説明

溶接材料用酸化チタン原料、フラックス入りワイヤ、被覆アーク溶接棒及びサブマージアーク溶接用フラックス

【課題】フラックスの粒子の流動性を向上させ、フラックス中に偏析することがない溶接材料用酸化チタン原料並びにそれを使用したフラックス入りワイヤ、被覆アーク溶接棒及びサブマージアーク溶接用フラックスを提供する。
【解決手段】溶接材料用酸化チタン原料は、最大幅に対する最大長さの比であるアスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子1を酸化チタン原料の全質量あたり3乃至20質量%含有し、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子1を含有しない。この溶接材料用酸化チタン原料を、フラックス入りワイヤ、被覆アーク溶接棒及びサブマージアーク溶接用フラックスの原料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接材料用酸化チタン原料並びにそれを使用したフラックス入りワイヤ、被覆アーク溶接棒及びサブマージアーク溶接用フラックスに関し、特に、フラックスの粒子の流動性を向上させ、フラックス中に偏析することがない溶接材料用酸化チタン原料並びにそれを使用したフラックス入りワイヤ、被覆アーク溶接棒及びサブマージアーク溶接用フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接材料の原料に酸化チタンが使用されている。例えば、特許文献1乃至3にはフラックス入りワイヤの原料として酸化チタンを添加し、ワイヤ中の酸化チタンの含有量を適正な範囲に規定することによって、溶接時のアークを安定させ、スパッタ発生量を抑制することが開示されている。また、特許文献4には、フラックス入りワイヤ中の酸化チタンの含有量を適正な範囲に規定することにより、溶接作業後のスラグ剥離性が向上することが開示されている。
【0003】
一方、特許文献5及び6には、被覆アーク溶接棒において、被覆剤に添加する酸化チタンの粒径を1μm以下と小さく規定することにより、溶接棒表面の潤滑性が向上し、溶接時の被覆アーク溶接棒の塗装性が向上することが開示されている。
【0004】
また、特許文献7において、本願発明者等は、溶接用フラックス入りワイヤに適正な量の酸化チタンを添加し、この酸化チタンが含有するルチル型酸化チタン及びアナターゼ型酸化チタンの量を適正な比で規定することにより、フラックスが吸湿することなく、良好なフラックスの流動性とアーク安定性を保持することができることを開示した。そして、この溶接用フラックス入りワイヤにおいて、酸化チタンの平均粒度を適正な範囲に規定することにより、ワイヤの機械的性質を低下させることなくフラックスの粒子の流動性を効果的に向上させることを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−49357号公報
【特許文献2】特開2003−145291号公報
【特許文献3】特開2000−343277号公報
【特許文献4】特開平11−151592号公報
【特許文献5】特開2004−1048号公報
【特許文献6】特開2002−346791号公報
【特許文献7】特開2000−254796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。特許文献1乃至4及び特許文献7の技術は、フラックスワイヤ中の酸化チタンの含有量を適正な範囲に規定することによりアーク安定性及びフラックス粒子の流動性を向上させ、スラグ剥離性を向上させるものであるが、ワイヤ中の酸化チタンの含有量を特許文献1乃至4及び特許文献7に開示された範囲とした場合においても、フラックス粒子の流動性が低下してワイヤ中のフラックス充填率のばらつきが大きくなったり、フラックスにおいて酸化チタン粒子が偏析する場合がある。従って、フラックス入りワイヤの歩留まりが低下する。この問題点を解決するためには、例えばフラックス充填ラインの速度を下げ、フラックス率の安定化を図ることが考えられるが、ワイヤの生産性が低下するという問題点がある。
【0007】
また、例えば特許文献5及び6に開示されているような被覆アーク溶接棒の製造工程においても、同一の塗装ダイス等を使用して同一の製造条件で芯線にフラックスを塗布していても、フラックス粒子の流動性が低下したり、塗布されたフラックスにおいて酸化チタン粒子が偏析し、製品の被覆径が変化してしまう場合がある。従って、塗装ダイスのダイス径を換えた場合において、例えば、被覆径がダイス径よりも大きくなって溶接材料の品質が変化するだけではなく、同一のダイス径の塗装ダイスを使用した場合においても、製品径が規定の大きさに対して太くなり、規定の重量のワイヤを収納容器に収めることができない等の事態が発生し、製品の歩留まりが低下してしまうという問題点がある。
【0008】
