温度制御装置および温度制御方法
【課題】液体の温度を迅速に変化させるのに適した温度制御装置および温度制御方法を提供する。
【解決手段】本発明の温度制御装置X1は、液受容体40に当接してこれを保持可能であり且つ液受容体40内の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度を維持可能な保持手段11と、目標低温度より高い目標高温度より高い第2温度を維持可能な、液受容体40に当接して液体を昇温するための加熱ブロック12と、目標低温度より低い第3温度を維持可能な、液受容体40に当接して液体を降温するための冷却ブロック13とを備える。本発明の方法は、例えば、保持手段11に保持された液受容体40に加熱ブロック12を当接させて液体を昇温させる昇温工程と、保持手段11に保持された液受容体40に冷却ブロック13を当接させて液体を降温させるための降温工程とを含む。
【解決手段】本発明の温度制御装置X1は、液受容体40に当接してこれを保持可能であり且つ液受容体40内の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度を維持可能な保持手段11と、目標低温度より高い目標高温度より高い第2温度を維持可能な、液受容体40に当接して液体を昇温するための加熱ブロック12と、目標低温度より低い第3温度を維持可能な、液受容体40に当接して液体を降温するための冷却ブロック13とを備える。本発明の方法は、例えば、保持手段11に保持された液受容体40に加熱ブロック12を当接させて液体を昇温させる昇温工程と、保持手段11に保持された液受容体40に冷却ブロック13を当接させて液体を降温させるための降温工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばPCR装置として使用することが可能な温度制御装置、および、例えばPCR法にて採用することが可能な温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの技術分野において、液体の温度を制御するための装置が使用されている。例えば生化学技術の分野では、試料液の温度を制御する必要のある場合が多く、用途に応じたタイプの温度制御装置が適宜に使用されている。そのような温度制御装置の一つとして、PCR(polymerase chain reaction)法を実行するためのPCR装置が知られている。PCR装置については、例えば下記の特許文献1,2に記載されている。
【0003】
図17は、従来のPCR装置の一例たるPCR装置X2を表す。PCR装置X2は、保持ブロック91と、加熱ブロック92と、冷却ブロック93とを備え、熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを複数回繰り返すPCR法を実行可能なように構成されている。
【0004】
保持ブロック91は、チューブ94を保持するためのものであり、複数の凹部91aを有する。各凹部91aにチューブ94が差し込まれ得る。チューブ94は、PCR法を実行するための所定の反応試液等(図示略)を受容している。反応試液には、鋳型DNAや、プライマーDNA、DNAポリメラーゼ、dNTPが含まれている。また、保持ブロック91は、図外の移送手段により、図18に示すような加熱ブロック92上の位置と、図19に示すような冷却ブロック93上の位置との間を、移送され得る。加熱ブロック92は、保持ブロック91に熱を供給するためのものであり、図外の発熱デバイスと熱的に接続されている。冷却ブロック93は、保持ブロック91から熱を奪うためのものであり、図外の吸熱デバイスと熱的に接続されている。
【0005】
以上のような構成を有するPCR装置X2では、例えば次のようにしてPCR法が実行される。
【0006】
保持ブロック91が加熱ブロック92上に移送および載置されて加熱ブロック92によって昇温される(昇温工程)。このとき、加熱ブロック92は、図外の発熱デバイスの稼働によって熱変成温度T11(例えば95℃)に維持されている。
【0007】
保持ブロック91がほぼ熱変成温度T11に至ると、保持ブロック91に保持されているチューブ94内の反応試液もほぼ熱変成温度T11に至り、所定時間の熱変成工程が開始される。熱変成工程では、鋳型DNAの二本鎖が一本鎖に分離される。
【0008】
熱変成工程の後には、保持ブロック91が冷却ブロック93上に移送および載置されて冷却ブロック93によって降温される(降温工程)。このとき、冷却ブロック93は、図外の吸熱デバイスの稼働によってアニーリング・伸長温度T12(例えば60℃)に維持されている。
【0009】
保持ブロック91がほぼアニーリング・伸長温度T12に至ると、保持ブロック91に保持されているチューブ94内の反応試液もほぼアニーリング・伸長温度T12に至り、所定時間のアニーリング・伸長工程(アニーリング工程と伸長工程とが同時進行する工程)が開始される。アニーリング工程では、鋳型の各一本鎖DNAとプライマー(当該一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列を有する)とが結合される。伸長工程では、鋳型一本鎖DNAと結合したプライマーの3’末端側において、鋳型一本鎖DNAと相補的な塩基配列を有するDNA鎖が伸長ないし合成される。
【0010】
PCR装置X2では、以上のような各工程を含むサイクルが複数回繰り返されることにより、所定の塩基配列を有するDNA断片が増幅され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−501530号公報
【特許文献2】特開平6−277036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図20は、PCR装置X2によって実行される上述のPCR法の各サイクルにおける、反応試液の温度変化の一例を表すグラフである。図20のグラフに表れているように、昇温工程では、目的温度(熱変成温度T11)付近の温度領域における昇温速度は、昇温工程の初期段階での昇温速度に比べて相当程度に小さい。そのため、PCR装置X2においては、昇温速度が相当程度に小さい温度領域を経て反応試液を熱変成温度T11に至らしめる必要があり、昇温工程について充分に長い時間を確保する必要がある。加えて、降温工程では、目的温度(アニーリング・伸長温度T12)付近の温度領域における降温速度は、降温工程の初期段階での降温速度に比べて相当程度に小さい。そのため、PCR装置X2においては、降温速度が相当程度に小さい温度領域を経て反応試液をアニーリング・伸長温度T12に至らしめる必要があり、降温工程について充分に長い時間を確保する必要がある。以上のようなPCR装置X2は、昇温工程や降温工程について短時間で終了させるのに適していない。すなわち、PCR装置X2は、反応試液(液体)の温度を迅速に変化させるのに適していない。
【0013】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであり、液体の温度を迅速に変化させるのに適した温度制御装置および温度制御方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の側面によると温度制御装置が提供される。この温度制御装置は、保持手段と、加熱ブロックと、冷却ブロックとを備える。保持手段は、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能であり、且つ、液体の温度をその目標低温度(TL)に保つための第1温度(T1)を維持可能である。加熱ブロックは、液受容体に当接して液体を昇温するためのものであり、液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、目標低温度(TL)より高い目標高温度(TH)より高い第2温度(T2)を維持可能である。冷却ブロックは、液受容体に当接して液体を降温するためのものであり、液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、目標低温度(TL)より低い第3温度(T3)を維持可能である。
【0015】
本温度制御装置による温度制御の対象たる液体は液受容体に受容され、当該液受容体は保持手段に保持される。装置稼働時には、保持手段の温度は、液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度に設定されて当該第1温度に維持される。液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度とは、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動がなく且つ液受容体ないし液体から冷却ブロックへの熱移動もない状態で、仮に充分な時間が経過した場合に、液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための温度であり、目標低温度や、環境温度、液受容体構成材料の熱伝導率、液受容体の構造ないし放熱性などに応じて、適宜設定される。例えば、目標低温度と環境温度とが同じか略同じである場合、保持手段の第1温度については、目標低温度と同じ温度に設定するのが適当である場合がある。例えば、目標低温度が環境温度より有意に高い場合、保持手段の第1温度については、目標低温度より高く設定するのが適当である場合が多い。例えば、目標低温度が環境温度より有意に低い場合、保持手段の第1温度については、目標低温度より低く設定するのが適当である場合が多い。
【0016】
本温度制御装置による昇温は、液受容体に対して相対変位可能な加熱ブロックを当該液受容体に接近させて当接させることによって行う。少なくとも当該昇温過程では、加熱ブロックの温度は、第2温度に設定されて当該第2温度に維持される。装置稼働中、加熱ブロックの温度は第2温度に維持されるのが好ましい。第2温度とは、液受容体中の液体にとっての目標高温度より高い(目標高温度は目標低温度より高い)。そして、本温度制御装置による昇温過程では、例えば、液受容体中の液体の温度が目標高温度に達した時点で加熱ブロックを液受容体から離すことにより、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動を停止する。
【0017】
本温度制御装置による降温は、第1温度にある保持手段に保持されている液受容体に対して相対変位可能な冷却ブロックを当該液受容体に接近させて当接させることによって行う。少なくとも当該降温過程では、冷却ブロックの温度は、第3温度に設定されて当該第3温度に維持される。装置稼働中、冷却ブロックの温度は第3温度に維持されるのが好ましい。第3温度とは、液受容体中の液体にとっての目標低温度より低い。保持手段の第1温度が目標低温度より低い場合には、冷却ブロックの第3温度については第1温度より低くする。そして、本温度制御装置による降温過程では、例えば、液受容体中の液体の温度が目標低温度に達するより前に冷却ブロックを液受容体から離すことにより、液受容体ないし液体から冷却ブロックへの熱移動を停止する。
【0018】
以上のように稼働し得る本温度制御装置は、液体の温度を迅速に変化させるのに適する。その理由は次のとおりである。
【0019】
本温度制御装置において、液体を昇温させるに際しては、液体を受容する液受容体に対して加熱ブロックは直接接触することができる。そのため、本装置による昇温過程では、加熱ブロックは、液受容体に直接接触して液体を昇温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を昇温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標高温度に向けて昇温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標高温度に向けて昇温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な昇温を阻む傾向にある。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置による昇温過程では、加熱ブロックは、液受容体に直接接触して液体を昇温することが可能であり、液受容体を保持するための熱容量体を介して液受容体ないし液体を昇温する必要はないのである。加熱ブロックと液受容体ないし液体と間に大きな熱容量体が介在しないこのような本温度制御装置は、液受容体中の液体を迅速に昇温させるのに適する。
【0020】
また、本温度制御装置において、昇温過程にある液受容体中の液体の温度をTとし、液体にとっての目標高温度をTHとし、加熱ブロックの第2温度をT2とし、液受容体中の液体に供給される熱量をQとし、時間をtとすると、昇温過程における液体の温度の上昇率すなわち昇温速度(dT/dt)は、当該液体に対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに供給される当該熱量(dQ/dt)は、昇温対象たる液体と加熱ブロックとの温度差(T2−T)と高い相関関係にあり、当該温度差(T2−T)に略比例する。温度差(T2−T)が大きいほど、単位時間あたりの供給熱量(dQ/dt)は大きく、昇温速度(dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92の温度は、反応試液の目標高温度たる熱変成温度T11に維持されており、昇温中の反応試液の温度Tとの差は(T11−T)であるが、本発明の第1の側面に係る温度制御装置と従来のPCR装置X2とで目標高温度を同じに想定して(即ち、TH=T11として)比較すると、本温度制御装置における液体と加熱ブロックとの温度差(T2−T)については、PCR装置X2における反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T2>TH=T11である)。上述のように、この温度差(T2−T)が大きいほど、液受容体中の液体に対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)は大きく、従って、液体の昇温速度(dT/dt)は大きい。
【0021】
本温度制御装置によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、昇温工程における熱変成温度T11(目標高温度)付近の温度領域における昇温速度は、昇温工程の初期段階での昇温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが上昇して熱変成温度T11(目標高温度)に接近するにつれて、反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液へ供給される熱量が小さくなって昇温速度も小さくなる)。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置によると、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域においても、昇温中の液体と加熱ブロックとの温度差(T2−T)について有意な差を確保しやすく、そのため、液受容体中の液体に対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、本温度制御装置によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0022】
一方、本温度制御装置において、液体を降温させるに際しては、液体を受容する液受容体に対して冷却ブロックは直接接触することができる。そのため、本装置による降温過程では、冷却ブロックは、液受容体に直接接触して液体を降温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を降温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標低温度に向けて降温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標低温度に向けて降温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な降温を阻む傾向にある。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置による降温過程では、冷却ブロックは、液受容体に直接接触して液体を降温することが可能であり、液受容体を保持するための熱容量体を介して液受容体ないし液体を降温する必要はないのである。冷却ブロックと液受容体ないし液体と間に大きな熱容量体が介在しないこのような本温度制御装置は、液受容体中の液体を迅速に降温させるのに適する。
【0023】
また、本温度制御装置において、降温過程にある液受容体中の液体の温度をTとし、液体にとっての目標低温度をTLとし、冷却ブロックの第3温度をT3とし、液受容体中の液体から奪われる熱量をQとし、時間をtとすると、降温過程における液体の温度の下降率すなわち降温速度(−dT/dt)は、当該液体から単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに奪われる当該熱量(dQ/dt)は、降温対象たる液体と冷却ブロックとの温度差(T−T3)と高い相関関係にあり、当該温度差(T−T3)に略比例する。温度差(T−T3)が大きいほど、単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、降温速度(−dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93の温度は、反応試液の目標低温度たるアニーリング・伸長温度T12に維持されており、降温中の反応試液の温度Tとの差は(T−T12)であるが、本発明の第1の側面に係る温度制御装置と従来のPCR装置X2とで目標低温度を同じに想定して(即ち、TL=T12として)比較すると、本温度制御装置における液体と冷却ブロックとの温度差(T−T3)については、PCR装置X2における反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T3<TL=T12である)。上述のように、この温度差(T−T3)が大きいほど、液受容体中の液体から単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、従って、液体の降温速度(−dT/dt)は大きい。
【0024】
本温度制御装置によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、降温工程におけるアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)付近の温度領域における降温速度は、降温工程の初期段階での降温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが下降してアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に接近するにつれて、反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液から奪われる熱量が小さくなって降温速度も小さくなる)。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置によると、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域においても、降温中の液体と冷却ブロックとの温度差(T−T3)について有意な差を確保しやすく、そのため、液受容体中の液体から単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、本温度制御装置によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0025】
以上のように、本温度制御装置は、液体の温度を迅速に変化(昇温・降温)させるのに適するのである。このような温度制御装置は、迅速な温度制御が求められる例えばPCR装置として使用するのに好適である。
【0026】
加えて、本温度制御装置は、液体の温度を目標高温度や目標低温度に正確に制御するのに適する。その理由は次のとおりである。
【0027】
上述の従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程において反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に接近するほど、反応試液温度Tと加熱ブロック92の温度T11とが接近し、温度差(T11−T)に略比例する反応試液の昇温速度(dT/dt)は0に接近する。そのため、従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程にて反応試液温度Tが有限の時間で熱変成温度T11(目標高温度)に到達することができない。このようなPCR装置X2では、実際上も、昇温工程にて反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に到達しにくいため、昇温工程にて反応試液温度Tを熱変成温度T11に正確に到達させにくい。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置においては、上述のように、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における液体の昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすく、これは、昇温中の液体の温度Tが目標高温度THに到達するまで当該液体の昇温速度(dT/dt)を大きく確保して液体温度Tが目標高温度THに迅速かつ確実に到達し得ることを意味する。そして、液受容体中の液体の温度Tが目標高温度THに達した時点で加熱ブロックを液受容体から離すことにより、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動を停止させて、液体の昇温を停止することができる。このような本温度制御装置は、昇温中の液体の温度を目標高温度に正確に制御するのに適する。
【0028】
一方、液体から熱量を奪い続けて液体を降温させる場合にあっては、一般に、降温対象の液体から熱量を奪うことを停止しても当該液体の温度は下がり続けることがある。例えば従来のPCR装置X2の上述の降温工程では、反応試液温度Tがアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に到達した場合、その時点で冷却ブロック93を保持ブロック91から離して反応試液から熱量を奪うことを停止しても、当該反応試液の温度はアニーリング・伸長温度T12を超えて下がり続ける。そのため、従来のPCR装置X2では、降温工程にて反応試液温度Tをアニーリング・伸長温度T12に正確に制御しにくい。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置においては、保持手段(保持手段の温度は、液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度に設定されて当該第1温度に維持されている)が、降温対象の液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持しているので、冷却ブロックが液受容体から離れた後に液体温度が下がり続けることを阻止することができる。このような本温度制御装置は、降温中の液体の温度を目標低温度に正確に制御するのに適する。
