説明

減速機の異常判定方法、異常判定装置、ロボット及びロボットシステム

【課題】通常の作業用プログラムを実行しながら、産業用ロボットの駆動系の異常判定や寿命診断に用いるデータを精度良く、かつ簡便に抽出することのできる方法や装置を提供する。
【解決手段】ロボット8の動作プログラムに基づいて生成された位置指令Xsに従ってモータ12を制御するモータドライバ10からモータ12へ出力されるトルク信号Tfについて、トルク信号Tfから重力補償トルクおよびロボットの他の軸による干渉力トルクを除去した後にハイパスフィルタ34を適用し、抽出された減速機14の振動成分によって減速機14の異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、負荷とモータとの間に設けられモータのトルクを負荷に伝達する減速機の異常判定方法及び異常判定装置に関し、さらに異常判定装置を備えたロボットおよびロボットシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多関節型の産業用ロボットなどでは、各関節軸の駆動源であるモータの動力を減速機を介して各関節軸に伝達する構成が一般的である。
このように構成された各関節軸の駆動によってロボットの先端部に取り付けられた各種のエンドエフェクタを所定の位置に移動させるようにしている。係る産業用ロボットにおいては、特に駆動系について定期的な保守作業を行うことにより、円滑な動作を持続させることができる。
【0003】
しかし、ロボット本体と周辺装置との間で予期せぬ干渉が発生した場合や、定格負荷を超える重量のエンドエフェクタを搭載した状態での動作が継続した場合などにおいては、定期的な保守作業の時期より前にモータや減速機を含む駆動系が劣化し、駆動系を構成する機械部品に故障や破壊が発生する可能性がある。
駆動系の構成部品に異常をきたしたロボットは位置決め精度などが低下し、所定の作業を行えなくなる。このため、生産ラインを停止しての改修を余儀なくされ、ロボットによる生産活動に多大な影響を与えることになる。そこでロボットの駆動系の劣化症状をいち早く発見するための異常判定技術、寿命診断技術が必要となる。
【0004】
ロボットの駆動系部品の寿命を正確に診断することで、適切なタイミングで保守・部品交換ができ、保守費や予備品の削減が図れるほか、ロボットが異常を起こして生産活動に影響を与えるリスクが減ることに繋がる。そこでロボット駆動系の劣化症状を検出する様々な技術が提案されている。
【0005】
ロボットの正常状態において基準動作パターンでロボットを作動させることにより、このときのロボット構或要素に関する基準データを記憶しておき、ついでロボットを所要時間稼動させたのちに、再度ロボットを同じ基準動作パターンで作動させ、このときのロボット構或要素に関するデータと基準データとを比較して、この比較結果に基づいてロボットの故障を予知し診断することを特徴とする、ロボットの故障予知診断方法がある(例えば特許文献1参照)。
【0006】
基準動作パターンを使用しない例としては、サイクルタイム、平均トルク、あるいは減速機寿命といった劣化診断に使用する特性データ群を一定期間に渡って蓄積し、これを統計学的手法で解析することにより、ロボット駆動系の寿命あるいはこれを構成する減速機等の部品の交換時期が到来する前に、劣化の兆候を検出するロボット劣化診断装置がある(例えば特許文献2参照)。
【0007】
また、基礎データと称したロボット出荷状態のデータ(トルク情報)を取得しておき、実稼動中にも同じようにトルク情報のデータを取得し、それらを統計的手法で処理することで、故障を診断する方法が示されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−123105号公報(第1−3頁)
【特許文献2】特開2005−148873号公報(第1−3頁)
【特許文献3】特開2007−172150号公報(第3−5頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら特許文献1の方法では、産業用ロボットの寿命診断に使用するデータを収集するためにロボットに基準動作パターンを再現させる必要があった。すなわち希望するデータを得るために専用の動作プログラムを実行させる時間、空間が必要であり、工場のライン上でこれを行うには時間的、空間的制約が大きい。
【0010】
特許文献2、特許文献3のように、基準動作パターンの代わりに実際のロボットの作業用プログラムを使用する方法も示されている。しかし、実際の生産現場ではロボットの使用目的によって作業用プログラムによる動作はまちまちであり、特にロボットの姿勢による影響が大きいトルクデータでは、常に理想的なデータが取得できるとは考えにくい。
【0011】
