説明

溶接トーチノズル

【課題】製造コストの上昇および溶接トーチノズルの大型化を抑制しつつ、プラズマ炎による溶接トーチノズル先端部の焼損を抑制する。
【解決手段】ノズルチップ31の外周側を、チップホルダ41のカバー部44により間隙45を介在させつつ包囲すると共に、ノズルチップ31の周壁部に複数の流通孔36を形成し、流通孔36を介してノズルチップ31内と間隙45内とを連通させる。ノズルチップ31内を流通して出射口34から吐出されるシールドガスの一部は、流通孔36を介して間隙45内に流入し、間隙45内を流通して吐出口46から吐出される。これにより、ノズルチップ31が冷却され、ノズルチップ31の酸化が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接トーチに取り付けられる溶接トーチノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭酸ガスレーザ溶接加工においては、ワークの溶接部の表面酸化を防止するために、溶接トーチノズルから溶接部にアルゴンガス等の不活性ガスからなるシールドガスを噴射しながら、当該溶接トーチノズルから溶接部にレーザ光を照射して溶接を行う。特許文献1および2には、このような炭酸ガスレーザ溶接加工に用いられるレーザ溶接トーチが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−118062号公報
【特許文献2】実開平5−005280号公報
【特許文献3】特開平5−228675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、炭酸ガスレーザ溶接加工に用いられるレーザ溶接トーチにおいては、溶接トーチノズルから吐出されるシールドガスが、当該溶接トーチノズルから照射させるレーザ光を受けてプラズマ炎を発する。例えば、3KW級かこれを超えるような大出力で溶接を行う場合や、例えば数百mm間隔で高頻度に連続的に溶接を行う場合には、このプラズマ炎の発生により、溶接トーチノズルの先端部が加熱されて高温となり、溶接トーチノズルの先端部が焼損し、変形してしまうおそれがある。さらに、溶接トーチノズルの放熱性が悪い場合には、このような事態が起こりやすくなる。
【0005】
溶接トーチノズルの先端部が焼損し、変形すると、シールドガスの吐出方向が不安定になり、また、大気を巻き込んでプラズマ炎が発生しやすい状態を作り出し、溶接トーチノズルの先端部の焼損をさらに進行させてしまうといった悪循環を引き起こす。また、溶接トーチノズルの先端部が変形してシールドガスの吐出方向が不安定になると、溶接の品質が低下する。
【0006】
溶接トーチノズルの先端部の焼損を抑制するために、特許文献3に記載されているように、銅製のトーチノズルをモリブデンでコーティングすることにより、トーチノズルの耐久性を高める方法が考えられる。しかし、この方法では、トーチノズルが高価となり、また、この方法によればプラズマ炎による焼損の頻度を減らすことができるものの、当該焼損の頻度をさらに減らして製造コストを削減することが望まれる。
【0007】
また、溶接トーチノズルの先端部の焼損を抑制するために、溶接トーチノズルの外周側にガス噴出機構を追加し、溶接トーチノズルの内部を貫通して溶接部へ噴射されるシールドガスとは別のガスを外部から当該ガス噴出機構に供給し、当該ガス噴出機構から溶接トーチノズルの先端部へ向けてガスを噴射させ、これにより、溶接トーチノズルの先端部がプラズマ炎により加熱するのを抑制する方法が考えられる。しかし、製品の形状等により、溶接すべき領域が極めて小さい場合があるため、溶接トーチノズルを小型化することが望まれる。溶接トーチノズルの外周側にガス噴射機構を追加する方法では、溶接トーチノズルが大型化してしまうという問題がある。
【0008】
また、溶接トーチノズルの焼損による溶接の品質低下を防止するために、溶接トーチノズルの先端部に着脱可能なノズルチップを取り付け、焼損する前にノズルチップを交換する方法が考えられる。