説明

湿式コーンフラワーの製造方法及び湿式コーンフラワー

【目的】風味と物性が改善されたコーンフラワーを得ることができるコーンフラワーの製造方法を提供すること。
【構成】湿式コーンフラワーの製造方法。トウモロコシ粒中の澱粉が糊化をしない条件で温水に所定時間浸漬したものを粗砕する。該粗砕物から、胚芽と皮を除去したあと、さらに、50メッシュオンの硬質胚乳粗粒を除去して洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウモロコシを特定条件下で処理する湿式コーンフラワーの製造方法及び湿式コーンフラワーに関する。風味と物性が改善された湿式コーンフラワーを得ることができ、多様な食品への用途の拡大、さらには、需要の増大が期待できる湿式コーンフラワーの製造方法に係る発明である。
【背景技術】
【0002】
一般に、トウモロコシはドライミリング(乾式製粉(摩砕))により水を使わずに物理的に、皮と胚芽を除去しながら、粉砕してコーングリッツや(乾式)コーンフラワーとして一部の食品の原料として利用されている。すなわち、トウモロコシ粒を、乾式製粉で粗砕したものを、トウモロコシの表面の皮と胚芽を風選、篩別して除去し、トウモロコシの胚乳部分を穀粉(フラワー)として使用する。
【0003】
しかし、ドライミリングのコーングリッツやコーンフラワーは、独特の穀物臭やえぐ味、ざらつきがある。また、菓子やケーキ類を焼成する際の膨化性において、小麦粉、米粉と比較して劣る。これらの理由のため、主材料又は副材料として使用できる食品が限られていた。特に、高い膨化性が要求される米菓やベーカリー製品には使用不可であった。
【0004】
上記穀物臭やえぐ味を除去するために、穀類を溶剤(水を含む。)中で処理するいわゆる湿式法によるコーンフラワー等の製造方法が各種提案されている(特許文献1〜3等)。
【0005】
特許文献1には、穀物の粒状体又は粉状体に有機溶剤アルカリ液中で有機溶剤耐性プロテアーゼを作用させて処理する方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、「生雑穀類をアルカリ水溶液中で加温するか、又はアルコール含有アルカリ水溶液で処理する」方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、「トウモロコシ穀からドライミリングによって皮部と胚芽を除き、主として胚乳部よりなる部分を取得し、これを40〜65℃程度の温水中に攪拌しながら1h以上浸漬した後、水の存在下で40メッシュ以下に粉砕し、直ちにエンドペプチターゼを加えて攪拌しながら2h以上作用させ、以後、必要に応じて脱水乾燥させる」トウモロコシの加工法が記載されている。
【0008】
しかし、これらの方法は、アルカリ溶剤、有機溶剤、さらには、特殊な酵素を使用しなければならなかった。
【0009】
他方、トウモロコシはウェットミリング(湿式製粉(摩砕))によってもコーンスターチに精製され食品、工業用の原料として利用されている。
【0010】
ウェットミリングは、トウモロコシ穀粒を亜硫酸乳酸浸漬した後、粗砕して、皮・胚芽分離して得た乳液(ミルスターチ乳液)をさらに遠心分離により蛋白質を分離する方法である。
【0011】
しかし、ウェットミリングにより精製されたコーンスターチは、穀物臭やえぐ味はないものの、蛋白質がほとんど除去されているため、トウモロコシの風味がほとんど無く、また、米菓などに使用した場合、糊化した澱粉により粘着して生地ができない。やはり、これらの理由により使用できる食品が限られていた。
【0012】
また、ウェットミリングにおける亜硫酸乳酸浸漬、粗砕、皮と胚芽の分離した後の蛋白質分離前の中間製品から得られる澱粉と蛋白質の混合物は、浸漬中に薬品を用いるため、洗浄しても薬品臭や収斂味が残る。また、このものは、澱粉と蛋白質が亜硫酸乳酸浸漬により分離しているので、米菓などの場合、糊化澱粉の粘着性のため蒸練工程が困難で、穀粉として利用することはできなかった。
