説明

溶接トーチおよび溶接トーチを用いた溶接システム

【課題】効率的に溶接部近傍を冷却することができ、溶接する金属材の熱ひずみを抑えることができる溶接トーチを提供する。
【解決手段】金属材9を溶接する溶接トーチ1は、中心部に設けられた棒状の電極2と、電極2周囲に設けられ、金属材9方向にシールドガス4を噴出するシールドガスノズル3とを備えている。冷却ガスノズル5は、シールドガスノズル3を取り囲んで設けられており、内部に冷却ガス流路5aが形成されるとともに、冷却ガス噴出口5bから金属材9方向に向けて冷却ガス6を噴出する冷却ガスノズル5を有している。冷却ガスノズル5の冷却ガス噴出口5bから噴出される冷却ガス6は、金属材9の溶接部13近傍を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉に設けられた原子力機器部品の金属材等を溶接する溶接トーチおよび溶接トーチを用いた溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉等に設けられた原子力機器部品の金属材には多数の溶接箇所が存在する。このような原子力機器部品の金属材は、金属材の寸法公差が他の金属製品と比較して厳しく設定されている。したがって、原子力機器部品の金属材を溶接する場合、金属材に発生する熱ひずみを低く抑えることにより、金属材の形状を寸法公差内に収める必要がある。
【0003】
従来より、原子炉等に設けられた原子力機器部品の金属材を溶接する溶接トーチとして、図8に示すようなTIG溶接トーチが用いられている。ここで、図8は、従来のTIG溶接トーチを示す断面図である。
【0004】
図8に示すように、従来のTIG溶接トーチ1は、中心部に設けられた棒状の電極2と、電極2周囲に設けられ、金属材9方向にシールドガス4を噴出するシールドガスノズル3とを備えている。また、シールドガスノズル3下方に、溶接ワイヤー供給装置7が設けられ、溶接ワイヤー供給装置7は、電極2の下方に溶接ワイヤー8を供給する。シールドガスノズル3内部からは、金属材9の溶接部13にシールドガス4が供給されており、このシールドガス4の雰囲気中で、電極2と金属材9間にアークを発生させて金属材9を溶融させ、この溶融部分に溶接ワイヤー8を加えることにより金属材9を溶接する。
【0005】
また、このような金属材に生じる熱ひずみを抑える方法として、金属材の溶接中に、水やドライアイスを溶接部近傍に噴射し、これにより金属材の溶接部近傍を冷却する方法や、注水冶具を用いて溶接部近傍を冷却する方法などが従来より用いられている。
【特許文献1】特開平8−155650号公報
【特許文献2】特開平8−333632号公報
【特許文献3】特開平10−34374号公報
【特許文献4】特開2002−224879号公報
【特許文献5】特開2004−90091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した水やドライアイスを噴射する方法を用いる場合、溶接時に金属材の溶接部近傍を効果的に冷却するのが難しく、結果として、溶接した後で金属材の溶接箇所に水素割れ等が生じ、溶接箇所の品質が悪化する。このため、このような水やドライアイスを噴射する方法を、高い寸法制度が要求される原子力機器部品の金属材に対して用いることは困難である。また、上述した注水冶具を用いる方法は、注水冶具を原子力機器の部品形状に合わせて個々に製作する必要があるため、複雑な形状からなる原子力機器や大型の原子力機器には適用できないという問題がある。
【0007】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、溶接時に溶接トーチの冷却ガスノズルから金属材の溶接部近傍に冷却ガスを噴射して溶接部近傍を冷却し、これにより、効率的に溶接部近傍を冷却することができ、金属材の熱ひずみを抑えることができる溶接トーチおよび溶接トーチを用いた溶接システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属材上を移動させて金属材を溶接する溶接トーチにおいて、中心部に設けられた棒状の電極と、電極周囲に設けられ、金属材方向にシールドガスを噴出するシールドガスノズルと、シールドガスノズルを取り囲んで設けられ、内部に冷却ガス流路が形成されるとともに、金属材側に設けられた冷却ガス噴出口から金属材方向に向けて冷却ガスを噴出する冷却ガスノズルと、を備え、冷却ガス噴出口から噴出される冷却ガスは、金属材の溶接部近傍を冷却することを特徴とする溶接トーチである。
