説明

測定装置および測定方法

【課題】試料中の特定の荷電状態にある粒子を簡便で迅速に検出する。
【解決手段】測定装置100は、液体試料中の特定の荷電状態にある粒子を捕集して検出する装置であり、液体試料が配置される液溜119、液溜119に設けられるとともに、一方の面が粒子と接触可能に設けられた第一電極115、液溜119に設けられるとともに第一電極から離隔して設けられた第二電極117、電極間に電圧を印加し、粒子を第一電極の一方の面の近傍に捕集する電圧印加手段、および電圧を印加した状態で、第一電極115と粒子との相互作用を計測し、計測結果に基づき粒子を検出する受光素子107を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関し、特に、細胞等の粒子を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野においてガン細胞の自発的細胞死(アポトーシス)を検出する技術が求められている。アポトーシスの簡易、高速かつ安価な検出は、たとえば、腫瘍、リュウマチやパーキンソン病などの神経系疾患用の創薬、また基礎腫瘍学研究の場において非常に重要視されている。その理由は、これらの薬剤候補物質は無数にあり(ケミカルライブラリー)、これらの物質のスクリーニングをいかに迅速に行うかが創薬事業成功の鍵となっているためである。また、将来的に臨床の現場において、個体差を考慮して投与する治療薬を選定するためには、アポトーシス検出は不可欠な体外診断法になると考えられている。
【0003】
アポトーシスの判断には、従来、以下の4つの方法が用いられている(非特許文献1〜4)。
(1)顕微鏡による観察、
(2)電気泳動法、
(3)TUNNEL法、および
(4)アネキシンV法。
【0004】
なお、上記(2)電気泳動法は、クロマチン凝縮が起こった後のDNAを採取し、PCR(Polymerase Chain Reaction)法を用いてDNA断片を増殖した後、電気泳動法でDNA断片を評価するというものであり、アポトーシス検出に最も一般的に使われている。
また、(3)TUNNEL法は、断片化したDNAの末端に標識をとりこませ、その標識を発色させることで検出する方法である。また、(4)アネキシンV法においては、アポトーシス細胞の表面のフォスフォチジルセリンに特異的に結合する分子を用いて蛍光標識を行い検出する。
【0005】
以上、細胞のアポトーシスを例に説明したが、一般に、細胞等の粒子を簡便で確実に検出する方法が求められている。
【非特許文献1】Sriram M.他4名、「Structural consequences of a carcinogenic alkylation lesion on DNA: Effect of O6-ethylguanine [e6G] on the molecular structure of d(CGC[e6G]AATTCGCG)-netropsin complex」、Biochemistry、31、p.11823-11834、1992年
【非特許文献2】Vogelstein, B.他1名、「Preparative and analytical purification of DNA from agarose」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、p.76、1979年
【非特許文献3】「Simultaneous In Situ Detection of mRNA and Apoptotic Cells by Combined Hybridization and TUNEL」、Journal of Histochemistry and Cytochemistry、44、No2、p.125-132、1996年
【非特許文献4】Andree, H.A.M.他5名、「Binding of Vascular Anticoagulantα(VACα) to Planar Phospholipid Bilayers」、Journal of Biological Chemistry、265、p.4923、1990年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した従来のアポトーシスの検出方法は、それぞれ以下の点で改善の余地があった。
まず、(1)顕微鏡による観察においては、基本的に細分化された細胞の観察を行う。このため、初期段階のアポトーシスを検出することができなかった。つまり、完全にアポトーシス反応が終わるまで検出できず、実用的ではなかった。
【0007】
この点、(2)電気泳動法の場合、初期段階でのアポトーシス検出は可能ではあるが、PCR法でのDNA断片の増殖に時間がかかる上、細胞を破壊してDNAを抽出する必要があるので、連続的な検出を行うことができなかった。また、電気泳動法そのものも時間がかかるため、検出に時間がかかり、1検体の処理時間として、通常3時間以上を要していた。
【0008】
また、(3)TUNNEL法の検出時間は、通常3時間以上であり、(2)の方法に比較すると迅速にアポトーシス検出は可能であるが、生化学的処理が煩雑な上、標識物質が高額のため、汎用性の点で改善の余地があった。
【0009】
また、(4)アネキシンV法では、標識と作用させるのに時間がかかる上、フローサイトメーターを用いるため、連続的または並列的に処理ができなかった。
【0010】
このように、従来のアポトーシスの検出方法は、いずれも実用レベルにはほど遠いものであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、
液体試料中の特定の荷電状態にある粒子を捕集して検出する装置であって、
前記液体試料が配置される試料配置部と、
前記試料配置部に設けられるとともに、一方の面が前記粒子と接触可能に設けられた第一電極と、
前記試料配置部に設けられるとともに前記第一電極から離隔して設けられた第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加し、前記粒子を前記第一電極の前記一方の面の近傍に捕集する電圧印加手段と、
前記電圧印加手段が前記電圧を印加した状態で、前記第一電極と前記粒子との相互作用を計測し、計測結果に基づき前記粒子を検出する検出手段と、
を含む、測定装置が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、
