説明

溶接トランスおよびその製造方法

【課題】電磁鋼板の裁断工数および積層枚数を低減し、積層鉄心の組立作業時間を短縮して、溶接トランスの製造コストを低減する。
【解決手段】溶接トランス1の積層鉄心2は、複数の中間積層体と複数の挟持積層体とを有する。中間積層体21と挟持積層体22の幅方向は同一方向に揃えられる。複数の中間積層体21は間隔を置き、中間積層体21の長さ方向を揃えて配置される。中間積層体21に、中間積層体21に環状にコイル3が巻回される。複数の挟持積層体22は、中間積層体21の長さ方向の両側から複数の中間積層体21を挟持する。中間積層体21と挟持積層体22とは、中間積層体21と挟持積層体22の幅方向の両側から一対の組立フランジで挟持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層鉄心の構造を改良した溶接トランスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接機などの抵抗溶接機は、瞬間的に大電流を供給できるようにするために溶接トランスを備えている。溶接トランスは、磁気回路を形成する積層鉄心を有し、積層鉄心によって入力側の一次回路と出力側の二次回路とを相互インダクタンスで結合する。
【0003】
溶接トランスは、鉄心とコイルの配置関係によって内鉄形と外鉄形とに大別され、外鉄形が一般的である。内鉄形は鉄心の周りにコイルを配置し、外鉄形はコイルの周りに鉄心を配置する。
【0004】
溶接トランスも一般的なトランスと同様に、渦電流損を低減するために、積層鉄心を採用している。積層鉄心は、たとえば、矩形状に裁断した薄い平鋼板(電磁鋼板)を絶縁被覆し、その厚み方向に複数積層して構成される。たとえば特許文献1には、所定形状の打ち抜き無方向性珪素鋼板を複数積層し、リベットでかしめ固定した積層鉄心が開示されている。
【0005】
また、組立作業が容易な鉄心として、帯状の圧延鋼板を絶縁処理して巻いた巻鉄心や、巻鉄心を焼きなまして接着剤を含浸させた後これを2片に裁断したカットコア式巻鉄心がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−186062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の積層鉄心は、形状や板幅の異なる複数枚の平鋼板を使用している。したがって、形状や板幅ごとにプレス機の設定を変えて、平鋼板を打ち抜く必要があり、平鋼板の裁断工数が多くなる。また、従来の積層鉄心は、すべての平鋼板の積層方向を一方向に揃えているので、平鋼板の使用枚数(積層枚数)が多くなる。このため、積層鉄心の組立作業時間が長くなり、溶接トランスの製造コストが増大する。
【0008】
一方、巻鉄心およびカットコア式鉄心は、巻機により圧延鋼板を巻いて積層するので、電磁鋼板の裁断工数を削減することができ、組立作業時間の短縮化が期待される。その反面、巻機、熱処理槽、接着剤含浸炉、および巻きコア切断機などを備えなければならず、鉄心の作製に高額な設備投資と広い敷地面積が必要となる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みて創案されたものであり、積層鉄心を採用しても、平鋼板の裁断工数および積層枚数を低減することができ、積層鉄心の組立作業時間を短縮でき、コイルの形成も容易にでき、製造コストを低減することができる溶接トランスおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための溶接トランスは、複数の中間積層体と複数の挟持積層体とを有する。中間積層体は、幅と長さを揃えた複数の矩形状の平鋼板を当該平鋼板の厚み方向に積層する。挟持積層体は、上記中間積層体と同一の幅の矩形状の平鋼板を当該平鋼板の厚み方向に積層する。
【0011】
中間積層体と挟持積層体の幅方向は、同一方向に揃えられる。複数の中間積層体は間隔を置き、これらの中間積層体の長さ方向を揃えて配置される。中間積層体に環状にコイルが巻回される。複数の挟持積層体は、配置した複数の中間積層体を上記中間積層体の長さ方向の両側から挟持する。
