温度計測装置、温度計測方法、および温度検出用ダイオードの温度特性決定方法
【課題】IGBTチップの温度を非接触で測定できる温度計測装置を提供する。
【解決手段】温度計測装置201では、熱板22上に載せたパワー半導体モジュール10がヒータ21からの加熱により温度制御されながら、所定温度まで加熱され、パワー半導体モジュール10に組み込まれた温度検出用のダイオードの温度特性を測定している。熱板22の中央部には、上下面を貫通する測定窓22hが形成されている。この測定窓22hを介して金属ベース板11から放射される赤外線強度を、放射温度計24によって測定している。
【解決手段】温度計測装置201では、熱板22上に載せたパワー半導体モジュール10がヒータ21からの加熱により温度制御されながら、所定温度まで加熱され、パワー半導体モジュール10に組み込まれた温度検出用のダイオードの温度特性を測定している。熱板22の中央部には、上下面を貫通する測定窓22hが形成されている。この測定窓22hを介して金属ベース板11から放射される赤外線強度を、放射温度計24によって測定している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被試験装置を加熱してその温度測定を行うための温度計測装置、およびこの温度計測装置を用いて行うパワー半導体モジュールの温度計測方法、および温度検出用ダイオードの温度特性決定方法に関し、とくに車両用電圧コンバータ装置に組み込まれるIPM(Intelligent Power Module)などのパワー半導体モジュールにおいて、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)チップに内蔵された温度検出用ダイオードの温度特性を補正するための温度検出用ダイオードの温度特性決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の車両機器では、高効率化や省エネ対策として、大きな駆動力を生むことができる電動機駆動システムが採用されている。図10は、車両機器における電動機駆動システムの一例を示すブロック図である。この電動機(M)4の駆動システムには、大別して電源1、昇降圧コンバータ2、およびインバータ3が含まれている。
【0003】
ここでは、電源1は走行車両の架線などから給電される電圧、あるいは直列接続されたバッテリから構成されている。昇降圧コンバータ2では、車両駆動時に電源回路の280ボルトの電圧VLを、電動機4の駆動に適した750ボルトまで昇圧している。そして、車両の制動時には、電動機4が発電機となって、そこから生じる電圧VH(=750ボルト)を電源回路の電圧VL(=280ボルト)まで降圧して、電力の回生動作が行われる。さらに、車両駆動時には、インバータ3のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、電動機4の各相に対して昇降圧コンバータ2で昇圧された電力から所定の電流を流すようにしている。このとき、車両の速度はスイッチング周波数に応じて変化する。車両の制動時には、各相に生じる交流電圧に同期してインバータ3のスイッチング素子をオンオフし、いわゆる整流動作によって直流電圧に変換して、昇降圧コンバータ2から電源1への回生動作が行われる。
【0004】
こうした車両用電圧コンバータ装置を含む電動機の駆動システムには、スイッチング素子として半導体パワースイッチ、およびこれに並列に設けられたダイオードを一体に組み込んだ、IPMなどのパワー半導体モジュールが用いられる。
【0005】
図11は、従来の温度計測装置とパワー半導体モジュールの構成を示す側面断面図である。パワー半導体モジュール10は金属ベース板11を放熱板として備え、その上に複数に分割されたIGBTチップ12がセラミック基板13を介して載置されている。
【0006】
パワー半導体モジュール10の放熱用の金属ベース板11には、たとえば銅ベースが用いられる。また、一対のIGBTチップ12が、絶縁用の各セラミック基板13上に固定されている。ここでは、IGBTチップ12には温度検出用のダイオードが複数個形成されている。
【0007】
昇降圧動作においてIGBTチップ12での損失が許容値を超過しても熱的に破壊しないように、温度検出用のダイオードによりその温度を検出して、IGBTチップ12の破壊温度に至る手前でゲート信号を遮断するなどの加熱防止機構が構成されている。このパワー半導体モジュール10は、さらに樹脂などの外囲ケース14によって保護され、その外部には複数の主端子15が設けられる。
【0008】
このパワー半導体モジュール10では、シリコンウェハにダイオードのみを形成する場合に比べて、温度検出用のダイオードがIGBTチップ12内に形成されているため、ロット間で順方向降下電圧や温度係数のバラツキが大きく、ロット毎に温度検出ダイオードの特性に応じて後段回路を補正しなければならない。そのため、この温度検出用のダイオードの温度特性については、あらかじめ測定しておく必要がある。
【0009】
そこで、パワー半導体モジュール10を温度計測装置20に載せて、金属ベース板11の温度を測定している。すなわち、パワー半導体モジュール10はヒータ21により加熱され、図11に示すように温度制御された熱板22との間に熱電対23を挟み込んでおくことにより、金属ベース板11の温度が熱電対23によって測定できる。
【0010】
このように、所定の温度まで加熱された時点で温度検出ダイオードの順方向降下電圧を測定すれば、ダイオードの温度特性が測定できる。しかし、このような従来の温度計測方法では、ヒータ21により加熱・温度制御された熱板22と、熱電対23からなる温度計測装置20を用いていることから、以下のような問題があった。
【0011】
第1に、熱電対23は金属ベース板11と熱板22に対して線接触状態で温度測定を行っている。そのため、従来の温度計測装置20では、熱電対23がその接触状態の影響を受け易く、常に安定して正確な温度を測定することが難しかった。
【0012】
第2に、パワー半導体モジュール10に熱電対23を挟み込むことによって、銅などの金属ベース板11の表面に僅かではあれ、傷が発生しやすい。そのため、金属ベース板11の平坦度が損なわれる恐れがあった。
【0013】
