説明

溶接組立てBOX柱

【課題】耐震性を要求される建築構造物用柱部材として好適な内ダイヤフラム形式の溶接組立てBOX柱を提供する。
【解決手段】BOX柱1の外周面のうち梁が取り付けられる面または該面に対向する面の少なくとも一面は、ダイヤフラム3を挟むようにスキンプレートが分割21,22,23され、前記ダイヤフラムと前記スキンプレートは当接する個所が溶接され、分割されたスキンプレート間に挟まれるダイヤフラムの外辺31が、前記スキンプレートの外表面と同一高さで、ダイヤフラムの外辺に、BOX柱の角溶接用開先bが設けられ、スキンプレートが引張強さ540N/mm以上の鋼板で、ダイヤフラムは前記スキンプレートと同等以上の引張強さで、ダイヤフラムとスキンプレートを入熱150kJ/cm以下で溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内ダイヤフラム形式の溶接組立てBOX柱に関し、特に耐震性を要求される建築構造物用柱部材として好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
超高層建築物に用いられる大断面柱には内ダイヤフラム形式の溶接組立てBOX柱が用いられることが多い。
【0003】
図6は内ダイヤフラム形式の溶接組立てBOX柱による柱梁接合部の部分透視図を示し、BOX柱100は柱スキンプレート101の内部で、梁200の上下のフランジ部が取り付けられる位置に、ダイヤフラム400を溶接する。
【0004】
溶接はエレクトロスラグ溶接で、ダイヤフラム400の両側に裏当金500を取り付けて開先を構成する。BOX柱100の外周部は柱スキンプレート101が組合わされる角部にサブマージアーク溶接部300を形成して構成する。
【0005】
図5は内ダイヤフラム形式の溶接組立てBOX柱で溶接される個所を示す模式図で、ダイヤフラム400と柱スキンプレート101を取り付けるエレクトロスラグ溶接部600、柱スキンプレート101の角継手に形成されるサブマージアーク溶接部300を示す。
【0006】
図7は、ダイヤフラム400と柱スキンプレート101のエレクトロスラグ溶接部を示し、超高層建築物の柱部材の場合、溶接入熱は500〜1500kJ/cmとなり、溶接金属700の一部は柱スキンプレート101に溶け込み、HAZ800の外周部は柱スキンプレートで20〜500mm程度の深さに達する。
【0007】
そのため、溶接後の熱収縮により柱スキンプレート101と裏当金500との間にノッチ状の空隙部g1、g2が発生し、地震時に梁からの材軸応力による曲げモーメントが作用して柱梁接合部が破断される場合がある。図は空隙部g1の先端部がダイヤフラム400から距離l1で位置していることを示す。
【0008】
上述したように、内ダイヤフラム形式の溶接BOX柱は組立て工程が複雑で、且つ大型となるとエレクトロスラグ溶接の入熱量の増加に伴い溶着金属および鋼材の熱影響部の靭性が低下し、破壊の危険性が増大する。
【0009】
また、溶接BOX柱に高張力鋼を使用する場合、入熱の大きなエレクトロスラグ溶接で、健全な溶接部を得るため、高度な材質設計や溶接条件の選定が必要とされる。
【0010】
特許文献1は、鋼柱の製造方法に関し、鋼柱を構成する側板101の少なくとも1枚にスロット900を設け、一方、ダイヤフラム400には該スロットに対応する差込部1000を設けて、該差込部1000を前記スロット900に嵌合させながら側板101とダイヤフラム400を溶接することが記載されている(図8)。
【0011】
特許文献1記載の発明によれば、ダイヤフラム400は側板101に対し、正確な位置決めが可能で、両者の溶接は嵌合部のみであっても良く、且つ、外側から溶接することが可能なため、機械化が容易である。
【0012】
特許文献2は、耐破壊特性に優れたエレクトロスラグ溶接継手の製造方法に関し、裏当金と柱スキンプレートが当接する部分に、溶接後、空隙が生じないように、裏当金側に開先を設けて溶接することが記載されている。
【0013】
特許文献2記載の発明によれば、裏当金と柱スキンプレートが溶接されているので、ダイヤフラムを柱スキンプレートにエレクトロスラグ溶接しても、溶接後に両者の間に空隙が生じることはなく耐震性に優れた柱梁接合部が得られる。
