温度応答性中空糸膜、温度応答性中空糸膜モジュール及びそれを用いたろ過装置
【課題】中空糸膜の洗浄効果が高く、長期間にわたり膜面の差圧上昇を抑制することが可能な温度応答性中空糸膜、温度応答性中空糸膜モジュール及びそれを用いた装置を提供する。
【解決手段】温度応答性中空糸膜1は、高分子材料からなる中空糸膜2の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された孔径調整材3を有している。孔径調整材3は、所定の温度で可逆的に膨張/収縮する。
【解決手段】温度応答性中空糸膜1は、高分子材料からなる中空糸膜2の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された孔径調整材3を有している。孔径調整材3は、所定の温度で可逆的に膨張/収縮する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川水、雨水貯水、廃水等の水処理に適した温度応答性中空糸膜、温度応答性中空糸膜モジュール及びそれを用いたろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理分野において、河川水、雨水貯水、廃水等の原水をろ過処理して工業用水を得る方法として、例えば、中空糸型の精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜などの中空糸膜が用いられている。このような中空糸膜により、原水中から微生物、藻類、粘土等の不溶性の固形分を取り除いている。近年では、中空糸膜の素材として親水性材料を用いたり、疎水性材料で構成されている場合でも中空糸の膜面を重クロム酸カリの硫酸溶液等で親水化処理することで、ろ過速度を向上させることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような中空糸膜を装填したろ過装置を用いて原水を通水すると、中空糸の膜面などに原水中の固形分が堆積して、ろ過抵抗が増加する。そのため、所定量の処理水を得るためには高い圧力で運転しなければならず、ろ過装置の運転に消費するエネルギーが増加しやすくなる。
【0004】
そこで、中空糸膜が所定の差圧上昇を示した時点で、ろ過処理された処理水や圧縮空気等を用いて逆圧洗浄(逆洗)を行い、膜面に堆積した固形分を取り除いている。
【特許文献1】特開平5−23553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の中空糸膜を用いた場合には、長時間(数百時間から数千時間)にわたるろ過運転によって膜面に固形分が付着、堆積し、ろ過処理後に逆洗を行っても固形分を完全に除去することができず、中空糸膜の差圧を回復させ難い。このため、膜寿命が短くなり、頻繁に中空糸膜を交換する必要があった。
【0006】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、中空糸膜の洗浄効果が高く、長期間にわたり膜面の差圧上昇を抑制することが可能な温度応答性中空糸膜、温度応答性中空糸膜モジュール及びそれを用いた装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1に記載の温度応答性中空糸膜は、高分子材料からなる中空糸膜基体と、前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載の温度応答性中空糸膜モジュールは、高分子材料からなる中空糸膜基体と前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなる中空糸膜の多数本を、原水口と処理水口とを有する容器内に配置し、その端部外周を固定部材により固定してなることを特徴とする。
【0009】
請求項6に記載のろ過装置は、前記容器内を前記固定部材により前記中空糸膜の位置する原水側と前記中空糸膜の端部が開口する処理水側とに区画する請求項4記載の温度応答性中空糸膜モジュールと、前記温度応答性中空糸膜モジュール内の原水側を加熱する加熱器とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中空糸膜の洗浄効果が高く、長期間にわたり膜面の差圧上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明において使用される温度応答性中空糸膜1は、中空糸膜2の外表面側にN‐イソプロピルアクリルアミドをグラフト重合してなる孔径調整材3を有しており、常温で平均直径(長径と短径の平均)0.1μm程度の孔径4を有している。このような該中空糸膜1を用いて、固形分5を含む河川水、雨水貯水、廃水等の原水を中空糸膜外表面側から内表面側に通水して、膜面に固形分5を捕捉する。
【0013】
N−イソプロピルアクリルアミドは、単独では温度応答性を有していないが、これを重合した高分子は温度応答性を有する。図2に示すように、中空糸膜2にグラフト重合されたN‐イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖(孔径調整材)はその側鎖にアミド基をもち、32℃以下において水和して膨張するが、32℃を超えると脱水和して収縮する。
【0014】
このような温度変化に対応したN‐イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖の膨張/収縮の変化を利用して、ろ過及び逆洗を行う。すなわち、本発明の温度応答性中空糸膜を用いて、原水を該中空糸膜外表面側から内表面側に通水して外表面側に原水中の固形分を捕捉する。この後、該中空糸膜内表面側から外表面側に逆洗する際に、該中空糸膜の外表面側に滞留している原水を40〜60℃に加温してN‐イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖を収縮させる。このとき、該高分子鎖の脱水和による収縮にともなって、温度応答性中空糸膜の孔径が拡張(開口)する。例えば、図3に示すように、平均直径0.2μm程度の孔径を有する中空糸膜に上記重合剤をグラフト重合させて0.1μm程度の孔径をもつ温度応答性中空糸膜を作製した場合、所定温度に原水を制御して該高分子鎖を収縮させることにより、電子顕微鏡で膜面観察した結果、該中空糸膜の孔径を最大0.2μm程度(孔径伸縮率50%)まで開口させることができる。これによって、逆洗時に、該中空糸膜外表面側で捕捉され、堆積した不溶性の固形分を除去し易くすることができ、膜面の差圧上昇を抑制することができる。
【0015】