更に、フラックス粒子の流動性が低下すると、例えば被覆アーク溶接棒のフラックス塗布装置において、フラックス塗布時の圧力が不安定化したり、徐々に塗布圧力が増加して最終的にはフラックス塗布装置を使用できなくなるという事態が発生する場合がある。この問題点を解決するためには、フラックスの塗布速度を下げ、塗布圧力を安定化させることが考えられるが、被覆アーク溶接棒の生産性が低下するという問題点がある。
【0009】
更にまた、フラックス中に酸化チタン粒子が偏析すると、例えばサブマージアーク溶接用フラックスの造粒工程において、ダスト(製品粒径アンダー品)の発生量が増加したり、造粒フラックスの粒度が粗目又は細目に偏ってしまう。この場合には、造粒フラックスの粉化率が増加し、再使用可能なフラックス量が低下したり、製品の歩留まりが低下し、製造コストも低下するという問題点がある。
【0010】
更にまた、フラックス率がばらついたり、フラックス入りワイヤ及び被覆アーク溶接棒においてフラックス中に酸化チタン粒子が偏析すると、溶接時に再アーク性及びアーク安定性が低下して、溶接作業性が劣化するという問題点がある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、フラックスの粒子の流動性を向上させ、フラックス中に偏析することがない溶接材料用酸化チタン原料並びにそれを使用したフラックス入りワイヤ、被覆アーク溶接棒及びサブマージアーク溶接用フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る溶接材料用酸化チタン原料は、溶接材料用酸化チタン原料において、最大幅に対する最大長さの比であるアスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子を酸化チタン原料の全質量あたり3乃至20質量%含有し、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しないことを特徴とする。
【0013】
上述の溶接材料用酸化チタン原料において、酸化チタン原料の全質量あたりに占める前記アスペクト比が2.6乃至3.5の前記酸化チタン粒子の割合は3乃至14質量%であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るフラックス入りワイヤは、上述の溶接材料用酸化チタン原料と他のフラックス原料とが混合され、皮材に充填されていることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る被覆アーク溶接棒は、上述の溶接材料用酸化チタン原料及び他のフラックス原料に水ガラスが添加され、混練された材料が金属製の芯線の周囲に被覆され乾燥されていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るサブマージアーク溶接用フラックスは、上述の溶接材料用酸化チタン原料と他のフラックス原料とが混合されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の溶接材料用酸化チタン原料は、特定のアスペクト比を有する酸化チタン粒子を適正な量で含有する。これにより、本発明の溶接材料用酸化チタン原料を他のフラックスと混合してフラックス原料として使用すれば、溶接材料において良好なフラックスの流動性を得ることができ、フラックス中に酸化チタン粒子が偏析することを防止することができ、溶接材料の生産性及び歩留まりの低下を防止することができる。
【0018】
また、溶接材料において酸化チタン粒子が偏析することがないため、溶接時に良好な再アーク性及びアーク安定性を得ることができる。
【0019】
更に、本発明によれば、フラックス入りワイヤ、被覆アーク溶接棒及びサブマージアーク溶接用フラックスにおいて、フラックス中の酸化チタン粒子の偏析が防止されるので、溶接材料の生産性及び歩留まりの低下を防止することができる。そして、フラックス入りワイヤ及び被覆アーク溶接棒においては、溶接時の再アーク性及びアークの安定性を良好に維持することができ、サブマージアーク溶接用フラックスにおいては、ダスト(製品粒径アンダー品)の発生量を低減させることができ、造粒フラックスの粉化率も低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る溶接材料用酸化チタン原料を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例においてヒューム捕集に使用した装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明者等は、アスペクト比が小さく、形状が球形に近い従来の酸化チタン粒子を溶接材料として使用した場合に、フラックス粒子の流動性が悪く、フラックス中に酸化チタン粒子が偏析するという問題を解決すべく、鋭意実験検討を行った。そして、本願発明者等は、酸化チタン粒子の最大幅に対する最大長さの比であるアスペクト比がフラックス粒子の流動性及び酸化チタン粒子の偏析に大きく関係していることを見出した。従来、溶接材料として使用されていた酸化チタン粒子は、形状が球状であれば流動性が高いとされてきた。そこで、特許文献5及び6に開示されているように、球状の酸化チタン粒子において、粒径を1μm以下と微細粒とすることが提案されていた。しかしながら、酸化チタン粒子のアスペクト比に着眼して、フラックス粒子の流動性の低下及び酸化チタン粒子の偏析という問題を解決しようとする技術は存在しなかった。
