溶接ワイヤ巻替え方法およびその装置
【課題】溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、溶接ワイヤの品質を保証できる、溶接ワイヤ巻替え方法およびその装置を提供することを目的とする。
【解決手段】溶接ワイヤ巻替え装置１を、比較的大径のボビン３がセットされるワイヤ繰出し機２と、繰出されて固定側ローラ４ａと移動側ローラ４ｂとに掛け回された溶接ワイヤ９の張力を所定範囲内に保持するダンサーローラ装置４と、このダンサーローラ装置４を出た溶接ワイヤ９を一旦ループさせるガイド輪装置５と、このループした溶接ワイヤ９を連続的に矯正するローラ矯正機６ｂと、このローラ矯正機６ｂを設置すると共に、このローラ矯正機６ｂにより矯正された溶接ワイヤ９の走行方向と直交する水平方向に往復動させるトラバーサ６と、このトラバーサ６から繰出される溶接ワイヤ９を連続的に巻取る比較的小径のスプール８がセットされるワイヤ巻取り機７とから構成する。
【解決手段】溶接ワイヤ巻替え装置１を、比較的大径のボビン３がセットされるワイヤ繰出し機２と、繰出されて固定側ローラ４ａと移動側ローラ４ｂとに掛け回された溶接ワイヤ９の張力を所定範囲内に保持するダンサーローラ装置４と、このダンサーローラ装置４を出た溶接ワイヤ９を一旦ループさせるガイド輪装置５と、このループした溶接ワイヤ９を連続的に矯正するローラ矯正機６ｂと、このローラ矯正機６ｂを設置すると共に、このローラ矯正機６ｂにより矯正された溶接ワイヤ９の走行方向と直交する水平方向に往復動させるトラバーサ６と、このトラバーサ６から繰出される溶接ワイヤ９を連続的に巻取る比較的小径のスプール８がセットされるワイヤ巻取り機７とから構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、ワイヤ繰出し機にセットされたボビンから繰出される溶接ワイヤをトラバースさせながら、ワイヤ巻取り機にセットされたスプールに巻替える溶接ワイヤ巻替え方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
比較的大径のボビンから繰出される溶接ワイヤを、比較的小径のスプールなどに巻替える溶接ワイヤ巻替え装置がある。このような溶接ワイヤ巻替え装置は、ボビンがセットされるワイヤ繰出し機と、前記ボビンから繰出される溶接ワイヤが掛回され、固定側ローラと、この固定側ローラに対して接近、離反の繰返しにより溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持する移動側ローラとを備えたダンサーローラ装置を備えている。さらに、前記ダンサーローラ装置により張力が調整された溶接ワイヤを往復動させるトラバーサと、このトラバーサにより案内された溶接ワイヤを、整列状態に巻取るスプールがセットされるワイヤ巻取り機を備えている。ワイヤなどの巻取りに用いられるトラバーサとしては、例えば、後述する構成になるものが公知である。
【０００３】
以下、トラバーサを備えた従来例１に係る整列巻装置の概要を、その整列巻装置の簡略平面図の図２と、その整列巻装置の簡略側面図の図３と、その整列巻装置を開発するに至った問題点を示す図の図４（ａ），（ｂ）を参照しながら説明する。
【０００４】
即ち、この整列巻装置は、線状体の曲がり癖による整列巻きの精度低下の防止を目的としたものであって、電線・ケーブルなどの線状体５１を巻取る巻取りドラム５２と、この巻取りドラム５２の近傍に配設されるトラバーサ５３とを備えている。前記巻取りドラム５２はその回転軸心Ｌ回りに、図示しないモータなどを具備する駆動機構によって回転されるようになっている。前記トラバーサ５３は、往復動体から突出するアーム５６と、このアーム５６の先端に設けられ、周設された溝に前記線状体５１が掛けられるローラ５７とからなっており、巻取りドラム５２の回転軸心Ｌと平行に、矢印ａ，ｂの如く往復動するように構成されている。
【０００５】
そして、ローラ５７の溝に掛けられた線状体５１がアーム５６の矢印ａ，ｂの往復動によって、線状体５１がトラバースする。即ち、巻取りドラム５２に供給される線状体５１が、この巻取りドラム５２の回転に伴ってトラバースされて順次巻取りドラム５２に巻取られる。しかして、この巻取りドラム５２の直前に、線状体５１の一部に第１湾曲部６０を形成するための第１ガイド部６１と、線状体５１の一部に第２湾曲部６２を形成するための第２ガイド部６３とが設けられ、これらによって、前工程などにおいて形成される曲がり癖を解消させる。
【０００６】
即ち、第１ガイド部６１は、前記トラバーサ５３のアーム５６に付設されたガイドローラ６４からなり、これによって、巻取ドラム５２に巻付けられた線状体５１の巻設部（以下、巻付部という）６６の前列部６７に対する反対側に中心Ｏを持ち、かつ前列部６７側に凸状となる第１湾曲部６０を、前記線状体５１の一部に形成させる。なお、図２の前記中心Ｏは、第１湾曲部６０が描く円弧の曲率半径の中心である。
【０００７】
つまり、一方の鍔部７０側から他方の鍔部７１側に巻付けられていく状態において、前記第１湾曲部６０の中心Ｏが平面的に見て他方の鍔部７１側に設けられ、まさに整列巻きされた部位と、トラバーサ５３のローラ５７が支点となって、ガイドローラ６４にて第１湾曲部６０を形成させるもので、換言すれば、ローラ５７とガイドローラ６４とが協働して第１湾曲部６０を形成させる。
【０００８】
逆に、他方の鍔部７１側から一方の鍔部７０側に巻付けていく場合、整列巻方向変換部で第１湾曲部６０の中心Ｏを反転させて、第１湾曲部６０を図２に示す第１湾曲部６０と対称形にする必要がある。そのため、平面視で前記ガイド部６１をローラ５７と反対側に設ける必要があり、仮想線で示すガイドローラ６５を必要とする。