【0029】
以上のように、本温度制御装置は、液体の目標高温度および目標低温度を正確に制御するのに適するのである。このような温度制御装置は、正確な温度制御が求められる例えばPCR装置として使用するのに好適である。
【0030】
本発明の第1の側面において、好ましくは、保持手段の第1温度は、目標低温度と同じか、目標低温度より高く且つ目標高温度より低いか、或は、目標低温度より低く且つ第3温度より高い。保持手段の第1温度については、例えば、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動がなく且つ液受容体ないし液体から冷却ブロックへの熱移動もない状態で仮に充分な時間が経過した場合に液受容体中の液体の温度が目標低温度に保たれるように、目標低温度や、環境温度、液受容体構成材料の熱伝導率、液受容体の構造ないし放熱性などに応じて、適宜設定する。
【0031】
好ましくは、加熱ブロックは、液受容体における保持手段とは反対の側に当接可能であり、且つ、冷却ブロックは、液受容体における保持手段とは反対の側に当接可能である。このような構成は、定温の保持手段による液受容体の保持と、加熱ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体昇温用の当接動作)と、冷却ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体降温用の当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0032】
好ましくは、保持手段は、液受容体を保持可能な保持面を有し、当該保持面に直交する軸心まわりに回転可能である。この場合、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、保持手段の保持面に対向し、且つ、当該保持面に対して接近離反動可能である。このような構成は、定温の保持手段による液受容体の保持と、加熱ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体昇温用の当接動作)と、冷却ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体降温用の当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0033】
好ましくは、保持面は、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第1領域と、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第2領域とを有する。この場合、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された液受容体に対して接近して当接可能であり、第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された液受容体に対して接近して当接可能である。このような構成によると、第1領域に保持された液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第2領域に保持された液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能であり、また、第2領域に保持された液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第1領域に保持された液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能である。
【0034】
好ましくは、保持面は、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第1領域と、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第2領域とを有する。この場合、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された複数の液受容体に対して接近して当接可能であり、第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された複数の液受容体に対して接近して当接可能である。このような構成によると、第1領域に保持された複数の液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第2領域に保持された複数の液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能であり、また、第2領域に保持された液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第1領域に保持された液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能である。
【0035】
好ましくは、第1領域および第2領域は、軸心が中心を通る円(仮想円)の円周上に複数の液受容体が配列するように当該複数の液受容体を保持可能である。このような構成によると、第1領域に保持された複数の液受容体の位置と、第2領域に保持された複数の液受容体の位置とを、保持手段ないし保持面の180°の回転(軸心まわりの回転)によって入れ替える構成を採用しやすい。
【0036】
好ましくは、液受容体は、相対向して離隔する第1セル壁および第2セル壁を有し、当該第1および第2セル壁の間に、液体を受容するためのセルが設けられている。この場合、保持手段は、液受容体の第1セル壁に当接して当該液受容体を保持可能であり、加熱ブロックは、液受容体の第2セル壁に当接可能であり、冷却ブロックも、液受容体の第2セル壁に当接可能である。このような構成は、温度制御対象たる液体と加熱ブロックとの間の熱移動を効率よく行ううえで好適であり、且つ、当該液体と冷却ブロックとの間の熱移動を効率よく行ううえで好適である。
【0037】
好ましくは、第1および第2セル壁の離隔方向に直交する方向におけるセルの最大寸法は、離隔方向におけるセルの最大寸法より大きい。すなわち、温度制御対象たる液体を受容するセルは、扁平形状を有するのが好ましい。このような構成は、温度制御対象たる液体について、単位体積あたりの表面積について大きく確保するうえで好適である。温度制御対象たる液体の、単位体積あたりの表面積が大きいことは、当該液体と加熱ブロックとの間の熱移動や、当該液体と冷却ブロックとの間の熱移動を、効率よく行うのに資する。
【0038】
好ましくは、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、第2セル壁に当接するための突部を有する。加熱ブロックが第2セル壁に当接するための突部を有するという構成は、加熱ブロックからセル中の液体に対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。冷却ブロックが第2セル壁に当接するための突部を有するという構成は、セル中の液体から冷却ブロックに対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。局所的な熱移動の実現は、熱移動効率の向上に資する。
【0039】
本発明の第2の側面によると温度制御方法が提供される。この温度制御方法は、昇温工程および降温工程を含む。昇温工程では、液体を受容する液受容体に対し、液体にとっての目標高温度より高い加熱用温度(第1の側面における第2温度に相当する)にある加熱ブロックを当接させることによって、液体を昇温させる。降温工程では、目標高温度より低い目標低温度より低い冷却用温度(第1の側面における第3温度に相当する)にある冷却ブロックを液受容体に当接させることによって、液体を降温させる。また、降温工程は、目標低温度維持手段を液受容体に当接させつつ行う。目標低温度維持手段は、目標低温度と同じ温度、目標低温度より高く且つ目標高温度より低い温度、または、目標低温度より低く且つ冷却用温度より高い温度にある(目標低温度維持手段の温度は、第1の側面における第1温度に相当する)。
【0040】
このような構成の温度制御方法は、第1の側面に係る上述の温度制御装置によって適切に実行することができ、本方法によると、第1の側面に係る温度制御装置に関して上述した技術的効果が奏される。すなわち、本温度制御方法は、液体の温度を迅速に変化(昇温・降温)させるのに適し、且つ、液体の温度を目標高温度や目標低温度に正確に制御するのに適する。このような温度制御方法は、迅速かつ正確な温度制御が求められる例えばPCR法に適用するのに好適である。
【0041】
本発明の第2の側面において、好ましくは、昇温工程では、液体の温度が目標高温度に達した時に、加熱ブロックを液受容体から離す。このような構成は、昇温工程にて昇温中の液体の温度を目標高温度に正確に制御するのに資する。
【0042】
好ましくは、降温工程では、液体の温度が目標低温度に達するより前に、冷却ブロックを液受容体から離す。このような構成は、降温工程にて降温中の液体の温度を目標低温度に正確に制御するのに資する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る温度制御装置の構成の一部を表す。
【図2】本発明に係る温度制御装置の機能ブロック図の一部である。
【図3】図1の線III−IIIに沿った矢視図であり、試液チップを保持した状態にある回転テーブルの保持面を表す。
【図4】図1の線IV−IVに沿った矢視図であり、加熱ブロックにおける回転テーブル側の面および冷却ブロックにおける回転テーブル側の面を表す。
【図5】(a)は、試液チップの拡大平面図である。(b)は、(a)の線V−Vに沿った断面図である。
【図6】試料チップに対する試液の導入手順を表す。
【図7】本発明に係る温度制御装置が実行する二連の温度制御のステップ表の一部を表す。
【図8】ステップ1,6における温度制御装置の状態を表す。
【図9】ステップ2における温度制御装置の状態を表す。
【図10】ステップ3における温度制御装置の状態を表す。
【図11】ステップ4における温度制御装置の状態を表す。
【図12】ステップ5における温度制御装置の状態を表す。
【図13】昇温工程実行中の温度制御装置の部分拡大断面図である。
【図14】降温工程実行中の温度制御装置の部分拡大断面図である。
【図15】実施例における試液温度変化の一部のグラフである。
【図16】比較例における試液温度変化の一部のグラフである。
【図17】従来のPCR装置の構成を表す。
【図18】図17に示すPCR装置が昇温工程を実行している状態を表す。
【図19】図17に示すPCR装置が降温工程を実行している状態を表す。
【図20】図17に示すPCR装置によって実行されるPCR法の各サイクルにおける、反応試液の温度変化の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1から図4は、本発明に係る温度制御装置X1を表す。図1は、温度制御装置X1の構造の一部を表す。図2は、温度制御装置X1の機能ブロック図の一部を表す。図3および図4は、それぞれ、図1の線III−IIIおよび線IV−IVに沿った矢視図である。
【0045】
温度制御装置X1は、回転テーブル11と、加熱ブロック12と、冷却ブロック13と、温調デバイス21,22,23と、駆動機構31,32,33と、マイクロコンピュータMCとを備え、熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを複数回繰り返すPCR法を実行可能なように構成されている。
【0046】
回転テーブル11は、本発明における保持手段や目標低温度維持手段であり、試液チップ40に当接して当該試液チップ40を保持するための保持面11aを有し、且つ、図1および図3に示す軸心Ax(保持面11aに直交する)まわりに回転可能である。保持面11aは、複数の試液チップ搭載箇所を含む第1領域S1と、複数の試液チップ搭載箇所を含む第2領域S2とを有する(明確化の観点から、第1領域S1と第2領域S2を区分するための仮想線を図3に示す)。本実施形態では、第1領域S1に保持され得る試液チップ40の最大数と、第2領域S2に保持され得る試液チップ40の最大数とは、同じであり、且つ、保持面11a(第1領域S1,第2領域S2)に保持ないし搭載される複数の試液チップ40は、全て、軸心Axが中心を通る仮想円の円周上に配列する。
【0047】
試液チップ40の具体的構造については、図5に示す。図5(a)は、試液チップ40の拡大平面図であり、図5(b)は、図5(a)の線V−Vに沿った断面図である。試液チップ40は、凹部が設けられた本体41と、開口部が設けられたカバー体42とが接合されてなり、相対向して離隔するセル壁41a,42aを有し、セル壁41a,42a間に規定された試液セル43を有し、当該試液セル43に連通する液溜スペース44を有し、当該液溜スペース44に対応する箇所に位置する導入口45を有する。本体41およびカバー体42は、それぞれ、樹脂成形技術によって作製することが可能である。本体41およびカバー体42を構成するための樹脂材料としては、例えば、PS,PC,PMMA,COC,COPなどが挙げられる。セル壁41aは本体41の一部であり、セル壁42aはカバー体42の一部である。セル壁41a,42aの厚さ(図5(b)に表れている厚さ)は、例えば10〜500μmである。試液セル43は、PCR法を実行するための所定の試液等(図5では省略)を受容するためのスペースである。試液セル43は扁平な形状を有し、具体的には、セル壁41a,42aの離隔方向に直交する方向における試液セル43の最大寸法(例えば1000μm)は、前記の離隔方向における試液セル43の最大寸法(例えば500μm)より大きい。このような試液セル43の容積は、例えば0.1〜100μLである。試液セル43に受容されるべき試液には、鋳型DNAや、プライマーDNA、DNAポリメラーゼ、dNTPが含まれる。液溜スペース44は、試液セル43に導入されることとなる試液を調製すべく各種試薬等を混合するためのスペースである。導入口45は、液溜スペース44に各種試薬等を供給するのを許容するためのものである。
【0048】
図3に示すように、各試液チップ搭載箇所に保持ないし搭載される試液チップ40は、保持面11a(回転可能)の径方向外側に試液セル43が位置し且つ径方向内側に液溜スペース44が位置するように、配向する。また、試液チップ40は、回転テーブル11の保持面11aに対して脱着可能に保持されている。例えば、各試液チップ40において保持面11aと接する側(即ち本体41側)に複数の凹部(図示略)を設けておき、保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所にて、前記凹部に入り込むことが可能な複数の凸部(図示略)を前記複数の凹部に対応する位置に設けておき、且つ、当該試液チップ搭載箇所にて前記複数の凸部が前記複数の凹部に入り込んだ態様で載置された試液チップ40を保持面11aとの間に挟み込むためのクリップ機構を各試液チップ搭載箇所に設けておく。温度制御装置X1においては、例えばこのような構成を採用することにより、回転テーブル11の保持面11aの所定位置に対して各試液チップ40を脱着可能に保持することが可能である。そして、回転テーブル11の保持面11aは、試液チップ40を保持した状態では、当該試液チップ40の本体41側(セル壁41aを含む)に当接する。
【0049】
保持面11a上または回転テーブル11内の保持面11a近傍には、保持面11aの温度を検出するための温度センサ11bが設けられている。温度センサ11bは、例えばサーミスタにより構成される。また、温度センサ11bは、図2に示すように、マイクロコンピュータMCに接続されており、温度センサ11bから出力される信号がマイクロコンピュータMCに入力されるように構成されている。
【0050】
温調デバイス21(図1では図示せず)は、回転テーブル11内に設けられており、且つ、回転テーブル11の保持面11aと熱的に接続されている。温調デバイス21は、ペルチェ効果を利用して構成されるペルチェモジュールよりなり、図2に示すように、マイクロコンピュータMCと接続されている。マイクロコンピュータMCからの指令に基づき、必要に応じて当該ペルチェモジュール(温調デバイス21)に対する通電方向および通電量が変化し得るように構成されている。また、温調デバイス21の稼働により、回転テーブル11の少なくともその保持面11aが第1温度T1に維持され得るように構成されている。第1温度T1とは、保持面11aに保持されている試液チップ40の試液セル43に試液が受容されている場合に当該試液の温度を目標低温度TLに保つための温度である。このような第1温度T1は、温度制御対象たる試液にとっての目標低温度TLや、環境温度、試液チップ40の構成材料の熱伝導率、試液チップ40の構造ないし放熱性などに応じて、適宜設定される。例えば、目標低温度TLと環境温度とが同じか略同じである場合、第1温度T1については、目標低温度TLと同じ温度に設定するのが適当である場合がある。例えば、目標低温度TLが環境温度より有意に高い場合、第1温度T1については、目標低温度TLより高く設定するのが適当である場合が多い。例えば、目標低温度TLが環境温度より有意に低い場合、第1温度T1については、目標低温度TLより低く設定するのが適当である場合が多い。
【0051】
駆動機構31は、回転テーブル11を回転駆動ないし回転変位制御するためのものであり、マイクロコンピュータMCに接続されている。また、駆動機構31は、マイクロコンピュータMCからの指令に基づき稼働するように構成されており、回転テーブル11の回転変位量をマイクロコンピュータMCに出力するようにも構成されている。このような駆動機構31の有する回転軸芯に対して回転テーブル11は固定されている。
【0052】
加熱ブロック12は、試液チップ40に当接して試液チップ40の試液セル43内の試液を昇温するためのものである。加熱ブロック12は、保持面11a上の試液チップ40に対して相対変位可能である。具体的には、加熱ブロック12は、回転テーブル11の保持面11aに対向し、当該保持面11aないし保持面11a上の試液チップ40に対し、図1の矢印H方向において接近離反動可能である。また、加熱ブロック12は、温度制御対象たる試液にとっての目標高温度TH(上記の目標低温度TLより高い)より高い第2温度T2を維持可能である。加えて、加熱ブロック12は、図1および図4に示すように、保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所に保持ないし搭載されている試液チップ40のセル壁42a(即ち、試液チップ40における、回転テーブル11とは反対の側)に当接するための複数の突部12aを有する。
【0053】
加熱ブロック12内には、当該加熱ブロック12の温度を検出するための温度センサ12bが設けられている。温度センサ12bは、例えばサーミスタにより構成される。また、温度センサ12bは、図2に示すように、マイクロコンピュータMCに接続されており、温度センサ12bから出力される信号がマイクロコンピュータMCに入力されるように構成されている。
【0054】
温調デバイス22(図1では図示せず)は、加熱ブロック12と熱的に接続されており、所定の発熱デバイスよりなるヒーターである。マイクロコンピュータMCからの指令に基づき、必要に応じて温調デバイス22に対する通電量が変化して当該温調デバイス22の温度が変化するように構成されている。また、温調デバイス22の稼働により、加熱ブロック12が第2温度T2に維持され得るように構成されている。
【0055】
駆動機構32(図1では図示せず)は、例えば図1に示す矢印H方向において加熱ブロック12を並進駆動するためのものであり、図2に示すようにマイクロコンピュータMCに接続されている。また、駆動機構32は、マイクロコンピュータMCからの指令に基づき稼働するように構成されており、加熱ブロック12の並進変位量をマイクロコンピュータMCに出力するようにも構成されている。このような駆動機構32の稼働により、加熱ブロック12が並進駆動されて、回転テーブル11の保持面11aに対して加熱ブロック12が接近離反動される。
【0056】
冷却ブロック13は、試液チップ40に当接して試液チップ40の試液セル43内の試液を降温するためのものである。冷却ブロック13は、保持面11a上の試液チップ40に対して相対変位可能である。具体的には、冷却ブロック13は、回転テーブル11の保持面11aに対向し、当該保持面11aないし保持面11a上の試液チップ40に対して接近離反動可能である。また、冷却ブロック13は、温度制御対象たる試液にとっての目標低温度TLより低い第3温度T3を維持可能である。第3温度T3は、上記の目標低温度TLより低いのに加え、上記の第1温度T1よりも低い。加えて、冷却ブロック13は、図1および図4に示すように、保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所に保持ないし搭載されている試液チップ40のセル壁42a(即ち、試液チップ40における、回転テーブル11とは反対の側)に当接するための複数の突部13aを有する。
【0057】
冷却ブロック13内には、当該冷却ブロック13の温度を検出するための温度センサ13bが設けられている。温度センサ13bは、例えばサーミスタにより構成される。また、温度センサ13bは、図2に示すように、マイクロコンピュータMCに接続されており、温度センサ13bから出力される信号がマイクロコンピュータMCに入力されるように構成されている。
【0058】
温調デバイス23(図1では図示せず)は、冷却ブロック13と熱的に接続されており、ペルチェ効果を利用して構成されるペルチェモジュールよりなり、図2に示すように、マイクロコンピュータMCと接続されている。マイクロコンピュータMCからの指令に基づき、必要に応じて当該ペルチェモジュール(温調デバイス23)に対する通電方向および通電量が変化し得るように構成されている。また、温調デバイス23の稼働により、冷却ブロック13が第3温度T3に維持され得るように構成されている。
【0059】
駆動機構33(図1では図示せず)は、例えば図1に示す矢印H方向において冷却ブロック13を並進駆動するためのものであり、図2に示すようにマイクロコンピュータMCに接続されている。また、駆動機構33は、マイクロコンピュータMCからの指令に基づき稼働するように構成されており、冷却ブロック13の並進変位量をマイクロコンピュータMCに出力するようにも構成されている。このような駆動機構33の稼働により、加熱ブロック13が並進駆動されて、回転テーブル11の保持面11aに対して冷却ブロック13が接近離反動される。
