説明

渦電流センサ、焼き入れ深さ検査装置、および焼入れ深さ検査方法

【課題】 従来の焼き入れ深さ検査装置では、良品を測定した場合における2つの検出コイルによる検出値の差分値と、不良品を測定した場合の前記差分値との差が小さいため、検査対象の良否の峻別能力を高くすることが困難であった。
【解決手段】 環状に形成され、検査対象Wが内部を貫通可能な励磁コイル22と検出コイル21とを備える渦電流センサ11であって、環状に形成され、前記励磁コイル22および検出コイル21の外周部に配置される参照用金属部材23と、環状に形成され、前記参照用金属部材23の外周部に配置される参照用検出コイル24とをさらに備え、前記励磁コイル22に交流電流を流すことにより低周波交流磁場を発生させ、発生した低周波交流磁場によって前記検査対象Wに生じる渦電流により誘起された誘導磁場を、前記検出コイル21および参照用検出コイル24によりそれぞれ検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の焼入れ深さを非破壊で高精度に検査するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品を始めとして多くの部品等には、金属(導電体)に高周波誘導加熱等を施して焼入れを行った、焼入れ鋼材が多く使用されている。
前記焼入れ鋼材においては、強度等の品質を保証するために焼入れ深さを検査して、その良否を判断することが重要である。
【0003】
前記焼入れ鋼材の焼入れ深さの検査としては、例えば焼入れ鋼材を部分的に切断して、その断面強度をビッカース強度計等の強度計にて測定することが行われている。
しかし、このような検査方法では、断面強度の測定対象を破壊する必要があるため測定用のサンプルが必要になるとともに、インラインで全数検査を行うことが不可能である。
【0004】
そこで、従来においては、渦電流センサ等を用いた非破壊検査により焼入れ鋼材の焼入れ深さを測定することにより検査を行うことが行われている。
この場合、前記渦電流センサを用いた焼入れ深さの測定は、励磁コイルで発生させた低周波交流磁場によって検査対象となる焼入れ鋼材を磁化し、それによって発生する渦電流により誘起される誘導磁場(渦電流による反作用磁束)を検出コイルにて検出し、前記検出コイルの検出電圧と鋼材の焼き入れ深さとの相関から焼入れ深さを算出することで行われる。
【0005】
このように、焼入れ深さを測定する渦電流センサとしては、例えば特許文献1に示すような環状に形成されたヘルムホルツ型の励磁コイルと検出コイルとを備えたものが用いられ、このような渦電流センサを用いることで検査対象の全数検査をインラインで行うことが可能となっている。
しかし、このような渦電流センサを用いて焼入れ鋼材の焼入れ深さを測定する場合、雰囲気の温度変化に伴ってコイルの抵抗値等が変動し、前記渦電流センサの検出電圧が変動するため、焼入れ深さの測定精度が低下するという問題がある。
【0006】
従って、渦電流センサは、温度変化が生じた場合でも検出電圧の変動が抑えられ、焼入れ深さを高精度に測定することができるような構成とすることが好ましいが、温度変化が生じても高精度な測定を行うことができるような構成としては、次のような構成とすることが考えられる。
つまり、渦電流センサを、環状に形成された励磁コイルと、前記励磁コイルに同心状に内挿される2つの検出コイルとで構成し、前記2つの検出コイルの径寸法や巻き数や巻き線の太さ等といった仕様に差異を設けた構成とすることが考えられる。
【0007】
前述のように、励磁コイルと、互いに仕様が異なる2つの検出コイルとで構成した渦電流センサでは、同一の検査対象におけるある部位の焼入れ深さを測定する場合、前記2つの検出コイルでは仕様の差異により互いに異なる電圧が検出される。
そして、この互いに異なる検出電圧の差分を算出して、算出した検出電圧の差分値と鋼材の焼き入れ深さとの相関から、検査対象の焼入れ深さが求められる。
【0008】
具体的には、予め適正な焼入れ深さを有したマスターワークを検査対象として測定した場合に、2つの検出コイルの検出電圧が等しくなる(即ち両者の差分値が0となる)ように調整しておく(例えば2つの検出コイルに同じ電流を流すと、各検出コイルの検出電圧は異なる値となるが、一方の検出コイルに接続される回路の抵抗値を調整するなどして、当該検出コイルに流れる電流値を調整することで、2つの検出コイルの検出電圧が等しくなるように調整を行う)。