【特許文献1】特公昭50−21424号公報
【特許文献2】特開平8−155661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1記載の方法は、ダイヤフラムとスキンプレートの両者に加工が必要で、特許文献2記載の方法も裏当金の開先加工を必要とし、いずれも製作コストを上昇させる。
【0015】
特に、特許文献1記載の方法は、スキンプレートのスロットにダイヤフラムを差込んだ状態で溶接を行うため、スロット角部において溶接欠陥を生じやすい。
【0016】
更に、ダイヤフラムに差し込み部を加工するため、スカラップの寸法が大きくなり、該スカラップにより梁から柱への応力の伝達が阻害され、柱スキンプレートの隅角部内側に大きな引張り応力が生じるようになり、上述した溶接欠陥と共に柱が脆性破壊される可能性を増大させる。
【0017】
そこで、本発明はスキンプレートやダイヤフラムに複雑な前加工が必要でなく、且つエレクトロスラグ溶接を用いずに組立てが可能な内ダイヤフラム形式の溶接BOX柱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の課題は以下の手段により達成される。
1.ダイヤフラムを内部に取り付ける溶接組立てBOX柱であって、前記BOX柱の外周面のうち梁が取り付けられる面または該面に対向する面の少なくとも一面は、ダイヤフラムを挟むようにスキンプレートが分割され、前記ダイヤフラムと前記スキンプレートは当接する個所が溶接されていることを特徴とする溶接組立てBOX柱。
【0019】
2.分割されたスキンプレート間に挟まれるダイヤフラムの外辺が、前記スキンプレートの外表面と同一高さであることを特徴とする1記載の溶接組立てBOX柱。
【0020】
3.分割されたスキンプレート間に挟まれるダイヤフラムの外辺に、BOX柱の角溶接用開先が設けられていることを特徴とする2記載の溶接組立てBOX柱。
【0021】
4.スキンプレートが引張強さ540N/mm以上の鋼板で、ダイヤフラムは前記スキンプレートと同等以上の引張強さであることを特徴とする1乃至3のいずれか一つに記載の溶接組立てBOX柱。
【0022】
5.ダイヤフラムとスキンプレートを入熱150kJ/cm以下で溶接することを特徴とする1乃至4のいずれか一つに記載の溶接組立てBOX柱。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、柱の外周面のうち、3面のスキンプレートに逐次ダイヤフラムを溶接し、最後の1面は当該ダイヤフラムを挟むように分割したスキンプレートで形成するので、以下の効果が得られる。
1. スキンプレートとダイヤフラムの溶接にエレクトロスラグ溶接を用いずに、入熱150kJ/cm以下の小入熱で溶接することが可能である。
2. その結果、溶接欠陥が少なく、溶接熱変形のない寸法精度の高い溶接BOX柱が得られ、建築構造物において設計性能が保証される。
3. また、高張力鋼の使用が容易となり、超高層建築構造物の設計の自由度が増大する。4. ダイヤフラムの板厚により溶接条件が選定され、より板厚が薄いスキンプレートにおいて溶け落ちなどの溶接欠陥が発生しやすいCFT用BOXコラムの製造が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
【0025】
図1に、本発明の一実施形態に係る内ダイヤフラム形式の溶接BOX柱の外観図を、図2にその内部構造を示す。両図において、1は溶接BOX柱、2a,2b,2c,2dはスキンプレート、3はダイヤフラム、21、22、23はダイヤフラム3を挟むように分割されたスキンプレート2dの分割プレート、31はダイヤフラム3の外辺、aはダイヤフラム3を分割スキンプレート21、22、23に外面溶接するための開先で分割スキンプレート側に加工されたもの、bは、スキンプレート2b、2dの角継手溶接用開先で、スキンプレート2b、2dの柱軸方向の両端部と、ダイヤフラム3でスキンプレート22、23(21)に挟み込まれる外辺31の両端部に加工されるもの、Cはダイヤフラム3とスキンプレート2a,2b,2cを溶接するための開先でダイヤフラム3側に加工されるものを示す。