【0060】
以上のような構成の温度制御装置X1においてPCR法を実行する前には、試液入り試液チップ40を回転テーブル11の保持面11aに用意する。例えば次のとおりである。
【0061】
まず、必要数の試液チップ40を、例えば図3に示すように、回転テーブル11の保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所にセットする(回転可能な保持面11aの径方向外側に試液セル43が位置し且つ径方向内側に液溜スペース44が位置する)。以降、保持面11a上での各試液チップ40の位置は固定される。次に、図6(a)に示すように、必要な試薬等を、導入口45を介して液溜スペース44に供給する。例えば、全ての試薬を溶液状態で用意しておき、当該試薬を液溜スペース44に供給する。或は、一部の試薬を乾燥試薬として用意して液溜スペース44の底面に予め付着させておき、当該液溜スペース44に溶液状態の他の試薬を供給して、当該溶液状態試薬に乾燥試薬を溶解させてもよい。必要な試薬等には、鋳型DNA、プライマーDNA、DNAポリメラーゼ、dNTP、およびバッファー成分等が含まれる。液溜スペース44では、例えばピペッティングなどによって試薬どうしを混合し、均質化された反応液たる試液Rを調製する。次に、このような試液チップ40を保持している回転テーブル11を軸心Axまわりに所定速度で回転させ、試液Rに作用する遠心力を利用して、図6(b)に示すように試液Rを試液セル43へと移動させる。次に、図6(c)に示すようにミネラルオイルMを液溜スペース44に供給する。ミネラルオイルMの存在により、温度変化過程を経ることとなる試液Rについて蒸散等を防止することが可能である。
【0062】
温度制御装置X1においてPCR法を実行する前には、回転テーブル11について軸心Axまわりの回転位置が固定される。具体的には、回転テーブル11の保持面11aの第1領域S1が加熱ブロック12に対向し且つ第2領域S2が冷却ブロック13に対向するように、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が位置固定される。
【0063】
温度制御装置X1においてPCR法を実行する前には、回転テーブル11、加熱ブロック12、および冷却ブロック13について所望の温度に設定し、当該所望の温度を維持させる。具体的には次のとおりである。温調デバイス21の稼働により、回転テーブル11の少なくとも保持面11aについて、上述の第1温度T1に温度調整して第1温度T1を維持する。温調デバイス22の稼働により、突部12aを有する加熱ブロック12について、上述の第2温度T2(加熱用温度)に温度調整して第2温度T2を維持する。温調デバイス23の稼働により、突部13aを有する冷却ブロック13について、上述の第3温度T3(冷却用温度)に温度調整して第3温度T3を維持する。PCR過程で試液Rが到達すべき目標低温度をTL(例えば60℃)とし且つ試液Rが到達すべき目標高温度をTH(例えば95℃)とすると、第1温度T1は、加熱ブロック12から試液Rへの熱移動がなく且つ試液Rから冷却ブロック13への熱移動もない状態で、仮に充分な時間が経過した場合に、試液Rの温度を目標低温度TLに保つための温度である。このような第1温度T1について、具体的には、目標低温度TLと同じ温度、目標低温度TLより高く且つ目標高温度THより低い温度、または、目標低温度TLより低く且つ第3温度T3(冷却用温度)より高い温度とする。第2温度T2は、目標高温度THより高い温度とする。第3温度T3は、目標低温度TLより低い温度とする。
【0064】
以上のような前準備が完了し、試液チップ40内の試液Rの温度が目標低温度TLに至った後、温度制御装置X1においては、二連でPCR法ないし温度制御を実行することができる。当該二連PCR法では、保持面11aの第1領域S1に保持された試液チップ40(第1グループをなす)の試液Rのそれぞれについて、昇温工程、降温工程、および定温維持工程を行うとともに、保持面11aの第2領域S2に保持された試液チップ40(第2グループをなす)の試液Rのそれぞれについて、昇温工程、降温工程、および定温維持工程を行う。図7は、温度制御装置X1が稼働する際の温度制御に係るステップ表の一部を表す。
【0065】
温度制御装置X1による二連PCR法の実行においては、まず、ステップ1にて、図8に示すように、第1領域S1に保持された試液チップ40(第1グループ)について昇温工程を行う(図8では、明確化の観点から、回転テーブル11について第1領域S1側にハッチングを付して表す。図9から図12においても同様である)。
【0066】
ステップ1では、駆動機構32の稼働によって図8に示すように加熱ブロック12が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第1領域S1上の各試液チップ40に加熱ブロック12が当接される。具体的には、図13に示すように、加熱ブロック12の各突部12aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される(セル壁42aはセル壁41aと共に試液セル43を規定する部位である)。このような当接により、第1グループの各試液チップ40について、昇温工程が開始する。この昇温工程では、加熱ブロック12ないし突部12aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に加熱され、加熱ブロック12ないし突部12aからセル壁42aおよび試液セル43内の試液Rへと熱移動が生じ、試液Rが昇温する。そして、試液Rが目標高温度THに到達することにより、試液R内の鋳型DNAの二本鎖が一本鎖に充分に分離される(第1グループの熱変成工程)。また、試液Rが目標高温度THに到達した時点で、駆動機構32を稼働させて加熱ブロック12ないし突部12aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、加熱ブロック12から試液Rへの熱移動は停止する(第1グルーブの昇温工程の終了)。
【0067】
ステップ1では、一方、保持面11aの第2領域S2上の各試液チップ40(第2グループ)は、試液セル43内の試液Rが定温(目標低温度TL)に維持され、待機状態にある。各試液チップ40の試液Rでは、PCRに係る反応は進行しない。
【0068】
ステップ1の終了時には、上述のように加熱ブロック12が第1グループの試液チップ40から離れるのと同時に、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が軸心Axまわりに回転変位される。その回転量は180°であり、当該回転変位によって、第1グループに属する第1領域S1上の複数の試液チップ40の位置と、第2グループに属する第2領域S2上の複数の試液チップ40の位置とが、入れ替わる。
【0069】
次に、ステップ2にて、図9に示すように、第1グループについて降温工程を行い、且つ、第2グループについて昇温工程を行う。
【0070】
ステップ2では、駆動機構33の稼働によって図9に示すように冷却ブロック13が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第1領域S1上の各試液チップ40に冷却ブロック13が当接される。具体的には、図14に示すように、冷却ブロック13の各突部13aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される(セル壁42aはセル壁41aと共に試液セル43を規定する部位である)。このような当接により、第1グループの各試液チップ40について、降温工程が開始する。この降温工程では、冷却ブロック13ないし突部13aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に冷却され、セル壁42aおよび試液セル43内の試液Rから冷却ブロック13ないし突部13aへと熱移動が生じ、試液Rが降温する。降温中の試液R内では、アニーリング工程が除々に進行する(第1グループのアニーリング工程の一部)。アニーリング工程では、鋳型の各一本鎖DNAとプライマー(当該一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列を有する)とが結合される。また、試液Rが目標低温度TLに到達する直前(例えば10〜1000ミリ秒前)に、駆動機構33を稼働させて冷却ブロック13ないし突部13aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、冷却ブロック13への熱移動は停止する(第1グループの降温工程の終了,ステップ2の終了)。
【0071】
ステップ2では、一方、駆動機構32の稼働によって図9に示すように加熱ブロック12が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第2領域S2上の各試液チップ40に加熱ブロック12が当接される。具体的には、図13に示すように、加熱ブロック12の各突部12aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される。このような当接により、第2グループの各試液チップ40について、昇温工程が開始する。この昇温工程では、加熱ブロック12ないし突部12aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に加熱され、加熱ブロック12ないし突部12aからセル壁42aおよび試液セル43内の試液Rへと熱移動が生じ、試液Rが昇温する。
【0072】
次に、ステップ3にて、図10に示すように、第1グループについて定温維持工程を行い、且つ、第2グループについてステップ2から引き続き昇温工程を行う。
【0073】
ステップ3では、第1グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される(第1グループの定温維持工程)。このような試液Rでは、アニーリング工程(第1グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第1グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。アニーリング工程では、上述のように、鋳型の各一本鎖DNAとプライマー(当該一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列を有する)とが結合される。伸長工程では、鋳型一本鎖DNAと結合したプライマーの3’末端側において、鋳型一本鎖DNAと相補的な塩基配列を有するDNA鎖が伸長ないし合成される。
【0074】
ステップ3では、ステップ2から引き続き、加熱ブロック12ないし突部12aによって第2グループの試液チップ40のセル壁42aが直接的に加熱され、加熱ブロック12ないし突部12aからセル壁42aおよび試液セル43内の試液Rへと熱移動が生じ、試液Rが昇温する。そして、試液Rが目標高温度THに到達することにより、試液R内の鋳型DNAの二本鎖が一本鎖に充分に分離される(第2グループの熱変成工程)。また、試液Rが目標高温度THに到達した時点で、駆動機構32を稼働させて加熱ブロック12ないし突部12aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、加熱ブロック12から試液Rへの熱移動は停止する(第2グループの昇温工程の終了)。
【0075】
ステップ3の終了時には、上述のように加熱ブロック12が第2グループの試液チップ40から離れるのと同時に、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が軸心Axまわりに回転変位される。その回転量は180°であり、当該回転変位によって、第1グループに属する第1領域S1上の複数の試液チップ40の位置と、第2グループに属する第2領域S2上の複数の試液チップ40の位置とが、入れ替わる。
【0076】
次に、ステップ4にて、図11に示すように、第1グループについてステップ3から引き続き定温維持工程を行い、且つ、第2グループについて降温工程を行う。
【0077】
ステップ4では、ステップ3から引き続き、第1グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される。これにより第1グループの試液Rでは、ステップ3から引き続き、アニーリング工程(第1グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第1グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。
【0078】
ステップ4では、駆動機構33の稼働によって図11に示すように冷却ブロック13が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第2領域S1上の各試液チップ40に冷却ブロック13が当接される。具体的には、図14に示すように、冷却ブロック13の各突部13aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される。このような当接により、第2グループの各試液チップ40について、降温工程が開始する。この降温工程では、冷却ブロック13ないし突部13aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に冷却され、セル壁42aおよび試液セル43内の試液Rから冷却ブロック13ないし突部13aへと熱移動が生じ、試液Rが降温する。降温中の試液R内では、アニーリング工程が除々に進行する(第2グループのアニーリング工程の一部)。また、試液Rが目標低温度TLに到達する直前(例えば10〜1000ミリ秒前)に、駆動機構33を稼働させて冷却ブロック13ないし突部13aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、冷却ブロック13への熱移動は停止する(第2グループの降温工程の終了,ステップ4の終了)。
【0079】
次に、ステップ5にて、図12に示すように、第1グループについてステップ4から引き続き定温維持工程を行い、且つ、第2グループについて定温維持工程を行う。
【0080】
ステップ5では、ステップ4から引き続き、第1グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される。これにより第1グループの試液Rでは、ステップ4から引き続き、アニーリング工程(第1グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第1グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。
【0081】
ステップ5では、第2グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される(第2グループの定温維持工程)。このような試液Rでは、アニーリング工程(第2グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第2グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。
【0082】
次に、ステップ6にて、図8に示すように、第1グループについて昇温工程(2サイクル目)を行い、且つ、第2グループについてステップ5から引き続き定温維持工程を行う。
【0083】
ステップ6では、ステップ1に関して上述したのと同様に、第1領域S1上の第1グループの試液チップ40について昇温工程を行う。これとともに、ステップ6では、ステップ5から引き続き、第2領域S2上の第2グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される。これにより第2グループの試液Rでは、ステップ5から引き続き、アニーリング工程(第2グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第2グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。ステップ6の終了により、第2グループの定温維持工程は終了する。
【0084】
ステップ6の終了時には、加熱ブロック12が第1領域S1上の第1グループの試液チップ40から離れるのと同時に、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が軸心Axまわりに回転変位される。その回転量は180°であり、当該回転変位によって、第1グループに属する第1領域S1上の複数の試液チップ40の位置と、第2グループに属する第2領域S2上の複数の試液チップ40の位置とが、入れ替わる。
【0085】
以上のステップ1〜6に関し、ステップ1での第1グループの昇温工程の実行時間は例えば6秒であり、ステップ2での第1グループの降温工程の実行時間は例えば4秒であり、ステップ3〜5にわたる第1グループの定温維持工程の実行時間は例えば16秒である(ステップ6での第1グループの昇温工程の実行時間はステップ1のそれと同じである)。また、ステップ2〜3にわたる第2グループの昇温工程の実行時間は例えば6秒であり、ステップ4での第2グループの降温工程の実行時間は例えば4秒であり、ステップ5〜6にわたる第2グループの定温維持工程の実行時間は例えば16秒である。
【0086】
温度制御装置X1においては、第1領域S1上の試液チップ40(第1グループ)の試液セル43内の試液Rについて、上記のステップ1〜5を1熱サイクルとして繰り返し行い、上述の熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを所定回数繰り返すPCR法を実行することができる。これとともに、温度制御装置X1においては、第2領域S2上の試液チップ40(第2グループ)の試液セル43内の試液Rについて、上記のステップ2〜6を1熱サイクルとして繰り返し行い、上述の熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを所定回数繰り返すPCR法を実行することができる。このように温度制御装置X1は、二連でPCR法ないし温度制御を実行することができる。
【0087】
以上のように稼働し得る温度制御装置X1は、試液Rの温度を迅速に変化させるのに適する。その理由は次のとおりである。
【0088】
温度制御装置X1において、試液Rを昇温させるに際しては、試液Rを受容する試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに対して加熱ブロック12は直接接触することができる。そのため、温度制御装置X1による上述の昇温過程では、加熱ブロック12は、セル壁42aに直接接触して試液Rを昇温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を昇温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標高温度に昇温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標高温度に昇温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な昇温を阻む傾向にある。これに対し、温度制御装置X1による昇温過程では、加熱ブロック12は、試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに直接接触して試液Rを昇温することが可能であり、試液チップ40を保持するための熱容量体を介して試液チップ40ないし試液Rを昇温する必要はないのである。加熱ブロック12と試液チップ40ないし試液Rと間に大きな熱容量体が介在しないこのような温度制御装置X1は、試液セル43中の試液Rを迅速に昇温させるのに適する。
【0089】
また、温度制御装置X1において、昇温過程にある試液セル43中の試液Rの温度をTとし、試液Rに供給される熱量をQとし、時間をtとすると、昇温過程における試液Rの温度の上昇率すなわち昇温速度(dT/dt)は、当該試液Rに対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに供給される当該熱量(dQ/dt)は、昇温対象たる試液Rと加熱ブロック12(目標高温度THより高い第2温度T2に維持されている)との温度差(T2−T)と高い相関関係にあり、当該温度差(T2−T)に略比例する。温度差(T2−T)が大きいほど、単位時間あたりの供給熱量(dQ/dt)は大きく、昇温速度(dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92の温度は、反応試液の目標高温度たる熱変成温度T11に維持されており、昇温中の反応試液の温度Tとの差は(T11−T)であるが、温度制御装置X1と従来のPCR装置X2とで目標高温度を同じに想定して(即ち、TH=T11として)比較すると、温度制御装置X1における試液Rと加熱ブロック12との温度差(T2−T)については、PCR装置X2における反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T2>TH=T11である)。上述のように、この温度差(T2−T)が大きいほど、試液セル43中の試液Rに対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)は大きく、従って、試液Rの昇温速度(dT/dt)は大きい。
【0090】
温度制御装置X1によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、昇温工程における熱変成温度T11(目標高温度)付近の温度領域における昇温速度は、昇温工程の初期段階での昇温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが上昇して熱変成温度T11(目標高温度)に接近するにつれて、反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液へ供給される熱量が小さくなって昇温速度も小さくなる)。これに対し、温度制御装置X1によると、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域においても、昇温中の試液Rと加熱ブロック12との温度差(T2−T)について有意な差を確保しやすく、そのため、試液セル43中の試液Rに対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、温度制御装置X1によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0091】