このようにセットされた状態で、前記マスターワークの焼入れ状態とは異なる焼入れ状態の検査対象を測定すると、前記2つの検出コイルの検出電圧はマスターワークを測定した場合とは異なる電圧を検出することとなるが、その検出電圧は各検出コイルによって異なるため、その差分値は0以外の値となる。
【0009】
そして、例えば、焼入れ深さが不良である検査対象を測定した場合には、前記差分値の大きさが大きくなるため、該差分値が所定の閾値よりも大きいか否かによって焼入れ深さの良否判断を行う。
つまり、前記差分値が所定の閾値よりも小さく、0に近い値であれば焼入れ深さが良好であると判断し、前記差分値が所定の閾値よりも大き値であれば焼入れ深さが良好であると判断するようにする。
【0010】
また、仕様が異なる2つの検出コイルでの検出電圧の差分を用いて焼入れ深さを求めるように構成した場合、雰囲気の温度変化があったときには、前記2つの検出コイルの抵抗値等は同様に変化し、その抵抗値等の変化度合いに応じて検出電圧の変動が生じるため、前記差分値がほとんど変化しない。
従って、2つの検出コイルの検出電圧の差分値は温度変化による影響を殆ど受けることがなく、2つの検出コイルの検出電圧の差分値を用いて焼入れ深さを求めることで、温度変化の影響による焼入れ深さの測定値の変動を抑えることができ、高い測定精度を得ることが可能となる。
【特許文献1】特開2002−14081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のごとく、互いに仕様が異なる2つの検出コイルにおける検出電圧の差分値を用いて焼入れ深さの測定を行うように構成する場合は、実際に得られる差分値は小さいためアンプにより増幅したうえで用いられることとなる。
ここで、前記2つの検出コイルは、互いに異なる仕様に構成することで、同一の検査対象を測定したときに異なる検出電圧が出力されるようにしているが、各検出コイルは検査対象の同じ箇所を略同じ箇所から同時に測定するものであるので、両者に作用する渦電流による誘導磁場の大きさは同様であり、その検出電圧の波形は近似したものとなる。
【0012】
従って、前記2つの検出コイルの検出電圧は各検出コイルの仕様により互いに異なりはするが、2つの検出コイルの検出電圧にはそれほど大きな差異はみられず、両者の検出電圧の差分値は小さくなる。
これにより、良品を測定した場合の前記差分値と、不良品を測定した場合の前記差分値との差が小さくなるため、焼入れ深さの良否判断を行うためには前記差分値の増幅率を大きく設定することが必要となる。
しかし、前記差分値の増幅率を大きくすると、前記差分値の信号に含まれるノイズも大きく増幅されてしまうこととなり、また前記差分値の増幅率にも限度があるため、検査対象の良否の峻別能力を高くすることが困難である。
【0013】
そこで、本発明においては、温度変化の影響による焼入れ深さの測定値の変動を抑えつつ、検査対象における焼入れ深さの良否の峻別能力を向上することができる渦電流センサ、焼き入れ深さ検査装置、および焼入れ深さ検査方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する渦電流センサ、焼き入れ深さ検査装置、および焼入れ深さ検査方法は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載の如く、環状に形成され、検査対象が内部を貫通可能な励磁コイルと検出コイルとを備える渦電流センサであって、環状に形成され、前記励磁コイルおよび検出コイルの外周部に配置される参照用金属部材と、環状に形成され、前記参照用金属部材の外周部に配置される参照用検出コイルとをさらに備え、前記励磁コイルに交流電流を流すことにより低周波交流磁場を発生させ、発生した低周波交流磁場によって前記検査対象に生じる渦電流により誘起された誘導磁場を、前記検出コイルおよび参照用検出コイルによりそれぞれ検出する。
これにより、前記検出コイルの検出値と参照用検出コイルの検出値との差分値をとって、この差分値に基づいて検査対象の焼入れ深さの良否判断を行うことで、温度変化の影響による焼入れ深さの測定値の変動を抑えつつ、検査対象における焼入れ深さの良否の峻別能力を向上させることができる。
【0015】
また、請求項2記載の如く、焼入れ深さ検査装置は、請求項1に記載の渦電流センサと、前記渦電流センサにおける前記検出コイルの検出値と前記参照用コイルの検出値との差分値を算出し、算出した前記差分値の大きさに基づいて前記検査対象の焼入れ深さの良否判定を行う処理装置とを備える。