【0012】
一対の組立フランジは、中間積層体と挟持積層体とをこれらの幅方向の両側からで挟持する。
【0013】
なお、本発明において、矩形状の平鋼板の幅とは当該平鋼板の短辺を意味し、矩形状の平鋼板の長さとは当該平鋼板の長辺を意味する。また、「幅方向」とは複数の平鋼板からなる積層体の短辺方向を意味し、「長さ方向」とは複数の平鋼板からなる積層体の長辺方向を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る溶接トランスによれば、中間積層体を形成する平鋼板の幅と、挟持積層体を形成する平鋼板の幅とが、同一の幅に揃えられる。したがって、プレス機の打ち抜き幅の設定を変更する必要がなく、平鋼板の裁断工数を低減することができる。
【0015】
また、中間積層体と挟持積層体の幅方向は同一方向に揃えられる。一方、中間積層体と挟持積層体の長さ方向は交差しており、これらの中間積層体と挟持積層体との平面同士の組み合わせで、コイルを収容するコイル収容空間が区画される。
【0016】
したがって、中間積層体の積層方向と挟持積層体の積層方向は交差しており、従来構造のように、すべての平鋼板が一方向を向かないので、平鋼板の使用枚数(積層枚数)を低減することができる。また、コイルは挟持積層体を除いた状態で中間積層体に挿入することができるので、溶接トランスの組み立てが容易になる。
【0017】
その結果、積層鉄心を採用しても、平鋼板の裁断工数および積層枚数を低減することができ、積層鉄心の組立作業時間を短縮化して、溶接トランスの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1の溶接トランスの積層鉄心を示す正面図および側面図である。
【図2】実施形態1の溶接トランスの上部開放状態を示す平面図である。
【図3】実施形態1の溶接トランスを示す側面図である。
【図4】実施形態2の溶接トランスの積層鉄心を示す正面図および側面図である。
【図5】実施形態2の溶接トランスの上部開放状態を示す平面図である。
【図6】実施形態3における溶接トランスの製造方法のフローチャートである。
【図7】比較例の溶接トランスの積層鉄心を示す正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る溶接トランスの実施形態を[実施形態1]と[実施形態2]に、本発明に係る溶接トランスの製造方法の実施形態を[実施形態3]に説明する。
【0020】
[実施形態1]
図1から図3を参照して、実施形態1の溶接トランスについて説明する。図1は、実施形態1の溶接トランスの積層鉄心を示す正面図および側面図である。図2は、実施形態1の溶接トランスの上部開放状態を示す平面図である。図3は、実施形態1の溶接トランスを示す側面図である。
【0021】
本実施形態の溶接トランス100は、積層鉄心2を採用しながらも、平鋼板の裁断工数および積層枚数を低減することができ、積層鉄心2の組立作業時間の短縮化を図ることができるようになる。
【0022】
本発明に係る溶接トランス100は、鉄心構造に特徴を有する。図2に示すように、実施形態1の溶接トランス100はコイル3と積層鉄心2とを備え、コイル3の周囲に積層鉄心2を配置した外鉄形である。
【0023】
積層鉄心2は、磁気回路を形成して、入力側の一次回路と出力側の二次回路とを相互インダクタンスで結合する。積層鉄心2は、複数の積層体20を組み合わせて構成される。各積層体20は、たとえば、幅と長さを有する矩形状の薄い平鋼板12を厚み方向に複数積層した集合体である。
【0024】
ここで、本発明において、矩形状の平鋼板12の「幅」とは当該平鋼板12の短辺を意味し、矩形状の平鋼板12の「長さ」とは当該平鋼板12の長辺を意味する。また、「幅方向」とは複数の平鋼板12からなる積層体20の短辺方向を意味し、「長さ方向」とは複数の平鋼板12からなる積層体20の長辺方向を意味する。なお、正方形の平鋼板12の場合は、「幅」と「長さ」の実質的な区別はない。
【0025】
