説明

溶剤回収方法、ヒートセット型オフセット輪転印刷システム及び溶剤回収再利用型印刷インキ組成物

【課題】 石油系溶剤を燃焼・大気放出せずに回収する事で、大気中へのCO2放出量の削減、更に排ガス処理装置での再加熱不要によるガス量及び電力量低減とCO2放出量削減、リサイクル溶剤の再利用による枯渇資源使用量低減、高価な白金触媒の再生・交換費用低減による印刷コストの削減等、環境対策と大幅な印刷コストの削減を両立させた印刷システム及び環境対応型オフセット輪転印刷インキを提供する。
【解決手段】 本発明の溶剤回収方式オフ輪転印刷システムは、一定温度の熱風をもってインキ中の石油系溶剤を蒸発乾燥させた後、その排ガスを冷却して液状化させて回収する事を特徴とする。
また、リサイクル溶剤を再利用するオフセットインキとは、排ガスを冷却して液状化させた回収溶剤を、45重量%以下で含有する事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートセットオフセット輪転印刷(以下オフ輪印刷と称す)において燃焼させている高沸点石油系溶剤(以下石油系溶剤)を回収する方法及びシステムと、そのリサイクル溶剤を再利用した溶剤回収再利用型オフセットインキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業革命以降の近代化により大気中に排出されてきた有機化合物等によって、自然環境の破壊成層圏におけるオゾン層の破壊、低成層圏における酸性雨による農作物への打撃や森林資源の破壊、光化学オキシダントによる人体への悪影響等の大気汚染に関する問題が深刻になってきている。そのため、これらを防止するためのPRTR法の施行、悪臭防止法の規制強化、京都議定書の二酸化炭素排出量の制限、大気汚染防止法など大気環境保全に関する法律も年々規制されている状況にある。また、特に2007年には温室効果ガスである二酸化炭素による地球温暖化の影響が世界中の各地で顕著になってきており、日本の二酸化炭素排出量も増加している状況にある。
【0003】
オフ輪印刷においては、およそ100〜250℃程度の熱風によって印刷後のインキ中に含有している石油系溶剤を蒸発させる事によって印刷面を乾燥させており、蒸発した石油系溶剤は触媒燃焼式排ガス処理装置によって、約350℃まで再加熱され触媒床下で二酸化炭素(以下CO2と称す)と水蒸気(以下H2Oと称す)に分解され大気中に放出されている。その際に使用されるガス及び電力のエネルギー量は非常に高く、天然資源を非常に多く消費しているのが現状である。
【0004】
排ガス処理装置では、ほぼ99.9%の石油系溶剤が分解されるが、経年により極微量の有機化合物等が吸着され、その触媒効果は年々劣化してくる事になり、それに伴って定期的に触媒の再生または交換をする必要がある。また、排ガス装置の設定や使用状況が適正でない場合には、分解効率も落ちて大気中に溶剤蒸気を放出する事になり、大気汚染や悪臭による近隣クレームに繋がる虞もある。
【0005】
排ガス装置に使用されている触媒は、白金触媒が一般的であり、その交換費用は非常に高価で、しばしば交換するには印刷コストにも強く影響を及ぼしている。
【0006】
オフ輪印刷に使用されるオフセット輪転印刷用インキ(以下オフ輪インキと称す)は、インキ中におよそ30〜45%程度の石油系溶剤を含有しており、使用している溶剤は石油系溶剤の中でも比較的低沸点範囲の溶剤を主体に使用しており、溶剤の沸点範囲により印刷時のインキの乾燥性に大きく影響している。また、石油由来の原材料は枯渇資源であり、環境への負荷にも配慮したアロマフリー溶剤を使用しており、現在のオフ輪インキのエコマークVer.2認定基準として「アロマフリー溶剤の溶剤のみの使用でその含有率は45重量%以下」と規定されている。(財団法人 日本環境協会 エコマーク事務局における認定基準)
【非特許文献1】財団法人 日本環境協会 エコマーク事務局における認定基準 オフ輪インキのエコマークVer.2認定基準:「アロマフリー溶剤の溶剤のみ の使用でその含有率は45重量%以下」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
石油系溶剤を燃焼・大気放出せずに回収する事で、大気中へのCO2放出量の削減、更に排ガス処理装置での再加熱不要によるガス量及び電力量低減とCO2放出量削減、リサイクル溶剤の再利用による枯渇資源使用量低減、高価な白金触媒の再生・交換費用低減による印刷コストの削減等、環境対策と大幅な印刷コストの削減を両立させた印刷システム及び環境対応型オフ輪インキを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の溶剤回収方法及びオフ輪転印刷システムは、一定温度の熱風をもってインキ中の石油系溶剤を蒸発乾燥させた後、その排ガスを冷却して液状化させて回収する事を特徴とする。
