説明

溶接機用収納コンテナ

【課題】円筒型タンクの側板溶接に際し、2次ケーブルを短くでき、作業エリアを有効に活用できる溶接機収納コンテナの提供。
【解決手段】円筒型タンク内で側板6の溶接を行う自動溶接機を含む溶接機器を収納する溶接機用収納コンテナ20であって、少なくとも、上記溶接機器として、自動溶接機、外部の1次電源と電気的に接続される2次電源、上記自動溶接機と上記2次電源とを電気的に接続する2次側の溶接機用ケーブル、を収納する収納部21と、収納部21の天部に設けられると共に、収納部21に収納された上記溶接機器の少なくとも一部を取り出し可能な取出部を備える足場部30と、上記溶接するべき上記側板が設けられた所定高さに収納部21を取り付ける取付部40と、を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機収納コンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LNG等の低温液体を貯蔵する円筒型タンクは、外槽と内槽からなり、その内外槽間には、パーライト等の保冷材を充填している。内槽は、矩形状の側板を外槽に沿って下段から順に、レンガ積みの要領で積み上げた後、自動溶接機等を用いて溶接して構築されている。
ところで、当該タンクは、大型化してきており、その高さが数十メートルにも及ぶものとなってきている。このため、高所での内槽側板の溶接作業が必要となり、当該溶接を行う自動溶接機等への給電及びそのケーブルの配線が課題となっている。
【0003】
下記特許文献1には、内槽側板を自動溶接機で溶接する際に、ケーブルハンドリングを良好にできる貯蔵タンク自動溶接機のケーブルハンドリング装置が開示されている。この装置は、タンク頂部より昇降動自在に下部固定用形板を主ワイヤを介して懸吊し、その下部固定用形板の外周に複数本の固定用ワイヤを連結すると共にその固定用ワイヤを上記側板に連結して下部固定用形板を固定し、他方タンク頂部より吊り下げワイヤを介して上部円形板を昇降動自在に設けると共にその上部円形板に上記主ワイヤを挿通する貫通孔を形成し、タンク外側に設けた溶接電源からの溶接ケーブルをタンクの工事孔及び側板の工事孔より側板内周に延出して上記自動溶接機に連結し、その途中の溶接ケーブルを、下部固定用形板と上部円形板で、円周方向に間隔をおいて支持する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3752273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来技術では、溶接ケーブルの特に、溶接機に接続される2次ケーブル側が長くなり、電圧降下やケーブルのリアクタンスによってアークが不安定になるといった懸念がある。電圧降下を抑制するためには、2次ケーブルを太くする必要があるが、そうするとケーブルが重く、硬くなり、その取り回し作業が煩雑で大変なものとなってしまう。また、ケーブルのリアクタンスにより自動溶接機(TIG溶接機)の高周波スタートが採用できず、タッチスタートやスクラッチスタート等のタングステン電極が消耗し易いスタート形式を採用しなければならなくなる。
また、通常、溶接機及びその周辺機器を含む溶接機器は、溶接機用収納コンテナに収納された状態でタンク内に搬入され、溶接作業時にそのコンテナから出され、使用されるが、溶接機を設置するためには広いエリアを必要とし、さらに、収納コンテナを仮置きするためのエリアも必要で、限られた工事区画を圧迫しており、他の作業との関係で、その作業手順や段取りに制限が課されてしまうといった問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、円筒型タンクの側板溶接に際し、2次ケーブルを短くでき、作業エリアを有効に活用できる溶接機収納コンテナの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、円筒型タンク内で側板の溶接を行う溶接機を含む溶接機器を収納する溶接機用収納コンテナであって、少なくとも、上記溶接機器として、上記溶接機、外部の1次電源と電気的に接続される2次電源、上記溶接機と上記2次電源とを電気的に接続する2次ケーブル、を収納する収納部と、上記収納部の天部に設けられると共に、上記収納部に収納された上記溶接機器の少なくとも一部を取り出し可能な取出部を備える足場部と、上記溶接するべき上記側板が設けられた所定高さに上記収納部を取り付ける取付部と、を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、溶接機器を収納しているコンテナ自体を、溶接すべき側板が設けられた所定高さに取り付け、足場として兼用させることができる。また、足場には、コンテナに収納された溶接機器の少なくとも一部を取り出す取出部が設けられているため、当該取り付け後その所定高さで溶接機を設置することができる。そして、当該所定高さに取り付けられたコンテナには、溶接機器として、外部の1次電源と電気的に接続される2次電源が収納されているため、該2次電源と設置された溶接機との距離を短くでき、その間を接続する2次ケーブルの長さを短くすることができる。