【0009】
本発明は、冷却ガス噴出口の横断面は、閉鎖部を一部に有する帯状の部分開口形状からなるとともに、溶接トーチは閉鎖部を前方に向けて移動し、冷却ガス噴出口から噴出される冷却ガスは、金属材の溶接部近傍のうち溶接トーチの移動方向と反対側の部分を冷却することを特徴とする溶接トーチである。
【0010】
本発明は、冷却ガスノズルの冷却ガス流路内にフィンが設けられ、フィンは、冷却ガス噴出口からの冷却ガスを冷却ガスノズルの外周方向へ誘導することを特徴とする溶接トーチである。
【0011】
本発明は、冷却ガスノズルは、内側冷却ガスノズルと内側冷却ガスノズルを取り囲んで設けられた外側冷却ガスノズルとからなり、内側冷却ガスノズルおよび外側冷却ガスノズルは、それぞれ、内部に冷却ガス流路が形成されるとともに、金属材側に設けられた冷却ガス噴出口から金属材方向に向けて冷却ガスを噴出することを特徴とする溶接トーチである。
【0012】
本発明は、冷却ガスは不活性ガスからなることを特徴とする溶接トーチである。
【0013】
本発明は、溶接トーチと、溶接トーチに接続され、溶接トーチの冷却ガスノズル内部に形成された冷却ガス流路に冷却ガスを供給する冷却装置と、を備えたことを特徴とする溶接システムである。
【0014】
本発明は、冷却装置に接続された制御装置と、金属材の溶接部近傍に設けられ、金属材の溶接部近傍の温度を測定する温度測定装置と、を更に備え、制御装置は、温度測定装置で測定された金属材の溶接部近傍の温度に基づいて冷却装置から供給される冷却ガスの流量を制御することを特徴とする溶接システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶接トーチにより金属材を溶接しながら効率的に金属材の溶接部近傍を冷却することができ、金属材の熱ひずみを抑えることができる。
【0016】
本発明によれば、金属材の溶接部近傍において、金属材の母材と溶接ビードとを同時に冷却することができ、これにより金属材に生じる熱ひずみを低減することができる。
【0017】
本発明によれば、金属材の溶接部近傍のうち、溶接が完了した側のみを選択的に冷却することができ、溶接品質に影響を与えることなく金属材の熱ひずみを抑えることができる。
【0018】
本発明によれば、冷却ガスが溶接ビード内に巻き込まれてブローホールが形成されたり、冷却ガスにより母材のみが冷却されて溶接金属の溶け込み深さが不足するのを防止することができる。
【0019】
本発明によれば、冷却ガスノズルの冷却ガス流路内にフィンが設けられているため、金属材の溶接部近傍を冷却する冷却効率を向上させることができる。
【0020】
本発明によれば、冷却ガスノズルが内側冷却ガスノズルと外側冷却ガスノズルとからなるため、冷却ガスノズルを交換することなく、金属材の板厚、開先形状に合わせて冷却ガスによる冷却範囲を制御することができる。
【0021】
本発明によれば、冷却ガスに不活性ガスを用いることにより冷却ガスによる冷却効率および金属材の溶接品質を向上させることができる。
【0022】
本発明によれば、冷却装置により冷却ガスの温度を低下させることができ、金属材の溶接部近傍を冷却する冷却効率を向上させることができる。
【0023】
本発明によれば、制御装置により、溶接直後の溶接ビードおよび母材の表面温度が所定の温度範囲内となるように冷却ガスの流量を制御することができ、金属材の熱ひずみの量を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1の実施の形態
以下、本発明の第1の実施の形態について、図1を参照して説明する。
ここで、図1は、本発明の第1の実施の形態を示す正面断面図である。
【0025】
まず、図1により本発明による溶接トーチの概略について説明する。
