説明

溶接熱影響部の靭性に優れた高強度鋼

【課題】Ni、Mo、Mn使用量を極力抑え、大入熱HAZ靭性に優れた、590MPa級以上の高強度鋼を提供する。
【解決手段】成分組成が、質量%で、C:0.025〜0.050%、Si:0.3%以下、Mn:1.2〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:1.5〜3.5%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.050%、Ni:0.5〜2.0%、N:0.0015〜0.0060%を含有し、更に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物からなることを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れた高強度鋼。
2.3≦(Mn+0.4Cr)≦2.7 ・・・(1)
なお、式中、Mn、Crは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた高強度鋼に関するものであり、特に500kJ/cmを超える大入熱溶接を施した場合の、溶接熱影響部の靭性に優れた引張強度590MPa級以上の高強度鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物のボックス柱の組立て溶接に適用されるサブマージアーク溶接やエレクトロスラグ溶接等では、施工の高能率化のため、500kJ/cmを超える大入熱溶接が施されることがある。一般に、溶接入熱量が大きくなると、溶接熱影響部(以下HAZと呼ぶ)の組織が粗大化し靭性が低下する。これまでにも、上記HAZの靭性を改善する方法が種種、提案されている。
【0003】
特許文献1には、極低C化により島状マルテンサイト(以下MAと呼ぶ)の生成を抑制し、焼入性向上元素であるMn、NiおよびCrを適正に含有させることにより、γ粒界でのフェライトの生成を抑え、粒内における変態組織のブロックサイズの微細化を図ることにより590MPa級鋼のHAZ靭性劣化を抑制する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、780MPa級鋼のHAZ靭性を改善する方法として、MnおよびNi、Cuを積極的に添加し、Mo、Nb、V添加量を制限することでベイニティックフェライトを主体とする組織とし、またTi、N量を適正化してTiNを高温で安定化させてHAZでのオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126725号公報
【特許文献2】特開2006−118007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の技術では,590MPa級鋼のHAZ靭性を改善するために約1%のNiの添加を必要とする。Niは高価な元素であり、合金コストが嵩み、590MPa級鋼としてはコスト競争力にかける。またMnを2%程度と多めに添加するため、スラブの板厚中心位置でのMnの凝固偏析が強く、板厚中心部(1/2t)での靭性が損なわれやすい。
【0007】
特許文献2に開示の技術では780MPa級鋼のHAZ靭性を改善するために約1から2%のNiの添加を必要とし、さらに0.2から0.5%のMoの添加を必要とする。NiおよびMoは高価な元素であるため、合金コストが嵩み、コスト競争力に欠ける。またMnを2%程度と多めに添加するため、特許文献1の技術と同様にスラブの厚さ1/2t位置でのMnの凝固偏析が強く、鋼板での板厚1/2t部の靭性が損なわれやすい。
【0008】
そこで、本発明は、590MPa級鋼以上の大入熱HAZ靭性を改善するにあたり、高価なNiやMoの使用量を極力抑えて合金コストを削減し、凝固偏析して板厚中央の靭性を損ないやすいMnの添加量も極力押さえた上で、高いHAZ靭性が得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために、大入熱溶接を施した場合のHAZ靭性に優れた高強度鋼を得るべく鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
【0010】
熱影響部の高靭性を安定して確保するには、極低C化してMAの生成を抑え、Mn、Cr、Ni、Siなどの焼入れ性を高める元素を添加して、変態温度を低下させ、全体を均一なベイナイト組織とすることが必要である。
【0011】
その上で、オーステナイト生成元素(Mn、Niなど)とフェライト生成元素(Cr、Siなど)の両方を添加し、オーステナイト生成元素量に対してフェライト生成元素量を適正にすることによって、HAZ靱性を良好にできる。
【0012】
Mnは強力なオーステナイト安定化元素であり、変態温度を低下させベイナイト変態を促進するが、Mnを単独で添加しても、ベイナイトラス間にMAが析出してしまい、HAZ靱性は低くなる。
