説明

測位データ評価装置、測位データ評価方法および測位データ評価プログラム

【課題】GPSなどの測位衛星で得られた測位データから計測誤差が大きい測位データを検出できるようにすることを目的とする。
【解決手段】連続解グルーピング部110は各時刻のGPS測位データを連続解毎にグループ分けする。前後解抽出部121は各時刻のGPS測位データから連続解の前後解を抽出する。棄却候補抽出部122は前後解のFIX衛星数に基づいて棄却候補の連続解を判定する。棄却候補提示部130は棄却候補の連続解を利用者に提示する。棄却候補棄却部140は利用者に指定された棄却連続解を棄却する。棄却連続解補完部150は棄却連続解に対応する時間の測位データを補完する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS(Global Positioning System)などの測位衛星システムで得られた測位データ(測位結果)から計測誤差が大きい測位データを検出する測位データ評価装置、測位データ評価方法および測位データ評価プログラムに関するものである。以降の説明はGPSを対象にしているが、他の測位衛星システムへの適用は容易である。
【背景技術】
【0002】
従来、GPSデータ(観測情報)を時系列に解析して測位データ(測位結果)を得る際に、その計測誤差が大きい可能性があると判断した場合、判断した時点で推定器の動作を修正して、解を棄却することなく解析を継続していた。これは、時系列解析において、計測誤差の大きい解を検出するための判定指標が十分でなく、正しい解を棄却する可能性があるからである。
しかし、この方法では、計測誤差の大きい解が計測結果の中に残る可能性がある。
【0003】
計測誤差の大きい解を棄却するには、解析の後、座標が近い近傍解同士の高度を比較して誤った解を判定し、棄却する方法もあるが、これも確実性に欠けるため十分な方法ではない。
例えば、隣接車線で計測した近傍解の高度差に基づいて誤った解を判定する場合、高度差の閾値の設定が困難である場合が多い。
GPSデータの解析でミスFIX(搬送波位相観測量のアンビギュイティ推定の誤り)が発生したと思われる区間であっても、近傍解の高度差は20〜30cm程度である。また、この高度差には計測誤差ではない実際の高度差が含まれるため、高度差だけで誤った解を判定して棄却することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−53059号公報
【特許文献2】特開2008−39691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、例えば、GPSで得られた測位データ(測位結果)から計測誤差が大きい測位データを検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の測位データ評価装置は、
複数の測位衛星それぞれから送信される信号の搬送波位相観測量を使用して計測された座標値および観測時刻解と、座標値の計測に使用された搬送波位相観測量に対応する測位衛星の数を示す使用衛星数とを含んだデータを測位データとして複数記憶する測位データ記憶部と、
前記測位データ記憶部に記憶された複数の測位データから、観測時刻が連続して使用衛星数が所定数である測位データの集合を連続データとして複数特定する連続データ特定部と、
前記連続データ特定部により特定された連続データ毎に、連続データに含まれる最初の観測時刻より一つ前の観測時刻を含んだ測位データを直前データとして前記複数の測位データから特定する直前データ特定部と、
前記連続データ特定部により特定された複数の連続データのうち、前記直前データ特定部により特定された直前データの使用衛星数が所定数未満である連続データを座標値の精度が低い低精度データとして特定する低精度データ特定部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、GPSで得られた測位データから計測誤差が大きい測位データ(低精度データ)を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態1における測位装置100の機能構成図。
【図2】実施の形態1における測位装置100のハードウェア資源の一例を示す図。
【図3】実施の形態1における測位装置100の測位データ評価方法を示すフローチャート。
【図4】実施の形態1における計測車両200の構成図。
【図5】実施の形態1におけるGPS測位データ群(FIX衛星数)のグラフ。
【図6】実施の形態1における棄却候補の表示例を示す図。
【図7】実施の形態2における測位装置100の機能構成図。
【図8】実施の形態2における測位装置100の測位データ評価方法を示すフローチャート。
【図9】実施の形態2における棄却候補の表示例を示す図。
【図10】実施の形態3における測位装置100の機能構成図。
