説明

測位装置及びプログラム

【課題】自律航法情報等の外部データを必要とすることなく、測位精度を適切に評価する。
【解決手段】GPS受信機16から出力されたクロックバイアス誤差を含む疑似距離から、クロックバイアスBe及び受信位置を算出し、過去n点のクロックバイアスBe、またはGPS受信器から出力されるドップラー情報に基づいてクロックドリフトDを算出し、算出されたクロックドリフトDに基づいて、回帰式、またはカルマンフィルタを用いて基準クロックバイアスBsを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位装置及びプログラムに係り、特に、測位精度を評価することができる測位装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナビゲーション装置において、複数の測位衛星からの電波を受信してこの電波を用いて受信位置を測位するGPS航法と、車両が移動した距離及び方位に基づく走行軌跡から車両の位置を検出する自律航法とを用いて、本装置が搭載された車両の位置(自車位置)を測位することが行われている。
【0003】
GPS航法による測位では、受信環境等の種々の要因により測位に誤差が生じる場合がある。そこで、複数のGPS衛星を捕捉・追尾し測位を行ってGPS測位解を取得し、出力された自律航法情報とGPS測位解との比較結果に基づいて所定の参照値を算出し、算出された所定の参照値と、測位の過程で得られるクロック・オフセット値との差分を算出し、算出された差分に基づいてGPS測位解の精度を判断するナビゲーションシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ドップラー周波数から得られる移動体の速度ベクトルと、移動体の位置の測位結果に基づいて得られる移動体の移動量を表す変位ベクトルとのなす角度を評価値として算出し、算出された評価値に基づいて測位の異常を判定する移動体位置測位装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−157705号公報
【特許文献2】特開2008−139105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のナビゲーションシステムでは、測位の精度を評価するために自律航法システムが必要であり、GPS単体で測位精度を評価することができない、という問題がある。また、特許文献1記載のナビゲーションシステムでは、過去に得られたクロック・オフセット値数点の平均値を測位精度の評価に用いているが、クロック・オフセット値に含まれる時間と共に変化するドリフト成分が考慮されておらず、適切な評価をすることができない、という問題がある。
【0007】
また、特許文献2記載の移動体位置測位装置では、移動体の速度ベクトルと移動体の変位ベクトルとのなす角度を評価値として用いているため、移動体の速度が0になった場合には、評価値として用いる角度を算出することができず、異常判定を行うことができない、という問題がある。
【0008】
本発明は、上述した問題を解決するために成されたものであり、自律航法情報等の外部データを必要とすることなく、測位精度を適切に評価することができる測位装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の測位装置は、複数の異なる測位衛星から送信された衛星信号に基づいてGPS受信機から出力された前記測位衛星の各々から受信位置までのクロックバイアス誤差を含む疑似距離から、クロックバイアス及び前記受信位置を算出する測位手段と、過去に算出された複数のクロックバイアス、または、前記GPS受信器から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックバイアスの時間に伴う変化の割合を示すクロックドリフトを算出するクロックドリフト算出手段と、前記クロックドリフト算出手段で算出されたクロックドリフトに基づいて、基準クロックバイアスを推定するクロックバイアス推定手段と、前記測位手段で算出されたクロックバイアスと、前記クロックバイアス推定手段で推定された基準クロックバイアスとの差に基づいて、前記測位手段における受信位置の算出精度を評価するための評価値を算出する評価値算出手段とを含んで構成されている。
【0010】
