説明

湿気硬化型樹脂組成物

【課題】あらゆる被着部材部に対して良好な接着力を有する湿気硬化型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、加水分解性シリル基を有する有機重合体(A)と、下記式(1)で表される化合物(B)とを含み、前記下記式(1)で表される化合物(B)の含有量が、前記有機重合体(A)100質量部に対して0.5質量部以上15質量以下である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性シリル基を含有する有機重合体を含有し、スチレン系樹脂など難接着な部材に対しても良好な接着が確保できる湿気硬化型樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーなどの電気製品の筐体樹脂には、製造コスト、樹脂強度を考慮し、一般に、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(Acrylonitrile butadiene styrene;ABS)樹脂、PS(ポリスチレン)樹脂、スチレンのみの重合体で非晶性の無色透明の汎用ポリスチレン(General Purpose Polystyrene;GPPS)にゴムを加え耐衝撃性を持たせた耐衝撃性ポリスチレン(High Impact Polystyrene;HIPS)などのスチレン系樹脂などが使用されている。
【0003】
従来、これら樹脂を接着する際には、溶剤系接着剤が主に使用されていた。溶剤系接着剤として、例えば、反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)および水酸基を有するビニル系重合体(B)の混合物と、加水分解性ケイ素基を水酸基部分に導入しうる化合物(C)とを反応させて得られる組成物(D)を含む硬化性組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
近年、環境負荷の低減および作業環境や衛生面の改善の観点から、脱溶剤化の傾向があり、有機溶剤を含有しない非溶剤系の接着剤の開発が検討されている。例えば、主剤(ポリオール成分)および硬化剤(ポリイソシアネート成分)を含み、ポリオール成分は、マクロジオールを含むジオールと、3つ以上の水酸基を有する架橋性ポリオールと、ジイソシアネートとの反応により得られるポリウレタンポリオールを含有し、ポリイソシアネート成分は、芳香脂肪族ジイソシアネートを含むジイソシアネートと、マクロジオール含むジオールとを反応させて得られるジイソシアネート末端プレポリマーを含有させて、これらポリオール成分とポリイソシアネート成分とから、2液硬化型無溶剤系接着剤を調製することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143194号公報
【特許文献2】特開2010−59362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非溶剤の接着剤では、ABS樹脂、PS樹脂、HIPSなどのスチレン系樹脂のように難接着な部材に対して十分な接着力を示さない、という問題点があった。また、その他の被着部材に対してもより高い接着力が望まれている。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑み、あらゆる被着部材部に対して良好な接着力を有する湿気硬化型樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次に示す(1)〜(5)である。
(1) 加水分解性シリル基を有する有機重合体(A)と、
下記式(1)で表される化合物(B)とを含み、
前記下記式(1)で表される化合物(B)の含有量が、前記有機重合体(A)100質量部に対して0.5質量部以上15質量以下であることを特徴とする湿気硬化型樹脂組成物。
【化1】

(2) 前記有機重合体(A)が、ポリオキシアルキレン重合体である上記(1)に記載の湿気硬化型樹脂組成物。
(3) 加水分解性シリル基を有するビニル重合体(C)を含み、
前記ビニル重合体(C)の含有量と前記有機重合体(A)の含有量との比が、5対100以上50対100以下である上記(1)又は(2)に記載の湿気硬化型樹脂組成物。
(4) 前記有機重合体(A)は、加水分解性シリル基として、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基のうち少なくとも1つを含む上記(1)から(3)の何れか1項に記載の湿気硬化型樹脂組成物。
(5) 更に、平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下の脂肪酸処理された膠質炭酸カルシウム(D)を含み、
前記膠質炭酸カルシウム(D)の含有量が、前記有機重合体(A)100質量部に対して5質量部以上50質量部以下である上記(1)から(4)の何れか一つに記載の湿気硬化型樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、あらゆる被着部材部に対して良好な接着力を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明について詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