これにより、温度変化の影響による焼入れ深さの測定値の変動を抑えつつ、検査対象における焼入れ深さの良否の峻別能力を向上させることができる。
【0016】
また、請求項3記載の如く、環状に形成され、検査対象が内部を貫通可能な励磁コイルおよび検出コイルと、環状に形成され、前記励磁コイルおよび検出コイルの外周部に配置される参照用金属部材と、環状に形成され、前記参照用金属部材の外周部に配置される参照用検出コイルとを備える渦電流センサを用いた焼入れ深さ検査方法であって、前記励磁コイルに交流電流を流すことにより低周波交流磁場を発生させ、発生した低周波交流磁場によって前記検査対象に生じる渦電流により誘起された誘導磁場を、前記検出コイルおよび参照用検出コイルによりそれぞれ検出し、前記参照用検出コイルの検出値と、前記検出コイルの検出値との差分値を算出し、前記差分値の大きさに基づいて前記検査対象の焼入れ深さの良否判定を行う。
これにより、温度変化の影響による焼入れ深さの測定値の変動を抑えつつ、検査対象における焼入れ深さの良否の峻別能力を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度変化の影響による焼入れ深さの測定値の変動を抑えつつ、検査対象における焼入れ深さの良否の峻別能力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0019】
図1に示す焼入れ深さ検査装置10は、高周波焼入れが施された鋼材にて構成される部材を検査対象Wとして、前記検査対象Wの表面の焼入れ深さを測定し、前記焼入れ深さの良否判定を行うための検査装置に構成されており、渦電流センサ11と、前記渦電流センサ11に対して交流電流を出力するとともに、該渦電流センサ11からの検出信号に基づいて、前記検査対象Wの焼入れ深さの良否判定を行う処理装置12と、前記渦電流センサ11を所定位置に保持するとともに、前記検査対象Wが載置される保持治具17とを備えていて、検査対象の全数検査をインラインで行うことが可能となっている。前記検査対象Wは、例えば棒状または軸状に形成されている。
【0020】
前記渦電流センサ11は、全体的に円環状に形成され、中央部に前記検査対象Wが貫通可能な貫通型のプローブに構成されている。
前記検査対象Wの表面の焼入れ深さを測定する際には、前記保持治具17上に載置される検査対象Wが前記渦電流センサ11を貫通し、前記検査対象Wの検査部位に渦電流センサ11が位置するように、該渦電流センサ11の位置が調整される。また、前記検査対象Wの軸心と、前記渦電流センサ11の軸心とが同心となるように、該渦電流センサ11がセットされる。
【0021】
また、図2に示すように、前記前記渦電流センサ11は、それぞれ円環状に形成される検出コイル21、励磁コイル22、参照用金属部材23、および参照用検出コイル24を備えている。
前記検出コイル21、励磁コイル22、参照用金属部材23、および参照用検出コイル24は、それぞれ同心状に配置されており、前記検出コイル21の外周側に前記励磁コイル22が配置され、前記励磁コイル22の外周側に前記参照用金属部材23が配置され、前記参照用金属部材23の外周側に前記参照用検出コイル24が配置されている。
【0022】
前記励磁コイル22は、該励磁コイル22に交流電流を流すことで低周波交流磁場を発生するものであり、前記励磁コイル22に発生した低周波交流磁場により前記渦電流センサ11を貫通する検査対象Wに渦電流が生じることとなる。
前記検査対象Wに渦電流が生じると誘導磁場(励磁コイル22からの磁束を打ち消す方向の反作用磁束)が誘起されるが、誘起された誘導磁場が前記検出コイル21、および該検出コイル21の外周側に配置される前記参照用検出コイル24により検出される。
【0023】
このように、渦電流センサ11においては、前記励磁コイル22に交流電流を流すことで低周波交流磁場を発生させて、前記検査対象Wに渦電流を発生させ、この渦電流により誘起された誘導磁場をそれぞれ前記検出コイル21および参照用検出コイル24により電圧値として検出するように構成している。
【0024】
前述のように、前記検出コイル21および参照用検出コイル24においては、検査対象Wに発生した渦電流により誘起された誘導磁場が検出されるが、前記検出コイル21と参照用検出コイル24との間には参照用金属部材23が配置されており、前記検査対象Wからの誘導磁場が前記参照用金属部材23により遮蔽されるため、前記参照用検出コイル24による検出値は前記検出コイル21による検出値よりも小さな値となる。
