説明

測定システムとその動作状況の検査方法

【課題】 この発明は、測定器(1)、別の機器(2)、および測定器(1)と別の機器(2)との間でデータビットを伝達するためのデータ伝達手段(3)から成る測定システムに関する。この場合、測定器(1)は、信号監視回路(1.6)とスイッチ素子(1.9,1.10)とを有する。スイッチ素子(1.9,1.10)は、試験電圧源(1.11)と電気的に接続されており、その際スイッチ素子の一つの状態において、試験電圧源(1.11)は、信号監視回路(1.6)と接続される。さらに、信号監視回路(1.6)は、データ伝達手段(3)と接続される。また、この発明は、検査動作において、試験電圧を印加することによって、測定システムの動作状況を検査する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、請求項1にもとづく、その動作状況を簡単に検査することが可能な測定システム、特に位置測定システムに関する。さらに、この発明は、請求項4にもとづく、動作状況を検査するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位置測定システムにおいては、測定器内の位置センサーが、互いに相対的に動く物体の位置に関する情報を提供する電気信号を生成する。この発明は、特に比較的詳細なインクリメンタル位置情報と比較的粗い位置情報の両方を生成する測定器を有する測定システムに関する。これらの両方の位置データは、特に例えば、工作機械やロボットなどの加工機の軸を動かすための電動モータを制御するために重要なものである。この用途では、例えば工作機械の工具の、正確な位置測定のための詳細なインクリメンタル位置情報が使用される。
【0003】
これらに対応する電動モータは、通常回転角度測定用のロータリーエンコーダーを採用した回転電動モータとして構成されることが多い。しかし、この発明は、リニアモータの動作と関連して利用することも可能である。
【0004】
インクリメンタル測定措置において回転可能な軸の角度測定を可能とするロータリーエンコーダーが知られているが、コード・ロータリーエンコーダーとも呼ばれる、所謂アブソリュート・ロータリーエンコーダーも知られている。これらによって、1回の軸回転中における絶対角度を求めることが可能である。さらに、実行された軸回転の回数の検出が必要であり、そこで一般的には所謂マルチターン・ロータリーエンコーダーが用いられる。このようなマルチターン・ロータリーエンコーダーでは、軸と連結した符号円盤を、例えば、好適な光電走査ユニットを用いて走査することによって、1回の軸回転内、すなわち0°と360°間における絶対角度位置の測定が行われる。これを用いて、複数の回転にわたって、駆動される軸の絶対位置の測定も可能である。
【0005】
この測定器の信号は、しばしば加工機の制御のために用いられる。加工機という概念は、工作機械に限定されず、電子部品の装着または半導体素子の処理用の機械をも含む。さらに、加工機と称するものには、例えばロボットなどの自動化機械も該当する。
【0006】
従来の位置測定システムでは、これまで、測定器からは、デジタル位置データに加えて、さらにアナログの位置信号が、機械制御部に伝達され、そこでこれらの信号は、補間処理されていた。電子回路の小型化の進歩のお陰で、今では、これらの補間プロセスが、測定器自体の中の好適な電子回路で行われることが多くなり、その結果アナログ位置信号は、機械制御部にまで伝えられなくなっている。このことは、測定システムのコストに対して大きな影響を持つ、配線の負担を低減するものである。
【0007】
もっとも、これまで、安全に関係する機械の用途では、機械制御部において、誤りを検出するために、デジタル位置データとアナログ位置信号との比較が行われてきた。今では、機械制御部には、アナログ位置信号が来ないために、もはやこの比較を行うことができない。
【0008】
このために、測定システムでは、前述した理由から、アナログ位置信号が機械制御部に届かず、その時点の、しばしば絶対的な位置データ以外には、所謂静的なビットが、パラレルまたはシリアル・インタフェースを介して、測定器から機械制御部に転送されるということが、珍しいことではない。これらの静的なビットは、例えば、通常動作においては、常に所定のレベルを持ち、(非常に希な)誤りの場合にだけ、レベルの変化によって、誤りを気付かせる誤りビットとすることができる。
【0009】
しかし、故障によって、誤りビットの一定のレベルが、常に出力される、すなわち、この故障が、システム障害の場合にも、レベル変化を許さないということを排除することができないので、この種の誤り情報の伝達は、まさに安全に関係する監視の場合に欠点となることが明らかになっている。
【0010】