【０００９】
つまり、平面視で第１湾曲部６０の中心Ｏを一方の鍔部７０側に設け、整列巻きされた部位と、トラバーサ５３のローラ５７が支点となって、ガイドローラ６５で第１湾曲部６０を形成させる。換言すれば、ローラ５７とガイドローラ６５とが協働して第１湾曲部６０を形成させる。
【００１０】
また、第２ガイド部６３は、アーム５６に付設されたガイドローラ７２からなり、これにより巻取面７３（現在巻取っている線状体５１の対応部のドラム横断面）を含む平面上にこの巻取面７３の湾曲方向と反対側の凸状となる第２湾曲部６２を線状体５１の一部に形成させる。つまり、トラバーサ５３のローラ５７が支点となって、ガイドローラ７２にてこの第２湾曲部６２を形成させるもので、換言すれば、ローラ５７とガイドローラ７２とが協働して第２湾曲部６２を形成させる。
【００１１】
従って、上記のような構成になる整列巻装置では、第１ガイド部６１により図４（ａ）に示す曲がり癖と反対の曲がり癖を付けることができる。また、第２ガイド部６３により図４（ｂ）に示す曲がり癖と反対の曲がり癖を付けることができる。これにより、巻取ドラム５２に巻付け易い曲がりを付けることができる。つまり、巻取中に、巻取ドラム５２に巻かれた巻付部６６の前列部６７と現在巻かれている線状体５１の一部が干渉（接触）することがなくなって、この現在巻いている線状体５１の前列部６７に密着状に巻付けることができる（例えば、特許文献１参照）。
【００１２】
次に、従来例２に係る線状材料巻取装置の概要を説明する。この従来例２に係る線状材料巻取装置は、ボビンに巻取る線状材料（電線、ワイヤ、ケーブルなど）のレーンチェンジを好適に行うことができ、かつ、線状材料の商品価値を大幅に向上させることを目的としたものである。より詳しくは、線状材料が巻回されるボビンの軸方向に往復移動可能なトラバーサを備え、トラバーサのスライドテーブルに設けられた供給側滑車と送出側滑車とにより線状材料を案内し、この線状材料をボビンに複数段整列して巻取るものであって、前記ボビンの軸に直交する方向と、トラバーサから送出される線状材料の方向の角度である巻取入線角度を検出する入線角度検出手段によって検出される巻取入線角度に基づいて、トラバーサの移動を制御する制御手段（制御装置）が設けられてなるものである（例えば、特許文献２参照）。
【先行技術文献】
【特許文献】
【００１３】
【特許文献１】特開平１１−２５７７５号公報
【特許文献２】特開２００４−３０７１０４号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【００１４】
しかしながら、上記従来例１に係る整列巻装置、従来例２に係る線状材料巻取装置のトラバーサを、例えば直径１．２〜１．６ｍｍ程度の細く、かつ高弾性の溶接ワイヤをスプールに巻取るワイヤ巻取り機に用いるのは好ましくない。以下、上記従来例１，２に係る従来技術の問題点を説明する。
【００１５】
従来例１に係る整列巻装置の場合には、線状体の「曲がり癖」による整列巻きの精度低下を防止するために、線状体を巻取ドラムに案内するローラに導く前に、線状体に湾曲部を形成させることにより前工程などで形成される線状体の「曲がり癖」を解消させるようにしている。ところが、線状体が溶接ワイヤである場合、張力を付与せずに巻取ると乱巻きになるため、図２において一点鎖線で示す直線になるように、張力を付与しながら巻取る必要がある。従って、トラバーサの往復動の都度、溶接ワイヤはローラにより左右に交互に折り曲げられるため「曲がり癖」を持ちながらローラにより案内されることになる。
【００１６】
また、従来例２に係る線状材料巻取装置の場合も上記従来例１に係る整列巻装置の場合と同様である。即ち、線状材料はトラバーサのスライドテーブルに設けられた供給側滑車（以下、滑車をローラという）と送出側ローラを介してボビンに案内されるため、線状材料に張力が付与される場合、トラバーサの往復動の都度、溶接ワイヤは左右に交互に折り曲げられるため「曲がり癖」を持つことになる。
【００１７】
勿論、トラバーサを構成するスライドテーブル（トラバース台に相当する）のローラの巻取ドラム、またはスプール側に、溶接ワイヤの走行方向の左右、上下を矯正するローラ矯正機を設置すれば、溶接ワイヤの「曲がり癖」を矯正し得るのではないか考えられる。
しかしながら、ローラ矯正機による溶接ワイヤの矯正は冷間加工によるものであるため残留しており、例えば溶接に際してトーチから繰出される溶接ワイヤの先端が上記「曲がり癖」により左右に交互に曲がる。従って、アークの向きが左右に交互に変動するので溶接が難しく、溶接製品の強度の維持、見栄えに対して好ましくないだけでなく、溶接作業能率（極めて高レベルの溶接技術が要求される）の向上も難しかった。
【００１８】
したがって、本発明の目的は、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、なおかつ適正なキャストを付与することで、溶接時のアーク点の揺動や、溶接ワイヤの送給速度の変動を抑制でき、安定した溶接施工が実現できる結果、溶接製品の強度、溶接部の見栄えなどの溶接ワイヤの品質を保証でき、また溶接作業効率も向上できる、溶接ワイヤ巻替え方法およびその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【００１９】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、従って本発明の請求項１に係る溶接ワイヤ巻替え方法が採用した手段は、比較的大径のボビンから繰出した溶接ワイヤを、ダンサーローラ装置を介して、比較的小径のスプールに巻取るに際し、ローラ矯正機を設置したトラバーサによって、前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させながら、かつ矯正しつつ連続的に前記スプールに巻取る、溶接ワイヤ巻替え方法であって、前記ダンサーローラ装置を出て走行する溶接ワイヤを一旦ループさせ、連続的に走行する溶接ワイヤの曲がりグセ方向を一定にした上で、前記ローラ矯正機に導入することを特徴とするものである。