特に特許文献3では、ロボットに作用する重力がトルクデータへ与える影響を考慮しておらず、重力の影響がない理想的なトルクデータを念頭においているため、実際の産業用ロボットへ転用するには課題が多い。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、専用の動作プログラムを必要とせず、通常の作業用プログラムを実行しながら、産業用ロボットの駆動系の異常判定や寿命診断に用いるデータを精度良く、かつ簡便に抽出することのできる方法や装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、多関節ロボットの各関節軸の駆動源であるモータに取り付けられ、前記モータが発生するトルクを増幅して前記ロボットのアームに伝達する減速機につき、その異常を判定する方法であって、前記ロボットの動作プログラムに基づいて生成された位置指令に従って前記モータを制御するモータドライバから前記モータへ出力されるトルク信号について、前記トルク信号から重力補償トルクおよび前記ロボットの他の軸による干渉力トルクを除去した後にハイパスフィルタを適用し、抽出された前記減速機の振動成分によって前記減速機の異常を判定することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記ハイパスフィルタ適用後のトルク信号の絶対値について所定時間の平均値を求め、前記平均値について、初期値と直近の値との差が、予め定めた閾値より大きい場合に異常と判定することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記動作プログラムは、前記ロボットが通常行う作業を記述した作業用プログラムであることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数は変更可能であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、多関節ロボットの各関節軸の駆動源であるモータに取り付けられ、前記モータが発生するトルクを増幅して前記ロボットのアームに伝達する減速機につき、その異常を判定する装置であって、前記ロボットの動作プログラムに基づいて生成された位置指令に従って前記モータを制御するモータドライバから前記モータへ出力されるトルク信号について、前記トルク信号から重力補償トルクおよび前記ロボットの他の軸による干渉力トルクを除去した後にハイパスフィルタを適用し、抽出された前記減速機の振動成分によって前記減速機の異常を判定することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記ハイパスフィルタ適用後のトルク信号の絶対値について所定時間の平均値を求め、前記平均値について、初期値と直近の値との差が、予め定めた閾値より大きい場合に異常と判定することを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記動作プログラムは、前記ロボットが通常行う作業を記述した作業用プログラムであることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数は変更可能であることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の減速機の異常判定装置を備えたロボット制御装置である。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のロボット制御装置と、前記ロボット制御装置によって制御されるロボットとを備えたロボットシステムでする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ロボットは異常判定のための特別な動作を実行する必要がなく、通常の作業を実行しながら減速機の異常判定を行うことができる。さらに異常判定に用いるモータのトルクデータについて、重力補償や他軸からの干渉トルクによる不要な成分を除去したデータをもとに異常判定を行うので減速機の異常を高い信用度で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るロボットの側面図である。
【図2】本発明に係る異常判定装置およびその周辺機器のブロック図である。
【図3】速度指令Vsとトルク信号Tfの変化の様子を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的実施例について、図に基づいて説明する。
【0026】
図1において、8はこの発明に係るロボット、9はロボット8を制御するロボットコントローラである。
ロボット8は6つの関節軸を備えており、固定台E1の上面に回転台E2が回転自在に配設されている。回転台E2は、固定台E1上に垂直に立設された回転軸(図示せず)によって回転自在に支持されている。回転台E2の頂部には、長尺の下腕E3がその一端を軸E2aによって回動自在に軸支されている。
【0027】
