説明

温度センサ及び温度センサシステム

【課題】検知温度の精度を安定して保つことができる温度センサを提供することを目的とする。
【解決手段】温度によって電気抵抗が変化する感温体2と、感温体2に電気的に接続される一対のリード線4と、感温体2と所定範囲内のリード線4とを封止する被覆材5とを備え、リード線4が被覆材5の封止端6から引出されるセンサ素子1と、リード線4の一部を除いてセンサ素子1を収容する金属保護管20と、封止端6を取り囲むセラミック製の封止端密閉体7とリード線保護管8とからなる遮蔽体と、を備え、遮蔽体は金属保護管20内に遊嵌される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度によって電気抵抗が変化する感温体を備えた温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガス、給湯器、ボイラー、オーブンレンジ、ストーブ等の温度を測定するために、温度によって抵抗値が変化する感温体を用いた温度センサが広く利用されている。かかる温度センサに用いられる温度センサ素子(以下、単にセンサ素子)は、図11に示すように、一対の電極3を設けた感温体2と、一対の電極3に接続されたリード線4と、感温体2を封止する耐熱性の結晶質ガラス、非晶質ガラス等からなる被覆材5と、から構成されている。センサ素子を電気オーブン(電気度センサ)、ラジアントヒータ、燃焼器具、排気ガス浄化装置などに設置する場合には、振動・外力・燃焼ガス等からセンサ素子を保護するために、センサ素子は密閉性の高い金属保護管に収納された状態で用いられている。
【0003】
特許文献1には、使用環境温度が750℃以上になると温度センサを構成する金属保護管の酸化により、感温体2の周囲の酸素分圧が変動することがあり、これに伴い感温体2の組成が変動して温度−抵抗値特性が不安定になることが示されている。そこで特許文献1は、金属保護管内に気孔率が30〜70%の耐震フィラーを充填することを提案している。
【0004】
特許文献1は、金属保護管内に流動性の耐震フィラーと温度センサ素子を同時に挿入・埋設し耐震フィラーを加熱硬化させる方法を採用している。しかるに、耐震フィラーの硬化時にバインダーが揮発するのに伴って硬化後に気泡が発生するおそれがあるものの、気泡の存在を確認することができない。また、金属保護管内に挿入する際の耐震フィラーは粉状のため、金属保護管内における充填密度が十分でない。したがって、得られる温度センサは酸素分圧の変動に対して十分な信頼性があるとは言えず、検知温度の精度が不安定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−215919号公報
【特許文献2】特許第3806434公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、500℃以上の高温環境下においても検知温度の精度を安定して保つことができる温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
温度センサが使用される環境が500℃〜1000℃という高温の場合、温度センサ素子を保護する金属保護管の酸化劣化は著しくなる。金属保護管は高温耐熱性に優れた、ステンレス合金、Ni基超合金により作製される。これらの耐熱合金は、構成する金属(クロム・ニッケル・鉄など)が酸化劣化過程において蒸発・放出される。また、温度センサ素子のリード線を構成する白金や白金合金、ニッケルも500℃を越えると蒸発し始めることが一般に知られている。これらの蒸発した不安定な金属は、導電性を有する酸化物となる。
500℃以上の温度を測定する場合、温度センサを構成する温度センサ素子は、金属保護管内の閉塞された環境に置かれるため、金属蒸気濃度の高い雰囲気環境に晒されてしまうことになる。
リード線4間には、高い絶縁性能を有する結晶質ガラス、非晶質ガラス等からなる被覆材5が介在しているので、センサ素子に通電したとしても図12(a)に示すように、リード線4間にリーク電流は生じない。なお、図12において矢印が電流を示す。ところが、上述のとおり、導電性を有する物質、例えば酸化クロムがリード線4間を埋めるように付着すると、リード線4間の絶縁性能が損なわれ、図12(b)に示すように、通電によりリード線4間にリーク電流が生じ、そのために電解腐食(高温マイグレーション)が生じる。その結果、温度センサによる検知温度が不正確になる。
【0008】
以上の通りであり、金属保護管、リード線4からの金属の蒸発・放出が、高温マイグレーションの発生の原因である。そこでなされた本発明の温度センサは、センサ素子と、リード線の一部を除いて感温体を収容する金属保護管とを備えることを前提とする。そして、センサ素子は、温度によって電気抵抗が変化する感温体と、感温体に電気的に接続される一対のリード線と、感温体と接続部から所定範囲内のリード線とを封止する被覆材とを有している。また、このセンサ素子は、リード線が被覆材の封止端から引出される。
以上の構成を有する本発明の温度センサは、封止端を密閉する封止端密閉部と、封止端から引き出されるリード線が貫通して収容されるリード線保護部とからなるセラミック製の遮蔽体とを備えることを特徴とする。また本発明の温度センサは、遮蔽体が金属保護管内に遊嵌されていることを特徴とする。
【0009】
上記の温度センサは、感温体と金属保護管の間にあって封止端密閉部が封止端を密閉することにより、導電性を有する物質がリード線4間に付着することを防止する。
