説明

減衰バルブ

【課題】安価に製造することが可能な減衰バルブを提供することである。
【解決手段】緩衝器内に収容されるとともに緩衝器内の一方室R1と他方室R2の間に設けたバルブディスク2と、流体の流れに抵抗を与える減衰力発生要素を備えた減衰バルブ1において、減衰力発生要素がバルブディスク2を貫通してチョーク絞りとして機能する複数の細孔ポート4を備えたポート群3であることを特徴とする。細孔ポート4自体がチョーク絞りとして機能して、通過する作動油の流れに抵抗を与えるようになっているので他の弁要素を付加的に設けずとも十分な減衰力を発生できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰バルブの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の減衰バルブにあっては、たとえば、車両用の緩衝器のピストン等に具現化され、ピストンに設けたポートの出口端に環状のリーフバルブを積層し、このリーフバルブでポートを開閉するものが知られている。
【0003】
より詳細には、ピストンは、緩衝器のシリンダ内を上室と下室とに仕切っており、ポートはピストンの同一円周上に等間隔をもって八個設けられて、うち四つのポートはピストンの下端に積層されるリーフバルブによって上室から下室へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行に設定され、残りの四つのポートは、逆に、ピストンの上端に積層されるリーフバルブによって下室から上室へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行に設定されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、ピストンがシリンダに対して上方へ移動する際には、ピストンの下端に積層されたリーフバルブがポートを通過する作動油の流れに抵抗を与え、ピストンがシリンダに対して下方へ移動する際には、ピストンの上端に積層されたリーフバルブがポートを通過する作動油の流れに抵抗を与えるようになっており、上室と下室との間に差圧を生じせしめて緩衝器に減衰力を発生させるようになっている。
【0005】
すなわち、従来の減衰バルブにあっては、ピストン速度が高速となって通過する作動油の単位時間当たりの流量が大きくなると、作動油がポートを通過する際に生じる圧力損失が大きくなるので、ポート自体も減衰力発生源の一部として機能するが、ピストン速度が高速となって通過する作動油の単位時間当たりの流量が大きくなるまでは、主としてリーフバルブが減衰力発生源として機能し、各ポートは、主として、上室と下室とを連通してリーフバルブのピストン側面に圧力を作用させる通路として機能する。また、リーフバルブ以外にもポペット弁等の他の形式の弁体を用いて、ポートを通過する作動油の流れに抵抗を与えるものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−194335号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
換言すれば、従来のバルブ構造にあっては、ピストン速度が大きくならない限り、ポートのみでは緩衝器に充分な大きさの減衰力を発揮できないため、多数の環状板を積層してなるリーフバルブを設けて、ピストン速度が低速であっても充分な大きさの減衰力を発揮できるようになっているのである。
【0008】
このように従来の減衰バルブにあっては、ピストンのほか、ピストンの両面に設けたリーフバルブ等の弁体を必須の構成要素としており、製造コストが高くなるといった問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、安価に製造することが可能な減衰バルブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、緩衝器内に収容されるとともに緩衝器内の一方室と他方室の間に設けたバルブディスクと、流体の流れに抵抗を与える減衰力発生要素を備えた減衰バルブにおいて、減衰力発生要素がバルブディスクを貫通してチョーク絞りとして機能する複数の細孔ポートを備えたポート群であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の減衰バルブによれば、細孔ポート自体がチョーク絞りとして機能して通過する作動油の流れに抵抗を与えるようになっているので、リーフバルブやポペット弁といった他の弁要素を付加的に設けずとも、ピストン速度が低くとも緩衝器に充分な減衰力を発生させることができる。