【0009】
本発明のリサイクル溶剤を再利用するオフセットインキとは、排ガスを冷却して液状化させたリサイクル溶剤を、45重量%以下含有する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、従来オフ輪印刷において排ガスの燃焼のために大気中に大量に放出してきたCO2を大幅に削減する事での環境対応、枯渇資源である石油系溶剤のリサイクルを行うことでの環境対応、高価な白金触媒の不使用やガスの大幅使用量減による大規模的なコスト削減が図れることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般的にオフセットインキに含有している石油系溶剤は、インキの粘度を調整するためにインキの種類ごとにその含有量を決めている。エコマークの認定基準についても、インキの種類によってアロマフリー溶剤の含有量が異なってくる(オフ輪インキ:45重量%以下、枚葉インキ(新聞インキ):30重量%以下)。また、この石油系溶剤は沸点範囲の異なる種類の溶剤を、乾燥性/セット性のバランスを向上させるために、インキタイプによってそれぞれ独創的な配合比率で含有させている。
【0012】
本発明の溶剤回収再利用型オフセットインキは、回収した石油系溶剤の沸点範囲が異なる種類の混合物をインキ中に再度配合する事でリサイクルを行う。そのため、再利用されるリサイクル溶剤は、その時々で溶剤の沸点範囲が異なるため、この回収溶剤の含有率が高ければ高いほど、インキの乾燥性に及ぼす影響は強くなる。
【0013】
オフ輪印刷においては、およそ100〜250℃程度の熱風によって印刷後のインキ中に含有している石油系溶剤を蒸発させる事によって印刷面を乾燥させており、蒸発した石油系溶剤は触媒燃焼式排ガス処理装置によって、約350℃まで再加熱され触媒床下でCO2とH2Oに分解され大気中に放出されている。溶剤の回収方法としては、この排ガス処理装置で燃焼・分解される前のガスを回収し、空冷や水冷などの方法により沸点以下に冷却した後、回収タンクに保存する。
【0014】
本発明のオフ輪インキの製造例としては、顔料0〜30重量%、バインダー樹脂20〜50重量%、植物油量0〜20重量%、石油系溶剤0〜45%からなるオフ輪インキが挙げられる。その他に使用する原材料としては、印刷面の擦れ防止のために耐摩擦性ワックスなどが挙げられるが、これらの有無によって本発明が限定されるものではない。
【0015】
本発明において使用される顔料としては、一般的な無機顔料及び有機顔料を示すことができる。無機顔料としては黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉、などを示すことができる。有機顔料としては、アゾ系として、C系(βナフトール系)、2B系及び6B系(βオキシナフトエ系)などの溶性アゾ顔料、βナフトール系、βオキシナフトエ酸アニリド系、モノアゾイエロー系、ジスアゾイエロー系、ピラゾロン系などの不溶性アゾ顔料、アセト酢酸アリリド系などの縮合アゾ顔料、フタロシアニン系として、銅フタロシアニン(αブルー、βブルー、εブルー)、塩素、臭素などのハロゲン化銅フタロシアン、金属フリーのフタロシアニン顔料、多環顔料としてペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系顔料を挙げることができる。顔料の添加量は、オフ輪インキ組成物の全量に対して0〜30重量%である。
【0016】
本発明で使用されるバインダー樹脂とは、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性石油樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂及び石油樹脂等を示し、それらは任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。またバインダー樹脂は新日本石油(株)製AFソルベント6の10%希釈状態において白濁温度が40〜140℃が好ましい。(白濁温度はNOVOCONTROL社製、CHEMOTRONICにて測定した。)40℃未満だとワニスにした状態で充分なゲル弾性が得られず、140℃を超えると溶剤との親和性が悪くなる。
【0017】