【0013】
NiもMnに次ぐ、強力なオーステナイト安定化元素であり、変態温度を低下させベイナイト変態を促進するが、その効果はMnよりは小さい。このため、Niを単独で添加しても、多量に添加しなければその効果は十分ではない。Niを単独で多量に添加した場合、HAZは均一なベイナイト組織となり、またMn添加の場合とは異なり、ベイナイトラス間に靭性に有害なMAの生成がほとんどないため、優れたHAZ靭性を得ることができるが、Niが高価である上、多量の添加を必要とするため、鋼材の合金コストは極めて高くなってしまう。
【0014】
従って、オーステナイト生成元素としてはMnを主とし、それに加えてNiを補助的に用いることが実際的である。
【0015】
これらのオーステナイト生成元素に加えてフェライト安定化元素を添加すると、Mn添加による過度のオーステナイト安定化が緩和され、ベイナイトラス間のMAは減少し、HAZ靱性の優れた領域が現れる。
【0016】
特にCrは、Mnによる過度のオーステナイト安定化を抑える上で有効である。またSiも強力なフェライト生成元素であるが、Siはセメンタイトの生成を強く抑制するため、過剰に添加するとかえってMAの生成が増えてしまう。
【0017】
従って、フェライト生成元素としてはCrを主とし、Siは補助的に適量用いることが効果的である。
【0018】
本発明は、上記の知見に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0019】
第一の発明は、成分組成が、質量%で、C:0.025〜0.050%、Si:0.3%以下、Mn:1.2〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:1.5〜3.5%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.050%、Ni:0.5〜2.0%、N:0.0015〜0.0060%を含有し、更に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物からなることを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れた高強度鋼である。
【0020】
2.3≦(Mn+0.4Cr)≦2.7 ・・・(1)
なお、式中、Mn、Crは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
【0021】
第二の発明は、第一の発明に記載の成分組成を有する鋼を1000℃以上1250℃以下に加熱して熱間圧延し、その後、空冷以上の冷却速度で冷却することを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れた高強度鋼の製造方法である。
【0022】
第三の発明は、第一の発明に記載の成分組成を有する鋼を1000℃以上1250℃以下に加熱し、熱間圧延した後、水冷する直接焼入れ工程、または、熱間圧延後350℃以下まで冷却した後、870℃以上に再加熱して、水冷する再加熱焼入れ工程と、前記焼入れ後の鋼を450℃以上700℃以下に加熱し、その後、空冷以上の速度で冷却する焼戻し工程とを有することを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れた高強度鋼の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、500kJ/cmを超える大入熱溶接等を施した場合にも、優れたHAZ靭性を確保でき、安全性の高い建築構造物等を高能率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の各構成要件の限定理由について説明する。
【0025】
1.成分組成について
はじめに、本発明の鋼の成分組成を規定した理由を説明する。なお、成分%は、すべて質量%を意味する。
【0026】
C:0.025〜0.050%
Cは、母材強度の確保、およびγ粒の粗大化を抑制してHAZ靭性を確保するのに必要な元素であり、その効果を発揮させるには、0.025%以上の添加が必要である。一方、0.050%を超えて添加すると、MAが増大するためHAZ靭性は劣化するため、C量は0.025〜0.050%の範囲とする。
【0027】
Si:0.3%以下(0を除く)
Siは、製鋼時の脱酸に必要な元素であるが、脱酸の目的を達すれば、添加量は少なくとも良い。またSiは強力なフェライト生成元素であり、Mnによるオーステナイトの過度の安定化を抑制して、MAの生成を抑制する効果があるが、Siはセメンタイトの生成を強力に抑制するため、過剰の添加では、かえってMAが増大してHAZ靭性が劣化するため、Si量は0.30%以下とする。
【0028】
Mn:1.2〜2.0%
