説明

溶接装置及び溶接方法

【課題】レーザの集光性を維持しつつレーザ照射ヘッドの耐久性を向上することができる溶接装置及び溶接方法を提供する。
【解決手段】T字型継手TWに沿って進行するレーザ照射ヘッド3を有し、レーザBが照射される出力面P1の法線がレーザ照射ヘッド3の進行方向と略直交するようにレーザ照射ヘッド3に配され、レーザ照射ヘッド3の進行方向の前方側から出力面P1に向かって空気を噴射するガス供給部5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ溶接の特徴である深溶込み、高速溶接と、アーク溶接の特徴である開先精度に対する余裕度と、を両立させるハイブリッド溶接が様々な分野で利用されている。この技術を利用したレーザアーク複合溶接装置によれば、レーザ照射によって形成される高エネルギー密度の熱源による高速溶接性を確保した上で、アークによって形成される広がりのある熱源によって継手部分を幅広く溶融することができる。このようなレーザアーク複合溶接装置として、溶接トーチボディの先端にレーザ光導入口が設けられたレーザ・アークノズルを有するレーザ照射アーク溶接ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このレーザ照射アーク溶接ヘッドには、レーザ光を絞り込むための集光レンズ光学系や、集光レンズ光学系を保護するための保護ガラスが設けられている。そして、レーザ光導入口には、空気が流入することを防止するためのエアーカーテンが設けられている。このエアーカーテンは、レーザ光に対してシールドガスを噴出することによって、レーザ光導入口から空気が流入してシールドガスの純度が低下することを防止している。また、このシールドガスは、レーザ光に沿ってレーザ・アークノズル先端方向に流れるために、シールド性を向上させるとともに、スパッタが集光レンズ光学系に付着することを防止している。
【特許文献1】特開2004−216441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のレーザアーク複合溶接装置によれば、レーザ照射に伴って発生したプラズマにレーザ光が吸収されて減衰することを抑えることができない、という問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、レーザの集光性を維持しつつレーザ照射ヘッドの耐久性を向上することができる溶接装置及び溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る溶接装置及び溶接方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明は、被溶接物に沿って進行するレーザ照射ヘッドを有し、レーザが照射される出力面の法線が前記レーザ照射ヘッドの進行方向と略直交するように前記レーザ照射ヘッドに配された溶接装置であって、前記レーザ照射ヘッドの進行方向前方側から前記出力面に向かってガスを噴射するガス供給部を備えていることを特徴とする。
【0007】
これにより、出力面に向かって噴射されたガスを出力面に沿って流れるガスと出力面からレーザ照射ヘッド内へ進入するガスとに分流させることができる。そのため、出力面に沿って流れるガスによって、レーザ照射ヘッド内へのプラズマの進入を抑える一方、レーザ照射ヘッド内部に進入したガスの循環によってヘッド内部の機器へのスパッタ付着をより好適に抑えることができる。
【0008】
また、前記ガス供給部は、前記出力面に略平行に延びるガスの噴射口を備えることを特徴とする。
これにより、出力面に略平行の帯状のガスを出力面に向かって噴射させることができ、ガスで出力面全体を覆うことができる。
【0009】
また、前記ガス供給部は、前記レーザ照射ヘッドの進行方向に対して2度以上かつ5度以下の角度でレーザ照射側に傾斜した方向から前記ガスを噴射することを特徴とする。
これにより、出力面に向かって噴射されたガスを出力面に沿って流れるガスと出力面からレーザ照射ヘッド内へ進入するガスとにより好適に分流させることができる。
【0010】
第2の発明は、被溶接物に沿ってレーザ照射ヘッドを進行させながら、前記レーザ照射ヘッドの進行方向に略直交する方向へレーザを照射する溶接方法であって、前記レーザ照射ヘッドの進行方向前方側から前記レーザ照射ヘッドに設けられた前記レーザの出力面に向かってガスを噴射するガス供給工程を備えていることを特徴とする。
【0011】
これにより、出力面に向かって噴射されたガスを出力面に沿って流れるガスと出力面からレーザ照射ヘッド内へ進入するガスとに分流させることができる。そのため、出力面に沿って流れるガスによって、レーザ照射ヘッド内へのプラズマの進入を抑える一方、レーザ照射ヘッド内部に進入したガスの循環によってヘッド内部の機器へのスパッタ付着をより好適に抑えることができる。
【0012】
また、前記出力面に略平行の帯状のガスを供給することを特徴とする。
これにより、出力面に略平行の帯状のガス(エアーナイフ)を出力面に向かって噴射させることができ、ガスで出力面全体を覆うことができる。
【0013】
また、前記ガスの噴射に際し、前記レーザ照射ヘッドの進行方向に対して2度以上かつ5度以下の角度でレーザ照射側に傾斜した方向から前記ガスを噴射することを特徴とする。