【0012】
そして、他の弁要素を付加的に設けることを要しないので、減衰バルブの構造が簡単となり、組み付け性も向上し、製造コストが安価となる。また、減衰力発生要素は、バルブディスクたるピストンを貫通してチョーク絞りとして機能する複数の細孔ポートでなるポート群であるので、バルブディスクの構造は単純であり、バルブディスクが金属である場合には、鋳物や焼結により、樹脂である場合には射出成形といった型を用いた成形方法を採用することもできるので、この点でも製造方法が複雑化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施の形態における減衰バルブの縦断面図である。
【図2】一実施の形態における減衰バルブの平面図である。
【図3】一方側板状弁体の平面図である。
【図4】一実施の形態の減衰バルブが具現化した緩衝器の減衰特性の一例を示す図である。
【図5】一実施の形態の減衰バルブが具現化した緩衝器の減衰特性の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のバルブ構造を図に基づいて説明する。図1は、一実施の形態における減衰バルブの縦断面図である。図2は、一実施の形態における減衰バルブの平面図である。図3は、一方側板状弁体の平面図である。図4は、一実施の形態の減衰バルブが具現化した緩衝器の減衰特性の一例を示す図である。図5は、一実施の形態の減衰バルブが具現化した緩衝器の減衰特性の他の例を示す図である。
【0015】
一実施の形態における減衰バルブ1は、図1に示すように、緩衝器のピストン部に具現化されており、具体的には、バルブディスクが緩衝器内に一方室R1と他方室R2とを隔成するピストン2とされている。
【0016】
上記ピストン2には、図1および図2に示すように、流体の流れに抵抗を与える減衰力発生要素として、ピストン2を貫通してチョーク絞りとして機能する複数の細孔ポート4を備えたポート群3が設けられている。
【0017】
他方、減衰バルブが具現化される緩衝器は、周知であるので詳細には図示して説明しないが、具体的にたとえば、シリンダ5と、シリンダ5の上端を封止するヘッド部材(図示せず)と、ヘッド部材(図示せず)を摺動自在に貫通するピストンロッド6と、軸部材を形成するピストンロッド6の先端6aが挿通されて上記先端6aに固定されるピストン2と、シリンダ5内にピストン2で隔成される図1中上方側の一方室R1と下方側の他方室R2と、シリンダ5の下端を封止する封止部材(図示せず)と、シリンダ5から出没するピストンロッド6の体積分のシリンダ内容積変化を補償する図示しないリザーバあるいはエア室とを備えて構成され、シリンダ5内には粘性流体、具体的には作動油が充填されている。
【0018】
そして、上記減衰バルブ1にあっては、シリンダ5に対してピストン2が図1中上下方に移動して、一方室R1と他方室R2とをポート群3を介して作動油が行き交うときに、その作動油の流れに対して抵抗を与えて所定の圧力損失を生じせしめて、緩衝器に所定の減衰力を発生させるようになっている。
【0019】
以下、この減衰バルブ1について詳しく説明すると、バルブディスクたるピストン2は、環状に形成されており、外周には、シリンダ5の内周に摺接するピストンリング7が装着される環状溝2aが設けられるとともに、ピストン2に対して軸方向に沿って設けられ肉厚を上下に貫通して一方室R1と他方室R2を連通する複数の細孔ポート4が設けられている。
【0020】
この細孔ポート4は、それぞれ、断面が円形であって、直径より軸方向長さが長い円筒孔とされて、通過する作動油の流れに抵抗を与えるチョーク絞りとして機能しており、これら全てでポート群3を構成している。なお、細孔ポート4の断面形状は、円形に限られるものではなく、楕円形、その他の形状に設定されてもよく、また、全ての細孔ポート4の断面形状が統一されていなくともよい。
【0021】