【0025】
なお、前記参照用金属部材23としては、例えば、検査対象Wと同様に焼入れが施された鋼材を用いることができるが、これに限るものではなく、焼入れを行っていない鋼材を検査対象Wとして用いることも可能である。
【0026】
また、前記処理装置12は、交流電流を生成して前記渦電流センサ11の励磁コイル22へ供給する発振器31と、前記検出コイル21および前記参照用検出コイル24からの検出信号を処理する信号処理器32と、前記信号処理器32にて処理された検出信号に基づいて前記検査対象Wの焼入れ深さの良否を判定する判定器38とを備えている。
また、前記処理装置12には、焼入れ深さを検査する際の各種検査条件や各種データ等が記憶される記憶部39が備えられている。
【0027】
前記信号処理器32は、前記検出コイル21および参照用検出コイル24の検出信号の差分電圧ΔVを取り出す差動アンプ33と、前記発振器31にて生成された交流電流の位相を90°シフトさせる位相制御部34と、前記差動アンプ33から出力される差分電圧ΔVを、前記発振器31にて生成された交流電流と同位相の信号にて位相検波するとともに、前記発振器31にて生成された交流電流から90°位相が遅れた信号にて位相検波する位相検波部35と、前記位相検波部35にて前記交流電流と同位相の信号にて検波された信号を増幅等するゲイン部36aと、前記ゲイン部36aからの出力信号からノイズ成分を除去するフィルタ部37aと、前記位相検波部35にて前記交流電流から90°位相が遅れた信号にて検波された信号を増幅するゲイン部36bと、前記ゲイン部36bからの出力信号からノイズ成分を除去するフィルタ部37bとを備えている。
【0028】
このように構成される信号処理器32からは、前記差分電圧ΔVを前記発振器31にて生成された交流電流と同位相の信号にて位相検波した信号(以降、「X信号」と記載する)、および前記差分電圧ΔVを前記発振器31にて生成された交流電流から90°位相が遅れた信号にて位相検波した信号(以降、「Y信号」と記載する)が出力される。
【0029】
前記信号処理器32から出力されたX信号およびY信号は、前記判定器38に入力され、該判定器38では入力されたX信号およびY信号に基づいて前記検査対象Wの焼入れ深さの良否判定が行われる。
前記判定器38は、該判定器38へ入力されたX信号およびY信号等の各種信号や各種データが記憶されている記憶部38aと、前記X信号およびY信号に基づいて前記検査対象Wの焼入れ深さの良否判定を行う判定部38bと、前記判定部38bでの判定結果を出力する出力部38cとを備えている。
【0030】
次に、前述のように構成される焼入れ深さ検査装置10により行われる、検査対象Wの焼入れ深さの検査方法について、図3を用いて説明する。
まず、前記検査対象Wを前記保持治具17上に載置するとともに(S01)、載置した検査対象Wの検査部位に前記渦電流センサ11をセットする(S02)。この場合、検査対象Wの軸心と前記渦電流センサ11の軸心とが同心となるようにセットされ、前記検査対象Wの外周面と前記渦電流センサ11の内周面との距離(リフトオフ)が全周にわたって等しくなるようにする。
【0031】
また、前記処理装置12においては、これから行う検査の各種条件(例えば、前記発振器31にて生成させる交流電流の周波数や、前記位相制御部34による前記交流電流の位相のシフト度合いや、前記ゲイン部36a・36bによるゲインの大きさ)を前記記憶部39から呼び出して、前記発振器31や位相制御部34やゲイン部36a・36b等の各部へセットする(S03)。
【0032】
また、同一の検査対象Wを前記渦電流センサ11により測定した場合、そのままでは、前記検出コイル21による検出値が前記参照用検出コイル24による検出値よりも大きくなるが、前記検出コイル21および参照用検出コイル24については、適正な焼入れ深さを有したマスターワークを検査対象として測定した場合に、2つの検出コイル21・24の検出電圧が等しくなる(即ち両者の差分値が0となる)ように、予め調整しておく。
この調整は、例えば、前記検出コイル21および参照用検出コイル24の少なくとも何れか一方に接続される回路の抵抗値を調整して、当該コイル21・24に流れる電流値を調整することにより行うことができる。
【0033】
その後、前記処理装置12の発振器31にて生成した所定の周波数の交流電流(励磁電流)を渦電流センサ11の励磁コイル22に出力して、前記励磁コイル22に低周波交流磁場を発生させる(S04)。