平鋼板12としては、鉄損が少なく、飽和磁束密度や透磁率の大きい電磁鋼板を用いることが好ましい。電磁鋼板としては、たとえば、珪素鋼板を挙げることができ、特定の方向に磁化し易い方向性珪素鋼板を用いてもよい。また、特に損失の低減を図る目的で、アモルファス磁性材料が用いられることもある。
【0026】
平鋼板12の厚みは、プレス機による打ち抜き易さなどを考慮して、たとえば0.5mm程度のものを採用するが、この厚みに限定されない。
【0027】
各平鋼板12は、たとえば、ワニス等の天然樹脂化合物や合成樹脂等の絶縁溶剤中に浸漬して鋼板表面を絶縁被覆した後、その厚み方向に複数積層して積層体20を構成する。
【0028】
積層体20は、複数の中間積層体21と複数の挟持積層体22で構成される。本実施形態の積層体20は、3セットの中間積層体21a、21b、21cと、一対の挟持積層体22a、22bと、からなる。
【0029】
中間積層体21は、幅と長さを揃えた複数の矩形状の平鋼板12をその厚み方向に積層してなる。挟持積層体22は、上記中間積層体21と同一の幅の矩形状の平鋼板12をその厚み方向に積層してなる。中間積層体21と挟持積層体22との平鋼板12の積層枚数は同数でもよく、異なっていてもよい。中間積層体21と挟持積層体22を通過する磁束の密度によって、中間積層体21を形成する平鋼板12の厚みと挟持積層体22を形成する平鋼板12の厚みが変わる場合があるからである。中間積層体21と挟持積層体22とを同一の幅に揃えることにより、プレス機の打ち抜き幅を中間積層体21と挟持積層体22とで変更する必要がないので、平鋼板12の裁断工数が低減される。
【0030】
積層鉄心2の組み立てに際して、中間積層体21と挟持積層体22の幅方向は同一方向に揃えられる。本実施形態では、中間積層体21と挟持積層体22の幅方向は、図1に示すように、積層鉄心2の前後方向FRに揃えられる。
【0031】
複数の中間積層体21a、21b、21cの長さ方向は、積層鉄心2の高さ方向HLに揃えられる。そして、これらの中間積層体21a、21b、21cは、一方の挟持積層体22a上において、コイル3を装着するための間隔を置いて配置される。これらの中間積層体21a、21b、21cの配置方向は挟持積層体22aの長さ方向であり、積層鉄心2の左右方向LRと一致している。
【0032】
すなわち、実施形態1の溶接トランス100では、図1(a)に示すように、挟持積層体22aの長さ方向における両端と中間に、3セットの中間積層体21a、21b、21cを垂直に起立させている。このように組立てることにより、中間積層体21aと21bとの間、中間積層体21bと21cとの間には、上部が開放された空間30が区画される。この空間30は、積層鉄心2にあらかじめ形成してあるコイル3を装着するためのコイル収容空間である。
【0033】
なお、本実施形態では、3セットの中間積層体21a、21b、21cの内、中間積層体21の配置方向の中間に位置する中間積層体21bの平鋼板12の積層枚数のみが、他の中間積層体21a、21cの積層枚数よりも多く積層される。
【0034】
図2は、中間積層体21a、21b、21cの上端に挟持積層体22bを配置する前の上部開放状態を示している。
【0035】
上部開放状態において、環状に巻回されたコイル3が、上方から中間の中間積層体21bの両側のコイル収容空間30に装着される。本実施形態の溶接トランス100は外鉄形であるので、コイル3内に中間の中間積層体21bが配置され、このコイル3の周囲に両端の中間積層体21a、21cが配置される。
【0036】
コイル3には電流が流れ、積層鉄心2の磁気回路により溶接に必要な大きな電流が誘起される。コイル3には、たとえば、絶縁被覆を有する軟銅線等の被覆導線が用いられる。
【0037】
一般に、溶接トランス100のコイル3は、入力側の一次回路を形成する一次コイル31と、出力側の二次回路を形成する二次コイル32と、を備えている(図3参照)。一次コイル31と二次コイル32は交互に配置され、中間の中間積層体21bに環状に巻回されている。なお、図3において、33は二次コイルの接続端子である。
【0038】