【0022】
本願発明者等は、従来の酸化チタン原料を溶接材料として使用した場合に、フラックス粒子の流動性が低下し、酸化チタン粒子がフラックス中に偏析して溶接材料の歩留まりが低下したり、溶接作業性が低下する問題を解決しようと、先ず、酸化チタン粒子の形状を検討した。即ち、特にチタニア系フラックスワイヤに多く含有させている酸化チタンは、粉末状に加工することなく使用していることから、酸化チタン粒子の形状がフラックス粒子の流動性及び酸化チタン粒子の偏析に関係していると考えた。そして、フラックス粒子の流動性を向上させ、フラックス中の酸化チタン粒子の偏析を防止するためには、酸化チタン粒子の形状をアスペクト比によって分類し、好適なアスペクト比の範囲を規定すればよいと考え、鋭意実験検討を行った。即ち、本願発明者等は、従来の酸化チタン原料においては、酸化チタン粒子のアスペクト比が小さく、他のフラックス粒子と絡み合うことが難しく、却ってフラックス粒子の流動性が低下して酸化チタン粒子の偏析が発生しやすくなっていることを知見した。
【0023】
そして、本願発明者等は、フラックス粒子の流動性を向上させ、酸化チタン粒子の偏析を防止するために効果的なアスペクト比の範囲として2.6乃至3.5という範囲を見出した。このように、アスペクト比が比較的大きな細長い酸化チタン粒子を溶接材料の原料として使用することにより、酸化チタン粒子と他のフラックス粒子とが程よく絡み合い、相互の流動性を向上させ、フラックス全体の流動性を向上させ、フラックス中の酸化チタン粒子の偏析も防止することができる。しかしながら、酸化チタン粒子の全てを前記好適なアスペクト比の範囲内のものにすることは、他のフラックス粒子と酸化チタン粒子との衝突頻度を高めることになり、却ってフラックス粒子の流動性が低下し、酸化チタン粒子も偏析しやすくなる。そこで、アスペクト比が上記好適な範囲の酸化チタン粒子の含有量の範囲を検討した。そして、アスペクト比が2.6乃至3.5の範囲の酸化チタン粒子の含有量を酸化チタン原料の全質量あたり3乃至20質量%とし、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しないように調整すれば、フラックス粒子の流動性を効果的に向上させ、酸化チタン粒子の偏析を防止することができることを見出した。
【0024】
即ち、本発明の溶接材料用酸化チタン原料を混合したフラックスを使用して溶接材料を作製すれば、フラックス粒子の流動性を向上させることができ、フラックス中に酸化チタン粒子が偏析することが防止され、その結果、溶接材料の歩留まり及び生産性が低下することを防止することができる。例えば、本発明の溶接材料用酸化チタン原料を使用してフラックス入りワイヤを作製すれば、フラックス率のばらつきを抑制することができ、被覆アーク溶接棒においては、被覆径が規定の大きさに対して変化することを防止することができる。また、フラックス入りワイヤ及び被覆アーク溶接棒において、再アーク性及びアークの安定性を良好に維持することができる。
【0025】
更に、サブマージアーク溶接のフラックスとして本発明の酸化チタン原料を混合したフラックスを使用した場合は、ダスト(製品粒径アンダー品)の発生量を低減させることができ、造粒フラックスの粉化率も低減させることができる。即ち、球形に近い酸化チタン粒子は、造粒フラックス内において、酸化チタン粒子同士の接触面積が小さくなり、造粒粒子同士の接触圧力が大きくなり、これにより粉化率が高くなる。本発明のように、溶接材料用チタン原料において、細長い形状の酸化チタン粒子を適量含有させることにより、造粒粒子間の接触圧力を小さくし、これによりフラックスの粉化率を低減させることができる。また、細長い形状の酸化チタン粒子をフラックスに混合することにより、ダスト(製品粒径アンダー品)の発生量も低減させることができ、製品の歩留まりが向上するだけではなく、再使用可能なフラックス量が増加し、資源の有効活用に寄与することもできる。
【0026】
以下、本発明の溶接材料用酸化チタン原料における数値限定の理由について説明する。
【0027】
「酸化チタン粒子の最大幅に対する最大長さの比(アスペクト比):2.6乃至3.5」