なお、ここでいう1次電源とは、動力用の電源という意味で、商用電源や発動発電機を含む。
【0008】
また、本発明においては、上記収納部には、上記溶接機器として、高周波発生装置が収納されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、2次ケーブルを短くできるのと相俟って高周波発生装置を用いた溶接機の高周波スタートを実施することができる。
【0009】
また、本発明においては、上記取出部は、上記足場部に設けられた開口部と、上記開口部を開閉自在とし、閉塞時に上記足場部と同一平面を形成し、開放時に上記足場部と上記収納部との間を結ぶ連絡通路を形成するハッチ部と、を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、足場部に開口部を形成し、その開口部をハッチ部で開閉自在にすることにより、溶接機器の取り出し時にはその開口部を開放して収納部への連絡通路を露出させて溶接機器の取り出しを行い、溶接機器の取り出し後にはその開口部を閉塞して足場として機能させて限られた作業エリアを広く活用することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記収納部には、上記連絡通路が形成される位置に梯子が立設されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、連絡通路に梯子が立設されているので、作業員の足場部と収納部との間の移動が容易となり、作業効率を向上させることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記取出部は、上記ハッチ部と異なる位置から上記収納部に収納された上記2次ケーブルを上記足場部上に導出させる第2の開口部を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、ハッチ部を閉塞した状態で、収納部から2次ケーブルを導出させることができるので、限られた作業エリアを広く活用することができる。
【0012】
また、本発明においては、上記取付部は、上記側板に設けられた掛止片に掛止するフック部材と、上記フック部材よりも下方に設けられ、上記収納部の取り付け時に、該収納部と上記側板との間に挟みこまれるパッド部材と、を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、フック部材で側板に設けられた掛止片と掛止し、その下部に設けられたパッド部材で、上記掛止位置を中心とするモーメント荷重を受けることで、安定してコンテナを所定高さに取り付けることができる。また、この構成によれば、取り付け/取り外しが容易なので、溶接作業が側板の下段から上段に上っていくに従って行う、コンテナの取付位置変更作業を容易に行うことができる。
【0013】
また、本発明においては、上記足場部上には、上記収納部の取り付け時に上記側板に臨む側と逆側に柵部材が立設されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、側板に臨む側と逆側に柵部材が立設されるので高所での作業を安全に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、円筒型タンク内で側板の溶接を行う溶接機を含む溶接機器を収納する溶接機用収納コンテナであって、少なくとも、上記溶接機器として、上記溶接機、外部の1次電源と電気的に接続される2次電源、上記溶接機と上記2次電源とを電気的に接続する2次ケーブル、を収納する収納部と、上記収納部の天部に設けられると共に、上記収納部に収納された上記溶接機器の少なくとも一部を取り出し可能な取出部を備える足場部と、上記溶接するべき上記側板が設けられた所定高さに上記収納部を取り付ける取付部と、を有するという構成を採用することによって、溶接機器を収納しているコンテナ自体を、溶接すべき側板が設けられた所定高さに取り付け、足場として兼用させることができる。