本発明の湿気硬化型樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」という。)は、加水分解性シリル基を有する有機重合体(A)と、下記式(1)で表される化合物(B)とを含み、前記下記式(1)で表される化合物(B)の含有量が、前記有機重合体(A)100質量部に対して0.5質量部以上15質量以下である。
【化2】

【0012】
<加水分解性シリル基を有する有機重合体(A)>
本発明における有機重合体(A)は、分子内に加水分解性シリル基を少なくとも1個有するポリマーである。有機重合体(A)は、特に制限されず、例えば、変成シリコーン系ポリマーが挙げられる。変成シリコーン系ポリマーは、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基および/または加水分解性基により、シロキサン結合を形成し架橋して硬化物となる性質を有する。
【0013】
加水分解性シリル基は、ケイ素原子と直接結合した加水分解性基を有するケイ素原子含有基またはシラノール基であれば特に制限されない。加水分解性シリル基は、湿気、架橋剤等の存在する条件下で縮合触媒を使用することにより脱水反応等の縮合反応を起こすことができる。加水分解性シリル基は、例えば、下記式(2)で表される、シラノール基またはケイ素に加水分解性基が結合した基である。
【0014】
【化3】

【0015】
式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基または(R33SiO−で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R1またはR2が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。ここで、R3は炭素数1〜20の1価の炭化水素基であり、3個のR3は同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を示し、Yが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0から3の整数であり、bは0から2の整数をそれぞれ示す。また、t個の下記式(3)で表される基におけるbは異なっていてもよい。tは0から19の整数を示す。ただし、a+t×b≧1を満足するものとする。
【0016】
【化4】

【0017】
上記Yで示される加水分解性基は特に限定されず、従来公知の加水分解性基であればよい。具体的には、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。これらのうち、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基およびアルケニルオキシ基であることが好ましく、加水分解性が穏やかで取り扱いやすいという理由からアルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
【0018】
この加水分解性基やヒドロキシ基は、1個のケイ素原子に1から3個の範囲で結合することができ、(a+tb)は1から5の範囲であることが好ましい。加水分解性基やヒドロキシ基が反応性ケイ素基中に2個以上結合する場合には、それらは同一であっても、異なってもよい。
【0019】
この加水分解性シリル基を形成するケイ素原子は、分子内に少なくとも1個あればよく、2個以上であってもよいが、シロキサン結合等により連結されたケイ素原子の場合には、20個以上のものまであるのが好ましい。特に、加水分解性シリル基の中で、下記一般式(4)で表される加水分解性シリル基が、入手容易の点から好ましい。下記式(4)中、R2、Y、aは上述のR2、Y、aと同義である。
【0020】
【化5】

【0021】
上記一般式(1)におけるR1およびR2の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基;R3がメチル基やフェニル基などである(R33SiO−で示されるトリオルガノシロキシ基;等が挙げられる。R1、R2、R3としてはメチル基が特に好ましい。
【0022】
有機重合体(A)は、主鎖の末端あるいは側鎖に、上記一般式(1)で表される加水分解性シリル基を少なくとも1個有する有機重合体であれば特に限定されない。主鎖の末端または側鎖に結合する加水分解性シリル基は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
有機重合体(A)は、その主鎖としては、例えば、ポリオキシアルキレン重合体、ポリエーテル重合体、ポリエステル重合体、エーテル/エステルブロック共重合体、エチレン性不飽和化合物重合体、ジエン系化合物重合体が挙げられる。
【0024】