また、細孔ポート4の口径は、粘性流体である作動油が通過する際に、通過流量が少なくても粘性摩擦による圧力損失を生じさせることができる程度に設定されており、細孔ポート4の口径は、緩衝器の伸縮速度(ピストン速度)が低速域にある際の減衰力が不足することが無いように、具体的にはたとえば、1mm以下に設定されている。
【0022】
そして、この実施の形態の場合、多数の細孔ポート4がピストン2に設けられており、具体的には、細孔ポート4は、ピストン2上に中心点をピストン2の中心点に一致させた径の異なる七つの円周上に列を成して並べて設けられており、この例では、最小径の円周の列から大径へ向かう列へ向けて順に、18個、36個、36個、20個、36個、36個、18個の合計200個設けられている。
【0023】
また、本実施の形態にあっては、任意の列における細孔ポート4の中心点が、隣の列の細孔ポート4の中心点とピストン2の中心点とを結ぶ線上に配置されないようにしており、細孔ポート4を密にピストン2上に配置できるように配慮されている。
【0024】
戻って、ピストン2の一方室R1側に臨む上端部には、環状凹部でなる窓2bが設けられており、この窓2bは、内周から一列目と二列目に配置される細孔ポート4の開口端の全てに通じている。
【0025】
さらに、この実施の形態の場合、ピストン2の一方室R1側となる図1中上面には環状板でなる一方側板状弁体8が積層され、ピストン2の他方室R2側となる図1中下面には環状板でなる他方側板状弁体9が積層され、ピストン2は、これら一方側板状弁体8および他方側板状弁体9とともに、ピストンロッド6の下端の小径な先端6aに組みつけられ、ピストンナット10で固定されている。
【0026】
なお、一方側板状弁体8の上方には、外径が一方側板状弁体8より小径に設定される間座11が積層され、一方側板状弁体8は間座11の外縁を支点して撓むことができるようになっており、また、他方側板状弁体9の下方には、外径が他方側板状弁体9より小径に設定される間座12が積層され、他方側板状弁体9は間座12の外縁を支点して撓むことができるようになっている。
【0027】
一方側板状弁体8は、図1および図3に示すように環状であって、内周がピストンロッド6に固定されて、外周の撓みが許容されるとともに、窓2bを閉塞しないように複数の透孔8aを備えている。したがって、一方側板状弁体8は、窓2bに通じる一列目と二列目に配置された細孔ポート4を閉塞することが無いようになっている。そして、この一方側板状弁体8は、三列目から七列目に配置された細孔ポート4の上方側の開口端のみを開閉するようになっており、三列目から7列目に配置された細孔ポート4を他方室R2から一方室R1へ向けて通過しようとする作動油の圧力によって撓んで当該細孔ポート4を開放し、反対の流れに対しては当該三列目から7列目に配置された細孔ポート4を遮断する。
【0028】
すなわち、一方側板状弁体8は、上記の三列目から7列目に配置された細孔ポート4を他方室R2から一方室R1へ向かう流れのみを許容する一方通行に設定して、これら三列目から7列目に配置された細孔ポート4で他方室R2から一方室R1へ向かう流れのみを許容する他方側ポート郡3bが形成されている。
【0029】
これに対して、他方側板状弁体9は、上述したように環状であって、内周がピストンロッド6に固定されて、外周の撓みが許容されている。そして、この他方側板状弁体9は、一方側板状弁体8より小径に設定されて一列目と二列目に配置された細孔ポート4の下方側の開口端のみを開閉するようになっており、一列目と二列目に配置された細孔ポート4を一方室R1から他方室R2へ向けて通過しようとする作動油の圧力によって撓んで当該細孔ポート4を開放し、反対の流れに対しては当該一列目と二列目に配置された細孔ポート4を遮断する。
【0030】
すなわち、他方側板状弁体9は、上記の一列目と二列目に配置された細孔ポート4を一方室R1から他方室R2へ向かう流れのみを許容する一方通行に設定して、これら一列目と二列目に配置された細孔ポート4で一方室R1から他方室R2へ向かう流れのみを許容する一方側ポート郡3aが形成されている。
【0031】