【００２０】
また、本発明の請求項２に係る溶接ワイヤ巻替え装置が採用した手段は、比較的大径のボビンがセットされるワイヤ繰出し機と、繰出されて固定側ローラと移動側ローラとに掛け回された溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持するダンサーローラ装置と、このダンサーローラ装置を出た溶接ワイヤを一旦ループさせるガイド輪装置と、このループした溶接ワイヤを連続的に矯正するローラ矯正機と、このローラ矯正機を設置すると共に前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させるトラバーサと、このトラバーサから繰出される溶接ワイヤを連続的に巻取る比較的小径のスプールがセットされるワイヤ巻取り機とからなるものである。
【発明の効果】
【００２１】
本発明の請求項１に係る溶接ワイヤ巻替え方法、または本発明の請求項２に係る溶接ワイヤ巻替え装置によれば、ダンサーローラ装置を出て走行する溶接ワイヤは一旦ループさせられ、連続的に走行する溶接ワイヤの曲がりグセ方向が一定にされた上で、ローラ矯正機に導入される。従って、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、かつ適正なキャストを付与することができる。このため、溶接ワイヤの品質を保証でき、溶接作業効率も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【００２２】
【図１】本発明の実施の形態に係り、図１（ａ）は本発明の溶接ワイヤ巻替え方法を実施する溶接ワイヤ巻替え装置の模式的平面図であり、図１（ｂ）は図１（ａ）のＡ矢視図である。
【図２】従来例１に係る整列巻装置の簡略平面図である。
【図３】従来例１に係る整列巻装置の簡略側面図である。
【図４】図４（ａ），（ｂ）は、従来例１に係る整列巻装置を開発するに至った問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【００２３】
以下、本発明の溶接ワイヤ巻替え方法を実施する、本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置を、その模式的平面図の図１（ａ）と、図１（ａ）のＡ矢視図の図１（ｂ）とを順次参照しながら参照しながら説明する。
【００２４】
図１に示す符号１は、本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置である。この溶接ワイヤ巻替え装置１は、溶接ワイヤ９が巻回されてなる比較的大径のボビン３（水平軸心回りに回転される）がセットされるワイヤ繰出し機２を備えている。また、前記ボビン３から繰出される溶接ワイヤ９が掛回され、固定側ローラ４ａと、この固定側ローラ４ａに対して接近・離反しながら、前記溶接ワイヤ９の張力を所定範囲内に保持する移動側ローラ４ｂを備えたダンサーローラ装置４を備えている。
【００２５】
さらに、前記ダンサーローラ装置４によって張力が調整された溶接ワイヤ９を、平面視で３６０°ループさせる、後述する構成になるガイド輪装置５を備えている。また、図１における上下方向の左右方向（矢印Ｌ、Ｒ方向）に往復動するトラバース台６ａと、このトラバース台６ａに設けられ、前記ガイド輪装置５でループさせられた溶接ワイヤ９を連続的に矯正するローラ矯正機６ｂと、このローラ矯正機６ｂで矯正された溶接ワイヤ９を案内するトラバースローラ６ｃを具備するトラバーサ６を備えている。このトラバーサ６は、ローラ矯正機６ｂを設置すると共に、溶接ワイヤ９をスプール８の軸方向に往復動させる。そして、このように、前記トラバーサ６により矯正および案内された溶接ワイヤ９を整列状態に巻取るスプール８（水平軸心回りに回転される）と、このスプール８がセットされるワイヤ巻取り機７を備えている。
【００２６】
前記ガイド輪装置５は、前記ダンサーローラ装置４により張力が調整された溶接ワイヤ９の走行方向を、この溶接ワイヤ９の走行方向に対して図１における下側の左側方向に変換する、垂直軸心回りに回転自在な第１方向変換輪５ａを備えている。また、前記第１方向変換輪５ａにより変換された溶接ワイヤ９が、前記ワイヤ巻取り機７側から掛けられると共に、前記ダンサーローラ装置４側から前記トラバーサ６側方向に方向変換する第２方向変換輪５ｂを備えている。この第２方向変換輪５ｂの回転軸心は、溶接ワイヤ９の交差部における干渉を避けるために、前記第１方向変換輪５ａにより変換された溶接ワイヤ９が掛けられる掛始め側が高く、掛終り側が低くなるように、前記ダンサーローラ装置４側に傾斜している。
【００２７】
なお、前記第２方向変換輪５ｂの場合には、上記のとおり、溶接ワイヤ９の掛始め側が高く、掛終り側が低くなるになるように設定されている。しかしながら、このような構成に限らず、たとえば、これとは逆に、溶接ワイヤ９の掛始め側が低く、掛終り側が高くなるになるように設定しても良い。
【００２８】