ポリオキシアルキレン重合体としては、アルキレンオキサイドの開環重合により得られる重合体であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシイソブチレン、ポリオキシテトラメチレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでもポリオキシプロピレンがより好適に用いられる。オキシアルキレン重合体(A)の分子鎖は1種だけの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種類以上を併用してもよい。さらに、例えば、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体またはランダム共重合体のような形態であっても構わない。また、このオキシアルキレン重合体は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、あるいは、これらの混合物であってもよい。これらのオキシアルキレンの中でも分子鎖が実質的に、下記式(5):
−CH(CH)CH−O− ・・・(5)
で表される繰り返し単位からなるものが、得られる硬化性組成物の取り扱いやすさ、硬化物物性の点から好ましい。また、ここで「実質的に」とは、他の単量体等が含まれていてもよいが、上記一般式(1)で表される繰り返し単位が重合体(A)の単量体単位総量に対して50重量%以上、好ましくは80重量%以上存在することを意味する。
【0025】
ポリエーテル重合体としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびポリフェニレンオキシドの繰返し単位を有するものが例示される。
【0026】
ポリエステル重合体としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、ピルビン酸、乳酸等のカルボン酸、カルボン酸無水物、それらの分子内および/または分子間エステルおよびそれらの置換体を繰返し単位として有するものが例示される。
【0027】
エーテル/エステルブロック共重合体としては、例えば、上述したポリエーテル重合体に用いられる繰返し単位および上述したポリエステル重合体に用いられる繰返し単位の両方を繰返し単位として有するものが例示される。
【0028】
エチレン性不飽和化合物重合体およびジエン系化合物重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の単独重合体およびこれらの2種以上の共重合体等が挙げられる。より具体的には、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリイソプレン、スチレン−イソプレン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、ポリクロロプレン、スチレン−クロロプレン共重合体、アクリロニトリル−クロロプレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルが挙げられる。
【0029】
変成シリコーン系ポリマーは、その製造方法について特に制限されない。例えば、特公昭61−18569号公報に記載されているような従来公知の方法によって製造することができる。また、市販品としては、例えば、カネカ社製のMSポリマーS−203、MSポリマーS−303、MSポリマーS−903、MSポリマーS−911、サイリルポリマーSAT200、サイリルポリマーMA430、サイリルポリマーMAX447;旭硝子社製のエクセスターESS−3620、エクセスターESS−3430、エクセスターESS−2420、エクセスターESS−2410等が挙げられる。
【0030】
有機重合体(A)は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
有機重合体(A)は、その数平均分子量(Mn)について特に限定されず、粘度および作業性の観点から、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography:GPC)法によるポリスチレン換算において、数平均分子量(Mn)は、6,000以上60,000以下のものが好ましく、更には8,000以上50,000以下のものがより好ましく、更には優れた力学的性質を有する点から、10,000以上30,000以下であることが特に好ましい。このような範囲の場合、硬化性組成物の粘度が適度となり、取り扱いが容易となる。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は、GPC法によるポリスチレン換算において、1.6以下の分子量分布が狭い(Mw/Mn比が小さい)ものが好ましく、更には1.5以下であることがより好ましく、更には1.4以下であることが特に好ましい。
【0032】
<上記式(1)で表される化合物(B)>
化合物(B)は、上記式(1)で表される化合物である。R1は炭素原子数が2から10のアルキル基、R2は炭素原子数が1から5のアルキル基、nは1又は2の整数である。R1は炭素原子数が2から10のアルキル基であることが好ましいが、炭素原子数が2から6のアルキル基であることがより好ましい。R1の炭素原子数が2を下回る場合、R1の炭素原子数は1であり、アルキル基の種類が限定されるため、好ましくない。R1の炭素原子数が10を超えると、得られる組成物が固体となるため、好ましくない。R2は炭素原子数が1から5のアルキル基であることが好ましいが、炭素原子数が1から2のアルキル基であることがより好ましい。R2の炭素原子数が5を超えると、加水分解速度が遅くなるため、効果が得られないからである。