下腕E3の他端には、上腕基部E4の一端が軸E3aによって回動自在に軸支されている。下腕E3の両端部にそれぞれ設けられた軸E2aと軸E3aは互いに平行とされ、且つ両軸E2a、E3aは、固定台E1上で回転台E2を回転自在に軸支する図示しない回転軸に対して離れた位置で直交している。
【0028】
上腕基部E4の下腕E3と反対側の直線部の先端には、上腕先端部E5の一端が軸E4aによって回動自在に軸支されている。上腕基部E4の両端部にそれぞれ設けられた軸E3aと軸E4aは互いに離れた位置で直交している。上腕先端部E5の他端には手首E6の後端が軸E5aによって回動自在に軸支されている。上腕先端部E5の両端部にそれぞれ設けられた軸E4aと軸E5aは互いに離れた位置で直交している。手首E6の先端には、エンドエフェクタE7が破線で示された回転軸によって回転自在に支持されている。このエンドエフェクタE7を支持する回転軸は、軸E5aに直交している。
【0029】
図1のロボットの各軸は回転型モータによって駆動する。
固定台E1と回転台E2との間、回転台E2と下腕E3との間、下腕E3と上腕基部E4との間、上腕基部E4と上腕先端部E5との間、上腕先端部E5と手首E6との間及び手首E6とエンドエフェクタE7との間の関節部または回転部には、それぞれ図示しない減速機駆動装置が設けられている。
【0030】
図2は、図1に示したロボットの関節駆動軸のうち、1つの軸に関する減速機駆動装置50および異常判定装置30のブロック図である。図2において、異常判定装置30は減速機駆動装置50を判定の対象とする。
減速機駆動装置50は、負荷15を駆動するモータ12、負荷15とモータ12との間に設けられ、モータ12から与えられた回転数を減少させることによりトルクを増大させモータ12の回転駆動力を負荷15に伝達する減速機14、モータ12の回転動作を検出する検出器である位置検出器13、位置検出器13の出力するフィードバック信号に基づいてモータ12の制御をするモータドライバ10を有している。
ここで負荷15とは、固定台E1と回転台E2との間に設けられた減速機駆動装置50を例にとれば、固定台E1に対して回転駆動される回転台E2がこれに相当し、また、下腕E3と上腕基部E4との間に設けられた減速機駆動装置50を例にとれば、下腕E3に対して所定の角度内にて揺動するように駆動される上腕基部E4がこれに相当する。
本実施例においては、図2に示された各要素のうち、モータ12、位置検出器13、減速機14、負荷15はロボット内に配置され、モータドライバ10や異常判定装置30はロボットコントローラ内に配置されている。
【0031】
モータドライバ10は、位置制御部1、速度制御部2、電流アンプ部3、速度変換部4及び3つの加算部5、6、7を有している。ロボットコントローラ9内の図示しない指令部から、モータドライバ10に入力された位置指令値Xsは、位置制御部1と加算部5とにより位置制御をされて位置制御部1から速度指令Vsとなって出力する。速度指令Vsは、速度制御部2と加算部6とにより速度制御をされて速度制御部2からトルク指令Tsとなって出力する。
さらに、このトルク指令Tsは、電流アンプ部3と加算部7とによりトルク(電流)制御をされて電流アンプ部3からモータ12に入力する駆動電流として出力する。
なお、電流アンプ部3に入力されるトルク指令Ts及びこのトルク指令Tsにフィードバックされるトルク信号Tfは、いずれも電流値であるが、本実施例においてはこれらの電流値をモータ12のトルクの大きさを表すものとして使用しているため「トルク」という言葉を用いている。
【0032】
一方、モータ12の回転運動は位置検出器13で検出される。位置検出器13が出力する位置検出値は位置フィードバック信号Xfとしてフィードバックされ、加算部5により指令部からの指令値Xsに重畳されて指令値Xsを修正する。また、位置検出器13が出力する位置検出値は、速度変換部4により速度検出値Vfに変換され、速度フィードバック信号Vfとしてフィードバックされ、加算部6により位置制御部1から出力された速度指令Vsに重畳されて速度指令Vsを修正する。
また、電流アンプ部3から出力されたトルク信号(検出値)Tfは、トルクフィードバック信号Tfとしてフィードバックされ、加算部7により速度制御部2からトルク指令Tsに重畳されてトルク指令Tsを修正する。
【0033】
異常判定装置30は、モータドライバ10より得られるトルク検出値Tfを入力とする。異常判定部31にて減速機の異常判定を行い、異常と判定した場合には警報部32によって外部にアラームを出力する。トルク検出値Tfはトルクデータ補正部33にて補正を行った後、ハイパスフィルタ34にてフィルタリングを行い異常判定部31に入力される。異常判定部31はハイパスフィルタの出力によって減速機の異常判定を行う。
【0034】
図3は異常判定装置30による減速機の異常判定手法を説明するための図であり、横軸を時間とし、速度指令(Vs)およびトルク信号(Tf)の変化の様子を示している。