図12は、パワー半導体モジュール各部の温度履歴を示す温度プロファイル図である。ここには、金属ベース板11と熱板22の隙間に挟み込んだ熱電対23による温度プロファイルとともに、熱板22を加熱した場合の金属ベース板11のセラミック基板13側、セラミック基板13自体、およびIGBTチップ12にそれぞれ接着された別の熱電対によって測定された温度履歴を記載している。
【0014】
これによると、金属ベース板11の温度を測定する熱電対23の接触状態が良い状態(図12(A))では、熱板22と金属ベース板11に挟み込まれた熱電対の指示温度が、IGBTチップ12が搭載されているセラミック基板13の温度と概ね同一になる。これに対して、熱電対23の接触状態が良くない状態(図12(B))では、熱板22と金属ベース板11に挟み込まれた熱電対23の指示温度だけが、IGBTチップ12を搭載しているセラミック基板13の温度より低い値となっている。これは、熱板22から金属ベース板11への熱の伝導が行われているにもかかわらず、熱電対23では正確に金属ベース板11の温度を検出できていないことを示している。同時に、金属ベース板11の温度が正確に測定できれば、IGBTチップ12の温度も概ね正確に測定できることを示している。なお、熱板22による温度制御については、下記の特許文献1に記載がある。
【特許文献1】特開平6−124775号公報(段落番号[0010]〜[0022])
【特許文献2】特開2004−227838号公報(段落番号[0002]〜[0015])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、IGBTチップ12に形成された温度検出用のダイオードの温度特性を測定する従来の温度計測装置20では、ヒータ21で加熱・温度制御された熱板22と金属ベース板11との間に挟み込まれた熱電対23による温度測定が行われていたので、下記の課題が生じていた。すなわち、熱電対23がその接触状態の影響を受け易く、常に安定して正確な温度を測定することが難しい。また、従来の温度計測装置20では、パワー半導体モジュール10の金属ベース板11の下に熱電対23を挟み込むことによって、銅などの金属ベース板11の表面に僅かではあれ、傷が発生し、金属ベース板11の平坦度が損なわれるおそれがあった。
【0016】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、IGBTチップの温度を非接触で測定できる温度計測装置を提供することを目的とする。
また、本発明の別の目的は、IGBTチップの温度を安定して測定できる温度計測方法を提供することである。
【0017】
さらに、本発明の別の目的は、そのような温度計測装置を用いて温度検出用ダイオードの温度特性を正確に決定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では、上記問題を解決するために、被試験装置を加熱してその温度測定を行うための温度計測装置において、中央部に上下面を貫通する測定窓が形成され、前記被試験装置を密着状態で上面に載置する熱板と、前記熱板の下面に配置され、前記熱板を介して前記被試験装置を所定温度まで加熱する加熱手段と、前記測定窓を介して前記被試験装置から放射される赤外線強度を測定することによって前記被試験装置の温度を測定する温度測定手段と、を備えたことを特徴とする温度計測装置が提供される。
【0019】
また、本発明では、車両用電圧コンバータ装置に組み込まれるパワー半導体モジュールを加熱して、その温度を測定する温度計測方法において、中央部に上下面を貫通する測定窓が形成された熱板によって、前記パワー半導体モジュールの金属ベース板を加熱し、前記測定窓を通過する赤外線を測定光として、前記金属ベース板の温度を放射温度計によって測定するようにしたことを特徴とするパワー半導体モジュールの温度計測方法が提供できる。
【0020】
さらに、本発明では、温度検出用のダイオードの温度特性を決定するダイオードの温度特性決定方法において、同一の半導体チップ内に前記温度検出用のダイオードが組み込まれたパワー半導体モジュールをそのヒートシンク材とともに加熱する加熱ステップと、前記パワー半導体モジュールの温度を前記ヒートシンク材から放射される赤外線強度によって測定する温度測定ステップと、を備え、前記パワー半導体モジュールの各温度に応じて前記ダイオードの順方向降下電圧を測定することを特徴とする温度検出用ダイオードの温度特性決定方法が提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、放熱用の金属ベース板の温度、すなわちIGBTチップの温度を非接触かつ安定して測定できる。これにより、IGBTチップに埋め込まれた温度検出用のダイオードの温度特性のバラツキに対応して、後段回路における補正精度の向上を図ることができるだけでなく、その温度測定に必要とする工数を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る温度計測装置を示す側面断面図である。この実施の形態1では、温度計測装置201の構成とともに、放射温度計24を用いたパワー半導体モジュール10の温度測定方法および温度検出用ダイオードの温度特性決定方法について説明する。
【0023】
この温度計測装置201では、従来の温度計測装置20(図11)と同様に、熱板22上に載せたパワー半導体モジュール10がヒータ21からの加熱により温度制御されながら、所定温度まで加熱され、パワー半導体モジュール10に組み込まれた温度検出用のダイオードの温度特性を測定している。従来装置と異なる点は、熱板22の中央部に上下面を貫通する測定窓22hが形成されていること、およびこの測定窓22hを介して金属ベース板11から放射される赤外線強度を、放射温度計24によって測定していることである。
【0024】
この放射温度計24の原理は、温度測定対象である金属ベース板11の表面から放射される赤外線を集光レンズで赤外線センサに集光して、金属ベース板11の表面から出る赤外線のエネルギー量に基づいて、その温度を測定する。放射温度計24に用いられる赤外線センサでは、焦電素子やセレン化鉛(PbSe)、あるいは硫化鉛(PbS)などの光伝導素子により赤外線のエネルギー量を測定している。
【0025】
すでに図12において説明したように、金属ベース板11の温度は樹脂ケース内のIGBTチップ温度と概ね同一であるので、金属ベース板11を放射温度計24の測定対象として選択しても差し支えない。また、温度計測装置201の熱板22により加熱される金属ベース板11を放射温度計24の測定対象とする場合、熱板22に測定窓22hを設けて金属ベース板11の底面を測定面としたことで、赤外線センサによる正確な温度測定が可能になる。金属ベース板11の側面を温度計測の測定面としなかったのは、一般の赤外線センサに必要なセンシング領域としては狭すぎるからである。