また、本発明の温度センサは、リード線保護部を備える。温度センサは、使用時に感温体が存在する前方側が高温になり、それよりも後方に向けて温度が低くなる温度勾配を有する。そこで、リード線を構成する材料が蒸発を開始する温度以上となる部分を、リード線保護部で覆うことにより、リード線からの金属の蒸発防止に寄与する。
【0010】
さらに本発明は、遮蔽体が金属保護管内に遊嵌される。保護管は金属で構成され、遮蔽体はセラミックから構成されるので、両者には線膨張係数に差がある。例えば、Ni基超合金の線膨張係数は11〜12×10−6/℃であり、アルミナの線膨張係数は7〜8×10−6/℃である。そのために、金属保護管内に遮蔽体が密着して収容されている温度センサを長期間使用していると、保護管と遮蔽体との間に隙間が繰り返して形成されることにより、温度センサが初期状態を維持できなくなる。したがって、検知温度が不安定となる。これに対して、例えば金属保護管と遮蔽体の間に当初より隙間を設けておけば、線膨張係数の差異に基づく上記弊害を避けることができる。この効果は、金属保護管と遮蔽体の間の全域に明確な隙間を設けなくても享受できる。例えば、金属保護管と遮蔽体が一部分で接していたとしても、金属保護管と遮蔽体の間に遊びがあるように嵌め合いが緩くなされていれば、線膨張係数の差異に基づく上記弊害を避けることができる。そこで本発明は、遮蔽体が金属保護管内に遊嵌されることを規定する。
【0011】
また、当初より遮蔽体が金属保護管内に遊嵌される本発明の温度センサは、予め一体に形成されたセンサ素子と遮蔽体を、これとは別に予め形成された保護管に挿入、固定すればよいので、製造が容易である。
【0012】
さらに、本発明の温度センサにおいて、リード線保護部は、リード線が貫通する貫通孔を有する保護部本体と、保護部本体と貫通孔を貫通するリード線との間に介在するセラミック製の充填材と、を備えることが好ましい。リード線を外気から遮断するとともに、リード線保護部内においてリード線を固定できる。この充填材は、遮蔽体と一体的に形成されるセラミック体から構成できる。
なお、本発明において、感温体が設けられる側を前(前方)とし、リード線が延設される側を後(後方)と定義するものとする。
【0013】
ところで、温度センサが得た温度信号を電気信号に変換する際、感温体(サーミスタ)の抵抗値は1000Ω程度又はそれ以下という場合が多く、かつ抵抗値の温度係数(1℃当りの電気抵抗変化)が小さいという問題がある。高温マイグレーションを避けながら、低温から高温までの広い温度範囲の温度計測を可能とするためには、通電電流を下げなければならず、必然的に1℃当りの出力電圧が低くなる。0℃から1000℃までの温度幅をADコンバータで検出しようとすると、ADコンバータは分解能が10ビット以上のものが必要となる。10ビットを超える12ビットや16ビットのADコンバータは量産品としては比較的高価であり、民生使用には向いていない。10ビットのADコンバータを使うために、検知電圧を高倍率かつ高精度に増幅する増幅器が必要になるが、増幅器によりコスト高になるという隘路に行き着く。
高倍率かつ高精度の増幅器を使うとコストが高くなるため、温度センサ素子が自己加熱しないぎりぎりの電流を通電し、あるいはパルス大電流を通電し通電時間のデューティーを適切に選ぶことで自己加熱することなく極力大きい電圧信号を取り出したい。しかし、電圧が大きくなると高温マイグレーションの危険性が高くなる。したがって、500℃を越える高温領域で、より安定して長時間使える安価な温度センサシステムをこれまで市場へ供給することができなかった。
しかしながら、本発明の温度センサにより高温マイグレーションの心配が払拭されたので、増幅器を用いない通電回路を使用できることになる。したがって本発明の温度センサシステムは、以上のいずれかの温度センサと、温度センサに温度検出電流を供給する通電回路と、温度センサが検出した温度情報をアナログ電圧信号として入力されるADコンバータと、ADコンバータで変換されたディジタル信号を温度に換算して制御動作を行うコントローラ、を備える温度センサシステムにおいて、通電回路は、コントローラの指示に基づいて温度センサにパルス状の温度検出電流を供給する温度センサシステムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の温度センサによれば、リード線間への導電性物質の付着による高温マイグレーションを防止し、被覆材による感温体の封止状態を保つことが可能となる。したがって、温度センサの検知温度精度を安定して確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は第1実施形態の温度センサの縦断面図、(b)は(a)の1b−1b矢視断面図(ただし、金属保護管20は除く)、(c)は第2実施形態の温度センサの縦断面図である。
【図2】(a)は第3実施形態の温度センサの縦断面図、(b)は第4実施形態の温度センサの縦断面図である。
【図3】第1実施形態によるセンサ素子ユニットの作製手順を示す図である。
【図4】(a)は第5実施形態の温度センサの縦断面図、(b)は(a)のA−A’線断面図である。
【図5】高温通電試験の様子を示す図であり、(a)は第1実施形態の温度センサを用いたもの、(b)は比較例の温度センサを用いたものである。
【図6】高温通電試験の結果を示すグラフであり、(a)は第1実施形態の温度センサを用いた結果(通電電流10mA)、(b)、(c)は比較例の温度センサを用いた結果(通電電流0.1mA、10mA)である。
【図7】温度センサへの通電回路構成を示す図であり、(a)は低電流直流通電を行なう回路、(b)は高電流パルス通電を行なう回路を示し、(c)は(b)の通電回路による電流印加パターンを示す図である。
【図8】図7(a)の回路で通電を行なった場合のI−V特性、動作線を示すグラフである。