一方、本温度制御装置X1において、試液Rを降温させるに際しては、試液Rを受容する試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに対して冷却ブロック13は直接接触することができる。そのため、温度制御装置X1による降温過程では、冷却ブロック13は、セル壁42aに直接接触して試液Rを降温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を降温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標低温度に降温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標低温度に降温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な降温を阻む傾向にある。これに対し、温度制御装置X1による降温過程では、冷却ブロック13は、試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに直接接触して試液Rを降温することが可能であり、試液チップ40を保持するための熱容量体を介して試液チップ40ないし試液Rを降温する必要はないのである。冷却ブロック13と試液チップ40ないし試液Rと間に大きな熱容量体が介在しないこのような温度制御装置X1は、試液セル43中の試液Rを迅速に降温させるのに適する。
【0092】
また、本温度制御装置X1において、降温過程にある試液セル43中の試液Rの温度をTとし、試液Rから奪われる熱量をQとし、時間をtとすると、降温過程における試液Rの温度の下降率すなわち降温速度(−dT/dt)は、当該試液Rから単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに奪われる当該熱量(dQ/dt)は、降温対象たる試液Rと冷却ブロック13(目標低温度TLより低い第3温度T3に維持されている)との温度差(T−T3)と高い相関関係にあり、当該温度差(T−T3)に略比例する。温度差(T−T3)が大きいほど、単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、降温速度(−dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93の温度は、反応試液の目標低温度たるアニーリング・伸長温度T12に維持されており、降温中の反応試液の温度Tとの差は(T−T12)であるが、温度制御装置X1と従来のPCR装置X2とで目標低温度を同じに想定して(即ち、TL=T12として)比較すると、温度制御装置X1における試液Rと冷却ブロック13との温度差(T−T3)については、PCR装置X2における反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T3<TL=T12である)。上述のように、この温度差(T−T3)が大きいほど、試液セル43中の試液Rから単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、従って、試液Rの降温速度(−dT/dt)は大きい。
【0093】
温度制御装置X1によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、降温工程におけるアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)付近の温度領域における降温速度は、降温工程の初期段階での降温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが下降してアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に接近するにつれて、反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液から奪われる熱量が小さくなって降温速度も小さくなる)。これに対し、温度制御装置X1によると、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域においても、降温中の試液Rと冷却ブロック13との温度差(T−T3)について有意な差を確保しやすく、そのため、試液セル43中の試液Rから単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、温度制御装置X1によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0094】
以上のように、温度制御装置X1は、試液Rの温度を迅速に変化(昇温・降温)させるのに適するのである。このような温度制御装置X1は、迅速な温度制御が求められるPCR装置として使用するのに好適であるが、他の温度制御装置として使用することも可能である。
【0095】
加えて、温度制御装置X1は、試液Rの温度を目標高温度THや目標低温度TLに正確に制御するのに適する。その理由は次のとおりである。
【0096】
上述の従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程において反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に接近するほど、反応試液温度Tと加熱ブロック92の温度T11とが接近し、温度差(T11−T)に略比例する反応試液の昇温速度(dT/dt)は0に接近する。そのため、従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程にて反応試液温度Tが有限の時間で熱変成温度T11(目標高温度)に到達することができない。このようなPCR装置X2では、実際上も、昇温工程にて反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に到達しにくいため、昇温工程にて反応試液温度Tを熱変成温度T11に正確に到達させにくい。これに対し、温度制御装置X1においては、上述のように、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における試液Rの昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすく、これは、昇温中の試液Rの温度Tが目標高温度THに到達するまで当該試液Rの昇温速度(dT/dt)を大きく確保して試液Rの温度Tが目標高温度THに迅速かつ確実に到達し得ることを意味する。そして、試液チップ40中の試液Rの温度Tが目標高温度THに達した時点で加熱ブロック12を試液チップ40から離すことにより、加熱ブロック12から試液チップ40ないし試液Rへの熱移動を停止させて、試液Rの昇温を停止することができる。このような温度制御装置X1は、昇温中の試液Rの温度Tを目標高温度THに正確に制御するのに適する。
【0097】
一方、液体から熱量を奪い続けて当該液体を降温させる場合にあっては、一般に、降温対象の液体から熱量を奪うことを停止しても当該液体の温度は下がり続けることがある。例えば従来のPCR装置X2の上述の降温工程では、反応試液温度Tがアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に到達した場合、その時点で冷却ブロック93を保持ブロック91から離して反応試液から熱量を奪うことを停止しても、当該反応試液の温度はアニーリング・伸長温度T12を超えて下がり続けることがある。そのため、従来のPCR装置X2では、降温工程にて反応試液温度Tをアニーリング・伸長温度T12に正確に制御しにくい。これに対し、温度制御装置X1においては、回転テーブル11(回転テーブル11の温度は、試液Rの温度を目標低温度TLに保つための第1温度T1に設定されて当該第1温度T1に維持されている)が、降温対象の試液Rを受容する試液チップ40の試液セル43のセル壁41aに当接して当該試液チップ40を保持しているので、冷却ブロック13がセル壁42aから離れた後に試液Rの温度Tが下がり続けることを阻止することができる。このような温度制御装置X1は、降温中の試液Rの温度Tを目標低温度TLに正確に制御するのに適する。
【0098】
以上のように、温度制御装置X1は、試液Rの目標高温度THおよび目標低温度TLを正確に制御するのに適するのである。このような温度制御装置X1は、正確な温度制御が求められるPCR装置として使用するのに好適であるが、他の温度制御装置として使用することも可能である。
【0099】
温度制御装置X1においては、上述のように、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、個々に、試液チップ40における回転テーブル11とは反対の側に(即ちセル壁42aに)当接可能である。このような構成は、定温の回転テーブル11による試液チップ40の保持と、加熱ブロック12による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを昇温するための当接動作)と、冷却ブロック13による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを降温するための当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0100】
温度制御装置X1においては、上述のように、回転テーブル11は、試液チップ40を保持可能な保持面11aを有し、保持面11aに直交する軸心Axまわりに回転可能である。これとともに、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、それぞれ、回転テーブル11の保持面11aに対向し、且つ、保持面11aに対して接近離反動可能である。このような構成は、定温の回転テーブル11による試液チップ40の保持と、加熱ブロック12による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを昇温するための当接動作)と、冷却ブロック13による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを降温するための当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0101】
温度制御装置X1においては、上述のように、保持面11aは、試液Rを受容する試液セル43を有する複数の試液チップ40に当接して当該複数の試液チップ40を保持可能な第1領域S1と、試液Rを受容する試液セル43を有する複数の試液チップ40に当接して当該複数の試液チップ40を保持可能な第2領域S2とを有する。これとともに、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、それぞれ、第1領域S1に対向しているときには、当該第1領域S1に保持された複数の試液チップ40に対して接近して当接可能であり、第2領域S2に対向しているときには、当該第2領域S2に保持された複数の試液チップ40に対して接近して当接可能である。このような構成によると、第1領域S1に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する加熱ブロック12による昇温工程と第2領域S2に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する冷却ブロック13による降温工程とを併行して行うことが可能であり、また、第2領域S2に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する加熱ブロック12による昇温工程と第1領域S1に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する冷却ブロック13による降温工程とを併行して行うことが可能である。
【0102】
温度制御装置X1においては、上述のように、第1領域S1および第2領域S2は、軸心Axが中心を通る円(仮想円)の円周上に複数の試液チップ40が配列するように当該複数の試液チップ40を保持可能である。このような構成によると、第1領域S1に保持された複数の試液チップ40の位置と、第2領域S2に保持された複数の試液チップ40の位置とを、回転テーブル11ないし保持面11aの180°の回転(軸心Axまわりの回転)によって入れ替える構成を採用しやすい。
【0103】
温度制御装置X1においては、上述のように、試液チップ40は、相対向して離隔するセル壁41aおよびセル壁42aを有し、当該セル壁41a,42a間に、試液Rを受容するための試液セル43が設けられている。これとともに、回転テーブル11は、試液チップ40のセル壁41aに当接して当該試液チップ40を保持可能であり、加熱ブロック12は、試液チップ40のセル壁42aに当接可能であり、冷却ブロック13も、試液チップ40のセル壁42aに当接可能である。このような構成は、温度制御対象たる試液Rと加熱ブロック12との間の熱移動を効率よく行ううえで好適であり、且つ、当該試液Rと冷却ブロック13との間の熱移動を効率よく行ううえで好適である。
【0104】
温度制御装置X1においては、上述のように、セル壁41a,42aの離隔方向(図5(b)の縦方向)に直交する方向における試液セル43の最大寸法は、当該離隔方向における試液セル43の最大寸法より大きい。すなわち、温度制御対象たる試液Rを受容する試液セル43は、扁平形状を有する。このような構成は、温度制御対象たる試液Rについて、単位体積あたりの表面積について大きく確保するうえで好適である。温度制御対象たる試液Rの、単位体積あたりの表面積が大きいことは、当該試液Rと加熱ブロック12との間の熱移動や、当該試液Rと冷却ブロック13との間の熱移動を、効率よく行うのに資する。
【0105】
温度制御装置X1においては、上述のように、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、それぞれ、セル壁42aに当接するための突部12a,13aを有する。加熱ブロック12がセル壁42aに当接するための突部12aを有するという構成は、加熱ブロック12から試液セル43中の試液Rに対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。冷却ブロック13がセル壁42aに当接するための突部13aを有するという構成は、試液セル43中の試液Rから冷却ブロック13に対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。局所的な熱移動の実現は、熱移動効率の向上に資する。
【実施例】
【0106】
上述の温度制御装置X1を使用して、温度制御対象たる液体の温度変化を測定した。具体的には、次のとおりである。
【0107】
試液セル43内に熱電対を挿入した試液チップ40を用意し、当該試液チップ40を回転テーブル11の保持面11aの第1領域S1に保持させ、その後、図6に示すのと同様の手順で、試液Rを試液セル43内に導入し、且つ、ミネラルオイルMを液溜スペース44に供給した。回転テーブル11に付設した所定の回路系を利用して、試液チップ40の熱電対によって試液セル43中の試液Rの温度を常時測定することができるように構成しておいた。そして、温度制御装置X1の回転テーブル11、加熱ブロック12、および冷却ブロック13を稼働させて、当該試液チップ40の試液セル43内の試液Rについて、上述の第1グループの試液チップ40の試液セル43内の試液Rに対するのと同様に、ステップ1の昇温工程と、ステップ2の降温工程と、ステップ3〜5にわたる定温維持工程とを1熱サイクルとして、当該熱サイクルを繰り返し行った。
【0108】
本実施例では、室温は25℃であり、試液Rにとっての目標高温度THを95℃とし、目標低温度TLを62℃とした。本実施例では、回転テーブル11の保持面11aの温度(第1温度T1)を73℃とし、加熱ブロック12の温度(第2温度T2)を120℃とし、冷却ブロック13の温度(第3温度T3)を40℃とした。本実施例では、昇温工程の実行時間を6秒とし、降温工程の実行時間を4秒とし、定温維持工程の実行時間を16秒以上とした。本実施例の昇温工程では、試液Rの温度が目標高温度THに到達した時点で加熱ブロック12を試液チップ40のセル壁42aから離した。本実施例の降温工程では、試液Rの温度が目標低温度TLに到達すると予測される時間(予めの試行実験等によって特定されている予測時間)の100ミリ秒前で、冷却ブロック13を試液チップ40のセル壁42aから離した。
【0109】
本実施例の温度測定結果の一部を図15のグラフに表す。図15のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を示し、縦軸は試液温度(℃)を示す。図15のグラフに表れている温度変化から、温度制御装置X1によると、試液R(液体)の温度を迅速かつ正確に変化させることが可能であることが判る。
【比較例】
【0110】
回転テーブル11の温調機能を停止させた温度制御装置X1を使用して、温度制御対象たる液体の温度変化を測定した。具体的には、次のとおりである。
【0111】
上述の実施例と同様に、熱電対付き試液チップ40(試液セル43内には試液Rが受容されている)を用意して保持面11aの第1領域S1上にセットした。実施例と同様に、試液チップ40の熱電対によって試液セル43中の試液Rの温度を常時測定することができるように構成しておいた。本比較例では、室温は25℃であり、試液Rにとっての目標高温度THを95℃とし、目標低温度TLを50℃とした。本比較例では、加熱ブロック12の温度(第2温度T2)を100℃とし、冷却ブロック13の温度(第3温度T3)を50℃とした。そして、温度制御装置X1の回転テーブル11(温調機能は停止されている)、加熱ブロック12、および冷却ブロック13を稼働させて、当該試液チップ40の試液セル43内の試液Rについて、所定の昇温工程と所定の降温工程とを1熱サイクルとして、当該熱サイクルを繰り返し行った。昇温工程では、試液Rの温度が目標高温度THたる95℃に到達した時点で加熱ブロック12を試液チップ40のセル壁42aから離した。また、降温工程では、試液Rの温度が目標低温度TLたる50℃に到達した時点で冷却ブロック13を試液チップ40のセル壁42aから離した。
【0112】
本比較例の温度測定結果を図16のグラフに表す。図16のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を示し、縦軸は試液温度(℃)を示す。図16のグラフに表れている温度変化から、本比較例によると、試液R(液体)の温度を迅速かつ正確に変化させにくいことが判る。本比較例における昇温工程では、50℃程度から95℃程度に試液Rを昇温させるのに約80秒を要した。加えて、本比較例における降温工程では、95℃程度から50℃程度に試液Rを降温させるのに約95秒を要した。
【符号の説明】
【0113】
X1 温度制御装置
11 回転テーブル
11a 保持面
11b,12b,13b 温度センサ
12 加熱ブロック
12a,13a 突部
13 冷却ブロック
21,22,23 温調デバイス
31,32,33 駆動機構
40 試液チップ
41 本体
41a,42a セル壁
42 カバー体
43 試液セル
R 試液
Ax 軸心
S1 第1領域
S2 第2領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばPCR装置として使用することが可能な温度制御装置、および、例えばPCR法にて採用することが可能な温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの技術分野において、液体の温度を制御するための装置が使用されている。例えば生化学技術の分野では、試料液の温度を制御する必要のある場合が多く、用途に応じたタイプの温度制御装置が適宜に使用されている。そのような温度制御装置の一つとして、PCR(polymerase chain reaction)法を実行するためのPCR装置が知られている。PCR装置については、例えば下記の特許文献1,2に記載されている。
【0003】
図17は、従来のPCR装置の一例たるPCR装置X2を表す。PCR装置X2は、保持ブロック91と、加熱ブロック92と、冷却ブロック93とを備え、熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを複数回繰り返すPCR法を実行可能なように構成されている。
【0004】
保持ブロック91は、チューブ94を保持するためのものであり、複数の凹部91aを有する。各凹部91aにチューブ94が差し込まれ得る。チューブ94は、PCR法を実行するための所定の反応試液等(図示略)を受容している。反応試液には、鋳型DNAや、プライマーDNA、DNAポリメラーゼ、dNTPが含まれている。また、保持ブロック91は、図外の移送手段により、図18に示すような加熱ブロック92上の位置と、図19に示すような冷却ブロック93上の位置との間を、移送され得る。加熱ブロック92は、保持ブロック91に熱を供給するためのものであり、図外の発熱デバイスと熱的に接続されている。冷却ブロック93は、保持ブロック91から熱を奪うためのものであり、図外の吸熱デバイスと熱的に接続されている。
【0005】
以上のような構成を有するPCR装置X2では、例えば次のようにしてPCR法が実行される。
【0006】
保持ブロック91が加熱ブロック92上に移送および載置されて加熱ブロック92によって昇温される(昇温工程)。このとき、加熱ブロック92は、図外の発熱デバイスの稼働によって熱変成温度T11(例えば95℃)に維持されている。
【0007】
保持ブロック91がほぼ熱変成温度T11に至ると、保持ブロック91に保持されているチューブ94内の反応試液もほぼ熱変成温度T11に至り、所定時間の熱変成工程が開始される。熱変成工程では、鋳型DNAの二本鎖が一本鎖に分離される。
【0008】
熱変成工程の後には、保持ブロック91が冷却ブロック93上に移送および載置されて冷却ブロック93によって降温される(降温工程)。このとき、冷却ブロック93は、図外の吸熱デバイスの稼働によってアニーリング・伸長温度T12(例えば60℃)に維持されている。
【0009】
保持ブロック91がほぼアニーリング・伸長温度T12に至ると、保持ブロック91に保持されているチューブ94内の反応試液もほぼアニーリング・伸長温度T12に至り、所定時間のアニーリング・伸長工程(アニーリング工程と伸長工程とが同時進行する工程)が開始される。アニーリング工程では、鋳型の各一本鎖DNAとプライマー(当該一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列を有する)とが結合される。伸長工程では、鋳型一本鎖DNAと結合したプライマーの3’末端側において、鋳型一本鎖DNAと相補的な塩基配列を有するDNA鎖が伸長ないし合成される。
【0010】
PCR装置X2では、以上のような各工程を含むサイクルが複数回繰り返されることにより、所定の塩基配列を有するDNA断片が増幅され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−501530号公報