【0026】
また、一般に赤外線センサが正確な温度測定を行うのに必要なセンシング領域は、放射温度計24の測定対象までの距離や、光学系が光ファイバー式であるか、非光ファイバー式であるかなどによって異なる。ここでは、測定温度は25〜200℃の範囲であって、測定距離が100mm以下とした場合、加熱手段となるヒータ21の高さを考慮すると、放射温度計24のセンシング領域としては直径2mm以上が必要である。このセンシング領域を確保するには、熱板22にはセンシング領域以上の大きさで、たとえば直径5mm程度の測定窓22hを設ける必要がある。
【0027】
図2は、昇降圧コンバータの回路構成を示すブロック図である。
この昇降圧コンバータ2は、大別してリアクトルL、コンデンサC、駆動系のスイッチング素子2A,2B、これらのスイッチング素子2A,2Bを制御する制御回路a1,b1から構成されるものであって、電源1の電圧VLを昇圧して、インバータ3(図10)へ供給している。最近の車両機器では、それぞれ制御回路a1,b1からのゲート信号によってオンオフされる半導体パワースイッチとしてIGBTQ1,Q2が用いられ、これらのIGBTQ1,Q2に並列にダイオードD1,D2を接続したスイッチング素子2A,2Bが構成されている。なお、スイッチング素子2A,2BのダイオードD1,D2は、IGBTQ1,Q2に流れる電流とは逆方向に電流を流すように接続される。
【0028】
つぎに、上述した温度計測装置でパワー半導体モジュール10を被試験装置として加熱し、その温度測定を行うことにより温度検出用ダイオードの温度特性を決定する方法について説明する。
【0029】
図3は、パワー半導体モジュールのIGBTチップの配置例を示す図である。
車両用電圧コンバータ装置などに用いられるパワー半導体モジュール10は、数百Aの電流をスイッチングするため、複数個のIGBTチップ12が並列接続で使用されており、図3に示すように、IGBTチップ12はセラミック基板13上で対称配置の構成となっている。そのため、温度計測装置201の熱板22の中央にパワー半導体モジュール10を載せれば、IGBTチップ12を避けて、セラミック基板13の中央にその測定窓22hが位置することになる。したがって、パワー半導体モジュール10のIGBTチップ12に対応する金属ベース板11は熱板22と接触することになるから、IGBTチップ12を確実に加熱できる。
【0030】
放射温度計24は、図1に示すように金属ベース板11面から必要な測定距離を隔てた底板20bに、その光軸が熱板22の測定窓22hの中心を通る金属ベース板11の法線と一致するように配置され、測定窓22hを介して金属ベース板11面の温度を測定する。なお、測定温度範囲25〜200℃、側板20sによって規定される測定距離100mm以下であれば、そのセンシング領域の直径2mmを満足する放射温度計としては、(株)チノー製の赤外線センサ(型式IR-CAB)が好ましい。この赤外線センサによれば、応答時間2秒で計測精度は±0.8℃、再現性0.2℃以内、分解能0.1℃である。
【0031】
放射温度計24による測定では、同じ温度でも測定対象の材質や表面状態などにより、そこからの赤外線量は異なるので、あらかじめ放射率を設定しておく必要がある。放射率とは、黒体を1.0(100パーセント)としたときの比率として表記され、放射率測定器で測定した放射率を用いて0.4〜0.99の範囲で補正することができる。
【0032】
つぎに、図2に示した昇降圧コンバータ2での昇降圧動作の原理を簡単に説明する。図4は、IGBT素子のスイッチング動作で生じる損失を示す図である。
昇圧動作では、昇圧用のスイッチング素子2BのIGBTQ2がオン(導通)のタイミングで、リアクトルLには電流I1が流れて、そこにL(I1)2/2のエネルギーが蓄積される。その後、スイッチング素子2Bがオフ(非導通)したとき、スイッチング素子2AのダイオードD1に電流が流れて、リアクトルLに蓄えられたエネルギーがコンデンサCに送られる。
【0033】
降圧動作では、スイッチング素子2AのIGBTQ1がオン(導通)すると、リアクトルLには電流I2が流れて、そこにL(I2)2/2のエネルギーが蓄積される。その後に、スイッチング素子2Aがオフ(非導通)すると、スイッチング素子2BのダイオードD2に電流が流れて、リアクトルLに蓄えられたエネルギーが電源1へ回生される。
【0034】
このような昇降圧動作において、IGBTQ1,Q2に生ずる損失は、図4に示すようにスイッチング素子2A,2Bの動作状態が、それぞれ活性領域(スイッチング時)と飽和領域で発生する。飽和領域では、スイッチング素子2A,2Bのエミッタ・コレクタ間の電圧が低いため、大電流が流れても損失は比較的少ない。しかし、活性領域ではエミッタ・コレクタ間の電圧は低くないので大きな損失が発生し、これらの損失が許容値を超過するとIGBTQ1,Q2が熱的に破壊され、上述のような昇降圧動作ができなくなる。そして、車両などの輸送機器にこのような昇降圧コンバータ2が使用される場合には、IGBTQ1,Q2の破壊による影響が大きい。
【0035】
図5は、IGBTチップに埋め込まれた温度検出用ダイオードの特性を示す図である。図5(A)に示すように、IGBTチップには、温度検出用のダイオードが形成され、LV−IC電流源からの定電流を印加して、その端子間電圧VFによって温度を検出するようにしている。図5(B)は、ダイオードの順方向降下電圧と温度との比例関係を示す特性図である。
【0036】
図6は、IGBTのゲートドライブに用いる制御回路の構成を示すブロック図である。
この制御回路40では、PWM信号が2値化回路41に供給され、論理回路42、およびMOSFETドライバ43を介してIGBTゲートドライブ信号が生成される。この制御回路40は、IGBT温度信号が供給される温度信号比較器45、IGBT電流信号が供給される電流信号比較器46、およびアラーム信号を生成する論理回路47を備える。温度検出用のダイオードでの順方向降下電圧が、IGBTQ1,Q2が破壊温度に至る手前に設定された閾値電圧以下になると、IGBTゲートドライブ信号を遮断し、単独でスイッチング動作を停止させる保護機能(過熱防止機能)が設けられている。