図1に示すように、溶接トーチ1は、金属材9上を図1の右方向に移動して金属材9を溶接するものである。この溶接トーチ1は、中心部に設けられた棒状の電極2と、電極2周囲に設けられ、金属材9方向にシールドガス4を噴出するシールドガスノズル3と、シールドガスノズル3を取り囲んで設けられた冷却ガスノズル5とを備えている。このうち冷却ガスノズル5は、内部に形成された冷却ガス流路5aと、金属材9側に設けられ、金属材9方向に向けて冷却ガス6を噴出する冷却ガス噴出口5bとを有している。
【0026】
また電極2としては、比較的融点の高いタングステン等の金属からなるものが用いられる。また、シールドガス4は、溶接トーチ1による溶接中に金属材9を酸化させない役割を果たすものであり、アルゴン等の不活性ガスからなるものが用いられる。
【0027】
また、冷却ガス6としては、金属材9にブローホール等が形成されて溶接品質を悪化させないように、不活性ガスを用いることが好ましい。なお、冷却ガス6としては、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスのうち、比較的比熱容量が高いヘリウムを用いるのが最も好ましく、これにより冷却効率を一層向上させることができる。
【0028】
また、金属材9は、母材10と、この母材10を溶接することにより形成された溶接ビード11とからなっている。この場合、母材10の材料は、鉄に限られず、アルミ、銅、ニッケル、チタン等の金属であっても良い。とりわけ、母材10が、炭素鋼と比較して熱膨張計数が高いため溶接による変形が生じやすいステンレス鋼であっても、本実施の形態による溶接トーチ1を用いて溶接することができる。
【0029】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
図1に示すように、溶接トーチ1は、母材10からなる金属材9上を図1の右方向に移動させて母材10からなる金属材9を溶接するものである。この際、溶接トーチ1の電極2から放出されるアークにより、金属材9の溶接部13および溶接ワイヤー供給装置7からの溶接ワイヤー8が溶解され、金属材9が溶接される。同時に、金属材9の溶接部13近傍には、シールドガスノズル3から噴出されたシールドガス4が充満しており、これにより溶接時における金属材9の酸化が防止される。
【0030】
このようにして溶接トーチ1により金属材9が溶接される際、冷却ガス6が冷却ガスノズル5の冷却ガス噴出口5bから噴出される。この冷却ガス6により、金属材9の溶接部13近傍において金属材9の母材10と溶接ビード11とが同時に冷却される。
【0031】
このように、本実施の形態によれば、溶接トーチ1により金属材9を溶接しながら、同時に効率的に金属材9の溶接部13近傍を冷却することができ、金属材9の熱ひずみを抑えることができる。
【0032】
また、本実施の形態によれば、金属材9の溶接部13の近傍において、金属材9の母材10と溶接ビード11とを同時に冷却することができ、これにより、熱ひずみの少ない金属材9を得ることができる。
【0033】
さらに、本実施の形態によれば、冷却ガス6として比較的比熱容量が高いヘリウムからなる不活性ガスを用いることにより、冷却ガス6による冷却効率および金属材9の溶接品質を向上させることができる。
【0034】
第2の実施の形態
次に、本発明による溶接トーチの第2の実施の形態について図2(a)(b)を参照して説明する。
ここで、図2(a)は、本発明の第2の実施の形態を示す正面断面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A線断面図である。図2(a)(b)に示す第2の実施の形態は、冷却ガスノズルの形状が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態と略同一である。図2(a)(b)において、図1に示す第1の実施の形態と同一部分には同一の部号を付して詳細な説明は省略する。
【0035】
まず、図2(a)(b)により本発明による溶接トーチの概略について説明する。
図2(a)(b)に示すように、溶接トーチ1は、中心部に設けられた棒状の電極2と、電極2周囲に設けられ、金属材9方向にシールドガス4を噴出するシールドガスノズル3と、シールドガスノズル3を取り囲んで設けられ、内部に冷却ガス流路5aが形成されるとともに、金属材9側に設けられた冷却ガス噴出口5bから金属材9方向に向けて冷却ガス6を噴出する冷却ガスノズル5とを備えている。
