説明

溶接用裏当金のスペーサー及び溶接方法

【課題】 溶接時に、2つの被溶接部材の向き合わせ部にガスによる空洞が発生し難いし、溶接肉盛りが反対側まで溶け込み易く、しかも、この溶接肉盛りが反対側まで溶け込んだかどうかを確認することのできる溶接用裏当金のスペーサーと、この溶接用裏当金のスペーサーを使用して2つの被溶接部材を溶接する溶接方法を提供する。
【解決手段】 第1の被溶接部材4を第2の被溶接部材2に突き合わせ、この突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをする溶接方法に使用する溶接用裏当金5のスペーサー6であって、第1の被溶接部材4の端部と第2の被溶接部材2の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金5が配設され、第1の被溶接部材4と溶接用裏当金5の間に差込み両者の間隙を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用裏当金のスペーサー及びこの溶接用裏当金のスペーサーを使用して溶接する溶接方法に関する。
特に、鉄骨系のユニット建物を構成する建物ユニットを工場で製造するときに好適な溶接用裏当金のスペーサー及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの被溶接部材を略直角に交わるように溶接する場合には、第1の被溶接部材の端面を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをして第1の被溶接部材と第2の被溶接部材とを溶接している。
このような溶接方法は多くの分野で行われているが、建築業界でも行われている。
更に、鉄骨系のユニット建物を構成する建物ユニットを工場で製造する際には、第1の鉄材の端面を第2の鉄材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部分を溶接する場合が多い。従って、この建築業界でも、ユニット建物にこの溶接方法を採用する場合が多い。
【0003】
即ち、ユニット建物は、運搬可能な一定の大きさの箱形の、且つ、内部外部の仕上げられた建物ユニットと屋根ユニット・屋根パネルとを、予め、工場で製造し、この建物ユニットや屋根ユニット・屋根パネルの複数個を施工現場に運搬し、施工現場で組み立てて建物となるものであって、現場施工期間が短く、且つ、寸法精度のよい標準化された建物となる特徴があることから、近年、多く建てられている。
【0004】
このユニット建物を構成する建物ユニットとしては、種々な構造のものが知られているが、特許文献1に記載されている鉄骨系の建物ユニットが多く採用されている。
この特許文献1に記載されている建物ユニットは、四隅に立設した鋼製の四角筒状体の4本の柱と、この4本の柱の上端部を矩形状の辺に沿って連結した鋼製の断面コ字形長尺体の4本の天井梁と、この4本の柱の下端部を矩形状の辺に沿って連結した鋼製の断面コ字形長尺体の4本の床梁とからなる骨格を有している。
【0005】
そして、建物ユニットは、この骨格の相対する床梁に鋼製の四角筒状体の床小梁を差し渡して取り付け、この床小梁の上に木製の床根太を取り付け、この床根太の上にパーチクルボードの床面材を取り付けて床を形成し、相対する天井梁に木製の天井野縁を差し渡して取り付け、この天井野縁の下面に石膏ボードの天井面材を取り付けて天井を形成するものである。
【0006】
なお、外壁を設ける場所には、天井梁と床梁とに間柱を差し渡して取り付け、この間柱の屋外側に外壁パネルを取り付け、屋内側に内壁パネルを取り付け、この外壁パネルと内壁パネルとの間にガラスウールからなる断熱材を取り付けた外壁が形成されている。
更に必要があれば、間仕切り壁等を取り付ける。
かかる鉄骨系の建物ユニットでは、鋼製の柱に鋼製の天井梁や床梁等の梁を取り付ける場合や、鋼製の床梁に鋼製の床小梁を取り付ける場合に、上記溶接方法が採用されている。
【0007】
特に、骨格を構成する柱と天井梁や床梁等の梁を取り付ける際には、この柱と梁との接合場所には大きな力がかかるので、この大きな力がかかってもよいように、強固に溶接する必要がある。
従って、この柱と梁とを連結するときには、直接、溶接してもよいが、この方法では、溶接部分を強固に溶接することが困難であるので、通常、コ字形のジョイントピースを柱に溶接し、このジョイントピースのコ字形に、断面コ字形の天井梁や床梁を沿わして溶接
している。
【0008】
そして、この鉄骨系のユニット建物では、この建物ユニットを大量生産する必要があるので、通常、溶接部分をロボットで溶接しているが、柱とジョイントピースの相対的位置がずれたとき等では、溶接狙い位置がずれ、溶接できずに、この部分に穴が発生し易い。そして、この穴が発生すると機械的強度が低下するという問題がある。