【特許文献1】特開平10−210942号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭63−14670号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開昭52−57352号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記にかんがみて、独特の穀物臭、えぐ味、及びざらついた食感などの欠点がなく風味(適度なコーン風味)が改善され、また、膨化性などの物性が改善された湿式コーンフラワーを得ることができる、上記従来技術に記載されていない新規な湿式コーンフラワーの製造方法を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、トウモロコシを温水浸漬し、粗砕後、胚芽と皮を除去し、硬質胚乳粗粒を除去する製法により得られた湿式コーンフラワーは、独特の穀物臭やえぐ味、及びざらついた食感を大幅に除去できることを見出して、下記構成の湿式コーンフラワーの製造方法に想到した。
【0015】
下記工程を含むことを特徴とする。
【0016】
1)トウモロコシ粒を70℃以下の温度条件で温水浸漬する温水浸漬工程。
【0017】
2)上記1)の温水浸漬後のトウモロコシ粒を粗砕する粗砕工程。
【0018】
3)上記2)の組成物の、胚芽と皮を除去するとともに、50メッシュオンの硬質胚乳粗粒を除去し、さらに洗浄する精製工程。
【0019】
上記精製工程において、150メッシュオンの硬質胚乳粗粒を除去することがより好ましい。
【0020】
また、温水浸漬の条件は、pH4〜8とし、かつ、温度:45〜70℃×時間:3〜50hとすることが、さらには、pH5〜7とし、かつ、温度55〜65℃×時間:3〜30hとすることがそれぞれ好ましい。
【0021】
本発明の湿式コーンフラワーは、55℃温水に対する可溶成分量(以下「温水可溶成分量」という。)3%(乾物量基準)以下(望ましくは1%以下)で、200g(乾物量基準)/Lの水溶液に染色液を数滴加えて攪拌調製した試料を、遠心分離法により中間分離層として分画される蛋白質結合澱粉の容量率(以下「蛋白質結合澱粉量」という。)が40〜100vol%(望ましくは50〜90vol%)であることを特徴とする。
【0022】
上記において、温水可溶成分が所定値以上となると、食品原料として使用した場合、えぐ味や穀物臭が残り易く。また、蛋白質結合澱粉量が過少であると、米菓での蒸練工程(α化)での過度の粘りや、バッター(batter)調製時のα化前のスラリー粘性不足などの不具合が発生して、穀粉(フラワー)の一般的な要求特性を満たし難い。
【0023】
上記構成のコーンフラワーは、例えば、前記各構成の湿式コーンフラワーの製造方法により容易に製造できる。
【0024】
当該構成の湿式コーンフラワーは、温水可溶成分量が少ないため、えぐ味や穀物臭の問題が発生しがたい。また、たんぱく質結合澱粉の残量が多いため、米菓等の製造に際して、糊化澱粉が粘着性を示さず、蒸練工程が容易となる。なお、本構成の湿式コーンフラワーは、例えば、前記各製造方法により容易に製造できる。
【0025】
そして、上記特定の特性・組成を有する湿式コーンフラワーは、主原料又は副原料として含有させて、あらゆる食品に、特に、米菓、ベーカリー製品に好適に使用可能である。
【0026】
また、上記製造方法で得られた湿式コーンフラワーは、加水分解させて糖化製品、さらには、たんぱく質の加水分解物も含む糖化製品として使用可能である。
【発明の効果】
【0027】
トウモロコシ粒の温水浸漬物を粗砕して得られた粗砕物から、皮と胚芽を除去するとともに、硬質胚乳粗粒を除去して洗浄する工程を経る本発明の方法で製造した湿式コーンフラワーは、温水可溶成分が3%(乾物重量当たり)以下で、たんぱく質結合澱粉の割合が40〜100%である新規な組成的特性を有し、後述の実施例で示す如く、独特の穀物臭やえぐ味及びざらついた食感を大幅に除去でき、また、風味も良好で、さらには、よく膨化しその他物性も改善される。
【0028】
また、工程が簡単で、アルカリ溶剤、有機溶剤、さらには、特殊な酵素を使用しないため、上記物性が改善された湿式コーンフラワーを低コストで製造が可能となる。
【0029】
さらに、本発明の湿式コーンフラワーの製造方法は、浸漬中に薬品を使用しないため、薬品臭や収斂味もない。