本発明で使用されるバインダー樹脂は、植物油類及び/または石油系溶剤とアルミニウムキレート化合物のようなゲル化剤を添加して、190℃以上で溶解してワニス化したものを使用することができる。バインダー樹脂の添加量はオフ輪インキ組成物の全量に対して20〜50重量%である。
【0018】
本発明における植物油類とは植物油並びに植物油由来の化合物であり、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセリドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸であるトリグリセリドと、それらのトリグリセリドから飽和または不飽和アルコールとをエステル反応させてなる脂肪酸モノエステル、あるいは植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類が挙げられる。
【0019】
植物油として代表的ものは、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油などが挙げられるが、これらを重合したものでも良い。
【0020】
脂肪酸モノエステルは上記植物油とモノアルコールとをエステル交換したものや植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステルである。モノアルコールの代表的なものは、メタノール、エタノール、n−又はiso−プロパノール、n,sec又はte t−ブタノール、ヘプチノール、2−エチルヘキサノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール等の飽和アルコール、オレイルアルコール、ドデセノール、フイセテリアルコール、ゾンマリルアルコール、ガドレイルアルコール、11−イコセノール、11−ドコセノール、15−テトラコセノール等の不飽和脂肪族系アルコールが挙げられる。
【0021】
エーテル類として代表的なものは、ジ−n−オクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジへプチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジデシルエーテル、ノニルへキシルエーテル、ノニルヘプチルエーテル、ノニルオクチルエーテル等が挙げられる。植物油の添加量はオフ輪インキ組成物の全量に対して0〜20重量%である。
【0022】
本発明で使用している石油系溶剤としては、芳香族炭化水素の含有量が1重量%以下の原油由来の溶剤である。この石油系溶剤はアニリン点が70〜110℃、沸点が230℃以上の石油溶剤が適当である。アニリン点が70℃未満の場合には樹脂を溶解させる能力が高すぎる為インキの粘度が低くなりすぎ地汚れ耐性が充分でなくなる。またアニリン点が110℃を超える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、インキの流動性が劣り、その結果光沢、着肉性が悪い印刷物しか得ることができず好ましくない。沸点が230℃未満の場合には印刷機上でのインキ中溶剤の放出量が多くなり、インキの流動性の劣化により、ローラー、版、ブランケットへのインキの堆積が起こり易くなる為、好ましくない。
【0023】
本発明におけるリサイクル溶剤は、純粋な石油系溶剤と比較するとアニリン点及び沸点が高くなるため、その使用量が多くなるほどインキの流動性が劣化し、乾燥性も劣化する事になる。
【0024】
本発明において使用している石油系溶剤及びリサイクル溶剤は、オフ輪インキ組成物の全量に対してそれぞれの比率が0〜45重量%であり、その合計も0〜45重量%となる。
【0025】
本発明においてリサイクル溶剤の含有率は45%以下であるが、リサイクル溶剤を多く含有するほど乾燥性は劣る事になるため、好ましくは35〜25%、更に好ましくは25%以下が望ましい。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は、「重量部」を表す。
【0027】
[リサイクル溶剤の採取例]三菱重工業株式会社製オフ輪印刷機LITHOPIA-NEO-800にて、オフ輪インキ(東洋インキ製造株式会社製WDレオエックス黄、紅、藍、墨M)を用いて4色プロセス印刷を、印刷速度500rpm、紙面温度120℃の条件で実施し、印刷紙面に熱風をあてて乾燥させる装置(以下ドライヤーと称す)の出口から吸引した排ガスを吸引ホースの外側から冷却し、液状化した溶液の上層を採取し、リサイクル溶剤を得た。
【0028】