かかる問題を解決する溶接方法や溶接構造として、特許文献2〜4に記載されている方法や構造が知られている。
【0009】
即ち、この特許文献2に記載されている溶接方法は、2つの被溶接部材を突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に裏当金を当接して隙間を塞ぎ、この裏当金と共に2つの被溶接部材を仮付けした後に、他方からこの突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをするものであり、実施例には、柱にジョイントピースを溶接する方法が記載されている。
この溶接方法によれば、溶接肉盛りする前に、裏当金と2つの被溶接部材を仮付けするので、仮付け作業が一度で済み、手間がかからないし、予め、仮付けしているので2つの被溶接部材の位置ずれを防止することができるし、突き合わせ部の隙間を裏当金で塞いでいるので、溶接時の穴空きを防止することができるという特徴がある。
【0010】
また、特許文献3に記載されている溶接部の構造は、四角筒の長尺金属体とコ型に折り曲げられた金属板を突き合わせ溶接する溶接部の構造の構造において、該長尺金属体の突き合わせ部の形状と該金属板の突き合わせ部の形状とが略合同である溶接部の構造が記載されている。
この溶接部の構造によれば、溶接する2つの金属の突き合わせ部間の間隙を一定に保持することができ良好な溶接構造が得られるという特徴がある。
【0011】
更に、特許文献4に記載されている溶接構造は、溶接用裏当金が被溶接部材から外れないように被溶接部材に設けられた突起により押さえつけられた溶接構造が記載されている。
この溶接構造によれば、被溶接部材に設けられた突起により裏当金が外れないように拘束されているので、2つの被溶接部材を仮付けする際、裏当金の溶接熱変形を防止することができる。
勿論、この溶接方法や溶接構造は柱とジョイントピース以外の建築部材や建築部材以外の材料の溶接にも適用できる。
【特許文献1】特公昭61−42061号公報
【特許文献2】特開2000−237867号公報
【特許文献3】特開平5−154684号公報
【特許文献4】特開平11−180166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献2に記載されている溶接方法では、2つの被溶接部材の突き合わせ部の溶接肉盛りと反対側には、溶接用裏当金があって塞がれているので、溶接時に発生するガスが逃げ難く、このガスが溶接肉盛りの中や溶接肉盛りと柱やジョイントピースとの間に残ったままになりこの溶接部分にガスによる空洞が発生したり、このガスの邪魔やその他の理由で溶接肉盛りが反対側まで十分に溶け込み難く、溶接不良になり易い。
【0013】
また、一方の側に設けられている溶接用裏当金が邪魔して、溶接肉盛りが反対側まで溶け込んだかどうかが確認できないので、確認のためには、溶接用裏当金を剥がして確認する必要があり、極めて困難である。
【0014】
また、上記特許文献3に記載されている溶接部の構造では、溶接する2つの金属の突き合わせ部間の間隙を一定に保持することができ良好な溶接構造が得られるが、長尺金属体の口径や厚みの変更に合わせて金属板の突き合わせ部の形状変更が必要となり費用がかかるという問題がある。
【0015】
また、上記特許文献4に記載されている溶接構造では、溶接用裏当金が被溶接部材から外れないように被溶接部材に設けられた突起により押さえつけられて拘束されているので、2つの被溶接部材を仮付けする際、裏当金の溶接熱変形を防止することができるが、2つの被溶接部材の隙間の大きさや、裏当金の位置を変更するには、被溶接部材のプレス金型を変更する費用がかかっていた。また突起の大きさはプレス金型で小さくできる限界が決まっており、設計の自由度が小さいという問題があった。
【0016】
そこで、本発明は、溶接時に、2つの被溶接部材の突き合わせ部にガスによる空洞が発生し難いし、溶接肉盛りが反対側まで溶け込み易く、しかも、この溶接肉盛りが反対側まで溶け込んだかどうかを確認することができ、2つの被溶接部材の間の隙間を形成することができる溶接用裏当金のスペーサーと、この溶接用裏当金のスペーサーを使用して2つの被溶接部材を溶接する溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであって、請求項1記載の発明は、第1の被溶接部材を第2の被溶接部材に突き合わせ、この突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをする溶接方法に使用する溶接用裏当金のスペーサーであって、第1の被溶接部材の端部を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合せ部の一方の側に溶接用裏当金が配設され、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間に差込み両者の間隙を規定することを特徴とするものである。