しかし、この方法では、金属材料を削り出すことにより製造されるノズルチップを高頻度に交換することとなるため、決して安価ではないノズルチップを多数用いることとなり、製品の製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0009】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、製造コストの上昇および溶接トーチノズルの大型化を抑制しつつ、プラズマ炎による溶接トーチノズル先端部の焼損を抑制することができる溶接トーチノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の溶接トーチノズルは、レーザ溶接トーチに設けられる溶接トーチノズルであって、前記レーザ溶接トーチに取り付けられ、内部にレーザ光およびガスを通過させる供給通路が形成されたノズル本体と、前記ノズル本体の先端部に設けられ、基端側には前記供給通路に連通する連通口が形成され、先端側には出射口が形成され、前記連通口と前記出射口との間が出射通路となり、前記供給通路から前記連通口を介して前記出射通路に進入する前記レーザ光および前記ガスを前記出射口から出射および吐出させる筒状のノズルチップと、前記ノズルチップの基端側を前記ノズル本体の先端側に保持するチップホルダとを備え、前記チップホルダは、前記ノズルチップの先端側外周を前記ノズルチップとの間に間隙を介在させながら包囲するカバー部を有し、前記ノズルチップは、当該ノズルチップの周壁部に径方向に形成され、前記出射通路と前記間隙との間を連通させ、前記出射通路に進入したガスの一部を前記間隙に流入させる流入孔を有し、前記ノズルチップの先端部と前記カバー部の先端部との間には、前記間隙に流入したガスを吐出させる吐出口が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第1の溶接トーチノズルによれば、ノズルチップの先端側外周をチップホルダのカバー部で包囲することにより、ノズルチップの先端側とプラズマ炎との間を遮断することができる。これにより、ノズルチップの先端側がプラズマ炎から受ける熱量を減らすことができ、ノズルチップの焼損を抑制することができる。
【0012】
また、ノズルチップの出射通路に進入したガスの一部を流入孔を介してノズルチップとチップホルダのカバー部との間の間隙に流入させ、このガスを吐出口から吐出することにより、ノズルチップの先端外周側にガスを流通させることができる。これにより、ノズルチップの先端側を冷却することができ、プラズマ炎から受けたノズルチップの熱を放熱することができる。また、ノズルチップの先端外周側にガスを流通させることにより、ノズルチップの外周面の酸化を抑制することができる。したがって、ノズルチップの焼損を抑制することができる。
【0013】
また、ノズルチップの先端側をチップホルダのカバー部で包囲する構造も、ノズルチップの出射通路に進入したガスの一部を分流させてノズルチップの先端外周側に導く構造も、溶接トーチノズルを大型化させることなく容易に実現することができる。したがって、溶接トーチノズルの小型化を図ることができる。また、小型の溶接トーチノズルにより、溶接すべき領域が小さい場合でも、溶接を確実に行うことが可能になる。
【0014】
また、ノズルチップの外周側をチップホルダで包囲し、ノズルチップの外周側にガスを流通させることによりノズルチップを保護するので、ノズルチップを銅合金等の安価な材料で形成しても、プラズマ炎の熱に対する耐久性を確保することができる。
【0015】
また、ノズルチップの冷却または酸化抑制を実現するために、溶接トーチノズルの外部からノズルチップに向けて冷却ガス等を供給する新たな機構を溶接トーチノズルに追加する必要がないので、溶接トーチノズルの製造コストの上昇を抑えることができる。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の第2の溶接トーチノズルは、上述した本発明の第1の溶接トーチノズルにおいて、前記流入孔は、前記ノズルチップの周壁部に周方向に所定の間隔をもって複数形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の溶接トーチノズルによれば、所定の間隔をもって複数形成された流入孔を介して、ノズルチップとチップホルダのカバー部との間の間隙にガスを流入させることができるので、ガスをノズルチップの全周に亘って流通させることができ、ノズルチップの冷却効果および酸化抑制効果を高めることができる。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の第3の溶接トーチノズルは、上述した本発明の第1または第2の溶接トーチノズルにおいて、前記ノズルチップは、大径の基端部に前記連通口が形成され、小径の先端部に前記出射口が形成された略円錐状の筒部と、前記筒部の基端側に設けられ、前記筒部から径方向外側に突出した鍔部とを有し、前記チップホルダは、前記ノズルチップの鍔部を前記ノズル本体との間で狭持しつつ前記ノズル本体の先端部に取り付けることにより、前記ノズルチップを前記ノズル本体に保持するチップ保持部を有し、前記チップホルダのカバー部は、前記チップ保持部の先端側に設けられ、前記ノズルチップの筒部の外径よりも大きい内径を有する略円錐筒状