中間の中間積層体21bの周囲にコイル3を装着した後、中間積層体21a、21b、21cの上端に挟持積層体22bを配置して、コイル収容空間30が閉じられる。すなわち、中間積層体21a、21b、21cは、これらの中間積層体21a、21b、21cの長さ方向の両側から相対向する一対の挟持積層体22a、22bで挟持される。したがって、一対の挟持積層体22a、22bの間隔は、中間積層体21a、21b、21cの長さで決まる。
【0039】
中間積層体21a、21b、21cと挟持積層体22a、22bとの間の漏れ磁束を少なくするため、中間積層体21a、21b、21cの長さ方向の両端面と、当該両端面が接触する挟持積層体22a、22bの接触面とは面接触される。
【0040】
そして、図3に示すように、挟持積層体22a、22bおよび中間積層体21a、21cの幅方向の前後両端は、一対の組立フランジ41、42で挟持される。これらの組立フランジ41、42は、中央にコイル3を外部へ突出させるための不図示の窓を有し、周囲にボルト43を挿通させるための不図示のボルト孔を有する。
【0041】
そして、組立フランジ41、42の相対向するボルト孔にそれぞれボルト43を挿通させ、それぞれのボルト43にナット44を取り付けることにより、組立フランジ41、42間に積層鉄心2が固定される。
【0042】
ボルト43としては、一端にねじ山が切られた普通のボルトを使用しても構わないが、両端にねじ山が切られたスタッドボルトを使用することが好ましい。スタッドボルトは、溶接時の電磁誘導に伴う振動でボルトが一方向へ回転しても、一端のナットは緩もうとするが、他端のナットは締まろうとするので、全体として締め付けが保たれ、緩みが生じ難いからである。
【0043】
以上のように、実施形態1の溶接トランス100の積層鉄心2は、中間積層体21を形成する平鋼板12の幅と、挟持積層体22を形成する平鋼板12の幅とが、同一の幅に設定されている。したがって、プレス機の打ち抜き幅の設定を中間積層体21と挟持積層体22とで変更する必要がなく、平鋼板12の裁断工数を低減することができる。
【0044】
また、中間積層体21と挟持積層体22の幅方向は同一方向に揃えられる。一方、図1(a)の正面図において、中間積層体21の長さ方向は積層鉄心2の高さ方向HLへ向き、挟持積層体22の長さ方向は積層鉄心2の左右方向LRへ向いており、中間積層体21と挟持積層体22の長さ方向は交差している。したがって、中間積層体21a、21b、21cと挟持積層体22a、22bとの平面同士の組み合わせで、コイル3を収容するコイル収容空間30が区画される。
【0045】
これに対し、従来の積層鉄心の構造は、すべての平鋼板の積層方向が積層鉄心の前後方向FRに向いており、コイル収容空間30が平鋼板の積層端面で区画されている。
【0046】
したがって、本実施形態における平鋼板12の積層枚数(使用枚数)は、従来の積層鉄心の構造よりも少なくなる。よって、積層鉄心2を採用しても、平鋼板12の裁断工数および積層枚数を低減することができ、積層鉄心2の組立作業時間を短縮化して、溶接トランス100の製造コストを低減することができる。
【0047】
また、中間積層体21と挟持積層体22は同一の幅に揃えられるので、一種類の幅の平鋼板から、中間積層体用と挟持積層体用の平鋼板12の材料切り出しが可能である。加えて、幅の異なる複数の平鋼板12を準備する必要がないため、裁断工程における段取り代えのコストと、平鋼板12の在庫コストが削減される。
【0048】
さらに、本実施形態の溶接トランス100の鉄心構造は積層鉄心2であり、巻鉄心およびカットコア式鉄心のように、巻機、熱処理槽、接着剤含浸炉、巻きコア切断機などの設備を要しないため、設備投資が低額に抑えられ、広い敷地面積が不要である。
【0049】
[実施形態2]
実施形態2は、本発明に係る溶接トランスを、積層鉄心の周囲にコイルを配置した内鉄形溶接トランスに適用したものである。
【0050】
図4および図5を参照して、実施形態2の溶接トランス200について説明する。図4は、実施形態1の溶接トランスの積層鉄心を示す正面図および側面図である。図5は、実施形態2の溶接トランスの上部開放状態を示す平面図である。なお、実施形態1と同一の構成部材については、同一の符号を付して説明する。