【0030】
当然、本発明の製造方法で得た湿式コーンフラワーは、多様な食品の主原料又は副原料としての用途拡大、ないし、需要増大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の湿式コーンフラワーにおける製造方法の構成について具体的に説明する。
【0032】
1)温水浸漬工程:トウモロコシ粒を約70℃以下の温水に浸漬する工程。
【0033】
トウモロコシの種類は、特に限定されず、例えば、普通種、ワキシー種、ハイアミロース種、白色種、黄色種、デント種、フリント種など種々のものを使用可能である。
【0034】
トウモロコシ粒は、夾雑物、ダストなどが精選により除去された穀粒を通常使用する。トウモロコシ粒には、破砕物、胚芽や皮を除去したものも含まれる。なお、トウモロコシ粒は、表面を蒸気などで殺菌した微生物汚染の少ないものが好ましい。
【0035】
ここで、温水とは常温(室温)を超える温度を意味する。また、温水浸漬の条件は、澱粉が糊化しない条件であれば特に限定されない。なお、トウモロコシの糊化開始温度は、62.0〜72.0℃とされている(二國二郎監「澱粉科学ハンドブック」(1977)朝倉書店 、p37表3.5)。この温水浸漬の条件は、生産性の見地から、pH約4〜8であって、温度:約70℃以下×時間:約3〜50h、さらには、生産性及び糊化の確実阻止の見地から、pH約5〜7であって、温度:約55〜65℃×時間:約5〜30hとすることが好ましい。即ち、pHが高すぎたり低すぎたりすると、苦味、収斂味、渋みなどの異味が生じやすい。
【0036】
ここで、pH調製剤としては、塩酸、乳酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、重炭酸ソーダ等の酸性剤又は塩基性剤を好適に使用できる。
【0037】
また、温度が低すぎると浸漬(トウモロコシ粒膨潤化)時間が長くなり、また、温度が高過ぎると糊化し易い。
【0038】
また、本温水浸漬工程は、薬品を添加しないで行なうことが好ましい。すなわち、薬品の添加は、pH調整のためだけの最小限に抑えることが好ましい。
【0039】
2)粗砕工程:上記1)の温水浸漬後のトウモロコシ粒を、粗砕する。
【0040】
粗砕は、胚芽を破砕しないような条件で行なうのが好ましい。例えば、バウワーやエントレーター(円板回転型粉砕機)などにより行なう。例えば、エントレーターを使用する場合の回転数は、1000min-1前後とする。
【0041】
3)精製工程:上記2)の組成物の、胚芽と皮を除去するとともに、硬質胚乳粗粒を除去し、さらに洗浄する。
【0042】
胚芽除去は、例えば、篩い分けや液体サイクロン、浮上分離などで行なう。
【0043】
また、皮の除去は、例えば、ベントシーブなどの篩い分けで行なう。このときの篩い目は、通常、10〜40メッシュ、望ましくは20〜30メッシュとする。
【0044】
そして、硬質胚乳粗粒の除去は、ベントシーブや振動式平篩などの篩い分けで行なう。除去する粒径は、50メッシュオン、100メッシュオン、さらには150メッシュオンとすることが好ましい。すなわち、篩い目を小さくした方が、硬質胚乳粗粒の除去率が高くなり、物性的には望ましいが、篩い目を小さくしすぎると、原料(トウモロコシ粒)に対する製品(コーンフラワー)の収率が低下して望ましくない。
【0045】
こうして得た比較的軟質の胚乳部分の細粒(胚乳細粒)は、蛋白質が組織として澱粉の周囲に残っているため物性の良いものが得られる。
【0046】
他方、硬質胚乳粗粒には蛋白質が多いが、これを除去しているので穀物臭やえぐ味も大幅に低減される。
【0047】
なお、胚芽除去の後、第二粗砕を行なうこともできる。これには、第一の粗砕と同じ装置や衝撃式ミルなどを用いることができる。例えば、エントレーターを使用する場合の回転数は、1500min-1前後とする。
【0048】
また、胚芽、皮、硬質胚乳粗粒の除去は同一工程(同一篩い分け装置)で連続的に行なってもよい。また、これらの除去された、胚芽、皮、硬質胚乳粗粒は、ウェットミリングの浸漬工程または各工程に導入、利用することができ、より経済的なものとすることができる。
【0049】