これにより、出力面に向かって噴射されたガスを出力面に沿って流れるガスと出力面からレーザ照射ヘッド内へ進入するガスとにより好適に分流させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザの集光性を維持しつつレーザ照射ヘッドの耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る溶接装置及び溶接方法の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザアーク複合溶接装置を示す概要図である。図2は、本発明の一実施形態に係るレーザアーク複合溶接装置のレーザ溶接ヘッドを示す断面図である。図3は、図2におけるII-II方向一部断面図である。
【0016】
本実施形態に係るレーザアーク複合溶接装置(溶接装置)1は、例えば被溶接物であるT字型継手TWに沿って進行してアーク溶接を行うアークトーチ2と、アークトーチ2の近傍に配されてレーザ溶接を行うレーザ照射ヘッド3と、レーザ照射ヘッド3の進行方向前方側からレーザ光Bの出力面OPに向かって空気(ガス)を噴射するガス供給部5と、を備えている。
【0017】
そして、アーク溶接を行うために、レーザアーク複合溶接装置1は、アークトーチ2に供給される溶接ワイヤWが巻回された溶接ワイヤ送給ロール7を有する溶接ワイヤ送給装置8と、溶接ワイヤ送給ロール7の回転を制御して、アークトーチ2を通して溶接ワイヤWを送給するとともに、アークトーチ2内に配された不図示の給電チップとT字型継手TWとの間に電力を供給してアークを発生させる溶接用電源装置10と、をさらに備えている。
なお、アークトーチ2からは、溶接箇所に向けてシールドガスSが噴出される。
【0018】
また、レーザ溶接を行うために、レーザアーク複合溶接装置1は、レーザ光を出力するレーザ発振装置11と、レーザ発振装置11から出力されたレーザ光Bをレーザ照射ヘッド3に伝送する光ファイバ12と、をさらに備えている。
なお、炭酸ガスレーザのように波長が赤外線領域にある場合には、光ファイバ12の代わりに反射ミラーなどを用いて伝送する。
【0019】
レーザ照射ヘッド3は、レーザ光Bの出力面OPが配された筐体13、筐体13内に配されてレーザ光BをT字型継手TWに焦点が生じるように収束させる集光レンズ光学系15、ほこり等が集光レンズ光学系15に付着することを防止するとともにアーク溶接によって発生するスパッタが集光レンズ光学系15に付着することを防止する保護ガラス16及びレーザ光Bの向きを調節する反射ミラー17等を備えている。
【0020】
出力面OPは、T字型継手TWと対向する筐体13の平面状の側面P1に開口して形成されている。この側面P1は、出力面OPの法線Nがレーザ照射ヘッド3の進行方向Dと略直交するように配されている。すなわち、この側面P1は、レーザ照射ヘッド3の進行方向Dと平行に配されている。
【0021】
ガス供給部5は、レーザ照射ヘッド3の進行方向D、すなわち、側面P1に対して2度以上かつ5度以下の角度θでレーザ照射側に傾斜した方向から空気を噴射するように配されている。ガス供給部5には、出力面OPに略平行に延びるスリット状の噴射口5Aが配されている。
【0022】
次に、本実施形態に係るレーザアーク複合溶接方法について、レーザアーク複合溶接装置1の作用とともに説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るレーザアーク複合溶接方法を示すフロー図である。
【0023】
このレーザアーク複合溶接方法は、T字型継手TWに沿ってアークトーチ2及びレーザ照射ヘッド3を進行させながらアーク溶接とともに、レーザ照射ヘッド3の進行方向Dに略直交する方向へレーザを照射してレーザ溶接を行うハイブリッド溶接工程(S01)と、レーザ照射ヘッド3の進行方向前方側からレーザ光Bの出力面OPに向かって空気を噴射するガス供給工程(S02)と、を有している。
【0024】
ハイブリッド溶接工程(S01)では、まず、溶接用電源装置10を所定の溶接電圧に設定し、溶接ワイヤ送給ロール7を所定のワイヤ送給速度に設定する。そして、シールドガスを溶接点に供給しつつ溶接ワイヤWを送給して給電する。
また、例えば、YAGレーザを所定の出力に設定し、かつ集光レンズ光学系15及び反射ミラー17を設定して、溶接点にて所定の集光スポット径となるようにレーザ光Bを照射しつつ、レーザ照射ヘッド3を50cm/min以上の速度で進行させる。
これによって、レーザ照射位置にアークプラズマが拘束され、溶接ワイヤWの溶融がレーザ光Bによって促進されるため、安定した高速溶接が行われる。
【0025】
ガス供給工程(S02)では、レーザ照射ヘッド3の進行方向Dに対して2度以上かつ5度以下の角度θでレーザ照射側に傾斜した方向から出力面OPに向かって、出力面OPに略平行の帯状に広がる空気Aが0.5MPaの空気圧でガス供給部5の噴射口5Aから噴射される。噴射された空気Aは、アーク溶接用のシールドガスと干渉することなく、レーザ照射ヘッド3の進行方向Dとは逆方向に流れていく。
そして、レーザ照射ヘッド3に到達した空気は、さらに出力面OPに沿って流れる空気A1と出力面OPからレーザ照射ヘッド3内へ進入する空気A2とに分流される。
【0026】
出力面OPに沿って流れる空気A1は帯状(エアーナイフ)なので、出力面OPを覆うように流れる。そのため、出力面OP近傍まで飛散したスパッタやアークプラズマがレーザ照射ヘッド3内に進入するのが抑制される。