【図11】実施の形態3における測位装置100の測位データ評価方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
GPSで得られた測位データから計測誤差が大きい測位データ(後述する棄却候補)を使用衛星数(後述するFIX衛星数)に基づいて検出する形態について説明する。
【0010】
図1は、実施の形態1における測位装置100の機能構成図である。
実施の形態1における測位装置100について、図1に基づいて以下に説明する。
【0011】
測位装置100(測位データ評価装置の一例)は、連続解グルーピング部110、棄却候補特定部120、棄却候補提示部130、棄却候補棄却部140、棄却連続解補完部150および測位データ記憶部190を備える。
【0012】
測位データ記憶部190(測位データ記憶部の一例)は、測位データ(後述するGPS測位データ)を複数記憶する。
測位データは、複数のGPS衛星それぞれから送信される信号の搬送波位相観測量を使用して計測された座標値および観測時刻と、座標値の計測に使用された搬送波位相観測量に対応するGPS衛星の数を示す使用衛星数(後述するFIX衛星数)とを含んだデータである。
【0013】
連続解グルーピング部110(連続データ特定部の一例)は、測位データ記憶部190に記憶された複数の測位データから連続データ(後述する連続解)を複数特定する。
連続データは、観測時刻が連続し、かつ使用衛星数が所定数のまま一定となる測位データの集合である。ここで、観測時刻が連続するとは、搬送波位相観測量を継続して計測し続けていることを意味している。従って、上記座標値計測に使用されている搬送波位相観測量は、連続データ内でアンビギュイティが同一である。
【0014】
棄却候補特定部120は、前後解抽出部121と棄却候補抽出部122とを備える。
【0015】
前後解抽出部121(直前データ特定部、直後データ特定部の一例)は、連続解グルーピング部110により特定された連続データ毎に、連続データに含まれる最初の観測時刻より一つ前の観測時刻を含んだ測位データを直前データ(後述する直前解)として複数の測位データから特定する。
前後解抽出部121は、連続解グルーピング部110により特定された連続データ毎に、連続データに含まれる最後の観測時刻より一つ後の観測時刻を含んだ測位データを直後データ(後述する直後解)として複数の測位データから特定する。
【0016】
棄却候補抽出部122(低精度データ特定部の一例)は、連続解グルーピング部110により特定された複数の連続データから、座標値の精度が低い低精度データ(後述する棄却候補)を特定する。
例えば、低精度データは、前後解抽出部121により特定された直前データの使用衛星数が所定数未満である連続データである。
また、低精度データは、前後解抽出部121により特定された直前データの使用衛星数と前後解抽出部121により特定された直後データの使用衛星数とのそれぞれが所定数未満である連続データである。
【0017】
棄却候補提示部130(低精度データ表示部の一例)は、棄却候補抽出部122により特定された低精度データを表示装置に表示する。
【0018】
棄却候補棄却部140(低精度データ削除部の一例)は、低精度データを削除する。
例えば、棄却候補棄却部140は、利用者が入力装置を用いて指定した低精度データを測位データ記憶部190から削除する。
【0019】
棄却連続解補完部150(測位データ補完部の一例)は、棄却候補棄却部140により削除された低精度データに対応する時間の測位データを補完する。
例えば、棄却連続解補完部150は、慣性航法により測位された座標値を用いて測位データの補完を行う。
【0020】
図2は、実施の形態1における測位装置100のハードウェア資源の一例を示す図である。
図2において、測位装置100は、CPU911(Central・Processing・Unit)(マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータともいう)を備えている。CPU911は、バス912を介してROM913、RAM914、通信ボード915、表示装置901、キーボード902、マウス903、ドライブ装置904、磁気ディスク装置920と接続され、これらのハードウェアデバイスを制御する。ドライブ装置904は、FD(Flexible・Disk・Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital・Versatile・Disc)などの記憶媒体を読み書きする装置である。
【0021】
通信ボード915は、有線または無線で、LAN(Local Area Network)、インターネット、電話回線などの通信網に接続している。
【0022】
磁気ディスク装置920には、OS921(オペレーティングシステム)、ウィンドウシステム922、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。