酸化チタン粒子のアスペクト比は、溶接材料におけるフラックス粒子の流動性を向上させ、酸化チタン粒子の偏析を防止するために最も重要な因子である。上述の如く、酸化チタン粒子の形状は、フラックス粒子の流動性と酸化チタン粒子の偏析に関係している。即ち、アスペクト比が2.6乃至3.5の範囲である酸化チタン粒子の含有量が酸化チタン原料の全質量あたり3乃至20質量%である場合に、フラックス粒子の流動性を効果的に向上させ、酸化チタン粒子の偏析を防止することができる。従って、本発明においては、フラックス粒子の流動性を向上させ、酸化チタン粒子が偏析することを防止するために効果的なアスペクト比を2.6乃至3.5と規定した上で、アスペクト比がこの範囲である酸化チタン粒子を酸化チタン原料中に適正な量で含有させる。アスペクト比が2.6未満の酸化チタン粒子は、形状が球形に近づくため、フラックス粒子の流動性向上及び酸化チタン粒子の偏析防止の効果を十分に得ることができなくなる。これにより、フラックス入りワイヤにおいては、フラックス率のばらつきが大きくなり、被覆アーク溶接棒においては、溶接棒の周囲にフラックスが偏って塗布されたり、フラックス中に酸化チタン粒子が偏析し、その結果、溶接時の再アーク性及びアーク安定性が低下しやすくなる。また、被覆アーク溶接棒においては、微細な酸化チタン粒子(例えば74μm以下の酸化チタン粒子が100%の粒度構成の酸化チタン原料)を用いた場合に、製品の被覆径が規定の径に対して大きくなりやすくなり、製品の歩留まりが低下しやすくなる。なお、このとき、被覆径が規定の径に対して大きくなるのは、微細な酸化チタン粒子が被覆層の表面に偏在することによってガス(水蒸気)の抜けが悪くなり、フラックス塗布後の乾燥工程において、水分が被覆層から十分に排除されていないことが原因であると考えられる。更に、サブマージアーク溶接用フラックスにおいては、ダスト(製品粒径アンダー品)の発生量が増加したり、造粒フラックスの粉化率が増加しやすくなる。一方、酸化チタン粒子のアスペクト比が3.5を超えると、溶接原料内に細長い形状の酸化チタン粒子が存在することになって、他のフラックス粒子と酸化チタン粒子との衝突頻度を高めることになるため、却ってフラックス粒子の流動性が低下し、酸化チタン粒子の偏析が発生しやすくなる。従って、本発明においては、フラックス粒子の流動性向上及び酸化チタン粒子の偏析防止のために、アスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子を全質量あたり3乃至20質量%含有する酸化チタン材料を使用する。また、この溶接材料用酸化チタン原料は、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しない。なお、酸化チタン原料の原産地が異なると、酸化チタン粒子のアスペクト比の範囲が異なる。また、同一の原産地で産出された酸化チタン原料であっても、鉱脈が異なる場合には、含有する酸化チタン粒子のアスペクト比の範囲が異なる場合がある。そこで、酸化チタン原料において、アスペクト比を所定の範囲に調整するためには、例えば原産地又は鉱脈が異なる複数種類の酸化チタン原料から、アスペクト比が本発明の範囲になるように1又は複数の原産地又は鉱脈を選定して、その酸化チタン原料を使用すればよい。
【0028】
「アスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子:酸化チタン原料の全質量あたり3乃至20質量%」
上述の好適なアスペクト比の範囲の酸化チタン粒子は、酸化チタン原料において、適量含有させることにより、フラックスの流動性向上及び酸化チタン粒子の偏析防止の効果を十分に得ることができる。アスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子の含有量が酸化チタン原料の全質量あたり3質量%未満であると、フラックスの流動性向上及び酸化チタン粒子の偏析防止の効果を十分に得ることができない。一方、アスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子の含有量が酸化チタン原料の全質量あたり20質量%を超えると、球形に近い酸化チタン粒子の中に細長い形状の酸化チタン粒子が多く存在することになるため、フラックスの流動性が却って低下し、酸化チタン粒子も偏析しやすくなる。従って、本発明においては、アスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子の含有量を酸化チタン原料の全質量あたり3乃至20質量%と規定する。フラックス入りワイヤ及び被覆アーク溶接棒において、再アーク性及びアークの安定性を向上させるためには、アスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子の含有量を酸化チタン原料の全質量あたり3乃至14質量%とすることが好ましい。アスペクト比が本発明の範囲である酸化チタン粒子の含有量を調整するためには、例えば原産地又は鉱脈が異なる複数種類の酸化チタン原料から、アスペクト比が本発明の範囲になるように、酸化チタン原料を1又は複数種類選定し、夫々の酸化チタン原料の配合割合を調整するだけでよく、生産性を低下させることなく本発明を適用することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の溶接材料用酸化チタン原料の効果を示す実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。本実施例においては、原産地A、B及びCの3箇所の原産地で産出され、種々のアスペクト比の酸化チタン粒子が混在する酸化チタン原料を使用した。各原産地で産出された酸化チタン原料について、図1に示すように酸化チタン粒子1の最大幅に対する最大長さの比をアスペクト比として、アスペクト比が1.0以上2.6未満であるもの、2.6以上3.5未満であるもの、及び3.5を超えるものに分類した。各原産地で産出された酸化チタン原料について、アスペクト比ごとの含有量を表1に示す。なお、表1中の原産地Bについては、鉱脈が3箇所あり、各鉱脈ごとに産出される酸化チタン原料は、アスペクト比ごとの含有量が異なるため、B−1乃至B−3に分けて示す。