液体試料中の特定の荷電状態にある粒子を捕集して検出する方法であって、
前記粒子を含む前記液体試料を第一電極の一方の面に接触させる第一ステップと、
前記第一電極と前記第一電極から離隔して設けられた第二電極との間に電圧を印加する第二ステップと、
前記第一ステップ中かつ前記第二ステップの後、前記第一電極と前記粒子との相互作用を計測し、計測結果に基づき前記粒子を検出する第三ステップと、
を含む、測定方法が提供される。
【0013】
本発明においては、第一電極と第二電極との間に電圧を印加し、液体試料中の特定の荷電状態にある粒子(以下、単に「特定粒子」とも呼ぶ。)を第一電極の一方の面の近傍に捕集する。この状態で、第一電極と特定粒子との相互作用を計測し、計測結果に基づき特定粒子を検出する。このようにすれば、特定粒子を液体試料中で破壊せずに検出することができる。また、特定粒子を簡便で迅速に検出することができる。
【0014】
本発明において、第一電極に印加される電圧の正負の符号は、検出対象の粒子の荷電粒子に応じて設定され、たとえば、第一電極に特定粒子と反対符号の電圧を印加することができる。
【0015】
また、検出手段は、たとえば特定の物理量を計測することにより第一電極と特定粒子との相互作用を計測するように構成される。
【0016】
具体的には、本発明の測定装置において、第一電極の他方の面側から前記第一電極に光を入射させる光学系をさらに備え、前記第一電極が膜状であって、前記検出手段が、前記第一電極の前記他方の面で反射した前記光の特性を表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)法により計測するように構成してもよい。
【0017】
また、本発明の測定方法において、前記第三ステップにおいて、前記第一電極の他方の面から前記第一電極に光を入射し、前記第一電極の前記他方の面で反射した前記光の特性を表面プラズモン共鳴法により計測することもできる。
【0018】
このとき、第一電極の一方の面に特定粒子が捕集された状態とされていない状態とでは、第一電極の表面近傍における液体試料中の屈折率差により、表面プラズモン共鳴の共鳴角が変化する。また、この共鳴角の変化は、第一電極の一方の面における全反射光に関するシグナル変化、たとえば反射光強度として検出される。SPR法を用いて反射光の特性、たとえば反射光強度または共鳴角を測定することにより、電極表面に特定粒子が捕集されているかどうかをより一層高感度で検出することができる。これにより、液体試料中の特定粒子の有無をさらに確実に検出することができる。
【0019】
本発明において、測定対象となる粒子に特に制限はないが、たとえば細胞やリポソーム等の脂質二重膜を有する粒子や、有機または無機粒子等が挙げられる。
【0020】
また、本発明は、たとえば細胞のアポトーシスの有無の検出に用いることもできる。
具体的には、本発明の測定方法において、前記粒子が細胞であって、前記第一ステップにおいて、前記第一電極の前記一方の面にアポトーシスを起こした前記細胞を吸着させるように前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加して、前記液体試料に含まれる前記細胞のアポトーシスを検出してもよい。
【0021】
また、本発明の測定装置において、前記粒子が細胞であって、前記電圧印加手段が、前記第一電極の前記一方の面にアポトーシスを起こした前記細胞を吸着させるように前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加した状態で、前記検出手段が前記第一電極と前記細胞との相互作用の有無を測定し、前記細胞のアポトーシスの検出に用いられる構成としてもよい。
【0022】
こうした方法によれば、アポトーシスが生じることにより細胞表面の電荷が変化することを利用して、細胞を破壊せずに、そのアポトーシスを確実に検出することができる。また、背景技術の項で前述した従来の方法に対し、煩雑な前処理等の手順が不要であり、簡便で迅速なアポトーシスの検出が可能である。
【0023】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、試料中の特定の荷電状態にある粒子を簡便で迅速に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態においては、本発明の測定技術を細胞のアポトーシスを検出に適用する場合を例に説明する。そこで、まず、アポトーシスにより生じる現象およびその検出の概要を説明する。
【0026】
細胞がアポトーシスを起こすと、正常細胞においては細胞膜の内側に局在している膜タンパク質のフォスファチジルセリン(PS)が局在性を失い、細胞膜の外側へも露出してくる。PSはマイナスに帯電しているため、アポトーシスを起こした細胞の表面は、マイナスに帯電する。
【0027】
以下の実施形態では、この細胞がマイナスに帯電する現象を利用して、アポトーシスを起こした細胞を電極表面に捕集して、検出する。このとき、電極と細胞との相互作用を光学的、電気的または機械的方法によって計測する。
【0028】
すなわち、この測定方法は、液体試料中の特定の荷電状態にある粒子(細胞)を検出する方法であって、以下のステップを含む。
ステップ11:粒子を含む液体試料を第一電極の一方の面に接触させる、
ステップ12:第一電極と第一電極から離隔して設けられた第二電極との間に電圧を印加する、および
ステップ13:ステップ11中かつステップ12の後、第一電極と粒子との相互作用を計測し、計測結果に基づき粒子を検出する。
なお、ステップ11およびステップ12は、どちらを先に行ってもよく、たとえばステップ12を先に行ってもよい。
【0029】
ステップ11では、アポトーシスが生じた細胞と第一電極とが相互作用するように、第一電極と第二電極との間に電極が印加される。アポトーシスを起こした細胞の表面は、上述したようにマイナスに帯電するため、たとえば第一電極がプラス極となるように電圧を印加する。
【0030】
これにより、ステップ12において供給された液体試料中の粒子つまり細胞にアポトーシスが生じていれば、第一電極に引き寄せられる。また、複数の細胞を含む液体試料を用いることにより、アポトーシスが生じた細胞を第一電極上に集合させて、堆積させることができる。これに対し、細胞が正常な場合、細胞膜自体は電荷をほぼ有しないため、第一電極上に堆積しない。