なお、本実施の形態では、ポート群3に属する細孔ポート4は、全て一方通行に設定され、一方側ポート群3aと他方側ポート群3bのいずれかに属するが、いずれにも属さず、一方側板状弁体8と他方側板状弁体9のいずれによっても開閉されず両方向流れを許容するように設定される細孔ポート4を設けてもよい。
【0032】
ここで、一方室R1から他方室R2へ向かう作動油の通過を許容する各細孔ポート4の総断面積、および、他方室R2から一方室R1へ向かう作動油の通過を許容する各細孔ポート4の総断面積は、緩衝器の伸縮時における減衰力が過剰とならない程度の面積以上に設定されるとよく、緩衝器に発生させる減衰力に応じて細孔ポート4の設置数を任意に設定することができ、一方側ポート群3aおよび他方側ポート群3bに属する細孔ポート4の設置数も同様に任意に設定することができる。また、各細孔ポート4の断面積(開口面積)を同じにしておかずともよく、たとえば、一方側ポート群3aに属する細孔ポート4の断面積と、他方側ポート群3bに属する細孔ポート4の断面積(開口面積)とが異なるように設定されてもよいし、また、一方側ポート群3a(他方側ポート群3b)に属する各細孔ポート4の断面積(開口面積)の一部または全部が同じでないように設定することも可能である。
【0033】
つづいて、上述のように減衰バルブ1の作用について説明する。まず、緩衝器が伸長行程にあり、ピストン2がシリンダ5に対して図1中上方側に移動すると、一方室R1内の圧力が高まり、他方側板状弁体9が撓んで一方側ポート群3aに属する細孔ポート4が開放され、一方室R1内の作動油はこの一方側ポート群3aを通過して他方室R2内に移動する。
【0034】
そして、細孔ポート4は、作動油の通過に対して粘性摩擦に起因する抵抗を与えるので、一方室R1の圧力と他方室R2の圧力に差が生じ、伸長時には一方側ポート群3aによって緩衝器に上記ピストン2の移動を抑制する方向の減衰力を発揮させる。
【0035】
また、細孔ポート4は、粘性摩擦による差圧を生じさせるので、単位時間当たりの通過流量に対して圧力損失が略比例する特性となるので、伸長時の緩衝器におけるピストン速度に対して発生する減衰力の特性である減衰特性は、図4の実線で示すように、ピストン速度に対して減衰力が略比例する特性となる。
【0036】
反対に、緩衝器が収縮行程にあり、ピストン2がシリンダ5に対して図1中下方側に移動すると、他方室R2内の圧力が高まり、一方側板状弁体8が撓んで他方側ポート群3bに属する細孔ポート4が開放され、他方室R2内の作動油はこの他方側ポート群3bを通過して一方室R1内に移動する。
【0037】
収縮時には他方側ポート群3bによって緩衝器に上記ピストン2の移動を抑制する方向の減衰力を発揮させる。また、この収縮時にあっても細孔ポート4によって作動油の流れに抵抗を与えるので、収縮時の減衰特性も、図4の実線で示すように、ピストン速度に対して減衰力が略比例する特性となる。なお、この場合、一方側ポート群3aに属する細孔ポート4の数は、他方側ポート群3bに属する細孔ポート4の数に比較して多くしており、また、ピストン2の受圧面積との兼ね合いで、ピストン速度が同じであれば伸長側の減衰力のほうが収縮側の減衰力より大きくなるようになっている。また、一方側ポート郡3aと他方側ポート群3bにおける細孔ポート4の数は、所望する減衰特性に応じて決定されるが、1mmの口径の細孔ポート4を使用する場合、極端に数が少ないとピストン速度が高くなると流量に対して一方側ポート郡3a(他方側ポート群3b)における流路面積(全部の細孔ポート4の断面積を加算した面積)が不足がちとなって細孔ポート4がオリフィスとして振舞うようになるので、普通自動車に使用される一般的な緩衝器では、一方側ポート郡3aと他方側ポート群3bにおける細孔ポート4の数をそれぞれ50個以上にすることが好ましい。後述するように、一方側ポート群3aにも他方側ポート群3bにも属さない両方向通行が可能な細孔ポート4を設ける場合、当該いずれにも属さない細孔ポート4の設置数と、一方側ポート群3aにおける細孔ポート4の設置数とが50個以上であって、当該いずれにも属さない細孔ポート4の設置数と、他方側ポート群3bにおける細孔ポート4の設置数が50個以上になるようにすると、一般的な緩衝器にとって好ましい状態となる。
【0038】