一方、レーザ照射ヘッド3内部に進入した空気A2は、レーザ照射ヘッド3内を流れる。そのため、保護ガラス16や反射ミラー17へのスパッタの付着が抑制され、プラズマによるレーザ光Bの減衰が抑制される。
【0027】
このレーザアーク複合溶接装置1及びレーザアーク複合溶接方法によれば、ハイブリッド溶接時に、レーザ照射ヘッド3の進行方向Dとは逆方向側に出力面OPに向かって空気A(A1及びA2)を噴射することができる。この際、噴射された空気Aを出力面OPに沿って流れる空気A1と出力面OPからレーザ照射ヘッド3内へ進入する空気A2とに分流させることができる。
【0028】
そして、出力面OPに沿って流れる空気A1によってレーザ照射ヘッド3内へのプラズマの進入を抑えることができる。
また、レーザ照射ヘッド3内部に進入した空気A2によって、レーザ照射ヘッド3内部の機器へのスパッタ付着をより好適に抑えることができる。したがって、レーザ光Bの集光性を維持しつつレーザ照射ヘッド3の耐久性を向上することができる。
【0029】
特に、ガス供給部5が、レーザ照射ヘッド3の進行方向Dに対して2度以上かつ5度以下の角度θでレーザ照射側に傾斜した方向から空気Aを噴射するので、噴射された空気を出力面OPに沿って流れる空気A1と出力面OPからレーザ照射ヘッド3内へ進入する空気A2とに、それぞれ好適な配分量で分流させることができる。
【0030】
また、空気Aの噴射方向とアークトーチ2におけるシールドガスの噴射方向とが異なるので、ガス供給部5から噴射した空気A(A1及びA2)が、シールドガスと混ざって乱れを生じさせないようにすることができる。
【0031】
さらに、出力面OPに略平行に延びる空気Aの噴射口5Aがガス供給部5に配されているので、出力面OPに略平行の帯状の空気を出力面OPに向かって噴射させることができ、出力面OP全体を覆うように空気Aを流すことができる。
【0032】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、溶接装置としてハイブリッド溶接を行うレーザアーク複合溶接装置1としているが、レーザ溶接のみを行うレーザ溶接装置でもよい。この場合においても、発生するプラズマによるレーザ光の減衰を好適に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザアーク複合溶接装置を示す概要図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るレーザアーク複合溶接装置のレーザ溶接ヘッドを示す断面図である。
【図3】図2におけるII-II方向一部断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るレーザアーク複合溶接方法を示すフロー図である
【符号の説明】
【0035】
1…レーザアーク複合溶接装置(溶接装置)、 2…アークトーチ、 3…レーザ照射ヘッド、 5…ガス供給部、 5A…噴射口、 16…保護ガラス、 17…反射ミラー、 A,A1,A2…空気(ガス)、 B…レーザ光、 D…進行方向、 N…法線、 OP…出力面、 TW…T字型継手(被溶接物)、 θ…角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物に沿って進行するレーザ照射ヘッドを有し、レーザが照射される出力面の法線が前記レーザ照射ヘッドの進行方向と略直交するように前記レーザ照射ヘッドに配された溶接装置であって、
前記レーザ照射ヘッドの進行方向前方側から前記出力面に向かってガスを噴射するガス供給部を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記ガス供給部は、前記出力面に略平行に延びるガスの噴射口を備えることを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記ガス供給部は、前記レーザ照射ヘッドの進行方向に対して2度以上かつ5度以下の角度でレーザ照射側に傾斜した方向から前記ガスを噴射することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接装置。
【請求項4】
被溶接物に沿ってレーザ照射ヘッドを進行させながら前記レーザ照射ヘッドの進行方向に略直交する方向へレーザを照射する溶接方法であって、
前記レーザ照射ヘッドの進行方向前方側から前記レーザ照射ヘッドに設けられた前記レーザの出力面に向かってガスを噴射するガス供給工程を備えることを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
前記出力面に略平行の帯状のガスを供給することを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記ガスの噴射に際し、前記レーザ照射ヘッドの進行方向に対して2度以上かつ5度以下の角度でレーザ照射側に傾斜した方向から前記ガスを噴射することを特徴とする請求項4又は5に記載の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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