【図9】図7(b)の回路で通電を行なった場合のI−V特性、動作線を示すグラフである。
【図10】(a)は電気式ヒータのブロック図、(b)は燃焼度センサのブロック図である。
【図11】従来のセンサ素子を示す図である。
【図12】(a)従来のセンサ素子における検知電流印加の様子を示し、(b)はリーク電流発生の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1(a)は本発明の第1実施形態の温度センサ1を示す。
温度センサ1は、センサ素子ユニット10と、リード線4の後方側の一部を除いてセンサ素子ユニット10を収容する金属保護管20とから構成される。
センサ素子ユニット10は、温度によって電気抵抗が変化する感温体2と、感温体2に電極3を介して電気的に接続される一対のリード線4と、感温体2と電極3から所定範囲内のリード線4とを封止する被覆材5とを備える。リード線4は、被覆材5の封止端6から引出される。
【0017】
感温体2としては、サーミスタを用いることが好ましいが、温度によって電気抵抗が変化するものを広く適用できる。500〜1000℃の高温域で使用される場合、サーミスタとしては、例えば本発明者が先に特許文献2で開示したY、Cr、Mn、CaおよびOを含み、Y:Cr:Mn:Caのモル比が75〜85:7〜10:7〜10:1〜5である金属酸化物を用いることが好ましい。この金属酸化物から構成される感温体2は、1000℃以上の高温まで温度測定が可能である。ただし、これはあくまで例示であり、他のサーミスタを用いることもできることは言うまでもない。
【0018】
リード線4としては、白金又は白金合金を用いることができる。白金合金としては、イリジウムを1〜20wt%含有するものが高温耐久性の観点から好ましい。
【0019】
被覆材5は、非晶質ガラス又は結晶化ガラスから構成される。それぞれを単独で用いることもできるが、所望の熱膨張係数を有するように非晶質ガラスと結晶化ガラスとを混合して用いることもできる。結晶化ガラスとしては、例えば、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化アルミニウムから構成されるものが好ましく、より具体的にはSiO:30〜60wt%、CaO:10〜30wt%、MgO:5〜25wt%、Al:0〜15wt%の組成を有するものを本発明に用いることができる。また、ガラスに無機材料粉末を添加したもの等を用いて構成してもよい。ガラスに添加する無機材料粉末としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコニウム(ZrO)等、感温体2を構成する金属酸化物等が挙げられる。
【0020】
このセンサ素子ユニット10は、セラミックからなる封止端密閉体7と、封止端密閉体7より後方において一対のリード線4が貫通して収容されるリード線保護管8とを備える。封止端密閉体7とリード線保護管8とから、遮蔽体が構成される。
センサ素子ユニット10と金属保護管20の間に設けられる封止端密閉体7は、外形が円錐台形をなし、被覆材5の後端側を取り囲んで封止端6を密閉する。したがって、リード線4間に導電性の組成物が付着することがない。封止端密閉体7は、アルミナ(Al)、窒化ケイ素(Si)等のセラミックからなる。封止端密閉体7を形成する方法は後述する。
【0021】
封止端密閉体7に続く円筒状のリード線保護管8は、一対のリード線4が収容、保持される2つの保持孔8hが軸方向に貫通して形成される。保持孔8hは2本のリード線4を収容できる寸法の孔を1つ設けることもできるが、リード線4の各々に対応するように2つの保持孔8hを設けることが、リード線4を所定位置に固定するのに好ましい。保持孔8h内において、リード線4を除く隙間には、セラミックからなる充填材9が介在する。こうすることにより、リード線4を所定位置に固定できるとともに、500℃以上の温度域で使用されても導電性の組成物が飛散する雰囲気からリード線4を遮断できる。
リード線保護管8は、リード線4を保護するために、温度センサ1の使用時にリード線4の温度が500℃以上となる領域を収容できる長さを有していることが好ましい。
なお、リード線保護管8及び充填材9も、封止端密閉体7と同様にアルミナ(Al)、窒化ケイ素(Si)等により構成される。
温度センサ1は、予め一体に形成されたセンサ素子ユニット10を別途形成された金属保護管20に挿入、固定することにより製造される。このとき、封止端密閉体7とリード線保護管8とからなる遮蔽体の部分と金属保護管20の間には隙間を設けることにより、遮蔽体を金属保護管20内に遊嵌させる。なお、金属保護管20から被覆材5への熱伝導をよくするために、被覆材5の先端を金属保護管20につき当てること、被覆材5の先端と金属保護管20の間に充填剤、接着剤を介在させることを本発明は許容する。この場合も、封止端密閉体7とリード線保護管8とからなる遮蔽体の部分と金属保護管20の間に隙間が設けられ、遊嵌されていることに他ならない。
【0022】
このように、金属保護管20に収容される部分をセンサ素子ユニット10とすることで、ユニットの仕上がり品質を目視にて点検できる利点がある。
【0023】
温度センサ1は、リード線4の後方側の一部を除いてセンサ素子ユニット10を収容する金属保護管20を備える。金属保護管20は、ステンレス合金、Ni基超合金、その他の耐熱合金から構成される。これら合金は、耐熱性を確保するために、Ni、Crを多く含んでいる。例えば、Ni基超合金の1例であるJIS NCF600は、Niを75wt%、Crを16wt%程度含んでいる。
【0024】