【0023】
プログラム群923には、実施の形態において「〜部」として説明する機能を実行するプログラムが含まれる。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。すなわち、プログラムは、「〜部」としてコンピュータを機能させるものであり、また「〜部」の手順や方法をコンピュータに実行させるものである。
【0024】
ファイル群924には、実施の形態において説明する「〜部」で使用される各種データ(入力、出力、判定結果、計算結果、処理結果など)が含まれる。
【0025】
実施の形態において構成図およびフローチャートに含まれている矢印は主としてデータや信号の入出力を示す。
【0026】
実施の形態において「〜部」として説明するものは「〜回路」、「〜装置」、「〜機器」であってもよく、また「〜ステップ」、「〜手順」、「〜処理」であってもよい。すなわち、「〜部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、ハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで実装されても構わない。
【0027】
図3は、実施の形態1における測位装置100の測位データ評価方法を示すフローチャートである。
実施の形態1における測位装置100の測位データ評価方法について、図3に基づいて以下に説明する。
【0028】
まず、測位データ評価方法の概要について説明する。
【0029】
連続解グルーピング部110は各時刻のGPS測位データを連続解毎にグループ分けする(S110)。連続解とは、観測時刻が連続し、かつ使用衛星数が所定数となる測位データの集合である。
前後解抽出部121は各時刻のGPS測位データから連続解の前後解を抽出する(S120)。
棄却候補抽出部122は前後解のFIX衛星数に基づいて棄却候補の連続解を特定する(S130)。
棄却候補提示部130は棄却候補の連続解を利用者に提示する(S140)。
棄却候補棄却部140は利用者に指定された棄却連続解を棄却する(S150)。
棄却連続解補完部150は棄却連続解に対応する時間の測位データを補完する(S160)。
【0030】
測位データ評価方法の詳細を説明する前に、測位データ記憶部190に記憶されるGPS測位データについて説明する。
【0031】
図4は、実施の形態1における計測車両200の構成図である。
例えば、GPS測位データは、図4に示すような計測車両200によって取得される。
【0032】
計測車両200には天板201が設置され、天板201には3台のGPS受信機210a〜cと慣性装置220とが設置されている。
計測車両200は車速検出装置230と自己位置標定装置290とを備える。
【0033】
GPS受信機210a〜cは、GPS衛星から発信される搬送波(測位信号)を受信し、受信結果からGPS衛星との疑似距離、搬送波位相、GPS受信機210a〜cの座標値、航法メッセージなどの観測情報を取得する。
この内の2台は、計測車両200の姿勢を計測することを目的に設置されている。
残りの1台を含む隣接受信機間の各2ベクトルを計測すると、GPS受信機間の相対位置が一定なため、このベクトルの長さが一定値になり、推定誤りの判定が比較的容易である。
【0034】
慣性装置220(IMU:Inertial Measurement Unit)は、ジャイロセンサと加速度センサとを備える。
ジャイロセンサは計測車両200の3軸方向xyzの角速度を計測し、加速度センサは計測車両200の3軸方向xyzの加速度を計測する。
【0035】
車速検出装置230(ODO:ODOmetry)は、計測車両200の速度を計測する。
【0036】
自己位置標定装置290は、GPS受信機210cが取得した観測情報に基づいて座標値が既知な基準点受信機との相対位置を搬送波位相観測量を用いて計測するGPS測位を行い、各時刻における計測車両200の座標値を算出する。
このとき、GPS受信機210cが所定数以上(例えば、4機または5機以上)のGPS衛星から搬送波位相観測量を計測している必要がある。また、搬送波位相観測量はアンビギュイティが推定される必要がある。搬送波位相観測量のアンビギュイティとは、GPS衛星からGPS受信機までの距離に含まれる搬送波波長の数のうち整数分をいう。
以下、アンビギュイティを推定された搬送波位相観測量に対応するGPS衛星を「FIX衛星」という。
【0037】
自己位置標定装置290は、所定数以上のFIX衛星が存在しなかったとき、慣性装置220が計測した角速度・加速度をストラップダウン演算(慣性航法)して計測車両200の座標値を算出する。
【0038】
自己位置標定装置290は、計測車両200の走行と同時にリアルタイムに座標値を算出しても、計測車両200の走行終了後に後処理として座標値を算出してもよい。
自己位置標定装置290は、計測車両200に備わる装置でなくても構わない。