このため、コンテナを仮置きするエリアが必要なくなると共に他の作業との間で作業手順や段取りの制限が課されることがなくなり、クリティカルパスを短くでき、工期の短縮、工数の低減を図ることができる。また、足場には、コンテナに収納された溶接機器の少なくとも一部を取り出す取出部が設けられているため、当該取り付け後その所定高さで溶接機を設置することができる。そして、当該所定高さに取り付けられたコンテナには、溶接機器として、外部の1次電源と電気的に接続される2次電源が収納されているため、2次電源と溶接機と間を接続する2次ケーブルの長さを短くすることができる。このため、溶接アークが安定すると共にそのケーブルを細くできることでその取り回しが楽になる。さらに、リアクタンスの影響が小さく高周波スタートが採用できることにより、タングステン電極の不要な消耗を防ぎつつ、良好な溶接作業をすることができる。さらに、コンテナの利点として、溶接作業に必要な多くの機器をセットで収納して移動できるため、それぞれの機器を個別に移動させるのに比べて、作業時間を大幅に短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態における円筒型タンクの内槽構築のための側板溶接工程を示す全体概略図である。
【図2】本発明の実施形態における側板に取り付けられた溶接機用収納コンテナを示す側面図である。
【図3】図2における線視A−A断面図である。
【図4】本発明の実施形態における溶接機用収納コンテナの正面図である。
【図5】本発明の実施形態における溶接機用収納コンテナの平面図である。
【図6】本発明の実施形態における溶接機用収納コンテナの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態における円筒型タンク1の内槽構築のための側板溶接工程を示す全体概略図である。
本実施形態の円筒型タンク1は、LNGを貯蔵する地上式のPC(プレストレスコンクリート)二重殻貯槽であり、外槽2と内槽3とを有する。外槽2は、円筒型のPCからなり、円板状の底部2aと、底部2aから立設する円筒状の胴部2bとを有する。胴部2bには、ドーム状の屋根部4がナックルプレート等を介して接続される。一方、内槽3は、優れた靱性と強度を備えるNi鋼材から形成され、外槽2内において内側壁を形成し、胴部2bとの間に内外槽間5を形成する構成となっている。なお、底部2a、内外槽間5、屋根部4内面には、その適所に応じた材質の保冷材(層)が設けられる。
【0017】
内槽3は、所定曲率を有する矩形状の側板6がレンガ積みの要領で複数溶接されて構築される。詳しくは、側板6を外槽2内周に沿って立設させて並べた後、その間の継目を自動溶接機(溶接機)10にて溶接すると共に、上下に側板6を重ねた際には、その上下間の継目を自動溶接機10にて溶接するようにして、内槽3を下段から順に上方に向けて構築していく。
なお、図1では、自動溶接機10を1台示しているが、実際には構築するタンクの大きさに応じて複数台が周方向に所定間隔で設置され、この複数台が同時に稼働することとなる。
【0018】
本実施形態の自動溶接機10の電源装置(1次電源)7は、外槽2の外側に設けられる。なお、本実施形態では電源装置7として、発動発電機を例示しているが、1次電源として商用電源を用いても良い。電源装置7と接続された1次側の溶接機用ケーブル(1次ケーブル)8は、外槽2の胴部2bに形成されている工事口2b1を通され、内槽3の下段の側板6に形成されている工事口6aを通されて、内槽3内に延出される。この溶接機用ケーブル8は、溶接作業用の足場9の一部として兼用されている本発明に係る溶接機用収納コンテナ20内まで延出され、その内部に収納されている1次分電盤(図1において不図示、後述)を介し、同じく内部に収納されている溶接電源装置(2次電源:図1において不図示、後述)に電気的に接続される。そして、この溶接電源装置と接続された2次側の溶接機用ケーブル(2次ケーブル)11は、溶接機用収納コンテナ20内から導出されて、自動溶接機10と電気的に接続される。
【0019】
次に、図2〜図5を参照して上記溶接機用収納コンテナ20の構成について説明する。
図2は、本発明の実施形態における側板6に取り付けられた溶接機用収納コンテナ20を示す側面図である。図3は、図2における線視A−A断面図である。図4は、本発明の実施形態における溶接機用収納コンテナ20の正面図である。図5は、本発明の実施形態における溶接機用収納コンテナ20の平面図である。図6は、本発明の実施形態における溶接機用収納コンテナ20の底面図である。