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の第3の溶接トーチノズルによれば、チップホルダにノズルチップを挿入して、チップホルダをノズル本体の先端部に取り付けるだけで、ノズルチップの位置決めと取付を容易に行うことができる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の第4の溶接トーチノズルは、上述した本発明の第1ないし第3のいずれかの溶接トーチノズルにおいて、前記チップホルダのカバー部の先端部は、前記ノズルチップの先端部よりも軸方向に後退し、前記吐出口が前記出射口よりも前記ノズルチップの基端側寄り配置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の第4の溶接トーチノズルによれば、吐出口から吐出されるガスにより、出射口から吐出されるガスに大気が巻き込まれるのを抑制することができ、プラズマ炎の発生を抑えることができる。また、吐出口から吐出されるガスは、ノズルチップの先端外周部を包囲するように流出するので、このガスにより、ノズルチップの先端部をプラズマ炎から遮断する効果を得ることができ、ノズルチップの先端部を冷却し、ノズルチップの先端部の酸化を抑制することができる。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の第5の溶接トーチノズルは、上述した本発明の第1ないし第4のいずれかの溶接トーチノズルにおいて、前記ノズルチップの基端部および前記ノズル本体の先端部には互いに面接触する接触面がそれぞれ形成され、前記チップホルダは、前記ノズルチップの前記接触面と前記ノズル本体の前記接触面とを当接させた状態で、前記ノズルチップを前記ノズル本体に保持することを特徴とする。
【0023】
本発明の第5の溶接トーチノズルによれば、ノズルチップとノズル本体とを面接触させることにより、ノズルチップとノズル本体との接触面積を大きくすることができる。これにより、例えばノズルチップをノズル本体に螺着する場合と比較して、ノズルチップからノズル本体に逃げる熱量を増やすことができ、ノズルチップの放熱性を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、製造コストの上昇および溶接トーチノズルの大型化を抑制しながら、プラズマ炎による溶接トーチノズル先端部の焼損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態による溶接トーチノズルを有するレーザ溶接トーチを示す一部破断の正面図である。
【図2】本発明の実施形態による溶接トーチノズルを示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態による溶接トーチノズルにおけるノズルチップを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態による溶接トーチノズルの動作を示す説明図である。
【図5】比較例による溶接トーチノズルを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態による溶接トーチノズルを有するレーザ溶接トーチを示している。図1において、レーザ溶接トーチ1は、炭酸ガスレーザ溶接加工に用いられる。レーザ溶接トーチ1は、溶接トーチ本体10および溶接トーチノズル20を備えている。溶接トーチ本体10は、筐体11を備え、筐体11内には、レーザ光およびシールドガスを溶接トーチノズル20に導く案内通路12が形成されている。また、案内通路12の途中には、ベンドミラー13および放物面鏡14が配置されている。案内通路12内に入射したレーザ光は、光路Lに沿って進行する。すなわち、案内通路12内において、レーザ光は、ベンドミラー13に反射し、続いて放物面鏡14に反射し、さらに放物面鏡14によって集光され、筐体11の先端側に設けられたノズル取付部15に取り付けられた溶接トーチノズル20に入射する。
【0027】
また、筐体11の途中の所定の位置には、シールドガス供給口16が形成されている。シールドガス供給口16には、図示しないシールドガス供給配管が接続される。シールドガス供給配管からシールドガス供給口16を介して供給されたシールドガスは、矢示Gに示すように、案内通路12の下流側を流通して溶接トーチノズル20に流入する。シールドガスには、例えばアルゴン等の不活性ガスが用いられる。
【0028】
図2は、本発明の実施形態による溶接トーチノズル20を示している。図3は溶接トーチノズル20に設けられたノズルチップを示している。図2に示すように、溶接トーチノズル20は、溶接トーチ本体10の先端側に取り付けられるノズル本体21と、ノズル本体21の先端部に設けられたノズルチップ31と、ノズルチップ31をノズル本体21に保持するチップホルダ41とを備えている。
