説明

測位方法、プログラム及び測位装置

【課題】2種類の測位処理を適切に切り替えて測位結果の精度向上を図ること。
【解決手段】携帯型電話機1において、第1の測位モードと第2の測位モードとのうち、
現在の時刻(今回)の測位モードで実行したKF測位処理の測位結果の精度に応じて、次
の時刻(次回)以降の測位モードが第1の測位モード又は第2の測位モードに切り替えら
れる。第2の測位モードに切り替えられた場合には、KF測位処理が継続的に行われるこ
ととなり、第1の測位モードに切り替えられた場合には、KF測位処理の継続は中断され
て、一旦LS測位処理が行われた後に、その測位結果を基礎値としたKF測位処理が行わ
れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位方法、プログラム及び測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が
広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利
用されている。GPSでは、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパ
ラメータの値を、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情
報に基づいて求める測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0003】
しかし、測位用衛星からの衛星信号を用いた測位では、いわゆるマルチパスによる影響
等、種々の誤差要因が存在しており、測位誤差の発生を回避することが困難であるため、
測位誤差を低減させるための様々な技術が考案されている。その一例として、特許文献1
には、カルマンフィルタを用いた測位処理に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−337156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測位処理としては、一般に、最小二乗法を用いた測位処理と、特許文献1に開示されて
いるようなカルマンフィルタを用いた測位処理とが広く知られている。しかし、この2種
類の測位処理を併用することはなく、何れか一方の処理のみを用いる場合が一般的であっ
た。そこで、この2種類の測位処理を適切に併用することで測位結果の精度向上を図るこ
とが本発明の第1の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための第1の発明は、測位用信号に基づいて最小二乗法を用いた
第1の測位処理を行い、該測位結果を基礎値として前記測位用信号に基づいてカルマンフ
ィルタを用いた第2の測位処理を行う第1の測位モードと、前回行った前記第2の測位処
理の測位結果を基礎値として更に前記第2の測位処理を行う第2の測位モードとのうち、
今回の測位モードで実行した前記第2の測位処理の測位結果の精度を判定することと、前
記精度判定結果に応じて、次回以降の測位モードを前記第1の測位モード又は前記第2の
測位モードに切り替えることと、を含む測位方法である。
【0006】
また、第9の発明として、測位用信号に基づいて最小二乗法を用いた第1の測位処理を
行い、該測位結果を基礎値として前記測位用信号に基づいてカルマンフィルタを用いた第
2の測位処理を行う第1の測位モードと、前回行った前記第2の測位処理の測位結果を基
礎値として更に前記第2の測位処理を行う第2の測位モードとのうち、今回の測位モード
で実行した前記第2の測位処理の測位結果の精度を判定する判定部と、前記判定部による
判定結果に応じて、次回以降の測位モードを前記第1の測位モード又は前記第2の測位モ
ードに切り替えるモード切替部と、を備え、前記モード切替部により切り替えられた測位
モードに従って測位処理を実行する測位装置を構成してもよい。
【0007】
この第1の発明等によれば、第1の測位モードは、測位用信号に基づいて最小二乗法を
用いた第1の測位処理を行い、該測位結果を基礎値として測位用信号に基づいてカルマン
フィルタを用いた第2の測位処理を行うモードである。すなわち、第1の測位モードを実
行した場合には、先ず最小二乗法を用いた第1の測位処理が行われ、その後にカルマンフ
ィルタを用いた第2の測位処理が行われる。
【0008】
一方、第2の測位モードは、前回行った第2の測位処理の測位結果を基礎値として更に
第2の測位処理を行うモードである。第1の測位モードと第2の測位モードとは、何れの
モードにおいてもカルマンフィルタを用いた第2の測位処理を行う。従い、第2の測位モ
ードは、前回の測位モードが第1の測位モードであれ、第2の測位モードであれ、何れの
場合においてもカルマンフィルタを用いた第2の測位処理を継続的に行うモードであると
言える。
【0009】
今回の測位モードで実行した第2の測位処理の測位結果の精度が判定され、当該精度判
定結果に応じて、次回以降の測位モードが第1の測位モード又は第2の測位モードに切り
替えられる。第2の測位モードに切り替えられた場合には、カルマンフィルタを用いた第
2の測位処理が継続的に行われることとなり、第1の測位モードに切り替えられた場合に
は、カルマンフィルタを用いた第2の測位処理の継続は中断される。すなわち、最小二乗
法を用いた第1の測位処理が行われた後に、その測位結果を基礎値としてカルマンフィル
タを用いた第2の測位処理が行われる。
【0010】
よって、カルマンフィルタを用いた第2の測位処理の測位結果の精度に応じて、当該第
2の測位処理を継続するか、一旦最小二乗法を用いた第1の測位処理を行うのかを適切に
切り替えることが可能となり、ひいては、測位結果の精度を向上させることが可能となる