原水中に含まれる固形分としては、例えばバクテリア、シリカコロイド、ベントナイト、粘土などが挙げられ、例えば、雨水貯水の場合には、その大きさは0.27〜140μmに分布している。図4に示すように、これら固形分5は、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などを有しており、従来の中空糸膜では、この固形分5は水素結合により中空糸膜2の膜面に付着するため、単に逆洗するだけでは除去し難い。このため、逆洗時に、固形分5を捕捉した膜外表面側の原水を40〜60℃に加温することで、上記効果に加えて、固形分と膜表面との結合力を弱めて剥離しやすくすることができる。
【0016】
本発明において使用される中空糸膜としては、その膜径は、特に限定されるものではないが、内径が0.3〜1.4mm、外径が1.0〜1.9mmであるものが好ましい。その膜構造についても特に限定はなく、例えば中空糸の内表面から外表面に実質的に連通した孔を有する多孔質構造、又は中空糸の内表面から外表面に実質的に連通した孔の無い均質構造、多孔質膜の表面に実質的に連通した孔の無いスキン層を有する構造等の非対称膜構造のいずれでもよい。ここでいう非対称膜とは、膜構造が均一でない不均質膜、多孔質と均質膜を張り合わせる等により作られる複合膜等、構造が対称でない膜の総称である。細孔の寸法は、捕捉する固形分の大きさに応じて適宜選択されるが、グラフト重合される外表面側の孔径が平均直径にして0.1〜0.2μm程度であることが好ましい。中空糸膜の素材としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0017】
次に、本発明の温度応答性中空糸膜の製造方法の一例を図5及び図6を用いて説明する。図5は、本発明の温度応答性中空糸膜の製造工程の一例を示し、図6は、本発明の温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示している。図6に示す製造装置10は、孔径0.2μm程度のポリエチレン等からなる中空糸膜束11を配置したモジュール反応槽12を有しており、このモジュール反応槽12と連結するように、5%のN‐イソプロピルアクリルアミド溶液が貯蔵された重合剤貯槽13、オゾン発生器14、コンプレッサー15及び水が貯蔵された洗浄水貯槽16がそれぞれ設けられている。なお、重合剤貯槽13には、その下方に加熱器17が設けられている。
【0018】
まず、複数の中空糸膜をU字状に集束固定してなる中空糸膜束11の先端に、N2ガスを導入可能な導入管付きのキャップ18を装着して、0.5kg/cm2のN2ガスを流入する。ここで用いるN2ガスとしては、中空糸膜のバブルポイントが240〜260KPaであり、オゾン発生器14のガス圧が700KPaであることから、500KPa程度であることが好ましい。これによって、後述するオゾンが中空糸膜の細孔内部に侵入することを防ぎ、重合剤を中空糸膜の外表面側のみにグラフト重合させることができる。
【0019】
続いて、図6に示すように、中空糸膜束11の先端にキャップ18を装着した状態で容器内に配置する。この後、0.4g/hのオゾン発生器14(ガス流量0.07L/min、オゾン濃度0.114g/l)により15〜20g/m3のオゾンガスをオゾン供給管19を介してモジュール反応槽12内に供給し、3〜10分程度曝露する(S1)。図7に示すように、長過ぎると、後述するグラフト重合時に過剰に重合され中空糸膜の圧力損失が大きくなる恐れがある。また、曝露時間を上記範囲にすることで、オゾンによる酸化劣化によって膜が脆弱化するのを回避し、膜強度の低下を初期の5〜10%程度(オゾン曝露後350g荷重/本)に抑えることができる。
【0020】
オゾンによる曝露終了後、空気供給管20を介してコンプレッサー15から圧縮空気をモジュール反応槽12に供給し、余剰なオゾンを排ガス管21へ排出し、さらに続けて30分間ほど圧縮空気を送り、中空糸膜束11を空気に曝す(S2)。
【0021】
この後、5%のN‐イソプロピルアクリルアミド溶液が貯蔵された重合剤貯槽13を、加熱器17で60℃に温めてモジュール反応槽12に供給し、これを再び重合剤貯槽13に送り、加熱循環させながら、中空糸膜束11をN‐イソプロピルアクリルアミド溶液に5分間浸漬して膜表面をグラフト重合させる(S3)。上述したように、オゾンによる曝露時間を3〜10分程度にすることで、重合剤を中空糸の膜面あたり20〜44μg/cm2グラフト重合させることができる。これによって、中空糸膜外表面側の平均直径0.2μmの孔径を0.1μm程度にすることができる。ここで、図8に、走査型電子顕微鏡による、中空糸膜におけるグラフト重合前後の孔径状態を示す。aは、グラフト重合前の孔径状態を示している。図8に示すように、10分を超えてオゾン曝露すると(d)、中空糸膜にN‐イソプロピルアクリルアミドが過剰にグラフト重合され、目詰まりを生じる。オゾン曝露時間を3〜10分にすることで(b、c)、0.1μm程度の孔径となるように、所定量の重合剤を膜表面にグラフト重合させることができる。
【0022】
重合反応終了後、重合剤をモジュール反応槽12から反応液排出管22を介して排出する。そして、注入ポンプで洗浄水貯槽16から水をモジュール反応槽12に供給して、中空糸膜に残留する未反応の重合剤を洗浄し、コンプレッサー15で乾燥する(S4)。なお、未反応の重合剤を完全に取り除くには、水で30分程度洗浄することが好ましい。未反応の重合剤が中空糸膜に過剰に残留している場合には、更に、モジュール反応槽12に洗浄水貯槽16から水を供給して、中空糸膜を浸漬することが好ましい。
【0023】
このようにして温度応答性中空糸膜を得ることができる。得られた該中空糸膜について、赤外線スペクトル分光器を用いて膜表面を調べた。結果を図9に示す。図9に示す赤外線スペクトルでは、アミド基に由来する波長1520cm−1(主としてNH変角運動によるものと考えられる。)に強い吸収をもつため、N‐イソプロピルアクリルアミドがグラフト重合されていることが確認できる。
【0024】
なお、本発明の温度応答性中空糸膜の製造方法は上記に限定されるものではなく、以下に示す製造方法を用いてもよい。図10は、本発明の温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示している。図11は、図10に示すオゾン曝露室の拡大図である。図6と同一部分には、同一符号を付し、その説明を一部省略する。図10に示す製造装置30では、リール31で巻き取られた複数本の中空糸膜32を引き出し、オゾン曝露室33、重合剤貯槽34及び洗浄槽35の順に移動速度20cm/minで連続的に処理した後、リール31で巻き取り回収する。これによって、本発明の温度応答性中空糸膜を得ることができる。