このように、本減衰バルブ1にあっては、細孔ポート4自体がチョーク絞りとして機能して通過する作動油の流れに抵抗を与えるようになっているので、リーフバルブやポペット弁といった他の弁要素を付加的に設けずとも、ピストン速度が低くとも緩衝器に充分な減衰力を発生させることができる。そして、他の弁要素を付加的に設けることを要しないので、減衰バルブ1の構造が簡単となり、組み付け性も向上し、製造コストが安価となる。また、減衰力発生要素は、バルブディスクたるピストン2を貫通してチョーク絞りとして機能する複数の細孔ポート4でなるポート群3であって、各細孔ポート4がバルブディスクとしてのピストン2に軸方向に沿って設けられているので、バルブディスクの構造は単純であり、バルブディスクが金属である場合には、鋳物や焼結により、樹脂である場合には射出成形といった型を用いた成形方法をも採用することができるので、この点でも製造方法が複雑化することもない。
【0039】
なお、上述減衰バルブ1にあっては、細孔ポート4自体が通過作動油の流れに抵抗を与えるので、一方側板状弁体8および他方側板状弁体9を省略しても、緩衝器に減衰力を発生させることができるのである。
【0040】
また、一方室R1から他方室R2へ向かう作動油の流れを許容する細孔ポート数、つまり、伸長側の流路面積の大きさによって緩衝器の伸長時の減衰特性を決定できるとともに、他方室R2から一方室R1へ向かう作動油の流れを許容する細孔ポート数、つまり、収縮側の流路面積の大きさによって緩衝器の収縮時の減衰特性を決定することができる。
【0041】
そして、本実施の形態のように、一方側板状弁体8および他方側板状弁体9を設けておくことによって、一方室R1から他方室R2へ向かう作動油の流れを許容する細孔ポート数と他方室R2から一方室R1へ向かう作動油の流れを許容する細孔ポート数を異ならしめることができ、そうすることによって伸長時と収縮時とで減衰特性を異ならしめることができる。具体的には、一方側板状弁体8および他方側板状弁体9の外径の大きさや細孔ポート数を変更することによって、伸縮時の減衰特性を調節することができる。
【0042】
また、上述のように減衰バルブ1は、ポート群3によって緩衝器に減衰力を発生させるが、一方側板状弁体8および他方側板状弁体9が開弁圧に達するまでは、細孔ポート4を開放しないようにしておけば、緩衝器の減衰特性を、図4の破線に示すように、開弁圧分だけ減衰特性をオフセットでき、ピストン速度に対して出力する減衰力を高くすることがきる。また、一方側板状弁体8と他方側板状弁体9の開弁圧が異なる場合、伸長時と収縮時とでオフセット量が異なる減衰特性となるようにすることも出来る。
【0043】
また、一方側板状弁体8および他方側板状弁体9で、ポート群3における全ての細孔ポート4を開閉するのではなく、一部の細孔ポート4を一方側ポート群3aと他方側ポート群3bのいずれにも属さない両方向通行が可能なように設定しておくか、一方側板状弁体8と他方側板状弁体9の一方または双方が閉弁状態で細孔ポート4の一部または全部を半開するように設定されて、少なくとも一つ以上の細孔ポート4が両方向通行を許容するように設定される場合には、図5に示すように、伸長時にあっては他方側板状弁体9による細孔ポート4の開放の前後で減衰特性の傾きを変更することができ、収縮時にあっては一方側板状弁体8による細孔ポート4の開放の前後で減衰特性の傾きを変更することができ、さらには、一方側板状弁体8および他方側板状弁体9の開弁圧によって減衰特性の傾きが変化する変曲点におけるピストン速度を調節することができる。このようにすることで車両の振動抑制に適合した減衰特性を実現して、車両における乗り心地を向上することができ、減衰バルブ1が車両のサスペンション用途の緩衝器に最適となる。
【0044】
またさらに、一方側板状弁体8および他方側板状弁体9の撓み剛性の設定によっても減衰特性を調節でき、たとえば、撓み剛性を大きくすれば減衰特性の傾きは大きくなり、反対に撓み剛性を小さくすれば減衰特性の傾きを小さくでき、所望する減衰特性に応じて一方側板状弁体8と他方側板状弁体9の撓み剛性に差を設けるようにしてもよい。
【0045】