【0030】
表1に示す原産地ごとの各酸化チタン原料を単独で、又は2種類を種々の割合で混合して、実施例及び比較例の酸化チタン原料とした。各実施例及び比較例の酸化チタン原料について、原産地ごとの混合比、及びアスペクト比ごとの含有量を表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
(第1実施例)
第1実施例は、酸化チタン原料をフラックス入りワイヤのフラックス原料として使用する場合の実施例である。表2に示す各実施例及び比較例の酸化チタン原料を粉末状に加工した金属弗化物、Si、Mn、Fe、MgO及びNi等のフラックス原料と混合してフラックスを作製した。各実施例及び比較例のフラックスについて、酸化チタン原料並びに金属弗化物、Si、Mn、Fe、MgO及びNi等のフラックス原料の組成を表4に示す。そして、各実施例及び比較例のフラックスを表3に示す組成を有する外皮に充填し、筒状に成形して実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを作製した。このとき、各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤについて、外皮へのフラックスの充填率を測定した。フラックス率については、各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを30cmの長さに切断し、切断後の各ワイヤの重量を基準重量とし、基準重量とフラックスを除去した後のワイヤ重量とを比較し、下記数式によってフラックス率を算出した。各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤについて、夫々10本分のフラックス率を平均して、フラックス率のばらつきの判定に使用した。各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤのフラックス率のばらつきについて、目標フラックス率に対するずれが0.3%以内であったものを◎、0.3%を超え0.7%以内であったものを○、0.7%を超えたものを△と判定し、表4に示す。
【0034】
【数1】

【0035】
また、各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを使用して、COガスシールドアーク溶接を行い、アークの安定性を評価した。アーク溶接時にアークが不安定になると、ヒュームの発生量が増加することから、アークの安定性はヒュームの発生量によって評価することができる。従って、JIS Z 3930に規定されている被覆アーク溶接棒の全ヒューム量測定方法に準拠して、図2に示すヒューム捕集箱2を使用し、溶接台2a上の試験板3を溶接したときに発生したヒュームを捕集箱上部に設けられたサンプラ2bで回収してヒュームの発生量を測定した。そして、単位時間あたりに発生したヒューム量を夫々3回測定し、測定値の平均値によってアークの安定性を評価した。発生ヒューム量が1分あたり平均で450mg以下であったものを◎、450mgを超え480mg以下であったものを○、480mgを超えたものを△と判定し、表4に示す。なお、COガスシールドアーク溶接時の溶接条件を以下に示す。
(溶接条件)
極性:直流ワイヤプラス
溶接電流:300A
溶接電圧:31V
溶接速度:30cm/分
シールドガス:100%−CO、25リットル/分
チップ母材間距離:25mm
溶接姿勢:下向きビードオンプレート
試験板:JIS G 3106 SM490A(溶接構造用圧延鋼材)
【0036】
各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤについて、総合評価欄は、フラックス率のばらつき及びアーク安定性の双方の評価が◎であった場合を◎、フラックス率のばらつき及びアーク安定性の双方の評価が○であるか、又は一方の評価が◎で他方の評価が○であった場合を○、フラックス率のばらつき又はアーク安定性のうちの少なくとも一方の評価が△であった場合を△と判定した。各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤについて、フラックス率のばらつき及びアーク安定性の総合判定結果を表4にあわせて示す。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