金属保護管20は使用中に酸化雰囲気に晒されるので、金属保護管20は使用に伴って酸化される。このように金属保護管20の性状が変わると、検知温度誤差を招く。また、金属保護管20が酸化されると金属保護管20内部は還元状態となり、酸化物からなる感温体2からOを奪うことにより、感温体2に組成ずれを生じさせる。そのために、感温体2の特性が変わり、検知温度誤差を招くおそれがある。したがって、金属保護管20は、表面が予め酸化処理されていることが好ましい。
【0025】
金属保護管20は、感温体2、リード線4を保持することと、金属保護管20外部からの機械的応力からこれら収容物を保護するために設けられる。
金属保護管20はパイプ状の物であり、温度を計測する感温体2を収納する一端(先端側)が閉塞(密閉)されており、他方の端(後端側)はリード線4を引き出すために開放されている。
【0026】
引き出されたリード線4は計測回路との接続のためにポリエチレンやテフロン(登録商標)、シリコン、塩化ビニールなどで被覆された可撓性のある絶縁被覆付電線に接続される。
このため、使用状態において、金属保護管20の後端側の温度がこれら有機材料でも使える温度領域まで下がっている必要がある。
また、金属保護管20を高温炉などに取り付ける際にも取り付け部の温度が低いほうが強度や腐食性・温度センサの応答性など特性面に関して有利になるので、取り付け部は金属保護管20の後端側に設けるのが一般的である。
他方、金属保護管20の先端側は温度を計測するため高温下にあり、金属保護管20の先端と後端とでは温度差(温度分布・温度勾配)がある。例えば、先端側が800℃であり、後端側が200℃ということがある。
【0027】
金属保護管20の先端側が密封されているのは、高温下における酸化・還元・硫化などの様々な雰囲気から感温体2を金属保護管20内の一定した環境下を隔離するためである。
このような役目を果たす金属保護管20に感温体2を収納し高温を計測する場合、高温になる金属保護管20の先端において金属保護管20の外周面と内周面の両方で酸化や還元に伴い金属の放出(蒸発)が起きる。特に金属保護管20の内周面は密閉された環境になるので、外周面に比べると金属蒸発量が多くなる。
【0028】
一方、温度分布は後端に近いほどより低温になるので徐々に金属蒸発量が少なくなる。このことは、一例としてクロムの付着にて説明することができる。
すなわち、事実として金属保護管20の先端側に配置される感温体2にクロムが多く付着し、その付着量は金属保護管20の後端に近いほど減少する。
感温体2から引き出されるリード線4も金属保護管20の温度分布に支配されるので、より高温側になる感温体2の付近ほど金属蒸発量が大きくなる。
【0029】
リード線4から金属が蒸発すると被覆材5との間に隙間ができてしまい、感温体2に通電した際には、高温マイグレーションの原因になる。
以上より、リード線4から金属が蒸発し細くなるのを抑制するとともに、リード線4から蒸発した金属が他の場所に飛来するのを防止し、なおかつ、金属保護管20から飛来する金属とリード線4から蒸発した金属とがリード線4間に付着させない構造とし、さらに、リード線保護管8から露出されるリード線4の部分の温度が、金属が蒸発しないか、したとしても極微量に抑えられる例えば400℃以下となるように温度センサ1を構成することが好ましい。
【0030】
次に、図3を参照しつつセンサ素子ユニット10を作製する概略手順を説明する。なお、感温体2とリード線4と被覆材5とは予め組み付けられているものとする。これをここでは便宜上、ユニット中間体と呼ぶことがある。
図3(a)に示すように、ユニット中間体の被覆材5の後端とリード線保護管8の前端が接するまで、リード線4をリード線保護管8の保持孔8hに挿入する。
そして、図3(b)に示すように、ユニット中間体を成形型11内に配置する。成形型11は、主型11aとヘッド11bとからなり、ヘッド11bには注入口11cが形成される。図示しない原料供給源から封止端密閉体7、充填材9形成用の原料LMが注入口11cから主型11a内に注入される。
【0031】
図3(c)に示すように、成形型11内の所定位置にユニット中間体を配置した後に、注入口11cから原料LMを圧入する。この原料LMは、セラミック粉末と分散媒からなり、流動性を有する。分散媒としては、原料LMに流動性を与えるアルコール系や水系の液状物を広く適用できる。
主型11aと被覆材5の最大外径部との間に隙間を設けているので、原料LMは当該隙間を通過して、リード線保護管8まで達することができる。さらに原料は、リード線4とリード線保護管8の保持孔8hとの隙間に侵入し、当該隙間が原料LMで満たされる。
原料LMがリード線保護管8の保持孔8hとの隙間を満たした後に、図3(d)に示すように、ユニット中間体を成形型11から取出す。被覆材5の外周にある余分な原料LMを除去して、被覆材5の外形を整える。なお、余分な原料LMを除去することは必須ではないが、感温体2の温度検知の感度を上げるためには、余分な原料LMを除去することが好ましい。
しかる後、ユニット中間体を所定温度に加熱することにより原料LMを焼結して封止端密閉体7、充填材9とする(図3(e))。
【0032】
以上のセンサ素子ユニット10の作製方法によれば、注入という一つの工程により封止端密閉体7、充填材9に相当する部分に原料LMを供給できる利点がある。また、焼結後には封止端密閉体7と充填材9が一体化されたセラミックから構成されるので、ユニット中間体とリード線保護管8とを強固に接合できる。
また、以上のセンサ素子ユニット10によれば、リード線保護管8は予め焼結されたセラミックから構成されるので、リード線4を精度よく位置決めできる。また、流動性のある原料LMを用いて成形した後に焼結して構成するのは、体積の小さい封止端密閉体7、充填材9の部分なので、短時間で焼結を完了できる。