出願人の特許文献1において、活動信号によって、誤り検査を起動させる位置測定装置が示されている。しかし、そこに記載された発明では、監視回路自体が正常動作していることを検査することができない。さらに、その場合、信号伝達に関する負担が、比較的大きい。
【特許文献1】ドイツ特許第3829815号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のことから、この発明の課題は、加工機の安全な、または信頼できる動作を可能とし、その際信号伝達に関する負担が比較的小さい測定システムを実現することにある。さらに、この発明により、加工機の安全性または信頼性を著しく向上させる、誤り情報の検査方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この測定システムを実現する課題は、この発明にもとづき、請求項1の特徴により解決される。また、この検査方法を実現する課題は、請求項4にもとづく方法により解決される。
【0013】
この発明は、測定器において、検査動作中に、試験電圧の印加によって、故意に障害を起こすことが可能であり、そしてこの障害によって、誤りビットが、対応するレベルで機械制御部に到達するかを検査するという思想にもとづいている。この発明により、特に、例えば信号振幅監視部の監視回路が正常動作していることが検査される。試験電圧とは、例えば、試験電圧源の電圧、または最も簡単な場合には、地電位であると見なすことができる。
【0014】
この発明の有利な実施形態においては、試験電圧源を印加するためのスイッチ状態が、機械制御部によって、特に自動的に起動される。
【0015】
この発明の有利な実施構成は、従属請求項で明らかにされている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明による測定システムおよび対応する方法の更なる詳細ならびに利点は、添付図面にもとづく、実施例に関する以下の記述から、明らかとなる。
【0017】
図1aには、ロータリーエンコーダー1、機械制御部2およびデータ伝達手段3を有する測定システムが描かれている。
【0018】
ロータリーエンコーダー1は、光電素子1.1,1.2、増幅器1.3,1.4、評価回路1.5および信号振幅監視部1.6を有する。増幅器1.3,1.4と評価回路1.5との間の導線には、抵抗1.7,1.8への分岐がある。さらに、ロータリーエンコーダー1の回路には、スイッチ素子1.9,1.10があり、それらは、試験電圧源1.11と電気的に接続されている。
【0019】
スイッチ素子1.9,1.10は、二つのスイッチ素子状態を取ることができる。第一のスイッチ素子状態では、試験電圧源1.11は、信号振幅監視部1.6から切り離されており、第二のスイッチ素子状態では、試験電圧源1.11と信号振幅監視部1.6との間の電気接続が形成されている。
【0020】
データ伝達手段3は、ロータリーエンコーダー1におけるインタフェース・ジャック3.1、プラグを有する多線ケーブル3.3と機械制御部2におけるインタフェース・ジャック3.2から構成されている。これに代わって、ワイヤレスのデータ伝達手段3を配備することもできる。その場合、これに対応して、インタフェース・ジャック3.1,3.2の代わりに、好適な送信機部品および受信機部品を配置することができる。
【0021】
測定しようとしている軸の角度位置に対応して、図面に描かれていないLEDの光が変調されて、光電素子1.1,1.2によって、光電流に変換される。これらの光電流は、増幅器1.3,1.4を用いて増幅され、その結果ここでは、図2により正弦形状を持つアナログ位置信号が現れる。これらの位置信号は、とりわけ補間プロセスのために、評価回路1.5に供給され、その結果測定器1の角度および位置の解像度を数倍化することができる。さらに、評価回路1.5においては、絶対位置のデジタル値が生成され、それらは、多数のデータビットから成るデータパケットとして、インタフェース3.1,3.2とケーブル3.3を介して、図示した例では50μsのクロックタイムで、直列的に機械制御部に伝達される。
【0022】
これと並行して、これらのアナログ位置信号は、信号振幅監視部1.6に供給される。この信号振幅監視部1.6では、これらのアナログ位置信号の振幅が、妥当な限界内にあるかどうかが検査される。通常動作では、これらのアナログ位置信号は、この基準を満たしており、その結果絶対位置のデジタル値をも機械制御部2に伝達する同じデータパケットで、誤りビットが伝達され、そのレベルは、測定システムの通常状態または障害でない動作状況を知らせるものである。すなわち、この誤りビットは、一般的には一定不変のレベルで、前述した実施例では、50μs毎に、測定器1から機械制御部2に伝達され、そのため、静的な誤りビットと呼ばれる。
【0023】
これらのアナログ位置信号の振幅が、妥当な限界外となると同時に、この誤りビットのレベルは、変化し、対応する誤りビットは、すぐ次のデータパケットで機械制御部2に伝達される。その反応として、機械制御部2から、機械全体に対して、緊急停止が発動される。