【特許文献2】特開平6−277036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図20は、PCR装置X2によって実行される上述のPCR法の各サイクルにおける、反応試液の温度変化の一例を表すグラフである。図20のグラフに表れているように、昇温工程では、目的温度(熱変成温度T11)付近の温度領域における昇温速度は、昇温工程の初期段階での昇温速度に比べて相当程度に小さい。そのため、PCR装置X2においては、昇温速度が相当程度に小さい温度領域を経て反応試液を熱変成温度T11に至らしめる必要があり、昇温工程について充分に長い時間を確保する必要がある。加えて、降温工程では、目的温度(アニーリング・伸長温度T12)付近の温度領域における降温速度は、降温工程の初期段階での降温速度に比べて相当程度に小さい。そのため、PCR装置X2においては、降温速度が相当程度に小さい温度領域を経て反応試液をアニーリング・伸長温度T12に至らしめる必要があり、降温工程について充分に長い時間を確保する必要がある。以上のようなPCR装置X2は、昇温工程や降温工程について短時間で終了させるのに適していない。すなわち、PCR装置X2は、反応試液(液体)の温度を迅速に変化させるのに適していない。
【0013】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであり、液体の温度を迅速に変化させるのに適した温度制御装置および温度制御方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の側面によると温度制御装置が提供される。この温度制御装置は、保持手段と、加熱ブロックと、冷却ブロックとを備える。保持手段は、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能であり、且つ、液体の温度をその目標低温度(TL)に保つための第1温度(T1)を維持可能である。加熱ブロックは、液受容体に当接して液体を昇温するためのものであり、液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、目標低温度(TL)より高い目標高温度(TH)より高い第2温度(T2)を維持可能である。冷却ブロックは、液受容体に当接して液体を降温するためのものであり、液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、目標低温度(TL)より低い第3温度(T3)を維持可能である。
【0015】
本温度制御装置による温度制御の対象たる液体は液受容体に受容され、当該液受容体は保持手段に保持される。装置稼働時には、保持手段の温度は、液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度に設定されて当該第1温度に維持される。液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度とは、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動がなく且つ液受容体ないし液体から冷却ブロックへの熱移動もない状態で、仮に充分な時間が経過した場合に、液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための温度であり、目標低温度や、環境温度、液受容体構成材料の熱伝導率、液受容体の構造ないし放熱性などに応じて、適宜設定される。例えば、目標低温度と環境温度とが同じか略同じである場合、保持手段の第1温度については、目標低温度と同じ温度に設定するのが適当である場合がある。例えば、目標低温度が環境温度より有意に高い場合、保持手段の第1温度については、目標低温度より高く設定するのが適当である場合が多い。例えば、目標低温度が環境温度より有意に低い場合、保持手段の第1温度については、目標低温度より低く設定するのが適当である場合が多い。
【0016】
本温度制御装置による昇温は、液受容体に対して相対変位可能な加熱ブロックを当該液受容体に接近させて当接させることによって行う。少なくとも当該昇温過程では、加熱ブロックの温度は、第2温度に設定されて当該第2温度に維持される。装置稼働中、加熱ブロックの温度は第2温度に維持されるのが好ましい。第2温度とは、液受容体中の液体にとっての目標高温度より高い(目標高温度は目標低温度より高い)。そして、本温度制御装置による昇温過程では、例えば、液受容体中の液体の温度が目標高温度に達した時点で加熱ブロックを液受容体から離すことにより、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動を停止する。
【0017】
本温度制御装置による降温は、第1温度にある保持手段に保持されている液受容体に対して相対変位可能な冷却ブロックを当該液受容体に接近させて当接させることによって行う。少なくとも当該降温過程では、冷却ブロックの温度は、第3温度に設定されて当該第3温度に維持される。装置稼働中、冷却ブロックの温度は第3温度に維持されるのが好ましい。第3温度とは、液受容体中の液体にとっての目標低温度より低い。保持手段の第1温度が目標低温度より低い場合には、冷却ブロックの第3温度については第1温度より低くする。そして、本温度制御装置による降温過程では、例えば、液受容体中の液体の温度が目標低温度に達するより前に冷却ブロックを液受容体から離すことにより、液受容体ないし液体から冷却ブロックへの熱移動を停止する。
【0018】
以上のように稼働し得る本温度制御装置は、液体の温度を迅速に変化させるのに適する。その理由は次のとおりである。
【0019】
本温度制御装置において、液体を昇温させるに際しては、液体を受容する液受容体に対して加熱ブロックは直接接触することができる。そのため、本装置による昇温過程では、加熱ブロックは、液受容体に直接接触して液体を昇温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を昇温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標高温度に向けて昇温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標高温度に向けて昇温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な昇温を阻む傾向にある。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置による昇温過程では、加熱ブロックは、液受容体に直接接触して液体を昇温することが可能であり、液受容体を保持するための熱容量体を介して液受容体ないし液体を昇温する必要はないのである。加熱ブロックと液受容体ないし液体と間に大きな熱容量体が介在しないこのような本温度制御装置は、液受容体中の液体を迅速に昇温させるのに適する。
【0020】
また、本温度制御装置において、昇温過程にある液受容体中の液体の温度をTとし、液体にとっての目標高温度をTHとし、加熱ブロックの第2温度をT2とし、液受容体中の液体に供給される熱量をQとし、時間をtとすると、昇温過程における液体の温度の上昇率すなわち昇温速度(dT/dt)は、当該液体に対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに供給される当該熱量(dQ/dt)は、昇温対象たる液体と加熱ブロックとの温度差(T2−T)と高い相関関係にあり、当該温度差(T2−T)に略比例する。温度差(T2−T)が大きいほど、単位時間あたりの供給熱量(dQ/dt)は大きく、昇温速度(dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92の温度は、反応試液の目標高温度たる熱変成温度T11に維持されており、昇温中の反応試液の温度Tとの差は(T11−T)であるが、本発明の第1の側面に係る温度制御装置と従来のPCR装置X2とで目標高温度を同じに想定して(即ち、TH=T11として)比較すると、本温度制御装置における液体と加熱ブロックとの温度差(T2−T)については、PCR装置X2における反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T2>TH=T11である)。上述のように、この温度差(T2−T)が大きいほど、液受容体中の液体に対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)は大きく、従って、液体の昇温速度(dT/dt)は大きい。
【0021】
本温度制御装置によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、昇温工程における熱変成温度T11(目標高温度)付近の温度領域における昇温速度は、昇温工程の初期段階での昇温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが上昇して熱変成温度T11(目標高温度)に接近するにつれて、反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液へ供給される熱量が小さくなって昇温速度も小さくなる)。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置によると、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域においても、昇温中の液体と加熱ブロックとの温度差(T2−T)について有意な差を確保しやすく、そのため、液受容体中の液体に対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、本温度制御装置によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0022】
一方、本温度制御装置において、液体を降温させるに際しては、液体を受容する液受容体に対して冷却ブロックは直接接触することができる。そのため、本装置による降温過程では、冷却ブロックは、液受容体に直接接触して液体を降温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を降温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標低温度に向けて降温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標低温度に向けて降温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な降温を阻む傾向にある。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置による降温過程では、冷却ブロックは、液受容体に直接接触して液体を降温することが可能であり、液受容体を保持するための熱容量体を介して液受容体ないし液体を降温する必要はないのである。冷却ブロックと液受容体ないし液体と間に大きな熱容量体が介在しないこのような本温度制御装置は、液受容体中の液体を迅速に降温させるのに適する。
【0023】
また、本温度制御装置において、降温過程にある液受容体中の液体の温度をTとし、液体にとっての目標低温度をTLとし、冷却ブロックの第3温度をT3とし、液受容体中の液体から奪われる熱量をQとし、時間をtとすると、降温過程における液体の温度の下降率すなわち降温速度(−dT/dt)は、当該液体から単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに奪われる当該熱量(dQ/dt)は、降温対象たる液体と冷却ブロックとの温度差(T−T3)と高い相関関係にあり、当該温度差(T−T3)に略比例する。温度差(T−T3)が大きいほど、単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、降温速度(−dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93の温度は、反応試液の目標低温度たるアニーリング・伸長温度T12に維持されており、降温中の反応試液の温度Tとの差は(T−T12)であるが、本発明の第1の側面に係る温度制御装置と従来のPCR装置X2とで目標低温度を同じに想定して(即ち、TL=T12として)比較すると、本温度制御装置における液体と冷却ブロックとの温度差(T−T3)については、PCR装置X2における反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T3<TL=T12である)。上述のように、この温度差(T−T3)が大きいほど、液受容体中の液体から単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、従って、液体の降温速度(−dT/dt)は大きい。
【0024】
本温度制御装置によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、降温工程におけるアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)付近の温度領域における降温速度は、降温工程の初期段階での降温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが下降してアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に接近するにつれて、反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液から奪われる熱量が小さくなって降温速度も小さくなる)。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置によると、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域においても、降温中の液体と冷却ブロックとの温度差(T−T3)について有意な差を確保しやすく、そのため、液受容体中の液体から単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、本温度制御装置によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0025】
以上のように、本温度制御装置は、液体の温度を迅速に変化(昇温・降温)させるのに適するのである。このような温度制御装置は、迅速な温度制御が求められる例えばPCR装置として使用するのに好適である。
【0026】
加えて、本温度制御装置は、液体の温度を目標高温度や目標低温度に正確に制御するのに適する。その理由は次のとおりである。
【0027】
上述の従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程において反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に接近するほど、反応試液温度Tと加熱ブロック92の温度T11とが接近し、温度差(T11−T)に略比例する反応試液の昇温速度(dT/dt)は0に接近する。そのため、従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程にて反応試液温度Tが有限の時間で熱変成温度T11(目標高温度)に到達することができない。このようなPCR装置X2では、実際上も、昇温工程にて反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に到達しにくいため、昇温工程にて反応試液温度Tを熱変成温度T11に正確に到達させにくい。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置においては、上述のように、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における液体の昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすく、これは、昇温中の液体の温度Tが目標高温度THに到達するまで当該液体の昇温速度(dT/dt)を大きく確保して液体温度Tが目標高温度THに迅速かつ確実に到達し得ることを意味する。そして、液受容体中の液体の温度Tが目標高温度THに達した時点で加熱ブロックを液受容体から離すことにより、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動を停止させて、液体の昇温を停止することができる。このような本温度制御装置は、昇温中の液体の温度を目標高温度に正確に制御するのに適する。
【0028】
一方、液体から熱量を奪い続けて液体を降温させる場合にあっては、一般に、降温対象の液体から熱量を奪うことを停止しても当該液体の温度は下がり続けることがある。例えば従来のPCR装置X2の上述の降温工程では、反応試液温度Tがアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に到達した場合、その時点で冷却ブロック93を保持ブロック91から離して反応試液から熱量を奪うことを停止しても、当該反応試液の温度はアニーリング・伸長温度T12を超えて下がり続ける。そのため、従来のPCR装置X2では、降温工程にて反応試液温度Tをアニーリング・伸長温度T12に正確に制御しにくい。これに対し、本発明の第1の側面に係る温度制御装置においては、保持手段(保持手段の温度は、液受容体中の液体の温度を目標低温度に保つための第1温度に設定されて当該第1温度に維持されている)が、降温対象の液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持しているので、冷却ブロックが液受容体から離れた後に液体温度が下がり続けることを阻止することができる。このような本温度制御装置は、降温中の液体の温度を目標低温度に正確に制御するのに適する。
【0029】
以上のように、本温度制御装置は、液体の目標高温度および目標低温度を正確に制御するのに適するのである。このような温度制御装置は、正確な温度制御が求められる例えばPCR装置として使用するのに好適である。
【0030】
本発明の第1の側面において、好ましくは、保持手段の第1温度は、目標低温度と同じか、目標低温度より高く且つ目標高温度より低いか、或は、目標低温度より低く且つ第3温度より高い。保持手段の第1温度については、例えば、加熱ブロックから液受容体ないし液体への熱移動がなく且つ液受容体ないし液体から冷却ブロックへの熱移動もない状態で仮に充分な時間が経過した場合に液受容体中の液体の温度が目標低温度に保たれるように、目標低温度や、環境温度、液受容体構成材料の熱伝導率、液受容体の構造ないし放熱性などに応じて、適宜設定する。
【0031】
好ましくは、加熱ブロックは、液受容体における保持手段とは反対の側に当接可能であり、且つ、冷却ブロックは、液受容体における保持手段とは反対の側に当接可能である。このような構成は、定温の保持手段による液受容体の保持と、加熱ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体昇温用の当接動作)と、冷却ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体降温用の当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0032】
好ましくは、保持手段は、液受容体を保持可能な保持面を有し、当該保持面に直交する軸心まわりに回転可能である。この場合、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、保持手段の保持面に対向し、且つ、当該保持面に対して接近離反動可能である。このような構成は、定温の保持手段による液受容体の保持と、加熱ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体昇温用の当接動作)と、冷却ブロックによる液受容体に対する当接動作(液体降温用の当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0033】
好ましくは、保持面は、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第1領域と、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第2領域とを有する。この場合、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された液受容体に対して接近して当接可能であり、第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された液受容体に対して接近して当接可能である。このような構成によると、第1領域に保持された液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第2領域に保持された液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能であり、また、第2領域に保持された液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第1領域に保持された液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能である。
【0034】
好ましくは、保持面は、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第1領域と、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第2領域とを有する。この場合、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された複数の液受容体に対して接近して当接可能であり、第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された複数の液受容体に対して接近して当接可能である。このような構成によると、第1領域に保持された複数の液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第2領域に保持された複数の液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能であり、また、第2領域に保持された液受容体に対する加熱ブロックによる昇温工程と第1領域に保持された液受容体に対する冷却ブロックによる降温工程とを併行して行うことが可能である。
【0035】
好ましくは、第1領域および第2領域は、軸心が中心を通る円(仮想円)の円周上に複数の液受容体が配列するように当該複数の液受容体を保持可能である。このような構成によると、第1領域に保持された複数の液受容体の位置と、第2領域に保持された複数の液受容体の位置とを、保持手段ないし保持面の180°の回転(軸心まわりの回転)によって入れ替える構成を採用しやすい。
【0036】