【0039】
以下、測位装置100(図1参照)の測位データ記憶部190には、計測車両200を走行して得られたデータが記憶されているものとする。
例えば、測位データ記憶部190には、GPS測位により算出された座標値(以下、GPS測位データという)や慣性航法により算出された座標値(以下、IMU測位データという)が時刻に対応付けて記憶されている。
また、測位データ記憶部190には、GPS受信機210a〜cが取得した観測情報(以下、GPS観測データという)、慣性装置220が計測した角速度・加速度(以下、IMUデータという)、車速検出装置230が計測した車速が時刻に対応付けて記憶されている。
【0040】
以下に、測位データ評価方法の詳細(S110〜S160)について説明する。
【0041】
S110において、連続解グルーピング部110は、GPS測位データ群を観測時刻とFIX衛星数とに基づいてグループ分けする。
【0042】
まず、連続解グルーピング部110は、GPS測位データ群を観測時刻でソートして時系列に並べる。
次に、連続解グルーピング部110は、FIX衛星数が所定数となる時間帯の複数の連続するGPS測位データを一つのグループとして設定する。
つまり、観測時刻が連続してFIX衛星数が所定数となる複数のGPS測位データが一つのグループを構成する。
例えば、所定数とは、GPS観測データに基づいて測位するために最低限必要なFIX衛星の数(後述する最小衛星数)である。
【0043】
以下、各グループを「連続解」という。
【0044】
S110の後、処理はS120に進む。
【0045】
S120において、前後解抽出部121は、連続解の一つ前の観測時刻を示すGPS測位データ(以下、直前解という)と連続解の一つ後の観測時刻を示すGPS測位データ(以下、直後解という)とをS110でソートされたGPS測位データ群から抽出する。
前後解抽出部121は、連続解毎に直前解と直後解とを抽出するものとする。
S120の後、処理はS130に進む。
【0046】
S130において、棄却候補抽出部122は、直前解のFIX衛星数と直後解のFIX衛星数との両方(以下、前後解衛星数という)が所定の最小衛星数以上であるか否かを連続解毎に判定する。
最小衛星数とは、GPS観測データ(疑似距離、搬送波位相など)に基づいて測位するために最低限必要なFIX衛星の数である。最小衛星数は、例えば4または5機であり、システムの測位処理の方法によって異なる。
【0047】
棄却候補抽出部122は、前後解衛星数が最小衛星数未満である連続解を棄却候補の連続解(座標値の精度が低い可能性が高い連続解)として特定する。
【0048】
但し、棄却候補抽出部122は、直前解のFIX衛星数だけを最小衛星数と比較して棄却候補の連続解を特定しても構わない。
また、棄却候補抽出部122は、直後解のFIX衛星数だけを最小衛星数と比較して棄却候補の連続解を特定しても構わない。
【0049】
図5は、実施の形態1におけるGPS測位データ群のFIX衛星数を示すグラフである。
図5において、横軸は計測車両200(図4参照)によってGPS観測を始めてからの経過時間(秒)を示し、縦軸はFIX衛星数「×」または共通衛星数「○」を示す。
共通衛星数とは、計測車両200のGPS受信機210cと、相対位置計測対象となる前記基準点受信機との両方で受信できた搬送波位相観測量に対応するGPS衛星(共通衛星)の数である。
FIX衛星数とは、アンビギュイティを推定できた搬送波位相観測量に対応する共通衛星の数である。但し、FIX衛星数が最小衛星数未満の場合、FIX衛星数を「0」にしている。
【0050】
図中のBは、時間が連続しており、かつFIX衛星数がここでの最小衛星数である5と同じなので、連続解である(S110)。
連続解Bの直前解Xと直後解Yとは共にFIX衛星数が「0」(FIX衛星数<最小衛星数)である(S120)。
このため、連続解Bは棄却候補の連続解である(S130)。
【0051】
図3に戻り、測位データ評価方法の説明を続ける。
【0052】
S130の後、処理はS140に進む。
【0053】
S140において、棄却候補提示部130は、S130で特定された棄却候補の連続解を利用者に提示する。
例えば、棄却候補提示部130は、棄却候補の連続解の観測時刻、FIX衛星数および座標値を時系列に並べる方法や、水平図として示す方法で表示装置に表示する。また、棄却候補提示部130は、印刷やファイル出力により棄却候補の連続解を利用者に提示しても構わない。
【0054】
図6は、実施の形態1における棄却候補の表示例を示す水平図である。
図6において、「○」は棄却候補以外のGPS測位データの座標値(緯度、経度)をプロットしたものであり、「×」は棄却候補のGPS測位データの座標値(緯度、経度)をプロットしたものである。
「○」と「×」とで表される線は、計測車両200(図4参照)で走行した経路を表す。
【0055】