【0051】
図4および図5に示すように、実施形態2の溶接トランス200は内鉄形であるので、一対の挟持積層体22a、22b間において、当該挟持積層体22の長さ方向の両端に、2セットの中間積層体21a、21cを配置している。実施形態2の溶接トランス200は、実施形態1と異なり、両端の中間積層体21a、21cの間に、中間の中間積層体を設けていない。
【0052】
中間積層体21a、21cはコイル3、3を配置するための間隔を置き、中間積層体21a、21cの長さ方向を揃えて配置されている。各中間積層体21a、21cの周囲には環状にコイル3が巻回される。
【0053】
中間積層体21a、21cと挟持積層体22a、22bの幅方向は、同一方向に揃えられる。そして、一対の挟持積層体22a、22bは、実施形態1と同様に、これらの中間積層体21a、21cをそれぞれの長さ方向の両側から挟持している。
【0054】
実施形態2の溶接トランス200は、両端の中間積層体21a、21cの間に、一つのコイル収容空間30を有している。図4(a)の正面図において、中間積層体21の長さ方向は積層鉄心2の高さ方向HLへ向き、挟持積層体22の長さ方向は積層鉄心2の左右方向LRへ向いており、中間積層体21と挟持積層体22の長さ方向は交差している。したがって、中間積層体21a、21b、21cと挟持積層体22a、22bとの平面同士の組み合わせで、コイル3を収容するコイル収容空間30が区画される。
【0055】
その結果、図4(a)において、中間積層体21a、21cの積層方向は積層鉄心2の左右方向LRへ向き、挟持積層体22a、22bの積層方向は積層鉄心2の高さ方向HLに向くことになる。したがって、平鋼板12の積層枚数(使用枚数)は従来よりも低減され、その裁断工数も低減することができる。
【0056】
また、本実施形態の溶接トランス200は、実施形態1と同様に、平鋼板12の裁断工数を低減するため、中間積層体21と挟持積層体22が同一の幅に設定される。
【0057】
そして、本実施形態の内鉄形溶接トランス200は、実施形態1と同様に、窓およびボルト孔を有する一対の組立フランジ41、42、ボルト43、およびナット44を用いて、組立てられる。
【0058】
このように実施形態2の溶接トランス200は、鉄心構造の基本的構成が実施形態1と同じであるので、実施形態1と同様の作用効果を奏することになる。
【0059】
[実施形態3]
実施形態3は、本発明に係る溶接トランスの製造方法を、実施形態1の外鉄形溶接トランスに適用したものである。
【0060】
図6は、実施形態3における溶接トランスの製造方法のフローチャートである。なお、このフローチャートは、溶接トランスの製造方法の製造手順を示す。
【0061】
図6に示すように、実施形態3の製造方法は、まず、準備段階として、幅と長さを揃えた複数の矩形状の平鋼板12が準備される(S1)。平鋼板12は、プレス機を用いて鋼板を打ち抜くことにより形成される。
【0062】
本実施形態では、中間積層体21と挟持積層体22とを同一の幅に揃えるので、一種類の幅の鋼板から中間積層体用と挟持積層体用の平鋼板12の材料切り出しが可能である。また、中間積層体21と挟持積層体22とを同一の幅に揃えれば、幅の異なる複数の平鋼板12を準備する必要がないため、裁断工程における段取り代えのコストと、平鋼板12の在庫コストが削減される。
【0063】
打ち抜かれた複数の平鋼板12は、中間積層体21および挟持積層体22を積層するに際して、たとえば、ワニス等の天然樹脂化合物や合成樹脂等の絶縁溶剤中に浸漬して鋼板表面が絶縁被覆される。
【0064】
次に、絶縁溶剤が固化する前に、平鋼板12をその厚み方向に積層して、複数の中間積層体21と複数の挟持積層体22とが形成される(S2)。絶縁溶剤の固化前に平鋼板12を積層すれば、平鋼板同士を接着することができる。本実施形態では、3セットの中間積層体21a、21b、21cと、一対の挟持積層体22a、22bが形成される。
【0065】