好ましくは、液受容体は、相対向して離隔する第1セル壁および第2セル壁を有し、当該第1および第2セル壁の間に、液体を受容するためのセルが設けられている。この場合、保持手段は、液受容体の第1セル壁に当接して当該液受容体を保持可能であり、加熱ブロックは、液受容体の第2セル壁に当接可能であり、冷却ブロックも、液受容体の第2セル壁に当接可能である。このような構成は、温度制御対象たる液体と加熱ブロックとの間の熱移動を効率よく行ううえで好適であり、且つ、当該液体と冷却ブロックとの間の熱移動を効率よく行ううえで好適である。
【0037】
好ましくは、第1および第2セル壁の離隔方向に直交する方向におけるセルの最大寸法は、離隔方向におけるセルの最大寸法より大きい。すなわち、温度制御対象たる液体を受容するセルは、扁平形状を有するのが好ましい。このような構成は、温度制御対象たる液体について、単位体積あたりの表面積について大きく確保するうえで好適である。温度制御対象たる液体の、単位体積あたりの表面積が大きいことは、当該液体と加熱ブロックとの間の熱移動や、当該液体と冷却ブロックとの間の熱移動を、効率よく行うのに資する。
【0038】
好ましくは、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、それぞれ、第2セル壁に当接するための突部を有する。加熱ブロックが第2セル壁に当接するための突部を有するという構成は、加熱ブロックからセル中の液体に対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。冷却ブロックが第2セル壁に当接するための突部を有するという構成は、セル中の液体から冷却ブロックに対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。局所的な熱移動の実現は、熱移動効率の向上に資する。
【0039】
本発明の第2の側面によると温度制御方法が提供される。この温度制御方法は、昇温工程および降温工程を含む。昇温工程では、液体を受容する液受容体に対し、液体にとっての目標高温度より高い加熱用温度(第1の側面における第2温度に相当する)にある加熱ブロックを当接させることによって、液体を昇温させる。降温工程では、目標高温度より低い目標低温度より低い冷却用温度(第1の側面における第3温度に相当する)にある冷却ブロックを液受容体に当接させることによって、液体を降温させる。また、降温工程は、目標低温度維持手段を液受容体に当接させつつ行う。目標低温度維持手段は、目標低温度と同じ温度、目標低温度より高く且つ目標高温度より低い温度、または、目標低温度より低く且つ冷却用温度より高い温度にある(目標低温度維持手段の温度は、第1の側面における第1温度に相当する)。
【0040】
このような構成の温度制御方法は、第1の側面に係る上述の温度制御装置によって適切に実行することができ、本方法によると、第1の側面に係る温度制御装置に関して上述した技術的効果が奏される。すなわち、本温度制御方法は、液体の温度を迅速に変化(昇温・降温)させるのに適し、且つ、液体の温度を目標高温度や目標低温度に正確に制御するのに適する。このような温度制御方法は、迅速かつ正確な温度制御が求められる例えばPCR法に適用するのに好適である。
【0041】
本発明の第2の側面において、好ましくは、昇温工程では、液体の温度が目標高温度に達した時に、加熱ブロックを液受容体から離す。このような構成は、昇温工程にて昇温中の液体の温度を目標高温度に正確に制御するのに資する。
【0042】
好ましくは、降温工程では、液体の温度が目標低温度に達するより前に、冷却ブロックを液受容体から離す。このような構成は、降温工程にて降温中の液体の温度を目標低温度に正確に制御するのに資する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る温度制御装置の構成の一部を表す。
【図2】本発明に係る温度制御装置の機能ブロック図の一部である。
【図3】図1の線III−IIIに沿った矢視図であり、試液チップを保持した状態にある回転テーブルの保持面を表す。
【図4】図1の線IV−IVに沿った矢視図であり、加熱ブロックにおける回転テーブル側の面および冷却ブロックにおける回転テーブル側の面を表す。
【図5】(a)は、試液チップの拡大平面図である。(b)は、(a)の線V−Vに沿った断面図である。
【図6】試料チップに対する試液の導入手順を表す。
【図7】本発明に係る温度制御装置が実行する二連の温度制御のステップ表の一部を表す。
【図8】ステップ1,6における温度制御装置の状態を表す。
【図9】ステップ2における温度制御装置の状態を表す。
【図10】ステップ3における温度制御装置の状態を表す。
【図11】ステップ4における温度制御装置の状態を表す。
【図12】ステップ5における温度制御装置の状態を表す。
【図13】昇温工程実行中の温度制御装置の部分拡大断面図である。
【図14】降温工程実行中の温度制御装置の部分拡大断面図である。
【図15】実施例における試液温度変化の一部のグラフである。
【図16】比較例における試液温度変化の一部のグラフである。
【図17】従来のPCR装置の構成を表す。
【図18】図17に示すPCR装置が昇温工程を実行している状態を表す。
【図19】図17に示すPCR装置が降温工程を実行している状態を表す。
【図20】図17に示すPCR装置によって実行されるPCR法の各サイクルにおける、反応試液の温度変化の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1から図4は、本発明に係る温度制御装置X1を表す。図1は、温度制御装置X1の構造の一部を表す。図2は、温度制御装置X1の機能ブロック図の一部を表す。図3および図4は、それぞれ、図1の線III−IIIおよび線IV−IVに沿った矢視図である。
【0045】
温度制御装置X1は、回転テーブル11と、加熱ブロック12と、冷却ブロック13と、温調デバイス21,22,23と、駆動機構31,32,33と、マイクロコンピュータMCとを備え、熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを複数回繰り返すPCR法を実行可能なように構成されている。
【0046】
回転テーブル11は、本発明における保持手段や目標低温度維持手段であり、試液チップ40に当接して当該試液チップ40を保持するための保持面11aを有し、且つ、図1および図3に示す軸心Ax(保持面11aに直交する)まわりに回転可能である。保持面11aは、複数の試液チップ搭載箇所を含む第1領域S1と、複数の試液チップ搭載箇所を含む第2領域S2とを有する(明確化の観点から、第1領域S1と第2領域S2を区分するための仮想線を図3に示す)。本実施形態では、第1領域S1に保持され得る試液チップ40の最大数と、第2領域S2に保持され得る試液チップ40の最大数とは、同じであり、且つ、保持面11a(第1領域S1,第2領域S2)に保持ないし搭載される複数の試液チップ40は、全て、軸心Axが中心を通る仮想円の円周上に配列する。
【0047】
試液チップ40の具体的構造については、図5に示す。図5(a)は、試液チップ40の拡大平面図であり、図5(b)は、図5(a)の線V−Vに沿った断面図である。試液チップ40は、凹部が設けられた本体41と、開口部が設けられたカバー体42とが接合されてなり、相対向して離隔するセル壁41a,42aを有し、セル壁41a,42a間に規定された試液セル43を有し、当該試液セル43に連通する液溜スペース44を有し、当該液溜スペース44に対応する箇所に位置する導入口45を有する。本体41およびカバー体42は、それぞれ、樹脂成形技術によって作製することが可能である。本体41およびカバー体42を構成するための樹脂材料としては、例えば、PS,PC,PMMA,COC,COPなどが挙げられる。セル壁41aは本体41の一部であり、セル壁42aはカバー体42の一部である。セル壁41a,42aの厚さ(図5(b)に表れている厚さ)は、例えば10〜500μmである。試液セル43は、PCR法を実行するための所定の試液等(図5では省略)を受容するためのスペースである。試液セル43は扁平な形状を有し、具体的には、セル壁41a,42aの離隔方向に直交する方向における試液セル43の最大寸法(例えば1000μm)は、前記の離隔方向における試液セル43の最大寸法(例えば500μm)より大きい。このような試液セル43の容積は、例えば0.1〜100μLである。試液セル43に受容されるべき試液には、鋳型DNAや、プライマーDNA、DNAポリメラーゼ、dNTPが含まれる。液溜スペース44は、試液セル43に導入されることとなる試液を調製すべく各種試薬等を混合するためのスペースである。導入口45は、液溜スペース44に各種試薬等を供給するのを許容するためのものである。
【0048】
図3に示すように、各試液チップ搭載箇所に保持ないし搭載される試液チップ40は、保持面11a(回転可能)の径方向外側に試液セル43が位置し且つ径方向内側に液溜スペース44が位置するように、配向する。また、試液チップ40は、回転テーブル11の保持面11aに対して脱着可能に保持されている。例えば、各試液チップ40において保持面11aと接する側(即ち本体41側)に複数の凹部(図示略)を設けておき、保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所にて、前記凹部に入り込むことが可能な複数の凸部(図示略)を前記複数の凹部に対応する位置に設けておき、且つ、当該試液チップ搭載箇所にて前記複数の凸部が前記複数の凹部に入り込んだ態様で載置された試液チップ40を保持面11aとの間に挟み込むためのクリップ機構を各試液チップ搭載箇所に設けておく。温度制御装置X1においては、例えばこのような構成を採用することにより、回転テーブル11の保持面11aの所定位置に対して各試液チップ40を脱着可能に保持することが可能である。そして、回転テーブル11の保持面11aは、試液チップ40を保持した状態では、当該試液チップ40の本体41側(セル壁41aを含む)に当接する。
【0049】
保持面11a上または回転テーブル11内の保持面11a近傍には、保持面11aの温度を検出するための温度センサ11bが設けられている。温度センサ11bは、例えばサーミスタにより構成される。また、温度センサ11bは、図2に示すように、マイクロコンピュータMCに接続されており、温度センサ11bから出力される信号がマイクロコンピュータMCに入力されるように構成されている。
【0050】
温調デバイス21(図1では図示せず)は、回転テーブル11内に設けられており、且つ、回転テーブル11の保持面11aと熱的に接続されている。温調デバイス21は、ペルチェ効果を利用して構成されるペルチェモジュールよりなり、図2に示すように、マイクロコンピュータMCと接続されている。マイクロコンピュータMCからの指令に基づき、必要に応じて当該ペルチェモジュール(温調デバイス21)に対する通電方向および通電量が変化し得るように構成されている。また、温調デバイス21の稼働により、回転テーブル11の少なくともその保持面11aが第1温度T1に維持され得るように構成されている。第1温度T1とは、保持面11aに保持されている試液チップ40の試液セル43に試液が受容されている場合に当該試液の温度を目標低温度TLに保つための温度である。このような第1温度T1は、温度制御対象たる試液にとっての目標低温度TLや、環境温度、試液チップ40の構成材料の熱伝導率、試液チップ40の構造ないし放熱性などに応じて、適宜設定される。例えば、目標低温度TLと環境温度とが同じか略同じである場合、第1温度T1については、目標低温度TLと同じ温度に設定するのが適当である場合がある。例えば、目標低温度TLが環境温度より有意に高い場合、第1温度T1については、目標低温度TLより高く設定するのが適当である場合が多い。例えば、目標低温度TLが環境温度より有意に低い場合、第1温度T1については、目標低温度TLより低く設定するのが適当である場合が多い。
【0051】
駆動機構31は、回転テーブル11を回転駆動ないし回転変位制御するためのものであり、マイクロコンピュータMCに接続されている。また、駆動機構31は、マイクロコンピュータMCからの指令に基づき稼働するように構成されており、回転テーブル11の回転変位量をマイクロコンピュータMCに出力するようにも構成されている。このような駆動機構31の有する回転軸芯に対して回転テーブル11は固定されている。
【0052】
加熱ブロック12は、試液チップ40に当接して試液チップ40の試液セル43内の試液を昇温するためのものである。加熱ブロック12は、保持面11a上の試液チップ40に対して相対変位可能である。具体的には、加熱ブロック12は、回転テーブル11の保持面11aに対向し、当該保持面11aないし保持面11a上の試液チップ40に対し、図1の矢印H方向において接近離反動可能である。また、加熱ブロック12は、温度制御対象たる試液にとっての目標高温度TH(上記の目標低温度TLより高い)より高い第2温度T2を維持可能である。加えて、加熱ブロック12は、図1および図4に示すように、保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所に保持ないし搭載されている試液チップ40のセル壁42a(即ち、試液チップ40における、回転テーブル11とは反対の側)に当接するための複数の突部12aを有する。
【0053】
加熱ブロック12内には、当該加熱ブロック12の温度を検出するための温度センサ12bが設けられている。温度センサ12bは、例えばサーミスタにより構成される。また、温度センサ12bは、図2に示すように、マイクロコンピュータMCに接続されており、温度センサ12bから出力される信号がマイクロコンピュータMCに入力されるように構成されている。
【0054】
温調デバイス22(図1では図示せず)は、加熱ブロック12と熱的に接続されており、所定の発熱デバイスよりなるヒーターである。マイクロコンピュータMCからの指令に基づき、必要に応じて温調デバイス22に対する通電量が変化して当該温調デバイス22の温度が変化するように構成されている。また、温調デバイス22の稼働により、加熱ブロック12が第2温度T2に維持され得るように構成されている。
【0055】
駆動機構32(図1では図示せず)は、例えば図1に示す矢印H方向において加熱ブロック12を並進駆動するためのものであり、図2に示すようにマイクロコンピュータMCに接続されている。また、駆動機構32は、マイクロコンピュータMCからの指令に基づき稼働するように構成されており、加熱ブロック12の並進変位量をマイクロコンピュータMCに出力するようにも構成されている。このような駆動機構32の稼働により、加熱ブロック12が並進駆動されて、回転テーブル11の保持面11aに対して加熱ブロック12が接近離反動される。
【0056】
冷却ブロック13は、試液チップ40に当接して試液チップ40の試液セル43内の試液を降温するためのものである。冷却ブロック13は、保持面11a上の試液チップ40に対して相対変位可能である。具体的には、冷却ブロック13は、回転テーブル11の保持面11aに対向し、当該保持面11aないし保持面11a上の試液チップ40に対して接近離反動可能である。また、冷却ブロック13は、温度制御対象たる試液にとっての目標低温度TLより低い第3温度T3を維持可能である。第3温度T3は、上記の目標低温度TLより低いのに加え、上記の第1温度T1よりも低い。加えて、冷却ブロック13は、図1および図4に示すように、保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所に保持ないし搭載されている試液チップ40のセル壁42a(即ち、試液チップ40における、回転テーブル11とは反対の側)に当接するための複数の突部13aを有する。
【0057】
冷却ブロック13内には、当該冷却ブロック13の温度を検出するための温度センサ13bが設けられている。温度センサ13bは、例えばサーミスタにより構成される。また、温度センサ13bは、図2に示すように、マイクロコンピュータMCに接続されており、温度センサ13bから出力される信号がマイクロコンピュータMCに入力されるように構成されている。
【0058】
温調デバイス23(図1では図示せず)は、冷却ブロック13と熱的に接続されており、ペルチェ効果を利用して構成されるペルチェモジュールよりなり、図2に示すように、マイクロコンピュータMCと接続されている。マイクロコンピュータMCからの指令に基づき、必要に応じて当該ペルチェモジュール(温調デバイス23)に対する通電方向および通電量が変化し得るように構成されている。また、温調デバイス23の稼働により、冷却ブロック13が第3温度T3に維持され得るように構成されている。
【0059】
駆動機構33(図1では図示せず)は、例えば図1に示す矢印H方向において冷却ブロック13を並進駆動するためのものであり、図2に示すようにマイクロコンピュータMCに接続されている。また、駆動機構33は、マイクロコンピュータMCからの指令に基づき稼働するように構成されており、冷却ブロック13の並進変位量をマイクロコンピュータMCに出力するようにも構成されている。このような駆動機構33の稼働により、加熱ブロック13が並進駆動されて、回転テーブル11の保持面11aに対して冷却ブロック13が接近離反動される。
【0060】
以上のような構成の温度制御装置X1においてPCR法を実行する前には、試液入り試液チップ40を回転テーブル11の保持面11aに用意する。例えば次のとおりである。
【0061】
まず、必要数の試液チップ40を、例えば図3に示すように、回転テーブル11の保持面11aにおける各試液チップ搭載箇所にセットする(回転可能な保持面11aの径方向外側に試液セル43が位置し且つ径方向内側に液溜スペース44が位置する)。以降、保持面11a上での各試液チップ40の位置は固定される。次に、図6(a)に示すように、必要な試薬等を、導入口45を介して液溜スペース44に供給する。例えば、全ての試薬を溶液状態で用意しておき、当該試薬を液溜スペース44に供給する。或は、一部の試薬を乾燥試薬として用意して液溜スペース44の底面に予め付着させておき、当該液溜スペース44に溶液状態の他の試薬を供給して、当該溶液状態試薬に乾燥試薬を溶解させてもよい。必要な試薬等には、鋳型DNA、プライマーDNA、DNAポリメラーゼ、dNTP、およびバッファー成分等が含まれる。液溜スペース44では、例えばピペッティングなどによって試薬どうしを混合し、均質化された反応液たる試液Rを調製する。次に、このような試液チップ40を保持している回転テーブル11を軸心Axまわりに所定速度で回転させ、試液Rに作用する遠心力を利用して、図6(b)に示すように試液Rを試液セル43へと移動させる。次に、図6(c)に示すようにミネラルオイルMを液溜スペース44に供給する。ミネラルオイルMの存在により、温度変化過程を経ることとなる試液Rについて蒸散等を防止することが可能である。
【0062】
温度制御装置X1においてPCR法を実行する前には、回転テーブル11について軸心Axまわりの回転位置が固定される。具体的には、回転テーブル11の保持面11aの第1領域S1が加熱ブロック12に対向し且つ第2領域S2が冷却ブロック13に対向するように、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が位置固定される。
【0063】
温度制御装置X1においてPCR法を実行する前には、回転テーブル11、加熱ブロック12、および冷却ブロック13について所望の温度に設定し、当該所望の温度を維持させる。具体的には次のとおりである。温調デバイス21の稼働により、回転テーブル11の少なくとも保持面11aについて、上述の第1温度T1に温度調整して第1温度T1を維持する。温調デバイス22の稼働により、突部12aを有する加熱ブロック12について、上述の第2温度T2(加熱用温度)に温度調整して第2温度T2を維持する。温調デバイス23の稼働により、突部13aを有する冷却ブロック13について、上述の第3温度T3(冷却用温度)に温度調整して第3温度T3を維持する。PCR過程で試液Rが到達すべき目標低温度をTL(例えば60℃)とし且つ試液Rが到達すべき目標高温度をTH(例えば95℃)とすると、第1温度T1は、加熱ブロック12から試液Rへの熱移動がなく且つ試液Rから冷却ブロック13への熱移動もない状態で、仮に充分な時間が経過した場合に、試液Rの温度を目標低温度TLに保つための温度である。このような第1温度T1について、具体的には、目標低温度TLと同じ温度、目標低温度TLより高く且つ目標高温度THより低い温度、または、目標低温度TLより低く且つ第3温度T3(冷却用温度)より高い温度とする。第2温度T2は、目標高温度THより高い温度とする。第3温度T3は、目標低温度TLより低い温度とする。
【0064】
以上のような前準備が完了し、試液チップ40内の試液Rの温度が目標低温度TLに至った後、温度制御装置X1においては、二連でPCR法ないし温度制御を実行することができる。当該二連PCR法では、保持面11aの第1領域S1に保持された試液チップ40(第1グループをなす)の試液Rのそれぞれについて、昇温工程、降温工程、および定温維持工程を行うとともに、保持面11aの第2領域S2に保持された試液チップ40(第2グループをなす)の試液Rのそれぞれについて、昇温工程、降温工程、および定温維持工程を行う。図7は、温度制御装置X1が稼働する際の温度制御に係るステップ表の一部を表す。
【0065】
温度制御装置X1による二連PCR法の実行においては、まず、ステップ1にて、図8に示すように、第1領域S1に保持された試液チップ40(第1グループ)について昇温工程を行う(図8では、明確化の観点から、回転テーブル11について第1領域S1側にハッチングを付して表す。図9から図12においても同様である)。
【0066】
ステップ1では、駆動機構32の稼働によって図8に示すように加熱ブロック12が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第1領域S1上の各試液チップ40に加熱ブロック12が当接される。具体的には、図13に示すように、加熱ブロック12の各突部12aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される(セル壁42aはセル壁41aと共に試液セル43を規定する部位である)。このような当接により、第1グループの各試液チップ40について、昇温工程が開始する。この昇温工程では、加熱ブロック12ないし突部12aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に加熱され、加熱ブロック12ないし突部12aからセル壁42aおよび試液セル43内の試液Rへと熱移動が生じ、試液Rが昇温する。そして、試液Rが目標高温度THに到達することにより、試液R内の鋳型DNAの二本鎖が一本鎖に充分に分離される(第1グループの熱変成工程)。また、試液Rが目標高温度THに到達した時点で、駆動機構32を稼働させて加熱ブロック12ないし突部12aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、加熱ブロック12から試液Rへの熱移動は停止する(第1グルーブの昇温工程の終了)。
