説明

溶存酸素濃度簡易検査方法及び簡易検査器具

【課題】水質環境(試料水)のDO濃度を、新たに開発した検査器具を用いて採取するとともに、予め用意した色調表により簡便かつ迅速に推定又は判定する。
【解決手段】水質環境から採取した試料水WのDO濃度を、複数の反応試薬(11,12)を用いて簡便かつ迅速に推定又は判定するものである。透明容器21(2)内で定量採取した試料水Wに対して定量の硫酸マンガン(II)溶液11とアルカリ液12とを混合して反応を進行させ、生成した沈澱物中のマンガン(III)水和酸化物に由来する反応生成溶液Rの色を、試料水W中のDO濃度に対応させて作成したDO色調表3と比色することにより、該色を指標とする試料水WのDO濃度を推定又は判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質環境の溶存酸素(以下、DO)を測定、検査又は評価する方法に係り、詳しくは、水質環境から採取した試料水のDO濃度を、複数の反応試薬を用いて簡便かつ迅速に推定又は判定するための溶存酸素濃度簡易検査方法及び簡易検査器具に関する。ここで、反応試薬はマンガンの酸化反応を利用するものであり、検査は目視による定性的な推定又は判定である。なお、DO濃度に関する「測定、検査又は評価」は互換的に使用する。
【背景技術】
【0002】
水のDOは魚など水中生物の呼吸に必要な物質であり、その濃度が減少することで魚類の斃死や悪臭の発生につながる。魚類の斃死事故のうち酸欠が原因となっている割合は高く、河川の水質汚染事故にあたって、酸欠可動かの判断を迫られ、現場での迅速なDO濃度の測定が必要となる。
【0003】
こうしたなかで従来より、DOの測定はJISによりウィンクラーアジ化ナトリウム変法、隔膜電極法、ミラー変法の3方法が定められているが、殆どの場合前2法が用いられる。
【0004】
このうち、隔膜電極法は迅速性、簡便性の点から近年広く普及してきたが(例えば特許文献1を参照)、事前に機器の較正や日常の保守点検が欠かせないなど即応性に難点がある。
【特許文献1】特開平8−327624号公報
【0005】
このため、機器測定のみに頼った現場測定はリスクが大きく、一般にはDO瓶による採水後、実験室に持ち帰ってウィンクラーアジ化ナトリウム変法による測定も併せて行うことが多い。
【0006】
したがって、水質汚染事故の際には、DO測定技術を持つ熟練者が同行しなければならず、緊急時の迅速対応に難点がある。
【0007】
このように、現場で使える簡易測定法(本発明に関し簡易検査方法)は少なく、酸化還元指示薬を用いたケメット法等が製品化されているが(例えば特許文献2及び3を参照)、光に弱いことや空気(中)で容易に酸化されるためガラス製密封容器に保存する必要があるなど使用条件が制限されている。
【特許文献2】特開2001−124760号公報
【特許文献3】特開2001−124699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明が解決しようとする問題点は、空気や光に対する安全性が高く、熟練者でなくとも迅速かつ簡易にDO濃度を推定又は判定する手法を開発する点にある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、上記課題を解消し、水質環境から採取した試料水のDO濃度を、複数の反応試薬を用いて簡便かつ迅速に推定又は判定するための溶存酸素濃度簡易検査方法及び簡易検査器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するために本発明は、水質環境のDO(濃度)を測定、検査又は評価する方法において、
前記水質環境から採取した試料水のDO濃度を、複数の反応試薬を用いて簡便かつ迅速に推定又は判定するための溶存酸素濃度簡易検査方法であって、
透明容器内で定量採取した試料水に対して定量の硫酸マンガン(II)溶液とアルカリ液とを混合して反応を進行させ、生成した沈澱物中のマンガン(III)水和酸化物に由来する反応生成溶液の色を、試料水中のDO濃度に対応させて作成したDO色調表と比色することにより、該色を指標とする前記試料水のDO濃度を推定又は判定することを特徴とするものである。
【0011】
また、上記方法を実施するために用いられる溶存酸素濃度簡易検査器具であって、
両端を開放した単管に2種類の反応試薬を混合防止剤を介して分離収容して両端を栓封した反応管と、
有底部にアウトプット開口を凸形成したピストン付き透明シリンダと、
透明シリンダ内で反応試薬と試料水が混合することにより反応生成した沈澱物の分散溶液の色を比色するためのDO色調表を具備するとともに、
反応管の一端を開栓してピストン付き透明シリンダのアウトプット開口に接続してなり、反応管の他端を試料水に浸漬して開栓するとともに、ピストンを引き操作して透明シリンダ内に試料水を急速吸引することにより反応試薬と試料水を混合するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、簡素な構成の検査器具を用いて簡便かつ迅速に試料水のDO濃度を推定又は判定することができる。しかも、器具は可搬性があり、空気や光に対する安全性が高く、熟練者でなくとも技術の巧拙を問わないので、緊急時の迅速対応等機動性に優れている。また、反応管は使い捨ての反応試薬カートリッジとして供され、ピストン付き透明シリンダとして注射筒を用いるので、器具の点検保守は殆ど不要であり、この種の簡易検査キットとして普及が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の最良形態は、上記構成の簡易検査方法において、以下の手順を包含するものである。ここで、物の構成に関する記述部分は簡易検査器具の構成要素となるものである。