【0037】
また、別途温度検出用のダイオードでの順方向降下電圧を、フォトカプラなどを介して上位システムに伝送することにより、上位システムでIGBTチップの温度を監視し、所定温度に到達すると、スイッチング周波数を低下させるようにしている。ここでは、さらに温度上昇が持続すると、IGBTゲートドライブ信号を遮断することによって、システムとしてIGBTQ1,Q2の熱的破壊が防止できる。
【0038】
以上述べたように、この実施の形態1に係る温度計測装置201によれば、パワー半導体モジュール10をヒータ21により温度制御しながら、所定の温度に加熱して、IGBTチップに埋め込まれた温度検出用のダイオードの温度特性を正確に知ることができる。したがって、温度検出用のダイオードの温度特性にバラツキがあっても、それに対応して後段回路において精度よく補正することができ、その温度測定に必要とする工数を削減できる。
【0039】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2に係る温度計測装置を示す側面断面図である。実施の形態1と異なるのは、この温度計測装置202における熱板22の測定窓22hが、赤外線の等過性の良い材料で封止されている点である。
【0040】
温度計測装置202の熱板22に測定窓22hを設けると、粉塵や異物などが放射温度計24のレンズなどの光学系に堆積し、温度測定の誤差を発生する恐れがあった。そこで、熱板22の測定窓22hの側壁部分に、シリコンゴムなどの断熱材25を介して、赤外線透過材料からなる窓材26を固定して、粉塵や異物などの落下を防いでいる。赤外線透過材料としては、BK7などの光学ガラスを窓材26として使用することができる。ただし、この窓材26によって透過赤外線量に若干の減衰が生じるため、その補正は必要である。
【0041】
(実施の形態3)
図8は、実施の形態3に係る温度計測装置を示す側面断面図である。実施の形態2と異なるのは、この温度計測装置203における放射温度計24と熱板22との間の測定光路を断熱材27で囲んだ点である。
【0042】
熱板22にパワー半導体モジュール10を載せて加熱した場合に、放射温度計24の先端に設けられたレンズ系によって集光される赤外線は、その殆どが金属ベース板11から放射される。しかし、放射温度計24のレンズによる光学系の指向性は、図9に示すスポット径Dのように拡がって、放射温度計24にはそのレベルは低いが、センシング領域(直径2mm)以外の部分からの赤外線も入射する。また、熱板22から放射された赤外線が周囲に反射して、放射温度計24に入射するという問題があった。
【0043】
そこで、放射温度計24の光学系から熱板22に設けた測定窓22hに到る間の光軸領域周囲を断熱材27で覆うことにより、測定対象となる放射赤外線以外を遮断した。これによって、温度計測装置203に対するノイズを低減して、温度測定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態1に係る温度計測装置を示す側面断面図である。
【図2】昇降圧コンバータの回路構成を示すブロック図である。
【図3】パワー半導体モジュールのIGBTチップの配置例を示す図である。
【図4】IGBT素子のスイッチング動作で生じる損失を示す図である。
【図5】IGBTチップに埋め込まれた温度検出用ダイオードの特性を示す図である。
【図6】IGBTのゲートドライブに用いる制御回路の構成を示すブロック図である。
【図7】実施の形態2に係る温度計測装置を示す側面断面図である。
【図8】実施の形態3に係る温度計測装置を示す側面断面図である。
【図9】放射温度計の光学系の指向性の一例を示す図である。
【図10】車両機器における電動機駆動システムの一例を示すブロック図である。
【図11】従来の温度計測装置とパワー半導体モジュールの構成を示す側面断面図である。
【図12】パワー半導体モジュール各部の温度履歴を示す温度プロファイル図である。
【符号の説明】
【0045】
10 パワー半導体モジュール
11 金属ベース板
12 IGBTチップ
13 セラミック基板
21 ヒータ
22 熱板
22h 測定窓
24 放射温度計
25 断熱材
26 窓材
27 断熱材
201〜203 温度計測装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、被試験装置を加熱してその温度測定を行うための温度計測装置、およびこの温度計測装置を用いて行うパワー半導体モジュールの温度計測方法、および温度検出用ダイオードの温度特性決定方法に関し、とくに車両用電圧コンバータ装置に組み込まれるIPM(Intelligent Power Module)などのパワー半導体モジュールにおいて、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)チップに内蔵された温度検出用ダイオードの温度特性を補正するための温度検出用ダイオードの温度特性決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の車両機器では、高効率化や省エネ対策として、大きな駆動力を生むことができる電動機駆動システムが採用されている。図10は、車両機器における電動機駆動システムの一例を示すブロック図である。この電動機(M)4の駆動システムには、大別して電源1、昇降圧コンバータ2、およびインバータ3が含まれている。
【0003】
ここでは、電源1は走行車両の架線などから給電される電圧、あるいは直列接続されたバッテリから構成されている。昇降圧コンバータ2では、車両駆動時に電源回路の280ボルトの電圧VLを、電動機4の駆動に適した750ボルトまで昇圧している。そして、車両の制動時には、電動機4が発電機となって、そこから生じる電圧VH(=750ボルト)を電源回路の電圧VL(=280ボルト)まで降圧して、電力の回生動作が行われる。さらに、車両駆動時には、インバータ3のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、電動機4の各相に対して昇降圧コンバータ2で昇圧された電力から所定の電流を流すようにしている。このとき、車両の速度はスイッチング周波数に応じて変化する。車両の制動時には、各相に生じる交流電圧に同期してインバータ3のスイッチング素子をオンオフし、いわゆる整流動作によって直流電圧に変換して、昇降圧コンバータ2から電源1への回生動作が行われる。