【0018】
この請求項1記載の発明の溶接用裏当金のスペーサーは、溶接用裏当金を第1の被溶接部材と第2の被溶接部材の突き合わせ部一方の側に配置するときに、この第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間に差し込み両者の間に規定の隙間が生ずるようにするものである。
従って、溶接用裏当金のスペーサーは厚さ1〜4mm程度の板状のものが好ましく、2〜3mmがより好ましい。スペーサーの厚さが1mm未満では第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間の隙間が狭すぎて溶接金属を直接観察することが困難であり、スペーサーの厚さが4mm以上では第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間の隙間が広すぎて溶接用裏当金の機能を十分発揮することができない。
【0019】
また、スペーサーの形状は第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間の形状に沿う形状であればいかなる断面形状でもよい。例えば、コ字形のジョイントピースの端面を柱の表面に向き合わせ溶接する場合には、溶接用裏当金は、この向き合わせ部に沿うようにコ字形に折曲した形状になされている場合、溶接用裏当金と同様なコの字状の断面形状でもよく、溶接用裏当金の半分のL字状の断面形状でもよく、或いは板状で、数個をL字状やコの字状に並べてもよい。また、スペーサーは第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間の隙間の全てに配置されていなくともよい。例えば、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間の隙間のコの字状の形状を半分にした片側のL字状部分にのみ配置されてもよく、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間の隙間の適宜の位置に1個〜数個配置されてもよい。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の溶接用裏当金のスペーサーは丸棒又は丸筒の溶接用裏当金に適用されることを特徴とするものである。
【0021】
特に、この丸棒または丸筒の断面が円弧状になっているので、溶接部材との接触面積を小さくし、溶接時に発生するガスが逃げやすいので好ましい。
また、この溶接用裏当金の全体の形状は被溶接部材の向き合わせ部に沿う形状であれば適宜でよい。例えば、コ字形のジョイントピースの端面を柱の表面に向き合わせ溶接する場合には、溶接用裏当金は、この向き合わせ部に沿うようにコ字形に折曲した形状でもよい、直線状の形状であって、この直線状の溶接用裏当金の3個を辺に沿ってコ字形に配置するようにしてもよい。
【0022】
請求項3記載の発明は、第1の被溶接部材の端面を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金を配設し、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間にスペーサーを差込み、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金を仮付けし、その後スペーサーを除去した後に、他方の側からこの突き合せ部に沿って溶接肉盛りをして第1の被溶接部材と第2の被溶接部材とを溶接することを特徴とするものである。
【0023】
この請求項3記載の発明のスペーサーは第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金を仮付けした後、除去するので、スペーサーの厚さに相当する隙間が生じる。このため、この溶接用裏当金の側からこの隙間を通して他方の側を見ることができ、他方側から溶接金属による溶接時に発生するガスがこの隙間を通って逃げるし、溶融した溶融金属がこのガスに邪魔されることなく隙間の中に進入し溶け込みが十分に行われて、溶接が良好に行われるし、溶接用裏当金側からは溶接用金属のはみ出し状況等の溶接裏面部の溶け込みを溶接用裏当金を外さずに確認できる。
【0024】
この請求項3記載の発明では、仮付けしているが、この仮付けとは、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金の相互の位置を固定することであり、固定具で固定してもよいし、1ヵ所または数カ所というように少ない場所を溶接して移動しないように固定してもよい。後者が、簡単であるので好ましい。
【0025】