また、本発明の測位プログラムは、コンピュータを、複数の異なる測位衛星から送信された衛星信号に基づいてGPS受信機から出力された前記測位衛星の各々から受信位置までのクロックバイアス誤差を含む疑似距離から、クロックバイアス及び前記受信位置を算出する測位手段と、過去に算出された複数のクロックバイアス、または、前記GPS受信器から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックバイアスの時間に伴う変化の割合を示すクロックドリフトを算出するクロックドリフト算出手段と、前記クロックドリフト算出手段で算出されたクロックドリフトに基づいて、基準クロックバイアスを推定するクロックバイアス推定手段と、前記測位手段で算出されたクロックバイアスと、前記クロックバイアス推定手段で推定された基準クロックバイアスとの差に基づいて、前記測位手段における受信位置の算出精度を評価するための評価値を算出する評価値算出手段として機能させるためのプログラムである。
【0011】
本発明の測位装置及びプログラムによれば、GPS受信機が複数の異なる測位衛星から送信された衛星信号を受信し、受信した衛星信号に基づいて算出した測位衛星の各々から受信位置までのクロックバイアス誤差を含む疑似距離を出力する。測位手段は、この擬似距離に基づいて、クロックバイアス及び受信位置を算出する。ここで算出されるクロックバイアスには種々の要因による誤差が含まれている。そこで、クロックドリフト算出手段が、過去に算出された複数のクロックバイアス、または、GPS受信機から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックバイアスの時間に伴う変化の割合を示すクロックドリフトを算出し、クロックバイアス推定手段が、クロックドリフト算出手段で算出されたクロックドリフトに基づいて、基準クロックバイアスを推定する。ここで推定された基準クロックバイアスは、クロックドリフトに基づいて推定されているため、ドリフト成分を考慮した値となっている。そして、評価値算出手段が、測位手段で算出されたクロックバイアスと、クロックバイアス推定手段で推定された基準クロックバイアスとの差に基づいて、測位手段における受信位置の算出精度を評価するための評価値を算出する。
【0012】
このように、過去に算出された複数のクロックバイアス、または、GPS受信機から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックドリフトを算出して、基準クロックバイアスを推定するため、自律航法情報等の外部データを必要とすることなくドリフト成分を考慮した基準クロックバイアスが推定され、この基準クロックバイアスと算出されたクロックバイアスとの差に基づいて、受信位置の算出精度を適切に評価することができる評価値を算出することができる。
【0013】
また、本発明の測位装置は、前記擬似距離の中から4つ以上を選択した全ての組合せの各々について前記評価値を算出し、算出された前記評価値に基づいて求まる測位誤差が最小となる組合せ以外の擬似距離に対応する衛星信号を異常信号と推定する異常信号推定手段を含んで構成することができる。このように、適切に算出された評価値に基づいて求まる測位誤差により異常信号を推定することで、測位に用いる擬似距離を適切に選択することができる。
【0014】
また、本発明の測位装置は、前記測位誤差が最小となる組合せの擬似距離に基づいて算出されたGPS測位値、または前記測位誤差が最小となる組合せの擬似距離に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離と、前記異常信号推定手段で異常信号と推定された衛星信号により求まる擬似距離を含む組合せの擬似距離に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離との差に基づいて補正されたGPS測位値を最適測位値として出力する出力手段を含んで構成することができる。このように、適切に算出された評価値に基づいて求まる測位誤差を利用して、測位結果を最適化することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係る測位装置及びプログラムによれば、自律航法情報等の外部データを必要とすることなく、測位精度を適切に評価することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態に係る測位装置の概略を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態における測位処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第1の実施の形態における測位精度評価処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本実施の形態における測位最適化処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】測位誤差e、及び評価値E×光速cの時系列データを示すグラフである。
【図6】測位誤差eと評価値E×光速cとの関係を示すグラフである。
【図7】本実施の形態における測位最適化処理ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施の形態に係る測位装置の概略を示すブロック図である。