【0031】
そして、ステップ13において、第一電極の一方の面と粒子との相互作用に応じて変化する物理量を計測する。その計測結果から、試料中のアポトーシス細胞が検出される。具体的には、アポトーシスが生じた細胞の有無またはその濃度が測定される。
【0032】
ステップ13における計測方法は、電極表面のアポトーシス細胞を実用上問題ない程度の感度で検出できるものであればよく、たとえば以下の実施形態に示す光学的、電気的または機械的方法が用いられる。
【0033】
以下、図面を参照して実施形態をさらに具体的に説明する。なお、すべての図面において、共通の構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
はじめに、第一および第二の実施形態において、光学的な測定方法を用いる例を示す。
【0034】
(第一の実施形態)
本実施形態では、電場補助型の表面プラズモン共鳴(SPR)を用いてアポトーシスを生じた細胞の有無を検出する。
図1は、本実施形態の測定装置の概略構成を示す断面図である。また、図2は、図1に示した測定装置100のセンサチップ101を拡大して示す断面図である。
【0035】
図1および図2に示した測定装置100は、液体試料中の特定の荷電状態にある粒子(特定粒子)を捕集して検出する装置であって、センサチップ101、プリズム103、マッチングオイル109、光源105および受光素子107を備える。なお、本実施形態および以降の実施形態では、特定粒子は、アポトーシスを起こした細胞である。なお、図20を参照して後述するように、プリズムをセンサチップ中に組み込んだ構成も考えられる。その場合には、マッチングオイル109は不要である。
【0036】
また、図1および図2には示していないが、測定装置100は、第一電極115と第二電極117との間に電圧を印加し、粒子を第一電極115の一方の面の近傍に捕集する電圧印加手段(図17のDC電源)を備える。
【0037】
まず、図2を参照して、センサチップ101の構成を具体的に説明する。
センサチップ101は、第一基材111上に第二基材113が接合された構造である。センサチップ101には、液体試料が配置される液溜119と、液溜119の壁面を構成し互いに離隔して設けられた一対の膜状の電極(第一電極115、第二電極117)が設けられている。
【0038】
第一基材111の材料として、たとえばガラス、光学用樹脂等の光透過性の高い材料が挙げられる。第一基材111は、さらに具体的にはグラスウェーハである。
また、第二基材113の材料として、たとえばガラス、プラスチック等の各種絶縁材料が挙げられる。プラスチックとしては、フォトレジストとして用いられる感光性樹脂材料が挙げられる。第二基材113として、測定対象の粒子、ここでは細胞の非特異吸着が生じにくい材料を用いることが好ましい。また、第二基材113に設けられた液溜119内壁に、非特異吸着を抑制するために所定の表面処理を施してもよい。
【0039】
液溜119は、第二基材113の上面の所定の領域が除去されてなる凹状の領域であり、試料配置部として機能する。液溜119の底面の特定箇所に、凹部143が設けられている。なお、凹部143は、第二基材113を貫通する孔である。
【0040】
第一電極115は、凹部143の形成領域において第一基材111の底面全面を被覆し、液溜119の底面を構成している。つまり、第一電極115は、液溜119の底面の一部を構成している。
【0041】
また、液溜119の底部には、段差145が設けられている。第一電極115と第二電極117とは、段差145に対して異なる側に配置される。具体的には、第一電極115は段差145よりも液溜底部側に設けられ、第二電極117は、段差145よりも液溜上部側に設けられる。なお、第二電極117の一部は、液溜119の液面121よりも底部側に配置される。また、第一電極115と第二電極117とは非対向配置となっており、第二電極117は、第一電極115の側方上部に配置されている。
【0042】
第一電極115および第二電極117をこのように配置することにより、電圧印加時に検出対象の粒子をさらに効率よく沈降させて液溜119底部の特定の領域つまり第一電極115の表面に堆積させることができる。
【0043】
なお、図1および図2では、第一電極115および第二電極117の表面、いずれも液面121に水平な面である場合を例示したが、後述する図3(a)〜図3(c)中に示すように、第二電極117の表面が液面121に垂直な面であってもよい。図3(a)〜図3(c)においても、第二電極117は第一電極115の側方上部に設けられているため、同様の効果が得られる。
【0044】
第一電極115および第二電極117の材料は、たとえば金(Au)等の金属とする。
第一電極115の厚さは、SPR法による測定に適した厚さであれば特に制限はないが、たとえば20〜150nm程度とする。
また、第二電極117の厚さに特に制限はないが、製造工程を簡素化する観点では、たとえば第一電極115と同程度の厚さとする。また、第一電極115と第二電極117とは同時に形成されてもよい。
【0045】
センサチップ101は、たとえば従来知られた半導体製造技術、樹脂加工技術や微細加工技術を用いて製造される。
【0046】
図1に戻り、センサチップ101は、プリズム103の特定の面にマッチングオイル109を介して固定される。センサチップ101は、プリズム103に対して着脱可能な構成となっている。このため、センサチップ101は使い捨てとすることができる。
【0047】
測定装置100において、光学系は、プリズム103、光源105等により構成され、第一電極115の他方の面側から第一電極115に光(入射光102)を入射させる。
【0048】
光源105は、プリズム103に入射光102を照射する。
ここで、光源105は、たとえばレーザ光源である。レーザ光としては、細胞等の粒子をさらに好感度で検出する観点では、近接場光(エバネッセント光)が400nm程度まで届く近赤外光が好ましく用いられる。細胞のアポトーシスの検出の場合、近赤外光として、具体的には、1550nm程度のものを用いることができる。こうした長波長の光源を用いることにより、光学系の構成部材のコスト面でも有利である。
【0049】