更に、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金がそれぞれ相互に仮付けされてもよいし、第1の被溶接部材と第2の被溶接部材とが仮付けされ、この第1の被溶接部材または第2の被溶接部材に溶接用裏当部材が仮付けされていてもよいし、第2の被溶接部材に溶接用裏当金が仮付けされ、この第2の被溶接部材または溶接用裏当金に第2
の被溶接部材が仮付けされてもよいし、第1の被溶接部材に溶接用裏当金が仮付けされ、この第1の被溶接部材または溶接用裏当金に第2の被溶接部材が仮付けされてもよい。
【0026】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の溶接方法に係り、前記第2の被溶接部材が建物ユニットの四角筒状の柱であり、前記第1の被溶接部材が、この柱に建物ユニットの断面コ字形長尺体の梁を連結するために設けるジョイントピースであり、このジョイントピースは、梁のコ字形に沿う2つのフランジとウエブとからなるコ字形短尺体である。
【0027】
この請求項4記載のジョイントピースは、2つのフランジと、この2つのフランジを繋ぐウエブとからなるコ字形短尺体であり、この短尺体の端面を、柱の面に突き合わせるのであるが、通常、ジョイントピースを取り付ける柱の側面の幅は、梁のフランジ面の幅より大きいので、ジョイントピースの2個のフランジの柱に当接する端面を梁に当接する端面より広くすると、ジョイントピースと柱との接触面積が大きくなり、溶接時に、この部分の機械的強度を大きくすることができる。従って、この2個のジョイントピースとしては、フランジを柱の方向に次第に広くした形状が好ましい。
(作用)
【0028】
請求項1記載の発明では、第1の被溶接部材を第2の被溶接部材に突き合わせ、この突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをする溶接方法に使用する溶接用裏当金のスペーサーであって、第1の被溶接部材の端部を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金が配設され、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間にスペーサーを差込むので、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間にスペーサーの厚みに相当する隙間が生じる。従って、溶接時に発生するガスがこの隙間を通って逃げるし、溶融した溶接用金属がこのガスに邪魔されることなく隙間の中に浸入して溶け込みが十分に行われて、溶接が良好に行われるし、溶接用裏当金のスペーサーの厚みに相当する隙間からはみ出た溶接用金属を見たり、棒を突っ込んで溶け込みが十分であるかどうかを確認することができる。
【0029】
この溶接用裏当金のスペーサーの一使用方法を説明しながら、更に詳細に説明する。
即ち、この溶接用裏当金のスペーサーを使用して溶接する一方法は、まず、第2の被溶接部材の表面に第1の被溶接部材の端面と溶接用裏当金を配置し、第1の被溶接部材の端面と溶接用裏当金との間に規定の隙間を設けるため、スペーサーを差し込む。
すると、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間に規定の隙間が生じ、スペーサーを取れば、溶接用裏当金を取り除くことなく、溶接裏面部への溶接の溶け込み(裏波)が観察できる。
【0030】
次に、この突き合わせ部の他方の側から突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをするが、このときに発生するガスはこの隙間を通って逃げ、溶接部分のガスの発生による空洞が少なくなるし、この溶接棒の溶融した金属が突き合わせ部の隙間の中に浸入し、溶け込みが十分に行われ、第1の被溶接部材と第2の被溶接部材との溶接強度が大きくなる。
【0031】
また、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間から出た溶接用金属を見たり、隙間の中に浸入した溶接用金属を覗いて見たり、隙間の中に棒を突っ込んで溶け込みが十分であるかどうかを確認することができる。
このように、請求項1記載の溶接用裏当金のスペーサーを使用することによって、溶接が良好に行われるし、溶接が十分に行われているかどうかを確認することができる。
【0032】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の溶接用裏当金のスペーサーは丸棒又は丸筒の溶接用裏当金に適用される。このため、溶接用裏当金の断面が円弧状になっているので、溶接部材との接触面積を小さくし、溶接時に発生するガスが逃げやすく、溶接が十分に行われる。
【0033】