表4に示すように、No.14乃至25は、フラックス原料として使用した酸化チタンにおいて、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足し、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しないので、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子を含有しない従来例No.26、並びにアスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足しない比較例No.27及び比較例No.29乃至33に比してフラックス率の安定性及び/又はアーク安定性が良好であった。また、比較例No.28は、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足するものの、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有し、フラックス率の安定性が低下した。
【0040】
アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足し、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しない実施例No.14乃至25のうち、実施例No.14、実施例No.16乃至18、及び実施例No.21乃至23は、本発明の好ましい範囲(アスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子の含有量:3乃至14質量%)を満足する実施例であり、本発明の範囲を満足するが好ましい範囲を満足しない実施例No.15、19、24及び実施例No.25に比してフラックス率のばらつき及びヒューム発生量を低減させることができ、実施例No.20に比してヒューム発生量を低減させることができた。
【0041】
(第2実施例)
第2実施例は、酸化チタン原料を被覆アーク溶接棒の芯線周囲に塗布するフラックス原料として使用する場合の実施例である。表2に示す各実施例及び比較例の酸化チタン原料を粉末状に加工したCaCO、SiO、MgO、Fe−Mn及びFe等のフラックス原料と混合し、水ガラスを添加した後、混練して実施例及び比較例のフラックスを作製した。各実施例及び比較例のフラックスについて、酸化チタン原料並びにCaCO、SiO、MgO、Fe−Mn及びFe等のフラックス原料の組成を表5に示す。そして、各実施例及び比較例のフラックスをJIS G 3523に規定されている軟鋼芯線(直径4.0mm、長さ450mm)の周囲に塗布し、400℃で乾燥させて被覆アーク溶接棒を作製した。作製した溶接棒について、乾燥後の被覆厚さの規定値を1.15mmとして被覆厚さを測定し、乾燥後の被覆厚さが1.20mmを超えるものを不合格製品とし、製品として不合格の被覆アーク溶接棒を抽出し、不合格率を算出した。そして、不合格率が4%以下であったものを◎、4%を超え7%未満であったものを○、7%以上であったものを×と判定した。各実施例及び比較例の被覆アーク溶接棒について、製品の不合格率及び判定結果をあわせて表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
表5に示すように、No.34乃至41は、フラックス原料として使用した酸化チタンにおいて、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足し、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しないので、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子を含有しない従来例No.42及び43、並びにアスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足しない比較例No.44及び比較例No.46乃至49に比して安定した被覆径が得られ、従って、被覆アーク溶接棒の歩留まりの低下を防止することができた。比較例No.45は、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有する比較例であり、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足している場合においても、よりアスペクト比が大きな酸化チタン粒子を含有していると、製品の不合格率が増大するという結果が得られた。
【0044】
アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足する実施例No.34乃至41のうち、実施例No.34及び実施例No.36乃至39は、本発明の好ましい範囲を満足し、本発明の範囲を満足するが好ましい範囲を満足しない実施例No.35、40及び41に比して被覆アーク溶接棒の不合格率を低減させることができた。
