受け部430に流れ込むようになっている。
【0142】
水受け部430の側面の上部には、下側パイプ426bが接続されており、この接続位置以上に水受け部430に水がたまると、下側パイプ426bに水が流れる。水受け部430の底には散水用の孔430hが設けられており、水受け部430には、液体タンク60から水が供給されている期間には、ある程度水受け部430に水が貯まるようになっている。水の供給が無くなると、散水用の孔430hから水が流れ出るため、常時水が貯まることはなく、蚊などの害虫発生を防止できる。
【0143】
このような角部の構成を採用することで、汲み上げた水の水圧が低い領域、つまり液体タンク60に近い、比較的高い位置であっても、壁面散水パイプ426の傾斜部を水が比較的ゆっくり流れ、これらの高い位置での散水も十分に行うことが容易となっている。もちろん、こような角部分を必ずしも採用せず、単にパイプを屈曲させてもよい。また、サイフォン原理を利用して、水受け部430に水を貯め、一定以上水が貯まると、貯まった水が全て下側パイプ426bを介して流れ出るように構成してもよい。これは、一例として、図15の右下拡大図に例示するように、下側パイプ426bを水受け部430の下部付近に接続し、この下側パイプ426bに部分的に上に向かって延びる逆U字状の屈曲部を設けることで実現することもできる。このような構成により、水受け部430に一定以上の水が貯まると、水受け部430内の水が下側パイプ426bの逆U字状の屈曲部を超えて下側パイプ426bに流れ出る。よって、下側パイプ426bに水が流れ出るまでの間、上側パイプ426a内は水で満たされ、壁面への散水が行われることとなる。
【0144】
図16は、本実施形態6の液体散布装置の他の構成例を示している。図16(a)は、屋根の雪下ろしに本実施形態6に係る液体散布装置を利用した例である。切妻屋根など、勾配を持つ屋根の最上部と、屋根の傾斜面に融雪用の散水パイプや循環パイプを配置し、これらのパイプに上述の実施形態のいずれかの減圧揚液装置によって汲み上げた液体を供給すればよい。
【0145】
図16(a)では、屋上に真空ポンプ50を配置しているが、ポンプ50は地面近くに配置して一般民家での電源供給を容易としても良い。また、揚液受け部40の容積が融雪に必要な散水量に対して適切であれば、液体タンク60を省略し、揚液受け部40から直接散水パイプ又は循環パイプに水を供給しても良い。このようにすれば、屋根の上には散水パイプや循環パイプと揚液受け部40のみを配置すれば良く、一般民家での取り付けが非常に容易となる。
【0146】
本発明に係る減圧揚液装置であれば、液体源30は任意に選ぶことができ、図16(a)に記載するように、液体源30として、例えば温水や熱湯などをためたバケツや風呂などを利用することができる。これらの液体源30に揚液管10を挿入し、真空ポンプ50を動作させて揚液管10にガスを導入するだけで、温度の高い水を屋根に散布・循環させることができ、少ない水量で効率的に雪を溶かし、屋根雪を落とすことができる。もちろん、温水でなくても良い。また、減圧溶液装置の動作を停止すれば、汲み上げた水は短時間で流れ出て無くなるため、装置を設置したままでも、管内の凍結のおそれがない。
【0147】
図16(b)は、道路の融雪や、夏場の高温時期における道路への打ち水、街路樹などの植栽への潅水のために本実施形態に係る液体散布装置を用いている。設置箇所は、特に限定されるものではないが、例えば、道路の中央分離帯などとすることで、交通の妨げにならず、また植栽による分離帯への潅水や、高い位置にあることが多い中央分離帯から低い位置にある道路の脇まで、液体源30から汲み上げた水を流すことができ、融雪、打ち水などを効率的に実行することができる。また、中央分離帯であれば日照条件が優れていることも多く、ソーラパネルを動力源として用いれば商用電源を設置する必要がない。また、液体タンク60を省略して揚液受け部40から直接散水パイプを介して散水しても良いし、コンプレッサーを用いてミストを噴霧してもよい。
【0148】
図17は、上述の各実施形態に説明した減圧揚液装置の液体散布装置以外の用途の一例を示している。本発明の減圧揚液装置は、上述のように液体中に土砂などが含まれていても一緒に汲み上げることができる。よって、液体だけの地下水等の汲み上げ用途だけでなく、図17(a)に示すように、いわゆるヘドロなど高比重の汚泥などを含む湖沼などの液体源30aに揚液管10の吸引口10aを挿入し、揚液受け部40を介して液体タンク60に泥水を汲み上げる浚渫装置に用いることもできる。