【0020】
溶接機用収納コンテナ20は、図3に示すように、自動溶接機10を含む溶接機器を収納可能な収納スペースを備える収納部21を有する。
本実施形態における自動溶接機10は、TIG溶接機であり、収納部21には、TIG溶接に関連する溶接機器が収納されている。具体的に、収納部21には、溶接機器として、1次側の溶接機用ケーブル8と電気的に接続されて各溶接機器に分電する1次分電盤12、自動溶接機10のR側電極と電気的に接続されるR側電極用溶接電源(2次電源)13、同じく自動溶接機10のL側電極と電気的に接続されるL側電極用溶接電源(2次電源)14、自動溶接機10のホットワイヤTIG溶接を実施させるためのホットワイヤ用電源15及びタンク付冷却水ポンプ16、自動溶接機10の高周波スタートを実施させるための高周波発生装置17、自動溶接機10を含めた各溶接機器の駆動を制御するための制御装置18、が収納されている。
【0021】
収納部21には、溶接機器の他に、自動溶接機10の収納時、それを保持するためのレール22、作業員が収納部21と足場部30(後述)との間において行き来するための梯子23、が設けられている。
収納部21に収納された各構成機器は、収納部21において重量バランスを考慮して配置されている。具体的に、収納部21においては、その収納スペースの外縁に沿って時計回りに、制御装置18、L側電極用溶接電源13及びその上に設置される高周波発生装置17、レール22(収納時には自動溶接機10を含む)、1次分電盤12、梯子23、R側電極用溶接電源13、タンク付冷却水ポンプ16、そしてホットワイヤ用電源15が配置されている。
なお、各構成機器の配置の内側のスペースS1は、収納時及びコンテナ移動時、ケーブル類(2次側の溶接機用ケーブル11、制御ケーブル及びその他のケーブルを含む)をとぐろ状に巻いて収納するスペースとして用いられる。
【0022】
溶接機用収納コンテナ20は、図2に示すように、収納部21の天部に設けられる足場部30を有する。足場部30は、自動溶接機10により溶接をする際に、該自動溶接機10に追従して作業を行う作業員の足場として機能する構成となっている。足場部30上には、コンテナ取り付け時に側板6に臨む側と逆側(タンク中心側)に柵部材31が立設されており、高所での作業を安全に行わせることが可能な構成となっている(図2及び図4参照)。
なお、足場部30の幅、柵部材31の高さ等の足場に関する諸形状は、他の通常の足場9の諸形状と対応して同程度となるように設計されており、当該足場部30と同じ高さ、且つ、隣り合って設けられた不図示の足場9に、容易に作業員が移動できるようになっている。
【0023】
足場部30は、図5に示すように、収納部21に収納された溶接機器の少なくとも一部を取り出し可能な取出部32を備える。
取出部32は、足場部30の中央部の柵部材31寄りに設けられた開口部33と、開口部33を開閉自在とするハッチ部34と、を有する。ハッチ部34は、開口部33の閉塞時には足場部30と同一平面を形成して足場として機能すると共に、開口部33の開放時に足場部30と収納部21との間を結ぶ連絡通路を形成する構成となっている。具体的に、ハッチ部34は、ヒンジ35により開閉自在とされており、作業員が取手36を持ち上げることで開閉される。ハッチ部34を開状態にすると、収納部21に立設された梯子23が露出するので、作業員は梯子23を用いて足場部30と収納部21との間を行き来することができる。なお、開口部33は、少なくとも自動溶接機10の取り出しができる大きさに設定されている。
【0024】
取出部32は、図5に示すように、ハッチ部34と異なる位置から収納部21に収納された2次側の溶接機用ケーブル11を足場部30上に導出させるケーブル導出口(第2の開口部)37を有する。ケーブル導出口37は、柵部材31寄りに設けられている。
この構成によれば、ハッチ部34を閉塞した状態で、収納部21から2次側の溶接機用ケーブル11を導出させることができるので、限られた作業エリアを広く活用することができる。ちなみに、ハッチ部34及びケーブル導出口37が、柵部材31寄りに配置されるのは、側板6に臨む側には溶接作業時にジグ等が載置されるためである。
なお、1次側の溶接機用ケーブル8は、図6に示す、収納部21の底面に形成されたケーブル導入口25から、収納部21内部に延出され、1次分電盤12と電気的に接続されることとなる。