本実施例では、異常判定のための専用の動作プログラムによってロボットを動作させることなく、ロボットが通常行う作業のための動作プログラム(作業用プログラム)によって動作させながら異常判定を行うことができる。作業用プログラムは予め教示されており、ロボットコントローラ9内の図示しない不揮発性の記憶装置に記録されているものとする。
図3はロボットの作業用プログラムによる動作の一部を抜き出したもので、まずモータ12を定常速度Vcで逆転させた後、同じく定常速度Vcで正転させ、もとの位置に戻るという動作を行った場合の速度指令とトルク信号を示している。モータ12の例としては、図1に示したロボットの軸E3aや軸E5aのように動作に伴って重力の影響を受ける軸を想定する。
ロボットへの移動指令は、目標とする移動先の位置を指令する位置指令Xsによって指令される。なお、移動先の位置の与え方としては、絶対位置によるアブソリュート(絶対)位置指令と、現在位置からの相対的な移動量によるインクリメント(相対)位置指令の2方式があるが、本発明の場合どちらでもよい。
【0035】
図3のta1の時点において指令部からモータドライバ10に位置指令値Xs(逆転)が指令され、その後ta2の時点で再度、位置指令値Xs(正転)が指令されたとする。
位置指令を受けるとモータ12が回転し始め、速度の絶対値が徐々に大きくなり、予め決められた所定の速度(定常速度Vc)に達すると(図中のtb1の時点や、tb2の時点)その速度を保つ。その後、目標の位置(移動先の位置Xs)に近づくように進み、目標の位置から所定の距離だけ手前の位置(図中のtc1の時点や、tc2の時点)まで進むと徐々に速度を落として行き、目標の位置(Xs)に達した際に速度がちょうど0となる(図中のtdの時点や、td2の時点)ように制御される。
このような制御を行った場合のトルク信号Tfは、モータ12の加速時(ta1〜tb1の間や、ta2〜tb2の間)及び減速時(tc1〜td1の間や、tc2〜td2の間)には値が大きく変化するが、定常速度Vcの状態(tb1〜tc1の間や、tb2〜tc2の間)では、値の変化は比較的小さい。
【0036】
こうした動作の最中には、モータ12に接続された減速機14固有の振動成分がトルク信号Tfに重畳する。減速機14が異常をきたすと、その振動成分が極端に大きくなる。また減速機14が経年劣化する過程で、その振動成分は徐々に大きくなっていくことが一般に知られている。よってロボットが動作している間のトルク信号Tfを観察することにより、モータ12に接続された減速機14の異常を検出することができる。
【0037】
そこで異常判定装置30においてトルク信号Tfに対しトルクデータ補正部33にて補正を行った後、ハイパスフィルタ34にてフィルタリングを行い、その結果が後述する異常条件を満たした場合に、減速機14に異常が発生していると判定する。上述のように異常判定装置30は減速機14に異常が発生していると判定した場合、警報部32を介して外部へアラームを出力する。
【0038】
トルクデータ補正部33での補正方法について説明する。
図3のトルク信号の波形から明らかなように、定常速度領域(図3のtb1〜tc1の間や、tb2〜tc2の間)においても、特許文献3の図3のようにトルクがゼロに漸近する状態にはならないことが多い。
これは、モータが負荷15に作用する重力の影響を常に受けているためである。トルクがゼロ漸近の状態になるためには、モータの回転軸方向が鉛直方向(重力方向)と平行にならなければならないが、図1に示したロボットを例にとると、E2a、E3a、E4a、E5aといった軸がそのような姿勢を取り続けることは考えにくい。
すなわちこれらの軸に関するトルク信号Tfには負荷に作用する重力の影響も重畳されている。この重力から受ける影響を図3の中では重力補償分と表している。
【0039】
さらに、図3の(B)に示すように、その軸が駆動している/していないに係らず、その軸よりロボット先端側に位置する負荷(その軸より先のモータ12、減速機14、負荷15などが含まれる)が動作することによって、その動作の影響を受け干渉力としてのトルクが発生しトルク信号Tfに重畳する。図3ではこれを他軸干渉力と表している。なお図3では他軸干渉力が重畳している様子が理解しやすいよう、モータ12が動作していない間に他軸からの干渉が発生した様子を示している。
【0040】
すなわち、異常判定のためのトルクデータを安定して抽出するために、まず重力補償分と他軸干渉力により発生しているトルクを、トルク信号のデータから除去しなければならない。
【0041】
垂直多関節型ロボットの複数の軸のうち、ある1軸に作用する他軸からの干渉力は、目的とする1軸に対して、(その他の軸からそれぞれ作用する相互慣性)×(軸の加速度)の総和として求めることができる。
6軸ロボットであるロボット8の1軸目(図1の固定台E1と回転台E2との間の軸)を例にとると、他軸からの干渉力は次のようにして求める。
1軸目への干渉力トルク=(2軸目からの相互慣性×2軸目の加速度)