【図9】第2の実施の形態における測位精度評価処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図10】第2の実施の形態におけるカルマンフィルタ初期値リセット処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下の実施形態では、車両に搭載されている測位装置を例に挙げて説明する。
【0018】
図1は、第1の実施の形態に係る測位装置10の構成を示すブロック図である。
【0019】
第1の実施形態に係る測位装置10は、測位装置10全体の制御を司るCPU、後述する測位処理のプログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。このような構成の場合には、各構成要素の機能を実現するためのプログラムをROMやHDD等の記憶媒体に記憶しておき、これをCPUが実行することによって、各機能が実現されるようにする。
【0020】
測位装置10を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図1に示すように、受信位置(車両位置)の測位精度を評価する測位精度評価部12、及び測位結果を最適化して最適測位値を出力する最適化部14を含んだ構成で表すことができる。さらに、測位精度評価部12は、GPS受信機16から出力された擬似距離に基づいて受信位置を測位する測位部22、過去のクロックバイアスに基づいて、クロックドリフトを算出するクロックドリフト算出部34、クロックドリフト算出部34で算出されたクロックドリフトを用いて、現在の基準クロックバイアスを推定するクロックバイアス推定部24、及び測位部22での受信位置の測位の際に算出されたクロックバイアスと、クロックバイアス推定部24で推定された基準クロックバイアスとに基づいて測位精度の評価値を算出する評価値算出部26を含んだ構成で表すことができる。また、最適化部14は、入力された擬似距離に対応する衛星信号が正常か異常かを推定する異常信号推定部28、異常信号推定部の推定結果に基づいて、擬似距離誤差を推定する擬似距離誤差推定部30、及び異常信号推定部28または擬似距離誤差推定部30の推定結果に基づいて、最適測位値を出力する測位最適化部32を含んだ構成で表すことができる。
【0021】
GPS受信機16では、受信部18で受信された測位衛星から送信された衛星信号に基づいて、擬似距離算出部20で測位衛星と受信位置との間の擬似距離を算出し、算出した擬似距離を測位装置10へ出力する。擬似距離には、GPS受信機16の時計の進み(遅れ)によりGPS受信機16の時計が示す時刻とGPS時刻との間に生じる誤差(クロックバイアス)を距離に換算したクロックバイアス誤差が含まれている。
【0022】
測位部22は、GPS受信機16から出力された4つ以上の擬似距離を用いて、衛星信号の受信位置を測位する。上述のとおり、擬似距離にはクロックバイアス誤差が含まれているため、測位部22での測位の際に、このクロックバイアスBeもあわせて算出される。なお、クロックバイアスは、前述の通り、GPS受信機16の時計が示す時刻とGPS時刻との間に生じる誤差であり、時間と共に変化するドリフト成分(クロックドリフト)を含んだ値となる。
【0023】
クロックドリフト算出部34は、後述する測位最適化処理において得られた過去のクロックバイアスに基づいて、クロックドリフトDを算出する。
【0024】
クロックバイアス推定部24は、算出されたクロックドリフトDを用いて基準クロックバイアスBsを推定する。基準クロックバイアスBsは、クロックドリフトDを用いて推定されるため、ドリフト成分を考慮した値となる。
【0025】
評価値算出部26は、測位部22での受信位置の測位の際に算出されたクロックバイアスBeと、クロックバイアス推定部24で推定された基準クロックバイアスBsとの差に基づいて測位精度の評価値を算出する。
【0026】
異常信号推定部28は、受信位置の測位に使用された擬似距離から4つ以上を選択した組合せを、全組合せについて羅列し、組合せ毎に測位精度の評価値から求まる測位誤差を算出し、測位誤差が最小となる組合せの擬似距離に対応する各衛星信号を正常、測位誤差が最小となる組合せに含まれていない擬似距離に対応する各衛星信号を異常と推定する。
【0027】
擬似距離誤差推定部30は、測位誤差が最小となる組合せの擬似距離に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離と、測位に使用された擬似距離(異常と推定された衛星信号に対応する擬似距離を含んでいる)に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離との差を擬似距離誤差として推定する。