【0036】
このうち、冷却ガスノズル5の冷却ガス噴出口5bの横断面は、図2(b)に示すように、閉鎖部5cを一部(溶接トーチ1の移動方向側)に有する帯状の部分開口形状、例えばC字状の形状からなる。
図2(b)において、C字状の形状を有する冷却ガス噴出口5bの横断面のうち、閉鎖部5cの占める部分の角度Rは、45°乃至180°が好ましい。
【0037】
なお、冷却ガス噴出口5bの横断面の形状は、溶接トーチ1による金属材9の溶接中、溶接部13近傍のうち溶接トーチ1の移動方向と反対側の部分を選択的に冷却する形状であれば良く、例えばコの字状の形状、くの字状の形状、馬の蹄鉄のような形状等であっても良い。
【0038】
また、この冷却ガスノズル5を取り外し可能なものとし、金属材9の形状等に応じて、適宜、閉鎖部5cの占める部分の角度Rや冷却ガス噴出口5bの断面積が異なる冷却ガスノズル5に交換するのが好ましい。
【0039】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
図2(a)(b)に示すように、溶接トーチ1は、閉鎖部5cを前方に向けて移動しながら金属材9を溶接する。この際、冷却ガス噴出口5bから冷却ガス6が噴出され、この冷却ガス6は、金属材9の溶接部13近傍のうち溶接トーチ1の移動方向と反対側の部分を冷却する。上述のように、冷却ガスノズル5の冷却ガス噴出口5bの横断面の形状はC字形状となっており、これにより、溶接部13近傍のうち溶接トーチ1の移動方向側の部分には冷却ガス4が流さないようにすることができ、溶接部13近傍のうち既に溶接が完了した側にある金属材9の溶接ビード11および母材10のみを選択的に冷却することができる。
【0040】
このように、本実施の形態によれば、金属材9の溶接部13の近傍のうち、溶接が完了した側のみを選択的に冷却することができ、溶接品質に影響を与えることなく金属材9の熱ひずみを抑えることができる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、冷却ガス6が溶接ビード11内に巻き込まれてブローホールが形成されたり、冷却ガス6により金属材9の母材10のみが冷却されることにより溶接金属に溶け込み深さ不良が生じたりすることを防止することができる。
【0042】
第3の実施の形態
次に、図3(a)(b)により本発明による溶接トーチの第3の実施の形態について説明する。
ここで、図3(a)は、本発明の第3の実施の形態を示す正面断面図であり、図3(b)は、図3(a)のB−B線断面図である。図3(a)(b)に示す第3の実施の形態は、冷却ガスノズルの冷却ガス流路内にフィンが設けられている点が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態および第2の実施の形態と略同一である。図3(a)(b)において、図1に示す第1の実施の形態および図2に示す第2の実施の形態と同一部分には同一の部号を付して詳細な説明は省略する。
【0043】
まず、図3(a)(b)により本発明による溶接トーチの概略について説明する。
図3(a)(b)に示すように、溶接トーチ1は、中心部に設けられた棒状の電極2と、電極2周囲に設けられ、金属材9方向にシールドガス4を噴出するシールドガスノズル3と、シールドガスノズル3を取り囲んで設けられ、内部に冷却ガス流路5aが形成されるとともに、金属材9側に設けられた冷却ガス噴出口5bから金属材9方向に向けて冷却ガス6を噴出する冷却ガスノズル5とを備えている。また、冷却ガスノズル5の冷却ガス噴出口5bの横断面は、図3(b)に示すように、閉鎖部5cを一部(溶接トーチ1の移動方向側)に有するC字状の形状からなる。
【0044】
また、図3(b)に示すように、冷却ガスノズル5の冷却ガス流路5a内にフィン12が設けられており、このフィン12は、冷却ガス噴出口5bからの冷却ガス6を冷却ガスノズル5の外周方向へ誘導する。各フィン12は、それぞれ溶接トーチ1の移動方向を向くとともに移動方向に突出する湾曲端縁12Rを有し、これにより各フィン12から誘導される冷却ガス6は、溶接トーチ1の移動方向と反対側へ導かれる。すなわち、図3(b)において、上半分のフィン12は全体として反時計方向に湾曲する形状を有し、下半分のフィン12は全体として時計方向に湾曲する形状を有している。