【0029】
ノズル本体21は、例えば真鍮等の銅合金等または鋼等の金属材料により略円柱状に形成されている。ノズル本体21の基端側(図2中上側)は、溶接トーチ本体10のノズル取付部15に取り付けられ、固定される。また、ノズル本体21の先端側には、チップホルダ41を取り付けるためのホルダ取付部22が設けられている。ホルダ取付部22の外周面には、チップホルダ41のチップ保持部42の内周面に形成されたねじと螺合するねじが形成されている。また、ホルダ取付部22の先端面は平面に形成され、ノズルチップ31の接触面38と面接触する接触面23となっている。
【0030】
また、ノズル本体21の内部には、レーザ光およびシールドガスを通過させる供給通路24が形成されている。供給通路24は、横断面円形状に形成され、ノズル本体21の軸方向に伸長しており、供給通路24の基端側は溶接トーチ本体10の案内通路12に連通し、先端側はノズルチップ31の出射通路35に連通している。供給通路24は、その基端側から先端側に向かってレーザ光の光路L(図1参照)に接触することのないように漸次縮径している。
【0031】
ノズルチップ31は、例えばクロム銅、真鍮等の銅合金等により形成されている。ノズルチップ31は筒部32を備え、筒部32は、図3に示すように、外形が基端側から先端側に向かって縮径する略円錐状の筒状に形成されている。また、筒部32において、大径の基端側にはノズル本体21の供給通路24に連通する連通口33が形成され、小径の先端側には出射口34が形成され、連通口33と出射口34との間が出射通路35となっている。レーザ光およびシールドガスは、供給通路24から連通口33を介して出射通路35内に進入し、出射口34から出射および吐出する。
【0032】
また、筒部32の周壁部には筒部32の径方向に複数の流入孔36が形成されている。各流通孔36は、出射通路35と後述する間隙45との間を連通させ、出射通路35に進入したシールドガスの一部を間隙45に流入させる孔である。各流入孔36は、筒部32の周方向において所定の間隔、例えば互いに等しい間隔をもって配置されている。本実施形態において流入孔36の個数は4つであるが、流通孔36の個数は、シールドガスを間隙45に適切に流入および分流させる点等を考慮し、2つ、3つまたは5つ以上(例えば8つ)でもよい。また、本実施形態において各流入孔36は、筒部32の図3中上下方向の中間部よりも基端側寄りに配置されているが、各流通孔36を当該中間部に配置してもよいし、当該中間部よりも先端側寄りに配置してもよい。もっとも、各流入孔36を筒部32の上記中間部よりも基端側寄りに配置することで、筒部32の外周面の基端側から先端側にかけての広い範囲を、各流通孔36から間隙45に流入したシールドガスで覆うことができ、ノズルチップ31の冷却効果および酸化抑制効果を高めることができる。各流通孔36の径寸法は、シールドガスを間隙45に適切に流入および分流させる点等を考慮して設定されている。
【0033】
また、筒部32の基端側には、筒部32からその全周にわたって径方向外側に突出した鍔部37が設けられている。また、鍔部37の基端面は平面に形成され、ノズル本体21の接触面23と面接触する接触面38となっている。
【0034】
チップホルダ41は、図2に示すように、ノズルチップ31の基端側をノズル本体21の先端側に設けられたホルダ取付部22に保持する部材である。さらに、チップホルダ41は、シールドガスをノズルチップ31の外周側に流通させ、ノズルチップ31を冷却し、ノズルチップ31の酸化を抑制する機能をも有している。チップホルダ41は、例えば真鍮等の銅合金等または鋼等の金属材料により形成され、基端側に位置するチップ保持部42と、先端側に位置するカバー部44とから大略構成されている。
【0035】
チップ保持部42は筒状に形成され、内周面には、ホルダ取付部22の外周面に形成されたねじと螺合するねじが形成されている。また、チップ保持部42の先端側には、径方向内向きに突出する環状の段部43が形成されている。チップ保持部42は、ノズルチップ31の鍔部37を、段部43とホルダ取付部22との間で狭持しつつホルダ取付部22に螺着される。これにより、ノズルチップ31がホルダ取付部22に保持され、固定される。
【0036】