【0033】
R1とR2との炭素原子数を2とし、nを2の整数としたとき、化合物(B)は、下記式(6)のように反応して合成され、接着付与成分が添加される。これにより、ABSやPS、HIPSなどエチレン系樹脂への接着力を確保できる。
【0034】
【化6】

【0035】
化合物(B)の含有量は、有機重合体(A)100質量部に対して0.5質量部以上15質量以下であるが、より好ましくは3質量部以上10質量以下である。化合物(B)の含有量は、有機重合体(A)100質量部に対して0.5質量部を下回ると、接着性が発現しないため、好ましくない。化合物(B)の含有量は、有機重合体(A)100質量部に対して15質量を越えると、硬化物の伸びが失われるため、好ましくない。
【0036】
<ビニル重合体(C)>
本発明の組成物では、加水分解性シリル基を有するビニル重合体(C)を含むことが好ましい。有機重合体(A)としてポリオキシアルキレン重合体を用いる場合、ビニル重合体(C)の含有量と有機重合体(A)の含有量との比は、5対100以上50対100以下であることが好ましい。ビニル重合体(C)の含有量と有機重合体(A)の含有量との比が、5対100を下回ると、得られる組成物の接着性が低下するため、好ましくない。また、ビニル重合体(C)の含有量と有機重合体(A)の含有量との比が、50対100以下を越えると、組成物の粘度が高くなり、また表面のタックが悪化するため、好ましくない。
【0037】
加水分解性シリル基を有するビニル重合体(C)としては、例えば、種々のアクリル酸モノマーをビニル重合した物が使用可能である。メタクリロキシシラン等の加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリルモノマーを微量混合しておくことで、生成物として得られるビニル重合体にはランダムに加水分解性シリル基が導入される。
【0038】
<膠質炭酸カルシウム(D)>
本発明の組成物は、表面が脂肪酸処理された膠質炭酸カルシウム(D)を含むことが好ましい。本発明の組成物に含有される膠質炭酸カルシウム(D)では、その平均粒子径は、0.05μm以上0.20μm以下であり、好ましくは0.06μm以上0.10μm以下であり、更に好ましくは0.07μm以上0.09μm以下である。膠質炭酸カルシウム(D)の平均粒子径が0.05μmを下回ると、膠質炭酸カルシウム(D)の分散が悪くうまく混練できず、増粘しにくい上、本発明の組成物の外観が悪化するため、好ましくない。また、膠質炭酸カルシウム(D)の平均粒子径が0.20μmを越えると、本発明の組成物の硬化後の強度を低下させるため、好ましくない。
【0039】
膠質炭酸カルシウム(D)の含有量は、有機重合体(A)100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上15質量部以下であることが更に好ましい。膠質炭酸カルシウム(D)の含有量を上記範囲内とすることで、製造コストを抑制することができると共に、得られる組成物の接着力を向上させることができる。膠質炭酸カルシウム(D)の含有量が、5質量部未満であると、接着性が劣る。また、膠質炭酸カルシウム(D)の含有量が、50質量部を超えると、本発明の組成物の粘度が高くなり過ぎて作業性に劣るからである。
【0040】
膠質炭酸カルシウム(D)の表面処理の方法は従来公知の方法によればよく、例えば、特開平2−38309号公報に詳細に記載されている。脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などの直鎖飽和脂肪酸;セトレイン酸、ソルビン酸などの不飽和脂肪酸;安息香酸、フェニル酢酸などの芳香族カルボン酸等が挙げられる。中でも、パルミチン酸やステアリン酸が表面処理の熱安定性や揺変性の点で好ましい。
【0041】
炭酸カルシウムを上記脂肪酸で表面処理する方法として、例えば、脂肪酸を炭酸カルシウムに添加し、混練、噴霧または浸漬することにより炭酸カルシウムの表面に脂肪酸を吸着させる方法が挙げられる。
【0042】
脂肪酸の表面処理量は、炭酸カルシウムに対して、通常、1.0質量%以上10質量%以下である。具体的には、脂肪酸で表面処理された膠質炭酸カルシウムとして、EDS−D10A(白石工業社製)、カルファイン200(丸尾カルシウム社製)、カーレックス50(丸尾カルシウム社製)、ゲルトン50(白石工業社製)、重質炭酸カルシウムとして、ソフトン3200(備北粉化工業社製)等が好適に用いられる。また、これらは併用してもよい。
【0043】
有機重合体(A)が、ポリオキシアルキレン重合体であって、ビニル重合体(C)を含む場合、膠質炭酸カルシウム(D)の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体とビニル重合体(C)との合計量100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上15質量部以下であることが更に好ましい。膠質炭酸カルシウム(D)の含有量が、5質量部未満であると、本発明の組成物の接着性が劣る。また、膠質炭酸カルシウム(D)の含有量が、50質量部を超えると、本発明の組成物の粘度が高くなり過ぎて作業性に劣るからである。