【0045】
なお、本実施の形態において、冷却ガスノズル5の冷却ガス流路5a内に設けられたフィン12の枚数は10枚であるが、フィン12の枚数は10枚に限られない。すなわち、冷却ガスノズル5を取り外し可能なものとし、金属材9の形状等に応じて、適宜フィン12の枚数やフィン12の形状が異なる冷却ガスノズル5に交換できるようにするのが好ましい。
【0046】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
図3(a)(b)に示すように、溶接トーチ1は、冷却ガスノズル5の閉鎖部5cを前方に向けて移動しながら金属材9を溶接する。この際、冷却ガス噴出口5bから冷却ガス6が噴出され、この冷却ガス6は、金属材9の溶接部13近傍のうち溶接トーチ1の移動方向と反対側の部分を冷却する。
【0047】
本実施の形態において、冷却ガスノズル5の冷却ガス流路5a内にはフィン12が設けられており、これにより、冷却ガスノズル5の冷却ガス流路5a内に供給された冷却ガス6は、フィン12により冷却ガスノズル5の外周方向に流されて渦巻き状となる。この場合、冷却ガス6はフィン12により溶接トーチ1の移動方向と反対側へ導かれる。これにより、溶接部13近傍のうち溶接トーチ1の移動方向側の部分には冷却ガス6が流れ込むことはない。
【0048】
このように、本実施の形態によれば、冷却ガス6が溶接ビード11内に巻き込まれてブローホールが形成されたり、冷却ガス6により金属材9の母材10のみが冷却されることにより溶接金属に溶け込み深さ不良が生じたりすることを、より確実に防止することができる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、溶接トーチ1により金属材9を溶接しながら、同時に効率的に金属材9の溶接部13近傍を冷却することができ、金属材9の熱ひずみを抑えることができる。
【0050】
さらに、本実施の形態によれば、冷却ガスノズル5の冷却ガス流路5a内にフィン12が設けられているため、金属材9の溶接部13近傍を冷却する冷却効率を向上させることができる。
【0051】
さらにまた、本実施の形態によれば、冷却ガスノズル5の冷却ガス噴出口5bから噴出される冷却ガス6が、金属材9を酸化させないために用いられるシールドガスとしての役割も果たし、これにより、金属材9の溶接部13における酸素等の巻き込み量を減少させることができ、溶接品質を向上させることができる。
【0052】
第4の実施の形態
次に、図4(a)(b)により本発明による溶接トーチの第4の実施の形態について説明する。
ここで、図4(a)は、本発明の第4の実施の形態を示す正面断面図であり、図4(b)は、図4(a)のC−C線断面図である。図4(a)(b)に示す第4の実施の形態は、冷却ガスノズルが内側冷却ガスノズルと外側冷却ガスノズルとからなる点が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態乃至第3の実施の形態と略同一である。図4(a)(b)において、図1乃至図3に示す第1の実施の形態乃至第3の実施の形態と同一部分には同一の部号を付して詳細な説明は省略する。
【0053】
まず、図4(a)(b)により本発明による溶接トーチの概略について説明する。
図4(a)(b)に示すように、溶接トーチ1は、中心部に設けられた棒状の電極2と、電極2周囲に設けられ、金属材9方向にシールドガス4を噴出するシールドガスノズル3と、シールドガスノズル3を取り囲んで設けられた冷却ガスノズル5とを備えている。
【0054】
このうち、冷却ガスノズル5は、内側冷却ガスノズル51と、内側冷却ガスノズル51を取り囲んで設けられた外側冷却ガスノズル52とを有している。また、内側冷却ガスノズル51および外側冷却ガスノズル52は、それぞれ内部に冷却ガス流路51a、52aが形成されている。これら内側冷却ガスノズル51および外側冷却ガスノズル52は、金属材9側に設けられた冷却ガス噴出口51b、52bから金属材9方向に向けて冷却ガス6を噴出するものである。