次いで、胚芽、皮、硬質胚乳粗粒の除去された軟質胚乳部分は、常法により洗浄して、湿式コーンフラワー(製品)とする。
【0050】
洗浄は、例えば、ドラバル、ハイドロサイクロンなどによる向流洗浄システムや、バッチによるスラリー撹拌、脱水の組み合わせで行なうことができる。さらに、チューブドライヤー、ドラムドライヤーやフラッシュドライヤーなどで乾燥し、必要に応じて、粉砕、篩別し、乾燥粉末の湿式コーンフラワーとすることもできる。
【0051】
こうして製造した本発明の湿式コーンフラワーは、適度なトウモロコシ風味を有し、独特の穀物臭やえぐ味を大幅に除去されている。また、浸漬中に薬品を使用しないため、薬品臭や収斂味もない。
【0052】
さらに、本発明の湿式コーンフラワーは、従来のドライミリングの乾式コーンフラワーに比して、穀粒の組織が浸漬により柔らかくされているが、蛋白質が組織として澱粉の周囲に残っている。
【0053】
すなわち、温水可溶成分が3%(乾物重量当たり)以下、で、たんぱく質の結合している澱粉(たんぱく質結合澱粉)の割合が40〜100%である新規な組成的特定(構成)を有する。ここで、温水可溶成分は、1%以下、さらには、0.7%以下、また、たんぱく質結合澱粉の割合は、50〜90%が望ましい。
【0054】
このため、従来の乾式コーンフラワーに比べざらつき感がなく、また、膨化性などの物性も改善されている。このため、特に米菓やベーカリー製品などに使用した場合、よく膨化する。
【0055】
したがって、本発明の湿式コーンフラワーは、多様な食品の主原料又は副原料として使用することができる。即ち、従来の乾式コーンフラワー、小麦粉、米粉などの穀粉原料の一部または全部の代わりに該湿式コーンフラワーを使用して、従来どおりの製造方法により種々の食品を得ることができる。
【0056】
本発明の湿式コーンフラワーを適用する食品は、特に限定はない。好適な食品としては、例えば、味噌、酒類などの発酵食品、麺類、餅類、餡、菓子類、調味料などや、特に好適には、せんべい、米菓、膨化スナック、フライ食品の衣材などの膨化食品類、パン、ケーキなどのベーカリー製品が挙げられる。
【0057】
また、本発明の湿式コーンフラワーを原料として用い、含まれる澱粉を加水分解して、水飴などの糖化製品とすることができる。この糖化製品は、独特の穀物臭やえぐ味がなく、良好なトウモロコシ風味を有している。糖化の方法は、従来の技術を利用して行なうことができる。たとえば、酸または酵素で液化、糖化し、ろ過、濃縮する。
【0058】
そして、さらに湿式コーンフラワーに含まれる蛋白質をタンパク質分解酵素により可溶化、分解することにより可溶性タンパク質、ペプチド、アミノ酸を多く含む糖化製品を得ることもできる。タンパク質分解酵素は、酸性、中性、アルカリ性のペフチダーゼ、プロテイナーゼなど種々のプロテアーゼを、単独または組み合わせて用いることができる。こうして得られる可溶性タンパク質などを多く含む糖化製品は、ビール、発泡酒などの醸造用原料や、保健機能食品等の主原料・副原料としても好適である。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0060】
なお、各実施例・比較例のコーンフラワーの各特性値は、下記方法により測定したものである。
【0061】
1)蛋白質含量:
ケルダール法もとづいて求めた。
【0062】
2)脂肪含量:
ソックスレー抽出器を用いてエーテル抽出して求めた。
【0063】
3)温水可溶成分量:
乾物量換算200gの試料に、55℃の水1Lを加え、55℃で5h連続攪拌(回転速度100min-1)、ろ紙(5種A(JIS P 3801))でろ過し、得られたろ液と洗浄液を水で2Lにして試験液を調製した。該試料液から20mLを秤量缶にとり、105℃で5h乾燥して、固形分量を求めた。該固形分量を、乾物重量当たりの%値とした。
【0064】
4)蛋白質結合澱粉量:
ボールミルで325メッシュパスに粉砕した試料200g(乾物量換算)に、水を加えて1Lとして、メチレンブルー染色液及びエオシン染色液をそれぞれ数滴加え、30℃で1h連続攪拌(回転速度100min-1)後、50mLを目盛り付き遠心管に採取し、15min間遠心分離(回転速度2000min-1)を行う。すると、上層に遊離蛋白質、下層に遊離単独澱粉、中間層に蛋白質結合澱粉が分離される。それぞれの容量を目視判断し、中間層結合澱粉の百分率を求める。