【0028】
測位最適化部32は、異常信号推定部28で得られた測位誤差が最小となる組合せの擬似距離に基づいて算出される測位値を最適測位値として、測位誤差の情報と共に出力する。または、擬似距離誤差推定部30で推定された擬似距離誤差に基づいて補正した測位値を最適測位値として、測位誤差の情報と共に出力する。出力された最適測位値及び測位誤差情報は、測位結果を表示する表示装置に入力され、ナビゲーションシステムに利用されたり、車両制御装置に入力され、車両の自動制御に利用されたり、センサ統合装置に入力されてGPS以外のセンサの計測結果と統合し、測位精度を向上させるのに利用されたりする。また、最適測位値となる測位値を算出した際に得られるクロックバイアスBeをクロックドリフト算出部34におけるクロックドリフトの算出に使用するため、所定の記憶領域に記憶する。
【0029】
次に、図2を参照して、第1の実施の形態の測位装置10における測位処理ルーチンについて説明する。
【0030】
ステップ100で、GPS受信機16から出力された複数の擬似距離に基づいて、受信位置の測位値及びクロックバイアスBeを算出する。
【0031】
衛星iの擬似距離Rは、衛星iの位置座標を(x,y,z)、GPS受信機16の推定位置座標の初期値を(x,y,z)、求めたいGPS受信機16の真の位置座標を(x,y,z)、GPS受信機16の推定クロックバイアスの初期値をB、衛星iのクロックバイアスをbとすると、(1)式のように表すことができる。
【0032】
【数1】

【0033】
また、GPS受信機16の真の位置座標と推定値との差分をΔとすると、(2)式となる。
【0034】
【数2】

【0035】
上記(1)式を、(2)式で線形化すると、(3)式となる。
【0036】
【数3】

【0037】
(3)式を全衛星について行列表現で書き下すと、(4)式となり、さらに(5)式で置き換えると(6)式となる。
【0038】
【数4】

【0039】
ここで、m>4の場合、求めたい変数の数4つに対して式の本数が多くなり、過剰決定状態となるため、最小二乗法を使ってm本の式の制約にできるだけ従うような解を求める。これは、(7)式で示す方程式で求めることができる。
【0040】
【数5】

【0041】
(7)式から求められたΔXを用いて(2)式を更新し、推定値の値が収束するまで繰り返し計算することで、受信位置の測位値及びクロックバイアスBeを算出することができる。
【0042】
次に、ステップ102で、後述する測位精度評価処理を実行し、次に、ステップ104で、後述する測位最適化処理を実行して、処理を終了する。
【0043】
次に、図3を参照して、測位処理(図2)のステップ102で実行される測位精度評価処理ルーチンについて説明する。
【0044】
ステップ200で、所定の記憶領域に記憶された過去n点のクロックバイアスを用いて、(8)式によりクロックドリフトDを算出する。
【0045】
【数6】

次に、ステップ202で、(9)式の回帰式に(8)式により算出したクロックドリフトDの値を代入して基準クロックバイアスBsを推定する。
【0046】
Bs=D×t+Be ・・・(9)
【0047】
ここで、Beは、時刻t=0におけるクロックバイアスの値である。すなわち、(9)式により、時刻tにおける基準クロックバイアスBsを推定することができる。
【0048】
次に、ステップ204で、上記測位処理(図2)のステップ100で算出したクロックバイアスBeと、上記ステップ202で推定した基準クロックバイアスBsとの差を評価値E(E=|Be−Bs|)として算出して、リターンする。
【0049】
次に、図4を参照して、測位処理(図2)のステップ104で実行される測位最適化処理(1)ルーチンについて説明する。
【0050】
ステップ300で、最小測位誤差を示す変数eminに∞をセットする。次に、ステップ302で、測位に使用した擬似距離の中から4つ以上を選択した組合せを全組合せ分羅列し、次に、ステップ304で、羅列した組合せの中から1つの組合せi(i=1、2、・・・、n:nは組合せの総数)を選択する。
【0051】
次に、ステップ306で、上記ステップ304で選択した組合せiについて、測位誤差eを推定する。ここで、評価値Eと測位誤差eとは、図5及び図6に示すような相関関係があることがわかっており、この相関関係に基づいて、(10)式により測位誤差eを推定することができる。
【0052】
e=k×E ・・・(10)
【0053】
ここで、kは係数であり、図5及び図6に示す相関関係から、より詳細には、k=0.8とすることができる。また、ここでは、組合せiについての測位誤差eを推定するため、評価値Eは、組合せiの擬似距離に基づいて算出される評価値Eとなる。
【0054】