[オフ輪インキ用のワニス製造例]撹拌機、水分離器付還流冷却器、温度計付き4つ口フラスコに、ロジン変性フェノール樹脂43部(荒川化学工業(株)製タマノル419)、大豆油12部、石油系溶剤(新日本石油(株)製AFソルベント7)44部、ゲル化剤(川研ファインケミカル(株)製ALCH)1部を190℃で1時間加熱撹拌してオフ輪インキ用ワニス(1)を得た。また、石油系溶剤44部のところをリサイクル溶剤44部を用いて、オフ輪インキ用ワニス(2)を得た。
【0029】
[オフ輪インキの製造例]上記オフ輪インキ用ワニス(1)を60部に、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA77)20部、石油系溶剤(新日本石油(株)製AFソルベント7)20部を加え、常法に従い三本ロールを用いてオフ輪インキ組成物を得た。
【0030】
前記で得られたオフ輪インキを、そのまま比較例1とした。
【0031】
前記オフ輪インキで使用する石油系溶剤を6部、大豆油14部を用いて比較例2を得た。
【0032】
前記オフ輪インキで使用する石油系溶剤を15部、リサイクル溶剤5部を用いて実施例1を得た。
【0033】
前記オフ輪インキで使用する石油系溶剤を10部、リサイクル溶剤10部を用いて実施例2を得た。
【0034】
前記オフ輪インキで使用する石油系溶剤を5部、リサイクル溶剤15部を用いて実施例3を得た。
【0035】
前記オフ輪インキで使用する石油系溶剤は0部、リサイクル溶剤20部を用いて実施例4を得た。
【0036】
前記オフ輪インキで使用するオフ輪インキ用ワニス(1)のところをオフ輪インキ用ワニス(2)に、石油系溶剤を20部、リサイクル溶剤0部を用いて実施例5を得た。
【0037】
前記オフ輪インキで使用するオフ輪インキ用ワニス(1)のところをオフ輪インキ用ワニス(2)に、石油系溶剤を15部、リサイクル溶剤5部を用いて実施例6を得た。
【0038】
前記オフ輪インキで使用するオフ輪インキ用ワニス(1)のところをオフ輪インキ用ワニス(2)に、石油系溶剤を10部、リサイクル溶剤10部を用いて実施例7を得た。
【0039】
前記オフ輪インキで使用するオフ輪インキ用ワニス(1)のところをオフ輪インキ用ワニス(2)に、石油系溶剤を5部、リサイクル溶剤15部を用いて実施例8を得た。
【0040】
前記オフ輪インキで使用するオフ輪インキ用ワニス(1)のところをオフ輪インキ用ワニス(2)に、石油系溶剤は0部、リサイクル溶剤20部を用いて実施例9を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の通り得られた比較例1、2及び実施例1〜9について、下記の方法でインキの乾燥性について評価を行った。評価結果とそれぞれのリサイクル溶剤含有量を表2に示す。
【0043】
[乾燥性測定方法]比較例1、2及び実施例1〜9で得られたオフ輪インキを株式会社明製作所製RIテスターにて全面ロールを用い、0.3mlのインキ量にて三菱製紙株式会社製パールコートAに展色し、熱風オーブンの設定温度と保存時間を変化させながら乾燥させ、設定温度と保存時間について測定を実施した。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、乾燥性においては、比較例2では大豆油含有率が高く未乾燥であり、リサイクル溶剤含有量が多くなるほど、乾燥状態は悪くなる傾向にある。大豆油含有率が標準比率においては、リサイクル溶剤の含有比率が高くなってくる実施例5から設定温度を変更する必要があり、更に比率が高くなってくる実施例7では、更に設定温度を高くする必要が発生しているが、石油系溶剤を使わないリサイクル溶剤のみの実施例9でも、溶剤は蒸発して乾燥状態となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートセットオフセット輪転印刷において、熱風乾燥により蒸発させた高沸点石油系溶剤を燃焼させずに回収する事を特徴とする溶剤回収方法。
【請求項2】
請求項1記載のヒートセットオフセット輪転印刷における溶剤回収方法により回収された高沸点石油系溶剤を再利用し、45重量%以下含有する事を特徴とする溶剤回収再利用型印刷インキ組成物。

【公開番号】特開2010−36165(P2010−36165A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205077(P2008−205077)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】