【0011】
また、第2の発明として、第1の発明の測位方法であって、前記切り替えることは、今
回の測位モードが前記第1の測位モードであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精度良
好条件を満たす結果であった場合に、次回以降の測位モードを前記第2の測位モードに切
り替えることを含む測位方法を構成してもよい。
【0012】
この第2の発明によれば、今回の測位モードが第1の測位モードである場合に、第2の
測位処理の測位結果の精度が良好であると判定された場合は、次回以降の測位モードを第
2の測位モードに切り替える。
【0013】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明の測位方法であって、直前に行った前記
第2の測位処理からの経過時間が所定の時間超過条件を満たしたか否かを判定することと
、今回の測位モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記所定の時間超過条件を満
たしたと判定された場合に、次回以降の測位モードを前記第1の測位モードに切り替える
ことと、を含む測位方法を構成してもよい。
【0014】
この第3の発明によれば、今回の測位モードが第2の測位モードである場合に、直前に
行われた第2の測位処理から長時間が経過したと判定された場合は、次回以降の測位モー
ドを第1の測位モードに切り替える。
【0015】
また、第4の発明として、第1〜第3の何れかの発明の測位方法であって、今回の測位
モードが前記第1の測位モードである場合、前記精度判定結果が所定の精度良好条件を満
たす結果であれば、当該第1の測位モードにおける前記第2の測位処理で求められた測位
位置を現在位置の候補位置とし、満たさない結果であれば、当該第1の測位モードにおけ
る前記第1の測位処理で求められた測位位置を現在位置の候補位置とすることと、前記現
在位置の候補位置を用いて出力位置を決定して出力することと、を含む測位方法を構成し
てもよい。
【0016】
この第4の発明によれば、今回の測位モードが第1の測位モードであり、第2の測位処
理の測位結果の精度が良好であると判定された場合は、当該第2の測位処理で求められた
測位位置が現在位置の候補位置とされる。また、第2の測位処理の測位結果の精度が良好
ではないと判定された場合は、第1の測位処理で求められた測位位置が現在位置の候補位
置とされる。このようにして決定した現在位置の候補位置を用いて出力位置を決定するこ
とで、信頼性の高い出力位置を提供することが可能となる。
【0017】
また、第5の発明として、第1〜第4の何れかの発明の測位方法であって、今回の測位
モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精度良好条件を
満たす結果である場合に、当該第2の測位モードにおける前記第2の測位処理で求められ
た測位位置を現在位置の候補位置とすることと、今回の測位モードが前記第2の測位モー
ドであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精度良好条件を満たさない結果である場合に
、前記第1の測位処理を実行し、該第1の測位処理で求められた測位位置を現在位置の候
補位置とすることと、前記現在位置の候補位置を用いて出力位置を決定して出力すること
と、を含む測位方法を構成してもよい。
【0018】
この第5の発明によれば、今回の測位モードが第2の測位モードであり、第2の測位処
理の測位結果の精度が良好であると判定された場合は、当該第2の測位処理で求められた
測位位置が現在位置の候補位置とされる。また、第2の測位処理の測位結果の精度が良好
ではないと判定された場合は、第1の測位処理が実行されて、求められた測位位置が現在
位置の候補位置とされる。このようにして決定した現在位置の候補位置を用いて出力位置
を決定することで、信頼性の高い測位位置を提供することが可能となる。
【0019】
また、第6の発明として、第1〜第4の何れかの発明の測位方法であって、今回の測位
モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精度良好条件を
満たす結果である場合に、当該第2の測位モードにおける前記第2の測位処理で求められ
た測位位置を現在位置の候補位置とすることと、今回の測位モードが前記第2の測位モー
ドであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精度良好条件を満たさない結果である場合に
、当該第2の測位モードにおける前記第2の測位処理で使用された測位用信号のうち、所
定の低精度要因条件を満たす測位用信号を除いた残余の測位用信号を用いて前記第1の測
位処理を実行し、該第1の測位処理で求められた測位位置を現在位置の候補位置とするこ
とと、前記現在位置の候補位置を用いて出力位置を決定して出力することと、を含む測位
方法を構成してもよい。
【0020】
この第6の発明によれば、今回の測位モードが第2の測位モードであり、第2の測位処
理の測位結果の精度が良好であると判定された場合は、第2の測位処理で求められた測位
位置が現在位置の候補位置とされる。また、第2の測位処理の測位結果の精度が良好では
ないと判定された場合は、当該第2の測位処理で使用された測位用信号のうち、精度を低
下させる要因となった測位用信号が除外されて、残余の測位用信号を用いて第1の測位処
理が実行される。これにより、第2の測位処理の測位結果の精度が良好でない場合であっ
ても、より確からしい現在位置の候補位置を求めることができる。
【0021】
また、第7の発明として、第4〜第6の何れかの発明の測位方法であって、前記現在位
置の候補位置が前記第1の測位処理及び第2の測位処理のうちの何れの測位処理で求めら
れた測位位置であるかに応じて予め定められたフィルター処理を行うことで前記候補位置
を補正して前記出力位置を決定することを含む測位方法を構成してもよい。
【0022】
この第7の発明によれば、現在位置の候補位置の種類に応じたフィルター処理を実行す
ることで、当該候補位置の補正を適切に行うことができ、その結果、より信頼性の高い出
力位置を提供することが可能となる。
【0023】
また、第8の発明として、第1〜第7の何れかの発明の測位方法を、測位装置に内蔵さ
れたコンピュータに実行させるためのプログラムを構成してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。尚、以下では、測
位装置を備えた電子機器として携帯型電話機を例に挙げ、測位システムとしてGPSを用
いた場合について説明するが、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけでは
ない。
【0025】
1.原理
携帯型電話機1は、測位用衛星であるGPS衛星から発信(送出)されている測位用信
号としてのGPS衛星信号を受信し、受信したGPS衛星信号に重畳されているGPS衛
星の軌道情報(エフェメリスデータやアルマナックデータ)等の航法メッセージに基づい
て、GPS衛星の位置、移動方向、速度等の衛星情報を算出する。GPS衛星信号は、C
/A(Coarse and Acquisition)コードと呼ばれるスペクトラム拡散変調された信号であ
り、1.57542[GHz]を搬送波周波数とするL1帯の搬送波に重畳されている。
【0026】
尚、GPS衛星は、6つの周回軌道面それぞれに4機ずつ配置され、原則、地球上のど
こからでも常時4機以上の衛星が幾何学的配置のもとで観測できるように運用されている
。以下では、捕捉したGPS衛星信号を発信したGPS衛星を、他のGPS衛星と区別す
るために「捕捉衛星」と称する。
【0027】
また、携帯型電話機1は、内蔵している水晶時計により特定されるGPS衛星信号の受
信時刻と、当該受信したGPS衛星信号のGPS衛星からの送信時刻との差に基づいて、
捕捉衛星から自機までの電波伝搬時間を計算する。そして、計算した電波伝搬時間に光速
度を乗算することで、捕捉衛星から自機までの距離(疑似距離)を計算する。
【0028】
携帯型電話機1は、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメー
タの値を、複数の捕捉衛星の衛星情報や各捕捉衛星から自機までの距離(擬似距離)等の
情報に基づいて算出する測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0029】
本実施形態では、捕捉したGPS衛星信号に基づいて最小二乗法を用いた第1の測位処
理(以下、「LS測位処理」と称す。)を行い、該測位結果を基礎値として当該GPS衛
星信号に基づいてカルマンフィルタを用いた第2の測位処理(以下「KF測位処理」と称
す。)を行う第1の測位モードと、前回行ったKF測位処理の測位結果を基礎値として更
にKF測位処理を行う第2の測位モードとの2種類の測位モードが予め定められている。
【0030】
そして、携帯型電話機1は、今回の測位モードで実行したKF測位処理の測位結果の精
度を判定し、当該精度判定結果に応じて、次回以降の測位モードを第1の測位モード又は
第2の測位モードに切り替える処理を行う。この測位モードの切り替えに係る処理は、本
実施形態における最も特徴的な処理の1つであるため、詳細に後述する。また、LS測位
処理は周知の処理であるため説明を省略し、ここでは本実施形態におけるKF測位処理に
ついて詳細に説明する。
【0031】
カルマンフィルタは、誤差を含む観測値を利用して、時々刻々と変化する状態量を推定
する確率理論に基づく推定方法である。本実施形態では、携帯型電話機1の状態を状態ベ
クトル「X」で表し、状態ベクトル「X」と真値との誤差の共分散を誤差共分散行列「P
」で表す。
【0032】
状態ベクトル「X」は、携帯型電話機1の3次元の位置ベクトル(x,y,z)、クロ
ックバイアス(b)、3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリフト(d)
を成分とする8次元のベクトルである。また、誤差共分散行列「P」は、状態ベクトル「
X」の各成分の誤差の共分散を示す8×8の行列である。
【0033】
KF測位処理では、状態ベクトル「X」及び誤差共分散行列「P」の予測処理(Predic
tion)及び補正処理(Correction)を行う。以下説明においては、この計算処理上の時間
経過(計算処理上の所定時間間隔)を表す単位を「1時刻」と称し、時刻1つ1つを進め
ながら、各時刻毎に携帯型電話機1の現在位置を測位する。
【0034】
図1は、本実施形態におけるKF測位処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、携帯型電話機1の速度を予測する速度予測処理を行う(ステップA1)。具体的
には、式(1)及び式(2)に従って、現在の状態ベクトル「X」及び誤差共分散行列「
P」の予測値を算出する。
【数1】

【数2】

【0035】
ここで、各式における下付きの添え字「t」は時刻を示しており、上付きの添え字「−
」は予測値、「+」は補正値、「T」は転置行列をそれぞれ示している。また、「φ」は
、状態遷移行列と呼ばれる8×8の行列であり、「Q」は、プロセスノイズと呼ばれる8
×8の行列である。状態遷移行列「φ」及びプロセスノイズ「Q」の行と列の並びは、状
態ベクトル「X」の8次元の成分(x,y,z,b,u,v,w,d)にそれぞれ対応し
ている。
【0036】
本実施形態では、次式(3)で表される状態遷移行列「φ」を用いて計算を行う。
【数3】

但し、「dt」は、前回のKF測位処理時の時刻と現在(今回)の時刻との時刻差であ
る。
【0037】
式(1)からわかるように、速度予測処理では、1時刻前の状態ベクトル「X」の補正
値を現在の状態ベクトル「X」の予測値とする。すなわち、携帯型電話機1の現在の速度
が、1時刻前に求められた速度と同一であると予測する。速度予測処理を行った後、予測
速度を補正する速度補正処理を行う(ステップA3)。
【0038】
図2は、速度補正処理の流れを示すフローチャートである。
速度補正処理では、各捕捉衛星について、ループAの処理を繰り返し実行する(ステッ
プB1〜B19)。ループAでは、先ず当該捕捉衛星の位置、移動方向及び速度の情報(
衛星情報)と、状態ベクトル「X」の予測値から得られる携帯型電話機1の位置、移動方
向及び速度の情報(以下、包括的に「自機情報」と称す。)とに基づいて、携帯型電話機
1から当該捕捉衛星への視線方向を示す視線方向行列「H」を算出する(ステップB3)