プリズム103に入射した入射光102は、センサチップ101の第一電極115の表面で全反射する。受光素子107は、電圧印加手段が電極間に電圧を印加した状態で、第一電極115と細胞との相互作用を反映する物理量としてこの反射光強度を計測し、電気的信号に変換する。受光素子107は、特に限定はされないが、たとえばフォトダイオードである。
【0050】
次に、測定装置100を用いた細胞のアポトーシスの検出方法を説明する。
この方法では、細胞を含む液体試料を第一電極115と第二電極117の間に配置し、電極間に特定の電場を印加することにより、電気泳動法により細胞を泳動させるとともに、SPR法を用いて第一電極115表面で反射した光の特性をSPR法により計測し、計測結果に基づきアポトーシス細胞を検出する。これにより、液体試料中の細胞のアポトーシスの有無またはアポトーシス細胞の濃度が検出される。
【0051】
図3(a)〜図3(c)は、本実施形態の検出原理をさらに具体的に示す断面図である。
このうち、図3(a)は、液体試料として細胞を含む細胞培養用溶液(メディア)を液溜119に入れた時の細胞の状態を示す図である。図3(a)においては、電圧は印加されておらず、細胞122はメディア中に分散している。
【0052】
また、図3(b)および図3(c)は、センサチップ101の第一電極115と第二電極117との間に電場を印加した際の細胞の動きを示す断面図である。ここでは、アポトーシスを起こした細胞が第一電極115の一方の面に吸着するように、電圧印加手段が電極間に電圧を印加する。
【0053】
図3(b)には、アポトーシスを起こしていない細胞に電場を印加した時の細胞の様子が示されている。正常細胞123は、表面にマイナスに帯電した分子を実質的に有しないので、電場中にあってもメディア中に分散したままである。従って、細胞はプラス電極である第一電極115には到達しない。
【0054】
一方、図3(c)には、アポトーシスを起こした細胞に電場を印加した時の、細胞の様子が示されている。アポトーシス細胞125の表面はマイナスに帯電しているため、正電極である第一電極115の方向にひきつけられ、第一電極115(金膜)上に堆積する。
【0055】
そして、SPR法で第一電極115表面の屈折率に依存する反射光の特性、たとえば反射光強度または共鳴角の変化を測定する。SPR法は、前述したように、表面プラズモン共鳴が光の入射角と金膜上の媒質の屈折率に依存することを利用したものである。媒質中でアポトーシス細胞125が第一電極115と相互作用を起こせば、第一電極115表面近傍における媒質の屈折率が変化し、共鳴角の変化となって検出できる。
【0056】
ここで、従来の表面プラズモン共鳴(SPR)センサーは、分子間相互作用(抗体―抗原反応等)を検出するのに用いられていたが、本発明者の検討によれば、正常細胞123に対してアポトーシス細胞125のみを選択的に第一電極115の表面に吸着させることにより、SPR法を用いてアポトーシス細胞125を検知することができる。
【0057】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態によれば、特定粒子、ここではアポトーシスを起こしてマイナスに帯電した細胞を、第一電極115の表面に捕集して検出する。このため、アポトーシスを起こした細胞を非破壊で直接検出することができる。また、簡便で迅速な測定が可能となる。また、本実施形態の測定装置100は、細胞、特に癌細胞の自発的細胞死(アポトーシス)をこれまで主流となっていた蛍光分子およびフローサイトメーターを用いることなく高感度で検出することが可能である。このため、測定装置100は、アポトーシスを非破壊、簡易、経済的かつ迅速に検出できる光学センサとして用いることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、センサチップ101に設けられた液溜119の底面の特定の領域にのみ第一電極115が設けられている。このため、液溜119の底面全面に第一電極115を設ける構成に対して、アポトーシスを起こした細胞を液溜119底面の特定箇所にさらに濃縮して捕集することができる。これにより、アポトーシスの検出をさらに確実に行うことができる。
【0059】
なお、図1に示した測定装置100は、以下の構成としてもよい。図17は、測定装置100の概略構成を示す図である。
図17に示した測定装置は、レーザ光源、センサチップ、光学系、計測部、DC電源、レーザドライバ、制御部および出力部を備える。計測部は、受光部および演算部を含む。
【0060】
このうち、レーザドライバは、レーザ光源の駆動部である。光学系は、図1に示したプリズム103および光源105を含む。DC電源は、センサチップの電極間に特定の直流電圧を印加する。また、演算部は、受光部での計測値を用いて所定の演算処理を行い、アポトーシスを起こした細胞の検出に関するデータを作成する。
【0061】
また、出力部は、受光部で計測されたデータまたは演算部で演算処理されたデータを出力する。制御部は、計測部、DC電源、レーザドライバおよび出力部の動作を制御する。
【0062】
なお、以上においては、一つのセンサチップに一つの液溜119を設ける構成を中心に説明したが、本実施形態においても、一つのセンサチップに複数の液溜119をアレイ状に配置してもよい。また、以上においては、プリズム103とセンサチップ101とが独立した部材である場合を例示したが、これらが一体に形成されていてもよい。
【0063】
図20(a)および図20(b)は、このようなセンサチップの構成例を示す上面図である。図20(a)は、プリズム部と液溜部とを接合する前のセンサチップの構成を示す斜視図である。また、図20(b)は、図20(a)における一つのセンサチップを拡大して示した断面図である。
【0064】
このセンサチップは、複数のプリズム部を備える第一基材163と、各プリズム部に対応する位置に複数の液溜部が設けられた第二基材165とが圧着されて構成される。第一基材163および第二基材165の材料に特に制限はないが、ノルボルネン系樹脂(COP、ゼオノア)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA、アクリル)、APO(非晶性ポリオレフィン)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)等の光学用樹脂を用いることができる。第一基材163と第二基材165とは同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0065】
また、光源105からの出射光として、たとえば前述した近赤外光を用いる場合、第二基材163としてシリコンを用いることができる。シリコンを用いることにより、プリズム部の加工安定性をさらに向上させることができる。
【0066】
図20(a)および図20(b)に示した構成とすることにより、プリズム部と液溜部とを一体化することができるため、マッチングオイルを用いる必要がなく、使用者の手間を省くことができるため、利便性が向上する。
また、プリズムを使わなくて済むので、検出装置の簡易化が可能となり、コスト的にも有利である。また、第二基材163としてガラスやフォトレジストの替わりに光学用樹脂を使用すれば、射出成型を用いて大量かつ安価に製造が可能である。
【0067】
(第二の実施形態)
本実施形態では、第一の実施形態において、第一電極115と細胞との相互作用の検出に、マルチパス表面プラズモン共鳴法を用いる。以下、第一の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0068】
はじめに、図4(a)および図4(b)を参照してマルチパス表面プラズモン共鳴法について説明する。
第一の実施形態で用いたSPR法では、入射光102を、第一電極115に対応する金膜127の表面で1回反射させる(図4(a))。これに対し、本実施形態で用いるマルチパス表面プラズモン共鳴センサ(MPSPR)では、金膜127上で光を複数回反射させる(図4(b))。これにより、検出シグナルを増幅させることができ、検出感度が顕著に増加する。具体的には、MPSPRでは、従来型のSPRよりも感度が10倍から100倍向上する。
【0069】
SPRとMPSPRの比較を図5および図18(b)に示す。
図5には、測定対象物なしでのSPRとMPSPRの入射角と反射光強度の実測値を示している。図5において、共鳴角は金膜上の屈折率を表している。特定の入射角の変化(−0.05から−0.10)において、反射光の反射率の変位を「□」(1回反射SPR、図中1-Pass)、「●」(4回反射MPSPR、図中4-Pass)および「○」(8回反射MPSPR、図中8-Pass)に示した。また、図18(a)は、1回反射、4回反射および8回反射における反射光強度を示している。
【0070】
図5および図18(a)より、MPSPRを用いた場合の方が、反射光強度自体は小さくなるが、変位が大きくなり、検出感度が向上することがわかる。
【0071】
本実施形態では、細胞のアポトーシス検知に関して、上記MPSPR法を利用する。
図6は、本実施形態の測定装置の概略構成を示す断面図である。また、図7は、図6に示した測定装置のセンサチップを拡大して示す断面図である。
【0072】
図6および図7に示した測定装置の基本構成は第一の実施形態にて前述した測定装置100と同様であるが、センサチップ101に代えてセンサチップ137が用いられる点が異なる。また、光学系として、コーナーキューブ129、鏡131およびビームスプリッター133をさらに備える点が異なる。
【0073】
まず、図7を参照して、センサチップ137の構成を具体的に説明する。
【0074】
センサチップ137は、上述のMPSPR装置に統合したシステムとして機能する。センサチップ137には、半導体製造技術を用いて、液溜119と、3つの電極(第一電極115、第二電極117、第三電極135)が組み込まれている。
【0075】
センサチップ137の基本構成は図2に示したセンサチップ101と同様であるが、液溜119の底部に二つの凹部143が離隔して設けられている。また、第一電極115、第二電極117に加えて、さらに第三電極135を有する。
【0076】
第三電極135は、第一電極115の側方に設けられた膜状の電極である。第三電極135の材料は、第一電極115と同様に、たとえば金(Au)等の金属とする。また、第三電極135の厚さは、SPR法に適した厚さであればよく、たとえば20〜150nm程度とする。
【0077】
第三電極135は、第一電極115が配置された凹部143とは別の凹部143の形成領域において第一基板111の底面全面を被覆し、液溜119の底面を構成している。第三電極135は、第一電極115の側方に第一電極115と略同一水準に設けられており、液溜119の底面の一部を構成している。
【0078】
なお、第一電極115および第三電極135は、MPSPR法により両電極で光を反射させることができるように配置される。
【0079】
図6に戻り、センサチップ137は、MPSPR装置のプリズム103上にマッチングオイル109を介して固定される。センサチップ137は、プリズム103に対して着脱可能であり、使い捨てとすることができる。なお、図20を参照して前述したプリズム一体型センサチップの場合はマッチングオイルを必要とせず、そのまま架台に着脱可能であり、使い捨てとすることができる。
【0080】
また、図6に示した測定装置において、光学系は、第一電極115の他方の面で反射した光を、第三電極135の他方の面の側から第三電極135に入射させ、検出手段が、第一電極115および第三電極135で反射した光の特性を表面プラズモン共鳴法により計測する。
具体的には、光源(図6では不図示)からの出射光は、ビームスプリッター133を透過し、プリズム103に入射する。この入射光102は、センサチップ137の第一電極115の表面で反射した後、コーナーキューブ129で複数回(2回)反射し、第三電極135の表面で反射する。第三電極135で反射した光は、鏡131で反射し、さらに以上の経路を逆に進行する。具体的には、鏡131で反射した光は、再度第三電極135、コーナーキューブ129および第一電極115で順に反射し、さらにビームスプリッター133で反射して、受光素子107で検出される。
【0081】
アポトーシスを起こした細胞は、液溜119中を電気泳動しプラス電極である第一電極115および第三電極135に到達する。プラス電極である金膜(第一電極115、第三電極135)は、MPSPRの反射膜としても用いられているため、そこに到達した細胞は、表面プラズモン共鳴の共鳴角変化として検出される。
【0082】
本実施形態によれば、第一の実施形態の作用効果に加えて、さらにアポトーシスの検出感度を増加させることができる効果が得られる。
具体的には、第一電極115および第三電極135を液溜119の底部の微小な領域として、ここに細胞を濃縮して捕集する。さらに、第一の実施形態では、第一電極115表面で光を1回反射させるのに対し、本実施形態では、第一電極115および第三電極135で光を2回ずつ計4回反射させ、SPR信号を増幅させる。第一電極115および第三電極135が、液溜119底面のうち、入射光102の反射箇所およびその近傍に局所的に形成されているため、細胞が電極表面に効果的に濃縮されるとともに、濃縮状態で測定されるSPR信号を増幅させることができる。よって、これらの相乗効果により、液体試料中のアポトーシス細胞をより一層高感度で確実に検出することができる。
【0083】
なお、以上においては、一つのセンサチップに一つの液溜119を設ける構成を中心に説明したが、本実施形態においても、一つのセンサチップに複数の液溜119をアレイ状に配置してもよい。図8は、このようなセンサチップの構成例を示す上面図である。
【0084】
図8に示したセンサチップ141は、基材139に、複数の液溜119が設けられている。各液溜119は、図7を参照して前述した構成となっている。なお、第一の実施形態のセンサチップ101についても、こうした集積チップを作製することができる。
【0085】
また、本実施形態の測定装置は、以下の構成としてもよい。図19は、本実施形態の測定装置の概略構成を示す図である。
図19に示した測定装置の基本構成は、図17に示した装置と同様である。ただし、図19の装置は、複数の液溜が集積されたセンサチップが配置される自動ステージおよび自動ステージの動作を制御するステージコントローラをさらに備える。ステージコントローラの動作は、制御部により制御される。また、DC電源は、各センサの電極間に直流電圧を印加する。
【0086】
また、本実施形態では、図18(a)に示すように、光ファイバ用の光分岐、統合および増幅器等を用いて、SPRに光を再入射させ、さらに4回、合計8回反射した反射光を計測することも可能である。この技術を用いれば、必要に応じて光の反射回数をさらに増やすことが可能であり、より高感度が実現される。なお、図18(a)は、本実施形態の測定装置における光ファイバの構成例を示す図である。
【0087】
なお、本実施形態では、電極表面で光を複数回反射させる例として、第一電極115と第三電極135とが離隔して設けられた構成を示したが、本実施形態の測定装置において、第一電極115と第三電極135とが必ずしも独立して設けられている必要はない。たとえば図4(b)に示したように、第一電極115に対応する金膜127の表面で光を複数回反射させてもよい。この場合、光学系が、第一電極115の他方の面で反射した光を、第一電極115の他方の面側から再度第一電極115に入射させるとともに、受光素子107が、再度第一電極115で反射した光の特性を表面プラズモン共鳴法により計測する構成としてもよい。
【0088】
以上の実施形態においては、光学的な計測方法を用いる例を示した。次に、電気的な方法を用いる例を示す。
【0089】
(第三の実施形態)
本実施形態では、電気センサを用いて、アポトーシスを起こした細胞が電極上に堆積した際の、電極間の抵抗または誘電率を計測する。これにより、電極に堆積した細胞を検知する。
【0090】
図9は、本実施形態のセンサチップの構成を示す断面図であり、図10は、その上面図である。
図9および図10に示したセンサチップ201においては、基材203の上部に彫り込まれた液溜の底面および上部に第一電極205および第二電極207がそれぞれ配置されている。
【0091】
第一電極205の形状および配置は、測定対象の細胞表面の荷電状態を検知できるように構成されていればよいが、たとえば、インターデジタル状、櫛歯状とする。図10には、二つの櫛歯状の電極の歯と歯を交互に配置した構成が例示されている。また、第一電極205および第二電極207を平面電極としてもよい。
【0092】
本実施形態においても、液溜底面に設けられた第一電極205をプラス電極としたとき、正常な細胞は第一電極205に吸着しないのに対し(図10(a))、アポトーシスを生じた細胞209をその表面に吸着させることができる(図10(b))。このときの第一電極205と第二電極207との間の抵抗または誘電率を測定すれば、第一電極205表面への細胞209の吸着状態が検出されるため、液体試料中の細胞209にアポトーシスが生じているかどうかを検知することができる。
【0093】
以下の実施形態では、機械的な計測方法を用いる例を示す。
【0094】
(第四の実施形態)
本実施形態は、圧電素子を用いた測定装置に関する。
圧電素子上にプラス電極を形成し、プラス極とマイナス極の間に電場を形成する。これにより、測定対象の粒子がアポトーシスを起こした細胞であれば、細胞はプラス電極上に堆積する。その後、細胞の重量により加えられた力を圧電素子で電圧に変換して検知して、細胞の堆積を検知することができる。
【0095】
図11および図12は、それぞれ、圧電素子センサチップの概略構成を示す断面図および上面図である。
図11および図12に示したセンサチップ301においては、基材303の上部に彫り込まれた液溜の底面および上部に第一電極305および第二電極307がそれぞれ配置されている。第一電極305および第二電極307は、いずれも平板状であって、液面に水平に互いに平行に対向配置されている。なお、ここでは第二電極307の一部が液体試料に接している構造を有していれば、配置は平行でなくてもよい。
【0096】
本実施形態においても、液溜底面に設けられた第一電極305をプラス電極としたとき、正常な細胞は第一電極305に吸着しないのに対し(図12(a))、アポトーシスを生じた細胞309はその表面に吸着する(図12(b))。このため、圧電素子311の電圧を測定すれば、第一電極305表面への細胞309の吸着状態が検出される。これにより、液体試料中の細胞309にアポトーシスが生じているかどうかを検出することができる。
【0097】
また、圧電素子に代えて、カンチレバーを用いた検出も可能である。カンチレバーの材料は、たとえばSi34またはシリコンとする。このカンチレバーにプラス電極を形成し、アポトーシスを起こした細胞を堆積させる。その後、細胞堆積前と堆積後の共振周波数の変化から、細胞の堆積の有無を検知することができる。
【0098】
図13および図14は、それぞれ、カンチレバーを備えるセンサチップの概略構成を示す断面図および上面図である。
図13および図14に示したセンサチップ401においては、基材403の上部に彫り込まれた液溜の底部および上部にカンチレバー411および第二電極407がそれぞれ配置されている。カンチレバー411および第二電極407は、いずれも液溜の底面から離隔して設けられるとともに、液面に水平に互いに平行に対向配置されている。ただし、第二電極407の一部が液体試料に接している構造を有していれば、配置は平行でなくてもよい。
【0099】
カンチレバー411の平面形状はたとえば櫛歯状であり、第二電極407との対向面に第一電極405が設けられている。第一電極405の平面形状は、たとえば図示したようにカンチレバー411の平面形状に対応した、カンチレバー411に比べて同等または一回り小さい大きさの櫛歯状である。
【0100】
本実施形態においても、カンチレバー411に設けられた第一電極405をプラス電極としたとき、正常な細胞は第一電極405に吸着しないのに対し(図14(a))、アポトーシスを生じた細胞409をその表面に吸着させることができる(図14(b))。このときのカンチレバー411の共振周波数の変化を測定し、細胞を含まない液体を用いた時の共振周波数と比較することにより、第一電極405表面への細胞409の吸着状態が検出される。これにより、液体試料中の細胞409にアポトーシスが生じているかどうかを検出することができる。
【0101】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0102】
たとえば、以上の実施形態においては、細胞のアポトーシスを検出する場合を例に説明したが、本発明の測定技術はこれには限られず、細胞および他の粒子の表面の荷電状態の測定に用いることができる。
【0103】
測定対象となる粒子の具体例として、各種細胞、無機または有機材料により構成された微粒子が挙げられる。
【0104】
また、測定対象となる粒子の粒径は、測定方法に応じて選択されるが、検知感度の観点ではたとえば10nm以上、好ましくは100nm以上とする。また、粒子の上限に特に制限はないが、機械的観点ではたとえば300μm以下とする。
【実施例】
【0105】
本実施例では、第二の実施形態に記載のMPSPR法(図6)を用いて、細胞のアポトーシスの検出を行った。実験条件を以下に示す。
メディア:細胞増殖液
細胞:Jarket細胞(アポトーシス有りおよび無し)
第一電極115の大きさ:3mm角(正方形)
第二電極117の大きさ:3mm角(正方形)
第三電極135の大きさ:3mm角(正方形)
第一電極115および第三電極135と第二電極117の段差の大きさ:3mm
第一電極115および第三電極135と第二電極117間の電圧:2V
第一基材111の材料:ガラス
第二基材113の材料:フォトレジストSu−8
光の波長:1530nm
反射回数:8回
【0106】
測定結果を図15に示す。
図15において、(a)は、センサチップの液溜中にメディアのみが存在する場合のSPRシグナルの経時変化を示す。図に示された様に、SPRシグナルの変化は非常に小さく、この原因は、金膜の表面上における電気化学的反応のみを検出しているからだと考えられる。
【0107】
(b)は、センサチップに正常細胞のみが存在する場合のグラフであり、この変化も(a)とあまり変わらない。つまり、金膜表面の電気化学的反応のみを検出している。
【0108】
また、(c)は、アポトーシス細胞が存在する場合のグラフであり、(a)および(b)と比べると、明らかに大きなSPRシグナルの変化を示した。また、(c)では、ピークに至った後シグナルが低下するものの、(a)および(b)と異なりベースラインまで戻らない。この結果は、アポトーシス細胞の電極への堆積、すなわちアポトーシス検出を意味している。
【0109】
また、この実験を20回以上行ったところ、非常に良好な再現性が得られた。また、常に2分以下という迅速なアポトーシス検出が可能であった。
【0110】
(実施例2)
本実施例では、細胞のアポトーシスだけでなく、微粒子の高感度検出にも適用できることを確認する実験を行った。
すなわち、実施例1で用いた細胞に代えて、濃度の異なる直径45nmのポリスチロール粒子の分散液を用い、SPR励起変化の検出限界を調べた。
【0111】
結果の一例を図16に示す。図16より、ポリスチロール粒子の濃度が10nMおよび100pMのいずれの場合についても、イオン交換水(DI water)の場合に対してSPRシグナルが増加していることがわかる。
【0112】
また、本実施例において、電場補助型マルチパス表面プラズモン共鳴センサにより、少なくとも10pMの濃度のナノ粒子の検出が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施形態における測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示した測定装置のセンサチップの構成を示す断面図である。
【図3】実施形態におけるセンサチップの構成を示す断面図である。
【図4】実施形態における測定装置の概略構成を示す断面図である。
【図5】実施形態におけるSPR測定のシグナル変化を示す図である。
【図6】実施形態における測定装置の概略構成を示す図である。
【図7】図6に示した測定装置のセンサチップの構成を示す断面図である。
【図8】実施形態における測定装置のセンサチップの構成を示す上面図である。
【図9】実施形態における測定装置のセンサチップの構成を示す断面図である。
【図10】実施形態における測定装置のセンサチップの構成を示す上面図である。
【図11】実施形態における測定装置のセンサチップの構成を示す断面図である。
【図12】実施形態における測定装置のセンサチップの構成を示す上面図である。
【図13】実施形態における測定装置のセンサチップの構成を示す断面図である。
【図14】実施形態における測定装置のセンサチップのカンチレバーの構成を示す上面図である。
【図15】実施例における細胞のMPSPR測定結果を示す図である。
【図16】実施例におけるナノ粒子のMPSPR測定結果を示す図である。
【図17】実施形態における測定装置の概略構成を示す図である。
【図18】実施形態における測定装置の概略構成を示す図である。
【図19】実施形態における測定装置の概略構成を示す図である。
【図20】実施形態における測定装置のセンサチップの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0114】
100 測定装置
101 センサチップ
102 入射光
103 プリズム
105 光源
107 受光素子
109 マッチングオイル
111 第一基材
113 第二基材
115 第一電極
117 第二電極
119 液溜
121 液面
122 細胞
123 正常細胞
125 アポトーシス細胞
127 金膜
129 コーナーキューブ
131 鏡
133 ビームスプリッター
135 第三電極
137 センサチップ
141 センサチップ
143 凹部
145 段差
163 第一基材
165 第二基材
201 センサチップ
203 基材
205 第一電極
207 第二電極
209 細胞
301 センサチップ
303 基材
305 第一電極
307 第二電極
309 細胞
311 圧電素子
401 センサチップ
403 基材
405 第一電極
407 第二電極
409 細胞
411 カンチレバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の特定の荷電状態にある粒子を捕集して検出する装置であって、
前記液体試料が配置される試料配置部と、
前記試料配置部に設けられるとともに、一方の面が前記粒子と接触可能に設けられた第一電極と、
前記試料配置部に設けられるとともに前記第一電極から離隔して設けられた第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加し、前記粒子を前記第一電極の前記一方の面の近傍に捕集する電圧印加手段と、
前記電圧印加手段が前記電圧を印加した状態で、前記第一電極と前記粒子との相互作用を計測し、計測結果に基づき前記粒子を検出する検出手段と、
を含む、測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、
前記第一電極の他方の面側から前記第一電極に光を入射させる光学系をさらに備え、
前記第一電極が膜状であって、
前記検出手段が、前記第一電極の前記他方の面で反射した前記光の特性を表面プラズモン共鳴法により計測するように構成された、測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測定装置において、
前記試料配置部が、基材に設けられた液溜であって、
前記第一電極が前記液溜の底面の一部を構成する、測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の測定装置において、
前記液溜の底部の特定箇所に凹部が設けられ、
前記第一電極が、前記凹部の底面を構成している、測定装置。
【請求項5】
請求項2乃至4いずれかに記載の測定装置において、
前記第二電極が前記第一電極の側方上部に配置された、測定装置。
【請求項6】
請求項2乃至5いずれかに記載の測定装置において、
前記第一電極および前記第二電極から離隔して前記試料配置部に設けられるとともに、一方の面が前記粒子と接触可能に設けられた膜状の第三電極をさらに含み、
前記電圧印加手段が、前記第一電極と前記第二電極との間および前記第二電極と前記第三電極との間に電圧を印加して、前記粒子を前記第一電極および前記第三電極の近傍に捕集し、
前記光学系が、前記第一電極の前記他方の面で反射した前記光を、前記第三電極の他方の面側から前記第三電極に入射させるとともに、
前記検出手段が、前記第一電極および前記第三電極で反射した前記光の特性を表面プラズモン共鳴法により計測する、測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の測定装置において、
前記粒子が細胞であって、
前記電圧印加手段が、前記第一電極の前記一方の面にアポトーシスを起こした前記細胞を吸着させるように前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加した状態で、前記検出手段が前記第一電極と前記細胞との相互作用の有無を測定し、
前記細胞のアポトーシスの検出に用いられる、測定装置。
【請求項8】
液体試料中の特定の荷電状態にある粒子を捕集して検出する方法であって、
前記粒子を含む前記液体試料を第一電極の一方の面に接触させる第一ステップと、
前記第一電極と前記第一電極から離隔して設けられた第二電極との間に電圧を印加する第二ステップと、
前記第一ステップ中かつ前記第二ステップの後、前記第一電極と前記粒子との相互作用を計測し、計測結果に基づき前記粒子を検出する第三ステップと、
を含む、測定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の測定方法において、
前記第三ステップにおいて、前記第一電極の他方の面側から前記第一電極に光を入射し、前記第一電極の前記他方の面で反射した前記光の特性を表面プラズモン共鳴法により計測する、測定方法。
【請求項10】
請求項9に記載の測定方法において、
前記第一ステップにおいて、前記第一電極および前記第二電極から離隔して設けられるとともに一方の面が前記粒子と接触可能に設けられた膜状の第三電極と、前記第二電極と、の間に電圧を印加し、
前記第二ステップにおいて、前記第一電極の前記一方の面および前記第三電極の前記一方の面に前記液体試料を接触させ、
前記第三ステップにおいて、前記第一電極の前記他方の面で反射した前記光を、前記第三電極の他方の面側から前記第三電極に入射させ、前記第一電極および前記第三電極で反射した前記光の特性を表面プラズモン共鳴法により計測する、測定方法。
【請求項11】
請求項8乃至10いずれかに記載の測定方法において、
前記粒子が細胞であって、
前記第一ステップにおいて、前記第一電極の前記一方の面にアポトーシスを起こした前記細胞を吸着させるように前記第一電極と前記第二電極との間に電圧を印加して、
前記液体試料に含まれる前記細胞のアポトーシスを検出する、測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−96309(P2008−96309A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279078(P2006−279078)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(506027941)株式会社ESPINEX (6)
【Fターム(参考)】