さらに、前記第２方向変換輪５ｂで方向変換された溶接ワイヤ９は、前記トラバース台６ａの前記第１方向変換輪５ａ側に突設された垂直軸の先端に回転自在に取付けられてなる第３方向変換輪５ｃに掛けられて、前記ローラ矯正機６ｂの方向に方向変換されると共に、前記ローラ矯正機６ｂに導入されるように構成されている。以上の説明から良く理解されるように、前記ダンサーローラ装置４を出て走行する溶接ワイヤ９は、前記第１方向変換輪５ａ、前記第２方向変換輪５ｂ、および前記第３方向変換輪５ｃに順次掛けられることによって、平面視で３６０°ループさせられるものである。
【００２９】
ところで、本発明の実施の形態における前記ガイド輪装置５の第１方向変換輪５ａ、第２方向変換輪５ｂ、および第３方向変換輪５ｃの場合には、何れも掛けられた溶接ワイヤ９を、その走行方向に対して左側に曲げて方向変換させることにより３６０°ループさせるように設定されている。しかしながら、左側に曲げる方向変換に限るものではなく、掛けられた溶接ワイヤ９をその走行方向に対して、右側に曲げて方向変換させることにより３６０°ループさせるようにしても良い。
【００３０】
以下、上記構成になる溶接ワイヤの作用態様を説明する。即ち、ボビン３から繰出された溶接ワイヤはダンサーローラ装置４の固定側ローラ４ａと移動側ローラ４ｂとによって張力が調整されてガイド輪装置５に導入される。このガイド輪装置５に導入された溶接ワイヤ９は、前記第１方向変換輪５ａ、前記第２方向変換輪５ｂ、および前記トラバース６のトラバース台６ａに設けられた第３方向変換輪５ｃを順次経て、平面視で３６０°ループさせられる。そして、前記ガイド輪装置５の第３方向変換輪５ｃを出た溶接ワイヤ９は、同じくトラバース台６ａに設けられたローラ矯正機６ｂ、およびトラバースローラ６ｃを経て、ワイヤ巻取り機７にセットされてなるスプール８により連続的に巻取られて巻替えられる。
【００３１】
上記のような溶接ワイヤ巻替え装置１による溶接ワイヤ巻替え作業において、スプール８に巻取られた溶接ワイヤ９は、前記ガイド輪装置５の第１方向変換輪５ａ、前記第２方向変換輪５ｂ、および前記トラバース６のトラバース台６ａに設けられた第３方向変換輪５ｃそれぞれによる走行方向に対する左側方向への方向変換による３６０°のループにより、その「曲がり癖」が一定になる。すなわち、本発明によって巻替えた溶接ワイヤによる溶接に際しては、トーチから繰出される溶接ワイヤ９の先端が左側の一方向に一定に曲がる。従って、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、かつ適正なキャストを付与することができる。
【００３２】
このため、溶接時のアーク点の揺動や、溶接ワイヤの送給速度の変動を抑制でき、安定した溶接施工が実現できる結果、溶接製品の強度、溶接部の見栄えなどの溶接ワイヤの品質を保証できる。また、従来例に係る装置を用いて巻取った、左右方向に交互に曲がるような「曲がり癖」が一定ではない溶接ワイヤの場合よりも、溶接作業が容易であり、溶接作業効率も向上できる。
【００３３】
なお、上記実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置１は、本発明の１具体例に過ぎず、従って本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内における設計変更等は自由自在であるから、上記実施の形態に係る構成に限定されるものではない。例えば、以上の説明では、本発明を、フラックス入り溶接ワイヤを巻替える態様を説明したが、ソリッド溶接ワイヤなど他の溶接ワイヤを巻取る態様に対しても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【００３４】
以上説明したように、本発明では、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、なおかつ適正なキャストを付与しつつ、比較的大径のボビンに巻回された溶接ワイヤを比較的小径のスプールに効率よく巻取ることができる。そして、溶接ワイヤの品質を保証でき、溶接作業効率も向上できる。したがって、コイル状のフープ（帯鋼）を巻き戻してＵ字状の帯鋼に成型する工程、このフープの成型途中でフラックスを充填する工程、このフラックスを充填した管状成型ワイヤを更に伸線して巻き取る工程を同一のラインにて連続して行なって製造されたフラックス入り溶接ワイヤなど、高効率な製造ラインによって製造された溶接ワイヤの巻替え装置や方法に好適である。
【符号の説明】
【００３５】
１…溶接ワイヤ巻替え装置、２…ワイヤ繰出し機、３…ボビン、４…ダンサーローラ装置、４ａ…固定側ローラ、４ｂ…移動側ローラ、５…ガイド輪装置、５ａ…第１方向変換輪、５ｂ…第２方向変換輪、５ｃ…第３方向変換輪、６…トラバーサ、６ａ…トラバース台、６ｂ…ローラ矯正機、６ｃ…トラバースローラ、７…ワイヤ巻取り機、８…スプール
、９…溶接ワイヤ
【技術分野】
【０００１】
本発明は、ワイヤ繰出し機にセットされたボビンから繰出される溶接ワイヤをトラバースさせながら、ワイヤ巻取り機にセットされたスプールに巻替える溶接ワイヤ巻替え方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
比較的大径のボビンから繰出される溶接ワイヤを、比較的小径のスプールなどに巻替える溶接ワイヤ巻替え装置がある。このような溶接ワイヤ巻替え装置は、ボビンがセットされるワイヤ繰出し機と、前記ボビンから繰出される溶接ワイヤが掛回され、固定側ローラと、この固定側ローラに対して接近、離反の繰返しにより溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持する移動側ローラとを備えたダンサーローラ装置を備えている。さらに、前記ダンサーローラ装置により張力が調整された溶接ワイヤを往復動させるトラバーサと、このトラバーサにより案内された溶接ワイヤを、整列状態に巻取るスプールがセットされるワイヤ巻取り機を備えている。ワイヤなどの巻取りに用いられるトラバーサとしては、例えば、後述する構成になるものが公知である。
