説明

測位システム

【課題】1つの線形回帰方程式を用いて容易に且つ高精度に電離層遅延を推定演算する。
【解決手段】基地局1は、測位衛星SATからの測位用信号を受信して、キャリア位相積算値およびコード疑似距離を取得する(S1)。基地局1は、航法メッセージを取得、解析して、電離層遅延の推定演算に利用する測位衛星の情報を取得する(S2,S3)。基地局1は、基地局1と測位衛星との距離に関して、過去の推定演算により得られた測位衛星位置の周りでテイラー展開することで線形近似を行う(S4)。基地局1は、測位衛星位置に関する線形近似の結果を行列演算要素とし、電離層遅延を未知数として含み、キャリア位相積算値およびコード疑似距離と基地局位置とから算出される値を観測値として、線形回帰方程式を設定する。基地局1は、この線形回帰方程式にカルマンフィルタ等を適用して、電離層遅延を推定演算する(S5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測位用信号を用いて電離層遅延を推定演算する測位システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、測位衛星から送信される測位用信号を用いて測位を行う測位システムが各種開示されており、測位方法から単独測位と相対測位とが存在する。このような測位システムにおける測位演算では、電離層遅延の問題がある。このために、一般的には、電離層遅延情報を衛星からの航法メッセージ等から取得して、測位演算の際に電離層遅延情報を利用することで電離層遅延の影響を除去していた。
【非特許文献1】佐田 達典著,「GPS測量技術」,オーム社,平成15年10月20日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、電離層遅延情報は、高精度な測位を行うためには必要なものであり、電離層遅延情報が高精度であるほど、より高精度な測位を行うことができる。そして、このような高精度の電離層遅延情報を算出する方法は、容易ではなかった。
【0004】
したがって、本発明の目的は、電離層遅延情報を高精度の推定演算を容易に行うことができる測位システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、測位用信号を送信する複数の測位衛星と、測位用信号を受信する受信手段を備えるとともに位置が既知である基地局と、を有する測位システムに関するものである。この測位システムの基地局は、電離層遅延バイアスを推定する推定演算手段を備える。推定演算手段は、測位用信号から得られる衛星情報から、基地局と測位衛星との間のコード疑似距離およびキャリア位相積算値を観測し、測位衛星と基地局との距離を、測位衛星の過去の推定位置で一次テイラー級数展開することで線形近似し、少なくとも基地局の電離層遅延バイアスを未知数として説明変数に含み、キャリア位相積算値およびコード擬似距離から基地局位置を減算した観測値を目的変数に含み、線形近似に基づく測位衛星位置を演算行列要素として含む一つの線形回帰方程式を構成し、該線形回帰方程式から基地局の電離層遅延バイアスを推定演算する。
【0006】
この構成では、一つの線形回帰方程式を用いて、電離層遅延バイアスを推定演算することで、電離層遅延バイアスの推定演算が容易となる。
【0007】
また、この発明の測位システムの推定演算手段は、線形回帰方程式の説明変数に、搬送波毎の整数値バイアスを含んで推定演算を行う。ここで、搬送波毎とは、例えば、GNSSで利用できる測位信号に含まれる搬送波の少なくとも二種類の搬送波毎等のことを示す。
【0008】
この構成では、電離層遅延バイアスとともに基地局での整数値バイアスを推定する演算がなされる。これにより、既知局(位置が既知の基地局)に近い未知局が既知局に対して相対測位を行う場合に、基地局の整数値バイアスが既知の値となるので、拘束条件が増えて、未知局での測位演算が容易且つ高精度になる。
【0009】
また、この発明の測位システムの基地局は、複数の受信手段を備える。推定演算手段は、各受信手段に対応する複数の電離層遅延バイアスが同じであるとして、基地局に対する唯一の電離層遅延バイアスとして設定する。
【0010】
この構成では、線形回帰方程式で利用する観測値である目的変数が増加する一方で、電離層遅延バイアスに関する説明変数は増加しないので、より高精度な推定演算が可能となる。
【0011】
また、この発明の測位システムの基地局は複数である。そして、測位システムは、複数の基地局で推定演算された電離層遅延バイアスに基づいて、電離層の経度、緯度に応じた電離層情報を推定演算する電離層情報推定手段を備える。
【0012】