【0025】
まず、図11に示すオゾン曝露室33(長さ140cm)において、0.48g/hのオゾン発生器14(流量0.07L/min、オゾン濃度0.114g/l)から供給されるオゾンの濃度を15〜20g/m3に調整して、リール31から引き出された中空糸膜32を7分ほど曝露する。なお、オゾンの漏洩を防止するため、空気封入室36にコンプレッサー37から0.07L/minの圧縮空気を供給することが好ましい。余剰なオゾン又は圧縮空気は排ガス管38を介して排出する。
【0026】
この後、駆動リール39を用いて、オゾン曝露された中空糸膜32を20cm/minで移動させながら30分間空気中に曝す。駆動リール39の荷重としては、オゾン曝露によって中空糸膜32が脆弱になることから300g以下であることが好ましい。
【0027】
次に、加熱器17で60℃に加温された5%のN‐イソプロピルアクリルアミド溶液が入った重合剤貯槽34内(長さ100cm)に、中空糸膜32を通して5分間グラフト重合する。
【0028】
続いて、洗浄槽35で中空糸膜32に付着した未反応の重合剤を洗浄して除去し、リール31で巻き取る。具体的には、洗浄槽35の長さを140cm程度、中空糸膜32の洗浄槽35の通過時間を7分間程度とし、洗浄槽35には、洗浄水貯槽16から水などを洗浄槽容積の4倍となる流量で供給する。なお、排液は排液管40を介して排出する。このようにして容易に収率良く温度応答性ろ過膜を得ることができる。
【0029】
次に、本発明の温度応答性中空糸膜モジュールを用いたろ過装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、図12を参照して説明する。図12は、本実施形態に係るろ過装置である。
【0031】
図12に示すように、ろ過装置51は、複数の温度応答性中空糸膜から構成された中空糸膜束52を容器53内に配置した温度応答性中空糸膜モジュール(以下、中空糸膜モジュール54とする。)と、該中空糸膜モジュール54の原水側54aと原水循環管60を介して連結された加熱器55とを備えている。
【0032】
中空糸膜モジュール54は、固定部材56(ポッティング剤)によって、各中空糸膜の外表面側と接し且つ原水を供給する原水口を有する原水側54aと、各中空糸膜の内表面側とそれぞれの開口端を介して連通し且つ処理水を取り出す処理水口を有する処理水側54bとに区分けされており、原水側54aと処理水側54bとの間での物質移動は該中空糸膜の膜面のみを介して行われる。なお、原水側54aには、その下方にコンプレッサー59と連通し圧縮空気を放出する空気放出管57(第1空気供給系統)が設けられている。
【0033】
中空糸膜束52は、複数の温度応答性中空糸膜をU字状に折り曲げて一方の側(図12では上方側)に各端部を集束させるように束ねたものであり、各中空糸膜の内表面側と連通する開口端は固定部材56により支持固定されている。なお、該中空糸膜の固定方法は、特に限定されるものではなく、例えば、中空糸膜の両開口端を開口状態を維持して対向するように固定部材間に橋渡しするように固定する方法、中空糸膜の一方の端部を封止し、他方の端部を開口状態として固定部材に固定する方法等を用いることもできる。
【0034】
加熱器55は、原水側54aと連結するように設けられており、該中空糸膜モジュール54内の膜外表面側と接する原水を40〜60℃に加温する。すなわち、加熱器55には、第2空気配管58(第2空気供給系統)を介してコンプレッサー59から圧縮空気が送られている。これによって、原水循環管60を介して送られた中空糸膜モジュール54内の原水を加熱器55で40〜60℃に加温し、矢印で示す方向に循環させて該モジュール54内の原水を40〜60℃に制御する。
【0035】
次に、本実施形態における温度応答性中空糸膜モジュールを用いたろ過装置51の使用方法の一例を示す。
【0036】
まず、温度応答性中空糸膜を装填した中空糸膜モジュール54を用いて、原水をろ過処理する。原水の供給は、原水移送ポンプ61を駆動源としている。この原水移送ポンプ61によって原水を原水管62を介して圧送し、中空糸膜の外表面側から内表面側に流すことにより、原水中の固形分を中空糸膜の外表面側に捕捉する。中空糸膜で処理された処理水は処理水管63へ送られる。中空糸膜の膜面差圧が初期圧より0.5kg/cm2程度上昇した時点で、ろ過処理を停止する。
【0037】
ここで、以下の手順により、膜面に捕捉され、堆積した固形分の洗浄除去を行う。第2空気配管58を介してコンプレッサー59から送られた圧縮空気を加熱器55に供給することによって、原水循環管60を介して原水側54aから供給された原水を加熱器55で40〜60℃に温めた後、原水側54aに送る。これを繰り返し行い、原水を加熱循環させて液温を40〜60℃に制御する。
【0038】
次に、第1空気配管64を介して空気放出管57から圧縮空気を放出し、中空糸膜の外表面に堆積、付着している固形分を振動剥離する。これと同時に、逆圧洗浄手段として第3空気配管65を介してコンプレッサー59から供給される圧縮空気(3.0kg/cm2)によって、処理水側54bに滞留する処理水をろ過運転時とは逆方向の原水側54aに流し込み、各中空糸膜の内表面側から外表面側に逆洗する。処理水側54bの処理水が、原水側54aに混入するため一時液温が40℃未満に低下するが、第2空気配管58を介して圧縮空気を加熱器55に供給し、原水側54aを加熱循環させることで40〜60℃まで上昇させる。なお、逆洗時に供給された余剰な圧縮空気は、空気排出ライン66へ排出される。
【0039】
逆洗終了後、中空糸膜の膜面差圧を測定し、再び、ろ過処理を行う。以上の操作を繰り返し行う。ろ過量に対する膜面差圧を図13に示す。
【0040】
図13中、(A)は、本実施形態に係る温度応答性中空糸膜を用いた場合のろ過量に対する膜面差圧を示しており、(B)は、N−イソプロピルアクリルアミドがグラフト重合されていない従来の中空糸膜を用いた場合の膜面差圧を示している。図13に示すように、本実施形態に係る温度応答性中空糸膜によれば、膜面に付着した固形分などをより完全に除去することが可能なため、逆洗後の膜面差圧の上昇を抑制することできる。
【0041】
したがって、本実施形態によれば、原水側の液温を40〜60℃に制御することで、N−イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖を収縮させて温度応答性中空糸膜の孔径を最大0.2μmまで開口させることができる。これによって、逆洗時に、膜面に目詰まった固形分を剥離し易くして洗浄効果を高めることができ、膜面差圧の上昇を効果的に抑制することができる。さらには、設備稼働率の向上が図れるとともに、運転に消費するエネルギーも削減することができる。また、処理水の消費量を低減することができるため、処理水の回収率を向上することができる。