請求項3記載の発明では、第1の被溶接部材の端面を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金を配設し、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間にスペーサーを差込み、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金を仮付けし、その後スペーサーを除去した後に、他方の側からこの突き合せ部に沿って溶接肉盛りをして第1の被溶接部材と第2の被溶接部材とを溶接するので、第1の被溶接部材の端面と溶接用裏当金との間にスペーサーの厚さ分の隙間が確保される。
【0034】
従って、この突き合わせ部の他方の側から突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをするときに発生するガスがこの隙間を通って逃げるし、この溶接棒の溶融した金属が突き合わせ部の隙間の中に浸入し、第1の被溶接部材と第2の被溶接部材との溶接強度が大きくなる。
また、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の隙間から溶け出た溶接用金属を見たり、隙間に浸入している溶接用金属を隙間から覗いて見たり、棒を突っ込んで溶け込みが十分であるかどうかを確認することができる。
【0035】
また、請求項3記載の発明では、第1の被溶接部材の端面を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金を配設し、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間にスペーサーを差込み、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金を仮付けされている。
【0036】
従って、溶接肉盛りをするときに、この第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金等を固定する必要がなく溶接し易いし、寸法精度よく溶接することができる。
このように寸法精度よく溶接することができるので、この溶接方法を鉄骨系の建物ユニットに適用すると、寸法精度のよい建物ユニットを製造することができ、工場で大量生産する建物ユニットの生産に適しているし、ユニット建物の寸法精度のよいという特徴を発揮することができる。
【0037】
請求項4記載の発明では、請求項3記載の溶接方法に係り、前記第2の被溶接部材が建物ユニットの四角筒状の柱であり、前記第1の被溶接部材が、この柱に建物ユニットの断面コ字形長尺体の梁を連結するために設けるジョイントピースであり、このジョイントピースは、梁のコ字形に沿う2つのフランジとウエブとからなるコ字形短尺体であるので、前記請求項3記載の発明の作用の項で説明したように、建物ユニットの柱とジョイントピースとを強固に溶接することができるし、溶接が十分であるかどうかを確認できる。
従って、この溶接構造でジョイントピースを柱に溶接した建物ユニットの骨格の機械的強度が大きく、しかも、不良品も少ない。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、第1の被溶接部材を第2の被溶接部材に突き合わせ、この突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをする溶接方法に使用する溶接用裏当金のスペーサーであるから、第1の被溶接部材の端部を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金が配設され、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間にスペーサーを差込むので、第1の被溶接部材と溶接用裏当金との間にスペーサーの厚みに相当する隙間が生じる。従って、溶接時に発生するガスがこの隙間を通って逃げるし、溶融した溶接用金属がこのガスに邪魔されることなく隙間の中に浸入して溶け込みが十分に行われて、溶接が良好に行われるし、溶接用裏当金のスペーサーの厚みに相当する隙間からはみ出た溶接用金属を見たり、棒を突っ込んで溶け込みが十分であるかどうかを確認することができる。
【0039】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の溶接用裏当金のスペーサーは丸棒又は丸筒の溶接用裏当金に適用される。このため、溶接用裏当金の断面が円弧状になっているので、溶接部材との接触面積を小さくし、溶接時に発生するガスが逃げやすく、溶接が十分に行われる。
【0040】