図6に示すように、棄却候補提示部130は、棄却候補と棄却候補以外との表記(形、色、点滅など)を変えて各GPS測位データの座標値をプロットしてもよい(図3のS140)。
さらに、棄却候補提示部130は、プロットをマウスカーソルなどで指定されたときに、指定されたプロットの座標値(緯度、経度、高度)を表示してもよい。
【0056】
図3に戻り、測位データ評価方法の説明を続ける。
【0057】
S140の後、処理はS150に進む。
【0058】
S150において、利用者は、S140で提示された棄却候補の連続解を参照し、棄却する連続解を判断し、棄却する連続解を入力装置(キーボード、マウスなど)から測位装置100に指定する。
以下、指定された連続解を「棄却連続解」という。
【0059】
棄却候補棄却部140は、棄却連続解の指定を入力し、指定された棄却連続解を棄却(データの削除や無効フラグの設定など)する。
S150の後、処理はS160に進む。
【0060】
S160において、棄却連続解補完部150は、棄却連続解を補うために棄却連続解の観測時間帯の測位データをGPS測位データに補完する。
また、棄却連続解補完部150は、FIX衛星数が最低衛星数未満であるためGPS測位できなかった観測時刻のGPS測位データ(例えば、棄却候補の前後解)(以下、非測位解という)を補うために測位データを補完する。
【0061】
例えば、棄却連続解補完部150は、測位データ記憶部190に記憶された慣性測位データ群から棄却連続解と同じ時間帯および解がない時間帯の慣性測位データを抽出し、抽出した慣性測位データを補完する。
また例えば、利用者は、棄却連続解と同じ時間帯(および解が無い時間帯)の観測地域を計測車両200(図4参照)で再走行してGPS観測データを再取得する。計測車両200の自己位置標定装置290は、再取得されたGPS観測データに基づいてGPS測位データを新たに生成する。棄却連続解補完部150は、新たに生成されたGPS測位データを補完する。
S160の後、測位データ評価方法は終了する。
【0062】
上記S150において、棄却候補棄却部140は、利用者に指定された棄却候補の連続解ではなく、棄却候補抽出部122によって判定された棄却候補の連続解の全て(または一部)を棄却連続解として棄却しても構わない。
この場合、測位装置100は棄却候補提示部130を備えなくてよい。
【0063】
上記S130において、前後解のFIX衛星数に基づいて棄却候補の連続解を特定した理由は以下の通りである。
【0064】
直前解のFIX衛星数が最小衛星数より少ない場合、すなわち適切な測位データが計測できない場合に、連続解は不安定なGPS観測環境で観測された解であると想定できる。安定していれば、直前の時刻にも測位データがあるはずだからである。さらに、連続解のFIX衛星数は最小衛星数なので、連続解の信頼性を判断するだけの観測冗長性が無い。
【0065】
つまり、不安定な環境で観測冗長性の無い連続解は、他条件の解よりも信頼性が低く、誤差が発生している可能性が高いといえる。
【0066】
さらに、FIX衛星数が最低限度のままで維持されていることは、不合理な場合が多い。
不安定な観測環境においては、図5のように、観測衛星数(共通衛星数)が増加または減少する可能性が高い。それにもかかわらず、アンビギュイティが推定できたFIX衛星数が変化しないのは、これに対応する推定解が間違っているために、続いて可視となった衛星の観測量と矛盾が発生し、そのアンビギュイティが推定できない状態にあるからだと考えられる。
また、実際の観測衛星数が最低限度のままで維持されていた場合でも、このような劣悪な環境での推定解は間違っている可能性があることを考慮すべきである。
【0067】
実施の形態1において、例えば、以下のような測位データ評価方法について説明した。
【0068】
位置計測解の各エポックに対して、位置計測に使用した衛星数の遷移状態を用いて、アンビギュイティ推定が間違っている可能性がある解を検出する。
【0069】
時系列解析中の情報を用いた誤り判定の評価指標は、それだけでは確実な判定ができない場合が多い。
しかし、時系列の解析を終了して全域の解が出た時点で計測可能な別の評価指標を組み合わせることで、信頼性が改善されて位置計測誤差が大きい解を棄却することが可能となる。
【0070】
例えば、「(1)FIX時の衛星数5」「(2)連続したFIX区間で衛星数が不変」であることを条件にミスFIX解であるか否かの判定を行う。
ミスFIX解であると判定された場合は、ミスFIX区間の計測データを棄却することができる。
【0071】
個々の評価指標の信頼性は低い場合でも、ミスFIX解を検出可能な評価指標を解析結果のつき合わせなどの評価指標と組み合わせることで、誤り検出の信頼性を改善することが可能となる。
【0072】
また、ミスFIX区間を絞り込むことができる。
例えば、「(1)ミスFIX区間のみについてデータの再取得」「(2)ミスFIX区間のみについてデータ修正」を行うことが容易になる。
【0073】
実施の形態2.