また、チップ保持部42の段部43の内向きの突出した端部の内径(チップ保持部42の先端側開口部の内径)は、ノズルチップ31の筒部32の基端部であって筒部32の外周面と鍔部37の基端部とが相互に接続された部分32Aの外径とほぼ等しい。これにより、段部43とホルダ取付部22との間でノズルチップ31の鍔部37を狭持しつつチップ保持部42をホルダ取付部22に取り付けたとき、部分32Aと段部43の端部とが互いに全周にわたって接触する。したがって、段部43とホルダ取付部22との間でノズルチップ31の鍔部37を狭持しつつチップ保持部42をホルダ取付部22に取り付けるだけで、ノズルチップ31の軸線がノズル本体21の軸線(レーザ光の光軸)に一致するように、ノズルチップ31がノズル本体21に対して位置決めされる。これにより、ノズルチップ31の交換作業を容易にかつ正確に行うことができる。
【0037】
また、段部43とホルダ取付部22との間でノズルチップ31の鍔部37を狭持しつつチップ保持部42をホルダ取付部22に締着することにより、ノズルチップ31の接触面38とノズル本体21の接触面23とが面接触した状態で当接または密接する。これにより、ノズルチップ31とノズル本体21とが広い面積をもって互いに接触するので、ノズルチップ31の熱をノズル本体21側に効果的に逃がすことができ、ノズルチップ31の放熱性を高めることができる。
【0038】
一方、チップホルダ41のカバー部44は、チップ保持部42の先端側に設けられ、ノズルチップ31の筒部32の外径よりも大きい内径を有する略円錐筒状に形成されている。そして、カバー部44は、筒部32の外周を筒部32との間に間隙45を介在させながら包囲する。筒部32の外面とカバー部44の内面との間の距離(径方向における間隙45の距離)は、筒部32の全周にわたって一定であり、筒部32の基端側から先端側にかけてほぼ一定である。間隙45の基端側は、ノズルチップ31の筒部32に形成された複数の流通孔36を介して、ノズルチップ31の筒部32内の出射通路35に連通している。これにより、出射通路35に供給されたシールドガスが各流通孔36を介して間隙45に流入する。なお、筒部32の外面とカバー部44の内面との間の距離(径方向における間隙45の距離)を、筒部32の基端側から先端側にかけて漸次小さくなるようにしてもよい。
【0039】
また、ノズルチップ31の先端部とカバー部44の先端部との間には環状の吐出口46が形成されている。吐出口46は間隙45に連通しており、間隙45に流入したシールドガスは、吐出口46から外部に吐出する。
【0040】
また、チップホルダ41のカバー部44の先端部は、ノズルチップ31の筒部32の先端部よりも軸方向に後退し、吐出口46が出射口34よりもノズルチップ31の筒部32の基端側寄り配置されている。
【0041】
図4は、溶接トーチノズル20によりワークに溶接を行う様子を示している。図4において、ワーク5の溶接すべき領域は小さな領域であり、その径寸法Dは例えば10mm〜20mm程度である。また、ワーク5の溶接すべき領域には、押さえ構造6が設けられ、互いに重なり合ったワーク5は、押さえ構造6によりワーク5間に隙間が生じないように押さえ付けられている。そして、溶接すべき領域は押さえ構造6の内側に位置している。また、ワーク5の溶接すべき領域の周囲には、ワーク5に事前に取り付けられた部品7の一部が上向きに突出している。溶接トーチノズル20は、押さえ構造6や部品7と接触しないようにワーク5に接近し、ワーク5の溶接すべき領域に対向した位置に配置されている。
【0042】
溶接トーチ本体10の案内通路12を介し、溶接トーチノズル20におけるノズル本体21の供給通路24に入射したレーザ光は、光路Lに示すように、ノズルチップ31における連通口33から出射通路35に流入し、出射通路35を通過して出射口34から出射し、ワーク5の溶接すべき領域に照射される。これにより、ワーク5の溶接すべき領域には溶接部8が形成される。
【0043】
また、溶接トーチ本体10のシールドガス供給口16から供給され、案内通路12の下流側を介して溶接トーチノズル20におけるノズル本体21の供給通路24に流入したシールドガスは、矢示Gに示すように、ノズルチップ31における連通口33から出射通路35に流入する。出射通路35に流入したシールドガスのうち、一部は各流入孔36を介して間隙45内に流入し、残部は、出射通路35を通過して出射口34から吐出され、ワーク5の溶接すべき領域に吹き付けられる。これにより、ワーク5の溶接すべき領域の酸化が抑制される。
【0044】
各流入孔36を介して間隙45内に流入したシールドガスは、ノズルチップ31の筒部32の外周面に沿うように筒部32の基端側から先端側に向かって流通し、吐出口46から外部に流出する。これにより、筒部32の外周側はその基端側から先端側にかけて全周にわたってシールドガスにより覆われる。出射孔34から吐出されるシールドガスに出射口34から照射されるレーザ光が当たると、プラズマ炎が発生し、このプラズマ炎による熱がノズルチップ31の筒部32に伝わり、筒部32が熱せられる。しかし、間隙45を流通するシールドガスにより、筒部32がその外周側から冷却される。これにより、プラズマ炎の熱による筒部32の温度の上昇を抑制することができる。また、筒部32の外周側がシールドガスに覆われることにより、筒部32の外周側の酸化が抑制される。