【0024】
しかし、例えば、短絡によって、誤りビットのレベルが変化できないという事態が起こる可能性もある。その場合、障害があるにもかかわらず、同じレベルの誤りビットが、常に機械制御部2に転送されることとなり、その結果障害がある場合にも、機械の停止が実行されないこととなる。
【0025】
この危険を回避するために、図1bにもとづき、スイッチ素子の一つの状態において、検査動作が短時間に行われる。そこで、このために、機械制御部2から、測定器に信号が送られる。この信号は、符号語またはモードコマンドの形式で、機械制御部2から、ケーブル3.3の一本のデータ導線を介して、ロータリーエンコーダー1に伝達される。このケーブル3.3のデータ導線は、機械制御部2のロータリーエンコーダー1へのモードコマンドの伝達用にも、ロータリーエンコーダー1から機械制御部2への、誤りビットを含めたデータおよび信号の伝達用にも用いられる。すなわち、それは、図1a、1bおよび3で両端矢印でも示されているとおり、機械制御部2とロータリーエンコーダー1との間の両方向データ伝達部である。
【0026】
伝達されたモードコマンドは、ロータリーエンコーダー1で復号され、その結果検査動作が起動され、それは、先ずはスイッチ素子1.9,1.10を閉じることとなる。そこで、それによって、信号振幅監視部1.6には、試験電圧源1.11の電圧U0 が印加される。この電圧U0 の大きさは、図2にもとづく、対応するアナログ位置信号の電圧推移から明らかである(アナログ位置信号の電圧推移の対称軸に相当する)。図1bに示されているとおり、抵抗1.7,1.8によって、電圧U0 の評価回路1.5への結合が十分に防止されている。すなわち、信号振幅監視部1.6は、スイッチ素子1.9が閉じられている場合に、アナログ位置信号の振幅が十分に到達せず、そのため、レベルを変化させた形での誤りビットを出力することを確実に行う。機械制御部2は、電圧U0 の印加後の3クロックタイム、この場合にはすなわち150μsの間は、レベルを変化させた形での誤りビットの到達に対して、反応(緊急停止)を発動しないようにプログラムされている。
【0027】
しかし、電圧U0 が印加されたにもかかわらず、機械制御部2によって、誤りビットのレベル変化が確認されない場合には、対応する誤りメッセージが出力される。この方法により、特に信号振幅監視部1.6が正常動作していることの検査が可能である。
【0028】
この発明の別の実施形態においては、図3にもとづき、評価回路1.5には、さらにデジタル信号振幅監視部1.12が統合される。これは、信号振幅監視部1.6と並行して、デジタル化された位置データの妥当性の検査を行うものである。通常動作においては、レベルを変化させた形での誤りビットが、それが、信号振幅監視部1.6またはデジタル信号振幅監視部1.12から出たものかに関係無く、機械制御部2に到達すると直に、緊急停止が発動される。当然に、信号振幅監視部1.6とデジタル信号振幅監視部1.12の両方が、レベルを変化させた形での誤りビットにより、誤りを通報した場合にも、緊急停止が行われる。
【0029】
そこで、検査動作において、信号振幅監視部1.6が正常動作していることを、試験電圧U0 の印加により検査する場合に、信号振幅監視部1.6から、レベルを変化させた形での誤りビットが到達した場合に、緊急停止を発動しないように、機械制御部2をプログラムすることができる。しかし、検査動作において、信号振幅監視部1.6からも、デジタル信号振幅監視部1.12からも、レベルを変化させた形の誤りビットが、機械制御部2に到達した場合、すなわち言わば二つの誤りメッセージが到達した場合には、緊急停止が発動される。この方法により、検査動作においても、十分な安全性を得ることが可能となる。
【0030】
この発明は、光電素子1.1,1.2により生成される位置信号を監視する測定システムとその方法に限定されるものではない。むしろ、この発明では、とりわけ温度信号、周波数記録信号、またはバッテリーの充電状態に関する情報を与える信号をも対象に入れることができる。
【0031】
特に、この発明は、有利には、共通のインタフェースまたは共通のデータ伝達手段3を介して、位置測定器、この場合にはロータリーエンコーダー1と機械制御部2との間で両方向に、位置データ以外に、別のセンサーの追加測定データを伝達する位置測定器に採用することができる。すなわち、例えば、しばしば、ロータリーエンコーダー1における位置測定以外に、例えば、フェラリスセンサーを用いて、速度および/または加速度の測定が行われる。この発明により、これらのセンサーの信号監視が正常動作していることも検査することができる。例えば、電動モータに対する温度監視を統合したロータリーエンコーダー1に関しても、同じことが言える。この場合にも、有利には、この発明により、温度信号監視が正常動作していることを検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1a】この発明による測定システムの通常動作時の構成の模式図