【0004】
こうした車両用電圧コンバータ装置を含む電動機の駆動システムには、スイッチング素子として半導体パワースイッチ、およびこれに並列に設けられたダイオードを一体に組み込んだ、IPMなどのパワー半導体モジュールが用いられる。
【0005】
図11は、従来の温度計測装置とパワー半導体モジュールの構成を示す側面断面図である。パワー半導体モジュール10は金属ベース板11を放熱板として備え、その上に複数に分割されたIGBTチップ12がセラミック基板13を介して載置されている。
【0006】
パワー半導体モジュール10の放熱用の金属ベース板11には、たとえば銅ベースが用いられる。また、一対のIGBTチップ12が、絶縁用の各セラミック基板13上に固定されている。ここでは、IGBTチップ12には温度検出用のダイオードが複数個形成されている。
【0007】
昇降圧動作においてIGBTチップ12での損失が許容値を超過しても熱的に破壊しないように、温度検出用のダイオードによりその温度を検出して、IGBTチップ12の破壊温度に至る手前でゲート信号を遮断するなどの加熱防止機構が構成されている。このパワー半導体モジュール10は、さらに樹脂などの外囲ケース14によって保護され、その外部には複数の主端子15が設けられる。
【0008】
このパワー半導体モジュール10では、シリコンウェハにダイオードのみを形成する場合に比べて、温度検出用のダイオードがIGBTチップ12内に形成されているため、ロット間で順方向降下電圧や温度係数のバラツキが大きく、ロット毎に温度検出ダイオードの特性に応じて後段回路を補正しなければならない。そのため、この温度検出用のダイオードの温度特性については、あらかじめ測定しておく必要がある。
【0009】
そこで、パワー半導体モジュール10を温度計測装置20に載せて、金属ベース板11の温度を測定している。すなわち、パワー半導体モジュール10はヒータ21により加熱され、図11に示すように温度制御された熱板22との間に熱電対23を挟み込んでおくことにより、金属ベース板11の温度が熱電対23によって測定できる。
【0010】
このように、所定の温度まで加熱された時点で温度検出ダイオードの順方向降下電圧を測定すれば、ダイオードの温度特性が測定できる。しかし、このような従来の温度計測方法では、ヒータ21により加熱・温度制御された熱板22と、熱電対23からなる温度計測装置20を用いていることから、以下のような問題があった。
【0011】
第1に、熱電対23は金属ベース板11と熱板22に対して線接触状態で温度測定を行っている。そのため、従来の温度計測装置20では、熱電対23がその接触状態の影響を受け易く、常に安定して正確な温度を測定することが難しかった。
【0012】
第2に、パワー半導体モジュール10に熱電対23を挟み込むことによって、銅などの金属ベース板11の表面に僅かではあれ、傷が発生しやすい。そのため、金属ベース板11の平坦度が損なわれる恐れがあった。
【0013】
図12は、パワー半導体モジュール各部の温度履歴を示す温度プロファイル図である。ここには、金属ベース板11と熱板22の隙間に挟み込んだ熱電対23による温度プロファイルとともに、熱板22を加熱した場合の金属ベース板11のセラミック基板13側、セラミック基板13自体、およびIGBTチップ12にそれぞれ接着された別の熱電対によって測定された温度履歴を記載している。
【0014】
これによると、金属ベース板11の温度を測定する熱電対23の接触状態が良い状態(図12(A))では、熱板22と金属ベース板11に挟み込まれた熱電対の指示温度が、IGBTチップ12が搭載されているセラミック基板13の温度と概ね同一になる。これに対して、熱電対23の接触状態が良くない状態(図12(B))では、熱板22と金属ベース板11に挟み込まれた熱電対23の指示温度だけが、IGBTチップ12を搭載しているセラミック基板13の温度より低い値となっている。これは、熱板22から金属ベース板11への熱の伝導が行われているにもかかわらず、熱電対23では正確に金属ベース板11の温度を検出できていないことを示している。同時に、金属ベース板11の温度が正確に測定できれば、IGBTチップ12の温度も概ね正確に測定できることを示している。なお、熱板22による温度制御については、下記の特許文献1に記載がある。
【特許文献1】特開平6−124775号公報(段落番号[0010]〜[0022])
【特許文献2】特開2004−227838号公報(段落番号[0002]〜[0015])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、IGBTチップ12に形成された温度検出用のダイオードの温度特性を測定する従来の温度計測装置20では、ヒータ21で加熱・温度制御された熱板22と金属ベース板11との間に挟み込まれた熱電対23による温度測定が行われていたので、下記の課題が生じていた。すなわち、熱電対23がその接触状態の影響を受け易く、常に安定して正確な温度を測定することが難しい。また、従来の温度計測装置20では、パワー半導体モジュール10の金属ベース板11の下に熱電対23を挟み込むことによって、銅などの金属ベース板11の表面に僅かではあれ、傷が発生し、金属ベース板11の平坦度が損なわれるおそれがあった。
【0016】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、IGBTチップの温度を非接触で測定できる温度計測装置を提供することを目的とする。
また、本発明の別の目的は、IGBTチップの温度を安定して測定できる温度計測方法を提供することである。
【0017】
さらに、本発明の別の目的は、そのような温度計測装置を用いて温度検出用ダイオードの温度特性を正確に決定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では、上記問題を解決するために、被試験装置を加熱してその温度測定を行うための温度計測装置において、中央部に上下面を貫通する測定窓が形成され、前記被試験装置を密着状態で上面に載置する熱板と、前記熱板の下面に配置され、前記熱板を介して前記被試験装置を所定温度まで加熱する加熱手段と、前記測定窓を介して前記被試験装置から放射される赤外線強度を測定することによって前記被試験装置の温度を測定する温度測定手段と、を備えたことを特徴とする温度計測装置が提供される。
【0019】