【0045】
また、チップホルダ41のカバー部44の先端部がノズルチップ31の筒部32の先端部よりも軸方向に後退し、吐出口46が出射口34よりもノズルチップ31の筒部32の基端側寄り配置されているので、吐出口46から吐出したシールドガスが、筒部32の先端部周囲のプラズマ炎を吹き飛ばす。これにより、図4中の矢示Fに示すように、プラズマ炎が筒部32の先端部に接近するのを抑制することができ、出射口34から吐出されるシールドガスによりプラズマ炎が巻き込まれ、筒部32の先端部に接触するのを抑制することができる。
【0046】
また、筒部32の外周側はチップホルダ41のカバー部44により包囲されているので、プラズマ炎が筒部32に接触するのを抑制することができ、これによっても、筒部32の温度上昇および酸化を抑制することができる。
【0047】
以上説明したとおり、本発明の実施形態による溶接トーチノズル20によれば、ノズルチップ31を効果的に冷却することができ、かつノズルチップ31の酸化を抑制することができる。これにより、ノズルチップ31がプラズマ炎の熱により焼損するのを抑制することができ、ノズルチップ31の寿命を長くすることができる。また、プラズマ炎の熱によりノズルチップ31の先端部が変形するのを抑制することができ、出射口34から吐出されるシールドガスの吐出方向が変わってしまったり、シールドガスの吐出が不安定になるのを防止することができ、溶接の品質が低下するのを防ぐことができる。
【0048】
ここで、このようなノズルチップ31の長寿命化について、本発明の実施形態による溶接トーチノズル20と比較例による溶接トーチノズル100とを比較しながら具体的に説明する。図5に示すように、比較例による溶接トーチノズル100は、略円筒状に形成されたノズル本体101の先端部に、円筒状に形成されたノズルチップ102を取り付けることにより構成されている。溶接トーチノズル100は、シールドガスを分流させてノズルチップ102の外周側に導く構造を有しておらず、ノズル本体101内に流入したシールドガスの全部がノズルトップ102内を通過してノズルチップ102の先端部から吐出される。このような構造の溶接トーチノズル100では、溶接時に発生するプラズマ炎によりノズルチップ102が熱せられて高温になり易く、かつノズルチップ102の酸化の進行が激しく、ノズルチップ102が短期間で焼損してしまう。ノズルチップ102が焼損する前にノズルチップ102を交換することとした場合、溶接長の累計がおよそ3500mに達するごとにノズルチップ102を交換する必要があることが実験により判明した。
【0049】
これに対し、本発明の実施形態による溶接トーチノズル20を用いた場合には、溶接長の累計がおよそ441000mに達するごとにノズルチップ31を交換すれば足りることが実験により判明した。すなわち、本発明の実施形態による溶接トーチノズル20のノズルチップ31の寿命は、比較例による溶接トーチノズル100のノズルチップ102の寿命の100倍を超えることが実験により明らかになった。
【0050】
また、本発明の実施形態による溶接トーチノズル20によれば、ノズルチップ31の外周側をチップホルダ41のカバー部44で覆うと共に、ノズルチップ31とカバー部44との間の間隙45にシールドガスを流通させてノズルチップ31の外周側をシールドガスによっても覆う構成としたから、ノズルチップ31をプラズマ炎の熱から保護することができる。これにより、ノズルチップ31をクロム銅、真鍮等の銅合金等の比較的安価な材料で形成しても、ノズルチップ31の寿命を長くすることができる。したがって、ノズルチップ31の交換頻度を低くし、製品の製造に用いるノズルチップ31の個数を減らすことができると共に、個々のノズルチップ31の価格を下げることができる。よって、溶接トーチノズル20を利用して製造する製品の製造コストを削減することができる。
【0051】