棄却候補の連続解と共に、棄却候補の連続解と同じ観測地域の解集合を棄却連続解の判断材料として利用者に提示する形態について説明する。
【0074】
図7は、実施の形態2における測位装置100の機能構成図である。
測位装置100は、実施の形態1で説明した構成(図1参照)に加えて、近傍解集合抽出部160を備える。
【0075】
近傍解集合抽出部160(近傍データ特定部の一例)は、低精度データ(棄却候補)との距離が所定距離以内である測位データの集合を近傍データ(後述する近傍解集合)として特定する。近傍データは低精度データの比較対象なので、低精度データを含まないように選択する。また、低精度データ(棄却候補)との距離が所定距離以内である範囲において、観測時刻が連続している事が望ましいが、所定数(例えば1秒)以下の不連続性を許容してもよいとする。
【0076】
棄却候補提示部130(低精度データ表示部の一例)は、低精度データと近傍データとを表示する。
【0077】
図8は、実施の形態2における測位装置100の測位データ評価方法を示すフローチャートである。
測位装置100は、実施の形態1で説明したS110〜S160(図3参照)に加えて、S170を実行する。
以下、S170について説明する。
【0078】
S170はS130の後に実行される。
【0079】
S170において、近傍解集合抽出部160は、GPS測位データ群から低精度データを除いて、観測時刻が所定時間(例えば、1秒)以内で連続する複数のGPS測位データを解集合として特定する。
近傍解集合抽出部160は、棄却候補の連続解を代表する座標値を決定し、解集合毎に解集合を代表する座標値を決定する。
以下、棄却候補の連続解または解集合を代表する座標値を棄却候補の連続解の座標値または解集合の座標値という。棄却候補の連続解の座標値は棄却候補の連続解の位置を表し、解集合の座標値は解集合の位置を表す。
【0080】
例えば、近傍解集合抽出部160は、棄却候補の連続解または解集合に含まれる複数の座標値のうちいずれかの座標値を棄却候補の連続解の座標値または解集合の座標値として選択する。
また例えば、近傍解集合抽出部160は、棄却候補の連続解または解集合に含まれる複数の座標値の中心(平均値)を棄却候補の連続解の座標値または解集合の座標値として算出する。
【0081】
近傍解集合抽出部160は、棄却候補の連続解の座標値および各解集合の座標値に基づいて、棄却候補の連続解との距離を解集合毎に算出する。
但し、近傍解集合抽出部160は、座標値の緯度と経度とに基づく平面内での距離を算出する。つまり、近傍解集合抽出部160は、高度を考慮せずに距離を算出する。
【0082】
近傍解集合抽出部160は、棄却候補の連続解との距離を所定の距離閾値(例えば、10メートル)と大小比較し、棄却候補の連続解との距離が距離閾値以下である解集合を特定する。
以下、特定した解集合を「近傍解集合」という。
【0083】
近傍解集合抽出部160は、近傍解集合を棄却候補の連続解毎に特定する。
近傍解集合抽出部160は、棄却候補の連続解に含まれる座標値毎に近傍解集合を特定しても構わない。
【0084】
S170の後、処理はS140に進む。
【0085】
S140において、棄却候補提示部130は、S130で特定された棄却候補の連続解と共にS170で特定された近傍解集合を利用者に提示する。
【0086】
棄却候補の連続解と共に近傍解集合を提示することにより、棄却連続解の判断が容易になる。
【0087】
棄却候補の連続解と近傍解集合とは、距離が近いため、同じ道路で観測されたと考えられる。
例えば、計測車両200(図4参照)が同じ道路を往復してGPS観測情報を取得した場合、棄却候補の連続解は往路(または復路)で取得したGPS観測情報に基づいたGPS測位データの集合であり、近傍解集合は復路(または往路)で取得したGPS観測情報に基づいたGPS測位データの集合である。
【0088】
そこで、利用者は、棄却候補の連続解の高度と近傍解集合の高度との高度差が所定値(例えば、25センチメートル)以上である場合、当該棄却候補の連続解を棄却連続解と判断する。同じ道路であれば高度差は少ないはずだからである。
【0089】
棄却候補提示部130は、棄却候補の連続解の高度と近傍解集合の高度との高度差を算出し、棄却候補の連続解と近傍解集合とに加えて高度差を提示してもよい。
また、棄却候補提示部130は近傍解集合の代わりに高度差を提示しても構わない。
【0090】
図9は、実施の形態2における棄却候補の表示例を示す水平図である。
図9において、「○」は近傍解集合に含まれる複数の座標値(緯度、経度)をプロットしたものであり、「×」は棄却候補に含まれる複数の座標値(緯度、経度)をプロットしたものである。
【0091】
計測車両200(図4参照)は複数車線を有する道路を3回走行したものとする。計測車両200は1、2回目に第1車線を走行し、3回目に第2車線を走行した。
そして、3回目の走行中にFIX衛星数が最小衛星数未満になることがあったため、3回目に走行したときの一部の連続解が棄却候補の連続解として提示された。
【0092】
1回目の近傍解集合の高度「111.71メートル」と2回目の近傍解集合の高度「111.73メートル」とに対する3回目の棄却候補の高度「111.44メートル」の高度差は所定値(例えば、0.25メートル)以上である。
したがって、利用者は3回目の棄却候補を棄却連続解と判断する。
【0093】
近傍解集合抽出部160が特定する近傍解集合は、一つの棄却候補に対して一つのみ(例えば、1回目の近傍解集合を選択)であっても、複数(例えば、1、2回目の近傍解集合)であっても構わない。
近傍解集合抽出部160は、棄却候補の前後の解集合(例えば、3回目の近傍解集合)を近傍解集合として特定してもよい。また、近傍解集合抽出部160は、棄却候補の前後の解集合を近傍解集合から除いても構わない。
【0094】
実施の形態2において、例えば、以下のような測位データ評価方法について説明した。
【0095】
推定誤りの可能性がある解に対して、ほぼ同じ高度と予想される近傍の解と高度を比較することによって、位置計測誤差が大きいと予想される解を抽出する。
これらの解を棄却することによって、位置計測解の信頼性が改善する。
【0096】
実施の形態3.
