説明

減衰性付与剤及び減衰性材料

【課題】減衰性能を容易に発揮させることのできる減衰性付与剤、及び減衰性材料を提供する。
【解決手段】減衰性付与剤は、アクリル系樹脂と混合して使用されることでアクリル系樹脂に減衰性を付与する。減衰性材料は、アクリル系樹脂と減衰性付与成分とを含有する。減衰性付与成分は、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂に減衰性を付与する減衰性付与剤、及びアクリル系樹脂を含有し、減衰性能を発揮する減衰性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料に制振性等の減衰性を付与する減衰性付与成分としては、ベンゾトリアゾール基を有する化合物等が知られている(特許文献1参照)。減衰性付与成分は、溶融状態の樹脂材料と混合して使用される。減衰性付与成分は、例えば振動エネルギーを熱エネルギーに変換することによって振動エネルギーを減衰する減衰性を樹脂材料に付与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第97/42844号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定の化合物がアクリル系樹脂の減衰性を高める効果に優れることを見出すことでなされたものである。
本発明の目的は、減衰性能を容易に発揮させることのできる減衰性付与剤、及び減衰性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の減衰性付与剤は、アクリル系樹脂と混合して使用されることで前記アクリル系樹脂に減衰性を付与する減衰性付与剤であって、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールを減衰性付与成分として含有することを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の減衰性付与剤において、前記減衰性付与剤は、前記アクリル系樹脂と前記減衰性付与成分との合計質量に対して、25〜70質量%となるように前記アクリル系樹脂に混合されることを要旨とする。
【0007】
請求項3に記載の発明の減衰性材料は、アクリル系樹脂と前記アクリル系樹脂に減衰性を付与する減衰性付与成分とを含有する減衰性材料であって、前記減衰性付与成分として、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールを含有することを要旨とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の減衰性材料において、前記アクリル系樹脂と前記減衰性付与成分との合計質量に対して、前記減衰性付与成分が25〜70質量%含有されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、減衰性能を容易に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】温度と損失正接との関係を示すグラフである。
【図2】減衰性付与成分の濃度と損失正接のピーク値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
減衰性付与剤は、アクリル系樹脂と混合して使用されることでアクリル系樹脂に減衰性を付与する。減衰性付与剤には、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールが減衰性付与成分として含有されている。この減衰性付与成分として含有される化合物としては、例えば、BASFジャパン(株)製のTINUVIN234(商品名)として市販されているものを用いることができる。
【0012】
アクリル系樹脂は、アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを単量体とする単独重合体、及びこれらの単量体が重合した共重合体が挙げられる。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、2−エチルヘキシルエステル、エトキシエチルエステル等が挙げられる。アクリル系樹脂は、単独種であってもよいし、複数種の混合物であってもよい。
【0013】
上記具体例で示したアクリル系樹脂のガラス転移点は、アクリル系ゴムよりも高い。アクリル系樹脂としては、ゴム材料ではなく、樹脂材料としての利用価値が高いという観点から、加振の周波数10Hzの条件における動的粘弾性測定において、損失正接(tanδ)のピークが発現する温度範囲が、例えば0℃〜60℃、特に10℃〜60℃であるものが好適に用いられる。
【0014】
アクリル系樹脂に対する減衰性付与剤の配合量は、アクリル系樹脂及び上記減衰性付与成分の合計量に対する同減衰性付与成分の割合において、好ましくは25〜70質量%、より好ましくは50〜70質量%、さらに好ましくは60〜70質量%である。この配合量が25質量%未満の場合、優れた減衰性能が得られ難くなる。一方、70質量%を超える場合、成形性が十分に得られないおそれがある。特に、この配合量が25〜70質量%の場合、得られる減衰性材料のじん性を維持しつつ、減衰性能を発揮させることができる。
【0015】
減衰性付与剤には、上記減衰性付与成分以外の成分として充填剤、難燃剤、腐食防止剤、着色剤、分散剤、湿潤剤等を必要に応じて含有させることもできる。
減衰性付与剤中における減衰性付与成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは全量を減衰性付与成分とした減衰性付与剤である。この減衰性付与成分の含有量が50質量%以上の場合、アクリル系樹脂に対する減衰性付与剤の配合量を削減することができるため、減衰性付与剤の取り扱い性が良好になる。
【0016】
次に減衰性材料について説明する。