【0055】
図4(b)に示すように、冷却ガスノズル5の内側冷却ガスノズル51および外側冷却ガスノズル52の冷却ガス噴出口51b、52bの横断面はそれぞれC字状の形状からなる。また、図4(b)に示すように、内側冷却ガスノズル51および外側冷却ガスノズル52の冷却ガス流路51a、52a内にそれぞれフィン12a、12bが設けられており、これらフィン12a、12bは、それぞれ溶接トーチ1の移動方向を向くとともに移動方向に突出する湾曲端縁12Rを有し、これにより各フィン12a、12bから誘導される冷却ガス6は、溶接トーチ1の移動方向と反対側へ導かれる。すなわち、図4(b)において、上半分のフィン12a、12bは全体として反時計方向に湾曲する形状を有し、下半分のフィン12a、12bは全体として時計方向に湾曲する形状を有している。
【0056】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
図4(a)(b)に示すように、溶接トーチ1は、図4(a)(b)の矢印方向に移動しながら金属材9を溶接する。この際、内側冷却ガスノズル51、外側冷却ガスノズル52の冷却ガス噴出口51b、52bからそれぞれ冷却ガス6が噴出され、この冷却ガス6は、金属材9の溶接部13近傍のうち溶接トーチ1の移動方向と反対側の部分を冷却する。
【0057】
ここで、例えば、金属材9の溶接部13近傍の冷却速度を高めたい場合、内側冷却ガスノズル51、外側冷却ガスノズル52のいずれも開として溶接する。また例えば、金属材9の板厚が薄く、かつ狭開先の箇所を溶接する場合は、溶接部13の最近傍のみを冷却するように、内側冷却ガスノズル51のみを開として溶接する。一方、金属材9の開先幅が大きい場合は、溶接部13の最近傍が冷却されることによる金属材9に対する悪影響を防ぐように、外側冷却ガスノズル52のみを開として溶接する。
【0058】
このように、本実施の形態によれば、溶接トーチ1により金属材9を溶接しながら、同時に効率的に金属材9の溶接部13近傍を冷却することができ、金属材9の熱ひずみを抑えることができる。
【0059】
また、本実施の形態によれば、冷却ガスノズル5が内側冷却ガスノズル51と外側冷却ガスノズル52とからなり、このため、冷却ガスノズル5を交換することなく、金属材9の板厚、開先形状に合わせて冷却ガス6による冷却範囲を制御することができる。
【0060】
第5の実施の形態
次に、図5乃至図7により本発明の第5の実施の形態における溶接システムについて説明する。
ここで、図5は、本発明の第5の実施の形態を示す概略図であり、図6は、溶接システムの冷却装置を示す概略図であり、図7は、図5の溶接トーチ付近における拡大図である。図5乃至図7に示す第5の実施の形態において、溶接トーチの構成は上述した第1の実施の形態乃至第4の実施の形態のいずれかの実施の形態で説明した溶接トーチの構成と同一である。図5乃至図7において、図1乃至図4に示す第1の実施の形態乃至第4の実施の形態と同一部分には同一の部号を付して詳細な説明は省略する。
【0061】
まず、図5乃至図7により本発明による溶接システムの概略について説明する。
図5に示すように、溶接システム20は、第1の実施の形態乃至第4の実施の形態のいずれかの実施の形態で説明した溶接トーチ1と、冷却装置21とを備えている。このうち、冷却装置21は、出側ガスホース27を介して溶接トーチ1と接続され、冷却ガス6を溶接トーチ1の冷却ガスノズル5内部に形成された冷却ガス流路5aに供給する。
【0062】
冷却装置21は後述のように流量制御機構23を有しており、この流量制御機構23には、制御装置28が接続されている。また、金属材9の溶接部13近傍に、金属材9の溶接部13近傍の温度を測定する温度測定装置29が設けられており、この温度測定装置29は制御装置28と接続されている。
【0063】
さらに、冷却装置21は、入側ガスホース26を介してガスボンベ25と接続されており、ガスボンベ25にはヘリウム等の不活性ガスが充填されている。
【0064】
(冷却装置)
次に、図5および図6により冷却装置21について詳述する。