【0067】
ステップ1では、一方、保持面11aの第2領域S2上の各試液チップ40(第2グループ)は、試液セル43内の試液Rが定温(目標低温度TL)に維持され、待機状態にある。各試液チップ40の試液Rでは、PCRに係る反応は進行しない。
【0068】
ステップ1の終了時には、上述のように加熱ブロック12が第1グループの試液チップ40から離れるのと同時に、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が軸心Axまわりに回転変位される。その回転量は180°であり、当該回転変位によって、第1グループに属する第1領域S1上の複数の試液チップ40の位置と、第2グループに属する第2領域S2上の複数の試液チップ40の位置とが、入れ替わる。
【0069】
次に、ステップ2にて、図9に示すように、第1グループについて降温工程を行い、且つ、第2グループについて昇温工程を行う。
【0070】
ステップ2では、駆動機構33の稼働によって図9に示すように冷却ブロック13が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第1領域S1上の各試液チップ40に冷却ブロック13が当接される。具体的には、図14に示すように、冷却ブロック13の各突部13aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される(セル壁42aはセル壁41aと共に試液セル43を規定する部位である)。このような当接により、第1グループの各試液チップ40について、降温工程が開始する。この降温工程では、冷却ブロック13ないし突部13aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に冷却され、セル壁42aおよび試液セル43内の試液Rから冷却ブロック13ないし突部13aへと熱移動が生じ、試液Rが降温する。降温中の試液R内では、アニーリング工程が除々に進行する(第1グループのアニーリング工程の一部)。アニーリング工程では、鋳型の各一本鎖DNAとプライマー(当該一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列を有する)とが結合される。また、試液Rが目標低温度TLに到達する直前(例えば10〜1000ミリ秒前)に、駆動機構33を稼働させて冷却ブロック13ないし突部13aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、冷却ブロック13への熱移動は停止する(第1グループの降温工程の終了,ステップ2の終了)。
【0071】
ステップ2では、一方、駆動機構32の稼働によって図9に示すように加熱ブロック12が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第2領域S2上の各試液チップ40に加熱ブロック12が当接される。具体的には、図13に示すように、加熱ブロック12の各突部12aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される。このような当接により、第2グループの各試液チップ40について、昇温工程が開始する。この昇温工程では、加熱ブロック12ないし突部12aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に加熱され、加熱ブロック12ないし突部12aからセル壁42aおよび試液セル43内の試液Rへと熱移動が生じ、試液Rが昇温する。
【0072】
次に、ステップ3にて、図10に示すように、第1グループについて定温維持工程を行い、且つ、第2グループについてステップ2から引き続き昇温工程を行う。
【0073】
ステップ3では、第1グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される(第1グループの定温維持工程)。このような試液Rでは、アニーリング工程(第1グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第1グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。アニーリング工程では、上述のように、鋳型の各一本鎖DNAとプライマー(当該一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列を有する)とが結合される。伸長工程では、鋳型一本鎖DNAと結合したプライマーの3’末端側において、鋳型一本鎖DNAと相補的な塩基配列を有するDNA鎖が伸長ないし合成される。
【0074】
ステップ3では、ステップ2から引き続き、加熱ブロック12ないし突部12aによって第2グループの試液チップ40のセル壁42aが直接的に加熱され、加熱ブロック12ないし突部12aからセル壁42aおよび試液セル43内の試液Rへと熱移動が生じ、試液Rが昇温する。そして、試液Rが目標高温度THに到達することにより、試液R内の鋳型DNAの二本鎖が一本鎖に充分に分離される(第2グループの熱変成工程)。また、試液Rが目標高温度THに到達した時点で、駆動機構32を稼働させて加熱ブロック12ないし突部12aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、加熱ブロック12から試液Rへの熱移動は停止する(第2グループの昇温工程の終了)。
【0075】
ステップ3の終了時には、上述のように加熱ブロック12が第2グループの試液チップ40から離れるのと同時に、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が軸心Axまわりに回転変位される。その回転量は180°であり、当該回転変位によって、第1グループに属する第1領域S1上の複数の試液チップ40の位置と、第2グループに属する第2領域S2上の複数の試液チップ40の位置とが、入れ替わる。
【0076】
次に、ステップ4にて、図11に示すように、第1グループについてステップ3から引き続き定温維持工程を行い、且つ、第2グループについて降温工程を行う。
【0077】
ステップ4では、ステップ3から引き続き、第1グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される。これにより第1グループの試液Rでは、ステップ3から引き続き、アニーリング工程(第1グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第1グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。
【0078】
ステップ4では、駆動機構33の稼働によって図11に示すように冷却ブロック13が回転テーブル11に接近され、保持面11aの第2領域S1上の各試液チップ40に冷却ブロック13が当接される。具体的には、図14に示すように、冷却ブロック13の各突部13aが、試液チップ40のセル壁42aに当接される。このような当接により、第2グループの各試液チップ40について、降温工程が開始する。この降温工程では、冷却ブロック13ないし突部13aによって試液チップ40のセル壁42aが直接的に冷却され、セル壁42aおよび試液セル43内の試液Rから冷却ブロック13ないし突部13aへと熱移動が生じ、試液Rが降温する。降温中の試液R内では、アニーリング工程が除々に進行する(第2グループのアニーリング工程の一部)。また、試液Rが目標低温度TLに到達する直前(例えば10〜1000ミリ秒前)に、駆動機構33を稼働させて冷却ブロック13ないし突部13aを試液チップ40のセル壁42aから離す。これにより、冷却ブロック13への熱移動は停止する(第2グループの降温工程の終了,ステップ4の終了)。
【0079】
次に、ステップ5にて、図12に示すように、第1グループについてステップ4から引き続き定温維持工程を行い、且つ、第2グループについて定温維持工程を行う。
【0080】
ステップ5では、ステップ4から引き続き、第1グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される。これにより第1グループの試液Rでは、ステップ4から引き続き、アニーリング工程(第1グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第1グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。
【0081】
ステップ5では、第2グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される(第2グループの定温維持工程)。このような試液Rでは、アニーリング工程(第2グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第2グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。
【0082】
次に、ステップ6にて、図8に示すように、第1グループについて昇温工程(2サイクル目)を行い、且つ、第2グループについてステップ5から引き続き定温維持工程を行う。
【0083】
ステップ6では、ステップ1に関して上述したのと同様に、第1領域S1上の第1グループの試液チップ40について昇温工程を行う。これとともに、ステップ6では、ステップ5から引き続き、第2領域S2上の第2グループの各試液チップ40は保持面11aと接しており、当該各試液チップ40の試液セル43内の試液Rは、定温(目標低温度TL)に維持される。これにより第2グループの試液Rでは、ステップ5から引き続き、アニーリング工程(第2グループのアニーリング工程の一部)と伸長工程(第2グループの伸長工程の一部)とが同時進行する。ステップ6の終了により、第2グループの定温維持工程は終了する。
【0084】
ステップ6の終了時には、加熱ブロック12が第1領域S1上の第1グループの試液チップ40から離れるのと同時に、駆動機構31の稼働によって回転テーブル11が軸心Axまわりに回転変位される。その回転量は180°であり、当該回転変位によって、第1グループに属する第1領域S1上の複数の試液チップ40の位置と、第2グループに属する第2領域S2上の複数の試液チップ40の位置とが、入れ替わる。
【0085】
以上のステップ1〜6に関し、ステップ1での第1グループの昇温工程の実行時間は例えば6秒であり、ステップ2での第1グループの降温工程の実行時間は例えば4秒であり、ステップ3〜5にわたる第1グループの定温維持工程の実行時間は例えば16秒である(ステップ6での第1グループの昇温工程の実行時間はステップ1のそれと同じである)。また、ステップ2〜3にわたる第2グループの昇温工程の実行時間は例えば6秒であり、ステップ4での第2グループの降温工程の実行時間は例えば4秒であり、ステップ5〜6にわたる第2グループの定温維持工程の実行時間は例えば16秒である。
【0086】
温度制御装置X1においては、第1領域S1上の試液チップ40(第1グループ)の試液セル43内の試液Rについて、上記のステップ1〜5を1熱サイクルとして繰り返し行い、上述の熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを所定回数繰り返すPCR法を実行することができる。これとともに、温度制御装置X1においては、第2領域S2上の試液チップ40(第2グループ)の試液セル43内の試液Rについて、上記のステップ2〜6を1熱サイクルとして繰り返し行い、上述の熱変成工程、アニーリング工程、および伸長工程を含むサイクルを所定回数繰り返すPCR法を実行することができる。このように温度制御装置X1は、二連でPCR法ないし温度制御を実行することができる。
【0087】
以上のように稼働し得る温度制御装置X1は、試液Rの温度を迅速に変化させるのに適する。その理由は次のとおりである。
【0088】
温度制御装置X1において、試液Rを昇温させるに際しては、試液Rを受容する試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに対して加熱ブロック12は直接接触することができる。そのため、温度制御装置X1による上述の昇温過程では、加熱ブロック12は、セル壁42aに直接接触して試液Rを昇温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を昇温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標高温度に昇温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標高温度に昇温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な昇温を阻む傾向にある。これに対し、温度制御装置X1による昇温過程では、加熱ブロック12は、試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに直接接触して試液Rを昇温することが可能であり、試液チップ40を保持するための熱容量体を介して試液チップ40ないし試液Rを昇温する必要はないのである。加熱ブロック12と試液チップ40ないし試液Rと間に大きな熱容量体が介在しないこのような温度制御装置X1は、試液セル43中の試液Rを迅速に昇温させるのに適する。
【0089】
また、温度制御装置X1において、昇温過程にある試液セル43中の試液Rの温度をTとし、試液Rに供給される熱量をQとし、時間をtとすると、昇温過程における試液Rの温度の上昇率すなわち昇温速度(dT/dt)は、当該試液Rに対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに供給される当該熱量(dQ/dt)は、昇温対象たる試液Rと加熱ブロック12(目標高温度THより高い第2温度T2に維持されている)との温度差(T2−T)と高い相関関係にあり、当該温度差(T2−T)に略比例する。温度差(T2−T)が大きいほど、単位時間あたりの供給熱量(dQ/dt)は大きく、昇温速度(dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、加熱ブロック92の温度は、反応試液の目標高温度たる熱変成温度T11に維持されており、昇温中の反応試液の温度Tとの差は(T11−T)であるが、温度制御装置X1と従来のPCR装置X2とで目標高温度を同じに想定して(即ち、TH=T11として)比較すると、温度制御装置X1における試液Rと加熱ブロック12との温度差(T2−T)については、PCR装置X2における反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T2>TH=T11である)。上述のように、この温度差(T2−T)が大きいほど、試液セル43中の試液Rに対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)は大きく、従って、試液Rの昇温速度(dT/dt)は大きい。
【0090】
温度制御装置X1によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、昇温工程における熱変成温度T11(目標高温度)付近の温度領域における昇温速度は、昇温工程の初期段階での昇温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが上昇して熱変成温度T11(目標高温度)に接近するにつれて、反応試液と加熱ブロック92との温度差(T11−T)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液へ供給される熱量が小さくなって昇温速度も小さくなる)。これに対し、温度制御装置X1によると、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域においても、昇温中の試液Rと加熱ブロック12との温度差(T2−T)について有意な差を確保しやすく、そのため、試液セル43中の試液Rに対して単位時間あたりに供給される熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、温度制御装置X1によると、特に、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0091】
一方、本温度制御装置X1において、試液Rを降温させるに際しては、試液Rを受容する試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに対して冷却ブロック13は直接接触することができる。そのため、温度制御装置X1による降温過程では、冷却ブロック13は、セル壁42aに直接接触して試液Rを降温することが可能である。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93は、チューブ94を保持するための保持ブロック91(熱容量体)を介してチューブ94ないしその中の反応試液を降温する必要があるところ、保持ブロック91は大きな熱容量を有する。そのため、PCR装置X2では、チューブ94内の反応試液を目標低温度に降温するに際し、大きな熱容量を有する保持ブロック91をも目標低温度に降温する必要があり、保持ブロック91(熱容量体)が反応試液の迅速な降温を阻む傾向にある。これに対し、温度制御装置X1による降温過程では、冷却ブロック13は、試液チップ40の試液セル43のセル壁42aに直接接触して試液Rを降温することが可能であり、試液チップ40を保持するための熱容量体を介して試液チップ40ないし試液Rを降温する必要はないのである。冷却ブロック13と試液チップ40ないし試液Rと間に大きな熱容量体が介在しないこのような温度制御装置X1は、試液セル43中の試液Rを迅速に降温させるのに適する。
【0092】
また、本温度制御装置X1において、降温過程にある試液セル43中の試液Rの温度をTとし、試液Rから奪われる熱量をQとし、時間をtとすると、降温過程における試液Rの温度の下降率すなわち降温速度(−dT/dt)は、当該試液Rから単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)に比例する。そして、単位時間あたりに奪われる当該熱量(dQ/dt)は、降温対象たる試液Rと冷却ブロック13(目標低温度TLより低い第3温度T3に維持されている)との温度差(T−T3)と高い相関関係にあり、当該温度差(T−T3)に略比例する。温度差(T−T3)が大きいほど、単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、降温速度(−dT/dt)も大きい。例えば上述の従来のPCR装置X2では、冷却ブロック93の温度は、反応試液の目標低温度たるアニーリング・伸長温度T12に維持されており、降温中の反応試液の温度Tとの差は(T−T12)であるが、温度制御装置X1と従来のPCR装置X2とで目標低温度を同じに想定して(即ち、TL=T12として)比較すると、温度制御装置X1における試液Rと冷却ブロック13との温度差(T−T3)については、PCR装置X2における反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)よりも、大きく確保しやすいことが理解されよう(T3<TL=T12である)。上述のように、この温度差(T−T3)が大きいほど、試液セル43中の試液Rから単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)は大きく、従って、試液Rの降温速度(−dT/dt)は大きい。
【0093】
温度制御装置X1によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすい。従来のPCR装置X2によると、図20を参照して上述したように、降温工程におけるアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)付近の温度領域における降温速度は、降温工程の初期段階での降温速度に比べて相当程度に小さい。これは、反応試液温度Tが下降してアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に接近するにつれて、反応試液と冷却ブロック93との温度差(T−T12)が相当程度に小さくなるためである(当該温度差が小さいほど、単位時間あたりに反応試液から奪われる熱量が小さくなって降温速度も小さくなる)。これに対し、温度制御装置X1によると、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域においても、降温中の試液Rと冷却ブロック13との温度差(T−T3)について有意な差を確保しやすく、そのため、試液セル43中の試液Rから単位時間あたりに奪われる熱量(dQ/dt)について大きく確保しやすい。したがって、温度制御装置X1によると、特に、降温工程における目標低温度TL付近の温度領域における降温速度(−dT/dt)を大きく確保しやすいのである。
【0094】
以上のように、温度制御装置X1は、試液Rの温度を迅速に変化(昇温・降温)させるのに適するのである。このような温度制御装置X1は、迅速な温度制御が求められるPCR装置として使用するのに好適であるが、他の温度制御装置として使用することも可能である。
【0095】
加えて、温度制御装置X1は、試液Rの温度を目標高温度THや目標低温度TLに正確に制御するのに適する。その理由は次のとおりである。
【0096】
上述の従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程において反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に接近するほど、反応試液温度Tと加熱ブロック92の温度T11とが接近し、温度差(T11−T)に略比例する反応試液の昇温速度(dT/dt)は0に接近する。そのため、従来のPCR装置X2では、原理上、昇温工程にて反応試液温度Tが有限の時間で熱変成温度T11(目標高温度)に到達することができない。このようなPCR装置X2では、実際上も、昇温工程にて反応試液温度Tが熱変成温度T11(目標高温度)に到達しにくいため、昇温工程にて反応試液温度Tを熱変成温度T11に正確に到達させにくい。これに対し、温度制御装置X1においては、上述のように、昇温工程における目標高温度TH付近の温度領域における試液Rの昇温速度(dT/dt)を大きく確保しやすく、これは、昇温中の試液Rの温度Tが目標高温度THに到達するまで当該試液Rの昇温速度(dT/dt)を大きく確保して試液Rの温度Tが目標高温度THに迅速かつ確実に到達し得ることを意味する。そして、試液チップ40中の試液Rの温度Tが目標高温度THに達した時点で加熱ブロック12を試液チップ40から離すことにより、加熱ブロック12から試液チップ40ないし試液Rへの熱移動を停止させて、試液Rの昇温を停止することができる。このような温度制御装置X1は、昇温中の試液Rの温度Tを目標高温度THに正確に制御するのに適する。
