説明

溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法

【課題】炭素を含むプラズマ作動ガスを用い、カソード表面に炭素が堆積した場合であっても、長期間に亘って安定したプラズマ放電が得られ、また、カソードの劣化を抑制することが可能な、溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、陰極点が生成される部位であるカソード先端部21aが炭素からなるカソード21が備えられ、該カソード21とアノード23との間にカスケード22が配設されてなるカスケード型のプラズマトーチ20を用い、少なくともCOガス及びCHガスを含む混合ガスからなり、これらの合計流量が、プラズマトーチ20のアノード23の内径Dにおける単位面積あたりで、0.2(lpm/mm)超0.8(lpm/mm)とされた条件のプラズマ作動ガスを用いて、鋼板の突合せ端面に向けてプラズマジェットを噴射しながら、前記突合せ端面を電縫溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、石油又は天然ガス用ラインパイプ、油井管、並びに原子力用、地熱用、化学プラント用、機械構造用及び一般配管用の鋼管等に使用される、溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電縫鋼管を製造する際は、まず、鋼板からなる帯状コイルを連続的に多数のロール群によって管状に成形する。そして、この管状の鋼板に対し、ワークコイルによる誘導加熱、もしくはコンタクトチップによる直接通電加熱を行い、鋼板端部を所定温度に加熱・溶融するとともに、スクイズロールによって加圧しながら溶接して製造する。
【0003】
上述のような、従来から用いられている電縫鋼管の製造方法について、図4の模式図を用いて説明する。図4に示すように、従来の電縫鋼管の製造方法においては、通常、帯状の鋼板101を、方向110に向かって連続的に搬送しながら、図示略の多数のロール群によって管状に形成する。次いで、管状とされた鋼板101の突合せ端面104を、高周波コイル102による誘導加熱又はコンタクトチップによる直接通電加熱で溶融するとともに、スクイズロール103によってアップセットを加えることで突合せ端面104に溶接シーム105を形成し、電縫鋼管としている(例えば、特許文献1、2等も参照)。また、特許文献1には、Ar単独ガス、又は、ArとN、H及びHeのうちの少なくとも1種以上との混合ガスをプラズマ作動ガスとして用い、突合せ端面にプラズマを吹き付けて電縫溶接を行うことが開示されている。
【0004】
また、上述のような電縫鋼管を製造する際の溶接処理に用いられるプラズマトーチとして、例えば、インサートチップの先端にプラズマ噴出口を備えるとともに、インナーキャップとシールドキャップとの間にシールドガス噴出口を備え、また、インサートチップとインナーキャップの間にサイドガス噴出口を設けた構成のもの等が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3に記載のプラズマトーチでは、カソードとしてタングステン(W)電極が用いられており、溶接用のプラズマトーチの分野においては、このようなタングステン材料のカソードが一般に用いられている。
【0005】
一方、炭素を含むガス(例えば、メタンガス;CH)を溶接部に吹き付けると、溶接部雰囲気の酸素や水蒸気と反応し、雰囲気中の酸素濃度を低下させて溶接部の冷接やペネトレーター欠陥を低減できる効果が得られるので好ましい。ここで、一般的な常温、あるいは加温したのみの炭素を含むガスを吹き付けると、溶接面を冷却してしまうので注意を要する。
しかしながら、特許文献3に記載の技術のように、プラズマトーチに備えられるカソード(電極)の材質がタングステンだと、プラズマ作動ガスとして上述のような炭素を含有するガスを用いた場合に、カソードの表面に炭素が堆積する部位が生じ、溶接操作のためのプラズマ放電を長期間に亘って安定させるのが困難になるという問題がある。また、タングステンからなるカソードを用いた場合、導電率が低く高抵抗のために電流値が高くなり、劣化が生じ易く、電極寿命が短くなるという問題があった。
【0006】
また、金属をプラズマ溶接あるいは切断するにあたり、プラズマトーチのカソードに炭素(グラファイト)材料を使用するとともに、プラズマ作動ガスとして、CO及びCHを混合して用いることが提案されている(例えば、特許文献4を参照)。
また、プラズマトーチにおいて、カソードとアノードの間に中間部材を配置することにより、カソードとアノードとの間隔を大きく離間させることが提案されている(例えば、特許文献5、6を参照)。
また、突合せ端面をプラズマ溶接して小径鋼管を製造するに際し、Arガスを含有するプラズマ作動ガスに、さらにHガスを加えることが提案されている(例えば、特許文献7を参照)。
【0007】
しかしながら、上記した何れの特許文献に記載の技術においても、プラズマ作動ガスとして炭素を含有するガスを用いた場合には、カソードの表面に炭素が堆積ことから、プラズマ放電を長期間に亘って安定させるのが困難になるか、あるいは、カソードに劣化が生じて電極寿命が短くなるという問題が避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−298961号公報
【特許文献2】特開2006−026691号公報
【特許文献3】特開2004−243374号公報
【特許文献4】特公昭62−25478号公報
【特許文献5】特開平05−84455号公報
【特許文献6】特許第2550073号公報
【特許文献7】特開2000−237875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、炭素を含むプラズマ作動ガスを用い、カソード表面に炭素が堆積した場合であっても、長期間に亘って安定したプラズマ放電が得られ、また、カソードの劣化を抑制することが可能な、溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なったところ、プラズマトーチに備えられるカソードに用いる電極材料や構造を適正化するとともに、プラズマ作動ガスの組成や流量等を適性化することにより、表面の劣化等を防止できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下に関する。