前後解衛星数と、近傍解集合との高度差とに基づいて棄却連続解を特定する形態について説明する。
【0097】
図10は、実施の形態3における測位装置100の機能構成図である。
測位装置100の棄却候補特定部120は近傍解集合抽出部123を備える。測位装置100の他の構成は実施の形態1(図1参照)と同じである。
【0098】
近傍解集合抽出部123(近傍データ特定部の一例)は、低精度データの候補(棄却候補の連続解)との距離が所定距離以内である測位データの集合を近傍データ(近傍解集合)として特定する。
【0099】
棄却候補抽出部122(低精度データ特定部の一例)は、複数の連続データ(連続解)のうち直前データの使用衛星数が所定数未満である連続データを低精度データの候補(棄却候補の連続解)として特定する。
棄却候補抽出部122は、低精度データの候補と近傍データとの高度差が所定差以上である場合、低精度データの候補を低精度データ(利用者に提示する棄却候補の連続解)として特定する。
【0100】
図11は、実施の形態3における測位装置100の測位データ評価方法を示すフローチャートである。
測位装置100は、実施の形態1で説明したS110〜S160(図3参照)に加えて、S180とS190とを実行する。
以下、S180とS190とについて説明する。
【0101】
S180はS130の後に実行される。
【0102】
S180において、近傍解集合抽出部123は、棄却候補の連続解および解集合毎に座標値を決定し、決定した座標値に基づいて棄却候補の連続解と各解集合との距離を算出し、棄却候補の連続解との距離が距離閾値以下である解集合を近傍解集合として特定する。近傍解集合の特定方法は実施の形態2のS170(図8参照)と同じである。
S180の後、処理はS190に進む。
【0103】
S190において、棄却候補抽出部122は、棄却候補の連続解毎に棄却候補の高度と近傍解集合の高度との高度差を算出し、算出した高度差が所定の高度閾値(例えば、25センチメートル)未満である棄却候補を棄却候補から除く。
つまり、棄却候補抽出部122は、S130で特定した棄却候補の連続解のうち近傍解集合との高度差が高度閾値以上であるものを棄却候補として抽出する。
S190の後、処理はS140に進み、棄却候補が利用者に提示される。
【0104】
実施の形態3において、例えば、以下のような測位データ評価方法について説明した。
【0105】
推定誤りの可能性がある解に対して、ほぼ同じ高度と予想される近傍の解と高度を比較することによって、位置計測誤差が大きいと予想される解を抽出する。
これらの解を棄却することによって、位置計測解の信頼性が改善する。
【符号の説明】
【0106】
100 測位装置、110 連続解グルーピング部、120 棄却候補特定部、121 前後解抽出部、122 棄却候補抽出部、123 近傍解集合抽出部、130 棄却候補提示部、140 棄却候補棄却部、150 棄却連続解補完部、160 近傍解集合抽出部、190 測位データ記憶部、200 計測車両、201 天板、210a,210b,210c GPS受信機、220 慣性装置、230 車速検出装置、290 自己位置標定装置、901 表示装置、902 キーボード、903 マウス、904 ドライブ装置、911 CPU、912 バス、913 ROM、914 RAM、915 通信ボード、920 磁気ディスク装置、921 OS、922 ウィンドウシステム、923 プログラム群、924 ファイル群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測位衛星それぞれから送信される信号の搬送波位相観測量を使用して計測された座標値および観測時刻と、座標値の計測に使用された搬送波位相観測量に対応する測位衛星の数を示す使用衛星数とを含んだデータを測位データとして複数記憶する測位データ記憶部と、
前記測位データ記憶部に記憶された複数の測位データから、観測時刻が連続して使用衛星数が所定数である測位データの集合を連続データとして複数特定する連続データ特定部と、
前記連続データ特定部により特定された連続データ毎に、連続データに含まれる最初の観測時刻より一つ前の観測時刻を含んだ測位データを直前データとして前記複数の測位データから特定する直前データ特定部と、
前記連続データ特定部により特定された複数の連続データのうち、前記直前データ特定部により特定された直前データの使用衛星数が所定数未満である連続データを座標値の精度が低い低精度データとして特定する低精度データ特定部と
を備えたことを特徴とする測位データ評価装置。