+(3軸目からの相互慣性×3軸目の加速度)
+(4軸目からの相互慣性×4軸目の加速度)
+(5軸目からの相互慣性×5軸目の加速度)
+(6軸目からの相互慣性×6軸目の加速度)
【0042】
すなわち、ロボットのダイナミクスモデル演算から随時、2軸目〜6軸目の加速度と相互慣性を求め、これらを乗じて合計することにより、1軸目への干渉力トルクを求めることができる。
【0043】
トルクデータを収集する際に、その時点において他軸干渉により発生するトルクを上記のようにして求め、トルク信号のデータから差し引いておくことで異常判定に適したトルクデータを得ることができる。
【0044】
また、ロボットのある1軸にかかる重力補償分のトルクも、ロボットのダイナミクスモデル演算から随時求めることができる。
軸E3aを例にすれば、軸E3aよりもエンドエフェクタ側にある軸のリンク重量、アームの姿勢と長さ、さらにエンドエフェクタの重量および大きさを考慮して、動作中のある姿勢における軸E3aの回転中心に作用する重力モーメントを求める。この重力モーメントは軸E3aにかかる重力方向トルクであるので、このトルク分をトルク信号のデータから差し引いておくことで異常判定に適したトルクデータを得ることができる。
軸E3aの回転中心に作用する重力モーメントの算出方法は次のようになる。
【0045】
ロボットの各軸とエンドエフェクタが持つ重量を「リンク先重量」として、アームの姿勢と長さ、エンドエフェクタの重量および大きさから、「リンク先重量」の作用点が軸E3aの回転中心に対してどれくらいの距離にあるかを求める。
重力モーメント=回転中心から作用点の距離×質点中心にかかる重力
であるので、以上の要素を次の式にあてはめて計算する。
軸E3aに作用する重力モーメント=(3軸目アーム(E3)から受ける重力モーメント)
+(4軸目アーム(E4)から受ける重力モーメント)
+(5軸目アーム(E5)から受ける重力モーメント)
+(6軸目アーム(E6)から受ける重力モーメント)
+(エンドエフェクタ(E7)から受ける重力モーメント)
【0046】
この重力補償分で発生するトルクも干渉力と同様にトルク信号のデータから差し引いた後に、ハイパスフィルタ34に入力する。
以上がトルクデータ補正部33にて行われる処理である。
【0047】
減速機の異常判定において、判定の材料となるトルク振動成分は減速機由来による比較的周波数の高い成分である。ハイパスフィルタ34によって、トルク信号からロボットの姿勢変化に伴う緩やかな電流変化をカットし、周波数の高い成分のみを通過させる。ハイパスフィルタの最適なカットオフ周波数はロボットの大きさや各軸の減速機駆動装置の違いによって変動するが、数Hzから数十Hz程度の値となる。
減速機14に異常が発生した際に計測される振動成分は周波数が高いので、ハイパスフィルタ34を通過する。その結果、周波数の高い減速機14の振動成分が他の信号に比べて顕著に表れ、検出したい減速機14の振動成分を監視しやすくなり、より精度の高い異常判定をすることができる。
さらに、振幅の大きい周波数のみを抽出して、その信号レベルの大きさから異常判定を行うようにして、より高い精度での異常判定を行うこともできる。
【0048】
ハイパスフィルタは次数を重ねるたびに、抽出しようとする周波数の成分も若干減衰する。すなわち、抽出しようとするトルク成分を極力残しつつ、異常判定に不要なトルク成分を除去するためには、カットオフ周波数やハイパスフィルタをかける次数をパラメータ化し、監視する対象ごとに調整を行うことが有効である。
ここで、異常判定装置30はコントローラ9のCPUによって実現してもよいし、コントローラ9と接続したパソコン等のように、コントローラ9の外部に設けることも可能である。
【0049】
ここで、異常判定の条件を示す。
初期測定の結果を保存しておき、その初期の結果から許容される変化の範囲を決め、それを閾値として定め、直近の測定結果が閾値を超えた場合に異常を判定する方法を採る。
(1)任意の定められた時間内で、ハイパスフィルタ34で処理した後のトルク信号Tfの値の絶対値を収集する。
(2)収集したTfのデータから、平均値を求めトルク振動成分Taveとする。
(3)出荷時に初期測定を行い、その時のトルク振動成分の平均値Tiの結果を記憶手段に記録しておく。
(4)トルクの現在測定値Tave−初期測定値Ti > 閾値Vsh
以上の条件を満たした時に異常と判定する。
なお、ここで閾値Vshは予め設定されたトルク変動上限許容値である。
【0050】
警報部32から発報されるアラームは、例えばブザーによる警報であったり、オペレーションパネルへの表示であったり、音声アナウンスであったり、赤色灯の点灯であったり適宜の形態を取りうる。また、システム管理室あるいはシステム管理装置への報知信号としてもよい。
【0051】