【0039】
次いで、当該捕捉衛星からのGPS衛星信号を受信した受信周波数を取得して、受信周
波数に関する実測値(以下、受信したGPS衛星信号に関する実測値のことを「メジャメ
ント実測値」と称す。)とする(ステップB5)。GPS衛星信号の周波数は、1.57
542[GHz]に規定されているが、GPS衛星と携帯型電話機1との相対的な移動方
向・移動速度の変化に応じて携帯型電話機1での受信周波数が変化する。この周波数偏移
がいわゆるドップラー周波数であり、受信周波数はドップラー周波数による偏移後の周波
数である。
【0040】
また、当該捕捉衛星の衛星情報と自機情報とに基づいて、当該GPS衛星信号の受信周
波数を予測して、受信周波数に関する予測値(以下、メジャメント実測値を予測した値の
ことを「メジャメント予測値」と称す。)とする(ステップB7)。そして、受信周波数
に関して、ステップB5で取得したメジャメント実測値と、ステップB7で算出したメジ
ャメント予測値との差を算出して、当該捕捉衛星の観測値「Z」とする(ステップB9)

【0041】
GPS衛星信号の受信周波数の実測値と予測値との差をカルマンフィルタの入力値とす
ることで、状態ベクトル「X」の3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリ
フト(d)の変化量を求めることができる。尚、この場合、状態ベクトル「X」の3次元
の位置ベクトル(x,y,z)及びクロックバイアス(b)の変化量は「0」である。
【0042】
その後、ステップB9で算出した観測値「Z」の測定誤差を示す行列である測定誤差行
列「R」を設定する(ステップB11)。そして、速度予測処理で算出された誤差共分散
行列「P」の予測値と、視線方向行列「H」と、測定誤差行列「R」とを用いて、次式(
4)に従ってカルマンゲイン「K」を算出する(ステップB13)。
【数4】

【0043】
そして、カルマンゲイン「K」と、観測値「Z」と、視線方向行列「H」とを用いて、
次式(5)に従って状態ベクトルの差分「ΔX」を算出する(ステップB15)。
【数5】

【0044】
また、カルマンゲイン「K」と、視線方向行列「H」と、誤差共分散行列「P」の予測
値とを用いて、次式(6)に従って誤差共分散行列「P」を補正する(ステップB17)

【数6】

但し、「I」は単位行列である。
【0045】
ステップB3〜B17の処理を全捕捉衛星について順次行い、状態ベクトルの差分「Δ
X」及び誤差共分散行列「P」を更新していく。そして、次式(7)に従って、速度予測
処理で算出された状態ベクトル「X」の予測値に、状態ベクトルの差分「ΔX」を加算し
て状態ベクトル「X」を補正することで、携帯型電話機1の速度を決定する(ステップB
21)。
【数7】

【0046】
ステップB21で得られた状態ベクトル「X」は、3次元の速度ベクトル(u,v,w
)及びクロックドリフト(d)が、それぞれ予測値から補正されたものとなっている。こ
れは、上述したように、GPS衛星信号の受信周波数に関するメジャメント実測値とメジ
ャメント予測値との差を観測値「Z」として、状態ベクトルの差分「ΔX」を算出したこ
とによるものである。補正後の状態ベクトル「X」の3次元の速度ベクトル(u,v,w
)から算出される速度が、現在の時刻の携帯型電話機1の速度となる。
【0047】
図1のKF測位処理に戻って、速度補正処理を行った後、携帯型電話機1の位置を予測
する位置予測処理を行う(ステップA5)。具体的には、次式(8)に従って、速度補正
処理で得られた状態ベクトル「X」の補正値に状態遷移行列「φ」を乗算することで、状
態ベクトル「X」の予測値を算出する。
【数8】

