説明

溶存酸素増加抑制方法

【課題】食品や化粧品、培地等における溶存酸素の増加を抑制する。
【解決手段】食品や化粧品、培地等の原材料の一つとして発酵セルロースを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵セルロースを添加することを特徴とする、飲食物等に含まれる溶存酸素の増加を抑制する方法及び該溶存酸素増加抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食物の劣化には酸素が関係していることが知られており、飲食物を保存する際には、酸素の影響をできるだけ抑えるために、密封容器に保存し保存時の酸素との接触を極力抑えたり、酸素透過性の低い容器を使用する方法、無機鉄剤やグルコースオキシダーゼ等の脱酸素剤を添加して酸素そのものの量を減らすといった方法が、一般的に利用されている。
【0003】
しかし、これらの脱酸素剤は飲食物中にまで添加することができないため、飲食物そのものの中に含まれている酸素(溶存酸素)までを除去することは困難であった。
【0004】
飲料等の溶液状態にある飲食物であれば、加熱による殺菌工程を経るため、一時的に加熱により飲食物内の溶存酸素量が低下する場合があるが、加熱処理後にはまた酸素が食品中に吸収されることとなる。
【0005】
かかる溶存酸素量を低減させる方法として、特定の酵素を用いてサラダドレッシング中の溶存酸素を除去する技術(特許文献1)、窒素・アルゴン等の不活性ガスを原料中に吹き込み、溶存酸素を不活性ガスに置換するバブリング法、容器詰め前の水中油型乳化食品中に不活性ガスを吹き込むバブリング法、各種原料をミキサーで混合する際に減圧して溶存酸素を除去する減圧脱気法(特許文献2)が開示されている。
【0006】
飲食物の製造工程中において、上述のように一時的な処理によって溶存酸素量を低減することは可能であるが、溶存酸素量が少ない状態で維持することは困難であった。
【0007】
【特許文献1】特表平11−504963号公報
【特許文献2】特再WO2003/077677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
飲食物の酸素の吸収を優位に防ぎ、酸素による劣化を抑える方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、飲食物の酸素の吸収を防ぎ劣化を抑えるために、発酵セルロースを飲食物中に添加することにより、飲食物中の酸素の存在量(溶存酸素量)の増加を抑制することができるとの知見に至り、本発明を完成した。
【0010】
尚、セルロース(又はその同等品)を飲食物に添加する技術は他にも開示されているが(例えば、特開2005−110674号等)、当該発酵セルロースが飲食物中において、溶存酸素量の増加を抑制するとの記載も示唆もされていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体等において経時的に増加する溶存酸素量の増加を効果的に抑制することが可能となり、食品(特に飲料)や化粧品類の製造時や嫌気性菌等の培養用培地の調製時に溶存酸素の増加を抑える、或いは一定量に保つことが可能となる。これにより、食品・化粧品においては酸素による劣化の抑制、培地においては簡便な方法によって溶存酸素量がコントロールできることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する発酵セルロースは、工業的に酢酸菌を通気撹拌培養し、菌体から作られた非常に細い繊維状のセルロースを分離・回収し得られたものである。市販されている商品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のサンアーティスト〔商標〕シリーズが挙げられる。
【0013】
発酵セルロースの添加量は、添加する対象物に応じて適宜調節することが可能であるが、対象物に対し0.0001〜1.5質量%、好ましくは0.001〜1質量%の範囲を例示できる。かかる添加量の範囲は、食品や化粧品、培地の種類や性状に応じて適宜調節することができるが、添加量が少なすぎると十分な溶存酸素増加抑制効果を得ることができず、添加量が多すぎると粘度が生じてゲル状になり、食品等対象物の調製が困難になるため好ましくない。
【0014】
本発明を利用できる対象物として、食品全般を例示できるが、好ましくは清涼飲料、果汁飲料、乳清飲料、乳酸飲料等の飲料類、ドレッシング類、たれ、ソース等の液状調味料、ゼリー、水ようかん等の和菓子、キャンディー等を例示できる。また、その製造工程において、溶液の状態を経て製造される物に対し添加することで、その製造工程における食品原料中の溶存酸素量増加を抑制し、酸素による劣化を防止する効果を見込むこともできる。これら食品への添加方法は、各食品の原材料のひとつに本発明に係る発酵セルロースを添加するだけで良く、製造に際し特別な機器や製造条件を必要としないため、工業的にも有利である。