次に、ステップ308で、測位誤差eが変数eminより小さいか否かを判断する。e<eminの場合には、ステップ310へ進んで、変数eminの値をeの値に置き換えて、ステップ312へ進む。一方、e≧eminの場合には、そのままステップ312へ進む。ステップ312で、全組合せについて測位誤差eを推定してeminと比較する処理が終了したか否かを判断し、終了した場合には、ステップ314へ進み、終了していない場合には、ステップ304へ戻って、次の組合せを選択して処理を繰り返す。
【0055】
ステップ314で、変数eminとなっている測位誤差eを最小測位誤差とし、測位誤差eに対応する組合せiの擬似距離に基づいて算出される測位値を最適測位値として出力する。
【0056】
次に、ステップ316で、組合せiの擬似距離に基づいて測位値を算出した際に得られるクロックバイアスの値を、クロックドリフトを算出する際に使用するために、所定の記憶領域へ記憶して、リターンする。
【0057】
次に、図7を参照して、測位最適化処理の他の例である測位最適化処理(2)ルーチンについて説明する。ステップ300〜ステップ312の処理は、上述した測位最適化処理(1)と同一であるので説明を省略する。
【0058】
ステップ400で、組合せiの擬似距離に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離と、測位に使用された擬似距離に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離との差を擬似距離誤差として推定する。測位に使用された擬似距離に基づいて算出された受信位置とは、測位処理(図2)のステップ100で算出された測位値の受信位置である。
【0059】
次に、ステップ402で、上記ステップ400で推定された擬似距離誤差に基づいて、測位処理(図2)のステップ100で算出された測位値を補正して最適測位値として出力する。
【0060】
なお、測位最適化処理(1)及び(2)は、いずれか一方のみを実行するようにしてもよいし、いずれかを選択して実行するようにしてもよい。また、いずれかを選択する場合には、例えば、最小測位誤差の値に応じて、いずれかを選択するようにすることができる。
【0061】
以上説明したように、第1の実施の形態の測位装置によれば、過去のクロックバイアスを用いてクロックドリフトを算出して、基準クロックバイアスを推定し、測位の際に算出されたクロックバイアスと推定された基準クロックバイアスとの差を測位精度の評価値として用いるため、自律航法情報等の外部データを必要とすることなく、クロックバイアスのドリフト成分を考慮した適切な評価値を算出することができる。
【0062】
なお、第1の実施の形態では、算出したクロックドリフトを用いて、回帰式により基準クロックバイアスを推定する場合について説明したが、算出したクロックドリフトを用いて、カルマンフィルタやパーティクルフィルタなどの逐次推定により基準クロックバイアスを推定してもよい。
【0063】
次に、第2の実施の形態に係る測位装置について説明する。第2の実施の形態に係る測位装置は、基準クロックバイアスを推定するために用いるクロックドリフトの算出方法が第1の実施の形態にかかる測位装置10と異なる。なお、第1の実施の形態に係る測位装置10と同一の構成及び処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0064】
図8は、第2の実施の形態に係る測位装置510の構成を示すブロック図である。
【0065】
第2の実施形態に係る測位装置510は、測位装置510全体の制御を司るCPU、後述する測位処理のプログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。このような構成の場合には、各構成要素の機能を実現するためのプログラムをROMやHDD等の記憶媒体に記憶しておき、これをCPUが実行することによって、各機能が実現されるようにする。
【0066】
測位装置510を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図8に示すように、受信位置(車両位置)の測位精度を評価する測位精度評価部512、及び測位結果を最適化して最適測位値を出力する最適化部14を含んだ構成で表すことができる。さらに、測位精度評価部512は、GPS受信機16から出力された擬似距離に基づいて受信位置を測位する測位部22、GPS受信機16から出力されたドップラー情報に基づいてクロックドリフトを算出するクロックドリフト算出部234、クロックドリフト算出部234で算出されたクロックドリフトに基づいて、現在の基準クロックバイアスを推定するクロックバイアス推定部524、及び測位部22での受信位置の測位の際に算出されたクロックバイアスと、クロックバイアス推定部524で推定された基準クロックバイアスとに基づいて測位精度の評価値を算出する評価値算出部26を含んだ構成で表すことができる。また、最適化部14は、第1の実施の形態の測位装置10の最適化部14と同様の構成で表すことができる。