【0149】
また、図17(b)のように例えば内部に有害なガスなどが充満する大型のガスタンク等の底に残留する水などの液体源30aが対象であっても、人が水面で作業する必要が無く、安全かつ簡易に高揚程な汲み上げができる。また引火性のガスが充満している場合でも、揚液管10の管内にガスを導入するだけでよいので、発火することなく揚液処理をすることができる。なお、引火性のガスが充満する環境の場合には、特に、実施形態3に示したように送気管を揚液管10の中に挿入する二重管構造を採用すればガスタンク内の引火性ガスにふれることなく管内に汲み上げ用のガスを導入でき、より安全性を向上させることができる。
【実施例】
【0150】
(実施例1)
上述の図1に示す減圧揚液装置を利用した30m揚程の実施例について説明する。実施例1では、この減圧揚液装置を8階建て建物内に取り付け、汲み上げる液体として水を用いて実行した。
【0151】
液体源30として水槽を1階の床面に設置し、液体タンク60は8階(最上階)に設置した。揚液管10の上端は、8階天井に固定した揚水受け部40に接続した。揚液管10としては、サクションパイプ(内径25.4mm、外径31.8mm)を用い、送気管22には、ワイヤー入パイプ(内径12mm、外径14mm)を用いた。送気管22に設けられた給気バルブ26には電磁開閉バルブを用い、バルブ26の開閉は、ON−OFFタイマー226で自動的に行うことにより、送気ノズル24から大気を送り込む時間を制御した。送気ノズル24としては、図4に示すガス整流フィンによって揚液管10の管内に上に向けてガスを吐出するノズルを用いた。また、真空ポンプ50の仕様は、排気速度50L/min、到達圧力0.1Pa、消費電力200Wであった。
【0152】
揚液実験では、まず、給気バルブ26および管路バルブ72を閉じた状態で真空ポンプ50を稼働させ、液体タンク60の内部圧力が−90kPa以下となった後にバルブ72を開放した。このとき、揚液管10の管内には、水面H0から6m程度の高さまでほぼ瞬時に揚水される。
【0153】
送気管22の管内は、送気ノズル24付近まで大気で満たされている。給気バルブ26を開放する直前における揚液管内の水位は9.5m程度である。つまり、管内を単に真空ポンプ50によって減圧しただけの場合の最大揚程はこの水位を超えることはない。
【0154】
本実施例1では、給気バルブ26を連続開放する揚水実験(実施例1−1)およびON−OFFタイマー(開放時間:8.3秒、閉鎖時間:1分3秒)を作動させた揚水実験(実施例1−2)の2ケースを実施した。実験中は液体タンク60の内部圧力および揚液量(液体タンク60の重量)を測定した。
【0155】
図18に給気バルブ26を連続開放した実施例1−1における揚水量と真空圧の経時変化を示す。バルブ開放12秒後には、30mの位置まで揚水が到達し、20秒後までの約8秒間に約0.8L揚水される。その後、一旦揚水が停止するが、約30秒後から再び揚水が生じ、約40秒後までの約10秒間にさらに約0.4L揚水される。そして、それ以降は全く揚水されなくなる。1回の連続開放による揚水量は1.28Lであった。真空圧は12秒後の揚水到達と同時に低下し始め、40秒まで徐々に低下し、それ以降は−40kPa程度でほぼ一定となった。
【0156】
図19にON−OFFタイマーを作動させた実施例1−2における揚水量と真空圧の経時変化を示す。図中の(1)〜(18)は、給気バルブ26を開放した回数を示している。実施例1−1と同様に、1回目のバルブ開放後、約13秒後に30mまで揚水が到達する。1回目の揚水量は0.68Lであり、連続開放した実施例1−1の約半分である。真空圧はバルブ開放時に一旦減少し、バルブ閉鎖時に回復する。開放1〜3回目においては、開放前の真空圧まで回復せず、真空圧は徐々に低下している。開放4回目以降では、開放時に−75kPaまで低下して閉鎖時に−85kPaまで回復する状態を繰返している。この間においては1回あたりの揚水量は0.30L/minで定常状態となっている。
【0157】
汲み上げ開始から15分経過後、液体タンク60への揚水量は約4.5Lであった。
【0158】
以上のように、実施例1の実験から、真空ポンプによる30mの揚水が確認された。本発明に係る減圧揚液装置は、上述のように、簡単な設備であり、真空ポンプを稼働させるだけの電力を確保できれば、定常的に揚液を実現することができる。