図5および図6に示すように、冷却装置21は、内部に液体窒素等からなる冷却液22aが内部に充填されている円柱状の冷却容器22と、冷却容器22に充填された冷却液22a内を通過する冷却ガス配管24と、冷却容器22に設けられた流量制御機構23とを有している。冷却ガス配管24の両端には、入側ガスホース26と高い耐放熱性を有する出側ガスホース27とがそれぞれ接続されている。また、出側ガスホース27と流量制御機構23とが連結され、流量制御機構23は、出側ガスホース27内部を流れる冷却ガス6の流量を制御する。なお、冷却容器22は、耐食性に優れるステンレスからなるのが好ましく、冷却ガス配管24は、熱伝導性が高い銅からなるのが好ましい。また、流量制御機構23は、直接冷却容器22に取り付けられていても良い。
【0065】
(温度測定装置)
次に、温度測定装置29について詳述する。
図7に示すように、温度測定装置29は、溶接トーチ1の移動方向と反対側に設けられており、3つの放射温度計29a、29b、29cを有している。このうち、放射温度計29bは、溶接ビード11上方に設置されており、放射温度計29a、29cは、溶接ビード11から若干離れた母材10の上方において、互いに溶接ビード11に対して略対称となるように設置されている。これら放射温度計29a、29b、29cは、金属材9の溶接部13近傍において、溶接ビード11の表面温度および母材10の表面温度をそれぞれ測定する。
【0066】
(制御装置)
次に、制御装置28について詳述する。
図5に示すように、制御装置28は、温度測定装置29および冷却装置21の流量制御機構23と接続されている。この制御装置28は、温度測定装置29の放射温度計29a、29b、29cにより測定された温度データに基づき、流量制御機構23を介して出側ガスホース27内部を流れる冷却ガス6の流量を制御するものである。
【0067】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
図5に示すように、ガスボンベ25から供給された不活性ガスは入側ガスホース26を通過して、冷却ガス配管24内に達する。冷却ガス配管24内に達した不活性ガスは、冷却容器22の冷却ガス配管24周囲に充填された冷却液22aにより冷却され、室温以下に温度を下げられた冷却ガス6となる。冷却ガス配管24からの冷却ガス6は、出側ガスホース27内を通過し、この間流量制御機構23において流量を制御された後、溶接トーチ1の冷却ガスノズル5内に適切な流量で供給される。
【0068】
一方、図7に示すように、温度測定装置29の放射温度計29a、29b、29cは、金属材9の溶接部13近傍において、それぞれ金属材9に形成された溶接ビード11の表面温度と、金属材9の母材10の表面温度とを測定する。次に、温度測定装置29は、この測定結果を制御装置28に送信する。その後、制御装置28は、温度測定装置29から送信された測定結果に基づき、流量制御機構23に制御信号を送信し、上述のように冷却ガス6の流量を制御する。
【0069】
次に、制御装置28が冷却ガス6の流量を制御する方法を詳述する。
制御装置28は、溶接直後の溶接ビード11および母材10の表面温度が所定の温度範囲内に収まるように流量制御機構23を制御して、出側ガスホース27内の冷却ガス6の流量を変化させるものである。
【0070】
すなわち、制御装置28は、溶接ビード11および母材10の表面温度が所定の温度範囲を上回る場合には出側ガスホース27内の冷却ガス6の流量を増加させ、逆に、溶接ビード11および母材10の表面温度が所定の温度範囲を下回る場合には出側ガスホース27内の冷却ガス6の流量を減少させる。この温度範囲は、金属材9の許容ひずみ量(図面公差)、金属材9の材質、金属材9の板厚、溶接トーチ1と金属材9との間の溶接距離等を勘案して決定される。
【0071】
このように、本実施の形態によれば、冷却装置21により冷却ガス6の温度を低下させることができ、金属材9の溶接部13近傍を冷却する冷却効率を向上させることができる。
【0072】
また、本実施の形態によれば、制御装置28が溶接直後の溶接ビード11および母材10の表面温度が所定の温度範囲内となるように冷却ガス6の流量を制御することができ、金属材9の熱ひずみの量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明による溶接トーチの第1の実施の形態を示す図。