請求項3記載の発明は、第1の被溶接部材の端面を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金を配設し、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間にスペーサーを差込み、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金を仮付けし、その後スペーサーを除去した後に、他方の側からこの突き合せ部に沿って溶接肉盛りをして第1の被溶接部材と第2の被溶接部材とを溶接するから、第1の被溶接部材の端面と溶接用裏当金との間にスペーサーの厚さ分の隙間が確保される。
【0041】
従って、この突き合わせ部の他方の側から突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをするときに発生するガスがこの隙間を通って逃げるし、この溶接棒の溶融した金属が突き合わせ部の隙間の中に浸入し、第1の被溶接部材と第2の被溶接部材との溶接強度が大きくなる。
また、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の隙間から溶け出た溶接用金属を見たり、隙間に浸入している溶接用金属を隙間から覗いて見たり、棒を突っ込んで溶け込みが十分であるかどうかを確認することができる。
【0042】
また、請求項3記載の発明は、第1の被溶接部材の端面を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金を配設し、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間にスペーサーを差込み、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金を仮付けされている。
【0043】
従って、溶接肉盛りをするときに、この第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金等を固定する必要がなく溶接し易いし、寸法精度よく溶接することができる。
このように寸法精度よく溶接することができるので、この溶接方法を鉄骨系の建物ユニットに適用すると、寸法精度のよい建物ユニットを製造することができ、工場で大量生産する建物ユニットの生産に適しているし、ユニット建物の寸法精度のよいという特徴を発揮することができる。
【0044】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の溶接方法に係り、前記第2の被溶接部材が建物ユニットの四角筒状の柱であり、前記第1の被溶接部材が、この柱に建物ユニットの断面コ字形長尺体の梁を連結するために設けるジョイントピースであり、このジョイントピースは、梁のコ字形に沿う2つのフランジとウエブとからなるコ字形短尺体であるので、前記請求項3記載の発明の作用の項で説明したように、建物ユニットの柱とジョイントピースとを強固に溶接することができるし、溶接が十分であるかどうかを確認できる。
従って、この溶接構造でジョイントピースを柱に溶接した建物ユニットの骨格の機械的強度が大きく、しかも、不良品も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例で説明する。
図1〜図8は本発明をユニット建物に適用した一実施例であって、図1は、ユニット建物を示す斜視図、図2は、建物ユニットを示す一部切欠斜視図、図3は、ジョイントピースが取り付けられた柱に梁(天井梁)を挿入している状態を示す斜視図、図4はジョイントピースが柱に取り付けられた形状を示す斜視図、図5は、溶接用裏当金を示す正面図、図6は溶接用裏当金のスペーサーを示すものであって、(a)はスペーサーの正面図、(b)はスペーサーの断面図、図7は、溶接工程を示すものであって、(a)は、柱、ジョイントピース、溶接用裏当金を仮溶接した状態を示す正面図、(b)はスペーサーを取り除いてジョイントピースに溶接肉盛りをしている状態を示す斜視図、図8は、柱とジョイントピースの溶接部分の状態を示す断面図である。
【0046】
図1〜図8において、ユニット建物Hは、図1に示すように、基礎99の上に9個の建物ユニット1が据え付けられて1階が形成され、この1階の建物ユニットの上に9個の建物ユニット1が据え付けられて2階が形成され、この2階の建物ユニットの上に屋根パネル9が取り付けられたものである。
【0047】
この建物ユニット1は、図2に示すように、矩形状の四隅に立設された4本の鋼製の四角筒状の柱2と、この4本の柱の下端部を矩形の辺に沿って連結された鋼製の断面コ字形長尺体の床梁3−1と、この4本の柱の上端部を矩形の辺に沿って連結された鋼製の断面コ字形長尺体の天井梁3−2とからなる骨格を有する。
【0048】
そして、この建物ユニット1は、相対する床梁3−1に鋼製の四角筒状の床小梁14が差し渡され、この床小梁14の上に木製の床根太15が取り付けられ、この床根太15の上にパーチクルボードの床面材16が取り付けられて床が形成され、相対する天井梁3−2に木製の天井野縁17が取り付けられ、この天井野縁17の下面に石膏ボードの天井面材18が取り付けられて天井が形成されたものである。