【0025】
溶接機用収納コンテナ20は、図2に示すように、溶接するべき側板6が設けられた所定高さに収納部21を取り付ける取付部40を有する。
取付部40は、側板6に設けられた掛止片9aに掛止するフック部材41と、フック部材41よりも下方に設けられ、収納部21の取り付け時に、該収納部21と側板6との間に挟みこまれるパッド部材42と、を有する。掛止片9aは、足場9を側板6に設置するために側板6に溶接等されて設けられるものであり、所定高さ毎に周方向に所定間隔を空けて複数設けられている。フック部材41は、この掛止片9aに掛止できる形状、すなわち、他の足場9を設置するのと同じ掛止片9aを利用できる形状を有している。
【0026】
フック部材41は、図4に示すように、収納部21の上部の両側にそれぞれ設けられている。そして、フック部材41のそれぞれの下方、すなわち収納部21の下部の両側には、パッド部材42が設けられている。パッド部材42は、フック部材41と掛止片9aとが掛止する掛止位置を中心とするモーメント荷重を受けて側板6に押し付けられるため、収納部21を保護する所定の弾性を備えると共に、取り付け時の安定性を高めるべく、当該押し付け時に側板6との間で所定の摩擦力を発現させることができる摩擦部材から構成するのが好ましい。
なお、図4に示す、収納部21の正面中央に設けられた第2のハッチ部24は、側板6に収納部21を取り付ける前に、地上において、上述した溶接機器を収納部21内に収納するときに用いられる。
【0027】
続いて、上記構成の溶接機用収納コンテナ20を用いた円筒型タンク1の内槽構築にかかる側板溶接工程について説明する。
先ず、槽内部に、上述した溶接機器を収納している溶接機用収納コンテナ20を搬入する。この時、溶接機用収納コンテナ20内には、レール22に自動溶接機10が保持され、スペースS1にはケーブル類がとぐろ状に巻かれて収納されることとなる(図3参照)。次に、槽内部に設けられている不図示のテルハ及びクレーン等を用いて、溶接機用収納コンテナ20を、溶接すべき側板6が設けられた所定高さ(図1においては2段目の側板6)まで吊り上げ、取付部40を用いて取り付けを行う。溶接機用収納コンテナ20は、図3に示すように、各構成機器の重量がバランスして配置されているので、吊り上げ時に姿勢が斜め等になるといったことなく、円滑な取付作業をすることができる。溶接機用収納コンテナ20は、側板6に設けられた掛止片9aにフック部材41を掛止させ、フック部材41の下方に設けられたパッド部材42でモーメント荷重を受けさせて、図2に示すように取り付けられる。
【0028】
次に、溶接機用収納コンテナ20の足場部30に作業員が搭乗する。そして、作業員は、足場部30に設けられた取出部32(図5参照)から、収納部21に収納されている溶接機器を取り出し、自動溶接機10の設置を行う。具体的に、作業員は、足場部30に設けられたハッチ部34を開けて、収納部21内に梯子23を用いて進入する。そして、作業員は、収納部21においてレール22に保持された自動溶接機10を足場部30上に取り出し、側板6の継目に沿って走行できるようジグ等を用いて取り付ける。また、作業員は、収納部21内において各溶接機器の配線を行うと共に、2次側の溶接機用ケーブル11をケーブル導出口37から足場部30上に導出させ、自動溶接機10に接続する。また、作業員は、1次分電盤12と1次側の溶接機用ケーブル8とを接続する。
【0029】
自動溶接機10の設置が終了したら、ハッチ部34を閉じて足場として機能させる。そして、自動溶接機10を用いた溶接作業を行う。収納部21内には、2次電源としてR側電極用溶接電源13及びL側電極用溶接電源14が収納されているため、自動溶接機10に接続される2次側の溶接機用ケーブル11の長さを短くできる。このため、リアクタンスによる影響を少なくでき、同じく収納部21内に収納されている高周波発生装置17を用いた高周波スタートを実施させることができる。高周波スタートは、タッチスタートやスクラッチスタートのようにタングステン電極が溶接部に混入することがないため、溶接部に悪影響を与えることなく、また、電極の消耗を抑えた良好な溶接を行うことができる。また、溶接機用ケーブル11の長さを短くできるので、リアクタンス及び電圧降下によってアークが不安定になることを抑制することができる。さらに、溶接機用ケーブル11の径を小さくできるので、その取り回しも楽になる。
【0030】