また、本発明の実施形態による溶接トーチノズル20では、ノズル本体21の供給通路24に供給されたシールドガスを、ノズルチップ31に形成された流通孔36を介して、チップホルダ41のカバー部44とノズルチップ31との間隙45に分流させることにより、ノズルチップ31の外周側にシールドガスを流通させ、ノズルチップ31を冷却し、ノズルチップ31の酸化を抑制する。すなわち、溶接トーチノズル20では、ノズルチップ31の冷却および酸化抑制を図るためのガスとして、出射口34から吐出させるためのシールドガスの一部を利用している。また、溶接トーチノズル20では、シールドガスの一部をノズルチップ31の外周側に導く経路を溶接トーチノズル20の内部に形成している。このように、溶接トーチノズル20では、簡単な機構を溶接トーチノズル20の内部に形成することにより、ノズルチップ31の冷却および酸化抑制を実現している。したがって、溶接トーチノズル20によれば、ノズルチップ31の冷却および酸化抑制を実現しつつも、溶接トーチノズル20の小型化を図ることができる。これにより、図4に示すように、ワーク5に押さえ構造6が設けられ、または、溶接すべき領域の周囲に部品7が突出しているために、溶接すべき領域が小さく、溶接すべき部分が奥まった場所に配置されている場合でも、溶接を確実に行うことができる。
【0052】
なお、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う溶接トーチノズルもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザ溶接トーチ
10 溶接トーチ本体
20 溶接トーチノズル
21 ノズル本体
22 ホルダ取付部
23 接触面
24 供給通路
31 ノズルチップ
32 筒部
33 連通口
34 出射口
35 出射通路
36 流入孔
37 鍔部
38 接触面
41 チップホルダ
42 チップ保持部
44 カバー部
45 間隙
46 吐出口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶接トーチに設けられる溶接トーチノズルであって、
前記レーザ溶接トーチに取り付けられ、内部にレーザ光およびガスを通過させる供給通路が形成されたノズル本体と、
前記ノズル本体の先端部に設けられ、基端側には前記供給通路に連通する連通口が形成され、先端側には出射口が形成され、前記連通口と前記出射口との間が出射通路となり、前記供給通路から前記連通口を介して前記出射通路に進入する前記レーザ光および前記ガスを前記出射口から出射および吐出させる筒状のノズルチップと、
前記ノズルチップの基端側を前記ノズル本体の先端側に保持するチップホルダとを備え、
前記チップホルダは、前記ノズルチップの先端側外周を前記ノズルチップとの間に間隙を介在させながら包囲するカバー部を有し、
前記ノズルチップは、当該ノズルチップの周壁部に径方向に形成され、前記出射通路と前記間隙との間を連通させ、前記出射通路に進入したガスの一部を前記間隙に流入させる流入孔を有し、
前記ノズルチップの先端部と前記カバー部の先端部との間には、前記間隙に流入したガスを吐出させる吐出口が形成されていることを特徴とする溶接トーチノズル。
【請求項2】
前記流入孔は、前記ノズルチップの周壁部に周方向に所定の間隔をもって複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接トーチノズル。
【請求項3】
前記ノズルチップは、大径の基端部に前記連通口が形成され、小径の先端部に前記出射口が形成された略円錐状の筒部と、前記筒部の基端側に設けられ、前記筒部から径方向外側に突出した鍔部とを有し、
前記チップホルダは、前記ノズルチップの鍔部を前記ノズル本体との間で狭持しつつ前記ノズル本体の先端部に取り付けることにより、前記ノズルチップを前記ノズル本体に保持するチップ保持部を有し、
前記チップホルダのカバー部は、前記チップ保持部の先端側に設けられ、前記ノズルチップの筒部の外径よりも大きい内径を有する略円錐筒状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接トーチノズル。
【請求項4】
前記チップホルダのカバー部の先端部は、前記ノズルチップの先端部よりも軸方向に後退し、前記吐出口が前記出射口よりも前記ノズルチップの基端側寄り配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接トーチノズル。
【請求項5】
前記ノズルチップの基端部および前記ノズル本体の先端部には互いに面接触する接触面がそれぞれ形成され、
前記チップホルダは、前記ノズルチップの前記接触面と前記ノズル本体の前記接触面とを当接させた状態で、前記ノズルチップを前記ノズル本体に保持することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の溶接トーチノズル。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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