【０００３】
以下、トラバーサを備えた従来例１に係る整列巻装置の概要を、その整列巻装置の簡略平面図の図２と、その整列巻装置の簡略側面図の図３と、その整列巻装置を開発するに至った問題点を示す図の図４（ａ），（ｂ）を参照しながら説明する。
【０００４】
即ち、この整列巻装置は、線状体の曲がり癖による整列巻きの精度低下の防止を目的としたものであって、電線・ケーブルなどの線状体５１を巻取る巻取りドラム５２と、この巻取りドラム５２の近傍に配設されるトラバーサ５３とを備えている。前記巻取りドラム５２はその回転軸心Ｌ回りに、図示しないモータなどを具備する駆動機構によって回転されるようになっている。前記トラバーサ５３は、往復動体から突出するアーム５６と、このアーム５６の先端に設けられ、周設された溝に前記線状体５１が掛けられるローラ５７とからなっており、巻取りドラム５２の回転軸心Ｌと平行に、矢印ａ，ｂの如く往復動するように構成されている。
【０００５】
そして、ローラ５７の溝に掛けられた線状体５１がアーム５６の矢印ａ，ｂの往復動によって、線状体５１がトラバースする。即ち、巻取りドラム５２に供給される線状体５１が、この巻取りドラム５２の回転に伴ってトラバースされて順次巻取りドラム５２に巻取られる。しかして、この巻取りドラム５２の直前に、線状体５１の一部に第１湾曲部６０を形成するための第１ガイド部６１と、線状体５１の一部に第２湾曲部６２を形成するための第２ガイド部６３とが設けられ、これらによって、前工程などにおいて形成される曲がり癖を解消させる。
【０００６】
即ち、第１ガイド部６１は、前記トラバーサ５３のアーム５６に付設されたガイドローラ６４からなり、これによって、巻取ドラム５２に巻付けられた線状体５１の巻設部（以下、巻付部という）６６の前列部６７に対する反対側に中心Ｏを持ち、かつ前列部６７側に凸状となる第１湾曲部６０を、前記線状体５１の一部に形成させる。なお、図２の前記中心Ｏは、第１湾曲部６０が描く円弧の曲率半径の中心である。
【０００７】
つまり、一方の鍔部７０側から他方の鍔部７１側に巻付けられていく状態において、前記第１湾曲部６０の中心Ｏが平面的に見て他方の鍔部７１側に設けられ、まさに整列巻きされた部位と、トラバーサ５３のローラ５７が支点となって、ガイドローラ６４にて第１湾曲部６０を形成させるもので、換言すれば、ローラ５７とガイドローラ６４とが協働して第１湾曲部６０を形成させる。
【０００８】
逆に、他方の鍔部７１側から一方の鍔部７０側に巻付けていく場合、整列巻方向変換部で第１湾曲部６０の中心Ｏを反転させて、第１湾曲部６０を図２に示す第１湾曲部６０と対称形にする必要がある。そのため、平面視で前記ガイド部６１をローラ５７と反対側に設ける必要があり、仮想線で示すガイドローラ６５を必要とする。
【０００９】
つまり、平面視で第１湾曲部６０の中心Ｏを一方の鍔部７０側に設け、整列巻きされた部位と、トラバーサ５３のローラ５７が支点となって、ガイドローラ６５で第１湾曲部６０を形成させる。換言すれば、ローラ５７とガイドローラ６５とが協働して第１湾曲部６０を形成させる。
【００１０】
また、第２ガイド部６３は、アーム５６に付設されたガイドローラ７２からなり、これにより巻取面７３（現在巻取っている線状体５１の対応部のドラム横断面）を含む平面上にこの巻取面７３の湾曲方向と反対側の凸状となる第２湾曲部６２を線状体５１の一部に形成させる。つまり、トラバーサ５３のローラ５７が支点となって、ガイドローラ７２にてこの第２湾曲部６２を形成させるもので、換言すれば、ローラ５７とガイドローラ７２とが協働して第２湾曲部６２を形成させる。
【００１１】
従って、上記のような構成になる整列巻装置では、第１ガイド部６１により図４（ａ）に示す曲がり癖と反対の曲がり癖を付けることができる。また、第２ガイド部６３により図４（ｂ）に示す曲がり癖と反対の曲がり癖を付けることができる。これにより、巻取ドラム５２に巻付け易い曲がりを付けることができる。つまり、巻取中に、巻取ドラム５２に巻かれた巻付部６６の前列部６７と現在巻かれている線状体５１の一部が干渉（接触）することがなくなって、この現在巻いている線状体５１の前列部６７に密着状に巻付けることができる（例えば、特許文献１参照）。
【００１２】
次に、従来例２に係る線状材料巻取装置の概要を説明する。この従来例２に係る線状材料巻取装置は、ボビンに巻取る線状材料（電線、ワイヤ、ケーブルなど）のレーンチェンジを好適に行うことができ、かつ、線状材料の商品価値を大幅に向上させることを目的としたものである。より詳しくは、線状材料が巻回されるボビンの軸方向に往復移動可能なトラバーサを備え、トラバーサのスライドテーブルに設けられた供給側滑車と送出側滑車とにより線状材料を案内し、この線状材料をボビンに複数段整列して巻取るものであって、前記ボビンの軸に直交する方向と、トラバーサから送出される線状材料の方向の角度である巻取入線角度を検出する入線角度検出手段によって検出される巻取入線角度に基づいて、トラバーサの移動を制御する制御手段（制御装置）が設けられてなるものである（例えば、特許文献２参照）。
【先行技術文献】
【特許文献】
【００１３】
【特許文献１】特開平１１−２５７７５号公報
【特許文献２】特開２００４−３０７１０４号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【００１４】
しかしながら、上記従来例１に係る整列巻装置、従来例２に係る線状材料巻取装置のトラバーサを、例えば直径１．２〜１．６ｍｍ程度の細く、かつ高弾性の溶接ワイヤをスプールに巻取るワイヤ巻取り機に用いるのは好ましくない。以下、上記従来例１，２に係る従来技術の問題点を説明する。