【0033】
第1実施形態の温度センサ1は、リード線保護管8を用いたが、本発明はこれに限定されず、以下説明するように、図1(c)、図2(a)、(b)に示す形態とすることもできる。なお、以下の実施形態において、図1と同じ構成には同じ符号を付してその説明を省略する。
<第2実施形態>
図1(c)の温度センサ30は、センサ素子ユニット25と、リード線4の後方側の一部を除いてセンサ素子ユニット25を収容する金属保護管20とから構成される。センサ素子ユニット25は、第1実施形態の封止端密閉体7とリード線保護管8を一体に作製して遮蔽体26を構成したものとみなせる。遮蔽体26は、第1実施形態と同様に、セラミック粉末と分散媒からなる原料LMを、型内の所定領域に供給して成形体を作製し、その後焼結することにより形成できる。以下の第3、第4実施形態も同様である。
この第2実施形態によるセンサ素子ユニット25においても、遮蔽体26が被覆材5の後端側を取り囲んで封止端6を密閉するとともに、リード線4を保護する。
【0034】
<第3実施形態>
図2(a)の温度センサ40は、センサ素子ユニット35と、センサ素子ユニット35を収容する金属保護管20とから構成される。
センサ素子ユニット35は、第2実施形態の遮蔽体26と同様の遮蔽体36を覆うセラミック製の被覆管37を設けたものである。この第3実施形態によるセンサ素子ユニット35においても、遮蔽体36、さらには被覆管37が被覆材5の後端側を取り囲んで封止端6を密閉するとともにリード線4を保護する。
【0035】
<第4実施形態>
図2(b)の温度センサ50は、センサ素子ユニット45と、センサ素子ユニット45を収容する金属保護管20とから構成される。
センサ素子ユニット45は、被覆材5の先端まで覆う遮蔽体38を設け、さらに遮蔽体38を収容するセラミック製の被覆管39を設けたものである。この第4実施形態によるセンサ素子ユニット45においても、遮蔽体38、さらには被覆管39が被覆材5の後端側を取り囲んで封止端6を密閉するとともに、リード線4を保護する。
【0036】
<第5実施形態>
500℃以上の高温下で温度測定するのに好適なより具体的な温度センサ60を図4に基づいて説明する。
温度センサ60は、その基本構成が第1実施形態の温度センサ1に従っているので、以下では、温度センサ1との相違点を中心に説明する。
温度センサ60は、リード線4が、Pt又はPt合金からなる第1リード線41と、Ni又はNi合金からなる第2リード線42とから構成される。第1リード線41は感温素子2に直接接続され、第2リード線42は第1リード線41に接続部43において接続される。より高い温度に晒される側にPt又はPt合金からなる第1リード線41を配置し、それよりも後端側にはNi又はNi合金からなる第2リード線42を配置する。
第2リード線42は、リード線保護管8から露出される後端側に絶縁被覆44が施されている。さらに、絶縁被覆44が施されている部分の大半は、ガラス繊維又はセラミック繊維からなる網状編組チューブ45で覆われている。
図4(b)に示すように、金属保護管20の一部にかしめ部21を設けることにより、リード線4を網状編組チューブ45とともに金属保護管20に固定できる。
【0037】
温度検知時において、リード線保護管8からのリード線4の引き出し部の温度をLt(℃)、金属保護管20及びリード線4が加熱により金属が蒸発を開始する温度をVt(℃)としたとき、LtとVtがVt>Ltの関係で構成されていることが好ましい。
また、温度検知時において第1リード線41と第2リード線42の接続部43は、600℃以下の温度となる位置に設けられることが好ましい。
【0038】
温度センサ60は取り付けフランジ22により筐体70に取り付けられて温度検知を行う。そして金属保護管20の先端部を筐体70内部の高温部に晒す必要がある。筐体70に温度センサ60を取り付けるのは、高温部とその外部にある常温部を隔絶させ人的害を未然に防ぎ、あるいは高温部の温度を効率的に上げるのに必要である。したがって、筐体70は高温と常温の中間領域の温度になっている場合が多い。
そこへ温度センサ60を取り付けた場合、温度センサ60の金属保護管20は感温体20が収納された先端部の温度が一番高く、リード線4が引き出される金属保護管20の開放端の温度が一番低い。
例えば、図4の1000〜400℃の温度分布となる。
これにより、高温部の熱が金属保護管20を伝達して常温部に伝わってくる熱引き現象が起きる。熱引きが大きいものほど金属保護管20の長さを長くして検出温度誤差を軽減する必要があり、図4(a)に示すようにリード線4引き出し部の後端を筐体70より温度の低いところまで延長し、かつ絶縁被覆されたリード線4に繋ぎ変えることが好ましい。
【0039】
また、金属保護管20が長すぎると、プレス絞り加工により製造することが困難である。プレス絞り加工品は、一般的には内径×10倍〜20倍の長さが限界と言われている。例えば内径がφ3の金属保護管20であれば、全長が30mm〜60mmまでしかプレス絞り加工により製造できない。
これに対応するには、金属保護管20を先端部と後端部の2分割で作り、製造工程途中で一体化したり、シームやシームレスパイプを必要な長さで切断し片方の端を溶封したりして金属保護管20の長さを確保することになる。本実施形態は、ここにも配慮がなされている。
すなわち、高温を測る用途で多い燃焼状態の監視における、炎温度、排気ガス温度などの局所的な高温部では、熱源から金属保護管20への熱量の伝達が非常に多い。そこで、筐体70、フランジ22を介して金属保護管20を水冷又は空冷で強制的に局部冷却することで、全長が短い金属保護管20でも温度センサ60が構成できる。つまり、上述したプレス絞り加工による金属保護管20が使えるようになる。