【0048】
式(3)からわかるように、状態遷移行列「φ」のうち、3次元の速度ベクトル(u,
v,w)に対応する3×3の行列部分の対角成分は、前回の時刻と現在の時刻との時刻差
「dt」となっている。従って、状態ベクトル「X」の補正値に状態遷移行列「φ」を乗
算した場合、その位置成分に着目すると、1時刻前の測位位置に予測移動距離が加算され
ることになり、携帯型電話機1の現在の予測位置が算出される。位置予測処理を行った後
、予測位置を補正する位置補正処理を行う(ステップA7)。
【0049】
図3は、位置補正処理の流れを示すフローチャートである。
位置補正処理の流れは速度補正処理の流れとほぼ同一であるため、異なる部分を中心に
説明する。位置補正処理では、当該捕捉衛星から受信したGPS衛星信号のコード位相を
取得してコード位相に関するメジャメント実測値とし(ステップC5)、当該GPS衛星
信号のコード位相を予測してコード位相に関するメジャメント予測値とする(ステップC
7)。そして、このコード位相に関するメジャメント実測値とメジャメント予測値との差
を算出して、カルマンフィルタの入力値である観測値「Z」とする(ステップC9)。
【0050】
ここで、コード位相とは、GPS衛星信号に変調されているC/Aコードの位相のこと
であり、当該GPS衛星と携帯型電話機1間の距離を示す距離相当値である。観念的には
、GPS衛星と携帯型電話機1との間には、C/Aコードが連続的に並んでいると考える
ことができるが、GPS衛星から携帯型電話機1までの距離がC/Aコードの長さの整数
倍になるとは限らない。この場合、C/Aコードの長さの整数倍に端数部分を加えた長さ
がGPS衛星と携帯型電話機1間の距離になるが、この端数部分に相当する位相がコード
位相である。
【0051】
尚、コード位相は距離に換算して表すことも可能であるため、コード位相に関するメジ
ャメント実測値とメジャメント予測値との差を観測値「Z」として位置補正処理を行うこ
とは、捕捉衛星と携帯型電話機1間の距離(C/Aコードの長さの整数倍に端数部分を加
えた長さ)の実測値と予測値との差を観測値「Z」として位置補正処理を行うことと等価
である。このため、コード位相は、捕捉衛星と携帯型電話機1間の距離に相当する値とい
える。
【0052】
GPS衛星信号のコード位相に関するメジャメント実測値とメジャメント予測値との差
をカルマンフィルタの入力値とすることで、状態ベクトル「X」の3次元の位置ベクトル
(x,y,z)及びクロックバイアス(b)の変化量を求めることができる。尚、この場
合、3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリフト(d)の変化量は「0」
である。
【0053】
ステップC3〜C17の処理を全捕捉衛星について順次行い、状態ベクトルの差分「Δ
X」及び誤差共分散行列「P」を更新していく。そして、式(7)に従って、位置予測処
理で算出された状態ベクトル「X」の予測値に、状態ベクトルの差分「ΔX」を加算して
状態ベクトル「X」を補正することで、携帯型電話機1の測位位置を決定する(ステップ
C21)。
【0054】
ステップC21で得られた状態ベクトル「X」は、3次元の位置ベクトル(x,y,z
)及びクロックバイアス(b)が、それぞれ予測値から補正されたものとなっている。こ
れは、上述したように、GPS衛星信号のコード位相の実測値と予測値との差を観測値「
Z」として、状態ベクトルの差分「ΔX」を算出したことによるものである。補正後の状
態ベクトル「X」の3次元の位置ベクトル(x,y,z)で表される位置が、最終的に求
めた現在の時刻における測位位置となる。
【0055】
2.機能構成
図4は、携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GP
Sアンテナ10と、GPS受信部20と、TCXO(Temperature Compensated Crystal
Oscillator)40と、ホストCPU(Central Processing Unit)50と、操作部60と
、表示部70と、携帯電話用アンテナ80と、携帯電話用無線通信回路部90と、ROM
(Read Only Memory)100と、RAM(Random Access Memory)110とを備えて構成
される。
【0056】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF信号
を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部20に出力する。
【0057】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10から出力された信号に基づいて携帯型電話機
1の現在位置を測位する測位部であり、いわゆるGPS受信機に相当する機能ブロックで
ある。GPS受信部20は、RF(Radio Frequency)受信回路部21と、ベースバンド
処理回路部30とを備えて構成される。尚、RF受信回路部21と、ベースバンド処理回
路部30とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも
、1チップとして製造することも可能である。
【0058】
RF受信回路部21は、高周波信号(RF信号)の回路ブロックであり、TCXO40
により生成された発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生
成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ10から出力されたRF信号に乗
算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)
信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジ
タル信号に変換して、ベースバンド処理回路部30に出力する。
【0059】
ベースバンド処理回路部30は、RF受信回路部21から出力されたIF信号に対して
相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや
時刻情報等を取り出して測位演算を行う回路部である。ベースバンド処理回路部30は、
演算制御部31と、ROM35と、RAM37とを備えて構成される。また、演算制御部
31は、メジャメント取得演算部32と、測位演算部33とを備えて構成される。
【0060】
尚、メジャメント取得演算部32と、測位演算部33とは、それぞれ別のLSIとして
製造することも、1チップとして製造することも可能である。また、本実施形態において
は現在位置の測位演算そのものは測位演算部33で実行することとして説明するが、測位
演算部33で実行する処理の一部又は全部をホストCPU50で実行することとしてもよ
いのは勿論である。
【0061】
メジャメント取得演算部32は、RF受信回路部21から出力された受信信号(IF信
号)から、GPS衛星信号の捕捉・追尾を行う回路部であり、相関演算部321を備えて
構成されている。メジャメント取得演算部32は、捕捉・追尾したGPS衛星信号の受信
周波数やコード位相等の情報を取得し、メジャメント実測値として測位演算部33に出力
する。
【0062】
相関演算部321は、受信信号に含まれるC/Aコードとレプリカコードとの相関を、
例えばFFT演算を用いて算出するコヒーレント処理(相関処理)を行い、このコヒーレ
ント処理の結果である相関値を所定秒数分(例えば「1秒分」)積算して積算相関値を算
出するインコヒーレント処理(相関値積算処理)を行うことで、GPS衛星信号を捕捉す
る。レプリカコードとは、擬似的に発生させた捕捉しようとするGPS衛星信号に含まれ
るPRN(Pseudo Random Noise)コードの一種であるC/Aコードを模擬した信号であ
る。C/Aコードは、1023チップで構成されている。
【0063】
捕捉しようとするGPS衛星信号が間違いなければ、そのGPS衛星信号に含まれるC
/Aコードとレプリカコードとは一致し(捕捉成功)、間違っていれば一致しない(捕捉
失敗)。そのため、算出された積算相関値のピークを判定することによってGPS衛星信
号の捕捉が成功したか否かを判定でき、レプリカコードを次々に変更して、同じ受信信号
との相関演算を行うことで、GPS衛星信号を捕捉することが可能となる。
【0064】
また、相関演算部321は、上述したコヒーレント処理を、レプリカコードの発生信号
の周波数、及び、C/Aコードとレプリカコードとを相関演算する際の位相を変更しつつ
行っている。レプリカコードの発生信号の周波数と受信信号の周波数とが一致し、且つ、
C/Aコードとレプリカコードとの位相が一致した場合に、積算相関値が最大となる。
【0065】
より具体的には、捕捉対象のGPS衛星信号に応じた所定の周波数及びコード位相の範
囲をサーチ範囲として設定する。そして、このサーチ範囲内で、C/Aコードの開始位置
(コード位相)を検出するための位相方向の相関演算と、周波数を検出するための周波数
方向の相関演算とを行う。サーチ範囲は、周波数についてはGPS衛星信号の搬送波周波
数である1.57542[GHz]を中心とする所定の周波数掃引範囲、コード位相につ
いてはC/Aコードのチップ長である1023チップのコード位相範囲内に定められる。
【0066】
測位演算部33は、メジャメント取得演算部32から入力したメジャメント実測値に基
づいて携帯型電話機1の現在位置を測位する測位演算を行う回路部である。特に、本実施
形態では、測位演算部33は、第1の測位モードと第2の測位モードとの2種類の測位モ
ードを相互に切り替えながら、携帯型電話機1の現在位置を測位する。
【0067】
図5は、ROM35に格納されたデータの一例を示す図である。ROM35には、測位
演算部33により読み出され、ベースバンド処理(図9参照)として実行されるベースバ
ンド処理プログラム351が記憶されている。また、ベースバンド処理プログラム351
には、GPS測位処理(図10及び図11参照)として実行されるGPS測位プログラム
3511と、LS測位処理として実行されるLS測位プログラム3513と、KF測位処
理(図1〜図3参照)として実行されるKF測位プログラム3515とがサブルーチンと
して含まれている。
【0068】
ベースバンド処理とは、測位演算部33が、GPS測位処理を行って出力位置を決定し
、当該出力位置をホストCPU50に出力する処理である。ベースバンド処理については
、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0069】
GPS測位処理とは、測位演算部33が、第1の測位モードと第2の測位モードとの2
種類の測位モードを相互に切り替えながら測位処理を行って出力候補位置を決定するとと
もに、フィルター処理の一種であるPVフィルター処理を行って当該出力候補位置を補正
することで、出力位置を決定する処理である。GPS測位処理についても、フローチャー
トを用いて詳細に後述する。
【0070】
LS測位処理とは、測位演算部33が、複数の捕捉衛星について最小二乗法を用いた測
位演算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する処理である。LS測位処理に
ついては公知の処理内容であるため、詳細な説明を省略する。
【0071】
KF測位処理とは、測位演算部33が、複数の捕捉衛星についてカルマンフィルタを用
いた測位演算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する処理である。KF測位
処理については、図1〜図3を参照して説明した通りである。
【0072】
図6は、RAM37に格納されるデータの一例を示す図である。RAM37には、KF
パラメータデータ371と、捕捉衛星別メジャメントデータ373と、測位モード設定デ
ータ375と、計測履歴データ377と、前回KF測位時刻データ379とが記憶される

【0073】
KFパラメータデータ371は、KF測位処理において用いられるカルマンフィルタの
各種パラメータ(以下、「KFパラメータ」と称す。)の値が記憶されたデータであり、
KF測位処理において測位演算部33により更新される。
【0074】
図7は、捕捉衛星別メジャメントデータ373のデータ構成例を示す図である。捕捉衛
星別メジャメントデータ373には、捕捉衛星3731と、メジャメント実測値3733
と、メジャメント予測値3735とが対応付けて記憶される。捕捉衛星3731には、当
該捕捉衛星の番号が記憶され、メジャメント実測値3733及びメジャメント予測値37
35には、当該捕捉衛星から受信したGPS衛星信号の受信周波数やコード位相の実測値
及び予測値がそれぞれ記憶される。
【0075】
例えば、捕捉衛星「S1」についてのメジャメント実測値は、受信周波数が「SFre
q1」、コード位相が「SCP1」であり、メジャメント予測値は、受信周波数が「EF
req1」、コード位相が「ECP1」である。KF測位処理では、測位演算部33は、
メジャメント実測値とメジャメント予測値との差を観測値「Z」として、速度補正処理及
び位置補正処理を行う。
【0076】
測位モード設定データ375は、GPS測位処理において測位演算部33により次の時
刻の測位モードとして設定された測位モードについてのデータであり、第1の測位モード
及び第2の測位モードの何れかが記憶される。
【0077】
図8は、計測履歴データ377のデータ構成例を示す図である。計測履歴データ377
には、各時刻3771毎に、測位モード3772と、推定誤差3773と、速度ベクトル
3774と、LS測位位置3775と、KF測位位置3776と、推測航法演算位置37
77と、出力候補位置3778と、出力位置3779とが対応付けて記憶される。
【0078】
測位モード3772は、当該時刻において設定されていた測位モードである。また、推
定誤差3773は、KF測位位置3776に含まれることが推定される誤差の値であり、
次式(9)に従って算出される。
【数9】