Mnは強力なオーステナイト安定化元素であり、変態点を低下させて母材の強度を確保するのに有用な元素である。また、ベイナイト変態を促進する元素でもある。母材の強度を確保するためには1.2%以上の添加が必要であるが、2.0%を超えて添加するとHAZの硬さが硬くなりすぎ、HAZ靭性が劣化するので、Mn量は1.2〜2.0%の範囲とする。
【0029】
P:0.05%以下(0を除く)
Pは鋼材の靭性を損ねるため少ないほど好ましい。しかしながら、製鋼プロセスでの脱りんコストも考慮して、P量は0.05%以下とする。
【0030】
S:0.01%以下(0を除く)
Sは鋼材の靭性を損ねるため少ないほど好ましい。しかしながら、製鋼プロセスでの脱硫コストも考慮して、S量は0.01%以下とする。
【0031】
Cr:1.5〜3.5%
Crは焼入れ性を向上させて母材の強度や靭性を確保するのに有用な元素であるとともに、フェライト安定化元素であり、Mn添加によるオーステナイトの過度の安定化を防止し、MAの発生を抑制するのに有用な元素である。これらの効果を発揮させるには、1.5%以上の添加が必要であるが、3.5%を超えて添加すると、HAZの硬度が増大してHAZ靭性が劣化するため、Cr量は1.5〜3.5%の範囲とする。
【0032】
Al:0.05%以下(0を除く)
Alは、製鋼時の脱酸に必要な元素であるが、脱酸の目的を達すれば、添加量は少なくとも良いが、0.05%を超えて添加すると、アルミナ等の粗大介在物が増加し、母材靭性が劣化する。加えてMAが増加し、HAZ靭性も劣化するため、Al量は0.05%以下とする。
【0033】
Ti:0.005〜0.050%
Tiは、Nと結合しTiNを形成する元素であり、このTiNはHAZのγ粒の成長を抑制しHAZ靭性の向上に有効に寄与する。この効果を発揮させるには、0.005%以上(好ましくは0.010%以上)の添加が必要であるが、0.050%を超えて添加すると、TiNが粗大化し、母材靭性、HAZ靭性が共に劣化するので、Ti量は0.005〜0.050%の範囲とする。
【0034】
Ni:0.5〜2.0%
Niも強力なオーステナイト安定化元素であり、変態点を低下させて母材の強度を確保するのに有用な元素であり、また、ベイナイト変態を促進する元素でもある。さらに、マトリックスの靭性を高めることにより母材およびHAZの靭性を高めるので、0.5%以上添加するが、Niは高価な元素であるため、合金コストの観点から添加量は2.0%以下とする。従って、Ni量は0.5〜2.0%の範囲とする。
【0035】
N:0.0015〜0.0060%
Nは、Tiと結合しTiNを形成する元素であり、このTiNはHAZのγ粒の成長を抑制しHAZ靭性の向上に有効に寄与する。この効果を発揮させるには、N量は0.0015%以上(好ましくは0.0025%以上)とするが、0.0060%を超えるとTiNが粗大化し、母材靭性、HAZ靭性が共に劣化するので、N量は0.0015〜0.0060%の範囲とする。
【0036】
2.3≦(Mn+0.4Cr)≦2.7
なお、式中、Mn、Crは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
【0037】
Crの添加量はMnの添加量に応じて決定すべきであるが、Mn+0.4Cr≧2.3%のCr添加では、Mnによるオーステナイトの過度の安定化を防止してMAの発生を抑制し、またHAZを適度な硬さを持った微細ベイナイト組織とするため、HAZ靱性が優れるようになる。しかしCrが過剰になり、Mn+0.4Cr>2.7となると、HAZの硬さが硬くなりすぎ、HAZ靱性が低下するので、Mn+0.4Crは、2.3〜2.7の範囲とする。
本発明の高強度鋼における上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0038】
2.製造条件について
上述した成分組成を有する鋼を、転炉、電気炉等の溶製手段で常法により溶製し、連続鋳造法または造塊〜分塊法等で常法によりスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。なお、溶製方法、鋳造方法については上記した方法に限定されるものではない。
【0039】
なお、本発明において、加熱温度、圧延終了温度、冷却終了温度および再加熱温度等の温度は鋼板の平均温度とする。平均温度は、スラブもしくは鋼板の表面温度より、板厚、熱伝導等のパラメータを考慮して、計算により求めたものである。
【0040】
以下、各製造条件について説明する。
【0041】
本発明の鋼は通常の熱間圧延を施したのち、空冷したままでも合金成分が多く焼入れ性が高いため引張強度が590MPa以上の高い強度を示すが、圧延後に加速冷却して空冷を超える冷却速度で冷却するか焼入焼戻処理を行うことで引張強度を780MPa以上とすることが出来る。
【0042】
熱間圧延の加熱温度は、1000℃以上1250℃以下とする。