【0097】
一方、液体から熱量を奪い続けて当該液体を降温させる場合にあっては、一般に、降温対象の液体から熱量を奪うことを停止しても当該液体の温度は下がり続けることがある。例えば従来のPCR装置X2の上述の降温工程では、反応試液温度Tがアニーリング・伸長温度T12(目標低温度)に到達した場合、その時点で冷却ブロック93を保持ブロック91から離して反応試液から熱量を奪うことを停止しても、当該反応試液の温度はアニーリング・伸長温度T12を超えて下がり続けることがある。そのため、従来のPCR装置X2では、降温工程にて反応試液温度Tをアニーリング・伸長温度T12に正確に制御しにくい。これに対し、温度制御装置X1においては、回転テーブル11(回転テーブル11の温度は、試液Rの温度を目標低温度TLに保つための第1温度T1に設定されて当該第1温度T1に維持されている)が、降温対象の試液Rを受容する試液チップ40の試液セル43のセル壁41aに当接して当該試液チップ40を保持しているので、冷却ブロック13がセル壁42aから離れた後に試液Rの温度Tが下がり続けることを阻止することができる。このような温度制御装置X1は、降温中の試液Rの温度Tを目標低温度TLに正確に制御するのに適する。
【0098】
以上のように、温度制御装置X1は、試液Rの目標高温度THおよび目標低温度TLを正確に制御するのに適するのである。このような温度制御装置X1は、正確な温度制御が求められるPCR装置として使用するのに好適であるが、他の温度制御装置として使用することも可能である。
【0099】
温度制御装置X1においては、上述のように、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、個々に、試液チップ40における回転テーブル11とは反対の側に(即ちセル壁42aに)当接可能である。このような構成は、定温の回転テーブル11による試液チップ40の保持と、加熱ブロック12による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを昇温するための当接動作)と、冷却ブロック13による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを降温するための当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0100】
温度制御装置X1においては、上述のように、回転テーブル11は、試液チップ40を保持可能な保持面11aを有し、保持面11aに直交する軸心Axまわりに回転可能である。これとともに、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、それぞれ、回転テーブル11の保持面11aに対向し、且つ、保持面11aに対して接近離反動可能である。このような構成は、定温の回転テーブル11による試液チップ40の保持と、加熱ブロック12による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを昇温するための当接動作)と、冷却ブロック13による試液チップ40に対する当接動作(試液Rを降温するための当接動作)とを効率よく実現するうえで、好適である。
【0101】
温度制御装置X1においては、上述のように、保持面11aは、試液Rを受容する試液セル43を有する複数の試液チップ40に当接して当該複数の試液チップ40を保持可能な第1領域S1と、試液Rを受容する試液セル43を有する複数の試液チップ40に当接して当該複数の試液チップ40を保持可能な第2領域S2とを有する。これとともに、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、それぞれ、第1領域S1に対向しているときには、当該第1領域S1に保持された複数の試液チップ40に対して接近して当接可能であり、第2領域S2に対向しているときには、当該第2領域S2に保持された複数の試液チップ40に対して接近して当接可能である。このような構成によると、第1領域S1に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する加熱ブロック12による昇温工程と第2領域S2に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する冷却ブロック13による降温工程とを併行して行うことが可能であり、また、第2領域S2に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する加熱ブロック12による昇温工程と第1領域S1に保持された複数の試液チップ40中の試液Rに対する冷却ブロック13による降温工程とを併行して行うことが可能である。
【0102】
温度制御装置X1においては、上述のように、第1領域S1および第2領域S2は、軸心Axが中心を通る円(仮想円)の円周上に複数の試液チップ40が配列するように当該複数の試液チップ40を保持可能である。このような構成によると、第1領域S1に保持された複数の試液チップ40の位置と、第2領域S2に保持された複数の試液チップ40の位置とを、回転テーブル11ないし保持面11aの180°の回転(軸心Axまわりの回転)によって入れ替える構成を採用しやすい。
【0103】
温度制御装置X1においては、上述のように、試液チップ40は、相対向して離隔するセル壁41aおよびセル壁42aを有し、当該セル壁41a,42a間に、試液Rを受容するための試液セル43が設けられている。これとともに、回転テーブル11は、試液チップ40のセル壁41aに当接して当該試液チップ40を保持可能であり、加熱ブロック12は、試液チップ40のセル壁42aに当接可能であり、冷却ブロック13も、試液チップ40のセル壁42aに当接可能である。このような構成は、温度制御対象たる試液Rと加熱ブロック12との間の熱移動を効率よく行ううえで好適であり、且つ、当該試液Rと冷却ブロック13との間の熱移動を効率よく行ううえで好適である。
【0104】
温度制御装置X1においては、上述のように、セル壁41a,42aの離隔方向(図5(b)の縦方向)に直交する方向における試液セル43の最大寸法は、当該離隔方向における試液セル43の最大寸法より大きい。すなわち、温度制御対象たる試液Rを受容する試液セル43は、扁平形状を有する。このような構成は、温度制御対象たる試液Rについて、単位体積あたりの表面積について大きく確保するうえで好適である。温度制御対象たる試液Rの、単位体積あたりの表面積が大きいことは、当該試液Rと加熱ブロック12との間の熱移動や、当該試液Rと冷却ブロック13との間の熱移動を、効率よく行うのに資する。
【0105】
温度制御装置X1においては、上述のように、加熱ブロック12および冷却ブロック13は、それぞれ、セル壁42aに当接するための突部12a,13aを有する。加熱ブロック12がセル壁42aに当接するための突部12aを有するという構成は、加熱ブロック12から試液セル43中の試液Rに対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。冷却ブロック13がセル壁42aに当接するための突部13aを有するという構成は、試液セル43中の試液Rから冷却ブロック13に対して局所的に熱移動を生じさせるのに好適である。局所的な熱移動の実現は、熱移動効率の向上に資する。
【実施例】
【0106】
上述の温度制御装置X1を使用して、温度制御対象たる液体の温度変化を測定した。具体的には、次のとおりである。
【0107】
試液セル43内に熱電対を挿入した試液チップ40を用意し、当該試液チップ40を回転テーブル11の保持面11aの第1領域S1に保持させ、その後、図6に示すのと同様の手順で、試液Rを試液セル43内に導入し、且つ、ミネラルオイルMを液溜スペース44に供給した。回転テーブル11に付設した所定の回路系を利用して、試液チップ40の熱電対によって試液セル43中の試液Rの温度を常時測定することができるように構成しておいた。そして、温度制御装置X1の回転テーブル11、加熱ブロック12、および冷却ブロック13を稼働させて、当該試液チップ40の試液セル43内の試液Rについて、上述の第1グループの試液チップ40の試液セル43内の試液Rに対するのと同様に、ステップ1の昇温工程と、ステップ2の降温工程と、ステップ3〜5にわたる定温維持工程とを1熱サイクルとして、当該熱サイクルを繰り返し行った。
【0108】
本実施例では、室温は25℃であり、試液Rにとっての目標高温度THを95℃とし、目標低温度TLを62℃とした。本実施例では、回転テーブル11の保持面11aの温度(第1温度T1)を73℃とし、加熱ブロック12の温度(第2温度T2)を120℃とし、冷却ブロック13の温度(第3温度T3)を40℃とした。本実施例では、昇温工程の実行時間を6秒とし、降温工程の実行時間を4秒とし、定温維持工程の実行時間を16秒以上とした。本実施例の昇温工程では、試液Rの温度が目標高温度THに到達した時点で加熱ブロック12を試液チップ40のセル壁42aから離した。本実施例の降温工程では、試液Rの温度が目標低温度TLに到達すると予測される時間(予めの試行実験等によって特定されている予測時間)の100ミリ秒前で、冷却ブロック13を試液チップ40のセル壁42aから離した。
【0109】
本実施例の温度測定結果の一部を図15のグラフに表す。図15のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を示し、縦軸は試液温度(℃)を示す。図15のグラフに表れている温度変化から、温度制御装置X1によると、試液R(液体)の温度を迅速かつ正確に変化させることが可能であることが判る。
【比較例】
【0110】
回転テーブル11の温調機能を停止させた温度制御装置X1を使用して、温度制御対象たる液体の温度変化を測定した。具体的には、次のとおりである。
【0111】
上述の実施例と同様に、熱電対付き試液チップ40(試液セル43内には試液Rが受容されている)を用意して保持面11aの第1領域S1上にセットした。実施例と同様に、試液チップ40の熱電対によって試液セル43中の試液Rの温度を常時測定することができるように構成しておいた。本比較例では、室温は25℃であり、試液Rにとっての目標高温度THを95℃とし、目標低温度TLを50℃とした。本比較例では、加熱ブロック12の温度(第2温度T2)を100℃とし、冷却ブロック13の温度(第3温度T3)を50℃とした。そして、温度制御装置X1の回転テーブル11(温調機能は停止されている)、加熱ブロック12、および冷却ブロック13を稼働させて、当該試液チップ40の試液セル43内の試液Rについて、所定の昇温工程と所定の降温工程とを1熱サイクルとして、当該熱サイクルを繰り返し行った。昇温工程では、試液Rの温度が目標高温度THたる95℃に到達した時点で加熱ブロック12を試液チップ40のセル壁42aから離した。また、降温工程では、試液Rの温度が目標低温度TLたる50℃に到達した時点で冷却ブロック13を試液チップ40のセル壁42aから離した。
【0112】
本比較例の温度測定結果を図16のグラフに表す。図16のグラフにおいて、横軸は時間(秒)を示し、縦軸は試液温度(℃)を示す。図16のグラフに表れている温度変化から、本比較例によると、試液R(液体)の温度を迅速かつ正確に変化させにくいことが判る。本比較例における昇温工程では、50℃程度から95℃程度に試液Rを昇温させるのに約80秒を要した。加えて、本比較例における降温工程では、95℃程度から50℃程度に試液Rを降温させるのに約95秒を要した。
【符号の説明】
【0113】
X1 温度制御装置
11 回転テーブル
11a 保持面
11b,12b,13b 温度センサ
12 加熱ブロック
12a,13a 突部
13 冷却ブロック
21,22,23 温調デバイス
31,32,33 駆動機構
40 試液チップ
41 本体
41a,42a セル壁
42 カバー体
43 試液セル
R 試液
Ax 軸心
S1 第1領域
S2 第2領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能であり、且つ、前記液体の温度を目標低温度に保つための第1温度を維持可能である、保持手段と、
前記液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、前記目標低温度より高い目標高温度より高い第2温度を維持可能である、前記液受容体に当接して前記液体を昇温するための加熱ブロックと、
前記液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、前記目標低温度より低い第3温度を維持可能である、前記液受容体に当接して前記液体を降温するための冷却ブロックと、を備える温度制御装置。
【請求項2】
前記第1温度は、前記目標低温度と同じか、前記目標低温度より高く且つ前記目標高温度より低いか、または、前記目標低温度より低く且つ前記第3温度より高い、請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記加熱ブロックは、前記液受容体における、前記保持手段とは反対の側、に当接可能であり、
前記冷却ブロックは、前記液受容体における、前記保持手段とは反対の側、に当接可能である、請求項1または2に記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記保持手段は、前記液受容体を保持可能な保持面を有し、当該保持面に直交する軸心まわりに回転可能であり、
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記保持手段の前記保持面に対向し、当該保持面に対して接近離反動可能である、請求項1から3のいずれか一つに記載の温度制御装置。
【請求項5】
前記保持面は、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第1領域と、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第2領域とを有し、
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された前記液受容体に対して接近して当接可能であり、前記第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された前記液受容体に対して接近して当接可能である、請求項4に記載の温度制御装置。
【請求項6】
前記保持面は、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第1領域と、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第2領域とを有し、
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された前記複数の液受容体に対して接近して当接可能であり、前記第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された前記複数の液受容体に対して接近して当接可能である、請求項4に記載の温度制御装置。
【請求項7】
前記第1領域および前記第2領域は、前記軸心が中心を通る円の円周上に前記複数の液受容体が配列するように当該複数の液受容体を保持可能である、請求項6に記載の温度制御装置。
【請求項8】
前記液受容体は、相対向して離隔する第1セル壁および第2セル壁を有し、当該第1および第2セル壁の間に、前記液体を受容するためのセルが設けられており、
前記保持手段は、前記液受容体の前記第1セル壁に当接して当該液受容体を保持可能であり、
前記加熱ブロックは、前記液受容体の前記第2セル壁に当接可能であり、
前記冷却ブロックは、前記液受容体の前記第2セル壁に当接可能である、請求項1から7のいずれか一つに記載の温度制御装置。
【請求項9】
前記第1および第2セル壁の離隔方向に直交する方向における前記セルの最大寸法は、前記離隔方向における前記セルの最大寸法より大きい、請求項8に記載の温度制御装置。
【請求項10】
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記第2セル壁に当接するための突部を有する、請求項8または9に記載の温度制御装置。
【請求項11】
液体を受容する液受容体に対し、前記液体にとっての目標高温度より高い加熱用温度にある加熱ブロックを当接させることによって、前記液体を昇温させるための、昇温工程と、
前記目標高温度より低い目標低温度より低い冷却用温度にある冷却ブロックを前記液受容体に当接させることによって、前記液体を降温させるための、降温工程と、を含み、
前記降温工程は、目標低温度維持手段を前記液受容体に当接させつつ行い、当該目標低温度維持手段は、前記目標低温度と同じ温度、前記目標低温度より高く且つ前記目標高温度より低い温度、または、前記目標低温度より低く且つ前記冷却用温度より高い温度にある、温度制御方法。
【請求項12】
前記昇温工程では、前記液体の温度が前記目標高温度に達した時に、前記加熱ブロックを前記液受容体から離す、請求項11に記載の温度制御方法。
【請求項13】
前記降温工程では、前記液体の温度が前記目標低温度に達するより前に、前記冷却ブロックを前記液受容体から離す、請求項11または12に記載の温度制御方法。
【請求項1】
液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能であり、且つ、前記液体の温度を目標低温度に保つための第1温度を維持可能である、保持手段と、
前記液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、前記目標低温度より高い目標高温度より高い第2温度を維持可能である、前記液受容体に当接して前記液体を昇温するための加熱ブロックと、
前記液受容体に対して相対変位可能であり、且つ、前記目標低温度より低い第3温度を維持可能である、前記液受容体に当接して前記液体を降温するための冷却ブロックと、を備える温度制御装置。
【請求項2】
前記第1温度は、前記目標低温度と同じか、前記目標低温度より高く且つ前記目標高温度より低いか、または、前記目標低温度より低く且つ前記第3温度より高い、請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記加熱ブロックは、前記液受容体における、前記保持手段とは反対の側、に当接可能であり、
前記冷却ブロックは、前記液受容体における、前記保持手段とは反対の側、に当接可能である、請求項1または2に記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記保持手段は、前記液受容体を保持可能な保持面を有し、当該保持面に直交する軸心まわりに回転可能であり、
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記保持手段の前記保持面に対向し、当該保持面に対して接近離反動可能である、請求項1から3のいずれか一つに記載の温度制御装置。
【請求項5】
前記保持面は、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第1領域と、液体を受容する液受容体に当接して当該液受容体を保持可能な第2領域とを有し、
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された前記液受容体に対して接近して当接可能であり、前記第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された前記液受容体に対して接近して当接可能である、請求項4に記載の温度制御装置。
【請求項6】
前記保持面は、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第1領域と、それぞれが液体を受容する複数の液受容体に当接して当該複数の液受容体を保持可能な第2領域とを有し、
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記第1領域に対向しているときには、当該第1領域に保持された前記複数の液受容体に対して接近して当接可能であり、前記第2領域に対向しているときには、当該第2領域に保持された前記複数の液受容体に対して接近して当接可能である、請求項4に記載の温度制御装置。
【請求項7】
前記第1領域および前記第2領域は、前記軸心が中心を通る円の円周上に前記複数の液受容体が配列するように当該複数の液受容体を保持可能である、請求項6に記載の温度制御装置。
【請求項8】
前記液受容体は、相対向して離隔する第1セル壁および第2セル壁を有し、当該第1および第2セル壁の間に、前記液体を受容するためのセルが設けられており、
前記保持手段は、前記液受容体の前記第1セル壁に当接して当該液受容体を保持可能であり、
前記加熱ブロックは、前記液受容体の前記第2セル壁に当接可能であり、
前記冷却ブロックは、前記液受容体の前記第2セル壁に当接可能である、請求項1から7のいずれか一つに記載の温度制御装置。
【請求項9】
前記第1および第2セル壁の離隔方向に直交する方向における前記セルの最大寸法は、前記離隔方向における前記セルの最大寸法より大きい、請求項8に記載の温度制御装置。
【請求項10】
前記加熱ブロックおよび前記冷却ブロックは、それぞれ、前記第2セル壁に当接するための突部を有する、請求項8または9に記載の温度制御装置。
【請求項11】
液体を受容する液受容体に対し、前記液体にとっての目標高温度より高い加熱用温度にある加熱ブロックを当接させることによって、前記液体を昇温させるための、昇温工程と、
前記目標高温度より低い目標低温度より低い冷却用温度にある冷却ブロックを前記液受容体に当接させることによって、前記液体を降温させるための、降温工程と、を含み、
前記降温工程は、目標低温度維持手段を前記液受容体に当接させつつ行い、当該目標低温度維持手段は、前記目標低温度と同じ温度、前記目標低温度より高く且つ前記目標高温度より低い温度、または、前記目標低温度より低く且つ前記冷却用温度より高い温度にある、温度制御方法。
【請求項12】
前記昇温工程では、前記液体の温度が前記目標高温度に達した時に、前記加熱ブロックを前記液受容体から離す、請求項11に記載の温度制御方法。
【請求項13】
前記降温工程では、前記液体の温度が前記目標低温度に達するより前に、前記冷却ブロックを前記液受容体から離す、請求項11または12に記載の温度制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
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【図20】
【公開番号】特開2011−92903(P2011−92903A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251040(P2009−251040)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
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