このような構成の減速機の異常判定装置30によれば、モータ12から検出されたトルク検出値Tfを入力として、減速機14の異常判定処理をする異常判定部31を有しているので、簡単な構成で且つ高い信用度で減速機の異常を判定することができる。
【0052】
さらに、異常判定部31の異常判定出力に基づいて、外部にアラームを出力する警報部32を有するので、オペレーター等周囲の人間や、システム管理室の人間に通報することができ、異常に対して迅速に対応することができる。
【0053】
なお、本実施例においては、多関節型産業用ロボットにおける関節駆動用のモータ12の異常判定に関して説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、モータ12、減速機14及びモータドライバ10を有するサーボ制御装置であれば、このサーボ制御装置の減速機14の異常を判定する装置として、本実施例の異常判定装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 位置制御部
2 速度制御部
3 電流アンプ部
4 速度変換部
5、6、7 加算部
8 ロボット
9 ロボットコントローラ
10 モータドライバ
12 モータ
13 位置検出器
14 減速機
15 負荷
30 異常判定装置
31 異常判定部
32 警報部
33 トルクデータ補正部
34 ハイパスフィルタ
50 減速機駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットの各関節軸の駆動源であるモータに取り付けられ、前記モータが発生するトルクを増幅して前記ロボットのアームに伝達する減速機につき、その異常を判定する方法であって、
前記ロボットの動作プログラムに基づいて生成された位置指令に従って前記モータを制御するモータドライバから前記モータへ出力されるトルク信号について、
前記トルク信号から重力補償トルクおよび前記ロボットの他の軸による干渉力トルクを除去した後にハイパスフィルタを適用し、
抽出された前記減速機の振動成分によって前記減速機の異常を判定することを特徴とする減速機の異常判定方法。
【請求項2】
前記ハイパスフィルタ適用後のトルク信号の絶対値について所定時間の平均値を求め、
前記平均値について、初期値と直近の値との差が、予め定めた閾値より大きい場合に異常と判定することを特徴とする請求項1に記載の減速機の異常判定方法。
【請求項3】
前記動作プログラムは、前記ロボットが通常行う作業を記述した作業用プログラムであることを特徴とする請求項1に記載の減速機の異常判定方法。
【請求項4】
前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数は変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の減速機の異常判定方法。
【請求項5】
多関節ロボットの各関節軸の駆動源であるモータに取り付けられ、前記モータが発生するトルクを増幅して前記ロボットのアームに伝達する減速機につき、その異常を判定する装置であって、
前記ロボットの動作プログラムに基づいて生成された位置指令に従って前記モータを制御するモータドライバから前記モータへ出力されるトルク信号について、
前記トルク信号から重力補償トルクおよび前記ロボットの他の軸による干渉力トルクを除去した後にハイパスフィルタを適用し、
抽出された前記減速機の振動成分によって前記減速機の異常を判定することを特徴とする減速機の異常判定装置。
【請求項6】
前記ハイパスフィルタ適用後のトルク信号の絶対値について所定時間の平均値を求め、
前記平均値について、初期値と直近の値との差が、予め定めた閾値より大きい場合に異常と判定することを特徴とする請求項5に記載の減速機の異常判定装置。
【請求項7】
前記動作プログラムは、前記ロボットが通常行う作業を記述した作業用プログラムであることを特徴とする請求項5に記載の減速機の異常判定装置。
【請求項8】
前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数は変更可能であることを特徴とする請求項5に記載の減速機の異常判定装置。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の減速機の異常判定装置を備えたことを特徴とするロボット制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載のロボット制御装置と、前記ロボット制御装置によって制御されるロボットとを備えたことを特徴とするロボットシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−61535(P2012−61535A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206320(P2010−206320)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】