中間積層体21と挟持積層体22とは、平鋼板12の積層枚数が同数でもよく、異なっていてもよい。本実施形態では、中間積層体21a、21b、21cの内、中間積層体21の配置方向の中間に位置する中間積層体21bの積層枚数が、両端の中間積層体21a、21cの積層枚数よりも多くなっている。
【0066】
次に、中間積層体21a、21b、21cと挟持積層体22a、22bの幅方向が同一方向に揃えられる(S3)。本実施形態では、中間積層体21と挟持積層体22の幅方向は、図1に示すように、積層鉄心2の前後方向FRに揃える。
【0067】
さらに、中間積層体21a、21b、21cは、中間積層体21の長さ方向が揃えられ、コイル3の巻数に応じた間隔を置いて配置される(S4)。本実施形態では、中間積層体21a、21b、21cの長さ方向は、積層鉄心2の高さ方向HLに揃える。そして、長さ方向を揃えた中間積層体21a、21b、21cは、一方の挟持積層体22a上において、コイル3を装着するための間隔を置いて配置される。
【0068】
このように配置することにより、図1(a)に示すように、3セットの中間積層体21a、21b、21cは、挟持積層体22の長さ方向における両端と中間に垂直に起立した状態となる。中間積層体21の配置方向は、挟持積層体22の長さ方向および積層鉄心2の左右方向LRと一致する。
【0069】
なお、実施形態2の溶接トランス200を製造する場合には、中間積層体21a、21cが2セットである。実施形態2の溶接トランス200は内鉄形であるので、2セットの中間積層体21a、21cが、挟持積層体22の長さ方向における両端に配置される。
【0070】
そして、中間積層体21bの両側のコイル収容空間30に、コイル3が配置される(S5)。コイル3は、入力側の一次コイル31と、出力側の二次コイル32とを交互に配置し、中間積層体21の長さ方向に沿って環状に巻回される。
【0071】
その後、中間積層体21a、21b、21cの上端に上部の挟持積層体22bを配置し、中間積層体21の長さ方向の両側から一対の挟持積層体22a、22bで挟持する(S6)。挟持積層体22a、22bによる挟持は、不図示の押圧治具を用いて行う。
【0072】
すなわち、一対の挟持積層体22a、22bで中間積層体21a、21b、21cを挟持した状態で、押圧治具を用いて中間積層体21の長さ方向の両側から押圧することにより、挟持積層体22a、22b間に中間積層体21a、21b、21cが固定される。押圧治具を用いるのは、中間積層体21a、21b、21cの長さ方向の両端面と、当該両端面が接触する挟持積層体22a、22bの接触面とを確実に面接触させて、中間積層体21と挟持積層体22との間の漏れ磁束を少なくするためである。
【0073】
最後に、中間積層体21a、21cと挟持積層体22a、22bとは、中間積層体21と挟持積層体22の幅方向の両側から一対の組立フランジ41、42で挟持される(S7)。上述したように、これらの組立フランジ41、42は、中央にコイル3を外部へ突出させるための不図示の窓を有し、周囲にボルト43を挿通させるための不図示のボルト孔を有する。
【0074】
一対の組立フランジ41、42による挟持は、これらの組立フランジ41、42で中間積層体21a、21cと挟持積層体22a、22bとを挟持した状態で、組立フランジ41、42の相対向するボルト孔にそれぞれボルト43を通し、各ボルト43にナット44を取り付けることによって行う。本実施形態では、溶接機に振動が生じても組立フランジ41、42に強固な保持力を付与するため、ボルト43として、スタッドボルトが採用される。
【0075】
実施形態3の製造方法は、中間積層体21と挟持積層体22が同一の幅に揃えられる。したがって、一種類の幅の鋼板から、中間積層体用と挟持積層体用の平鋼板12の材料切り出しが可能である。加えて、幅の異なる複数の平鋼板12を準備する必要がないため、裁断工程における段取り代えのコストと、平鋼板12の在庫コストが削減される。
【0076】