【0026】
図示した溶接BOX柱1は、2枚のダイヤフラム3を有し、柱外周面を形成する四面のスキンプレート2a,2b,2c,2dのうち、梁が取り付けられる面または該面に対向する面(本図ではスキンプレート2d)を、2枚のダイヤフラム3の両側から挟み込めるように、分割し、分割スキンプレート21,22,23とする。2枚のダイヤフラム3は梁フランジ(図では省略)の間隔に配置する。
【0027】
ダイヤフラム3の外辺31はその両側の分割スキンプレート22と21(23)の間から柱外周面に露出し、通しダイアフラムとなるので、分割スキンプレートの外表面に開先aを加工し、BOX柱の外側からこれら分割スキンプレートとダイヤフラム3を溶接する。尚、開先aは,外辺31に加工してもよい。
【0028】
ダイヤフラム3は、外辺31を除く残りの3辺に開先Cが加工され、BOX柱の内部において、スキンプレート2a,2b,2cと溶接される。
【0029】
本発明に係るBOX柱では、梁が取り付けられる面または該面に対向する面を分割するので、ダイヤフラム3の外辺31の両端には、BOX柱の外周面を形成するために隣り合うスキンプレート2dとスキンプレート2a(2c)を柱軸方向に溶接する角継手溶接用開先bを加工する。
【0030】
図3は本発明に係る溶接BOX柱のダイヤフラムの取り付け方法例を示す図で、図において4は1/4円弧形状のスカラップを示し(その他の符号は図1と同じものを指す)、(a)はスカラップ4を設けない場合、(b)はスカラップ4を設けた場合を示す。
【0031】
尚、本発明ではダイヤフラム3の外辺31の、分割スキンプレートの外表面に対する高さは特に規定しない。外辺31を分割スキンプレート21(22、23)の外表面と同じ高さとなるようにすると、梁フランジの取り付けが容易で好ましい。
【0032】
外辺31の高さを分割スキンプレートの外表面より低くし、梁フランジ先端部を差込式にしたり、外辺31を分割スキンプレートの外表面から突出させることも可能である。
【0033】
図4は本発明に係るBOX柱の組立て手順の一例を示す図で、図において5は角継手溶接用の裏あて金(25x25mmの角材)、fはダイヤフラム3とスキンプレート2a(2b,2c)の溶接部、hは角継手溶接部、gはスキンプレート2dの外表面、その他で図1と同じ符号は同じものを指す。
【0034】
まず、角継手溶接用の、角度θの開先bを幅方向両端部に設けたスキンプレート2bを水平面に置き(a)、スキンプレート2bの長手方向で所定の位置にダイアフラム3を仮付け溶接する。
【0035】
ダイヤフラム3には、外辺31の両端部に角継手溶接用の、角度θの開先bを、その他の3辺にはスキンプレートに溶接するための開先cを加工しておく。
【0036】
ダイヤフラム3とスキンプレート2bは100%CO2ガスをシールドガスに用いたMAG溶接(以下CO2溶接)を用いて両面溶接(片側から溶接し、裏面をガウジングした後、反対側を溶接する)を行う(b)。
【0037】
次に、角継手溶接用の裏あて金(角材)5をスキンプレート2bの両側に取り付け、両側のスキンプレート2c,2aを立て込み、角溶接用の裏あて金5とダイアフラム3とを仮付け溶接する(c)。
【0038】
次に、コの字形の組立て材を90度回転させ、下向きCO2溶接によりスキンプレート2aとダイアフラム3を(b)と同様に溶接する(d)。次に反転させ同様に溶接する(e)。
【0039】
次に外辺31がスキンプレート2d(21,22,23)に挟まれる面を上にして、角継手溶接の裏当て金5及びダイアフラム3とスキンプレート2d(21,22,23)の溶接部の裏当て金(図では省略)を所定の位置にセットし、仮付け溶接を行う。
【0040】
角継手溶接の裏当て金5はダイアフラム3と通しとなるよう柱軸方向に3分割する。この際、ダイアフラム3とスキンプレートのCO2溶接のビードと裏当て金5が干渉しないようグランダー仕上げを行うことが望ましい。
【0041】
その後、分割スキンプレート21,22,23に3分割されているスキンプレート2dをセットし、仮付け溶接を行う。この際、外辺31とスキンプレート2d(21,22,23)の外表面gが一致するように、ダイヤフラム3の高さを調整する。
【0042】