【0067】
GPS受信機16では、擬似距離算出部20で算出した擬似距離を出力すると共に、受信部18で受信された測位衛星から送信された衛星信号、及び受信周波数に基づいて、ドップラー情報算出部36でドップラー情報を算出して出力する。
【0068】
クロックドリフト算出部234は、GPS受信機16から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックドリフトDeを算出する。
【0069】
クロックバイアス推定部524は、クロックドリフト算出部234で算出されたクロックドリフトDe及び測位部22で算出されたクロックバイアスBeから、カルマンフィルタを用いて基準クロックバイアスBsを推定する。基準クロックバイアスBsは、クロックドリフトを用いて推定されるため、ドリフト成分を考慮したものとなる。
【0070】
次に、図9を参照して、第2の実施の形態において、測位処理(図2)のステップ102で実行される測位精度評価処理ルーチンについて説明する。
【0071】
ステップ600で、GPS受信機16から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックドリフトDeを算出する。
【0072】
衛星iのドップラシフトと、衛星iの速度vi及びGPS受信機16の速度との関係は、クロックドリフトDeを用いて、(11)式のように表せる。
【0073】
【数7】

【0074】
(11)式を変形して(12)式とし、さらに(5)式のA及び(13)式を用いて表すと(14)式となる。
【0075】
【数8】

【0076】
ここで、m>4の場合、求めたい変数の数4つに対して式の本数が多くなり、過剰決定状態となるため、最小二乗法を使ってm本の式の制約にできるだけ従うような解を求める。これは、(15)式で示す方程式で求めることができる。
【0077】
【数9】

【0078】
(15)式からVを求めることにより、(13)式からクロックドリフトDeを算出することができる。
【0079】
次に、ステップ602で、下記(16)〜(21)式の構成で示されるカルマンフィルタを用いて、基準クロックバイアスBsを推定する。
【0080】
【数10】

【0081】
ここで、tは時刻、Δtは時刻の単位となるサンプリング時間、Beは測位処理(図2)のステップ100で算出されたクロックバイアス、Deは上記ステップ600で算出されたクロックドリフトである。
【0082】
基準クロックバイアスBsは、基準クロックバイアスBsのドリフト成分(基準クロックドリフトDs:クロックドリフトDeからノイズ成分を除去した値)の積分値であり、時刻(t+1)における基準クロックバイアスBs(t+1)は、(18)式のように表される。基準クロックドリフトDsは、上記ステップ600で算出したクロックドリフトDeから、(21)式によりノイズを除去して算出する。(21)式のN(0,v)は、平均0及び標準偏差vの正規分布を表す。算出された基準クロックドリフトDsの微分値は、(20)式で示すように、平均0及び標準偏差wの正規分布で表され、時刻(t+1)における基準クロックドリフトDs(t+1)は、(19)式のように表される。すなわち、時刻t=0におけるクロックバイアスBe、及びクロックドリフトDeを初期値として与え((16)式及び(17)式)、算出された基準クロックドリフトDsを用いて、時刻tにおける基準クロックバイアスBsを推定することができる。
【0083】
次に、ステップ204で、上記測位処理(図2)のステップ100で算出したクロックバイアスBeと、上記ステップ602で推定した基準クロックバイアスBsとの差を評価値E(E=|Be−Bs|)として算出して、リターンする。
【0084】
なお、(16)式及び(17)式で示される初期値は、時刻t=0におけるクロックバイアスBe、及びクロックドリフトDeの値を用いているが、所定のタイミングでt=0として初期値をリセットすることができる。所定のタイミングは、予め定めた所定間隔毎に実行してもよいし、以下で述べるように評価値Eを判定基準として用いて初期値をリセットするタイミングを決定してもよい。これは、第1の実施の形態で述べた測位誤差eの値が小さい場合には、擬似距離から算出されるクロックバイアスBeの信頼度が高いと判断することができるため、測位誤差の算出式((10)式)に基づいて、評価値Eを判定基準として用いるものである。
【0085】
図10を参照して、カルマンフィルタ初期値リセット処理ルーチンについて説明する。
【0086】
ステップ700で、算出された評価値Eを時系列に取得し、評価値Eが基準値th以下となっている時間が所定時間T秒以上連続しているか否かを判断する。T秒以上連続している場合には、ステップ702へ進み、T秒以上連続していない場合には、本ステップの判断を繰り返す。