【0044】
このように、本発明の組成物は、加水分解性シリル基を有する有機重合体(A)と、上記式(1)で表される化合物(B)とを含み、上記式(1)で表される化合物(B)の含有量を有機重合体(A)100質量部に対して0.5質量部以上15質量以下としている。化合物(B)に接着付与成分が添加されているため、ABSやPS、HIPSなどエチレン系樹脂などあらゆる被着部材部に対して良好な接着力を有することができる。
【0045】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した各成分以外に、必要に応じて、各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、可塑剤、シランカップリング剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、安定剤、分散剤が挙げられる。
【0046】
充填剤としては、各種形状の有機または無機のものが挙げられる。例えば、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;ケイ砂、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;珪藻土;炭酸カルシウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;カーボンブラック等の有機または無機充填剤;これらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル処理物、脂肪酸エステルウレタン化合物処理物が挙げられる。
【0047】
可塑剤としては、例えば、ポリプロピレングリコール(B)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジペンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル;アルキルスルホン酸フェニルエステル(例えば、Bayer社製のメザモール)が挙げられる。また、連鎖移動剤を用いず、150℃以上350℃以下の重合温度で重合され、数平均分子量が500以上5000以下のアクリル重合体を用いることができる。
【0048】
シランカップリング剤としては、例えば、トリメトキシビニルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが、特に湿潤面への接着性を向上させる効果に優れ、更に汎用化合物であることから好適に挙げられる。
【0049】
顔料は、無機顔料および有機顔料のいずれでも両方でもよい。例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等を用いることができる。
【0050】
染料は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、黒色染料、黄色染料、赤色染料、青色染料、褐色染料が挙げられる。
【0051】
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
【0052】
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
【0053】
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0054】
難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
【0055】
接着性付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。
【0056】
安定剤としては、例えば、脂肪酸シリルエステル、脂肪酸アミドトリメチルシリル化合物等が挙げられる。
【0057】
本発明の組成物を製造する方法は特に限定されないが、例えば、上記各成分を減圧下または窒素等の不活性ガス雰囲気下で、ロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機、混合ミキサー等の撹拌装置を用いて十分に混練し、均一に分散させる等により混合する方法が挙げられる。
【0058】
本発明の組成物は、湿気硬化型であり、すべての配合成分を予め配合密封保存し、施工後空気中の湿気により硬化する1成分型の硬化性組成物として使用することができる。また、硬化剤として別途硬化触媒、充填剤、可塑剤、水などの成分を予め配合しておき、該配合剤(材)と重合体組成物とを使用前に混合する2成分型として使用することもできる。本発明の組成物が1成分型の場合、すべての配合成分が予め配合されるため、水分を含有する配合成分は予め脱水乾燥してから使用するか、また配合混練中に減圧などにより脱水するのが好ましい。本発明の組成物は、湿気にさらすと、加水分解性シリル基の加水分解により硬化反応が進行する。そのため、得られた本発明の組成物は密閉容器中で貯蔵され、使用時に空気中の湿気により常温で硬化物を得ることができる。また、適宜水分を供給して、硬化反応を進行させることもできる。