前記励磁コイル22に低周波交流磁場が発生すると、前記渦電流センサ11を貫通する検査対象Wに渦電流が生じて誘導磁場が誘起されるが、この誘導磁場を前記検出コイル21および参照用検出コイル24にて検出する。(S05)。
【0034】
前記検出コイル21および参照用検出コイル24による検出電圧は前記処理装置12に入力され、該処理装置12内の前記信号処理器32における差動アンプ33にて、前記検出コイル21の検出電圧と前記参照用検出コイル24の検出電圧との差分電圧ΔVが求められる。
求められた差分電圧ΔVに対して、前述のように、信号処理器32内の位相処理部34、位相検波部35a・35b、ゲイン部36a・36b、およびフィルタ部37a・37b等により信号処理がなされて、該信号処理器32から前記X信号およびY信号が出力される(S06)。
【0035】
この場合、前記ゲイン部36a・36bにおいては、前記差分電圧ΔVを位相検波部35aにて検波した信号の電圧ΔVx、および位相検波部35bにて検波した信号の電圧ΔVyの値が、前記信号処理器32にて取り扱われる最大電圧Vmaxの範囲内に収まるように増幅される。
例えば、前記最大電圧Vmaxが10Vであり、前記電圧ΔVxの値が2Vであった場合には、前記ゲイン部36aにおいて、前記電圧ΔVx(2V)が5倍に増幅されて10Vとなるように構成されている。前記ゲイン部36bにおいても同様である。
【0036】
また、信号処理器32から出力されたX信号およびY信号は前記判定器38に入力され、該判定器38内の記憶部38aに記憶される。
さらに、前記判定器38の判定部38bにおいては、前記記憶部38aに記憶されたX信号およびY信号に基づいて、前記検査対象Wにおける焼入れ深さの良否を判断し、その判定結果が出力部38cにて出力される(S07)。
【0037】
前記判定部38bにおける焼入れ深さの良否の判断は、詳しくは次のように行われる。
つまり、図4に示すように、前記判定部38bにおいては、前記X信号およびY信号をXY平面にプロットし(X信号の値をX軸の値とし、Y信号の値をY軸の値としてプロットする)、そのプロット位置に応じて焼入れ深さの良否の判断を行う。
【0038】
この場合、良否の判断は、前記XY平面上に設けられた閾値Tに基づいて行われ、プロットされた点がXY平面の前記閾値Tよりも内側(原点側:閾値Tの範囲内)に位置していれば焼入れ深さの状態は良であると判断し、プロットされた点がXY平面の前記閾値Tよりも外側(閾値Tの範囲外)に位置していれば焼入れ深さの状態は良であると判断するようにしている。
【0039】
例えば、図4によれば、焼入れ深さの状態が良である良品の検査対象Wのプロット点は、閾値Tの範囲内に、特にX軸とY軸との交点(原点)付近に位置している。
また、焼入れ深さの状態が不良である不良品の検査対象Wのプロット点は、閾値Tの範囲外に位置している。さらには、焼入れを行っていない未焼入品のプロット点は前記不良品のプロット点よりさらに原点から離れた位置にプロットされている。
【0040】
検査対象Wが良品であった場合、その検査対象Wは適正な焼入れ深さを有していているため、検出コイル21および参照用検出コイル24の検出電圧は、同じく適正な焼入れ深さを有している前記マスターワークを測定した場合と略同じ値になるため、前記検出コイル21の検出電圧と参照用検出コイル24の検出電圧との差分値は0に近い値となり、前記X信号およびY信号をXY平面上にプロットすると、そのプロット点は原点付近に位置することとなる。
【0041】
また、検査対象Wが不良品であった場合、その焼入れ深さは良品の焼き入れ深さと異なるため、検出コイル21および参照用検出コイル24の検出電圧は、前記マスターワークを測定した場合とは異なる。
【0042】
この場合、焼入れ深さの違いが検出電圧に及ぼす影響は、検査対象Wの直近に位置している検出コイル21では大きく、検査対象Wから離れて位置する参照用検出コイル24では小さいため、該検出コイル21の検出電圧と参照用検出コイル24の検出電圧とは異なり、前記X信号およびY信号をXY平面上にプロットすると、そのプロット点は原点から離れて位置することとなる。
特に、参照用検出コイル24においては、参照用金属部材23により検査対象Wからの磁束が遮蔽されているため、特に影響が小さく、検出コイル21の検出電圧と参照用検出コイル24の検出電圧との差、すなわち前記差分電圧ΔVの値は大きくなり、前記プロット点は原点から大きく離れて位置することとなる。