但し、「σ」は推定誤差、「Pxx」、「Pyy」及び「Pzz」は、8×8の誤差共分散行
列「P」のxx成分、yy成分及びzz成分をそれぞれ示している。
【0079】
速度ベクトル3774には、KF測位処理が行われた場合には、速度補正処理で求めら
れた3次元の速度ベクトルが記憶され、KF測位処理が行われなかった場合には、LS測
位処理において捕捉衛星から受信したGPS衛星信号のドップラー周波数の変化に基づい
て計測された3次元の速度ベクトルが記憶される。速度ベクトル3774は、例えば地球
基準座標系における3次元の単位ベクトルで表される。
【0080】
LS測位位置3775は、LS測位処理で求められた測位位置である。KF測位位置3
776は、KF測位処理で求められた測位位置である。また、推測航法演算位置3777
は、1時刻前の出力位置3779と現在の時刻の速度ベクトル3774とを用いた推測航
法演算処理により求められた位置である。
【0081】
出力候補位置3778は、現在位置の候補位置として求められた位置であり、第1の測
位モードではLS測位位置、第2の測位モードではLS測位位置又はKF測位位置とされ
る。また、出力位置3779は、ホストCPU50に出力する位置として求められた位置
であり、PVフィルター処理により出力候補位置3778を補正することで決定される。
LS測位位置3775〜出力位置3779は、例えば地球基準座標系における3次元の位
置座標で表される。
【0082】
例えば、時刻「t1」における測位モードは「第2の測位モード」であり、推定誤差は
「σ1」、速度ベクトルは「(VX1,VY1,VZ1)」である。また、LS測位位置
は「−(無し)」、KF測位位置は「(XK1,YK1,ZK1)」、推測航法演算位置
は「(XE1,YE1,ZE1)」である。そして、出力候補位置はKF測位位置の「(
XK1,YK1,ZK1)」であり、出力位置は「(X1,Y1,Z1)」である。計測
履歴データ377は、GPS測位処理において、原則として1秒毎に測位演算部33によ
り更新される。
【0083】
前回KF測位時刻データ379は、KF測位処理が最後に行われた時刻(以下、「前回
KF測位時刻」と称す。)が記憶されたデータであり、GPS測位処理においてKF測位
処理が行われる毎に測位演算部33により更新される。尚、以下の説明では、前回KF測
位時刻において求められたKF測位位置のことを、「前回KF測位位置」と称する。
【0084】
TCXO40は、所定の発振周波数で発振信号を生成する温度補償型水晶発振器であり
、生成した発振信号をRF受信回路部21及びベースバンド処理回路部30に出力する。
【0085】
ホストCPU50は、ROM100に記憶されているシステムプログラム等の各種プロ
グラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサである。ホストCP
U50は、測位演算部33から入力した出力位置をプロットしたナビゲーション画面を、
表示部70に表示させる。
【0086】
操作部60は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であ
り、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU50に出力する。この操作部60の操
作により、通話要求やメールの送受信要求等の各種指示入力がなされる。
【0087】
表示部70は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU5
0から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部70には、
ナビゲーション画面や時刻情報等が表示される。
【0088】
携帯電話用アンテナ80は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地
局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0089】
携帯電話用無線通信回路部90は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構
成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで
、通話やメールの送受信等を実現する。
【0090】
ROM100は、ホストCPU50が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログ
ラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している

【0091】
RAM110は、ホストCPU50により実行されるシステムプログラム、各種処理プ
ログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形
成している。
【0092】
3.処理の流れ
図9は、測位演算部33によりROM35に記憶されているベースバンド処理プログラ
ム351が読み出されて実行されることで、携帯型電話機1において実行されるベースバ
ンド処理の流れを示すフローチャートである。ベースバンド処理は、RF受信回路部21
によるGPS衛星信号の受信と併せて、測位演算部33が、操作部60に測位開始指示の
操作がなされたことを検出した場合に実行を開始する処理であり、各種アプリケーション
の実行といった各種の処理と並行して行われる処理である。
【0093】
尚、携帯型電話機1の電源のON/OFFとGPSの起動/停止とを連動させ、携帯型
電話機1の電源投入操作を検出した場合に処理の実行を開始させることにしてもよい。原
則として、測位演算は「1秒」毎に行われるものとする。また、特に説明しないが、以下
のベースバンド処理の実行中は、GPSアンテナ10によるRF信号の受信や、RF受信
回路部21によるIF信号へのダウンコンバート、メジャメント取得演算部32によるメ
ジャメント実測値の取得・算出等が随時行われている状態にあるものとする。
【0094】
先ず、測位演算部33は、初期設定を行う(ステップS1)。具体的には、KFパラメ
ータを初期化し、RAM37のKFパラメータデータ371に記憶させる。また、測位モ
ード設定を第1の測位モードとし、RAM37の測位モード設定データ375に記憶させ
る。次いで、測位演算部33は、ROM35に記憶されているGPS測位プログラム35
11を読み出して実行することで、GPS測位処理を行う(ステップS3)。
【0095】
図10及び図11は、GPS測位処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、測位演算部33は、RAM37の測位モード設定データ375を参照し、現在設
定されている測位モードを判定する(ステップT1)。そして、第1の測位モードである
と判定した場合は(ステップT1;第1の測位モード)、ROM35に記憶されているL
S測位プログラム3513を読み出して実行することでLS測位処理を行う(ステップT
3)。
【0096】
具体的には、RAM37の捕捉衛星別メジャメントデータ373を参照し、複数の捕捉
衛星についてのコード位相に関するメジャメント実測値3733に基づいて、最小二乗法
を用いた測位演算を行ってLS測位位置3775を求める。また、受信周波数に関するメ
ジャメント実測値3733に基づいて速度ベクトル3774を求める。そして、求めたL
S測位位置3775及び速度ベクトル3774を、RAM37の計測履歴データ377に
記憶させる。
【0097】
次いで、測位演算部33は、測位に成功したか否かを判定し(ステップT5)、失敗し
たと判定した場合は(ステップT5;No)、出力位置を不定として(ステップT7)、
GPS測位処理を終了する。例えば、捕捉衛星数(メジャメント実測値の数)が測位可能
衛星数に満たなかった場合には、測位失敗となる。測位可能衛星数は、例えば現在位置の
緯度・経度・高度を求める3次元測位では「4個」、緯度・経度を求める2次元測位では
「3個」である。
【0098】
一方、測位に成功したと判定した場合は(ステップT5;Yes)、測位演算部33は
、KFパラメータの初期化直後であるか否かを判定し(ステップT8)、初期化直後では
ないと判定した場合は(ステップT8;No)、KF測位間隔不適条件が成立したか否か
を判定する(ステップT9)。具体的には、RAM37の計測履歴データ377及び前回
KF測位時刻データ379を参照し、(a)前回KF測位時刻から「60秒以上」が経過
している、(b)前回KF測位時刻から「5秒以上」が経過しており、且つ、前回KF測
位位置からの移動距離が「50m以上」である、の何れかの条件が成立した場合に、KF
測位間隔不適条件が成立したものと判定する。
【0099】
初回の測位では、KF測位処理がまだ1回も行われておらず、前回KF測位時刻及び前
回KF測位位置が存在しないため、上記(a)及び(b)の条件を判定することができな
い。そこで、前回のKF測位情報が存在する場合、すなわちKFパラメータの初期化直後
ではない場合に限り(ステップT8;No)、KF測位間隔不適条件の成否を判定するこ
とにしている(ステップT9)。
【0100】
そして、KF測位間隔不適条件が成立したと判定した場合は(ステップT9;Yes)
、測位演算部33は、RAM37のKFパラメータデータ371に記憶されているKFパ
ラメータを初期化した後(ステップT10)、ステップT19へと処理を移行する。また
、KF測位間隔不適条件が成立しなかったと判定した場合は(ステップT9;No)、ス
テップT13へと処理を移行する。
【0101】
一方、ステップT8においてKFパラメータの初期化直後であると判定した場合は(ス
テップT8;Yes)、測位演算部33は、KF初期設定を行う(ステップT11)。具
体的には、ステップT3のLS測位処理で求めたLS測位位置3775及び速度ベクトル
3774を、状態ベクトル「X」の位置成分及び速度成分にそれぞれ設定して基礎値とす
る。また、状態ベクトル「X」の他の成分に所定値を設定するとともに、誤差共分散行列
「P」の各成分に所定値を設定して、RAM37のKFパラメータデータ371に記憶さ
せる。
【0102】
そして、測位演算部33は、ROM35に記憶されているKF測位プログラム3515
を読み出して実行することで、KF測位処理を行う(ステップT13)。そして、求めた
KF測位位置3776及び速度ベクトル3774をRAM37の計測履歴データ377に
記憶させるとともに、現在の時刻を前回KF測位時刻データ379に記憶させる。
【0103】
次いで、測位演算部33は、KF測位結果精度良好条件が成立したか否かを判定する(
ステップT15)。具体的には、RAM37の捕捉衛星別メジャメントデータ373及び
計測履歴データ377を参照し、(1)メジャメント実測値3733の数が「4個以上」
である、(2)現在の時刻の推定誤差3773と1時刻前の推定誤差3773との差が「
10以下」である、(3)第1の測位モードで過去に「2回以上」測位を行っている、の
条件が全て成立した場合に、KF測位結果精度良好条件が成立したものと判定する。
【0104】
そして、KF測位結果精度良好条件が成立しなかったと判定した場合は(ステップT1
5;No)、測位演算部33は、ステップT19へと処理を移行する。また、KF測位結
果精度良好条件が成立したと判定した場合は(ステップT15;Yes)、測位モード設
定を第2の測位モードに切り替えて(ステップT17)、RAM37の測位モード設定デ
ータ375を更新する。
【0105】
次いで、測位演算部33は、RAM37の計測履歴データ377に記憶されている現在
の時刻のLS測位位置3775を出力候補位置3778に決定し(ステップT19)、計
測履歴データ377に記憶させる。そして、推測航法演算処理を行う(ステップT21)
。具体的には、計測履歴データ377に記憶されている1時刻前の出力位置3779に現
在の時刻の速度ベクトル3774を加算することで推測航法演算位置3777を求め、計
測履歴データ377に記憶させる。
【0106】
その後、測位演算部33は、RAM37の計測履歴データ377に記憶されている現在
の時刻の出力候補位置3778を判定し、出力候補位置3778がLS測位位置3775
であると判定した場合は(ステップT23;LS測位位置)、PVフィルター処理の重み
「α」を「0.8」とする(ステップT25)。また、出力候補位置3778がKF測位
位置3776であると判定した場合は(ステップT23;KF測位位置)、KF測位処理
の結果に基づいて算出される推定誤差「σ」の値を判定する(ステップT27)。
【0107】
そして、推定誤差「σ」が「200以上」である場合は(ステップT27;200≦σ
)、測位演算部33は、PVフィルター処理の重み「α」を「0.5」とする(ステップ
T29)。また、推定誤差「σ」が「10以上200未満」である場合は(ステップT2
7;10≦σ<200)、重み「α」を「0.2」とする(ステップT31)。
【0108】
そして、ステップT25、T29及びT31の何れかにおいて重み「α」を設定した後
、測位演算部33は、PVフィルター処理を行って出力候補位置3778を補正して出力
位置3779を決定する(ステップT33)。具体的には、RAM37の計測履歴データ
377に記憶されている現在の時刻の出力候補位置3778及び推測航法演算位置377
7と、設定した重み「α」とを用いて、次式(10)に従って出力位置3779を算出す
る。
【数10】

