説明

測長機能付ボールペン

【課題】筆記具としての機能を損うことなく、正確な測長が可能な測長機能付ボールペンを提供する。
【解決手段】着磁されたボール12を抱持するホルダ14の近傍にMI(磁気インピーダンス)素子を有する磁気センサ16,18を、その感磁方向がボール12とホルダ14による磁力線に直角になるように対向配置する。磁気センサ16,18の出力においてその増加パターンおよび減少パターンを検出することによってボール12の回転を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記された描線の長さを測定する機能を有する測長機能付ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ボールペンなどの筆記具の先端にローラを取り付け、筆記の際に同時にローラも筆記面に接触させるようにしてローラの回転を検出することにより測長してデジタル表示する、測長機能を有する筆記具が記載されている。このように、描線を筆記する部分と測長する部分が別々であると、正確な測長を行うことができず、また、筆記具としての機能を損いやすい。
【0003】
特許文献2には、ボールペンのボールに着磁し、ボールを抱持するホルダの内部にホール素子を設け、着磁したボールの回転をホルダの内部に設けられたホール素子で検出することが記載されている。特許文献3には、ボールの内部にセンサと検出回路を設け、その検出結果をボールの表面に設けたアンテナからホルダに設けられたコイルへ送信することが記載されている。しかしながら、直径が1mm以下のボールやそれを抱持するホルダの内部にセンサや検出回路を配置することは実際には非常に困難であり、なおかつ、リフィール交換を事実上不可能にしてしまい、ボールペンとしての機能が損なわれる。
【0004】
なお、特許文献4,5は筆記具に関するものではないが、スチールラジアルタイヤのスチールベルトが弱く着磁されていることを利用して、車両のタイヤの回転を、車両内でタイヤの近傍に配置された検出感度の高い磁気インピーダンス(MI)素子で検出することが記載されている。具体的には、磁気検出方向が平行または同一軸になるように配置された一対のMIセンサの検出出力を差動増幅し、閾値と比較することによってタイヤの回転が検出される。
【0005】
【特許文献1】実公平3−31586号公報
【特許文献2】実開昭63−104079号公報
【特許文献3】特開2004−264952号公報
【特許文献4】特許第3014659号公報
【特許文献5】特開平11−14643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、筆記性やリフィール交換性などのボールペンとしての機能を損うことなく正確な測長が可能な測長機能付きボールペンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、着磁されたボールと、該ボールを回転自在に抱持するホルダであって、ボールの表面にインキを供給するためのインキ誘導孔を有するホルダと、該ホルダの外側で該ホルダの近傍に配置された磁気検出部と、該磁気検出部の検出出力に基づき、ボールの回転を検出することにより描かれた線の長さを算出して出力するデータ処理部とを具備する測長機能付きボールペンが提供される。
このボールペンにおいて、前記ホルダもまた着磁されており、前記磁気検出部はその感磁方向が前記ボールと該ホルダによる磁力線の方向と交差するように配置されることが好ましい。
例えば、前記磁気検出部は前記ホルダを挟んで対向して配置された少なくとも1対の磁気検出素子を含み、前記データ処理部は、対向して配置された磁気検出素子の検出出力の増加パターンおよび減少パターンを検出することによってボールの回転を検出する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明の測長機能付ボールペン10の概念図である。ボール12は着磁されており、好ましくはそれを抱持するホルダ14もまた着磁されている。ホルダ14の外側にホルダ14を挟んで2つの磁気センサ16,18が設けられており、矢印20,22で示すそれらの感磁方向はホルダ14がつくる磁界の方向に直角であり、ボール12およびホルダ14がつくる磁界の方向と交差しており、同じ方向を向いている。磁気センサ16,18としては、例えば前述の特許文献4,5に記載の、高い磁気検出感度を示す磁気インピーダンス(MI)素子とその検出回路からなるMIセンサを用いることが好ましい。
【0009】
磁気センサ16,18の感磁方向は、本来、磁界の検出には適さない、磁界に直角な方向であるが、筆記に併ってボール12が回転すると、図2の(a)欄に示すようなボールの回転に呼応した信号が得られる。図1のような、2つの磁気センサ16,18の感磁方向を同じ向きとする配置では2つの磁気センサ16,18から互いに逆位相で変化する信号が出力される一方、ボールペン10を手に持って振る時は(b)欄に示すように同相で変化する信号が出力される。
【0010】
一方、磁気センサ16,18の感磁方向を互いに対向する向きとする配置では、この同相/逆相の関係が逆になり、ペン振りの際には逆位相に、筆記の際には同相になる。
【0011】
従って、両センサからの出力が逆位相のとき(後者の場合では同相のとき)のセンサ出力の変化からボール12の回転を検出することができる。なお、特許文献4,5では磁気検出方向が平行または同一軸である2つのセンサの出力を差動増幅し、閾値と比較することによりタイヤの回転を検出している。本発明では、後に詳述するように、両センサの出力のそれぞれから増加および減少のパターンを検出することにより、ボールの回転を検出する。
【0012】
図3は本発明の一実施例に係る測長機能付ボールペンの斜視図であり、図中、24は測長結果をディジタル表示するLCD表示器である。図4はボールペンの中心軸を含みLCD表示器24の面に垂直な平面で切った断面図、図5は中心軸を含みLCD表示器24の面に平行な平面で切った断面図、図6はボールペン10の先端部分の拡大断面図、図7は図6のA−Aによる断面図である。図4〜図7中で図1に示されている各構成要素に対応するものには同一の参照番号が付されている。
【0013】
図4〜図7(特に図6)から明らかなように、磁気センサ16,18はホルダ14に直接取り付けられておらず、軸筒30の側に固定されている。従って、ボール12、ホルダ14、インクチューブ32(図6)からなる替え芯の部分はボール12およびホルダ14が着磁されているだけでそれ以外は通常のボールペン替え芯と変わらず、容易に交換可能である。