なお、上記した実施の形態に即して、一方側板状弁体8と他方側板状弁体9が閉弁状態で細孔ポート4の一部を半開するように設定する場合、具体的にはたとえば、一方側板状弁体8の外径を他方側ポート群3bの7列目の細孔ポート4が内接する円の外径より小さく設定しておくことで、閉弁状態にあっても当該7列目の細孔ポート4を半開状態にすることができ、他方側板状弁体9の外径を一方側ポート群3aの二列目の細孔ポート4が内接する円の外径より小さく設定しておくことで、閉弁状態にあっても当該4列目の細孔ポート4を半開状態とすることができる。
【0046】
なお、上述したところでは、一方側板状弁体8、他方側板状弁体9の形状を、円環状としているが、上述のように、細孔ポート4を一方通行に設定するものであるので、その形状は任意であり、円環状のみに限定されるものではない。
【0047】
また、上記したところでは、減衰バルブ1は、緩衝器の伸縮時の双方で減衰力を発揮可能ないわゆる両効きに設定されているが、緩衝器の伸長時のみ、あるいは、収縮時のみに通過流体の流れに抵抗を与えることも可能であり、たとえば、ピストン2に一方向への作動油の通過を許容する細孔ポート4を設け、他方向への作動油の通過を許容して流れに抵抗を殆ど与えない大口径の通路を細孔ポート4に並列させておけば、いわゆる、片効きの減衰バルブとして機能することができる。
【0048】
さらには、減衰バルブ1が緩衝器のピストン部に具現化した例を用いて説明しているが、ベースバルブ部に具現化することも可能であり、この場合には一方室をピストン側室あるいはリザーバ室の一方とし、他方室をピストン側室あるいはリザーバ室の他方として、バルブディスクでこれらを仕切る構成とすればよい。
【0049】
以上で緩衝器の減衰バルブの実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【符号の説明】
【0050】
1 減衰バルブ
2 バルブディスクとしてのピストン
2a 環状溝
2b 窓
3 ポート群
3a 一方側ポート群
3b 他方側ポート群
4 細孔ポート
5 シリンダ
6 ピストンロッド
6a ピストンロッドにおける先端
7 ピストンリング
8 一方側板状弁体
8a 一方側板状弁体における透孔
9 他方側板状弁体
10 ピストンナット
11,12 間座
R1 一方室
R2 他方室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器内に収容されるとともに緩衝器内の一方室と他方室の間に設けたバルブディスクと、バルブディスクに設けられて流体の流れに抵抗を与える減衰力発生要素とを備えた減衰バルブにおいて、減衰力発生要素がバルブディスクを貫通してチョーク絞りとして機能する複数の細孔ポートを備えたポート群であることを特徴とする減衰バルブ。
【請求項2】
バルブディスクの他方室側にポート郡の細孔ポートのうち任意の細孔ポートの開口端を開閉する他方室側板状弁体を設けて、当該他方室側板状弁体で開閉される細孔ポートで一方室から他方室へ向かう流れのみを許容する一方側ポート郡を形成し、バルブディスクの一方室側にポート郡の一方側ポート郡に属さない細孔ポートのうち任意の細孔ポートの開口端を開閉する一方室側板状弁体を設けて、当該一方室側板状弁体で開閉される細孔ポートで他方室から一方室へ向かう流れのみを許容する他方側ポート郡を形成したことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項3】
一方側ポート郡および他方側ポート郡に属さずに一方室から他方室へ向かう流れおよび他方室から一方室へ向かう流れを許容する細孔ポートを備えた請求項2に記載の減衰バルブ。
【請求項4】
一方側板状弁体と他方側板状弁体の一方または双方は、閉弁状態で細孔ポートの一部または全部を半開することを特徴とする請求項2または3に記載の減衰バルブ。
【請求項5】
一方側板状弁体と他方側板状弁体の一方または双方は、任意の開弁圧になると細孔ポートを開放することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の減衰バルブ。
【請求項6】
細孔ポート断面が円形であって口径が1mm以下に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の減衰バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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