但し、「p」は出力位置、「pC」は出力候補位置、「pE」は推測航法演算位置である

【0109】
式(10)によれば、重み「α」が大きいほど、推測航法演算位置が重視され、重み「
α」が小さいほど、出力候補位置が重視されることがわかる。従って、出力候補位置がL
S測位位置である場合には、出力候補位置よりも推測航法演算位置を重視し、出力候補位
置がKF測位位置であり、且つ、当該KF測位位置の推定誤差「σ」が比較的小さい場合
には、推測航法演算位置よりも出力候補位置を重視することになる。測位演算部33は、
決定した出力位置3779を計測履歴データ377に記憶させた後、GPS測位処理を終
了する。
【0110】
また、ステップT27において推定誤差「σ」が「10未満」であると判定した場合は
(ステップT27;σ<10)、測位演算部33は、計測履歴データ377に記憶されて
いる現在の時刻の出力候補位置3778を出力位置3779に決定して(ステップT35
)、計測履歴データ377に記憶させる。そして、測位演算部33は、GPS測位処理を
終了する。
【0111】
出力候補位置がKF測位位置であり、且つ、当該KF測位位置の推定誤差「σ」が極め
て小さい場合には、出力候補位置を信頼することにして、PVフィルター処理を行わずに
当該出力候補位置を出力位置に決定することにしている。
【0112】
一方、ステップT1において測位モードが「第2の測位モード」であると判定した場合
は(ステップT1;第2の測位モード)、測位演算部33は、KF測位間隔不適条件が成
立したか否かを判定する(ステップT37)。このKF測位間隔不適条件の判定は、ステ
ップT9における判定と同一である。
【0113】
そして、KF測位間隔不適条件が成立したと判定した場合は(ステップT37;Yes
)、測位演算部33は、RAM37のKFパラメータデータ371に記憶されているKF
パラメータを初期化する(ステップT39)。その後、RAM37の測位モード設定デー
タ375に記憶されている測位モード設定を、第1の測位モードに切り替える(ステップ
T41)。
【0114】
次いで、測位演算部33は、ROM35に記憶されているLS測位プログラム3513
を読み出して実行することで、LS測位処理を行う(ステップT43)。そして、求めた
LS測位位置3775及び速度ベクトル3774を、RAM37の計測履歴データ377
に記憶させる。
【0115】
その後、測位演算部33は、測位に成功したか否かを判定し(ステップT45)、失敗
したと判定した場合は(ステップT45;No)、ステップT7へと処理を移行する。ま
た、測位に成功したと判定した場合は(ステップT45;Yes)、ステップT43のL
S測位処理で求めたLS測位位置3775を出力候補位置3778に決定して(ステップ
T47)、RAM37の計測履歴データ377に記憶させた後、ステップT21へと処理
を移行する。
【0116】
また、ステップT37においてKF測位間隔不適条件が成立しなかったと判定した場合
は(ステップT37;No)、測位演算部33は、ROM35に記憶されているKF測位
プログラム3515を読み出して実行することで、KF測位処理を行う(ステップT49
)。そして、求めたKF測位位置3776及び速度ベクトル3774をRAM37の計測
履歴データ377に記憶させるとともに、現在の時刻を前回KF測位時刻データ379に
記憶させる。
【0117】
ステップT49のKF測位処理では、測位演算部33は、RAM37の計測履歴データ
377に記憶されている前回KF測位位置及び前回KF測位時刻の速度ベクトルを状態ベ
クトル「X」の位置成分及び速度成分の基礎値として測位演算を行う。尚、前回KF測位
位置ではなく、1時刻前の出力位置を基礎値として測位演算を行うこととしてもよいし、
前回KF測位時刻の速度ベクトルではなく、1時刻前の速度ベクトルを基礎値として測位
演算を行うこととしてもよい。
【0118】
次いで、測位演算部33は、KF測位結果精度良好条件が成立したか否かを判定する(
ステップT51)。このKF測位結果精度良好条件の判定は、ステップT15における判
定と同一である。そして、KF測位結果精度良好条件が成立しなかったと判定した場合は
(ステップT51;No)、ステップT43へと処理を移行する。
【0119】
また、KF測位結果精度良好条件が成立したと判定した場合は(ステップT51;Ye
s)、測位演算部33は、ステップT49のKF測位処理で求めたKF測位位置3776
を出力候補位置3778に決定して(ステップT53)、RAM37の計測履歴データ3
77に記憶させた後、ステップT21へと処理を移行する。
【0120】
図9のベースバンド処理に戻って、GPS測位処理を行った後、測位演算部33は、出
力位置3779を決定したか否かを判定し(ステップS5)、出力位置3779が不定で
あったと判定した場合は(ステップS5;No)、ステップS9へと処理を移行する。ま
た、出力位置3779を決定したと判定した場合は(ステップS5;Yes)、RAM3
7の計測履歴データ377に記憶されている現在の時刻の出力位置3779をホストCP
U50に出力する(ステップS7)。
【0121】
そして、測位演算部33は、操作部60に対してユーザにより測位終了指示がなされた
か否かを判定し(ステップS9)、なされなかったと判定した場合は(ステップS9;N
o)、ステップS3に戻る。また、測位終了指示がなされたと判定した場合は(ステップ
S9;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0122】
4.実験結果
図12は、LS測位処理のみを行った場合の従来の実験結果の一例を示す図である。携
帯型電話機1を携行したユーザが、点線の矢印で示した軌跡に従って道路上を走行した場
合の各時刻における出力位置の軌跡を示している。この結果を見ると、一点鎖線で示した
部分P1〜P3において位置飛びが発生しており、特に部分P2では、真の軌跡から大き
くかけ離れた位置まで位置飛びが発生していることがわかる。
【0123】
図13は、KF測位処理のみを行った場合の従来の実験結果の一例を示す図である。こ
の結果を見ると、一点鎖線で示した部分P4及びP5において、出力位置が真位置から外
れていることがわかる。KF測位処理では、出力位置が一旦真位置から外れると、信頼性
の高いメジャメント実測値が得られるまでの間、出力位置が真位置から外れ続ける傾向が
ある。
【0124】
図14は、本実施形態の処理を行った場合の実験結果の一例を示す図である。図12の
結果と比べると、位置飛びの発生が抑えられていることがわかる。また、図13の結果と
比べても、真位置からの出力位置のずれが小さくなっており、測位結果の精度が大幅に改
善されていることが確認できる。
【0125】
5.作用効果
本実施形態によれば、第1の測位モードは、LS測位処理を行ってその測位結果を基礎
値としてKF測位処理を行うモードである。一方、第2の測位モードは、前回行ったKF
測位処理の測位結果を基礎値として更にKF測位処理を行うモードである。第1の測位モ
ードと第2の測位モードとは、何れのモードにおいてもKF測位処理を行う。従い、第2
の測位モードは、1時刻前(前回)の測位モードが第1の測位モードであれ、第2の測位
モードであれ、何れの場合においてもKF測位処理を継続的に行うモードであると言える