【0040】
以上のことは次なるメリットを生み出す。
金属保護管20の全長を短くできることで、感温体2を製造するときに使った長いリード線がそのまま利用できる。感温体20を製造するときにリード線4が無いと、温度の検出誤差の検査ができない。特に温度が高い場合はリード線4が必須となる。
また、リード線4で感温体2を保持してさまざまな加工(コートやディップ)を感温体2に施すことができる。リード線4は感温体2の対の電極3に繋がっているので、信号線として利用することができる。
さらに、リード線保護管8についても、セラミックの押出し成型やプレス成型品が、金属保護管20の長さが短いことにより利用することが可能になる。
ちなみに、セラミックの押出し成形やプレス成型品の製造限界は、金属保護管20の加工限界と同等以下である。
金属保護管20が長い場合には、リード線4を継ぎ足し、線間絶縁を確保するためリード線保護管8を何本か継ぎ足したり、無機物の粉を金属保護管8内に充填したりする必要がある。これは手間であり大量生産を阻む要因となる。
【0041】
実施形態の効果を確認するために、図5(a)、(b)に示すように温度センサを筐体70内に保持して、先端部温度Tmaxを500〜800℃にして高温通電試験を行なった。なお、図5(a)は第1実施形態による温度センサ1を用い、図5(b)は封止端密閉体7を設けない以外は第1実施形態による温度センサ1と同様の比較温度センサを用いた。結果を図6に示す。
図6に示すように、第1実施形態による温度センサ1を用いると、10mAの通電電流、1000時間経過後であっても検知温度の変化が微小である。これに対して、比較温度センサは、0.1mA(比較−1)の通電電流であっても10時間程度(Tmax:800℃)で検知温度が大きくずれる異常が生じた。通電電流が10mA(比較−2)になるとさらに検知温度異常が短時間で生じ、通電電流が大きいほど温度センサの耐久時間が短くなる。
【0042】
以上説明したように、本発明による温度センサは高温通電耐久性が向上したため、温度センサが自己加熱しない範囲で、高電流を短パルス状に通電して大きな検知電圧を取り出すことができる。したがって、本発明による温度センサを用いれば、図7(a)に示す感温体2と直列に抵抗Rを接続し、その分圧電圧を検出電圧として増幅器Aに入力する通電回路C1を使用することなく、図7(b)に示すADコンバータCVに検知電流を入力することができる。
すなわち、図7(b)に示される温度センサシステムは、感温体(温度センサ)2と、感温体2に温度検出電流を供給する通電回路C2と、感温体2が検出した温度情報をアナログ電圧信号として入力されるADコンバータCVと、ADコンバータCVで変換されたディジタル信号を温度に換算して制御動作を行うコントローラCTRと、を備える。
通電回路C2は、基準電源BPSと感温体2との間に並列に接続される第1通電回路C21と第2通電回路C22の2つの通電回路を備える。第1通電回路C21は、基準電源BPSにコレクタCL1が接続されるトランジスタTr1と、エミッタE1を介してトランジスタTr1に直列に接続される抵抗R1を備える。また、第2通電回路C22は、基準電源BPSにコレクタCL2が接続されるトランジスタTr2と、エミッタE2を介してトランジスタTr2に接続される抵抗R2を備える。なお、抵抗R1と抵抗R2は、抵抗値が相違する。
【0043】
トランジスタTr1はベースB1を介して、また、トランジスタTr2はベースB2を介してコントローラCTRに接続される。コントローラCTRは、ベースB1又はベースB2にベース電流を供給することにより、トランジスタTr1、トランジスタTr2のON/OFF動作を制御する。
トランジスタTr1がON、トランジスタTr2がOFFの場合、第1通電回路C21を介して感温体2に温度検出電流が供給され、そうすると抵抗R1と感温体2の分圧電圧が温度情報(アナログ電圧信号)としてADコンバータCVに入力される。ADコンバータCVで変換されたディジタル信号は、コントローラCTRに入力され、コントローラCTRはこのディジタル信号を検知温度に換算する。コントローラCTRは、得られた検知温度に基づいて、温度センサシステムが備えられた機器、装置の動作を制御することができる。
トランジスタTr1がOFF、トランジスタTr2がONの場合、第2通電回路C22を介して感温体2に温度検出電流が供給され、そうすると抵抗R2と感温体2の分圧電圧が温度情報(アナログ電圧信号)としてADコンバータCVに入力される。以後は、上記と同様にして検知温度を得るとともに、コントローラCTRは、得られた検知温度に基づいて種々の制御を行なう。
【0044】
以上のように、第1通電回路C21と第2通電回路C22は、コントローラCTRの指示に基づいていずれか一方が選択的に感温体2に温度検出電流を供給するが、この選択は検出する温度によって定められる。例えば、図7(c)に示すように、検出温度が低い場合には第1通電回路C21をON、第2通電回路C22をOFFにし、検出温度が高い場合には第1通電回路C21をOFF、第2通電回路C22をONにする。
【0045】
図8には本実施形態に係るサーミスタの25℃、200℃、400℃、600℃、800℃の静止空気中でのI−V(電流−電圧)特性を示す。このI−V特性は、サーミスタに定電流を通電したときのサーミスタの端子電圧を、縦軸が電圧値、横軸が電流値の両対数グラフにプロットしたものである。
図8に示すように、ジュール熱で自己発熱しない間は、サーミスタに定電流を通電する電流値に応じて右斜め45°に電圧値が上昇する。やがて徐々にジュール熱によりサーミスタが自己発熱を開始すると電圧値の上昇がにぶり、やがて電圧極大点を通過すると電圧値が下降に転じる。一般的にサーミスタはこのようなI−V特性を示す。