【0045】
(第3実施例)
第3実施例は、酸化チタン原料をサブマージアーク溶接用フラックスの原料として使用する場合の実施例である。表2に示す各実施例及び比較例の酸化チタン原料をCaO、SiO、Al、MgO、CaF及びCO等のフラックス原料と混合し、水ガラスを添加した後、混練して実施例及び比較例のフラックスを作製した。各実施例及び比較例のフラックスについて、酸化チタン原料並びにCaO、SiO、Al、MgO、CaF及びCO等のフラックス原料の組成を表6に示す。そして、各実施例及び比較例のフラックスを造粒し、400℃で乾燥させてサブマージアーク溶接用フラックスを作製した。各実施例及び比較例のサブマージアーク溶接用フラックスをふるい分けし、製品としての歩留まりを質量比によって求め、ダスト(規定の粒径未満のフラックス)の発生率を算出した。そして、ダスト発生率が6%未満であったものを◎、6%以上10%未満であったものを○、10%以上であったものを×と判定した。各実施例及び比較例のサブマージアーク溶接用フラックスについて、ダスト発生率及び判定結果をあわせて表6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
表6に示すように、No.50乃至55は、フラックス原料として使用した酸化チタンにおいて、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足し、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しないので、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子を含有しない従来例No.56、並びにアスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足しない比較例No.57、59、61及び62に比してダスト発生率が低く、従って、サブマージアーク溶接用フラックスの歩留まりの低下を防止することができた。比較例No.58及び比較例No.60は、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有する比較例であり、アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有量が本発明の範囲を満足している場合においても、よりアスペクト比が大きな酸化チタン粒子を含有していると、ダスト発生率が増加し、製品の歩留まりが低下するという結果が得られた。
【0048】
アスペクト比が2.6乃至3.5である酸化チタン粒子の含有割合が本発明の範囲を満足する実施例No.50乃至55のうち、実施例No.50及び実施例No.52乃至54は本発明の好ましい範囲を満足し、本発明の範囲を満足するが好ましい範囲を満足しない実施例No.51及び実施例No.55に比してダスト発生率を低減させることができた。
【符号の説明】
【0049】
1:酸化チタン粒子、2:ヒューム捕集箱、2a:溶接台、2b:サンプラ、3:試験板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接材料用酸化チタン原料において、最大幅に対する最大長さの比であるアスペクト比が2.6乃至3.5の酸化チタン粒子を酸化チタン原料の全質量あたり3乃至20質量%含有し、アスペクト比が3.5を超える酸化チタン粒子を含有しないことを特徴とする溶接材料用酸化チタン原料。
【請求項2】
酸化チタン原料の全質量あたりに占める前記アスペクト比が2.6乃至3.5の前記酸化チタン粒子の割合は3乃至14質量%であることを特徴とする請求項1に記載の溶接材料用酸化チタン原料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接材料用酸化チタン原料と他のフラックス原料とが混合され、皮材に充填されていることを特徴とするフラックス入りワイヤ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の溶接材料用酸化チタン原料及び他のフラックス原料に水ガラスが添加され、混練された材料が金属製の芯線の周囲に被覆され乾燥されていることを特徴とする被覆アーク溶接棒。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の溶接材料用酸化チタン原料と他のフラックス原料とが混合されたものであることを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79021(P2011−79021A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233679(P2009−233679)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】