【0159】
(実施例2)
次に、上述の実施形態2で説明した図8(a)に示す減圧揚液装置を利用した30m揚程の実施例について説明する。揚液管10は、実施例1と同様に単管であるが、送気ノズル24の取り付け位置(≒Ha)から14mの高さまでが下部揚液管14で、その内径は32mmであり、この14mより高い位置から全揚程30mの終端までが上部揚液管16(長さ約15m)で、その内径は25.4mmとした。取り付け条件、真空ポンプ50の能力、導入ガス量などの他の条件は上記実施例1−1と同じとして連続ガス導入実験(実施例2−1)を行った。なお、最大減圧下での管内水位は、9.44m、ガス導入位置Haは、水面H0から1.02mであった。
【0160】
図20は、給気バルブ26を連続開放した実施例2−1における揚水量と真空圧の経時変化を示す。バルブ開放24秒程度で、30mの位置まで揚水が到達し、50秒後までの間に約2L揚水することができ、その後は余り変化がなかった。
【0161】
図21にON−OFFタイマーを作動させた実施例2−2における揚水量と真空圧の経時変化を示す。図中の(1)〜(10)は、給気バルブ26を開放した回数を示している。バルブ26の開放時間は15秒、密閉時間は1分30秒とした。1回目の揚水量は1.1Lであり、連続開放した実施例2−1(2.0L)の約半分である。真空圧はバルブ開放時に一旦減少し、バルブ閉鎖時に回復する。開放1、2回目においては、実施例1−2と同様、開放前の真空圧まで回復せず、真空圧は徐々に低下している。開放3回目以降では、開放時に−70kPaまで低下して閉鎖時に−85kPaまで回復する状態を繰返している。それ以降の揚水量は0.35L/minで概ね定常状態となっている。
【0162】
汲み上げ開始から15分経過後、液体タンク60への揚水量は5.7L程度であった。
【0163】
実施例2においても、実施例1と同様、30mの高揚程かつ有益な量の揚液が実現されていることが理解できる。
【符号の説明】
【0164】
10 揚液管、10a 揚液管の吸引口、10b 揚液管の上部終端部、14 下部揚液管、16 上部揚液管、22 送気管、24,24a,24b,24c,24d 送気ノズル、26 給気バルブ、30 液体源(水源)、40 揚液受け部、42 揚液受け部の底面、44 揚液受け部の上面、50 真空ポンプ(減圧手段)、60 液体タンク、70 送液管、74 環流管、100 減圧揚液装置の制御部、200 ガス導入手段、222 送気管、224 ガス吐出口、240 ノズル筐体、244 ガス整流フィン、280 ガス逆止機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低位にある液体源から、該液体源中に吸引口が挿入された揚液管を介し、高位に向けて液体を汲み上げる減圧揚液装置であり、
前記揚液管内を減圧する減圧手段と、
前記液体源の液面より高くかつ、減圧下における揚液管内での液体柱自然高さより低い位置において、前記揚液管内へ、前記減圧された揚液管内気圧より高い圧力のガスを導入するガス導入手段と、
前記減圧手段によって内部空間が減圧可能であって、前記揚液管の上部終端領域に設けられ、前記揚液管内を上昇して該揚液管の上部終端部から吐出する揚液を受ける揚液受け部と、を備え、
前記揚液受け部の内部空間では、前記揚液管の上部終端部が前記揚液受け部の底面から突出し、かつ、前記揚液管の上部終端部が前記揚液受け部の上面に当接しないよう離間して配置されており、
前記ガス導入手段から前記揚液管内に導入したガス泡により、前記揚液管内で前記吸引口から連続する液体柱を上下に分断し、前記揚液管内を上昇する該ガス泡により、分断した上側の液体柱を押し上げ、前記液体柱自然高さより高位の前記揚液受け部に液体を汲み上げることを特徴とする減圧揚液装置。
【請求項2】
請求項1に記載の減圧揚液装置において、
前記揚液受け部の上面は、前記揚液管の上部終端部から吐出した揚液を前記上部終端部から離間させる方向に反射させる面を備えていることを特徴とする減圧揚液装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の減圧揚液装置において、
少なくとも前記液体柱自然高さ以上の高さ位置において、前記揚液管は、その流路径が、該液体柱自然高さより低い位置における前記揚液管の流路径よりも小さい領域を有することを特徴とする減圧揚液装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の減圧揚液装置において、