【0046】
さらに、図8のグラフには、本実施の形態に係るサーミスタがその消費電力に応じて周囲温度から0.5℃、1℃、5℃、10℃温度上昇する消費電力を表示する左斜め上がりのプロットを示す。例えば0.5℃上昇とは、周囲温度が25℃であるにも拘わらずサーミスタの温度が25.5℃になることを示し、周囲温度25℃より0.5℃高い温度を検出することになる。
一般的に言われるサーミスタの熱放散定数(W/℃)とは、サーミスタがジュール熱により1℃自己発熱した時のことを言う。定数なので本来自己加熱温度は左斜め45°上がりになるが、広い温度範囲で測定すると、静止空気中とはいえ実際の測定において熱の伝熱形態(伝導・対流・輻射)が微妙に変化するため、図8で示すような結果になることが多々ある。
【0047】
さらに図8には、単体ではこのようなI−V特性を示すサーミスタを、図7(a)に示す通電回路C1に接続し、増幅器Aに入力される電圧値とサーミスタに流れる電流値をI−V特性図上にプロットしたサーミスタの動作線を示す。
サーミスタ(感温体)2に通電する電流を制限する直列抵抗Rの抵抗値は、サーミスタ2のI−V特性で示される自己発熱量が許容誤差以下になるように適切に選ばれる。
この実施形態の場合、周囲温度25℃〜200℃の間で自己加熱温度が最大になるが、その値は0.5℃以下であることが図8に示されている。
また、同時にI−V特性と動作線の交点は、図7(a)で示した通電回路C1で温度測定した際に増幅器Aに入力される電圧値を示す。例えば、周囲温度25℃であれば、電圧値は3.8V、200℃であれば0.8Vである。
【0048】
図9には図8で示したのと同じサーミスタの25℃、200℃、400℃、600℃、800℃の静止空気中でのパルスI−V特性を示す。このパルスI−V特性は、サーミスタに通電する期間(ON)、通電しない期間(OFF)から構成される通電周期を決めたパルス定電流を通電したとき、通電周期に応じてパルス状に発生するサーミスタの端子電圧を、縦軸がパルス電圧値、横軸がパルス電流値の両対数グラフにプロットしたものである。
ON期間中にも僅かずつサーミスタは自己発熱するので、通電時間が長いと大きく自己発熱してしまう。そこで、パルス通電することにより、通電をOFFする期間を設けてサーミスタを冷却する。
【0049】
ジュール熱で自己発熱しない間は、サーミスタにパルス定電流を通電する電流値に応じて右斜め45°に電圧値が上昇すること、やがて徐々にジュール熱により自己発熱を開始するとパルス電圧値の上昇がにぶること、電圧極大点を通過するとパルス電圧値が下降に転じること、はパルス通電であっても同様に生じる。
【0050】
さらに、図9のグラフにも図8と同様にサーミスタがそのパルス通電による消費電力に応じて周囲温度から0.5℃、1℃、2℃、3℃温度上昇する消費電力を表示する左斜め上がりのプロットを示す。
図8と図9を比較するとパルスで通電したほうが同じ消費電力でも温度上昇が小さくなる。このため、パルスI−V特性の方が連続通電によるI−V特性と比較して電圧極大点がはるかに大きくなる。
【0051】
さらに図9には、単体ではこのようなパルスI−V特性を示すサーミスタを、図7(b)に示す通電回路C2に接続した時に、ADコンバータCVに入力される電圧値とサーミスタ2に流れる電流値をI−V特性図上にプロットしたサーミスタ2の動作線を示す。
【0052】
ここで、図7(b)の回路について説明する。
通電回路C2は、第1通電回路C21及び第2通電回路C22からなる2つの通電回路におけるトランジスタTr1、Tr2を、コントローラCTRからの信号で切り替えられる。
第2通電回路C22は高温側を測定するものであり、電流制限抵抗R2の抵抗値は、サーミスタ2のパルスI−V特性で示される自己発熱量が許容誤差以下になるように適切に選ばれる。本実施の形態の場合は、周囲温度400℃で自己加熱温度が最大になるが、その値は1℃以下であることが図9に示されている。
第1通電回路C21は低温側を測定するものであり、電流制限抵抗R1の抵抗値は、図7(a)に示される通電回路C1の制限抵抗Rと同じである。
【0053】
次に図7(c)には図7(b)に示した通電回路において、トランジスタTr1、Tr2を切り替えてサーミスタ2へ通電するタイミングを示す。
低温側のトランジスタTr1がOFFし、高温側のトランジスタTr2がONしている時間は、サーミスタ2単体でパルスI−V測定する際に使ったパルス定電流の通電周期と同じである。
高温側のトランジスタTr2がOFFし、低温側のトランジスタTr1がONしている時間は、通電回路が図7(a)で示したのと実質的に同じである。したがって、連続通電しても自己発熱は十分小さいので、高温側のパルス通電周期内で低温側の測定が完了すれば、パルス状に通電しても良いし、連続通電しても良い。図7(c)にはパルス通電した例が示されている。
【0054】
通電回路C2が第1通電回路C21及び第2通電回路C22と2回路あるので、図9には2本の動作線が示されており、各々の動作線とパルスI−V特性の交点が存在する。
図7(c)で示される周期で通電すると、1周期の間に高温側、低温側の2つの電圧信号が1回ずつADコンバータCVに入力されコントローラCTRにディジタル信号として送信される。
コントローラCTRは、低温側の電圧が0.1V未満ならば現在の温度は600℃以上と判断し、次に入ってくる高温側の電圧値を計算して現在温度を算出する。
逆にコントローラCTRは、低温側の電圧値が0.1V以上なら現在の温度は600℃未満と判断してこの低温側の電圧値を計算して現在温度を算出する。