【0042】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るろ過装置について、図14及び図15を参照して説明する。図14は、本実施形態に係るろ過装置である。図15は、図14に示す加熱器の拡大図である。なお、第1の実施形態のろ過装置の構成と同一の構成部分には、同一の符号を付して、その説明を簡略または省略する。
【0043】
図14に示すように、ろ過装置70では、加熱器71を中空糸膜モジュール54内に設けてもよい。すなわち、ここで用いる加熱器71は、空気放出管57の下方に配置されており、図15に示すように伝熱管72に熱水流路のための穴73が複数設けられている。このような加熱器71で原水側54aの原水を40〜60℃に加温し、空気放出管57から放出される圧縮空気(300L/h/m2)でこれを対流させることにより、膜外表面側と接する原水の液温を40〜60℃に制御する。中空糸膜の逆洗は、原水側54aの液温が40〜60℃に保たれた時に行われる。すなわち、原水側54aが所定温度に制御された時点で、第3空気配管65を介した流量40,000L/h/m2の圧縮空気により、処理水側54bに滞留する処理水を原水側54aに流し込み、中空糸膜を逆洗する。このとき、空気放出管57から放出される圧縮空気で、原水側54aの膜表面に付着した固形分を強制的に剥離する。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、原水側を40〜60℃に加温して対流させることによって温度分布の偏りを抑制することができ、逆洗時に該中空糸膜の高い洗浄効果を発揮することができる。さらには、簡便な装置及び操作で長期にわたり膜性能を維持することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係るろ過装置について、図16を参照して説明する。図16は、本実施形態に係るろ過装置である。
【0046】
図16に示すように、ろ過装置80では、中空糸膜モジュール54の下方に加熱器81を備えた飽和蒸気発生器82を設けてもよい。原水管62を介して原水を飽和蒸気発生器82に送り、ここで加熱器81により原水を60℃以上好ましくは100℃以上に温めて飽和蒸気を発生させて、原水側54aに300L/h/m3で供給する。そして、空気放出管57から放出される圧縮空気で、この飽和蒸気を対流させて原水側54aの温度を40〜60℃に制御する。逆洗は、このようにして原水側54aを40〜60℃に保たれた時点で行われる。逆洗の操作は、第1及び第2の実施形態と同様にして行う。
【0047】
したがって、本実施形態によれば、原水側を所定温度に制御することによって、逆洗時に該中空糸膜の優れた洗浄効果が得られ、膜寿命を長期間保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る温度応答性中空糸膜の断面図。
【図2】本発明に係る温度応答性中空糸膜において膜面にグラフト重合した重合剤の分子構造を示す図。
【図3】本発明に係る温度応答性中空糸膜の孔径伸縮率と液温との関係を示す図。
【図4】重合剤でグラフト重合されていない膜面に対する固形分の付着を示す図。
【図5】本発明に係る温度応答性中空糸膜の製造工程の一例を示す図。
【図6】本発明に係る温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示す図。
【図7】オゾン曝露時間とグラフト重合する量との関係を示す図。
【図8】本発明に係る温度応答性中空糸膜の孔径状態とオゾン曝露時間との関係を示す図。
【図9】本発明に係る温度応答性中空糸膜の赤外吸収スペクトルを示す図。
【図10】本発明に係る温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示す図。
【図11】図10に示すオゾン曝露室の拡大断面図。
【図12】第1の実施形態に係るろ過装置を示す図。
【図13】膜面差圧とろ過量との関係を示す図。
【図14】第2の実施形態に係るろ過装置を示す図。
【図15】図14に示す加熱器の拡大断面図。
【図16】第3の実施形態に係るろ過装置を示す図。
【符号の説明】
【0049】
1…温度応答性中空糸膜、2…中空糸膜、3…孔径調整材、4…孔径、5…固形分、51、70,80…ろ過装置、52…中空糸膜束、54…中空糸膜モジュール、54a…原水側、54b…処理水側、55,71,81…加熱器、57…空気放出管、59…コンプレッサー、62…原水管、63…処理水管、82…飽和蒸気発生器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川水、雨水貯水、廃水等の水処理に適した温度応答性中空糸膜、温度応答性中空糸膜モジュール及びそれを用いたろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理分野において、河川水、雨水貯水、廃水等の原水をろ過処理して工業用水を得る方法として、例えば、中空糸型の精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜などの中空糸膜が用いられている。このような中空糸膜により、原水中から微生物、藻類、粘土等の不溶性の固形分を取り除いている。近年では、中空糸膜の素材として親水性材料を用いたり、疎水性材料で構成されている場合でも中空糸の膜面を重クロム酸カリの硫酸溶液等で親水化処理することで、ろ過速度を向上させることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような中空糸膜を装填したろ過装置を用いて原水を通水すると、中空糸の膜面などに原水中の固形分が堆積して、ろ過抵抗が増加する。そのため、所定量の処理水を得るためには高い圧力で運転しなければならず、ろ過装置の運転に消費するエネルギーが増加しやすくなる。
【0004】
そこで、中空糸膜が所定の差圧上昇を示した時点で、ろ過処理された処理水や圧縮空気等を用いて逆圧洗浄(逆洗)を行い、膜面に堆積した固形分を取り除いている。
【特許文献1】特開平5−23553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の中空糸膜を用いた場合には、長時間(数百時間から数千時間)にわたるろ過運転によって膜面に固形分が付着、堆積し、ろ過処理後に逆洗を行っても固形分を完全に除去することができず、中空糸膜の差圧を回復させ難い。このため、膜寿命が短くなり、頻繁に中空糸膜を交換する必要があった。