1000℃未満では、C、Nなどのオーステナイト中での溶解が十分進行しないため、熱間圧延の加熱温度は1000℃以上とする。また、加熱温度が1250℃を超えると、オーステナイト結晶粒が粗大になり、母材の靭性が低下するため、熱間圧延の加熱温度は1000℃以上1250℃以下とする。
【0043】
熱間圧延後、鋼板を加速冷却することで鋼の変態温度を空冷で冷却した場合よりも下げ母材の強度を空冷材より上げることができる。加速冷却の開始は熱間圧延完了後、いつでもかまわないが、空冷中に変態が開始する温度である600℃よりも高い温度から加速冷却することが母材の強度を上昇させる上で望ましい。また加速冷却は350℃以上で停止することが望ましい。350℃未満まで加速冷却するとマルテンサイト変態が生じ母材の靭性が低下するためである。また加速冷却の冷却速度は空冷を超えれば母材強度上昇の目的を達するが、より望ましくは5℃/s以上とすることで引張強度を780MPa以上とすることが出来る。
【0044】
また、熱間圧延後、鋼板を直ちに水冷する直接焼入れ、または、熱間圧延後、鋼板を350℃以下まで冷却の後、870℃以上に再加熱して、水冷する再加熱焼入れを行う。
【0045】
再加熱焼入れの際に一旦、350℃以下まで冷却するのは、350℃超えでベイナイト変態が完了するためである(本発明の鋼はCが少なく、Mn、Cr、Niなどが多い成分組成であるため、ほとんど全てベイナイト変態し、マルテンサイト変態はほとんどない)。また870℃以上に再加熱するのは、オーステナイトに完全に変態させ、炭化物となっているCを完全に固溶させるためである。
【0046】
焼入れた鋼板は、そのままでは表面の硬度が高く、表面近くの靭性が低いため、焼戻し処理を行う。焼戻し処理は、450℃以上700℃以下で行う。焼戻し温度が450℃未満では靭性の改善効果が無く、700℃超えでは強度の低下が大きく、焼入焼戻によって高強度を得る目的を達せられないからである。
【0047】
以上のように、本発明の組成の鋼に加速冷却または焼入焼戻工程を加えることで、引張強度が780MPa以上の強度の鋼材を得ることができる。このように、加速冷却または焼入焼戻処理を加えた鋼材は、引張強度が780MPa以上となる他は母材靭性、HAZ靭性とも、熱間圧延まま鋼材と同等以上の性能を示す。
【実施例1】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。表1に示す成分組成の鋼材を溶製しスラブとした後、1200℃に加熱し、仕上げ温度950℃、板厚15mmまで熱間圧延を行った。熱間圧延後の冷却は空冷とした。このようにして得られた鋼板を用いて、下記の通り母材強度、靭性の測定とHAZ靭性の評価を行った。
【0049】
母材強度、靭性の測定について
各鋼板の圧延方向から丸棒試験片(ASTM−F型)を採取して、JISZ 2241の要領で引張試験を行い、降伏強度(YS)、引張強度(TS)、伸び(EL)を測定した。そして、引張強度が590MPa以上のものを高強度であると評価した。また、母材の靭性の評価として、シャルピーVノッチ試験片を圧延方向に垂直に3本採取して、JISZ 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行い試験温度0℃での吸収エネルギー(vE0 )を測定した。吸収エネルギーの3本の平均が70J以上で、3本の最低値が50J以上のものを靭性に優れると評価した。これらの結果を表2に示す。
【0050】
HAZ靭性の評価について
スキンプレート材(50mm厚)とダイアフラム材(50mm厚)を組合せ、溶接入熱が550kJ/cmのエレクトロスラグ溶接を行った場合のボンド近傍の熱影響部に相当する熱履歴を模擬し、圧延方向から採取した12mm厚さ×12mm幅の角棒状試験片試験片を加熱して1400℃で1秒間保持し800〜500℃の冷却時間が510秒のサイクルで、高周波誘導加熱装置により熱処理を施した。
【0051】
そして、熱履歴を模擬した熱処理を施した試験片からJIS Z 2202のVノッチ試験片を3本採取して、JISZ 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行い、試験温度0℃での吸収エネルギー(vE)を測定した。吸収エネルギーの3本の平均が70J以上で、3本の最低値が50J以上のものを、HAZの靭性に優れると評価した。これらの結果を表3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示す鋼種A4、A5、A7、A18〜A20、A25〜A27は母材成分が全て発明の範囲を満たす発明例である。
【0054】
一方、鋼種A1〜A3、A6、A8〜A17、A21〜A24およびA28〜A35はSi、Cr、Mn+0.4Crの1種以上が発明の範囲外である比較例である。
【0055】
【表2】

【0056】