当該高さにおける側板6の溶接作業が終了したら、その側板6の上段に積み上げられた側板6の溶接作業を行うべく、当該溶接機用収納コンテナ20の取付位置変更作業を行う。溶接機用収納コンテナ20は、掛止片9aにフック部材41を掛止させているだけなので、クレーン等で吊り上げれば容易に掛止解除することができる。もっとも、この時は、側板6に設置した自動溶接機10を、予め取り外している。なお、足場部30上に取り出した2次側の溶接機用ケーブル11は、自動溶接機10と同様に収納部21内に収納しても良いが、特に落下等の虞もないので作業効率を考えて足場部30上にとぐろ状に巻いたままであってもよい。
上段の側板6における溶接機用収納コンテナ20の取り付け、自動溶接機10の設置、溶接は、上記と同様にして行う。そして、上記のことを繰り返し、円筒型タンク1の内槽3を構築する。
【0031】
したがって、上述の本実施形態によれば、円筒型タンク1内で側板6の溶接を行う自動溶接機10を含む溶接機器を収納する溶接機用収納コンテナ20であって、少なくとも、上記溶接機器として、自動溶接機10、外部の電源装置7と1次分電盤12を介して電気的に接続されるR側電極用溶接電源13及びL側電極用溶接電源14を含む2次電源、自動溶接機10と上記2次電源とを電気的に接続する2次側の溶接機用ケーブル11、を収納する収納部21と、収納部21の天部に設けられると共に、収納部21に収納された上記溶接機器の少なくとも一部を取り出し可能な取出部32を備える足場部30と、上記溶接するべき上記側板6が設けられた所定高さに収納部21を取り付ける取付部40と、を有するという構成を採用することによって、溶接機器を収納しているコンテナ自体を、溶接すべき側板6が設けられた所定高さに取り付け、足場として兼用させることができる。このため、コンテナを仮置きするエリアが必要なくなると共に他の作業との間で作業手順や段取りの制限が課されることがなくなり、クリティカルパスを短くでき、工期の短縮、工数の低減を図ることができる。また、足場には、コンテナに収納された溶接機器の少なくとも一部を取り出す取出部32が設けられているため、当該取り付け後その所定高さで自動溶接機10を設置することができる。そして、当該所定高さに取り付けられたコンテナには、溶接機器として、外部の電源装置7と電気的に接続される2次電源が収納されているため、2次電源と自動溶接機10と間を接続する2次側の溶接機用ケーブル11の長さを短くすることができる。このため、溶接アークが安定すると共にそのケーブルを細くできることでその取り回しが楽になる。さらに、収納部21には、上記溶接機器として、高周波発生装置が収納されているため、ケーブルが短くできるのと相俟って、従来ではリアクタンスの影響が大きく採用できなかった高周波スタートが採用できることとになり、タングステン電極の不要な消耗を防ぎつつ、良好な溶接作業をすることができる。さらに、コンテナの利点として、収納部21に溶接作業に必要な多くの機器をセットで収納して移動できるため、それぞれの機器を個別に移動させるのに比べて、作業時間を大幅に短縮できる。
【0032】
また、本実施形態においては、取出部32は、足場部30に設けられた開口部33と、開口部33を開閉自在とし、閉塞時に足場部30と同一平面を形成し、開放時に足場部30と収納部21との間を結ぶ連絡通路を形成するハッチ部34と、を有するという構成を採用することによって、溶接機器の取り出し時にはその開口部33を開放して収納部21への連絡通路を露出させて溶接機器の取り出しを行い、溶接機器の取り出し後にはその開口部33を閉塞して足場として機能させて限られた作業エリアを広く活用することができる。
また、本実施形態においては、収納部21には、上記連絡通路が形成される位置に梯子23が立設されているという構成を採用することによって、作業員の足場部30と収納部21との間の移動が容易となり、作業効率を向上させることができる。
さらに、本実施形態においては、取出部32は、ハッチ部34と異なる位置から収納部21に収納された2次側の溶接機用ケーブル11を足場部30上に導出させるケーブル導出口37を有するという構成を採用することによって、ハッチ部34を閉塞した状態で、収納部21から2次側の溶接機用ケーブル11を導出させることができるので、限られた作業エリアを広く活用することができる。
【0033】