さらに、実施形態の製造方法は、簡単な治具を用いて積層鉄心2を製造することができる。したがって、巻鉄心およびカットコア式鉄心のように、巻機、熱処理槽、接着剤含浸炉、巻きコア切断機などの設備を要さず、設備投資が低額に抑えられ、広い敷地面積が不要である。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【0078】
たとえば、上記実施形態1および実施形態2では、中間積層体21と挟持積層体22とをすべて同一の幅に揃えているが、コイル3内に収容する中間積層体21の幅を挟持積層体22の幅よりも小さく設定してもよい。コイル3内に収容する中間積層体21の幅を小さく設定することにより、組立フランジ41、42からコイル3が外部へ突出する度合いを小さくしたり、組立フランジ41、42内にコイル3を収納したりすることができる。
【0079】
<実施例>
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明に係る溶接トランスをさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0080】
〔実施例〕
再び図1を参照して、本発明に係る溶接トランスの実施例について説明する。本実施例では、図1に示す積層鉄心2の組立てを行なった。
【0081】
実施例の積層鉄心2は、上述したように、中間積層体21a、21b、21cと、挟持積層体22a、22bの平面同士でコイル収容空間30が区画される。したがって、中間積層体21a、21b、21cの積層方向は積層鉄心2の左右方向LRに向き、挟持積層体22a、22bの積層方向は積層鉄心2の高さ方向HLに向いている。
【0082】
本実施例で用いる平鋼板12の板厚は0.5mmである。積層体20の積層厚は、複数の中間積層体21a、21b、21cの内、中間積層体21の配置方向の中間に位置する中間積層体23bの積層厚のみを120mm(積層数240枚)とし、その他の積層体21a、21c、22a、22bの積層厚を60mm(積層数120枚)とした。その結果、使用した平鋼板12の総枚数は、240+120×4=720枚であった。
【0083】
〔比較例〕
次に図6を参照して、従来構造の溶接トランスを比較例として説明する。図7は、比較例の溶接トランスの積層鉄心を示す正面図および側面図であり、図1に対応させて表したものである。
【0084】
比較例では、図7に示すように積層鉄心52の組立てを行なった。比較例の積層鉄心52は、中間積層体61a、61b、61cと挟持積層体62a、62bの積層端面同士でコイル収容空間30が区画される。したがって、中間積層体61a、61b、61cおよび挟持積層体62a、62bの積層方向は、すべて積層鉄心52の前後方向FRに向いている。
【0085】
比較例で用いる平鋼板の板厚は、実施例と同様に、板厚0.5mmである。積層体60の積層厚は、中間積層体61a、61b、61cおよび挟持積層体62a、62bについて、すべて325mm(積層数650枚)とした。積層体60の数は、実施例と同様に5セットである。その結果、使用した平鋼板12の総枚数は、5×650=3250枚であった。
【0086】
このように実施例の積層鉄心2は、従来構造に比べて、使用する平鋼板12の総枚数を大幅に削減することができる。すなわち、上記実施例は、積層鉄心2を採用しながらも、平鋼板12の裁断工数および積層枚数を大幅に低減することができ、積層鉄心2の組立作業時間を短縮化して、溶接トランス100の製造コストを低減することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る溶接トランスは、自動車や鉄道車輌等の車輌の組立てに用いるスポット溶接機やレーザー溶接機などの溶接機に広く適用しうる。
【符号の説明】
【0088】
3 コイル、
12 平鋼板、
21(21a、21b、21c) 中間積層体、
22(22a、22b) 挟持積層体、
100、200 溶接トランス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅と長さを揃えた複数の矩形状の平鋼板を当該平鋼板の厚み方向に積層した複数の中間積層体と、
前記中間積層体と同一の幅の矩形状の平鋼板を当該平鋼板の厚み方向に積層した複数の挟持積層体とを有し、