【0043】
このように、本焼入れ深さ検査装置10では、検査対象Wが良品である場合と不良品である場合とで、大きな差分電圧ΔVの差を得ることができるので、焼入れ深さの良否判定(焼入れのパターン切れの有無等の判定)を容易に行うことが可能となり、検査対象Wの良否の峻別能力を向上することができる。
【0044】
仮に、該渦電流センサ11が前記参照用金属部材23を備えていなければ、小さな差分電圧ΔVの差しか得ることができないため、焼入れ深さの良否判定を行うためには前記ゲイン部36a・36bにおけるゲインを大きくする必要があるが、ゲインを大きく設定すると検出信号に含まれるノイズも大きくなって良否の峻別能力を高くすることが困難となる。
しかし、本焼入れ深さ検査装置10では、前述のように大きな差分電圧ΔVの差を得ることができるので、小さなゲインで焼入れ深さの良否判定を行うことが可能であり、良否の峻別能力を向上することが可能となっている。
【0045】
また、本焼入れ深さ検査装置10においても、前記参照用金属部材23を備えていない従来の焼入れ深さ検査装置の場合と同様に、雰囲気の温度変化があったときには、前記検出コイル21および参照用検出コイル24の抵抗値等が同様に変化して、前記差分電圧ΔVはほとんど変化しないため、温度変化の影響による焼入れ深さの測定値の変動を抑えて、高い測定精度を得ることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】焼入れ深さ検査装置を示すブロック図である。
【図2】焼入れ深さ検査装置の渦電流センサを示す斜視図である。
【図3】焼入れ深さ検査装置による焼入れ深さ検査方法フローを示す図である。
【図4】焼入れ深さ検査装置による焼入れ深さ検査結果を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 焼入れ検査装置
11 渦電流センサ
12 処理装置
21 検出コイル
22 励磁コイル
23 参照用金属部材
24 参照用検出コイル
32 信号処理器
33 差動アンプ
35 位相検波部
36a・36b ゲイン部
38 判定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成され、検査対象が内部を貫通可能な励磁コイルと検出コイルとを備える渦電流センサであって、
環状に形成され、前記励磁コイルおよび検出コイルの外周部に配置される参照用金属部材と、
環状に形成され、前記参照用金属部材の外周部に配置される参照用検出コイルとをさらに備え、
前記励磁コイルに交流電流を流すことにより低周波交流磁場を発生させ、
発生した低周波交流磁場によって前記検査対象に生じる渦電流により誘起された誘導磁場を、前記検出コイルおよび参照用検出コイルによりそれぞれ検出する、
ことを特徴とする渦電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の渦電流センサと、
前記渦電流センサにおける前記検出コイルの検出値と前記参照用検出コイルの検出値との差分値を算出し、算出した前記差分値の大きさに基づいて前記検査対象の焼入れ深さの良否判定を行う処理装置とを備える、
ことを特徴とする焼入れ深さ検査装置。
【請求項3】
環状に形成され、検査対象が内部を貫通可能な励磁コイルおよび検出コイルと、環状に形成され、前記励磁コイルおよび検出コイルの外周部に配置される参照用金属部材と、環状に形成され、前記参照用金属部材の外周部に配置される参照用検出コイルとを備える渦電流センサを用いた焼入れ深さ検査方法であって、
前記励磁コイルに交流電流を流すことにより低周波交流磁場を発生させ、
発生した低周波交流磁場によって前記検査対象に生じる渦電流により誘起された誘導磁場を、前記検出コイルおよび参照用検出コイルによりそれぞれ検出し、
前記参照用検出コイルの検出値と、前記検査コイルの検出値との差分値を算出し、
前記差分値の大きさに基づいて前記検査対象の焼入れ深さの良否判定を行う、
ことを特徴とする焼入れ深さ検査方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−31224(P2009−31224A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197980(P2007−197980)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】