また、本実施形態においては、取付部40は、側板6に設けられた掛止片9aに掛止するフック部材41と、フック部材41よりも下方に設けられ、収納部21の取り付け時に、該収納部21と側板6との間に挟みこまれるパッド部材42と、を有するという構成を採用することによって、フック部材41で側板6に設けられた掛止片9aと掛止し、その下部に設けられたパッド部材42で、上記掛止位置を中心とするモーメント荷重を受けることで、安定してコンテナを所定高さに取り付けることができる。また、この構成によれば、取り付け/取り外しが容易なので、溶接作業が側板6の下段から上段に上っていくに従って行う、コンテナの取付位置変更作業を容易に行うことができる。
【0034】
また、本実施形態においては、足場部30上には、収納部21の取り付け時に側板6に臨む側と逆側に柵部材31が立設されているので、高所での作業を安全に行うことができる。
【0035】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0036】
例えば、上記実施形態では、LNGを貯蔵する円筒型タンクに本発明を適用したが、例えばLPG等を貯蔵する円筒型タンクにも本発明を適用できる。
また、例えば、上記実施形態では、外槽2の外に1次電源を配置したが、例えば外槽2内であって底部2a中央に配置してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…円筒型タンク、6…側板、7…電源装置(1次電源)、8…溶接機用ケーブル(1次ケーブル)、9a…掛止片、10…自動溶接機(溶接機)、11…溶接機用ケーブル(2次ケーブル)、13…R側電極用溶接電源(2次電源)、14…L側電極用溶接電源(2次電源)、17…高周波発生装置、20…溶接機用収納コンテナ、21…収納部、23…梯子、30…足場部、31…柵部材、32…取出部、33…開口部、34…ハッチ部、37…ケーブル導出口(第2の開口部)、40…取付部、41…フック部材、42…パッド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型タンク内で側板の溶接を行う溶接機を含む溶接機器を収納する溶接機用収納コンテナであって、
少なくとも、前記溶接機器として、前記溶接機、外部の1次電源と電気的に接続される2次電源、前記溶接機と前記2次電源とを電気的に接続する2次ケーブル、を収納する収納部と、
前記収納部の天部に設けられると共に、前記収納部に収納された前記溶接機器の少なくとも一部を取り出し可能な取出部を備える足場部と、
前記溶接するべき前記側板が設けられた所定高さに前記収納部を取り付ける取付部と、を有することを特徴とする溶接機用収納コンテナ。
【請求項2】
前記収納部には、前記溶接機器として、高周波発生装置が収納されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接機用収納コンテナ。
【請求項3】
前記取出部は、
前記足場部に設けられた開口部と、
前記開口部を開閉自在とし、閉塞時に前記足場部と同一平面を形成し、開放時に前記足場部と前記収納部との間を結ぶ連絡通路を形成するハッチ部と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接機用収納コンテナ。
【請求項4】
前記収納部には、前記連絡通路が形成される位置に梯子が立設されていることを特徴とする請求項3に記載の溶接機用収納コンテナ。
【請求項5】
前記取出部は、前記ハッチ部と異なる位置から前記収納部に収納された前記2次ケーブルを前記足場部上に導出させる第2の開口部を有することを特徴とする請求項3または4に記載の溶接機用収納コンテナ。
【請求項6】
前記取付部は、
前記側板に設けられた掛止片に掛止するフック部材と、
前記フック部材よりも下方に設けられ、前記収納部の取り付け時に、該収納部と前記側板との間に挟みこまれるパッド部材と、を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶接機用収納コンテナ。
【請求項7】
前記足場部上には、前記収納部の取り付け時に前記側板に臨む側と逆側に柵部材が立設されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の溶接機用収納コンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144901(P2012−144901A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3977(P2011−3977)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(592009281)IHIプラント建設株式会社 (39)
【Fターム(参考)】