【0014】
磁気センサ16,18の出力はリード線26,28を介してデータ処理部34へ入力される。データ処理部34では、磁気センサ16,18の出力に基づき、後述する論理に従ってボール12の回転が検出され、それに基いて描線の線長が計算されてLCD表示器24へディジタル表示される。36は電源となる電池である。
【0015】
図8はデータ処理部34のハードウェア構成の詳細を示すブロック図である。センサ16,18の電圧出力は、フィルタ38,40を経て、必要があれば増幅器42,44で増幅されてマイコン46に内蔵されたA/D変換器48によりディジタル信号に変換され、計数部50へ入力される。計数部50は以下に説明する処理によりセンサ出力の変化からボール12の回転を検出し、線長に換算してLCDドライバ52を経てLCD表示器24へ表示する。
【0016】
図9は計数部50における、ボール12の回転を検出する処理のフローチャートである。図9において、まず、過去の状態を示す変数Spをゼロに初期化し(ステップ1000)、センサ出力を取り込み(ステップ1002)、論理フィルタ処理を行う(ステップ1004)。論理フィルタ処理としては例えば、移動平均などを用いることができる。次に、論理フィルタ処理後のセンサ出力のそれぞれに対して、増加パターンおよび減少パターンの検出を行う(ステップ1006)。
【0017】
増加/減少パターンの検出では、例えばn回(例えばn=3)連続して増加するとき、増加パターンの検出とし、n回連続して減少するとき、減少パターンの検出とする。或いはまた、連続するn回のうちm回(例えばn=5、m=4)増加するとき、増加パターンの検出とし、m回減少するとき、減少パターンの検出としても良い。
【0018】
そして、チャネル1(センサ16)において増加パターンが検出され、かつ、チャネル2(センサ18)において減少パターンが検出されるとき(ステップ1008)、現在の状態を表わす変数Scに状態“a”を代入し(ステップ1010)、過去の状態を表わす変数Spが状態“b”を示していれば(ステップ1012)、ボール12の回転を示すカウント値をアップし(ステップ1014)、現在の状態を示す変数Scの値を過去の状態を示す変数Spに移し(ステップ1016)、センサ出力の過去データを更新して(ステップ1018)ステップ1002の処理へ戻る。
【0019】
また、チャネル1(センサ16)において減少パターンが検出され、かつ、チャネル2(センサ18)において増加パターンが検出されるとき(ステップ1020)、現在の状態を表わす変数Scに状態“b”を代入し(ステップ1022)、過去の状態を表わす変数Spが状態“a”を示していれば(ステップ1024)、ボール12の回転を示すカウント値をアップし(ステップ1014)、現在の状態を示す変数Scの値を過去の状態を示す変数Spに移し(ステップ1016)、センサ出力の過去データを更新して(ステップ1018)ステップ1002の処理へ戻る。
【0020】
上記以外の場合には、センサ出力の過去データの更新のみを行って(ステップ1018)、ステップ1002の処理へ戻る。
【0021】
以上のように、センサ出力の一方で増加パターンが検出され、かつ、他方で減少パターンが検出される状態を状態“a”または状態“b”とし、いずれにも該当しないときは前回の状態を維持する。なお、筆記せずにペン体を振ったときは、前述のように信号が同相で変化するので、状態“a”にも状態“b”にも該当しない。そして、状態が“a”から“b”へ、または“b”から“a”へと変化するとき、ボール12が半回転したものとして計数をカウントアップする。これにより、ボール12の回転を検出することができる。
【0022】
以上はセンサ16,18の検出方向が同じ向きである場合である。逆向きに配置される場合には、双方のセンサ出力で増加パターンが検出されるときを状態“a”とし、双方のセンサ出力で減少パターンが検出されるときを状態“b”として、上記の処理を行えば良い。
【0023】
図10はボールペン10で筆記したときの2つのセンサの出力と回転検出結果を示す。図中、検出された状態を“a”,“b”で示し、回転を検出したタイミングを縦の線で示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例に係る測長機能付ボールペンを概念的に示す図である。
【図2】筆記時およびペン振り時のセンサ出力を示す図である。
【図3】本発明の一実施例に係る測長機能付ボールペンの斜視図である。
【図4】図3のLCD表示器24の面に垂直な平面で切った断面図である。
【図5】図3のLCD表示器24の面に平行な軸で切った断面図である。
【図6】先端部分の拡大断面図である。
【図7】図6のA−Aによる断面図である。
【図8】データ処理部34のハードウェアの構成を示すブロック図である。
【図9】計数部50における処理のフローチャートである。
【図10】回転検出結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着磁されたボールと、
該ボールを回転自在に抱持するホルダであって、ボールの表面にインキを供給するためのインキ誘導孔を有するホルダと、
該ホルダの外側で該ホルダの近傍に配置された磁気検出部と、
該磁気検出部の検出出力に基づき、ボールの回転を検出することにより描かれた線の長さを算出して出力するデータ処理部とを具備する測長機能付きボールペン。
【請求項2】
前記ホルダもまた着磁されており、前記磁気検出部はその感磁方向が前記ボールと該ホルダによる磁力線の方向と交差するように配置される請求項1記載のボールペン。
【請求項3】
前記磁気検出部は前記ホルダを挟んで対向して配置された少なくとも1対の磁気検出素子を含み、
前記データ処理部は、対向して配置された磁気検出素子の検出出力の増加パターンおよび減少パターンを検出することによってボールの回転を検出する請求項1または2記載のボールペン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−143145(P2009−143145A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323745(P2007−323745)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】