【0014】
(1)両端を開放した反応管に2種類の反応試薬を混合防止剤を介して分離収容して両端を栓封する。
【0015】
(2)ピストン付き透明シリンダの有底部にアウトプット開口を凸形成し、ピストンを押し下げてシリンダ内の空気を排除した後、反応管の一端を開栓して該アウトプット開口に接続する。
【0016】
(3)反応管の他端を試料水に浸漬して開栓する。
【0017】
(4)ピストンを引き操作して透明シリンダ内に試料水を急速吸引することにより、反応試薬と試料水を混合し、反応を誘起する。
【0018】
(5)透明シリンダ内の反応生成溶液の色をDO色調表と目視比較してDO濃度を推定又は判定する。
【0019】
ここで、簡易検査方法及び簡易検査器具に共通して、至適な2種類の反応試薬は、硫酸マンガン(II)溶液とアルカリ液であり、混合防止剤が流動パラフィンである。
【0020】
また、ピストン付き透明シリンダには注射筒を用いている。
【0021】
さらに、色調表は、反応生成した沈澱物の量比に対応する分散溶液の色を色調表示し、かつ、該色を指標とするDO濃度に係る目盛りを付したものとしている。
【0022】
なお、簡易検査器具に関しては、色調表をピストン付き透明シリンダ又は注射筒の外表面に付着して、目盛りを読値するようにしたものが好ましい。
【実施例】
【0023】
本発明の一実施例(以下、実施例方法及び実施例器具)について添付図面を参照して以下詳細説明する。
【0024】
<実施例方法及び実施例器具>
図1は実施例方法(器具)の概要説明図である。
【0025】
(イ)実施例器具Xの構成
実施例器具Xは、反応試薬を封入した反応管1と、注射筒2と、DO色調表3を具備するものである。なお、注射筒2の外表面にDO色調表3を付着してもよい。
【0026】
(ロ)DO濃度簡易検査方法の要約
予め反応試薬を封入した反応管1と水試料採取のための注射筒2を用いて、手動操作により注射筒2内に反応試薬(11,12)と試料水Wを急速吸引して混合し反応を進行させる。
【0027】
反応管1は、細管に硫酸マンガン溶液11とアルカリ溶液12を流動パラフィン13で区画して封入したものである。
【0028】
検査の実行は、使用する反応管1の一端を注射筒2の先に接続し、試料水Wを吸引した際の反応生成溶液Rの色調を観察することでDO濃度の推定又は判定をおこなうものである。
【0029】
(ハ)反応機構
反応機構は、硫酸マンガン(II)にアルカリ液を加えることで、水中のDOの作用によって酸化されたマンガン(III) 水和物〔茶色沈澱物〕を生成させるものである。反応の進行は以下のように推認されている。
【0030】
(a)2KOH+MnSO4 →Mn(OH)2 +K2 SO4
(b)4Mn(OH)2 +O2 +H2 O→Mn(OH)3 ↓〔or MnO(OH)2
【0031】
ところで、本来のウィンクラーアジ化ナトリウム変法は、DO瓶に試料水を採取し、これに硫酸マンガンを、次いでアルカリ性よう化カリウムを静かに投入して密栓し、撹拌混合して沈殿物を生成させた後、硫酸を加え、遊離よう素を生成させ、これをチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定してDO量を測定する。
【0032】
一方、本発明方法では、定量制度よりも迅速性、簡便性に重点を置き、前半の沈殿物生成までの行程を反応管を介して瞬時に行うようにしている。このため、アルカリよう化カリウムに替えて、70%水酸化カリウム溶液を用いている。
【0033】
(ニ)反応管
図2に反応管の構成を示す。
【0034】
DO推定に用いる反応管1は、プラスチック製またはガラス製細管(内径1〜5mm,長さ15cm程度)の内部に、硫酸マンガン(II)溶液11〔好適には、MnSO4 ・5H2 O240gを水に溶かして500mlにしたもの〕及び70%水酸化カリウム〔KOH〕溶液12を入れたもので構成されている。各液の封入にあたっては、相互に混じらないように少量の流動パラフィン13を介して配置し、反応管1の両端は密栓する。
【0035】
(ホ)注射筒
注射筒1は、内部液の色調が確認できる透明な注射筒(好適には容量10ml程度)を用いる〔図1及び後述の図3を参照〕。
【0036】
<検査手順又は操作>
図3は実施例方法(器具)の手順又は操作を示す説明図である。
【0037】
図示の左から右へ以下の検査手順(操作)を実行する。
【0038】
(1)両端を栓封した反応管1を用意する。
(2)注射筒2のピストン22を押し下げて筒21内の空気を排除した後、反応管1の一方の栓を取り、注射筒2に接続する。
(3)反応管1の先端(他端)を試料水Wに浸漬した後、他方の栓を外す。
(4)ピストン22を引き操作して筒21内に試料水Wを速やかに吸引する。