(1)湿式コーンフラワーの製造
<実施例1>
デント種トウモロコシ12kgを、浸漬槽のなかで、15kgの温水を循環させながら、60℃、15h、浸漬した。このときのpHは、6.3であった。次に、これに36kgの水を加えて、エントレーター(円板回転型粉砕機)で粗砕後、60メッシュの篩を備えた振動式篩を通し、皮、胚芽、硬質胚乳を除去した。洗浄は、濾布を備えた遠心脱水機による脱水と36kgの水を加える再スラリー化を3回繰返して行なった。これを遠心脱水機により脱水し、棚式乾燥機で50℃、10h乾燥して湿式コーンフラワー6kgを得た。このものの蛋白質含量は、7.1%、脂肪含量は0.8%であった。また、温水可溶成分は、0.9%(乾物重量当たり)で、たんぱく質結合澱粉の割合は75%であった。
【0065】
<実施例2>
200メッシュの篩を備えた振動式篩を通したこと以外、実施例1と同じ操作を行ない、湿式コーンフラワー4.5kgを得た。このものの蛋白質含量は、5.3%、脂肪含量は0.6%であった。また、温水可溶成分は、0.5%(乾物重量当たり)で、たんぱく質結合澱粉の割合は65%であった。
【0066】
<実施例3>
浸漬を63℃、10h、pHは、5.2としたこと以外、実施例1と同じ操作を行ない、湿式コーンフラワー5.5kgを得た。このものの蛋白質含量は、6.2%、脂肪含量は0.7%であった。また、また、温水可溶成分は、2.2%(乾物重量基準)で、蛋白質結合澱粉の割合は85%であった。
【0067】
<比較例1>
ドライミリングのコーンフラワー(市販品)の温水可溶成分は、8.5%(乾物重量基準)で、蛋白質結合澱粉の割合は、95%であった。
【0068】
<比較例2>
ウェットミリングにより調製したミルスターチ乳液の蛋白質結合澱粉%(乾物重量基準)は0.5%であった。
(2)せんべいの製造
<応用実施例のせんべい>
実施例1〜3の湿式コーンフラワー各々2kgに水1.6kgを加え、蒸練機で30分間加熱混練し、65℃に冷却後、圧延、型抜きした。この生地を75℃で2h熱風乾燥した。10h放置後、75℃で2h熱風乾燥した。平煎機により230℃で焼き上げ、調味液をつけ、80℃で2h熱風乾燥し、実施例のせんべいを得た。
それらの膨化度、官能特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0069】
<応用対照例のせんべい>
うるち米粉、ドライミリングコーンフラワー(比較例1)の各々2kgを用いた以外は、実施例使用せんべいの場合と同じ操作を行ない、比較例の各せんべいを得た。
【0070】
<評価方法>
それらの膨化性、官能特性を下記方法により評価した。
【0071】
1)膨化度:生地の体積を1とし、焼上げ後のせんべいの体積を比として表した。なお、体積は、ガラスビーズ(2mmφ)置換法で測定した。
【0072】
2)官能試験:10人のパネルによる3段階評価の平均値とした。
【0073】
えぐ味、穀物臭の評点・・・ない: 1、少しある: 2、ある: 3
風味の評点・・・ 良い: 1、普通: 2、悪い: 3
評価結果は、表1に示すごとく、本発明の湿式コーンフラワーを使用した実施例せんべいは、比較例のドライミリング湿式コーンフラワーのものに比べ、それらの膨化度は高く、独特の穀物臭やえぐ味を大幅に除去でき、良好なトウモロコシ風味であった。
【0074】
【表1】

(3)スポンジケーキの製造
<実施例のスポンジケーキ>
実施例1〜3の湿式コーンフラワー各々30gに小麦粉70gを混ぜてミックス粉とする。卵160gに砂糖20gを加え湯せんにかけて泡立て、75℃に冷やした後、さらに泡立てる。これに各々のミックス粉をふるいながら加え、さらに溶かしたバター30gを加えて混ぜる。これを円筒形の型に入れ、オーブンで180℃、25min焼いて実施例のスポンジケーキを得た。
【0075】
<比較例スポンジケーキ>
小麦粉(小麦粉のみ)、ドライミリングの湿式コーンフラワーの各々30gを用いた以外は、上記と同じ操作を行ない、比較例の各スポンジケーキを得た。
【0076】
<評価>