【0059】
本発明の組成物の用途は特に限定されないが、本発明の組成物は、以上のような優れた特性を有することから、土木建築用、コンクリート用、木材用、金属用、ガラス用、プラスチック用等のシーリング材、接着剤、シール剤、ポッティング剤、弾性接着剤、コーティング材、ライニング材、コンクリートやモルタル中の構造用接着剤、ひび割れ注入材等の用途に好適に用いられる。
【0060】
本発明の組成物を難接着性部材に接着させる方法は特に限定されない。例えば、本発明の組成物を難接着性部材に塗布、浸漬して、本発明の組成物を厚さ1mm以上10mm以下で使用し、難接着性部材同士または難接着性部材と他の部材とを接着させることができる。本発明の組成物は湿気等の水分によって硬化することができ、硬化は5℃以上40℃以下、30%RH以上70%RH以下の条件下で行うことが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本実施形態に係る発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1〜21および比較例1〜4>
[湿気硬化型樹脂組成物の調整]
湿気硬化型樹脂組成物を調整する際に用いた各成分と、その添加量(質量部)を表1に示す。表1に示す成分を同表に示す添加量(質量部)で、配合しこれらを均一に混合して、表1に示される各組成物を調製した。各々の実施例、比較例における各成分の添加量(質量部)は表1に示す通りである。また、表1に示す化合物(B)1〜(B)6を調整する際に用いた各成分と、その添加量(質量部)を表2に示す。表2に示す成分を同表に示す添加量(質量部)で、配合しこれらを均一に混合して、表2に示される化合物(B)1〜(B)6を調製した。化合物(B)1〜(B)6の各成分の添加量(質量部)は表2に示す通りである。
【0062】
[評価]
上記のようにして得られた各湿気硬化型樹脂組成物を用いて、各湿気硬化型樹脂組成物の粘度、接着性を各々評価した。
【0063】
(粘度)
得られた各湿気硬化型樹脂組成物の粘度は、回転粘度計(TV20型粘度計、東機産業社製)、No6ローターを用いて、回転数を20rpmとして25℃で測定した。試験結果を表1に示す。25℃における粘度が150Pa・s以下であれば作業性が良好であると判断した。
【0064】
(接着性)
JIS A 5758 5・12項に準じて、樹脂基板上に、この湿気硬化型樹脂組成物を膜厚が3mm程度となるように塗布した。その後、この湿気硬化型樹脂組成物を23℃、50%R.H.の雰囲気中で5日間静置して硬化させ、硬化試験片を調製した。この硬化試験片について50mm/分の速度で引張接着試験を行った。引張接着試験における破壊形態を目視で確認した。試験結果は以下のように評価し、試験結果を表1に示す。尚、樹脂基板としては、ABS、PS、HIPSの3種類を用いた。表1中、○、△、×は、各々以下の状態を示す。凝集破壊(CF)が硬化試験片の全体における50%以上であれば接着性が良好であると判断した。
○:CFが硬化試験片の全体の90%以上のもの(界面破壊(AF)が90%未満)
△:CFが硬化試験片の全体の50%以上90%未満のもの
×:CFが硬化試験片の全体の10%以下のもの
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
上記表1〜表3に示される各成分は、以下のとおりである。
・有機重合体(A):TMSポリマー(商品名:SAX−510(分子量:29000、直鎖)、株式会社カネカ製)
・混合物:有機重合体(A)とビニル重合体(B)との混合物(商品名「MA−451(分子量:29000、直鎖)」、株式会社カネカ製)
・3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン:商品名「KBE−9007」、信越化学社製
・3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン:商品名「Y−5187」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製
・膠質炭酸カルシウム(D):表面が脂肪酸処理されたコロイダル炭酸カルシウム(商品名「ネオライトSP」、竹原化学社製)
・エポキシシラン:商品名「A−187」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製
・ビニルシラン:商品名「A−171」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製
・ジアミノシラン:商品名「A−1120」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製
・ジオクチル錫:商品名「ネオスタン S1」、日東化成社製
【0069】
なお、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランは、下記式(7)で表され、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランは、下記式(8)で表される。