また、本発明では、車両用電圧コンバータ装置に組み込まれるパワー半導体モジュールを加熱して、その温度を測定する温度計測方法において、中央部に上下面を貫通する測定窓が形成された熱板によって、前記パワー半導体モジュールの金属ベース板を加熱し、前記測定窓を通過する赤外線を測定光として、前記金属ベース板の温度を放射温度計によって測定するようにしたことを特徴とするパワー半導体モジュールの温度計測方法が提供できる。
【0020】
さらに、本発明では、温度検出用のダイオードの温度特性を決定するダイオードの温度特性決定方法において、同一の半導体チップ内に前記温度検出用のダイオードが組み込まれたパワー半導体モジュールをそのヒートシンク材とともに加熱する加熱ステップと、前記パワー半導体モジュールの温度を前記ヒートシンク材から放射される赤外線強度によって測定する温度測定ステップと、を備え、前記パワー半導体モジュールの各温度に応じて前記ダイオードの順方向降下電圧を測定することを特徴とする温度検出用ダイオードの温度特性決定方法が提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、放熱用の金属ベース板の温度、すなわちIGBTチップの温度を非接触かつ安定して測定できる。これにより、IGBTチップに埋め込まれた温度検出用のダイオードの温度特性のバラツキに対応して、後段回路における補正精度の向上を図ることができるだけでなく、その温度測定に必要とする工数を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る温度計測装置を示す側面断面図である。この実施の形態1では、温度計測装置201の構成とともに、放射温度計24を用いたパワー半導体モジュール10の温度測定方法および温度検出用ダイオードの温度特性決定方法について説明する。
【0023】
この温度計測装置201では、従来の温度計測装置20(図11)と同様に、熱板22上に載せたパワー半導体モジュール10がヒータ21からの加熱により温度制御されながら、所定温度まで加熱され、パワー半導体モジュール10に組み込まれた温度検出用のダイオードの温度特性を測定している。従来装置と異なる点は、熱板22の中央部に上下面を貫通する測定窓22hが形成されていること、およびこの測定窓22hを介して金属ベース板11から放射される赤外線強度を、放射温度計24によって測定していることである。
【0024】
この放射温度計24の原理は、温度測定対象である金属ベース板11の表面から放射される赤外線を集光レンズで赤外線センサに集光して、金属ベース板11の表面から出る赤外線のエネルギー量に基づいて、その温度を測定する。放射温度計24に用いられる赤外線センサでは、焦電素子やセレン化鉛(PbSe)、あるいは硫化鉛(PbS)などの光伝導素子により赤外線のエネルギー量を測定している。
【0025】
すでに図12において説明したように、金属ベース板11の温度は樹脂ケース内のIGBTチップ温度と概ね同一であるので、金属ベース板11を放射温度計24の測定対象として選択しても差し支えない。また、温度計測装置201の熱板22により加熱される金属ベース板11を放射温度計24の測定対象とする場合、熱板22に測定窓22hを設けて金属ベース板11の底面を測定面としたことで、赤外線センサによる正確な温度測定が可能になる。金属ベース板11の側面を温度計測の測定面としなかったのは、一般の赤外線センサに必要なセンシング領域としては狭すぎるからである。
【0026】
また、一般に赤外線センサが正確な温度測定を行うのに必要なセンシング領域は、放射温度計24の測定対象までの距離や、光学系が光ファイバー式であるか、非光ファイバー式であるかなどによって異なる。ここでは、測定温度は25〜200℃の範囲であって、測定距離が100mm以下とした場合、加熱手段となるヒータ21の高さを考慮すると、放射温度計24のセンシング領域としては直径2mm以上が必要である。このセンシング領域を確保するには、熱板22にはセンシング領域以上の大きさで、たとえば直径5mm程度の測定窓22hを設ける必要がある。
【0027】
図2は、昇降圧コンバータの回路構成を示すブロック図である。
この昇降圧コンバータ2は、大別してリアクトルL、コンデンサC、駆動系のスイッチング素子2A,2B、これらのスイッチング素子2A,2Bを制御する制御回路a1,b1から構成されるものであって、電源1の電圧VLを昇圧して、インバータ3(図10)へ供給している。最近の車両機器では、それぞれ制御回路a1,b1からのゲート信号によってオンオフされる半導体パワースイッチとしてIGBTQ1,Q2が用いられ、これらのIGBTQ1,Q2に並列にダイオードD1,D2を接続したスイッチング素子2A,2Bが構成されている。なお、スイッチング素子2A,2BのダイオードD1,D2は、IGBTQ1,Q2に流れる電流とは逆方向に電流を流すように接続される。
【0028】
つぎに、上述した温度計測装置でパワー半導体モジュール10を被試験装置として加熱し、その温度測定を行うことにより温度検出用ダイオードの温度特性を決定する方法について説明する。
【0029】
図3は、パワー半導体モジュールのIGBTチップの配置例を示す図である。
車両用電圧コンバータ装置などに用いられるパワー半導体モジュール10は、数百Aの電流をスイッチングするため、複数個のIGBTチップ12が並列接続で使用されており、図3に示すように、IGBTチップ12はセラミック基板13上で対称配置の構成となっている。そのため、温度計測装置201の熱板22の中央にパワー半導体モジュール10を載せれば、IGBTチップ12を避けて、セラミック基板13の中央にその測定窓22hが位置することになる。したがって、パワー半導体モジュール10のIGBTチップ12に対応する金属ベース板11は熱板22と接触することになるから、IGBTチップ12を確実に加熱できる。
【0030】
放射温度計24は、図1に示すように金属ベース板11面から必要な測定距離を隔てた底板20bに、その光軸が熱板22の測定窓22hの中心を通る金属ベース板11の法線と一致するように配置され、測定窓22hを介して金属ベース板11面の温度を測定する。なお、測定温度範囲25〜200℃、側板20sによって規定される測定距離100mm以下であれば、そのセンシング領域の直径2mmを満足する放射温度計としては、(株)チノー製の赤外線センサ(型式IR-CAB)が好ましい。この赤外線センサによれば、応答時間2秒で計測精度は±0.8℃、再現性0.2℃以内、分解能0.1℃である。