【0049】
外壁を設ける場所には、床梁3−1と天井梁3−2との間柱19が差し渡されて取り付けられ、この間柱19の屋外側に、図示しない外壁パネルが取り付けられ、屋内側に図示しない内壁パネルが取り付けられ、この外壁パネルと内壁パネルの間に図示しないガラスウールの断熱材が取り付けられている。
【0050】
更に、必要な場所には間仕切りパネルが取り付けられて部屋が形成される。
この床梁3−1や天井梁3−2等の梁3が柱2に取り付けられた接合構造は、図3に示すように、ジョイントピース4が柱2に取り付けられ、このジョイントピース4に梁3が取り付けられている。
この際に使用するジョイントピース4は梁3の断面コ字形を形成する略平行な2個のフランジ31の外側に沿う2個のフランジ41と、梁のウエブ32の外側に沿うウエブ42とからなる。
【0051】
そして、このジョイントピース4と柱2の接合構造は、図4に示すように、第1の被溶接部材であるジョイントピース4の端面が第2の被溶接部材である柱2の表面に向き合わされ、この向き合わせ部の一方の側であるジョイントピース4のコ字形の内側に溶接用裏当金5が配置され、他方の側であるジョイントピース4のコ字形の外側からこの向き合わせ部に沿って溶接肉盛り8された構造をしている。
【0052】
この際に使用する溶接用裏当金5は、図5に示すように、断面円形の長尺体をコ字形に折曲した丸棒である。溶接用裏当金5とジョイントピース4の隙間を規定するスペーサー6は、図6(a)、(b)に示すように、断面がL字状に折れ曲がった片61,62からなり、厚さ(h1)が約2mmのものである。
【0053】
次に、このユニット建物の施工方法と、柱2にジョイントピース4を接合した接合構造の作用について説明する。
工場で、建物ユニット1、屋根パネル2等を製造する。
この際の建物ユニット1の製造方法と柱2にジョイントピース4を取り付ける方法の作用について説明する。
【0054】
先ず、柱2を溶接面を上にして略水平に置き、図7(a)に示すように、溶接用裏当金5を配置し、その外側に第1の被溶接部材であるジョイントピース4の端面を第2の被溶接部材である柱2の表面に突き合わせ、この溶接用裏当金5とジョイントピース4の間の隙間を規定するためスペーサー6を差し込み、溶接用裏当金5の両端部分とコの字状の中央部とジョイントピース4のコーナー部及び中央部のP1を溶接して、このジョイントピース4と溶接用裏当金5とを柱2に仮付けする。
次に、図7(b)に示すように,スペーサー6を取り除くと、溶接用裏当金5とジョイントピース4の間の隙間h1が生じる。そしてジョイントピース4の他方の側であるコ字形の外側からこの向き合わせ部に沿って溶接肉盛り8をする。
【0055】
図8に示すように、この溶接肉盛り8をするときには、ガスが発生するが、このガスは、溶接用裏当金5とジョイントピース4の間の隙間や溶接用裏当金5の下部から、矢印Xで示すように、外側に逃げる。この様子は、溶接用裏当金5を取り除くことなく、溶接用裏当金5とジョイントピース4の間の隙間から矢印Yで示すように、容易に確認でき、その結果、溶接部分のガスの発生による空洞も少なくなる。
また、この溶接棒の溶融した金属は、ガス等に邪魔されることなく、溶接用裏当金5とジョイントピース4の間の隙間の中に入る。そして、図8に示すように、溶接用裏当金5の下面側から外側に出ることもあるし、溶接用裏当金5とジョイントピース4の間の隙間通って溶融した金属が外側に出てくる場合もあるが、いずれにしても、溶け込みが十分に行われ、ジョイントピース4と柱2の溶接強度が大きい。
【0056】
なお、溶融した溶接用金属が溶接用裏当金5とジョイントピース4との間から出ている場合には、矢印Yの方向から、この溶接用金属を見たり、溶接用裏当金5とジョイントピース4間から棒を入れて溶接用金属を確認することにより、溶け込みが十分であるどうかを検査することができる。
また、溶接肉盛り8するときには、既に、柱2とジョイントピース4と溶接用裏当金5は仮止めされていて、所定位置に移動しないように固定されていて、この柱2や第ジョイントピース4溶接用裏当金5を保持する必要がなく溶接し易いし、寸法精度よく溶接することができる。
【0057】
このようにして柱11の上端部と下端部にジョイントピース4を取り付ける。
そして、このようにジョイントピース4が取り付けられた柱2を矩形状の四隅に立設し、図3に示すように、この4本の柱2の下端部に取り付けられているジョイントピース4のコ字形の中に鋼製の断面コ字形長尺体の梁3である床梁3−1を挿入し、このジョイントピース4と床梁3−1を溶接して床梁3−1を矩形の辺に沿って連結し、この4本の柱2の下端部に取り付けられているジョイントピース4のコ字形の中に鋼製の断面コ字形長
尺体の梁3である天井梁3−2を挿入し、このジョイントピース4と天井梁3−2を溶接して天井梁3−2を矩形の辺に沿って連結して、建物ユニット1の骨格を製造する。