【0070】
【化7】

【0071】
【化8】

【0072】
表1に示すように、実施例1〜21と比較例1〜4では、得られた湿気硬化型樹脂組成物は何れも粘度が150Pa・s以下であった。よって、実施例1〜7と比較例1、2の湿気硬化型樹脂組成物は何れも作業性が良好であることが確認された。
【0073】
比較例1、3、4から得られた湿気硬化型樹脂組成物は、樹脂基板として用いたABS、PS、HIPSの何れに対しても硬化試験片の破壊形態はほとんどが界面破壊(AF)であり、硬化試験片の全体におけるCFの割合は10%以下であった。また、比較例2から得られた湿気硬化型樹脂組成物は、樹脂基板としてABS、HIPSを用いた場合には、硬化試験片の破壊形態はほとんどがCFであり、硬化試験片の全体におけるCFの割合は50%以下であったが、樹脂基板としてPSを用いた場合には、硬化試験片の破壊形態はほとんどがAFであり、硬化試験片の全体におけるCFの割合は10%以下であった。これに対し、実施例1、2、5、8〜10、13、14、17、18、21から得られた湿気硬化型樹脂組成物は樹脂基板として用いたABS、PS、HIPSの何れに対しても硬化試験片の全体における50%以上の破壊形態がCFであった。また、実施例3、4、6、7、11,12、15、16、19、20から得られた湿気硬化型樹脂組成物は樹脂基板として用いたABS、PS、HIPSの何れに対しても硬化試験片の全体における90%以上の破壊形態がCFであった。よって、実施例1〜7から得られた湿気硬化型樹脂組成物は、ABS、PS、HIPSなどの樹脂基板に対しても接着性が良好であることが確認された。
【0074】
よって、実施例1〜21より得られた湿気硬化型樹脂組成物は、比較例1〜4より得られた湿気硬化型樹脂組成物のように、従来と同様の粘度を維持し、実施例1〜21より得られた湿気硬化型樹脂組成物の方が、比較例1〜4より得られた湿気硬化型樹脂組成物に比べてエチレン系樹脂などあらゆる樹脂基板に対して硬化物の接着性が優れることから、湿気硬化型樹脂組成物としての信頼性が高いことが判明した。従って、実施例1〜21のように、加水分解性シリル基を有する有機重合体(A)と、上記式(1)で表される化合物(B)とを含み、上記式(1)で表される化合物(B)の含有量を、所定の範囲内とすることにより、得られる湿気硬化型樹脂組成物は、粘度を高く維持しつつ、硬化後の接着性はあらゆる樹脂基板に対して向上させることができることから、エチレン系樹脂など難接着な部材の接着剤として信頼性の高い湿気硬化型樹脂組成物を得ることができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、本発明の湿気硬化型樹脂組成物によれば、エチレン系樹脂などの難接着な部材に対しても安定した接着力を有する硬化物を提供できるので、本発明の湿気硬化型樹脂組成物は、あらゆる部材の接着剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シリル基を有する有機重合体(A)と、
下記式(1)で表される化合物(B)とを含み、
前記下記式(1)で表される化合物(B)の含有量が、前記有機重合体(A)100質量部に対して0.5質量部以上15質量以下であることを特徴とする湿気硬化型樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
前記有機重合体(A)が、ポリオキシアルキレン重合体である請求項1に記載の湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
加水分解性シリル基を有するビニル重合体(C)を含み、
前記ビニル重合体(C)の含有量と前記有機重合体(A)の含有量との比が、5対100以上50対100以下である請求項1又は2に記載の湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機重合体(A)は、加水分解性シリル基として、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基のうち少なくとも1つを含む請求項1から3の何れか1項に記載の湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
更に、平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下の脂肪酸処理された膠質炭酸カルシウム(D)を含み、
前記膠質炭酸カルシウム(D)の含有量が、前記有機重合体(A)100質量部に対して5質量部以上50質量部以下である請求項1から4の何れか一項に記載の湿気硬化型樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−56976(P2012−56976A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198347(P2010−198347)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】