(5)筒21内の反応生成溶液Rの色をDO色調表3と目視比較してDO濃度を推定又は判定する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、試料水のDO濃度検査(測定)に関し、新たな手法を提供するものであり、斯界への貢献が期待でき、しかも産業上極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例方法(器具)の概要説明図である。
【図2】実施例器具の反応管を示す説明図である。
【図3】実施例方法(器具)の検査手順(操作)を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 反応管
11 硫酸マンガン溶液
12 アルカリ液
13 流動パラフィン〔混合防止剤〕
2 注射筒〔ピストン付き透明シリンダ〕
21 シリンダ
22 ピストン
3 DO色調表
W 試料水
R 反応生成溶液
X 簡易検査器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水質環境の溶存酸素(以下、DO)を測定、検査又は評価する方法において、
前記水質環境から採取した試料水のDO濃度を、複数の反応試薬を用いて簡便かつ迅速に推定又は判定するための溶存酸素濃度簡易検査方法であって、
透明容器内で定量採取した試料水に対して定量の硫酸マンガン(II)溶液とアルカリ液とを混合して反応を進行させ、生成した沈澱物中のマンガン(III)水和酸化物に由来する反応生成溶液の色を、試料水中のDO濃度に対応させて作成したDO色調表と比色することにより、該色を指標とする前記試料水のDO濃度を推定又は判定することを特徴とする溶存酸素濃度簡易検査方法。
【請求項2】
水質環境の溶存酸素(以下、DO)を測定、検査又は評価する方法において、
前記水質環境から採取した試料水のDO濃度を、複数の反応試薬を用いて簡便かつ迅速に推定又は判定するための溶存酸素濃度簡易検査方法であって、以下の手順を包含することを特徴とする溶存酸素濃度簡易検査方法。
(1)両端を開放した反応管に2種類の反応試薬を混合防止剤を介して分離収容して両端を栓封する。
(2)ピストン付き透明シリンダの有底部にアウトプット開口を凸形成し、ピストンを押し下げてシリンダ内の空気を排除した後、反応管の一端を開栓して該アウトプット開口に接続する。
(3)反応管の他端を試料水に浸漬して開栓する。
(4)ピストンを引き操作して透明シリンダ内に試料水を急速吸引することにより、反応試薬と試料水を混合し、反応を誘起する。
(5)透明シリンダ内の反応生成溶液の色をDO色調表と目視比較してDO濃度を推定又は判定する。
【請求項3】
2種類の反応試薬が硫酸マンガン(II)溶液とアルカリ液であり、混合防止剤が流動パラフィンである請求項2記載の溶存酸素濃度簡易検査方法。
【請求項4】
ピストン付き透明シリンダが注射筒である請求項2記載の溶存酸素濃度簡易検査方法。
【請求項5】
色調表が反応生成した沈澱物の量比に対応する分散溶液の色を色調表示し、かつ、該色を指標とするDO濃度に係る目盛りを付したものである請求項2記載の溶存酸素濃度簡易検査方法。
【請求項6】
水質環境の溶存酸素(以下、DO)を測定、検査又は評価する器具において、
前記水質環境から定量採取した試料水のDO濃度を、複数の反応試薬を用いて簡便かつ迅速に推定するためにキット構成した溶存酸素濃度簡易検査器具であって、
両端を開放した単管に2種類の反応試薬を混合防止剤を介して分離収容して両端を栓封した反応管と、
有底部にアウトプット開口を凸形成したピストン付き透明シリンダと、
透明シリンダ内で反応試薬と試料水が混合することにより反応生成した沈澱物の分散溶液の色を比色するためのDO色調表を具備するとともに、
反応管の一端を開栓してピストン付き透明シリンダのアウトプット開口に接続してなり、反応管の他端を試料水に浸漬して開栓するとともに、ピストンを引き操作して透明シリンダ内に試料水を急速吸引することにより反応試薬と試料水を混合するようにしたことを特徴とする溶存酸素濃度簡易検査器具。
【請求項7】
反応管が使い捨ての反応試薬カートリッジとして供されるものであり、ピストン付き透明シリンダが注射筒である請求項6記載の溶存酸素濃度簡易検査器具。
【請求項8】
2種類の反応試薬が硫酸マンガン(II)溶液とアルカリ液であり、混合防止剤が流動パラフィンである請求項6記載の溶存酸素濃度簡易検査器具。
【請求項9】
色調表が反応生成したマンガン(III)水和酸化物の量比に対応する分散溶液の色を色調表示し、かつ、該色を指標とするDO濃度に係る目盛りを付したものである請求項6記載の溶存酸素濃度簡易検査器具。
【請求項10】
色調表をピストン付き透明シリンダ又は注射筒の外表面に付着して、目盛りを読値するようにした請求項9記載の溶存酸素濃度簡易検査器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−216491(P2009−216491A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59345(P2008−59345)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】