1)膨化度:生地の厚さを1とし、焼上げ後のスポンジケーキの厚さを比として表した。
【0077】
2)官能試験は、上記せんべいの場合と同様に行った。
【0078】
評価結果は、表2に示すごとく、本発明の湿式コーンフラワーを使用した実施例スポンジケーキは、比較例のドライミリング湿式コーンフラワーのものに比べ、それらの膨化度は高く、独特の穀物臭やえぐ味を大幅に除去でき、良好なトウモロコシ風味であった。
【0079】
【表2】

(4)糖化製品の製造
実施例2の湿式コーンフラワー1kgに水2.5kgを加えスラリーとした。このpHは6.0であった。これに液化酵素(天野エンザイム、アミラーゼA)1gを加えて、撹拌しながら90℃まで徐々に昇温し、30分維持した。60℃に冷却した後、糖化酵素(天野エンザイム、ビオザイムM)2gを加えて60℃で24h糖化した、さらにタンパク質分解酵素(天野エンザイム、プロテアーゼS)2gを加えて60℃で24h保持した。このものをコットンフィルターでろ過し、Bx75%に濃縮して水飴を製造した。
【0080】
この水飴は、独特の穀物臭やえぐ味がほとんどなく、良好なトウモロコシ風味と蛋白質、アミノ酸による酷(こく)のある味であった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の湿式コーンフラワーの製造方法を示す工程ブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含むことを特徴とする湿式コーンフラワーの製造方法。
1)トウモロコシ粒を、該トウモロコシ粒中の澱粉が糊化しない条件で温水浸漬する温水浸漬工程。
2)上記1)の温水浸漬後のトウモロコシ粒を粗砕する粗砕工程。
3)上記2)の組成物の、胚芽と皮を除去するとともに、50メッシュオンの硬質胚乳粗粒を除去し、さらに洗浄する精製工程。
【請求項2】
前記精製工程において、150メッシュオンの硬質胚乳粗粒を除去することを特徴とする請求項1記載の湿式コーンフラワーの製造方法。
【請求項3】
温水浸漬の条件が、pH4〜8であって、温度:70℃以下×時間:3〜50hであることを特徴とする請求項1又は2記載の湿式コーンフラワーの製造方法。
【請求項4】
温水浸漬の条件が、pH5〜7において、温度:55〜65℃×時間:3〜30hであることを特徴とする請求項3記載の湿式コーンフラワーの製造方法。
【請求項5】
55℃温水に対する可溶成分量(以下「温水可溶成分量」という。)3%(乾物量基準)以下で、200g(乾物量基準)/Lの水溶液に染色液を数滴加えて攪拌調製した試料を、遠心分離法により中間分離層として分画される蛋白質結合澱粉の容量率(以下「蛋白質結合澱粉量」という。)が40〜100vol%であることを特徴とする湿式コーンフラワー。
【請求項6】
前記温水可溶性成分が1%以下であり、かつ、前記蛋白質結合澱粉含量が50〜90vol%であることを特徴とする請求項5記載の湿式コーンフラワー。
【請求項7】
請求項5又は6記載の湿式コーンフラワーを主原料又は副原料として含有することを特徴とする食品。
【請求項8】
請求項5又は6記載の湿式コーンフラワーを主原料又は副原料として含有することを特徴とする米菓。
【請求項9】
請求項5又は6記載の湿式コーンフラワーを主原料又は副原料として含有することを特徴とするベイカリー製品。
【請求項10】
請求項5又は6記載の湿式コーンフラワーを含有する澱粉原料の加水分解物であることを特徴とする糖化製品。
【請求項11】
さらに、たんぱく質の加水分解物を含有することを特徴とする請求項10記載の糖化製品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−25788(P2006−25788A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159532(P2005−159532)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(391026210)日本コーンスターチ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】