【0006】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、中空糸膜の洗浄効果が高く、長期間にわたり膜面の差圧上昇を抑制することが可能な温度応答性中空糸膜、温度応答性中空糸膜モジュール及びそれを用いた装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1に記載の温度応答性中空糸膜は、高分子材料からなる中空糸膜基体と、前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載の温度応答性中空糸膜モジュールは、高分子材料からなる中空糸膜基体と前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなる中空糸膜の多数本を、原水口と処理水口とを有する容器内に配置し、その端部外周を固定部材により固定してなることを特徴とする。
【0009】
請求項6に記載のろ過装置は、前記容器内を前記固定部材により前記中空糸膜の位置する原水側と前記中空糸膜の端部が開口する処理水側とに区画する請求項4記載の温度応答性中空糸膜モジュールと、前記温度応答性中空糸膜モジュール内の原水側を加熱する加熱器とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中空糸膜の洗浄効果が高く、長期間にわたり膜面の差圧上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明において使用される温度応答性中空糸膜1は、中空糸膜2の外表面側にN‐イソプロピルアクリルアミドをグラフト重合してなる孔径調整材3を有しており、常温で平均直径(長径と短径の平均)0.1μm程度の孔径4を有している。このような該中空糸膜1を用いて、固形分5を含む河川水、雨水貯水、廃水等の原水を中空糸膜外表面側から内表面側に通水して、膜面に固形分5を捕捉する。
【0013】
N−イソプロピルアクリルアミドは、単独では温度応答性を有していないが、これを重合した高分子は温度応答性を有する。図2に示すように、中空糸膜2にグラフト重合されたN‐イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖(孔径調整材)はその側鎖にアミド基をもち、32℃以下において水和して膨張するが、32℃を超えると脱水和して収縮する。
【0014】
このような温度変化に対応したN‐イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖の膨張/収縮の変化を利用して、ろ過及び逆洗を行う。すなわち、本発明の温度応答性中空糸膜を用いて、原水を該中空糸膜外表面側から内表面側に通水して外表面側に原水中の固形分を捕捉する。この後、該中空糸膜内表面側から外表面側に逆洗する際に、該中空糸膜の外表面側に滞留している原水を40〜60℃に加温してN‐イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖を収縮させる。このとき、該高分子鎖の脱水和による収縮にともなって、温度応答性中空糸膜の孔径が拡張(開口)する。例えば、図3に示すように、平均直径0.2μm程度の孔径を有する中空糸膜に上記重合剤をグラフト重合させて0.1μm程度の孔径をもつ温度応答性中空糸膜を作製した場合、所定温度に原水を制御して該高分子鎖を収縮させることにより、電子顕微鏡で膜面観察した結果、該中空糸膜の孔径を最大0.2μm程度(孔径伸縮率50%)まで開口させることができる。これによって、逆洗時に、該中空糸膜外表面側で捕捉され、堆積した不溶性の固形分を除去し易くすることができ、膜面の差圧上昇を抑制することができる。
【0015】
原水中に含まれる固形分としては、例えばバクテリア、シリカコロイド、ベントナイト、粘土などが挙げられ、例えば、雨水貯水の場合には、その大きさは0.27〜140μmに分布している。図4に示すように、これら固形分5は、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などを有しており、従来の中空糸膜では、この固形分5は水素結合により中空糸膜2の膜面に付着するため、単に逆洗するだけでは除去し難い。このため、逆洗時に、固形分5を捕捉した膜外表面側の原水を40〜60℃に加温することで、上記効果に加えて、固形分と膜表面との結合力を弱めて剥離しやすくすることができる。
【0016】
本発明において使用される中空糸膜としては、その膜径は、特に限定されるものではないが、内径が0.3〜1.4mm、外径が1.0〜1.9mmであるものが好ましい。その膜構造についても特に限定はなく、例えば中空糸の内表面から外表面に実質的に連通した孔を有する多孔質構造、又は中空糸の内表面から外表面に実質的に連通した孔の無い均質構造、多孔質膜の表面に実質的に連通した孔の無いスキン層を有する構造等の非対称膜構造のいずれでもよい。ここでいう非対称膜とは、膜構造が均一でない不均質膜、多孔質と均質膜を張り合わせる等により作られる複合膜等、構造が対称でない膜の総称である。細孔の寸法は、捕捉する固形分の大きさに応じて適宜選択されるが、グラフト重合される外表面側の孔径が平均直径にして0.1〜0.2μm程度であることが好ましい。中空糸膜の素材としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0017】
次に、本発明の温度応答性中空糸膜の製造方法の一例を図5及び図6を用いて説明する。図5は、本発明の温度応答性中空糸膜の製造工程の一例を示し、図6は、本発明の温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示している。図6に示す製造装置10は、孔径0.2μm程度のポリエチレン等からなる中空糸膜束11を配置したモジュール反応槽12を有しており、このモジュール反応槽12と連結するように、5%のN‐イソプロピルアクリルアミド溶液が貯蔵された重合剤貯槽13、オゾン発生器14、コンプレッサー15及び水が貯蔵された洗浄水貯槽16がそれぞれ設けられている。なお、重合剤貯槽13には、その下方に加熱器17が設けられている。
【0018】
まず、複数の中空糸膜をU字状に集束固定してなる中空糸膜束11の先端に、N2ガスを導入可能な導入管付きのキャップ18を装着して、0.5kg/cm2のN2ガスを流入する。ここで用いるN2ガスとしては、中空糸膜のバブルポイントが240〜260KPaであり、オゾン発生器14のガス圧が700KPaであることから、500KPa程度であることが好ましい。これによって、後述するオゾンが中空糸膜の細孔内部に侵入することを防ぎ、重合剤を中空糸膜の外表面側のみにグラフト重合させることができる。