【００１５】
従来例１に係る整列巻装置の場合には、線状体の「曲がり癖」による整列巻きの精度低下を防止するために、線状体を巻取ドラムに案内するローラに導く前に、線状体に湾曲部を形成させることにより前工程などで形成される線状体の「曲がり癖」を解消させるようにしている。ところが、線状体が溶接ワイヤである場合、張力を付与せずに巻取ると乱巻きになるため、図２において一点鎖線で示す直線になるように、張力を付与しながら巻取る必要がある。従って、トラバーサの往復動の都度、溶接ワイヤはローラにより左右に交互に折り曲げられるため「曲がり癖」を持ちながらローラにより案内されることになる。
【００１６】
また、従来例２に係る線状材料巻取装置の場合も上記従来例１に係る整列巻装置の場合と同様である。即ち、線状材料はトラバーサのスライドテーブルに設けられた供給側滑車（以下、滑車をローラという）と送出側ローラを介してボビンに案内されるため、線状材料に張力が付与される場合、トラバーサの往復動の都度、溶接ワイヤは左右に交互に折り曲げられるため「曲がり癖」を持つことになる。
【００１７】
勿論、トラバーサを構成するスライドテーブル（トラバース台に相当する）のローラの巻取ドラム、またはスプール側に、溶接ワイヤの走行方向の左右、上下を矯正するローラ矯正機を設置すれば、溶接ワイヤの「曲がり癖」を矯正し得るのではないか考えられる。
しかしながら、ローラ矯正機による溶接ワイヤの矯正は冷間加工によるものであるため残留しており、例えば溶接に際してトーチから繰出される溶接ワイヤの先端が上記「曲がり癖」により左右に交互に曲がる。従って、アークの向きが左右に交互に変動するので溶接が難しく、溶接製品の強度の維持、見栄えに対して好ましくないだけでなく、溶接作業能率（極めて高レベルの溶接技術が要求される）の向上も難しかった。
【００１８】
したがって、本発明の目的は、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、なおかつ適正なキャストを付与することで、溶接時のアーク点の揺動や、溶接ワイヤの送給速度の変動を抑制でき、安定した溶接施工が実現できる結果、溶接製品の強度、溶接部の見栄えなどの溶接ワイヤの品質を保証でき、また溶接作業効率も向上できる、溶接ワイヤ巻替え方法およびその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【００１９】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、従って本発明の請求項１に係る溶接ワイヤ巻替え方法が採用した手段は、比較的大径のボビンから繰出した溶接ワイヤを、ダンサーローラ装置を介して、比較的小径のスプールに巻取るに際し、ローラ矯正機を設置したトラバーサによって、前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させながら、かつ矯正しつつ連続的に前記スプールに巻取る、溶接ワイヤ巻替え方法であって、前記ダンサーローラ装置を出て走行する溶接ワイヤを一旦ループさせ、連続的に走行する溶接ワイヤの曲がりグセ方向を一定にした上で、前記ローラ矯正機に導入することを特徴とするものである。
【００２０】
また、本発明の請求項２に係る溶接ワイヤ巻替え装置が採用した手段は、比較的大径のボビンがセットされるワイヤ繰出し機と、繰出されて固定側ローラと移動側ローラとに掛け回された溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持するダンサーローラ装置と、このダンサーローラ装置を出た溶接ワイヤを一旦ループさせるガイド輪装置と、このループした溶接ワイヤを連続的に矯正するローラ矯正機と、このローラ矯正機を設置すると共に前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させるトラバーサと、このトラバーサから繰出される溶接ワイヤを連続的に巻取る比較的小径のスプールがセットされるワイヤ巻取り機とからなるものである。
【発明の効果】
【００２１】
本発明の請求項１に係る溶接ワイヤ巻替え方法、または本発明の請求項２に係る溶接ワイヤ巻替え装置によれば、ダンサーローラ装置を出て走行する溶接ワイヤは一旦ループさせられ、連続的に走行する溶接ワイヤの曲がりグセ方向が一定にされた上で、ローラ矯正機に導入される。従って、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、かつ適正なキャストを付与することができる。このため、溶接ワイヤの品質を保証でき、溶接作業効率も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【００２２】
【図１】本発明の実施の形態に係り、図１（ａ）は本発明の溶接ワイヤ巻替え方法を実施する溶接ワイヤ巻替え装置の模式的平面図であり、図１（ｂ）は図１（ａ）のＡ矢視図である。
【図２】従来例１に係る整列巻装置の簡略平面図である。
【図３】従来例１に係る整列巻装置の簡略側面図である。
【図４】図４（ａ），（ｂ）は、従来例１に係る整列巻装置を開発するに至った問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【００２３】
以下、本発明の溶接ワイヤ巻替え方法を実施する、本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置を、その模式的平面図の図１（ａ）と、図１（ａ）のＡ矢視図の図１（ｂ）とを順次参照しながら参照しながら説明する。