前記中間積層体と前記挟持積層体の幅方向は同一方向に揃えられ、
前記複数の中間積層体は間隔を置き前記中間積層体の長さ方向を揃えて配置され、
前記中間積層体に環状にコイルが巻回され、
前記複数の挟持積層体は配置した前記複数の中間積層体を前記中間積層体の長さ方向の両側から挟持し、
前記中間積層体と前記挟持積層体とを前記中間積層体と前記挟持積層体の幅方向の両側から一対の組立フランジで挟持することを特徴とする溶接トランス。
【請求項2】
前記中間積層体と前記挟持積層体とが接触する前記中間積層体の長さ方向の両端面と前記両端面が接触する前記挟持積層体の接触面は、前記中間積層体と前記挟持積層体との間の漏れ磁束を少なくするため面接触されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接トランス。
【請求項3】
前記中間積層体と前記挟持積層体との前記平鋼板の積層枚数は異なることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接トランス。
【請求項4】
前記一対の組立フランジは、その周囲に複数のボルト孔を有し、前記ボルト孔に通したボルトとナットによって前記中間積層体と前記挟持積層体とを挟持することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の溶接トランス。
【請求項5】
前記コイルは前記複数の中間積層体の内の前記配置の方向の中間に位置する前記中間積層体に設けることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の溶接トランス。
【請求項6】
前記コイルは前記複数の中間積層体の内の前記配置の方向の両端に位置する2つの中間積層体に設けることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の溶接トランス。
【請求項7】
幅と長さを揃えた複数の矩形状の平鋼板を準備する段階と、
前記平鋼板を当該平鋼板の厚み方向に積層して複数の中間積層体と複数の挟持積層体とを形成する段階と、
前記中間積層体と前記挟持積層体の幅方向を同一方向に揃え、前記複数の中間積層体を、前記中間積層体の長さ方向を揃え間隔を置いて配置し、前記中間積層体に環状に巻回されたコイルを配置し、前記配置した複数の中間積層体を、前記中間積層体の長さ方向の両側から前記複数の挟持積層体で挟持する段階と、
前記中間積層体と前記挟持積層体とを前記中間積層体と前記挟持積層体の幅方向の両側から一対の組立フランジで挟持する段階と、
を含むことを特徴とする溶接トランスの製造方法。
【請求項8】
前記平鋼板を準備する段階は、
鋼板をプレスで打ち抜くことにより、幅と長さを揃えた複数の矩形状の平鋼板を準備することを特徴とする請求項7に記載の溶接トランスの製造方法。
【請求項9】
前記複数の挟持積層体で挟持する段階は、
前記挟持積層体を前記中間積層体の長さ方向の両側から押圧する治具を用いて、複数の中間積層体を、前記中間積層体の長さ方向の両側から前記複数の挟持積層体で挟持することを特徴とする請求項7または8に記載の溶接トランスの製造方法。
【請求項10】
前記一対の組立フランジで挟持する段階は、
前記一対の組立フランジの周囲に有する複数のボルト孔にボルトを通し、該ボルトにナットを取り付けることによって、前記中間積層体と前記挟持積層体とを挟持することを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の溶接トランスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−105774(P2013−105774A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246442(P2011−246442)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000151070)株式会社電元社製作所 (23)
【Fターム(参考)】