表2は母材部の引張試験、シャルピー試験結果を示しており、発明例であるNo.B4、B5、B7、B18〜20、B25〜27は引張強度(TS)は590MPa以上、0℃での吸収エネルギーはいずれも70J以上を満足しており、母材の強度、靭性が優れていることが判る。また、比較例もNo.B16を除いて母材部の強度、靭性は問題はなかった。
【0057】
【表3】

【0058】
表3は、HAZ部のシャルピー試験結果であり、0℃での吸収エネルギーと脆性破面率を示している。発明例であるNo.B4、B5、B7、B18〜20、B25〜27は、いずれも0℃での吸収エネルギーの各3本の平均値が70J以上、各3本の最低値が50J以上であり、HAZ部の靭性に優れている事が判る。一方、比較例はいずれもHAZ部の靭性が十分でない。
【実施例2】
【0059】
表1に示す鋼種A19とA25(発明例)の成分組成の鋼材を溶製しスラブとした後、1200℃に加熱し、仕上げ温度950℃、板厚15mmまで熱間圧延を行い、熱間圧延後の冷却は空冷により室温まで冷却した。そして、この鋼板を910℃×5分に再加熱後、直ちに水焼入れを行った。さらにこの焼入れ材を500℃×5分で焼戻し、その後空冷により室温まで冷却した(再加熱焼入れ−焼戻処理を表4で、熱処理:RQ−Tと標記)。
また鋼種A25の組成の鋼材は上記と同様にして熱間圧延したのち、900℃から水冷による直接焼入れ(DQ)後、500℃×5分の焼戻を行った(直接焼入れ−焼戻処理を表4で、熱処理:DQ−Tと標記)。
このようにして得られた鋼板を用いて、実施例1と同様の方法で母材強度、靭性の測定とHAZ部靭性の評価を行った。
表4に母材の機械的特性、表5にHAZ部靭性の試験結果を示す。いずれも本発明の鋼材No.C1〜C3はYS≧700MPa、TS≧780MPaを満足する高い強度を示し、靭性も十分である。さらにHAZ靭性も優れている。
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【実施例3】
【0062】
表1に示す鋼種A19とA25(発明例)の成分組成の鋼材を溶製しスラブとした後、1200℃に加熱し、仕上げ温度870℃、板厚15mmまで熱間圧延を行い、熱間圧延後の冷却は850℃から加速冷却装置により30℃/sの冷却速度で500℃まで冷却した。そして、その後空冷により室温まで冷却した。このようにして得られた鋼板を用いて、実施例1と同様の方法で母材強度、靭性の測定とHAZ部靭性の評価を行った。
表6に母材の機械的特性、表7にHAZ部靭性の試験結果を示す。いずれも本発明の鋼材No.D1、D2はYS≧700MPa、TS≧780MPaを満足する高い強度を示し、靭性も十分である。さらにHAZ靭性も優れている。
【0063】
【表6】

【0064】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、質量%で、C:0.025〜0.050%、Si:0.3%以下、Mn:1.2〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:1.5〜3.5%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.050%、Ni:0.5〜2.0%、N:0.0015〜0.0060%を含有し、更に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物からなることを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れた高強度鋼。
2.3≦(Mn+0.4Cr)≦2.7 ・・・(1)
なお、式中、Mn、Crは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
【請求項2】
請求項1に記載の成分組成を有する鋼を1000℃以上1250℃以下に加熱して熱間圧延し、その後、空冷以上の冷却速度で冷却することを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れた高強度鋼の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の成分組成を有する鋼を1000℃以上1250℃以下に加熱し、熱間圧延した後、水冷する直接焼入れ工程、または、熱間圧延後350℃以下まで冷却した後、870℃以上に再加熱して、水冷する再加熱焼入れ工程と、前記焼入れ後の鋼を450℃以上700℃以下に加熱し、その後、空冷以上の速度で冷却する焼戻し工程とを有することを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れた高強度鋼の製造方法。

【公開番号】特開2012−158784(P2012−158784A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17734(P2011−17734)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】