なお、ここでは低温領域及び高温領域に対応するように、第1通電回路C21及び第2通電回路C22と2組の通電回路を設けたが、例えば測定温度領域を低温領域、中温領域及び高温領域と3つに区分する場合には、3組の通電回路を設けることになる。つまり、本発明の通電回路は少なくとも2組備えていればよく、3組以上通電回路を設けることを許容する。
【0055】
連続通電で高温領域まで測定するには、図7(a)の通電回路C1であれば印加電圧5Vを例えば0.5Vに下げて自己発熱量を抑えるとともに、高精度な増幅器Aを組み合わせることが必須である。
これに対して、高温領域の測定のみをパルス通電とし、自己発熱を抑えて測定できれば、高精度な増幅器は不要になる。
【0056】
本発明による温度センサは、種々の用途に用いることができる。その例として、図10(a)に示すように電気式ヒータの温度制御に用いることができるし、図10(b)に示すように火炎バーナの温度制御に用いることができる。いずれにおいても、温度センサSからの検知温度と設定温度とを通電回路を含む制御回路内において比較し、その比較結果に基づいて、電気式ヒータの場合には投入電力を制御し、火炎バーナの場合には投入する燃料・空気を制御する。なお、電気ヒータの具体例としては、オーブン、ラジアントヒータ、排気ガス浄化装置(DPF:Diesel particulate filter)のフィルタ再生ヒータ等が掲げられる。また、火炎バーナとしては、ガスバーナ、石油バーナが掲げられる。ただし、これはあくまで例示であり、本発明を限定するものではない。
【0057】
温度の制御に熱電対を使用するケースもあるが、熱電対は出力電圧が小さいために数百倍から数千倍の増幅器が必須であり、個体差を抑えるためには構成する帰還抵抗も高精度のものが必要となる。また検知温度を高精度化するためには温度補償が必要である。さらに、熱電対の製作に手間が掛かるのと、熱電対はセンサの先端部接点位置の管理が実質上できないのに等しいため、サーミスタを用いた温度センサに比べて測温位置の精度が著しく劣る。
このため、熱電対を温度センサに用いると、検知温度に個体差が生じる結果、制御機器の個体差から生まれる温度検知商品としての精度を損なうおそれがあるのに対して、本発明の温度センサはこれらの問題が生じない。
また、被覆材5、つまりガラスで感温体2が被覆されてないセンサ素子を用いて温度検知・制御することも可能であるが、高温通電耐久性が著しく劣り、しかも高温で使えない、大きな信号を取り出せないので高価な増幅器が必要になるなど、供給・コストで本発明の温度センサを使用すると、個体差が少なく耐久性に優れ、低コストであるという優位性がある。
【0058】
なお、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択し、あるいは他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1,30,40,50,60…温度センサ
10,25,35,45…センサ素子ユニット
2…感温体、3…電極、4…リード線、5…被覆材、6…封止端
7…封止端密閉体、26,36,38…遮蔽体、8…リード線保護管、9…充填材
20…金属保護管
C1,C2…通電回路、C21…第1通電回路、C22…第2通電回路、CV…ADコンバータ
CTR…コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度によって電気抵抗が変化する感温体と、前記感温体に電気的に接続される一対のリード線と、前記感温体と、前記接続部から所定範囲内の前記リード線とを封止する被覆材とを備え、前記リード線が前記被覆材の封止端から引き出されるセンサ素子と、
前記リード線の一部を除いて前記センサ素子を収容する金属保護管と、
前記感温体と前記金属保護管の間にあって前記封止端を密閉する封止端密閉部と、前記封止端から引き出される前記リード線が貫通して収容される貫通孔を有するリード線保護部とからなるセラミック製の遮蔽体と、
を備え、
前記遮蔽体は前記金属保護管内に遊嵌されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
前記センサ素子と前記遮蔽体とが予め一体に形成されたセンサ素子ユニットが、これとは別に予め形成された前記金属保護管に挿入、固定されている請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記リード線保護部は、
前記リード線が貫通する前記貫通孔を有する保護部本体と、
前記保護部本体と前記貫通孔を貫通する前記リード線との間に介在するセラミック製の充填材と、を備える請求項1又は2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記封止端密閉部は、前記充填材と一体に形成される請求項3に記載の温度センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の温度センサと、
前記温度センサに温度検出電流を供給する通電回路と、
前記温度センサが検出した温度情報をアナログ電圧信号として入力されるADコンバータと、
ADコンバータで変換されたディジタル信号を温度に換算して制御動作を行うコントローラと、を備え、
前記通電回路は、
前記コントローラの指示に基づいて前記温度センサにパルス状の温度検出電流を供給することを特徴とする温度センサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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