この構成では、複数の基地局の電離層遅延バイアスに基づいて、経度・緯度に基づく電離層遅延情報が形成されるので、各未知局はこの電離層遅延情報を利用して高精度な測位を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、一つの回帰方程式のみを用いて高精度に電離層遅延バイアスを推定演算することができる。また、この推定演算された電離層遅延バイアスを用いることで、高精度な測位システムを容易に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る測位システムについて図を参照して説明する。なお、以下の説明では、GPSを用いた測位システムについて説明するが、他の全てのGNSS(全地球的航法衛星システム)に適用することができる。
図1は本実施形態の測位システムの構成を示す概念図である。
また、図2は本実施形態の基地局1の構成を示すブロック図である。
また、図3は本実施形態の基地局1の電離層遅延バイアスの推定フローを示すフローチャートである。
【0015】
本実施形態の測位システムは、基地局1と、複数の測位衛星SAT1〜SATnとを備える。
【0016】
測位用衛星SAT1〜SATnは、航法メッセージが重畳した搬送波(キャリア信号)を、予め衛星毎に設定されたコードで変調して外部に送信する。
【0017】
基地局1には測位用アンテナ10が設置されているとともに、基地局1内には、GPS受信機11、航法メッセージ解析部12、衛星情報処理部13および推定演算部14を備える。
【0018】
測位用アンテナ10は、観測可能な測位用衛星SAT1〜SATnより送信される測位用信号を受信し、GPS受信機は測位用信号を復調する。この復調を行う際に、同時にキャリア位相積算値とコード擬似距離(コード位相)とを算出する(S1)。航法メッセージ解析部12は、復調された測位用信号から航法メッセージを解析して測位用衛星に関する情報を取得する(S2)。衛星情報処理部13は、測位用衛星のエフェメリス情報等を用いて、電離層遅延バイアスの推定演算に利用する測位用衛星を選定して、選定した測位用衛星に関する各種情報を推定演算部14に出力する(S3)。
【0019】
推定演算部14は、衛星情報処理部13から入力される各情報と、基地局情報通信部13から入力される各情報とについて、対象とする測位用衛星に対する整合をとる。そして、推定演算部14は、入力された各観測値を用いて後述する1つの線形回帰方程式を設定する。ここで、観測値は、CAコード、P(Y)コード毎のコード疑似距離、L1搬送波、L2搬送波毎のキャリア位相積算値であり、当該各観測値から、基地局の位置を減算した値が、線形回帰方程式の目的変数となる。一方で、未知数は、少なくとも推定演算すべき電離層遅延バイアスを含み、さらに搬送波毎の整数値バイアス等を有する。そして、この未知数が線形回帰方程式の説明変数となる。さらに、過去の測位衛星位置の周りで一次テイラー級数展開した線形近似により得られる測位衛星位置に関する要素が、線形回帰方程式の演算行列要素として用いられる。推定演算部14は、設定した線形回帰方程式に最小二乗法やLAMBDA法やカルマンフィルタを適用することで、電離層遅延バイアスを推定演算する(S4、S5)。
【0020】
基地局1は、このように推定演算された電離層遅延バイアスを、未知局からの要求に応じて、当該未知局に送信する。この際、電離層遅延バイアスと同時に推定演算された整数値バイアスを、未知局に送信しても良い。また、基地局1は、別途設置された電離層遅延情報設定装置に対して、自局位置情報とともに電離層遅延バイアスを送信する。
【0021】
次に、基地局での電離層遅延バイアスの推定演算アルゴリズムについて具体的に説明する。なお、以下の説明では、キャリア位相積算値を単に「キャリア位相」と称す。
【0022】
基地局k、GPS衛星p(測位用衛星SAT1〜SATn)に対するキャリア位相φpCA,k(t),φpPY,k(t)の観測方程式は式(3)、(4)で表され、コード擬似距離(擬似距離)ρpL1,k(t),ρpL2,k(t)の観測方程式は式(1)、(2)で表される。また、マルチパス誤差は微少として無視する。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、λL1,λL2はL1波、L2波の波長を示し、rpk(t,t−τpk)は時刻tでの基地局kと時刻(t−τpk)でのGPS衛星pとの距離を示し、τpkは衛星pと基地局kとの間の電波の伝搬時間を示し、δIpk(t)は電離層遅延を示し、δTpk(t)は対流圏遅延を示し、δtk(t)は真の時刻tでの基地局kの時計誤差を示し、δtp(t−τpk)は時刻(t−τpk)でのGPS衛星pの時計誤差を示し、Npkは基地局kとGPS衛星pとの間の整数値バイアスを示し、δbCA,k(t),δbPY,k(t),δbL1,k(t),δbL2,k(t)は基地局kの受信機ハードウエアバイアスを示し、δbpCA(t),δbpPY(t),δbpL1(t),δbpL2(t)は基地局kの受信機ハードウエアバイアスを示し、εpk(t),epk(t)はそれぞれ観測雑音を示す。
【0025】
ここで、基地局kとGPS衛星pとの距離rpk(t,t−τpk)を、未知数である測位衛星推定位置sep(t)≡[xep(t),yep(t),zep(t)](Tはベクトルまたは行列の転置)のまわりで1次のテイラー級数展開を行い、rpk(t)を線形近似すると、式(5)となる。
【0026】
【数2】