【0019】
続いて、図6に示すように、中空糸膜束11の先端にキャップ18を装着した状態で容器内に配置する。この後、0.4g/hのオゾン発生器14(ガス流量0.07L/min、オゾン濃度0.114g/l)により15〜20g/m3のオゾンガスをオゾン供給管19を介してモジュール反応槽12内に供給し、3〜10分程度曝露する(S1)。図7に示すように、長過ぎると、後述するグラフト重合時に過剰に重合され中空糸膜の圧力損失が大きくなる恐れがある。また、曝露時間を上記範囲にすることで、オゾンによる酸化劣化によって膜が脆弱化するのを回避し、膜強度の低下を初期の5〜10%程度(オゾン曝露後350g荷重/本)に抑えることができる。
【0020】
オゾンによる曝露終了後、空気供給管20を介してコンプレッサー15から圧縮空気をモジュール反応槽12に供給し、余剰なオゾンを排ガス管21へ排出し、さらに続けて30分間ほど圧縮空気を送り、中空糸膜束11を空気に曝す(S2)。
【0021】
この後、5%のN‐イソプロピルアクリルアミド溶液が貯蔵された重合剤貯槽13を、加熱器17で60℃に温めてモジュール反応槽12に供給し、これを再び重合剤貯槽13に送り、加熱循環させながら、中空糸膜束11をN‐イソプロピルアクリルアミド溶液に5分間浸漬して膜表面をグラフト重合させる(S3)。上述したように、オゾンによる曝露時間を3〜10分程度にすることで、重合剤を中空糸の膜面あたり20〜44μg/cm2グラフト重合させることができる。これによって、中空糸膜外表面側の平均直径0.2μmの孔径を0.1μm程度にすることができる。ここで、図8に、走査型電子顕微鏡による、中空糸膜におけるグラフト重合前後の孔径状態を示す。aは、グラフト重合前の孔径状態を示している。図8に示すように、10分を超えてオゾン曝露すると(d)、中空糸膜にN‐イソプロピルアクリルアミドが過剰にグラフト重合され、目詰まりを生じる。オゾン曝露時間を3〜10分にすることで(b、c)、0.1μm程度の孔径となるように、所定量の重合剤を膜表面にグラフト重合させることができる。
【0022】
重合反応終了後、重合剤をモジュール反応槽12から反応液排出管22を介して排出する。そして、注入ポンプで洗浄水貯槽16から水をモジュール反応槽12に供給して、中空糸膜に残留する未反応の重合剤を洗浄し、コンプレッサー15で乾燥する(S4)。なお、未反応の重合剤を完全に取り除くには、水で30分程度洗浄することが好ましい。未反応の重合剤が中空糸膜に過剰に残留している場合には、更に、モジュール反応槽12に洗浄水貯槽16から水を供給して、中空糸膜を浸漬することが好ましい。
【0023】
このようにして温度応答性中空糸膜を得ることができる。得られた該中空糸膜について、赤外線スペクトル分光器を用いて膜表面を調べた。結果を図9に示す。図9に示す赤外線スペクトルでは、アミド基に由来する波長1520cm−1(主としてNH変角運動によるものと考えられる。)に強い吸収をもつため、N‐イソプロピルアクリルアミドがグラフト重合されていることが確認できる。
【0024】
なお、本発明の温度応答性中空糸膜の製造方法は上記に限定されるものではなく、以下に示す製造方法を用いてもよい。図10は、本発明の温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示している。図11は、図10に示すオゾン曝露室の拡大図である。図6と同一部分には、同一符号を付し、その説明を一部省略する。図10に示す製造装置30では、リール31で巻き取られた複数本の中空糸膜32を引き出し、オゾン曝露室33、重合剤貯槽34及び洗浄槽35の順に移動速度20cm/minで連続的に処理した後、リール31で巻き取り回収する。これによって、本発明の温度応答性中空糸膜を得ることができる。
【0025】
まず、図11に示すオゾン曝露室33(長さ140cm)において、0.48g/hのオゾン発生器14(流量0.07L/min、オゾン濃度0.114g/l)から供給されるオゾンの濃度を15〜20g/m3に調整して、リール31から引き出された中空糸膜32を7分ほど曝露する。なお、オゾンの漏洩を防止するため、空気封入室36にコンプレッサー37から0.07L/minの圧縮空気を供給することが好ましい。余剰なオゾン又は圧縮空気は排ガス管38を介して排出する。
【0026】
この後、駆動リール39を用いて、オゾン曝露された中空糸膜32を20cm/minで移動させながら30分間空気中に曝す。駆動リール39の荷重としては、オゾン曝露によって中空糸膜32が脆弱になることから300g以下であることが好ましい。
【0027】
次に、加熱器17で60℃に加温された5%のN‐イソプロピルアクリルアミド溶液が入った重合剤貯槽34内(長さ100cm)に、中空糸膜32を通して5分間グラフト重合する。
【0028】
続いて、洗浄槽35で中空糸膜32に付着した未反応の重合剤を洗浄して除去し、リール31で巻き取る。具体的には、洗浄槽35の長さを140cm程度、中空糸膜32の洗浄槽35の通過時間を7分間程度とし、洗浄槽35には、洗浄水貯槽16から水などを洗浄槽容積の4倍となる流量で供給する。なお、排液は排液管40を介して排出する。このようにして容易に収率良く温度応答性ろ過膜を得ることができる。
【0029】
次に、本発明の温度応答性中空糸膜モジュールを用いたろ過装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、図12を参照して説明する。図12は、本実施形態に係るろ過装置である。
【0031】
図12に示すように、ろ過装置51は、複数の温度応答性中空糸膜から構成された中空糸膜束52を容器53内に配置した温度応答性中空糸膜モジュール(以下、中空糸膜モジュール54とする。)と、該中空糸膜モジュール54の原水側54aと原水循環管60を介して連結された加熱器55とを備えている。
【0032】
中空糸膜モジュール54は、固定部材56(ポッティング剤)によって、各中空糸膜の外表面側と接し且つ原水を供給する原水口を有する原水側54aと、各中空糸膜の内表面側とそれぞれの開口端を介して連通し且つ処理水を取り出す処理水口を有する処理水側54bとに区分けされており、原水側54aと処理水側54bとの間での物質移動は該中空糸膜の膜面のみを介して行われる。なお、原水側54aには、その下方にコンプレッサー59と連通し圧縮空気を放出する空気放出管57(第1空気供給系統)が設けられている。
【0033】