分割スキンプレート21,22,23とダイアフラム3を下向きCO2溶接により接合する。最後にスキンプレート2dと2a(2c)、スキンプレート2bと2a(2c)を溶接する角継手溶接をサブマージ溶接で行う(f)。角継手を溶接する順番は特に規定しない。
【0043】
本発明に係る溶接BOX柱をスキンプレート、ダイアフラムに鋼種SA440を用い、□−500X500X25 長さ5000(mm)で製作する場合、スキンプレートの開先角度は35度、ダイアフラムの板厚は25mm、幅方向の開先角度も35度、台形の切り欠きの上底部は5mmで高さは25mm、他の3辺の板厚方向にはK開先とし開先角度は45度とした。角は半径35mmの1/4円のスカラップとし、裏当金は25mm×25mmの角材とすることが望ましい。
【0044】
上述したように、本発明に係る溶接BOX柱は、柱外周面の一面においてダイヤフラムを柱の外面側からスキンプレートに溶接可能とし、スキンプレートにダイヤフラムを取り付ける溶接を、全て開放空間で可能とする構造を特徴とする。そのため、エレクトロスラグ溶接を用いずにダイヤフラムとスキンプレートの組立て溶接が可能となる。
【0045】
本発明に係るBOX柱の組み立てにおいて最も入熱が大きくなる角継手溶接のサブマージ溶接でも入熱は15万J/cm程度であり、引張強さ540N/mm以上の高張力鋼を用いた場合でも溶接部の靭性低下が抑制され耐震性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る内ダイヤフラム形式の溶接BOX柱の外観図。
【図2】図1に示した溶接BOX柱の内部構造を示す図。
【図3】本発明に係る溶接BOX柱におけるダイヤフラムの取り付け例を示す図。
【図4】本発明に係るBOX柱の組立て手順の一例を示す図。
【図5】従来例。
【図6】従来例。
【図7】ダイヤフラムとスキンプレートのエレクトロスラグ溶接部を示す模式図。
【図8】従来例。
【符号の説明】
【0047】
1 溶接BOX柱
2a,2b,2c,2d スキンプレート
3 ダイヤフラム
4 スカラップ
5 裏当金
21、22、23 分割スキンプレート
31 ダイヤフラムの外辺
a、b、c 開先
100 BOX柱
101 柱スキンプレート
200 梁
300 サブマージアーク溶接部
400 ダイヤフラム
500 裏当金
600 エレクトロスラグ溶接部
700 溶接金属
800 HAZ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムを内部に取り付ける溶接組立てBOX柱であって、前記BOX柱の外周面のうち梁が取り付けられる面または該面に対向する面の少なくとも一面は、ダイヤフラムを挟むようにスキンプレートが分割され、前記ダイヤフラムと前記スキンプレートは当接する個所が溶接されていることを特徴とする溶接組立てBOX柱。
【請求項2】
分割されたスキンプレート間に挟まれるダイヤフラムの外辺が、前記スキンプレートの外表面と同一高さであることを特徴とする請求項1記載の溶接組立てBOX柱。
【請求項3】
分割されたスキンプレート間に挟まれるダイヤフラムの外辺に、BOX柱の角溶接用開先が設けられていることを特徴とする請求項2記載の溶接組立てBOX柱。
【請求項4】
スキンプレートが引張強さ540N/mm以上の鋼板で、ダイヤフラムは前記スキンプレートと同等以上の引張強さであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の溶接組立てBOX柱。
【請求項5】
ダイヤフラムとスキンプレートを入熱150kJ/cm以下で溶接することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の溶接組立てBOX柱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−222929(P2007−222929A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49683(P2006−49683)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】