【0027】
ここで、spは測位衛星位置である。
【0028】
この結果に基づき、式(6)〜(9)の関係を設定する。
【0029】
【数3】

【0030】
式(1)〜(4)は、ベクトル・行列表現からなる式(10)となる。
【0031】
【数4】

【0032】
ただし、
【0033】
【数5】

【0034】
である。
【0035】
そして、この式(10)を線形変換すると、式(11)となる。なお、式(11)では誤差項を省略する。
【0036】
【数6】

【0037】
さらに、式(11)に対して、更なる線形変換を行うと、式(11)は式(12)のように表現することができる。
【0038】
【数7】

【0039】
このように簡素化された線形回帰方程式を用い、ハードウエアバイアスに関する項δbがほぼ定数であり、また、電離層遅延データδIkがKlobucharの電離層遅延モデル、あるいは国際GNSS事業が提供する電離層遅延の推定値δIekを利用して、電離層遅延バイアスδIkとこの推定値δIekとの差分値が一次マルコフ過程と仮定すると、次式の状態方程式と観測方程式とを設定することができる。
【0040】
x(t+1)=x(t)
k1,d=Hx(t)+υ(t)
この状態方程式および観測方程式にカルマンフィルタ推定理論を適用することで、電離層遅延バイアスδIkと推定値δIekとの差分値が推定演算ができ、結果的に、電離層遅延バイアスδIkを推定演算することができる。この際、整数値バイアスNL1,k,NL2,kに対して、カルマンフィルタによる実数推定値と推定誤差共分散を用いて、LAMBDA法で整数値の推定値を算出する。このような整数値の推定値が算出されることで、より高精度な電離層遅延バイアスδIkを推定演算することができる。
【0041】
以上のように、本実施形態の構成および処理を用いることで、基地局にて電離層遅延バイアスを高精度且つ容易に推定演算することができる。
【0042】
なお、上述の説明では、測位用アンテナ10およびGPS受信機11を基地局1に一つ設置した場合について説明したが、基地局1に複数の測位用アンテナおよびGPS受信機を設置するようにしてもよい。このように、複数の測位用アンテナおよびGPS受信機を用いた場合、各測位用アンテナ(GPS受信機)間の距離が短いので、電離層遅延バイアスは同じであると見なすことができる。このため、上述の線形回帰方程式において、未知数である電離層遅延バイアスδIkの数を増やすことなく、観測値を増加させることができるので、より高精度に電離層遅延バイアスδIkを推定演算することができる。
【0043】
なお、上述の説明では、ハードウエアバイアスとして、基地局のハードウエアバイアスと、測位衛星のハードウエアバイアスとを考慮した場合を説明したが、測位衛星のハードウエアバイアスは、10-9オーダであり、無視することもできる。このように無視できる場合には、より容易に電離層遅延バイアスを推定演算することができる。
【0044】
ところで、このように推定演算された電離層遅延バイアスは、自局位置情報とともに、別途設置された電離層遅延情報設定装置に送信される。電離層遅延情報設定装置は、各基地局からの電離層遅延バイアスとこれに関連付けられた自局位置情報とを収集し、電離層における経度、緯度単位での電離層遅延のデータ群からなる電離層遅延情報を算出する。この際、電離層遅延情報設定装置は、上述のようにして得られた基地局と各GPS衛星との間の電離層遅延バイアスからVTEC(電離層での垂直電子数)を算出する。さらに電離層遅延情報設定装置は、算出したVTECを用いて、電離層点の緯度eβと、Sun−fixed座標系における電離層点の経度esとの関数E(eβ,es)を推定演算する。そして、このようにして得られた関数E(eβ,es)を電離層遅延情報として、測位用衛星や情報提供用衛星等に送信する。電離層遅延情報は、各衛星から放送され、例えば、測位を行う自装置が未知の測位装置(未知局)で測位演算を実行する際に利用される。これにより、各未知局は、高精度な測位を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態の測位システムの構成を示す概念図である。
【図2】本実施形態の基地局1の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態の基地局1の電離層遅延バイアスの推定フローを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1−基地局
10−測位用アンテナ
11−GPS受信機
12−航法メッセージ解析部
13−衛星情報処理部
14−推定演算部
SAT1〜SATn−測位用衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用信号を送信する複数の測位衛星と、
前記測位用信号を受信する受信手段を備えるとともに、位置が既知である基地局とを有する測位システムであって、
前記基地局は、
前記測位用信号から得られる衛星情報から、前記基地局と前記測位衛星との間のコード疑似距離およびキャリア位相積算値を観測し、
前記測位衛星と前記基地局との距離方程式を、前記測位衛星の過去の推定位置で一次テイラー級数展開することで線形近似し、
少なくとも前記基地局の電離層遅延バイアスを未知数として説明変数に含み、前記キャリア位相積算値および前記コード擬似距離から前記基地局位置を減算した観測値を目的変数に含み、前記線形近似に基づく前記測位衛星位置を演算行列要素として含む一つの線形回帰方程式を構成し、
該線形回帰方程式から、前記基地局の電離層遅延バイアスを推定演算する、推定演算手段を備えた、測位システム。
【請求項2】
前記推定演算手段は、前記線形回帰方程式の説明変数に、搬送波毎の整数値バイアスを含む、請求項1に記載の測位システム。
【請求項3】
前記基地局は、複数の受信手段を備え、
前記推定演算手段は、各受信手段に対応する複数の電離層遅延バイアスが同じであるとして、前記基地局に対する唯一の電離層遅延バイアスとして設定する、請求項1または請求項2に記載の測位システム。
【請求項4】
前記基地局は複数あり、
該複数の基地局で推定演算された電離層遅延バイアスに基づいて、電離層の経度、緯度に応じた電離層情報を推定演算する、電離層情報推定手段を備えた、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の測位システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate