説明

測定装置および測定方法

【課題】 測定対象物由来の物理量を安定して測定することができる測定装置および測定方法を提供する。
【解決手段】 互いの接地が接続された静電容量変換部11,21から、静電容量式変位センサ12,22に、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加して、測定対象物30の厚さを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて測定対象物由来の物理量を測定する測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定対象物に対向した位置に配置される測定ヘッドを備え、その測定対象物とその測定ヘッドとの間の距離に応じて変化する、その測定対象物とその測定ヘッドとの間の静電容量に対応する電圧等の物理量を出力する静電容量式変位計が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、測定ヘッドであるセンサ電極に、振幅が制御された交流信号を印加することにより、測定対象物とセンサ電極との間の静電容量が微少であっても高精度にかつ安定して静電容量に対応する物理量を出力することができる静電容量式変位計が提案されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、測定ヘッドからの静電容量を表わす信号が入力される演算増幅器と、その演算増幅器からの出力信号が入力されるローパスフィルタを備え、ローパスフィルタの帯域内に混入するノイズを防止することにより、高精度にかつ安定して静電容量に対応する物理量を出力することができる静電容量式変位計が提案されている。
【0005】
ここで、複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて測定対象物由来の物理量を測定する測定装置が知られている。このような測定装置の1つに厚さ測定装置がある。この厚さ測定装置では、2台の静電容量式変位計の測定ヘッドを互いに対向させて配置し、これら双方の測定ヘッドの間に測定対象物を配置してこれら2台の静電容量式変位計から出力された2つの物理量に基づいて、測定対象物の厚さを測定する。この厚さ測定装置は、測定対象物を、2台の静電容量式変位計で挟んで測定するものであるため、測定対象物が反っていたりうねっていたりしていても、測定対象物の厚さを正確に測定することができる。
【0006】
図1は、従来の厚さ測定装置の構成を示す図である。
【0007】
図1に示す厚さ測定装置100には、第1の静電容量式変位計110と、第2の静電容量式変位計120と、厚さ算出部100_1とが備えられている。第1の静電容量式変位計110は、静電容量変換部111と静電容量式変位センサ112を有する。これら静電容量変換部111と静電容量式変位センサ112は、ケーブル113で接続されている。また、第2の静電容量式変位計120は、静電容量変換部121と静電容量式変位センサ122を有する。これら静電容量変換部121と静電容量式変位センサ122は、ケーブル123で接続されている。
【0008】
さらに、各静電容量変換部111,121の各接地は、導線で互いに接続されているとともに測定対象物30に接続されている。
【0009】
静電容量式変位センサ112,122は、互いに対向して配置されており、これら静電容量式変位センサ112,122の間には、測定対象物30が配置されている。測定対象物30としては、導体や半導体がある。
【0010】
静電容量変換部111,121は、静電容量式変位センサ112,122で検出した静電容量を物理量である電圧に変換し、静電容量式変位センサ112,122と測定対象物30間の距離に比例した出力電圧E10,E20を出力する。これらの出力電圧E10,E20は、厚さ算出部100_1に入力される。
【0011】
静電容量式変位センサ112,122間の距離(D)は、既知の厚さtの測定対象物30を配置し、測定対象物30と各静電容量式変位センサ112,122との距離を測定し、その値をGAP・112、GAP・122とすると、各距離と測定対象物30の既知の厚さの合計(D=t+GAP・112+GAP・122)から算出する。厚さ算出部100_1には、この距離(D)に対応した基準電圧が格納される。測定対象物30を測定する場合には、その距離(D)に対応した基準値からそれぞれの静電容量式変位センサ112,122の出力に対応する電圧E10,E20が表わす電圧値を引き算して厚さを表わす信号αを厚さ算出部100_1から出力する。このようにして、厚さ測定装置100で測定対象物30の厚さを測定する。
【特許文献1】特開平9−280806号公報
【特許文献2】特開2004−354270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した厚さ測定装置100において、測定対象物30の厚さを安定して測定するためには、静電容量変換部111,121それぞれの接地および測定対象物30を共通の電位(直流電圧DC0V)にする必要がある。ここで、静電容量変換部111,121どうしの接地を共通の電位にするには、上述したように、静電容量変換部111,121の接地どうしを導線で接続すれば済み、従って静電容量変換部111,121どうしの接地を共通の電位にすることは容易である。
【0013】
しかし、静電容量変換部111,121の接地と測定対象物30を共通の電位にするにあたっては、以下の問題がある。
【0014】
測定対象物30が、例えばシリコンウエハなどの製品である場合、導線との接触を避けたい場合がある。また、測定の手間を省くために、静電容量変換部111,121の接地と直接導通を取ることが困難な場合も多い。そのため、例えば、測定対象物30を載せるための金属製の測定台を設け、その上に測定対象物30を載せることで導通を取るようにしたり、また、測定対象物30を測定台の金属に接触させたくない場合には、その測定台の表面に樹脂加工などを施す等の工夫が行なわれている。ここで、測定台の表面上の樹脂を極力薄くしたり、測定対象物に反りや歪みがあり平坦でない場合などには、バキューム機構を設け台座に吸着させるシステムを構築する必要がある。
【0015】
ここで、測定対象物30と静電容量変換部111,121の接地との間を同電位にすることが困難な場合、測定対象物30と静電容量変換部111,121の接地との間にインピーダンスが生じる。このインピーダンスには、静電容量変換部111,121からのキャリア電流が流れるため、測定誤差が発生する。また、測定環境によってはインピーダンスに変化が生じ、測定が不安定になるという問題も発生する。
【0016】
従って、2台の静電容量式変位計110,120および厚さ算出部100_1を使用して測定対象物30の厚さを測定する場合、インピーダンスに流れる電流が比較的大きい場合もあり、またインピーダンスは測定環境によって変化するため、安定した測定を行なうことは困難である。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑み、測定対象物由来の物理量を安定して測定することができる測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明の測定装置は、測定対象物に対向した位置に配置される測定ヘッドを備え、その測定対象物とその測定ヘッドとの間の距離に応じて変化する、その測定対象物とその測定ヘッドとの間の静電容量を求める静電容量式変位計を複数台用意し、これら複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドそれぞれを測定対象物に対向させて配置し、これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいてその測定対象物由来の物理量を測定する測定装置であって、
上記複数台の静電容量式変位計は、互いの接地を接続し、それぞれの測定ヘッドに、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加するものであることを特徴とする。
【0019】
図2は、本発明の測定装置の原理を説明するための等価回路を示す図である。
【0020】
尚、ここでは、便宜上、本発明の複数台の静電容量式変位計として、2台の静電容量式変位計の例で説明する。
【0021】
図2に示す静電容量C1Xは、2台の静電容量式変位計のうちの第1の静電容量式変位計を構成する第1の測定ヘッドと測定対象物間の第1の静電容量である。また、静電容量C2Xは、2台の静電容量式変位計のうちの第2の静電容量式変位計を構成する第2の測定ヘッドと測定対象物間の第2の静電容量である。さらに、インピーダンスZは、測定対象物と2台の静電容量式変位計の接地間のインピーダンスである。
【0022】
また、図2に示す等価回路には、第1,第2の静電容量式変位計のキャリア信号E1S,E2S、基準コンデンサの静電容量C1S,C2S、および第1,第2の静電容量式変位計を構成する増幅器(ともにゲインG=1)が示されている。
【0023】
ここで、図2に示す出力電圧E10、E20は次式で表わされる。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
ここで、
【0027】
【数3】

【0028】
【数4】

【0029】
尚、d1X,2Xは、C1X,C2Xの電極間ギャップ(第1,第2の測定ヘッドと測定対象物との距離)である。また、S1X,S2XはC1X,C2Xの電極面積、εは誘電率である。
【0030】
上記の式(1),(2)において、
【0031】
【数5】

【0032】
とすることで、出力電圧E10、E20は、第1,第2の測定ヘッドと測定対象物間の距離に比例させることができる。
【0033】
従来では、インピーダンスZを0に近づけるようにしているが、本発明では、インピーダンスZに掛かる式(6)を
【0034】
【数6】

【0035】
にする。即ち、第1,第2の測定ヘッドそれぞれに、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加する。これにより、E2S=−E1S、Z2S=Z1Sとする。このようにすることにより、測定対象物と2台の静電容量式変位計の接地との間にインピーダンスが生じた場合であっても、キャリア信号が互いに打ち消されるため、そのインピーダンスには、キャリア電流が流れることはなく、従って測定対象物と2台の静電容量式変位計の接地間のインピーダンスの影響を受けず、測定結果を、第1,第2の測定ヘッドと測定対象物間の距離、すなわち変位に比例させることができる。従って、測定対象物由来の物理量を安定して測定することができる。
【0036】
ここで、当該測定装置は、2台の静電容量式変位計の測定ヘッドを互いに対向させて配置し、これら双方の測定ヘッドの間に測定対象物を配置してこれら2台の静電容量式変位計で求められた2つの静電容量に基づいてその測定対象物の厚さを測定する厚さ測定装置であることが好ましい。
【0037】
この厚さ測定装置によれば、測定対象物の厚さを安定して測定することができる。
【0038】
また、当該測定装置は、複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドを測定対象物である回転体に対向させて配置し、これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて上記回転体の物理量を測定する回転体測定装置であることも好ましい態様である。
【0039】
この回転体測定装置によれば、回転体の物理量である偏心,真円度,振動,凸凹等を安定して測定することができる。
【0040】
さらに、当該測定装置は、複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドを測定対象物である振動体に対向させて配置し、これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて上記振動体の振動を測定する振動体測定装置であることも好ましい。
【0041】
この振動体測定装置によれば、振動体の振動を安定して測定することができ、従って振動体の変形状態を正確に解析することができる。
【0042】
また、上記目的を達成する本発明の測定方法は、
測定対象物に対向した位置に配置される測定ヘッドを備え、その測定対象物とその測定ヘッドとの間の距離に応じて変化する、その測定対象物とその測定ヘッドとの間の静電容量を求める静電容量式変位計を複数台用意し、
これら複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドそれぞれを測定対象物に対向させて配置し、
これら複数台の静電容量式変位計の接地どうしを接続し、それぞれの測定ヘッドに、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加して、これら複数台の静電容量式変位計を用いて静電容量を測定し、
これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいてその測定対象物由来の物理量を求めることを特徴とする。
【0043】
本発明の測定方法は、複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドそれぞれを測定対象物に対向させて配置し、これら複数台の静電容量式変位計の接地どうしを接続し、それぞれの測定ヘッドに、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加する方法であるため、測定対象物と複数台の静電容量式変位計の接地との間にインピーダンスが生じた場合であっても、キャリア信号が互いに打ち消される。従って、インピーダンスには、キャリア電流が流れることはなく、測定対象物と複数台の静電容量式変位計の接地間のインピーダンスの影響を受けず、測定結果を、複数の測定ヘッドと測定対象物間の距離、すなわち変位に比例させることができる。従って、測定対象物由来の物理量を安定して測定することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の測定装置および測定方法によれば、測定対象物由来の物理量を安定して測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0046】
図3は、本発明の測定装置の第1実施形態である厚さ測定装置の概略構成図である。
【0047】
尚、図3に示す厚さ測定装置1には、本発明の測定方法の一実施形態が適用されている。この厚さ測定装置1には、第1の静電容量式変位計10と、第2の静電容量式変位計20と、厚さ算出部1_1とが備えられている。ここで、第1の静電容量式変位計10と第2の静電容量式変位計20が、本発明にいう複数台の静電容量式変位計の一例に相当する。
【0048】
第1の静電容量式変位計10は、静電容量変換部11と静電容量式変位センサ12(本発明にいう測定ヘッドの一例に相当)を有する。静電容量変換部11と静電容量式変位センサ12は、ケーブル13で接続されている。
【0049】
また、第2の静電容量式変位計20は、静電容量変換部21と静電容量式変位センサ22(本発明にいう測定ヘッドの他の一例に相当)を有する。静電容量変換部21と静電容量式変位センサ22は、ケーブル23で接続されている。
【0050】
さらに、各静電容量変換部11,21の各接地は、導線で互いに接続されている。
【0051】
静電容量式変位センサ12,22は、互いに対向して配置されており、これら静電容量式変位センサ12,22の間には、測定対象物30が配置されている。測定対象物30としては、導体や半導体がある。
【0052】
この厚さ測定装置1で測定対象物30の厚さを測定するには、静電容量変換部11,21から静電容量式変位センサ12,22に、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加する。詳細には、静電容量変換部11,21は、共通の交流電力から位相が互いに180°異なる2つのキャリア信号を得て、各キャリア信号をそれぞれの静電容量式変位センサ12,22に印加する。以下、図4を参照して説明する。
【0053】
図4は、図3に示す厚さ測定装置の等価回路を示す図である。
【0054】
尚、図3に示す厚さ算出部1_1の等価回路は図示省略する。
【0055】
図4に示す等価回路には、図3に示す厚さ測定装置1を構成する静電容量式変位センサ12と測定対象物30間の静電容量C1Xが示されている。また、静電容量式変位センサ22と測定対象物30間の静電容量C2Xも示されている。さらに、静電容量C1Xと静電容量C2Xとのノードと接地間に挿入されたインピーダンスZ(抵抗)も示されている。
【0056】
また、図4に示す等価回路には、交流電力Eからの、静電容量変換部11,21内部の増幅器(ゲインG=1,−1)を介して位相が互いに180°異なる2つのキャリア信号E’,−E’が入力される2つの混合器、静電容量変換部11,21内部の基準コンデンサの静電容量C1S,C2S、および静電容量変換部11,21内部の増幅器(ともにゲインG=1)が示されている。また、図3に示す静電容量変換部11,12からの出力電圧E10,E20も示されている。
【0057】
ここで、出力電圧E10,E20は、次式で表わされる。
【0058】
【数7】

【0059】
【数8】

【0060】
ここで、d1X,2Xは、C1X,C2Xの電極間ギャップ(静電容量式変位センサ12,22と測定対象物30との距離)である。また、S1X,S2XはC1X,C2Xの電極面積、εは誘電率である。
【0061】
上記出力電圧E10,E20は、図3に示す厚さ算出部1_1に入力される。
【0062】
静電容量式変位センサ12,22間の距離(D)は、既知の厚さtの測定対象物30を配置し、測定対象物30と各静電容量式変位センサ12,22との距離を測定し、その値をGAP・12、GAP・22とすると、各距離と測定対象物30の既知の厚さの合計(D=t+GAP・12+GAP・22)から算出する。厚さ算出部1_1には、この距離(D)に対応した基準電圧が格納される。測定対象物30を測定する場合には、その距離(D)に対応した基準値からそれぞれの静電容量式変位センサ12,22の出力に対応する電圧E10,E20が表わす電圧値を引き算して厚さを表わす信号αを厚さ算出部1_1から出力する。このようにして、厚さ測定装置1で測定対象物30の厚さを測定する。
【0063】
上述したように、第1実施形態の厚さ測定装置1では、静電容量式変位センサ12,22に、位相が互いに180°異なる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号E’,−E’が印加される。このため、測定対象物30と静電容量変換部11,21の接地との間にインピーダンスが生じた場合であっても、キャリア信号E’,−E’が互いに打ち消されることとなり、そのインピーダンスには、静電容量変換部11,21からのキャリア電流が流れることはなく、従って測定対象物30と静電容量変換部11,12の接地間のインピーダンスの影響を受けず、測定結果を、静電容量式変位センサ12,22と測定対象物30間の距離、すなわち変位に比例させることができる。従って、測定対象物30の厚さを安定して測定することができる。
【0064】
ここで、実測による従来方式と発明方式(第1実施形態)の違いを表1を参照して説明する。
【0065】
表1には、実測による従来方式と発明方式の違いが示されている。
【0066】
【表1】

【0067】
ここでは、厚さ500μmの金属板の厚さ測定を例にとり、測定対象物と接地間のインピーダンスZを変更した場合の従来方式(前述した図1)と本発明方式(図3)の測定結果の違いを示す。厚さ(μm)は静電容量式変位センサ間の距離から2つの静電容量式変位センサと測定対象物との距離(変位値)を引いた値である。インピーダンスZとして測定対象物と接地間に抵抗を挿入し、0MΩ,1MΩ,ほぼ無限大と変化させたときの厚さ測定を行なった。従来方式はインピーダンスZが大きくなると測定結果(厚さ)は小さくなり、ほぼ無限大では測定不能となった。詳細には、インピーダンスZが0MΩでは厚さは500μmであるものの、インピーダンスZが1MΩでは厚さは470μmと小さく、さらにインピーダンスZがほぼ無限大では測定不能となった。これに対し、本発明方式では、インピーダンスZを0MΩ,1MΩ,ほぼ無限大と変化させても厚さはいずれも500μmであり、測定結果に大きな変化は見られず、安定した測定を行なうことができた。従って、本発明の第1実施形態の有効性を確認することができた。
【0068】
図5は、本発明の測定装置の第2実施形態である回転体測定装置の概略構成図である。
【0069】
尚、図3に示す厚さ測定装置1と同じ構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0070】
図5に示す回転体測定装置2には、第1の静電容量式変位計10と、第2の静電容量式変位計20と、偏心算出部2_1と、オシロスコープ2_2とが備えられている。
【0071】
第1の静電容量式変位計10は、静電容量変換部11と静電容量式変位センサ12を有する。静電容量変換部11と静電容量式変位センサ12は、ケーブル13で接続されている。
【0072】
また、第2の静電容量式変位計20は、静電容量変換部21と静電容量式変位センサ22を有する。静電容量変換部21と静電容量式変位センサ22は、ケーブル23で接続されている。
【0073】
さらに、各静電容量変換部11,21の各接地は、導線で互いに接続されている。
【0074】
静電容量式変位センサ12,22は、測定対象物である回転体40に対向して、この図5に示すように、互いに90°ずれた位置に配置されている。
【0075】
この回転体測定装置2では、静電容量変換部11,21から静電容量式変位センサ12,22に、位相の総和が0°となる(位相が互いに180°異なる)、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加する。
【0076】
静電容量変換部11,21から出力される電圧E10,E20は、回転体40と静電容量式変位センサ12,22間の距離に比例した電圧である。回転体40の形状に依存する距離の変化は、電圧E10,E20から求めることができる。これらの電圧E10,E20から位相の異なる同じ波形信号を得ることができる。この信号の回転1次成分のみを抽出した信号の振幅は偏心、回転2次以上の成分を抽出した信号は回転体固有の形状を表し、最大値と最小値の差(peak−to−peak値)が真円度となる。静電容量式変位センサ12,22の取り付け位置を90°ずらしていることから位相計算を行い、偏心など回転体40の変形方向を算出することができる。
【0077】
ここで、回転体40に振動成分が含まれる場合、電圧E10と電圧E20は同じ波形にならず、これら電圧E10,E20から振動の解析を行なうことも可能となる。簡単な手法としては、振動が発生しないようにゆっくりとした回転をさせ、前述した回転体40の偏心、真円度などの形状をそれぞれの静電容量式変位センサ12,22で測定し、その結果を装置内に基準形状として格納しておく。その後、通常回転をさせ、同様の測定を行なう。その測定結果から位相合わせをした基準形状を差し引くことで、振動成分を抽出することができる。2つのデータから位相計算することで、振動方向のベクトルも算出可能となる。
【0078】
また、各電圧E10,E20はオシロスコープ2_2に入力され、このオシロスコープ2_2の画面上にリサージュ波形が表示され、これにより回転体40の偏心についての評価が行なわれる。
【0079】
第2実施形態の回転体測定装置2では、第1の静電容量式変位計10と第2の静電容量式変位計20との2台の静電容量式変位計で回転体40の偏心を測定するものであるため、1台の静電容量式変位計で回転体40の偏心を測定する場合と比較し、回転体40の偏心を安定して測定することができる。また、回転体40と静電容量変換部11,21の接地との間にインピーダンスが生じた場合であっても、キャリア信号が互いに打ち消されるため、そのインピーダンスには、静電容量変換部11,21からのキャリア電流が流れることはなく、従って回転体40と静電容量変換部11,12の接地間のインピーダンスの影響を受けず、回転体40の偏心をより安定して測定することができる。
【0080】
従来の回転体測定装置で回転体を測定する場合には、ブラシなどを介して回転体と2台の静電容量式変位計の接地との導通を取る必要がある。このため、ブラシが擦り減ったり接触不良を防止したりするための対策や注意が必要である。また、回転軸にボールベアリングを使用している場合であって、ベアリングを固定している治具と導通を取るようにする場合があるが、ベアリングは必ずしも電気的な導通を保証しているものではないため、測定結果が不安定になる恐れがある。さらに、エアベアリングなどの精密スピンドルにおいてはベアリング固定部と回転部間では導通が無いため、回転体と導通を取る必要があるものの、精密スピンドルにおいては精密な回転をさせている場合が多いため、回転体と導通を取ることは困難である。また、回転体と導通を取るにあたり、回転体に直接接触させたくない場合も少なくない。一方、第2実施形態の回転体測定装置2では、静電容量変換部11,12の接地と回転体40との導通を取る必要はないため、容易な測定が可能となる。
【0081】
図6は、本発明の測定装置の第3実施形態である振動体測定装置の概略構成図である。
【0082】
尚、図3に示す厚さ測定装置1と同じ構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0083】
図6に示す振動体測定装置3には、第1の静電容量式変位計10と、第2の静電容量式変位計20と、変形状態算出部3_1とが備えられている。ここで、第1,第2の静電容量式変位計10,20が有する静電容量式変位センサ12,22は、測定対象物である平板状の振動体50の表面側に、その表面から所定距離離れた位置に並べて配置されている。また、この振動体測定装置3には、振動体50に振動を付与するための加振器60が備えられている。
【0084】
振動の無い状態での測定した電圧の差(E20−E10)は、振動体50の固有形状と測定系の物理的な状態を含めた基準状態として変形状態算出部3_1に格納する。
【0085】
振動している状態での電圧の差(E20−E10)と格納した基準状態との差が変形状態を表す。この差信号は信号γとして出力する。静電容量式変位センサ22の位置を移動して同様の多点測定を行なうことで、振動体30の変形状態をより詳細に解析できる。
【0086】
この振動体測定装置3では、静電容量変換部11,21から静電容量式変位センサ12,22に、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加する。このため、振動体50と静電容量変換部11,21の接地との間にインピーダンスが生じた場合であっても、キャリア信号が互いに打ち消されるため、そのインピーダンスには、静電容量変換部11,21からのキャリア電流が流れることはなく、従って振動体50と静電容量変換部11,12の接地間のインピーダンスの影響を受けず、振動体50の振動に伴う変形状態を安定して測定することができる。
【0087】
また、従来の振動体測定装置において、振動する測定対象物に導線を接続する場合、振動に耐えられるような強度にするために太い導線を使用すると、測定対象物の挙動に影響する。一方、細い導線を使用すると断線が発生する恐れが考えられる。第3実施形態の振動体測定装置3では、静電容量変換部11,12の接地と振動体50との導通を取る必要はないため、容易な測定が可能となる。
【0088】
また、この第3実施形態の振動体測定装置3では、変位測定の測定対象となる導体が絶縁体に覆われている場合であっても、同じ場所の変位を測定する場合は、安定した変位の変化測定が可能である。それは、絶縁体の厚さ、比誘電率が同じという条件が成り立つことで、測定結果には常に一定の誤差が含まれ、変化量は変位値の差分となるため、その影響を無視することができるためである。
【0089】
図7は、本発明の測定装置の第4実施形態である厚さ測定装置の等価回路を示す図である。
【0090】
前述した、図3に示す厚さ測定装置1では、2台の静電容量式変位計の例で説明したが、第4実施形態の厚さ測定装置には、4台の静電容量式変位計が備えられており、図7には、これら4台の静電容量式変位計の等価回路が示されている。4台の静電容量式変位計は、4つの静電容量式変位センサ(第1,第2,第3,第4の静電容量式変位センサ)を有する。
【0091】
また、第4実施形態の厚さ測定装置には、4台の静電容量式変位計の各2台の静電容量式変位計に対応する2台の厚さ算出部が備えられているが、図7では、これら2台の厚さ算出部の等価回路は図示省略する。
【0092】
この図7には、第1の静電容量式変位センサと測定対象物との間の静電容量C1Xが示されている。また、第2の静電容量式変位センサと測定対象物との間の静電容量C2Xが示されている。さらに、第3の静電容量式変位センサと測定対象物との間の静電容量C3X、および第4の静電容量式変位センサと測定対象物との間の静電容量C4Xが示されている。また、静電容量C1X,C2X,C3X,C4Xの共通ノードと接地間に挿入されたインピーダンスZも示されている。
【0093】
また、この等価回路には、第1,第2,第3,第4の静電容量式変位計におけるキャリア信号E1S,E2S,E3S,E4Sと、基準コンデンサの静電容量C1S,C2S,3S,C4Sと、4つの増幅器(ともにゲインG=1)が示されている。
【0094】
ここで、図7に示す、第1の静電容量式変位計の出力電圧E10は次式で表わされる。
【0095】
【数9】

【0096】
インピーダンスZには各静電容量式変位計からのキャリア電流が流れ、第1の静電容量式変位計から出力される電圧の誤差となる。これは他の3台の静電容量式変位計から出力される電圧も同様の誤差となり、使用台数を増やした場合には、出力される電圧の誤差が大きくなることを示している。
【0097】
ここで、第4実施形態では、
【0098】
【数10】

【0099】
となる。これにより、
【0100】
【数11】

【0101】
となる。従って、
【0102】
【数12】

【0103】
となる。このようにすることにより、出力される電圧に、インピーダンスZに関わる誤差が発生することを防止している。これに対し、従来技術では、台数を増やした分だけインピーダンスZに流れる電流が増加するため、出力される電圧の誤差も大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】従来の厚さ測定装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の測定装置の原理を説明するための等価回路を示す図である。
【図3】本発明の測定装置の第1実施形態である厚さ測定装置の概略構成図である。
【図4】図3に示す厚さ測定装置の等価回路を示す図である。
【図5】本発明の測定装置の第2実施形態である回転体測定装置の概略構成図である。
【図6】本発明の測定装置の第3実施形態である振動体測定装置の概略構成図である。
【図7】本発明の測定装置の第4実施形態である厚さ測定装置の等価回路を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1,100 厚さ測定装置
1_1,100_1 厚さ算出部
2 回転体測定装置
2_1 偏心算出部
2_2 オシロスコープ
3 振動体測定装置
3_1 変形状態算出部
10,110 第1の静電容量式変位計
11,21,111,121 静電容量変換部
12,22,112,122 静電容量式変位センサ
13,23,113,123 ケーブル
20,120 第2の静電容量式変位計
30 測定対象物
40 回転体
50 振動体
60 加振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に対向した位置に配置される測定ヘッドを備え、該測定対象物と該測定ヘッドとの間の距離に応じて変化する、該測定対象物と該測定ヘッドとの間の静電容量を求める静電容量式変位計を複数台用意し、これら複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドそれぞれを測定対象物に対向させて配置し、これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて該測定対象物由来の物理量を測定する測定装置であって、
前記複数台の静電容量式変位計は、互いの接地を接続し、それぞれの測定ヘッドに、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加するものであることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
当該測定装置は、2台の静電容量式変位計の測定ヘッドを互いに対向させて配置し、これら双方の測定ヘッドの間に測定対象物を配置してこれら2台の静電容量式変位計で求められた2つの静電容量に基づいて該測定対象物の厚さを測定する厚さ測定装置であることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
当該測定装置は、複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドを測定対象物である回転体に対向させて配置し、これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて前記回転体の物理量を測定する回転体測定装置であることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項4】
当該測定装置は、複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドを測定対象物である振動体に対向させて配置し、これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて前記振動体の振動を測定する振動体測定装置であることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項5】
測定対象物に対向した位置に配置される測定ヘッドを備え、該測定対象物と該測定ヘッドとの間の距離に応じて変化する、該測定対象物と該測定ヘッドとの間の静電容量を求める静電容量式変位計を複数台用意し、
これら複数台の静電容量式変位計の測定ヘッドそれぞれを測定対象物に対向させて配置し、
これら複数台の静電容量式変位計の接地どうしを接続し、それぞれの測定ヘッドに、位相の総和が0°となる、同一周波数の正弦波状のキャリア信号を印加して、これら複数台の静電容量式変位計を用いて静電容量を測定し、
これら複数台の静電容量式変位計で求められた複数の静電容量に基づいて該測定対象物由来の物理量を求めることを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−109208(P2009−109208A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278641(P2007−278641)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】