減衰性材料には、アクリル系樹脂と上記減衰性付与成分とが含有されている。アクリル系樹脂及び減衰性付与成分は、上述したものと同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0017】
減衰性材料中における減衰性付与成分の含有量は、高分子材料と減衰性付与成分との合計量に対する減衰性付与成分の含有量において、好ましくは25〜70質量%、より好ましくは50〜70質量%、さらに好ましくは60〜70質量%である。この含有量が25質量%未満であると、優れた減衰性能が得られ難くなる。一方、70質量%を超える場合、成形性が十分に得られないおそれがある。特に、この含有量が25〜70質量%の場合、減衰性材料のじん性を維持しつつ、減衰性能を発揮させることができる。
【0018】
減衰性材料には、上記減衰性付与成分以外の成分として充填剤、難燃剤、腐食防止剤、着色剤、分散剤、湿潤剤等を必要に応じて含有させることもできる。
減衰性材料は、溶融状態のアクリル系樹脂に減衰性付与剤(減衰性付与成分)を混合することによって得られる。アクリル系樹脂と減衰性付与剤(減衰性付与成分)との混合には、ディゾルバー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、グレンミル、ニーダー、二本ロール等の公知の混合機を使用することが可能である。
【0019】
次に、減衰性付与剤及び減衰性材料の作用について説明する。
減衰性材料に、例えば振動エネルギーが外部から伝播すると、アクリル系樹脂の分子鎖と、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールの分子との摩擦によって振動エネルギーが熱エネルギーに変換されると推測される。減衰性材料では、衝撃エネルギー及び音のエネルギーについても、同様な作用により熱エネルギーに変換されると推測される。
【0020】
減衰性材料の減衰性能は、動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)によって確認される。詳述すると、アクリル系樹脂の単体と減衰性付与成分とからなる減衰性材料について、加振の周波数10Hzの条件における動的粘弾性測定を実施することで、例えば0℃〜60℃の温度範囲に損失正接のピークが発現する。このピーク値が高いほど、減衰性付与成分としての機能性が高いと言える。前記減衰性付与成分によれば、アクリル系樹脂の単体と減衰性付与成分とからなる減衰性材料における損失正接のピーク値は、例えば3.0以上まで高めることができるようになる。
【0021】
減衰性材料は、減衰性能を発揮する各種成形品として利用することができる。こうした成形品は、例えば自動車、内装材、建材、家電製品、電子機器、産業機械部品等の分野に適用することができる。また、減衰性材料は、衝撃エネルギーを吸収する成形品として、例えば靴、グローブ、各種防具、グリップ、ヘッドギア等のスポーツ用品、ギプス、マット、サポーター等の医療用品、壁材、床材、フェンス等の建材、各種緩衝材、各種内装材等に適用することができる。
【0022】
減衰性材料を制振材料として利用する場合、減衰性材料をシート状に成形することにより、非拘束型制振シートとして利用することができる。非拘束型制振シートは、適用箇所に張り合わせることによって、制振シートの一側面が拘束されていない状態で使用される。また、減衰性材料を制振材料として利用する場合、減衰性材料をシート状に成形することにより得られる制振シートを制振層とし、同制振層の表面に制振層を拘束するための拘束層を貼り合わせることによって拘束型制振シートを得ることができる。拘束層としては、アルミニウム、鉛等の金属箔、ポリエチレン、ポリエステル等の合成樹脂から形成されるフィルム、不織布等が挙げられる。拘束型制振シートは、適用箇所に貼り合わせることによって、制振層の両面が拘束されている状態で使用される。
【0023】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)減衰性付与剤には、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールが減衰性付与成分として含有されている。この減衰性付与成分は、同じくベンゾトリアゾール構造を有する化合物(例えば、2−(2′−ハイドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等)よりも、アクリル系樹脂に対して減衰性を付与する働きに優れている。従って、アクリル系樹脂と混合して使用される減衰性付与剤において、前記減衰性付与成分を含有する構成によれば、減衰性能を容易に発揮させることができる。
【0024】
(2)減衰性付与剤が、アクリル系樹脂と減衰性付与成分との合計質量に対して、25〜70質量%となるようにアクリル系樹脂に混合されることで、得られる減衰性材料のじん性を維持しつつ、減衰性能を発揮させることができる。
【0025】
(3)減衰性材料には、前記減衰性付与成分が含有されているため、減衰性能を容易に発揮させることができる減衰性材料が提供される。
(4)減衰性材料においては、アクリル系樹脂と減衰性付与成分との合計質量に対して、減衰性付与成分が25〜70質量%含有されることで、上記(2)に記載した効果が得られる。
【0026】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・前記アクリル系樹脂は、アクリル系樹脂粒子が分散した樹脂分散液であってもよい。すなわち、前記減衰性付与剤は、アクリル系樹脂粒子分散液に混合して使用してもよい。また、前記減衰性材料は、アクリル系樹脂粒子分散液と、前記減衰性付与成分とを含有する構成としてもよい。アクリル系樹脂粒子分散液としては、分散剤として例えば界面活性剤を含有する市販のものを用いることができる。このように構成した場合、例えば減衰性塗料として、鋼板等の金属板に高分子材料から塗膜を形成することができる。こうした塗膜中に、前記減衰性付与成分が含まれることで、塗膜の減衰性能を容易に発揮させることができる。
【0027】