【図2】本発明による溶接トーチの第2の実施の形態を示す図。
【図3】本発明による溶接トーチの第3の実施の形態を示す図。
【図4】本発明による溶接トーチの第4の実施の形態を示す図。
【図5】本発明による溶接システムの第5の実施の形態を示す図。
【図6】本発明による溶接システムの冷却装置を示す図。
【図7】図5の溶接トーチ付近における拡大図。
【図8】従来のTIG溶接トーチを示す図。
【符号の説明】
【0074】
1 溶接トーチ
2 電極
3 シールドガスノズル
4 シールドガス
5 冷却ガスノズル
5a 冷却ガス流路
5b 冷却ガス噴出口
5c 閉鎖部
6 冷却ガス
7 溶接ワイヤー供給装置
8 溶接ワイヤー
9 金属材
10 母材
11 溶接ビード
12、12a、12b フィン
13 溶接部
20 溶接システム
21 冷却装置
22 冷却容器
22a 冷却液
23 流量制御機構
25 ガスボンベ
28 制御装置
29 温度測定装置
51 内側冷却ガスノズル
51a 内側冷却ガス流路
51b 内側冷却ガス噴出口
52 外側冷却ガスノズル
52a 外側冷却ガス流路
52b 外側冷却ガス噴出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材上を移動させて金属材を溶接する溶接トーチにおいて、
中心部に設けられた棒状の電極と、
電極周囲に設けられ、金属材方向にシールドガスを噴出するシールドガスノズルと、
シールドガスノズルを取り囲んで設けられ、内部に冷却ガス流路が形成されるとともに、金属材側に設けられた冷却ガス噴出口から金属材方向に向けて冷却ガスを噴出する冷却ガスノズルと、を備え、
冷却ガス噴出口から噴出される冷却ガスは、金属材の溶接部近傍を冷却することを特徴とする溶接トーチ。
【請求項2】
冷却ガス噴出口の横断面は、閉鎖部を一部に有する帯状の部分開口形状からなるとともに、溶接トーチは閉鎖部を前方に向けて移動し、冷却ガス噴出口から噴出される冷却ガスは、金属材の溶接部近傍のうち溶接トーチの移動方向と反対側の部分を冷却することを特徴とする請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
冷却ガスノズルの冷却ガス流路内にフィンが設けられ、フィンは、冷却ガス噴出口からの冷却ガスを冷却ガスノズルの外周方向へ誘導することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
冷却ガスノズルは、内側冷却ガスノズルと内側冷却ガスノズルを取り囲んで設けられた外側冷却ガスノズルとからなり、
内側冷却ガスノズルおよび外側冷却ガスノズルは、
それぞれ、内部に冷却ガス流路が形成されるとともに、金属材側に設けられた冷却ガス噴出口から金属材方向に向けて冷却ガスを噴出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接トーチ。
【請求項5】
冷却ガスは不活性ガスからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接トーチ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の溶接トーチと、
溶接トーチに接続され、溶接トーチの冷却ガスノズル内部に形成された冷却ガス流路に冷却ガスを供給する冷却装置と、を備えたことを特徴とする溶接システム。
【請求項7】
冷却装置に接続された制御装置と、
金属材の溶接部近傍に設けられ、金属材の溶接部近傍の温度を測定する温度測定装置と、を更に備え、
制御装置は、温度測定装置で測定された金属材の溶接部近傍の温度に基づいて冷却装置から供給される冷却ガスの流量を制御することを特徴とする請求項6に記載の溶接システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−237213(P2007−237213A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61541(P2006−61541)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】