【0015】
また、化粧品としては、例えばローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤といった種々の剤形が含まれ、一般品、医薬品、医薬部外品の何れの範疇に含まれるものであってもよい。これらに対しても、製造原料のひとつとして発酵セルロースを添加することで、本発明の効果を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明は嫌気性微生物を培養する培地或いは培養液、事務用水のり、液状接着剤等にも、好適に利用することができる。
【0017】
尚、上記対象物に配合する成分としては、既存の添加剤を本発明の効果を妨げない範囲において利用することができる。
【0018】
また、本発明の効果を妨げない範囲において、一般的に使用される多糖類を併用しても良い。具体的には、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン(HM、LM等)、カシアガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、キサンタンガム、ガティガム、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)、ゼラチンなどから選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0019】
さらに本発明は、発酵セルロースを主成分とする溶存酸素増加抑制剤を提供するものである。かかる溶存酸素増加抑制剤は、上述の発酵セルロースを含有するものであれば、対象物の製造に使用する各種成分と適宜組み合わせることにより提供することが可能となる。例えば、飲料への添加が目的であれば、飲料の製造に使用する成分である着色料や香料、安定剤等と本発明にかかる発酵セルロースを混合するだけでよい。或いは発酵セルロースを、そのまま溶存酸素増加抑制剤として添加することも可能である。各種化粧品、培地であっても同様に、発酵セルロース単独或いは各種既存の成分と適宜組み合わせることで、本発明にかかる溶存酸素増加抑制剤とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、下記処方中の単位は特に言及しない限り「%」は「質量%」であることを意味する。
【0021】
1.試験溶液の調製
実施例液
室温のイオン交換水に、発酵セルロースを添加し、室温で10分間撹拌後、150kgf/cm2でホモジナイズ処理を行った。次いで得られた処理液を100mlのスクリュー瓶に85gずつ充填し、吸引しながらソニケーター(超音波洗浄機 (株)エスエヌディ社製)で泡が出なくなるまで脱気を行った。
【0022】
比較例液(キサンタンガム水溶液)
イオン交換水にキサンタンガムを添加して80℃10分間加熱撹拌溶解を行い、次いで冷却し100mlのスクリュー瓶に85gずつ充填した。次いで吸引しながらソニケーターで泡が出なくなるまで脱気を行った。
【0023】
2.比較実験
得られた実施例液及び比較例液を20℃に調節し、堀場製作所社製のDOメーター(D−25)で溶存酸素を測定した。
【0024】
各溶液を5℃、室温及び55℃で一日保存後、液温を20℃にした直後にDOメーターで溶存酸素を測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
3.結果
表1の結果の通り、水を保存するだけで溶存酸素(DO)量が増加することが明らかとなった。これに対し、発酵セルロースを添加することにより、調製直後及び各温度における一日保存後においても、発酵セルロースを添加した溶液においては溶存酸素量の増加は抑えられていた。一方の比較例としてキサンタンガムを添加した溶液では、溶存酸素(DO)量の増加を抑えることはできなかった。
【0027】
尚、発酵セルロース及びキサンタンガムを溶液に添加すると粘度の上昇が見られたが、粘度を高くすることによっても、溶存酸素の増加を抑制できないことが明らかとなった。このことから、粘度の高低は、溶存酸素の増加を抑制することとは相関関係にないことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵セルロースを添加することによる、溶存酸素の増加抑制方法。
【請求項2】
発酵セルロースを含有することを特徴とする溶存酸素増加抑制剤。

【公開番号】特開2009−118755(P2009−118755A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294119(P2007−294119)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】