【請求項2】
前記測位データ評価装置は、さらに、
前記連続データ特定部により特定された連続データ毎に、連続データに含まれる最後の観測時刻より一つ後の観測時刻を含んだ測位データを直後データとして前記複数の測位データから特定する直後データ特定部を備え、
前記低精度データ特定部は、前記連続データ特定部により特定された複数の連続データのうち、前記直前データ特定部により特定された直前データの使用衛星数と前記直後データ特定部により特定された直後データの使用衛星数とのそれぞれが所定数未満である連続データを前記低精度データとして特定する
ことを特徴とする請求項1記載の測位データ評価装置。
【請求項3】
前記測位データ評価装置は、さらに、
前記低精度データ特定部により特定された低精度データを表示装置に表示する低精度データ表示部と、
利用者が入力装置を用いて指定した低精度データを前記測位データ記憶部から削除する低精度データ削除部と
を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の測位データ評価装置。
【請求項4】
前記測位データ評価装置は、さらに、
前記測位データ記憶部に記憶された複数の測位データから前記低精度データとの距離が所定距離以内である測位データの集合を近傍データとして特定する近傍データ特定部を備え、
前記低精度データ表示部は、前記低精度データと前記近傍データとを表示する
ことを特徴とする請求項3記載の測位データ評価装置。
【請求項5】
前記測位データ評価装置は、さらに、
慣性航法により測位された座標値を時刻毎に記憶する慣性航法記憶部と、
前記慣性航法記憶部に記憶された座標値のうち前記低精度データ削除部により削除された低精度データの観測時刻に対応する座標値を特定し、特定した座標値を測位データとして前記測位データ記憶部に記憶する測位データ補完部と
を備えたことを特徴とする請求項3または請求項4記載の測位データ評価装置。
【請求項6】
前記低精度データ特定部は、前記複数の連続データのうち前記直前データの使用衛星数が所定数未満である連続データを座標値の精度が低い低精度データの候補として特定し、
前記測位データ評価装置は、さらに、
前記測位データ記憶部に記憶された複数の測位データから前記低精度データの候補との距離が所定距離以内である測位データの集合を近傍データとして特定する近傍データ特定部を備え、
前記低精度データ特定部は、前記低精度データの候補と前記近傍データ特定部により特定された近傍データとの高度差が所定差以上である場合、前記低精度データの候補を低精度データとして特定する
ことを特徴とする請求項1記載の測位データ評価装置。
【請求項7】
前記測位データ評価装置は、さらに、
前記低精度データ特定部により特定された低精度データを前記測位データ記憶部から削除する低精度データ削除部と、
慣性航法により測位された座標値を時刻毎に記憶する慣性航法記憶部と、
前記慣性航法記憶部に記憶された座標値のうち前記低精度データ削除部により削除された低精度データの観測時刻に対応する座標値を特定し、特定した座標値を測位データとして前記測位データ記憶部に記憶する測位データ補完部と
を備えたことを特徴とする請求項6記載の測位データ評価装置。
【請求項8】
測位データ記憶部が、複数の測位衛星それぞれから送信される信号の搬送波位相観測量を使用して計測された座標値および観測時刻と、座標値の計測に使用された搬送波位相観測量に対応する測位衛星の数を示す使用衛星数とを含んだデータを測位データとして複数記憶し、
連続データ特定部が、前記測位データ記憶部に記憶された複数の測位データから、観測時刻が連続して使用衛星数が所定数である測位データの集合を連続データとして複数特定し、
直前データ特定部が、前記連続データ特定部により特定された連続データ毎に、連続データに含まれる最初の観測時刻より一つ前の観測時刻を含んだ測位データを直前データとして前記複数の測位データから特定し、
低精度データ特定部が、前記連続データ特定部により特定された複数の連続データのうち、前記直前データ特定部により特定された直前データの使用衛星数が所定数未満である連続データを座標値の精度が低い低精度データとして特定する
ことを特徴とする測位データ評価方法。
【請求項9】
請求項8記載の測位データ評価方法をコンピュータに実行させる測位データ評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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