・減衰性材料を製造するに際して、アクリル系樹脂に減衰性付与剤(減衰性付与成分)を配合したマスターバッチを製造した後に、そのマスターバッチをさらにアクリル系樹脂で希釈してもよい。
【0028】
・減衰性材料には、アクリル系樹脂以外の高分子材料を含有させることもできる。その高分子材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及びゴム類が挙げられる。アクリル系樹脂以外の高分子材料を含有させた場合であっても、アクリル系樹脂の特性を生かしつつも、減衰性能を発揮させることができる。なお、減衰性材料に含まれる高分子材料は、アクリル系樹脂の特性が発揮され易くなるという観点から、高分子材料全体に対するアクリル系樹脂の含有量が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記アクリル系樹脂は、加振の周波数10Hzの条件における動的粘弾性測定において、損失正接(tanδ)のピークが発現する温度範囲が0℃〜60℃である前記減衰性材料。
【0030】
(ロ)アクリル系樹脂粒子が分散した樹脂分散液と前記減衰性付与成分とを含有することを特徴とする減衰性塗料。
【実施例】
【0031】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
表1に示されるように、アクリル系樹脂R1としてメタクリル酸メチル樹脂75質量部と減衰性付与成分Aとして2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールのみからなる減衰性付与剤25質量部とを混合することにより、減衰性材料を調製した。なお、アクリル系樹脂と減衰性付与剤との混合は、ミキシングロール機((株)安田精機製作所製)を用いて、加熱温度230℃、10分の条件でアクリル系樹脂を溶融混練することによって行った。
【0032】
(実施例2〜7)
アクリル系樹脂及び減衰性付与剤の配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして減衰性材料を調製した。
【0033】
(実施例8)
アクリル系樹脂R2としてメタクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸共重合体を用いた以外は、実施例3と同様にして減衰性材料を調製した。
【0034】
(比較例1〜6)
表1に示されるように、上記アクリル系樹脂(R1)に、減衰性付与成分B、C、又はDを混合することにより、減衰性材料を調製した。減衰性付与成分Bは、2−(2′−ハイドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールである。減衰性付与成分Cは、2−(2H−ベンゾトリアゾル−2−イル)−6−ドデシル−4−メチルフェノールである。減衰性付与成分Dは、2−[2′−ハイドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラハイドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル]ベンゾトリアゾールである。減衰性付与成分B,C,Dは、いずれもベンゾトリアゾール系化合物である。
【0035】
(比較例7及び8)
比較例7は上記アクリル系樹脂R1の単体であり、比較例8は上記アクリル系樹脂R2の単体である。
【0036】
<動的粘弾性の測定>
各例で得られた減衰性材料をシート状に成形することによって、厚さ1mmのシート材を得た。各シート材を35mm×3mmの寸法に切断し、動的粘弾性測定用の試験片とした。動的粘弾性測定装置(RSA−II:レオメトリック社製)を用いて各試験片を加振しながら連続的に昇温した際の損失正接(tanδ)を測定した。測定条件は、加振の周波数10Hz、測定温度範囲0℃〜90℃、昇温速度7℃/分とした。各例の損失正接のピーク値及びピーク温度を表1に示す。
【0037】
【表1】

図1は、アクリル系樹脂R1を用いて減衰性付与成分A,B,C,Dを30質量%含有させた各例について、温度(約0℃〜60℃の温度範囲)と損失正接との関係を示している。図2は、アクリル系樹脂R1に対する減衰性付与成分A,B,C,Dの濃度依存性を示している。図1及び図2に示した結果から、減衰性付与成分Aは、減衰性付与成分B,C,Dよりも、損失正接のピーク値を高めることが容易であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂と混合して使用されることで前記アクリル系樹脂に減衰性を付与する減衰性付与剤であって、
2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールを減衰性付与成分として含有することを特徴とする減衰性付与剤。
【請求項2】
前記減衰性付与剤は、前記アクリル系樹脂と前記減衰性付与成分との合計質量に対して、25〜70質量%となるように前記アクリル系樹脂に混合されることを特徴とする請求項1に記載の減衰性付与剤。
【請求項3】
アクリル系樹脂と前記アクリル系樹脂に減衰性を付与する減衰性付与成分とを含有する減衰性材料であって、
前記減衰性付与成分として、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールを含有することを特徴とする減衰性材料。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂と前記減衰性付与成分との合計質量に対して、前記減衰性付与成分が25〜70質量%含有されることを特徴とする請求項3に記載の減衰性材料。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162597(P2012−162597A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21852(P2011−21852)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】