前記揚液管の前記吸引口と、ガス導入位置との間に、前記揚液管内に導入したガス泡が降下して前記吸引口から液体源中への漏洩を防止するガス逆止機構を有することを特徴とする減圧揚液装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の減圧揚液装置において、
前記ガス導入手段は、
前記減圧された揚液管内気圧より高い圧力のガスの導入高さにて、前記ガスの前記揚液管を貫通し、前記揚液管内へ前記ガスを吐出するガス吐出口を有し、
前記ガス吐出口には、前記揚液管の外側から供給されるガスを受け、前記揚液管の内周壁側から管内部の上方に向けて吐出させるガス整流フィンを備えることを特徴とする減圧揚液装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の減圧揚液装置において、
前記ガス導入手段は、前記揚液管の上部から、前記揚液管内をその途中まで挿入され、そのガス吐出口が、前記液体源の液面より高く前記液体柱自然高さより低い位置になるよう挿入長が位置決めされ、前記揚液管内へ前記ガス吐出口からガスを吐出可能な送気管を備えることを特徴とする減圧揚液装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の減圧揚液装置において、
前記揚液受け部の底面に設けられた送液口は環流管に接続され、
前記環流管の下端部は、前記液体源に挿入され、又は、前記揚液管の少なくとも上部終端部よりも低い位置に設けられた該揚液管の環流口と連通され、
前記揚液受け部に汲み上げられた液体を、前記送液口から前記環流管を介して、前記揚液管を通って汲み上げられる液体として環流させることを特徴とする減圧揚液装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の減圧揚液装置を用いた液体散布装置であり、
前記揚液受け部から直接、または、前記揚液管に連通し前記減圧手段によって所定タイミングで内部が減圧され、前記揚液受け部からの液体を貯留する揚液貯留部を介して、前記揚液管で汲み上げられた液体が内部流路に供給される液体散布用パイプを有し、
前記液体散布用パイプは、
パイプ終端及びパイプ経路のいずれか、または両方に液体吐出口を有し、
かつ、該パイプは少なくとも一部経路が、前記揚液受け部又は前記揚液貯留部の配置される高位置から前記液体源の配置される低位置へ向かう方向に沿って配置され、
前記高位置から低位置への落差によって前記内部流路の液体を低位置へ向けて流して前記液体吐出口から吐出される液体を散布することを特徴とする液体散布装置。
【請求項9】
低位にある液体源から、該液体源中に吸引口が挿入された揚液管を介し、高位に向けて液体を汲み上げる減圧揚液装置であり、
前記揚液管内を減圧する減圧手段と、
前記液体源の液面より高くかつ、減圧下における揚液管内での液体柱自然高さより低い位置において、前記揚液管内へ、前記減圧された揚液管内気圧より高い圧力のガスを導入するガス導入手段と、を備え、
少なくとも前記液体柱自然高さ以上の高さ位置において、前記揚液管は、その流路径が、該液体柱自然高さより低い位置における前記揚液管の流路径よりも小さい領域を有し、
前記ガス導入手段から前記揚液管内に導入したガス泡により、前記揚液管内で前記吸引口から連続する液体柱を上下に分断し、前記揚液管内を上昇する該ガス泡により、分断した上側の液体柱を押し上げ、前記液体柱自然高さより高位に液体を汲み上げることを特徴とする減圧揚液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−196557(P2010−196557A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41286(P2009−41286)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人土木学会中部支部、平成20年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集、III−012、第223〜224頁、平成21年2月1日
【出願人】(508089923)株式会社ランド・エコ (2)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】