【0058】
そして、この相対する床梁3−1に鋼製の四角筒状の床小梁14を差し渡し、この床小梁14と床梁12とを溶接して取り付け、この床小梁14の上に床根太15を取り付け、この床根太15の上に床面材16が取り付けて床を形成し、相対する天井梁3−2に天井野縁17を差し渡して取り付け、この天井野縁17の下面に石膏ボードの天井面材18を取り付けて天井を形成する。
【0059】
更に、必要な場所には外壁を設けたり、間仕切りパネルを取り付けたり、その他種々な仕上げを行うと建物ユニット1が完成する。
このようにして製造した建物ユニット1、屋根パネル9等を施工現場に運搬し、施工現場では、予め設けられている基礎99の上に9個の建物ユニット1を据え付けて1階を形成し、この1階の建物ユニット1の上に9個の建物ユニット1を据え付けて2階を形成し、この2階の建物ユニット1の上に屋根パネル9を取り付け、種々な仕上げを行うとユニット建物Hが完成する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
この実施例では、建物ユニットの柱とジョイントピースの溶接について説明したが、その他の部材、例えば、床梁と床小梁の溶接にも適用できる。また、建物ユニット以外の建築物にも適用できるし、建築物以外の部材の溶接にも適用できる。
また、溶接用裏当金のスペーサーに断面L字状に折り曲げた板を使用したが、第1の被溶接部材と第2の被溶接部材の突合せ部に沿って配設される溶接用裏当金の形状に合わせて適宜断面形状の板体であればよい。例えば、直線状の板体を複数個使用されてもよい。
また、溶接して仮止めしたが、この仮止めは他の固定具で固定させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施例であるユニット建物を示す斜視図である。
【図2】建物ユニットを示す一部切欠斜視図である。
【図3】ジョイントピースが取り付けられた柱に梁(天井梁)を挿入している状態を示す斜視図である。
【図4】ジョイントピースが柱に取り付けられた形状を示す斜視図である。
【図5】溶接用裏当金の正面図である。
【図6】溶接用裏当金のスペーサーであって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図7】溶接工程を示すものであって、(a)は、柱、ジョイントピース、溶接用裏当金をスペーサーを差し込んで仮溶接した状態を示す正面図、(b)はスペーサーを取り除いてジョイントピースに溶接肉盛りをしている状態を示す斜視図である。
【図8】柱にジョイントピースを溶接した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 建物ユニット
2 第2の被溶接部材(柱)
3 梁
3−1 床梁
3−2 天井梁
4 第1の被溶接部材(ジョイントピース)
5 溶接用裏当金
6 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被溶接部材を第2の被溶接部材に突き合わせ、この突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをする溶接方法に使用する溶接用裏当金のスペーサーであって、第1の被溶接部材の端部を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金が配設され、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間に差込み両者の間隙を規定することを特徴とする溶接用裏当金のスペーサー。
【請求項2】
丸棒又は丸筒の溶接用裏当金に用いられることを特徴とする請求項1記載の溶接用裏当金のスペーサー。
【請求項3】
第1の被溶接部材の端面を第2の被溶接部材の表面に突き合わせ、この突き合わせ部の一方の側に溶接用裏当金を配設し、第1の被溶接部材と溶接用裏当金の間にスペーサーを差込み、第1の被溶接部材、第2の被溶接部材及び溶接用裏当金を仮付けし、その後スペーサーを除去した後に、他方の側からこの突き合わせ部に沿って溶接肉盛りをして第1の被溶接部材と第2の被溶接部材とを溶接することを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
前記第2の被溶接部材が建物ユニットの四角筒状の柱であり、前記第1の被溶接部材が、この柱に建物ユニットの断面コ字形長尺体の梁を連結するために設けるジョイントピースであり、このジョイントピースは、梁のコ字形に沿う2つのフランジとウエブとからなるコ字形短尺体であることを特徴とする請求項3記載の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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