【0031】
放射温度計24による測定では、同じ温度でも測定対象の材質や表面状態などにより、そこからの赤外線量は異なるので、あらかじめ放射率を設定しておく必要がある。放射率とは、黒体を1.0(100パーセント)としたときの比率として表記され、放射率測定器で測定した放射率を用いて0.4〜0.99の範囲で補正することができる。
【0032】
つぎに、図2に示した昇降圧コンバータ2での昇降圧動作の原理を簡単に説明する。図4は、IGBT素子のスイッチング動作で生じる損失を示す図である。
昇圧動作では、昇圧用のスイッチング素子2BのIGBTQ2がオン(導通)のタイミングで、リアクトルLには電流I1が流れて、そこにL(I1)2/2のエネルギーが蓄積される。その後、スイッチング素子2Bがオフ(非導通)したとき、スイッチング素子2AのダイオードD1に電流が流れて、リアクトルLに蓄えられたエネルギーがコンデンサCに送られる。
【0033】
降圧動作では、スイッチング素子2AのIGBTQ1がオン(導通)すると、リアクトルLには電流I2が流れて、そこにL(I2)2/2のエネルギーが蓄積される。その後に、スイッチング素子2Aがオフ(非導通)すると、スイッチング素子2BのダイオードD2に電流が流れて、リアクトルLに蓄えられたエネルギーが電源1へ回生される。
【0034】
このような昇降圧動作において、IGBTQ1,Q2に生ずる損失は、図4に示すようにスイッチング素子2A,2Bの動作状態が、それぞれ活性領域(スイッチング時)と飽和領域で発生する。飽和領域では、スイッチング素子2A,2Bのエミッタ・コレクタ間の電圧が低いため、大電流が流れても損失は比較的少ない。しかし、活性領域ではエミッタ・コレクタ間の電圧は低くないので大きな損失が発生し、これらの損失が許容値を超過するとIGBTQ1,Q2が熱的に破壊され、上述のような昇降圧動作ができなくなる。そして、車両などの輸送機器にこのような昇降圧コンバータ2が使用される場合には、IGBTQ1,Q2の破壊による影響が大きい。
【0035】
図5は、IGBTチップに埋め込まれた温度検出用ダイオードの特性を示す図である。図5(A)に示すように、IGBTチップには、温度検出用のダイオードが形成され、LV−IC電流源からの定電流を印加して、その端子間電圧VFによって温度を検出するようにしている。図5(B)は、ダイオードの順方向降下電圧と温度との比例関係を示す特性図である。
【0036】
図6は、IGBTのゲートドライブに用いる制御回路の構成を示すブロック図である。
この制御回路40では、PWM信号が2値化回路41に供給され、論理回路42、およびMOSFETドライバ43を介してIGBTゲートドライブ信号が生成される。この制御回路40は、IGBT温度信号が供給される温度信号比較器45、IGBT電流信号が供給される電流信号比較器46、およびアラーム信号を生成する論理回路47を備える。温度検出用のダイオードでの順方向降下電圧が、IGBTQ1,Q2が破壊温度に至る手前に設定された閾値電圧以下になると、IGBTゲートドライブ信号を遮断し、単独でスイッチング動作を停止させる保護機能(過熱防止機能)が設けられている。
【0037】
また、別途温度検出用のダイオードでの順方向降下電圧を、フォトカプラなどを介して上位システムに伝送することにより、上位システムでIGBTチップの温度を監視し、所定温度に到達すると、スイッチング周波数を低下させるようにしている。ここでは、さらに温度上昇が持続すると、IGBTゲートドライブ信号を遮断することによって、システムとしてIGBTQ1,Q2の熱的破壊が防止できる。
【0038】
以上述べたように、この実施の形態1に係る温度計測装置201によれば、パワー半導体モジュール10をヒータ21により温度制御しながら、所定の温度に加熱して、IGBTチップに埋め込まれた温度検出用のダイオードの温度特性を正確に知ることができる。したがって、温度検出用のダイオードの温度特性にバラツキがあっても、それに対応して後段回路において精度よく補正することができ、その温度測定に必要とする工数を削減できる。
【0039】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2に係る温度計測装置を示す側面断面図である。実施の形態1と異なるのは、この温度計測装置202における熱板22の測定窓22hが、赤外線の等過性の良い材料で封止されている点である。
【0040】
温度計測装置202の熱板22に測定窓22hを設けると、粉塵や異物などが放射温度計24のレンズなどの光学系に堆積し、温度測定の誤差を発生する恐れがあった。そこで、熱板22の測定窓22hの側壁部分に、シリコンゴムなどの断熱材25を介して、赤外線透過材料からなる窓材26を固定して、粉塵や異物などの落下を防いでいる。赤外線透過材料としては、BK7などの光学ガラスを窓材26として使用することができる。ただし、この窓材26によって透過赤外線量に若干の減衰が生じるため、その補正は必要である。
【0041】
(実施の形態3)
図8は、実施の形態3に係る温度計測装置を示す側面断面図である。実施の形態2と異なるのは、この温度計測装置203における放射温度計24と熱板22との間の測定光路を断熱材27で囲んだ点である。
【0042】
熱板22にパワー半導体モジュール10を載せて加熱した場合に、放射温度計24の先端に設けられたレンズ系によって集光される赤外線は、その殆どが金属ベース板11から放射される。しかし、放射温度計24のレンズによる光学系の指向性は、図9に示すスポット径Dのように拡がって、放射温度計24にはそのレベルは低いが、センシング領域(直径2mm)以外の部分からの赤外線も入射する。また、熱板22から放射された赤外線が周囲に反射して、放射温度計24に入射するという問題があった。
【0043】
そこで、放射温度計24の光学系から熱板22に設けた測定窓22hに到る間の光軸領域周囲を断熱材27で覆うことにより、測定対象となる放射赤外線以外を遮断した。これによって、温度計測装置203に対するノイズを低減して、温度測定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態1に係る温度計測装置を示す側面断面図である。
【図2】昇降圧コンバータの回路構成を示すブロック図である。
【図3】パワー半導体モジュールのIGBTチップの配置例を示す図である。
【図4】IGBT素子のスイッチング動作で生じる損失を示す図である。