【0126】
第1の測位モードと第2の測位モードとのうち、現在の時刻(今回)の測位モードで実
行したKF測位処理の測位結果の精度に応じて、次の時刻(次回)以降の測位モードが第
1の測位モード又は第2の測位モードに切り替えられる。第2の測位モードに切り替えら
れた場合には、KF測位処理が継続的に行われることとなり、第1の測位モードに切り替
えられた場合には、KF測位処理の継続は中断されて、一旦LS測位処理が行われた後に
、その測位結果を基礎値としたKF測位処理が行われる。
【0127】
よって、KF測位処理の測位結果の精度に応じて、KF測位処理を継続するか、一旦L
S測位処理を行うのかを適切に切り替えることが可能となり、ひいては、測位結果の精度
を向上させることが可能となる。
【0128】
6.変形例
6−1.電子機器
本発明は、測位装置を備えた電子機器であれば何れの電子機器にも適用可能である。例
えば、ノート型パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション
装置等についても同様に適用可能である。
【0129】
6−2.衛星測位システム
上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WA
AS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)
、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛
星測位システムであってもよい。
【0130】
6−3.処理の分化
測位演算部33が実行する処理の一部又は全部を、ホストCPU50が実行することに
してもよい。例えば、ホストCPU50が測位モードの判定や切り替えを行い、測位演算
部33が、LS測位処理やKF測位処理を行うこととしてもよい。また、LS測位処理及
びKF測位処理も含めて、測位演算部33が実行する処理の全てをホストCPU50が実
行することにしてもよい。
【0131】
6−4.第1の測位モードにおける出力候補位置の決定
上述した実施形態では、第1の測位モードでは、必ずLS測位位置を出力候補位置に決
定するものとして説明したが、KF測位処理の測位結果の精度が良好である場合は、KF
測位位置を出力候補位置に決定することとしてもよい。この場合に測位演算部33が行う
第2のGPS測位処理の流れを示すフローチャートを、図15に示す。尚、図10のGP
S測位処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、図10のGP
S測位処理とは異なる部分を中心に説明する。
【0132】
第2のGPS測位処理では、測位演算部33は、ステップT10においてKFパラメー
タを初期化した後、又は、ステップT15においてKF測位結果精度良好条件が成立しな
かったと判定した場合に(ステップT15;No)、LS測位位置を出力候補位置に決定
する(ステップU1)。そして、ステップT21の推測航法演算処理へと移行する。
【0133】
また、ステップT15においてKF測位結果精度良好条件が成立したと判定した場合は
(ステップT15;Yes)、測位演算部33は、測位モード設定を第2の測位モードに
切り替えた後(ステップT17)、KF測位位置を出力候補位置に決定する(ステップU
3)。そして、ステップT21の推測航法演算処理へと移行する。
【0134】
6−5.第2の測位モードにおけるLS測位処理
上述した実施形態では、第2の測位モードにおいて、KF測位処理の測位結果の精度が
良好でない場合は、LS測位処理を行い、求めたLS測位位置を出力候補位置に決定する
ものとして説明した。しかし、KF測位処理の測位結果の精度が良好でないということは
、KF測位処理で使用したメジャメント実測値の中に、信頼性の低いメジャメント実測値
が含まれていることが想定される。
【0135】
そこで、KF測位処理の測位結果の精度が良好でない場合には、信頼性の低いメジャメ
ント実測値(=信頼性の低いGPS衛星信号)を除外して、LS測位処理を行うことにし
てもよい。この場合に測位演算部33が行う第3のGPS測位処理のうち、図11に対応
する部分を図16に示す。尚、図11のGPS測位処理と同一のステップについては同一
の符号を付して説明を省略し、図11のGPS測位処理とは異なる部分を中心に説明する