中空糸膜束52は、複数の温度応答性中空糸膜をU字状に折り曲げて一方の側(図12では上方側)に各端部を集束させるように束ねたものであり、各中空糸膜の内表面側と連通する開口端は固定部材56により支持固定されている。なお、該中空糸膜の固定方法は、特に限定されるものではなく、例えば、中空糸膜の両開口端を開口状態を維持して対向するように固定部材間に橋渡しするように固定する方法、中空糸膜の一方の端部を封止し、他方の端部を開口状態として固定部材に固定する方法等を用いることもできる。
【0034】
加熱器55は、原水側54aと連結するように設けられており、該中空糸膜モジュール54内の膜外表面側と接する原水を40〜60℃に加温する。すなわち、加熱器55には、第2空気配管58(第2空気供給系統)を介してコンプレッサー59から圧縮空気が送られている。これによって、原水循環管60を介して送られた中空糸膜モジュール54内の原水を加熱器55で40〜60℃に加温し、矢印で示す方向に循環させて該モジュール54内の原水を40〜60℃に制御する。
【0035】
次に、本実施形態における温度応答性中空糸膜モジュールを用いたろ過装置51の使用方法の一例を示す。
【0036】
まず、温度応答性中空糸膜を装填した中空糸膜モジュール54を用いて、原水をろ過処理する。原水の供給は、原水移送ポンプ61を駆動源としている。この原水移送ポンプ61によって原水を原水管62を介して圧送し、中空糸膜の外表面側から内表面側に流すことにより、原水中の固形分を中空糸膜の外表面側に捕捉する。中空糸膜で処理された処理水は処理水管63へ送られる。中空糸膜の膜面差圧が初期圧より0.5kg/cm2程度上昇した時点で、ろ過処理を停止する。
【0037】
ここで、以下の手順により、膜面に捕捉され、堆積した固形分の洗浄除去を行う。第2空気配管58を介してコンプレッサー59から送られた圧縮空気を加熱器55に供給することによって、原水循環管60を介して原水側54aから供給された原水を加熱器55で40〜60℃に温めた後、原水側54aに送る。これを繰り返し行い、原水を加熱循環させて液温を40〜60℃に制御する。
【0038】
次に、第1空気配管64を介して空気放出管57から圧縮空気を放出し、中空糸膜の外表面に堆積、付着している固形分を振動剥離する。これと同時に、逆圧洗浄手段として第3空気配管65を介してコンプレッサー59から供給される圧縮空気(3.0kg/cm2)によって、処理水側54bに滞留する処理水をろ過運転時とは逆方向の原水側54aに流し込み、各中空糸膜の内表面側から外表面側に逆洗する。処理水側54bの処理水が、原水側54aに混入するため一時液温が40℃未満に低下するが、第2空気配管58を介して圧縮空気を加熱器55に供給し、原水側54aを加熱循環させることで40〜60℃まで上昇させる。なお、逆洗時に供給された余剰な圧縮空気は、空気排出ライン66へ排出される。
【0039】
逆洗終了後、中空糸膜の膜面差圧を測定し、再び、ろ過処理を行う。以上の操作を繰り返し行う。ろ過量に対する膜面差圧を図13に示す。
【0040】
図13中、(A)は、本実施形態に係る温度応答性中空糸膜を用いた場合のろ過量に対する膜面差圧を示しており、(B)は、N−イソプロピルアクリルアミドがグラフト重合されていない従来の中空糸膜を用いた場合の膜面差圧を示している。図13に示すように、本実施形態に係る温度応答性中空糸膜によれば、膜面に付着した固形分などをより完全に除去することが可能なため、逆洗後の膜面差圧の上昇を抑制することできる。
【0041】
したがって、本実施形態によれば、原水側の液温を40〜60℃に制御することで、N−イソプロピルアクリルアミドの高分子鎖を収縮させて温度応答性中空糸膜の孔径を最大0.2μmまで開口させることができる。これによって、逆洗時に、膜面に目詰まった固形分を剥離し易くして洗浄効果を高めることができ、膜面差圧の上昇を効果的に抑制することができる。さらには、設備稼働率の向上が図れるとともに、運転に消費するエネルギーも削減することができる。また、処理水の消費量を低減することができるため、処理水の回収率を向上することができる。
【0042】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るろ過装置について、図14及び図15を参照して説明する。図14は、本実施形態に係るろ過装置である。図15は、図14に示す加熱器の拡大図である。なお、第1の実施形態のろ過装置の構成と同一の構成部分には、同一の符号を付して、その説明を簡略または省略する。
【0043】
図14に示すように、ろ過装置70では、加熱器71を中空糸膜モジュール54内に設けてもよい。すなわち、ここで用いる加熱器71は、空気放出管57の下方に配置されており、図15に示すように伝熱管72に熱水流路のための穴73が複数設けられている。このような加熱器71で原水側54aの原水を40〜60℃に加温し、空気放出管57から放出される圧縮空気(300L/h/m2)でこれを対流させることにより、膜外表面側と接する原水の液温を40〜60℃に制御する。中空糸膜の逆洗は、原水側54aの液温が40〜60℃に保たれた時に行われる。すなわち、原水側54aが所定温度に制御された時点で、第3空気配管65を介した流量40,000L/h/m2の圧縮空気により、処理水側54bに滞留する処理水を原水側54aに流し込み、中空糸膜を逆洗する。このとき、空気放出管57から放出される圧縮空気で、原水側54aの膜表面に付着した固形分を強制的に剥離する。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、原水側を40〜60℃に加温して対流させることによって温度分布の偏りを抑制することができ、逆洗時に該中空糸膜の高い洗浄効果を発揮することができる。さらには、簡便な装置及び操作で長期にわたり膜性能を維持することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係るろ過装置について、図16を参照して説明する。図16は、本実施形態に係るろ過装置である。
【0046】
図16に示すように、ろ過装置80では、中空糸膜モジュール54の下方に加熱器81を備えた飽和蒸気発生器82を設けてもよい。原水管62を介して原水を飽和蒸気発生器82に送り、ここで加熱器81により原水を60℃以上好ましくは100℃以上に温めて飽和蒸気を発生させて、原水側54aに300L/h/m3で供給する。そして、空気放出管57から放出される圧縮空気で、この飽和蒸気を対流させて原水側54aの温度を40〜60℃に制御する。逆洗は、このようにして原水側54aを40〜60℃に保たれた時点で行われる。逆洗の操作は、第1及び第2の実施形態と同様にして行う。
【0047】