【図5】IGBTチップに埋め込まれた温度検出用ダイオードの特性を示す図である。
【図6】IGBTのゲートドライブに用いる制御回路の構成を示すブロック図である。
【図7】実施の形態2に係る温度計測装置を示す側面断面図である。
【図8】実施の形態3に係る温度計測装置を示す側面断面図である。
【図9】放射温度計の光学系の指向性の一例を示す図である。
【図10】車両機器における電動機駆動システムの一例を示すブロック図である。
【図11】従来の温度計測装置とパワー半導体モジュールの構成を示す側面断面図である。
【図12】パワー半導体モジュール各部の温度履歴を示す温度プロファイル図である。
【符号の説明】
【0045】
10 パワー半導体モジュール
11 金属ベース板
12 IGBTチップ
13 セラミック基板
21 ヒータ
22 熱板
22h 測定窓
24 放射温度計
25 断熱材
26 窓材
27 断熱材
201〜203 温度計測装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験装置を加熱してその温度測定を行うための温度計測装置において、
中央部に上下面を貫通する測定窓が形成され、前記被試験装置を密着状態で上面に載置する熱板と、
前記熱板の下面に配置され、前記熱板を介して前記被試験装置を所定温度まで加熱する加熱手段と、
前記測定窓を介して前記被試験装置から放射される赤外線強度を測定することによって前記被試験装置の温度を測定する温度測定手段と、
を備えたことを特徴とする温度計測装置。
【請求項2】
前記熱板は、前記測定窓が波長8〜13μmの赤外線を選択して透過する材料によって封止されていることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記温度測定手段と前記熱板の間には、前記赤外線の光路周囲を取り囲む断熱材が配置されていることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項4】
前記熱板には、前記測定窓が直径5mm以内の大きさで、かつ前記熱板の中央部分に形成されていることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項5】
前記温度測定手段は、検出素子に焦電素子、PbSe光伝導素子、あるいはPbS光伝導素子を用いた放射温度計であることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項6】
車両用電圧コンバータ装置に組み込まれるパワー半導体モジュールを加熱して、その温度を測定する温度計測方法において、
中央部に上下面を貫通する測定窓が形成された熱板によって、前記パワー半導体モジュールの金属ベース板を加熱し、前記測定窓を通過する赤外線を測定光として、前記金属ベース板の温度を放射温度計によって測定するようにしたことを特徴とするパワー半導体モジュールの温度計測方法。
【請求項7】
温度検出用のダイオードの温度特性を決定するダイオードの温度特性決定方法において、
同一の半導体チップ内に前記温度検出用のダイオードが組み込まれたパワー半導体モジュールをそのヒートシンク材とともに加熱する加熱ステップと、
前記パワー半導体モジュールの温度を前記ヒートシンク材から放射される赤外線強度によって測定する温度測定ステップと、
を備え、前記パワー半導体モジュールの各温度に応じて前記ダイオードの順方向降下電圧を測定することを特徴とする温度検出用ダイオードの温度特性決定方法。
【請求項1】
被試験装置を加熱してその温度測定を行うための温度計測装置において、
中央部に上下面を貫通する測定窓が形成され、前記被試験装置を密着状態で上面に載置する熱板と、
前記熱板の下面に配置され、前記熱板を介して前記被試験装置を所定温度まで加熱する加熱手段と、
前記測定窓を介して前記被試験装置から放射される赤外線強度を測定することによって前記被試験装置の温度を測定する温度測定手段と、
を備えたことを特徴とする温度計測装置。
【請求項2】
前記熱板は、前記測定窓が波長8〜13μmの赤外線を選択して透過する材料によって封止されていることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記温度測定手段と前記熱板の間には、前記赤外線の光路周囲を取り囲む断熱材が配置されていることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項4】
前記熱板には、前記測定窓が直径5mm以内の大きさで、かつ前記熱板の中央部分に形成されていることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項5】
前記温度測定手段は、検出素子に焦電素子、PbSe光伝導素子、あるいはPbS光伝導素子を用いた放射温度計であることを特徴とする請求項1記載の温度計測装置。
【請求項6】
車両用電圧コンバータ装置に組み込まれるパワー半導体モジュールを加熱して、その温度を測定する温度計測方法において、
中央部に上下面を貫通する測定窓が形成された熱板によって、前記パワー半導体モジュールの金属ベース板を加熱し、前記測定窓を通過する赤外線を測定光として、前記金属ベース板の温度を放射温度計によって測定するようにしたことを特徴とするパワー半導体モジュールの温度計測方法。
【請求項7】
温度検出用のダイオードの温度特性を決定するダイオードの温度特性決定方法において、
同一の半導体チップ内に前記温度検出用のダイオードが組み込まれたパワー半導体モジュールをそのヒートシンク材とともに加熱する加熱ステップと、
前記パワー半導体モジュールの温度を前記ヒートシンク材から放射される赤外線強度によって測定する温度測定ステップと、
を備え、前記パワー半導体モジュールの各温度に応じて前記ダイオードの順方向降下電圧を測定することを特徴とする温度検出用ダイオードの温度特性決定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−24860(P2007−24860A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367801(P2005−367801)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】
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