【0136】
第3のGPS測位処理では、ステップT51においてKF測位結果精度良好条件が成立
しないと判定した場合に(ステップT51;No)、測位演算部33は、コード位相に関
する観測値「Z」が所定の閾値を超えた捕捉衛星3731を判別する(ステップV1)。
次いで、RAM37の捕捉衛星別メジャメントデータ373に記憶されているメジャメン
ト実測値3733のうち、判別した捕捉衛星3731のメジャメント実測値3733を削
除する(ステップV3)。そして、残余のメジャメント実測値3733を用いてLS測位
処理を行う(ステップT43)。
【0137】
観測値「Z」は、メジャメント実測値とメジャメント予測値との差であるため、観測値
「Z」が大きいほど、メジャメント実測値はメジャメント予測値と乖離しており、当該メ
ジャメント実測値は信頼性の低いものである可能性が高い。従って、観測値「Z」が所定
の閾値を超えた捕捉衛星のメジャメント実測値を除外して、残余のメジャメント実測値を
用いてLS測位処理を行うことで、LS測位処理の測位結果の精度を向上させることがで
き、その結果、より信頼性の高い出力位置を提供することが可能となる。
【0138】
6−6.推測航法演算処理
上述した実施形態では、推測航法演算処理において、1時刻前の出力位置に現在の時刻
の速度ベクトルを加算することで推測航法演算位置を求めるものとして説明したが、1時
刻前の出力位置に1時刻前の速度ベクトルを加算することで推測航法演算位置を求めるこ
とにしてもよい。また、1時刻前の出力位置に、1時刻前の速度ベクトルと現在の時刻の
速度ベクトルとを平均した速度ベクトルを加算することで推測航法演算位置を求めること
にしてもよい。
【0139】
また、KF測位処理では、位置予測処理(図1のステップA5)を行って予測位置を算
出することにしている。そこで、KF測位処理を行った場合には推測航法演算処理を行わ
ずに、位置予測処理で求めた予測位置と出力候補位置とを用いてPVフィルター処理を行
って、出力位置を決定することとしてもよい。
【0140】
6−7.フィルター処理
上述した実施形態では、フィルター処理の一例としてPVフィルター処理を例に挙げて
説明したが、フィルター処理は他にも適宜選択可能である。例えば、現在の時刻の出力候
補位置と1時刻前の出力位置との2値平滑化を行う2値平滑化フィルター処理を行って出
力位置を決定することにしてもよいし、現在の時刻の出力候補位置と過去所定期間分(例
えば「10秒分」)の出力位置とを用いた多値回帰推定を行う多値回帰推定フィルター処
理を行って出力位置を決定することにしてもよい。
【0141】
6−8.KF測位間隔不適条件
上述した実施形態では、(a)前回KF測位時刻から「60秒以上」が経過している、
(b)前回KF測位時刻から「5秒以上」が経過しており、且つ、前回KF測位位置から
の移動距離が「50m以上」である、の何れかの条件が成立した場合に、KF測位間隔不
適条件が成立したと判定するものとして説明したが、(a)及び(b)の両方の条件が成
立した場合に、KF測位間隔不適条件が成立したと判定することにしてもよい。すなわち
、前回KF測位時刻から「60秒以上」が経過しており、且つ、前回KF測位位置からの
移動距離が「50m以上」である場合に、KF測位間隔不適条件が成立したものと判定す
る。また、「60秒」や「5秒」、「50m」といった数値は一例であり、適宜に設定し
てよい。
【0142】
6−9.KF測位結果精度良好条件
また、上述した実施形態では、(1)メジャメント実測値の数が「4個以上」である、
(2)現在の時刻の推定誤差と1時刻前の推定誤差との差が「10以下」である、(3)
第1の測位モードで過去に「2回以上」測位を行っている、の条件が全て成立した場合に
、KF測位結果精度良好条件が成立したと判定するものとして説明したが、(1)〜(3
)の何れかの条件が成立した場合に、KF測位結果精度良好条件が成立したと判定するこ
とにしてもよい。
【0143】
また、KF測位結果精度良好条件としては、他にも様々なものが考えられる。例えば、
(4)GPS衛星信号の受信環境が、強信号を受信可能な環境である「強電界環境」であ
ること、(5)捕捉衛星のGPS衛星信号の信号強度の平均値が所定値以上であること、
(6)捕捉衛星の天空配置の指標値であるPDOP(Position Dilution Of Precision)
値が所定値未満であること、等をKF測位結果精度良好条件として判定を行うことにして
もよい。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】KF測位処理の流れを示すフローチャート。
【図2】速度補正処理の流れを示すフローチャート。
【図3】位置補正処理の流れを示すフローチャート。
【図4】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図5】ROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図6】RAMに格納されたデータの一例を示す図。
【図7】捕捉衛星別メジャメントデータのデータ構成例を示す図。
【図8】計測履歴データのデータ構成例を示す図。
【図9】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図10】GPS測位処理の流れを示すフローチャート。
【図11】GPS測位処理の流れを示すフローチャート。
【図12】LS測位処理のみを行った場合の実験結果の一例を示す図。
【図13】KF測位処理のみを行った場合の実験結果の一例を示す図。
【図14】本実施形態の処理を行った場合の実験結果の一例を示す図。
【図15】第2GPS測位処理の流れを示すフローチャート。
【図16】第3GPS測位処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0145】
1 携帯型電話機 、 10 GPSアンテナ、 20 GPS受信部、
21 RF受信回路部、 30 ベースバンド処理回路部、 31 演算制御部、
32 メジャメント取得演算部、 33 測位演算部、 35 ROM、
37 RAM、 40 TCXO、 50 ホストCPU、 60 操作部、
70 表示部、 80 携帯電話用アンテナ、 90 携帯電話用無線通信回路部、
100 ROM、 110 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用信号に基づいて最小二乗法を用いた第1の測位処理を行い、該測位結果を基礎値
として前記測位用信号に基づいてカルマンフィルタを用いた第2の測位処理を行う第1の
測位モードと、前回行った前記第2の測位処理の測位結果を基礎値として更に前記第2の
測位処理を行う第2の測位モードとのうち、今回の測位モードで実行した前記第2の測位
処理の測位結果の精度を判定することと、
前記精度判定結果に応じて、次回以降の測位モードを前記第1の測位モード又は前記第
2の測位モードに切り替えることと、
を含む測位方法。
【請求項2】
前記切り替えることは、今回の測位モードが前記第1の測位モードであり、且つ、前記
精度判定結果が所定の精度良好条件を満たす結果であった場合に、次回以降の測位モード
を前記第2の測位モードに切り替えることを含む請求項1に記載の測位方法。
【請求項3】
直前に行った前記第2の測位処理からの経過時間が所定の時間超過条件を満たしたか否
かを判定することと、
今回の測位モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記所定の時間超過条件を満
たしたと判定された場合に、次回以降の測位モードを前記第1の測位モードに切り替える
ことと、
を含む請求項1又は2に記載の測位方法。
【請求項4】
今回の測位モードが前記第1の測位モードである場合、前記精度判定結果が所定の精度
良好条件を満たす結果であれば、当該第1の測位モードにおける前記第2の測位処理で求
められた測位位置を現在位置の候補位置とし、満たさない結果であれば、当該第1の測位
モードにおける前記第1の測位処理で求められた測位位置を現在位置の候補位置とするこ
とと、
前記現在位置の候補位置を用いて出力位置を決定して出力することと、
を含む請求項1〜3の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項5】
今回の測位モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精
度良好条件を満たす結果である場合に、当該第2の測位モードにおける前記第2の測位処
理で求められた測位位置を現在位置の候補位置とすることと、
今回の測位モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精
度良好条件を満たさない結果である場合に、前記第1の測位処理を実行し、該第1の測位
処理で求められた測位位置を現在位置の候補位置とすることと、
前記現在位置の候補位置を用いて出力位置を決定して出力することと、
を含む請求項1〜4の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項6】
今回の測位モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精
度良好条件を満たす結果である場合に、当該第2の測位モードにおける前記第2の測位処
理で求められた測位位置を現在位置の候補位置とすることと、
今回の測位モードが前記第2の測位モードであり、且つ、前記精度判定結果が所定の精
度良好条件を満たさない結果である場合に、当該第2の測位モードにおける前記第2の測
位処理で使用された測位用信号のうち、所定の低精度要因条件を満たす測位用信号を除い
た残余の測位用信号を用いて前記第1の測位処理を実行し、該第1の測位処理で求められ
た測位位置を現在位置の候補位置とすることと、
前記現在位置の候補位置を用いて出力位置を決定して出力することと、
を含む請求項1〜4の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項7】
前記現在位置の候補位置が前記第1の測位処理及び第2の測位処理のうちの何れの測位
処理で求められた測位位置であるかに応じて予め定められたフィルター処理を行うことで
前記候補位置を補正して前記出力位置を決定することを含む請求項4〜6の何れか一項に
記載の測位方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の測位方法を、測位装置に内蔵されたコンピュータに
実行させるためのプログラム。
【請求項9】
測位用信号に基づいて最小二乗法を用いた第1の測位処理を行い、該測位結果を基礎値
として前記測位用信号に基づいてカルマンフィルタを用いた第2の測位処理を行う第1の
測位モードと、前回行った前記第2の測位処理の測位結果を基礎値として更に前記第2の
測位処理を行う第2の測位モードとのうち、今回の測位モードで実行した前記第2の測位
処理の測位結果の精度を判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に応じて、次回以降の測位モードを前記第1の測位モード又
は前記第2の測位モードに切り替えるモード切替部と、
を備え、前記モード切替部により切り替えられた測位モードに従って測位処理を実行す
る測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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