【００２４】
図１に示す符号１は、本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置である。この溶接ワイヤ巻替え装置１は、溶接ワイヤ９が巻回されてなる比較的大径のボビン３（水平軸心回りに回転される）がセットされるワイヤ繰出し機２を備えている。また、前記ボビン３から繰出される溶接ワイヤ９が掛回され、固定側ローラ４ａと、この固定側ローラ４ａに対して接近・離反しながら、前記溶接ワイヤ９の張力を所定範囲内に保持する移動側ローラ４ｂを備えたダンサーローラ装置４を備えている。
【００２５】
さらに、前記ダンサーローラ装置４によって張力が調整された溶接ワイヤ９を、平面視で３６０°ループさせる、後述する構成になるガイド輪装置５を備えている。また、図１における上下方向の左右方向（矢印Ｌ、Ｒ方向）に往復動するトラバース台６ａと、このトラバース台６ａに設けられ、前記ガイド輪装置５でループさせられた溶接ワイヤ９を連続的に矯正するローラ矯正機６ｂと、このローラ矯正機６ｂで矯正された溶接ワイヤ９を案内するトラバースローラ６ｃを具備するトラバーサ６を備えている。このトラバーサ６は、ローラ矯正機６ｂを設置すると共に、溶接ワイヤ９をスプール８の軸方向に往復動させる。そして、このように、前記トラバーサ６により矯正および案内された溶接ワイヤ９を整列状態に巻取るスプール８（水平軸心回りに回転される）と、このスプール８がセットされるワイヤ巻取り機７を備えている。
【００２６】
前記ガイド輪装置５は、前記ダンサーローラ装置４により張力が調整された溶接ワイヤ９の走行方向を、この溶接ワイヤ９の走行方向に対して図１における下側の左側方向に変換する、垂直軸心回りに回転自在な第１方向変換輪５ａを備えている。また、前記第１方向変換輪５ａにより変換された溶接ワイヤ９が、前記ワイヤ巻取り機７側から掛けられると共に、前記ダンサーローラ装置４側から前記トラバーサ６側方向に方向変換する第２方向変換輪５ｂを備えている。この第２方向変換輪５ｂの回転軸心は、溶接ワイヤ９の交差部における干渉を避けるために、前記第１方向変換輪５ａにより変換された溶接ワイヤ９が掛けられる掛始め側が高く、掛終り側が低くなるように、前記ダンサーローラ装置４側に傾斜している。
【００２７】
なお、前記第２方向変換輪５ｂの場合には、上記のとおり、溶接ワイヤ９の掛始め側が高く、掛終り側が低くなるになるように設定されている。しかしながら、このような構成に限らず、たとえば、これとは逆に、溶接ワイヤ９の掛始め側が低く、掛終り側が高くなるになるように設定しても良い。
【００２８】
さらに、前記第２方向変換輪５ｂで方向変換された溶接ワイヤ９は、前記トラバース台６ａの前記第１方向変換輪５ａ側に突設された垂直軸の先端に回転自在に取付けられてなる第３方向変換輪５ｃに掛けられて、前記ローラ矯正機６ｂの方向に方向変換されると共に、前記ローラ矯正機６ｂに導入されるように構成されている。以上の説明から良く理解されるように、前記ダンサーローラ装置４を出て走行する溶接ワイヤ９は、前記第１方向変換輪５ａ、前記第２方向変換輪５ｂ、および前記第３方向変換輪５ｃに順次掛けられることによって、平面視で３６０°ループさせられるものである。
【００２９】
ところで、本発明の実施の形態における前記ガイド輪装置５の第１方向変換輪５ａ、第２方向変換輪５ｂ、および第３方向変換輪５ｃの場合には、何れも掛けられた溶接ワイヤ９を、その走行方向に対して左側に曲げて方向変換させることにより３６０°ループさせるように設定されている。しかしながら、左側に曲げる方向変換に限るものではなく、掛けられた溶接ワイヤ９をその走行方向に対して、右側に曲げて方向変換させることにより３６０°ループさせるようにしても良い。
【００３０】
以下、上記構成になる溶接ワイヤの作用態様を説明する。即ち、ボビン３から繰出された溶接ワイヤはダンサーローラ装置４の固定側ローラ４ａと移動側ローラ４ｂとによって張力が調整されてガイド輪装置５に導入される。このガイド輪装置５に導入された溶接ワイヤ９は、前記第１方向変換輪５ａ、前記第２方向変換輪５ｂ、および前記トラバース６のトラバース台６ａに設けられた第３方向変換輪５ｃを順次経て、平面視で３６０°ループさせられる。そして、前記ガイド輪装置５の第３方向変換輪５ｃを出た溶接ワイヤ９は、同じくトラバース台６ａに設けられたローラ矯正機６ｂ、およびトラバースローラ６ｃを経て、ワイヤ巻取り機７にセットされてなるスプール８により連続的に巻取られて巻替えられる。
【００３１】
上記のような溶接ワイヤ巻替え装置１による溶接ワイヤ巻替え作業において、スプール８に巻取られた溶接ワイヤ９は、前記ガイド輪装置５の第１方向変換輪５ａ、前記第２方向変換輪５ｂ、および前記トラバース６のトラバース台６ａに設けられた第３方向変換輪５ｃそれぞれによる走行方向に対する左側方向への方向変換による３６０°のループにより、その「曲がり癖」が一定になる。すなわち、本発明によって巻替えた溶接ワイヤによる溶接に際しては、トーチから繰出される溶接ワイヤ９の先端が左側の一方向に一定に曲がる。従って、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、かつ適正なキャストを付与することができる。
【００３２】
このため、溶接時のアーク点の揺動や、溶接ワイヤの送給速度の変動を抑制でき、安定した溶接施工が実現できる結果、溶接製品の強度、溶接部の見栄えなどの溶接ワイヤの品質を保証できる。また、従来例に係る装置を用いて巻取った、左右方向に交互に曲がるような「曲がり癖」が一定ではない溶接ワイヤの場合よりも、溶接作業が容易であり、溶接作業効率も向上できる。
【００３３】