したがって、本実施形態によれば、原水側を所定温度に制御することによって、逆洗時に該中空糸膜の優れた洗浄効果が得られ、膜寿命を長期間保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る温度応答性中空糸膜の断面図。
【図2】本発明に係る温度応答性中空糸膜において膜面にグラフト重合した重合剤の分子構造を示す図。
【図3】本発明に係る温度応答性中空糸膜の孔径伸縮率と液温との関係を示す図。
【図4】重合剤でグラフト重合されていない膜面に対する固形分の付着を示す図。
【図5】本発明に係る温度応答性中空糸膜の製造工程の一例を示す図。
【図6】本発明に係る温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示す図。
【図7】オゾン曝露時間とグラフト重合する量との関係を示す図。
【図8】本発明に係る温度応答性中空糸膜の孔径状態とオゾン曝露時間との関係を示す図。
【図9】本発明に係る温度応答性中空糸膜の赤外吸収スペクトルを示す図。
【図10】本発明に係る温度応答性中空糸膜の製造装置の一例を示す図。
【図11】図10に示すオゾン曝露室の拡大断面図。
【図12】第1の実施形態に係るろ過装置を示す図。
【図13】膜面差圧とろ過量との関係を示す図。
【図14】第2の実施形態に係るろ過装置を示す図。
【図15】図14に示す加熱器の拡大断面図。
【図16】第3の実施形態に係るろ過装置を示す図。
【符号の説明】
【0049】
1…温度応答性中空糸膜、2…中空糸膜、3…孔径調整材、4…孔径、5…固形分、51、70,80…ろ過装置、52…中空糸膜束、54…中空糸膜モジュール、54a…原水側、54b…処理水側、55,71,81…加熱器、57…空気放出管、59…コンプレッサー、62…原水管、63…処理水管、82…飽和蒸気発生器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる中空糸膜基体と、前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなることを特徴とする温度応答性中空糸膜。
【請求項2】
40℃〜60℃における最大孔径が0.2μmであることを特徴とする請求項1に記載の温度応答性中空糸膜。
【請求項3】
前記N−イソプロピルアクリルアミドは、前記中空糸膜基体に対して20〜44μg/cm2グラフト重合されていることを特徴とする請求項1に記載の温度応答性中空糸膜。
【請求項4】
高分子材料からなる中空糸膜基体と前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなる中空糸膜の多数本を、原水口と処理水口とを有する容器内に配置し、その端部外周を固定部材により固定してなることを特徴とする温度応答性中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸膜は、U字状に折り曲げられて集束固定されていることを特徴とする請求項4に記載の温度応答性中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記容器内を前記固定部材により前記中空糸膜の位置する原水側と前記中空糸膜の端部が開口する処理水側とに区画する請求項4記載の温度応答性中空糸膜モジュールと、
前記温度応答性中空糸膜モジュール内の原水側を加熱する加熱器と
を具備することを特徴とするろ過装置。
【請求項7】
前記温度応答性中空糸膜モジュール内の処理水側に処理水を流入させる逆圧洗浄手段と、該モジュール内の原水側に圧縮空気を供給する第1空気供給系統とをさらに具備することを特徴とする請求項6に記載のろ過装置。
【請求項8】
前記加熱器は、前記温度応答性中空糸膜モジュール内の原水側を循環させる第2空気供給系統に連結されていることを特徴とする請求項6に記載のろ過装置。
【請求項9】
前記加熱器は、前記温度応答性中空糸膜モジュール内に配置されていることを特徴とする請求項6に記載のろ過装置。
【請求項1】
高分子材料からなる中空糸膜基体と、前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなることを特徴とする温度応答性中空糸膜。
【請求項2】
40℃〜60℃における最大孔径が0.2μmであることを特徴とする請求項1に記載の温度応答性中空糸膜。
【請求項3】
前記N−イソプロピルアクリルアミドは、前記中空糸膜基体に対して20〜44μg/cm2グラフト重合されていることを特徴とする請求項1に記載の温度応答性中空糸膜。
【請求項4】
高分子材料からなる中空糸膜基体と前記中空糸膜基体の外表面側にN−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合により形成された所定の温度で可逆的に膨張/収縮する孔径調整材とからなる中空糸膜の多数本を、原水口と処理水口とを有する容器内に配置し、その端部外周を固定部材により固定してなることを特徴とする温度応答性中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸膜は、U字状に折り曲げられて集束固定されていることを特徴とする請求項4に記載の温度応答性中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記容器内を前記固定部材により前記中空糸膜の位置する原水側と前記中空糸膜の端部が開口する処理水側とに区画する請求項4記載の温度応答性中空糸膜モジュールと、
前記温度応答性中空糸膜モジュール内の原水側を加熱する加熱器と
を具備することを特徴とするろ過装置。
【請求項7】
前記温度応答性中空糸膜モジュール内の処理水側に処理水を流入させる逆圧洗浄手段と、該モジュール内の原水側に圧縮空気を供給する第1空気供給系統とをさらに具備することを特徴とする請求項6に記載のろ過装置。
【請求項8】
前記加熱器は、前記温度応答性中空糸膜モジュール内の原水側を循環させる第2空気供給系統に連結されていることを特徴とする請求項6に記載のろ過装置。
【請求項9】
前記加熱器は、前記温度応答性中空糸膜モジュール内に配置されていることを特徴とする請求項6に記載のろ過装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図8】
【公開番号】特開2007−61677(P2007−61677A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247560(P2005−247560)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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