【図1b】この発明による測定システムの検査動作時の構成の模式図
【図2】試験電圧に関する電圧の推移
【図3】この発明による測定システムの別の構成の模式図
【符号の説明】
【0033】
1 ロータリーエンコーダー
1.1,1.2 光電素子
1.3,1.4 増幅器
1.5 評価回路
1.6 信号振幅監視部
1.7,1.8 抵抗
1.9,1.10 スイッチ素子
1.11 試験電圧源
1.12 デジタル信号振幅監視部
2 機械制御部
3 データ伝達手段
3.1,3.2 インタフェース・ジャック
3.3 多線ケーブル
0 試験電圧源1.11の電圧



【特許請求の範囲】
【請求項1】
・測定器(1)と、
・別の機器(2)と、
・測定器(1)と別の機器(2)との間で、データビットを伝達するためのデータ伝達手段(3)とから成る測定システムであって、
その際、測定器(1)は、
・信号監視回路(1.6)と、
・スイッチ素子(1.9,1.10)とを有し、ならびに、
スイッチ素子(1.9,1.10)は、試験電圧源(1.11)と電気的に接続されており、ならびに、
これらのスイッチ素子の一つの状態において、試験電圧源(1.11)が、信号監視回路(1.6)と接続されるとともに、
信号監視回路(1.6)が、さらにデータ伝達手段(3)と接続される測定システム。
【請求項2】
当該の測定器が、位置測定器、特にロータリーエンコーダー、または長さ測定器である請求項1に記載の測定システム。
【請求項3】
当該の別の機器(2)が、機械制御部、特に加工機の機械制御部である請求項1または2に記載の測定システム。
【請求項4】
測定システムの動作状況を検査するための方法であって、
その際、
・測定システムの通常動作においては、測定器(1)の障害でない動作状況を信号で伝えるために、データ伝達手段(3)を介して、測定器(1)から、別の機器(2)に、一定不変のレベルを保持した形のビットが伝達され、ならびに、
・測定システムの検査動作においては、
・測定器(1)の信号監視回路(1.6)が、試験電圧源(1.11)と電気的に接続されるとともに、
・別の機器(2)において、この検査動作が、通常動作のレベルに対して、当該のビットのレベルを変化させるように作用しているかが検査される方法。
【請求項5】
測定システムの通常動作においては、当該のビットのレベル変化は、別の機器(2)の反応を発動させる一方、測定システムの検査動作においては、当該のビットのレベル変化は、別の機器(2)の反応を発動させない請求項4に記載の方法。
【請求項6】
試験電圧源(1.11)は、別の機器(2)の信号にもとづき、信号監視回路(1.6)と電気的に接続される請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
測定器(1)が正常動作していることを検査するために、当該の検査動作が、所定の時間間隔で自動的に起動される請求項4から6までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
測定器(1)が正常動作していることを検査するために、当該の検査動作が、手動で起動される請求項4から7までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
例えば、工具または加工物の交換などにおいて、機械が所定の状態に到達した場合に、測定器(1)が正常動作していることを検査するために、当該の検査動作が、自動的に起動される請求項4から8までのいずれか一つに記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−500688(P2006−500688A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540582(P2004−540582)
【出願日】平成15年9月4日(2003.9.4)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009796
【国際公開番号】WO2004/031695
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(390014281)ドクトル・ヨハネス・ハイデンハイン・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (115)
【氏名又は名称原語表記】DR. JOHANNES HEIDENHAIN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】