なお、上記実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置１は、本発明の１具体例に過ぎず、従って本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内における設計変更等は自由自在であるから、上記実施の形態に係る構成に限定されるものではない。例えば、以上の説明では、本発明を、フラックス入り溶接ワイヤを巻替える態様を説明したが、ソリッド溶接ワイヤなど他の溶接ワイヤを巻取る態様に対しても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【００３４】
以上説明したように、本発明では、溶接ワイヤの「曲がり癖」を効率的に矯正でき、なおかつ適正なキャストを付与しつつ、比較的大径のボビンに巻回された溶接ワイヤを比較的小径のスプールに効率よく巻取ることができる。そして、溶接ワイヤの品質を保証でき、溶接作業効率も向上できる。したがって、コイル状のフープ（帯鋼）を巻き戻してＵ字状の帯鋼に成型する工程、このフープの成型途中でフラックスを充填する工程、このフラックスを充填した管状成型ワイヤを更に伸線して巻き取る工程を同一のラインにて連続して行なって製造されたフラックス入り溶接ワイヤなど、高効率な製造ラインによって製造された溶接ワイヤの巻替え装置や方法に好適である。
【符号の説明】
【００３５】
１…溶接ワイヤ巻替え装置、２…ワイヤ繰出し機、３…ボビン、４…ダンサーローラ装置、４ａ…固定側ローラ、４ｂ…移動側ローラ、５…ガイド輪装置、５ａ…第１方向変換輪、５ｂ…第２方向変換輪、５ｃ…第３方向変換輪、６…トラバーサ、６ａ…トラバース台、６ｂ…ローラ矯正機、６ｃ…トラバースローラ、７…ワイヤ巻取り機、８…スプール
、９…溶接ワイヤ
【特許請求の範囲】
【請求項１】
比較的大径のボビンから繰出した溶接ワイヤを、ダンサーローラ装置を介して、比較的小径のスプールに巻取るに際し、ローラ矯正機を設置したトラバーサによって、前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させながら、かつ矯正しつつ連続的に前記スプールに巻取る、溶接ワイヤ巻替え方法であって、前記ダンサーローラ装置を出て走行する溶接ワイヤを一旦ループさせ、連続的に走行する溶接ワイヤの曲がりグセ方向を一定にした上で、前記ローラ矯正機に導入することを特徴とする溶接ワイヤ巻替え方法。
【請求項２】
比較的大径のボビンがセットされるワイヤ繰出し機と、繰出されて固定側ローラと移動側ローラとに掛け回された溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持するダンサーローラ装置と、このダンサーローラ装置を出た溶接ワイヤを一旦ループさせるガイド輪装置と、このループした溶接ワイヤを連続的に矯正するローラ矯正機と、このローラ矯正機を設置すると共に前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させるトラバーサと、このトラバーサから繰出される溶接ワイヤを連続的に巻取る比較的小径のスプールがセットされるワイヤ巻取り機とからなることを特徴とする溶接ワイヤ巻替え装置。
【請求項１】
比較的大径のボビンから繰出した溶接ワイヤを、ダンサーローラ装置を介して、比較的小径のスプールに巻取るに際し、ローラ矯正機を設置したトラバーサによって、前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させながら、かつ矯正しつつ連続的に前記スプールに巻取る、溶接ワイヤ巻替え方法であって、前記ダンサーローラ装置を出て走行する溶接ワイヤを一旦ループさせ、連続的に走行する溶接ワイヤの曲がりグセ方向を一定にした上で、前記ローラ矯正機に導入することを特徴とする溶接ワイヤ巻替え方法。
【請求項２】
比較的大径のボビンがセットされるワイヤ繰出し機と、繰出されて固定側ローラと移動側ローラとに掛け回された溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持するダンサーローラ装置と、このダンサーローラ装置を出た溶接ワイヤを一旦ループさせるガイド輪装置と、このループした溶接ワイヤを連続的に矯正するローラ矯正機と、このローラ矯正機を設置すると共に前記溶接ワイヤを前記スプールの軸方向に往復動させるトラバーサと、このトラバーサから繰出される溶接ワイヤを連続的に巻取る比較的小径のスプールがセットされるワイヤ巻取り機とからなることを特徴とする溶接ワイヤ巻替え装置。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図２】
【図３】
【図４】
【公開番号】特開２０１０−１９４５７６（Ｐ２０１０−１９４５７６Ａ）
【公開日】平成２２年９月９日（２０１０．９．９）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００９−４２０３５（Ｐ２００９−４２０３５）
【出願日】平成２１年２月２５日（２００９．２．２５）
【出願人】（０００００１１９９）株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２２年９月９日（２０１０．９．９）
【国際特許分類】
【出願日】平成２１年２月２５日（２００９．２．２５）
【出願人】（０００００１１９９）株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Ｆターム（参考）】
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