【0087】
ステップ702で、現在の(直近で算出された)クロックバイアスBeの値を(16)式に、現在の(直近で算出された)クロックドリフトDeの値を(17)式に設定することにより、カルマンフィルタの初期値をリセットする。
【0088】
以上説明したように、第2の実施の形態の測位装置によれば、ドップラー情報に基づいて算出されたクロックドリフトからカルマンフィルタを用いて基準クロックドリフトを算出して、基準クロックバイアスを推定し、測位の際に算出されたクロックバイアスと推定された基準クロックバイアスとの差を測位精度の評価値として用いるため、自律航法情報等の外部データを必要とすることなく、クロックバイアスのドリフト成分を考慮した適切な評価値を算出することができる。
【0089】
なお、第2の実施の形態では、カルマンフィルタを用いて基準クロックバイアスを推定する場合について説明したが、ドップラー情報に基づいて算出されたクロックドリフトから、第1の実施の形態で述べた回帰式を用いて基準クロックバイアスを推定してもよい。
【符号の説明】
【0090】
10、510 測位装置
12、512 測位精度評価部
14 最適化部
16 GPS受信機
22 測位部
24、524 クロックバイアス推定部
26 評価値算出部
28 異常信号推定部
30 擬似距離誤差推定部
32 測位最適化部
34、234 クロックドリフト算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる測位衛星から送信された衛星信号に基づいてGPS受信機から出力された前記測位衛星の各々から受信位置までのクロックバイアス誤差を含む疑似距離から、クロックバイアス及び前記受信位置を算出する測位手段と、
過去に算出された複数のクロックバイアス、または、前記GPS受信機から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックバイアスの時間に伴う変化の割合を示すクロックドリフトを算出するクロックドリフト算出手段と、
前記クロックドリフト算出手段で算出されたクロックドリフトに基づいて、基準クロックバイアスを推定するクロックバイアス推定手段と、
前記測位手段で算出されたクロックバイアスと、前記クロックバイアス推定手段で推定された基準クロックバイアスとの差に基づいて、前記測位手段における受信位置の算出精度を評価するための評価値を算出する評価値算出手段と、
を含む測位装置。
【請求項2】
前記擬似距離の中から4つ以上を選択した全ての組合せの各々について前記評価値を算出し、算出された前記評価値に基づいて求まる測位誤差が最小となる組合せ以外の擬似距離に対応する衛星信号を異常信号と推定する異常信号推定手段を含む請求項1記載の測位装置。
【請求項3】
前記測位誤差が最小となる組合せの擬似距離に基づいて算出されたGPS測位値、または前記測位誤差が最小となる組合せの擬似距離に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離と、前記異常信号推定手段で異常信号と推定された衛星信号により求まる擬似距離を含む組合せの擬似距離に基づいて算出された受信位置から衛星までの距離との差に基づいて補正されたGPS測位値を最適測位値として出力する出力手段を含む請求項2記載の測位装置。
【請求項4】
コンピュータを、
複数の異なる測位衛星から送信された衛星信号に基づいてGPS受信機から出力された前記測位衛星の各々から受信位置までのクロックバイアス誤差を含む疑似距離から、クロックバイアス及び前記受信位置を算出する測位手段と、
過去に算出された複数のクロックバイアス、または、前記GPS受信機から出力されたドップラー情報に基づいて、クロックバイアスの時間に伴う変化の割合を示すクロックドリフトを算出するクロックドリフト算出手段と、
前記クロックドリフト算出手段で算出されたクロックドリフトに基づいて、基準クロックバイアスを推定するクロックバイアス推定手段と、
前記測位手段で算出されたクロックバイアスと、前記クロックバイアス推定手段で推定された基準クロックバイアスとの差に基づいて、前記測位手段における受信位置の算出精度を評価するための評価値を算出する評価値算出手段と、
して機能させるための測位プログラム。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の測位装置を構成する各手段として機能させるための測位プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−13189(P2011−13189A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159941(P2009−159941)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】