【0011】
[1] 鋼板を管状に成形加工し、その突合せ端面を電縫溶接する電縫鋼管の製造方法において、少なくとも陰極点が生成される部位が炭素からなるカソードを具備するとともに、該カソードとアノードとの間にカスケードが配設され、前記カソードとアノードとの間に電圧を印加することでプラズマジェットを形成するカスケード型のプラズマトーチを用い、プラズマ作動ガスとして、少なくともCOガス及びCHガスを含む混合ガスからなるとともに、残部が不可避的不純物ガスからなり、且つ、前記COガス及びCHガスの合計流量が、前記プラズマトーチのアノード内径における単位面積あたりで、0.2(lpm/mm)超0.8(lpm/mm)未満の範囲とされたガスを用いて、前記鋼板の突合せ端面に向けてプラズマジェットを噴射しながら、前記突合せ端面を電縫溶接することを特徴とする溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
[2] 前記カソードをなす炭素がグラファイトであることを特徴とする上記[1]に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
[3] 前記プラズマ作動ガス中におけるCHガスの混合比が、20体積%超40体積%未満の範囲であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
[4] 前記プラズマトーチは、前記カソードとアノードとの間に配設される前記カスケードの段数が6〜8段の範囲とされていることを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
[5] 前記プラズマ作動ガスが、さらに、1体積%以上20体積%未満のHガスを含むことを特徴とする上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法によれば、少なくとも陰極点が生成される部位が炭素からなるカソードが備えられ、該カソードとアノードとの間にカスケードが配設されてなるカスケード型のプラズマトーチを用い、少なくともCOガス及びCHガスを含む混合ガスからなり、これらの合計流量が、プラズマトーチのアノード内径における単位面積あたりで、0.2(lpm/mm)超0.8(lpm/mm)とされた条件のプラズマ作動ガスを用いて鋼板の突合せ端面を電縫溶接する方法なので、CH等の炭素を含むプラズマ作動ガスによってカソード表面に炭素が堆積した場合であっても、長期間に亘って安定したプラズマ放電が得られる。また、カソードにおいて、少なくとも陰極点が生成される部位が導電率の高い炭素材料からなり、電圧値を高める一方で電流値を低くすることができるので、カソードが劣化し難く長寿命となる。従って、長期に亘って優れた品質で溶接を行なうことができ、溶接部品質に優れる電縫鋼管を、コストアップを招くことなく高い生産性で製造することが可能となることから、その産業上の効果は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法の一例を説明するための模式図であり、(a)は管状に成形加工された鋼板の突合せ端面を電縫溶接する工程を示す側面図、(b)は(a)の平面図である。
【図2】本発明に係る溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法の一例を説明するための模式図であり、カスケード型のプラズマトーチの構成を示す断面図である。
【図3】従来の電縫鋼管の製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法の実施の形態について、図1〜図3を適宜参照しながら説明する。なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
[第1の実施形態]
以下に、本発明に係る電縫鋼管の製造方法の第1の実施形態について説明する。
本実施形態の電縫鋼管の製造方法は、鋼板1を管状に成形加工し、その突合せ端面4を電縫溶接する方法であり、炭素(C)からなるカソード21と、カスケード22とを具備したプラズマトーチ20を用いて、鋼板1の突合せ端面4を電縫溶接する方法である。
【0016】
以下、電縫鋼管Kを製造する際の手順について、高周波コイルを使用して鋼板1を加熱する場合を例に説明する。図1(a)は、本実施形態の電縫鋼管Kの製造方法を説明する模式側面図であり、図1(b)は、図1(a)の平面図である。
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態の電縫鋼管の製造方法においては、まず、例えば厚さが1〜22mm程度の鋼板1を方向10に向けて連続的に搬送しながら、多数のロール群(図示せず)によって管状に成形する。
次いで、鋼板1の突合せ端面4を高周波コイル2によって誘電加熱して溶融するとともに、スクイズロール3によってアップセットを加え、突合せ端面4に溶接シーム7を形成することにより、電縫鋼管Kを製造する。
【0017】
「プラズマトーチ」
本実施形態で用いられるプラズマトーチの一例を図2に示す。図2に示すプラズマトーチ20は、カソード21、カスケード22及びアノード23から概略構成されており、これら各々の間が絶縁され、また、個別に水冷する構成とされている。本発明に係る製造方法は、上記構成とされたプラズマトーチ20に備えられるカソード21のカソード先端部21aの材料に炭素を用いるとともに、カソード21とアノード23との間にカスケード22が配設されていることを特徴としている。そして、カソード21とアノード23との間に配設されるカスケード22を通過するカソードガス24、及びアノードガス25を供給し、カソード21とアノード23との間に電圧を印加してプラズマを発生させる。
【0018】
上述のようなカスケード22は、従来のプラズマトーチには備えられていない構成であり、本実施形態においては、カスケード22が設けられることでカソード21上の陰極点とアノード23上の陽極点との距離が長くなるため、電圧が高くなり、(擬似)層流プラズマジェットが形成しやすくなる。
また、カソードガス24とアノードガス25からなるプラズマ作動ガスには、水素を含有させることが、高温(擬似)層流プラズマ5に還元性を付与することができる点から好ましい。
また、必要に応じて、アノード23の先端部23aから、高温(擬似)層流プラズマ5を囲むようにサイドシールドガス11を噴射する構成とすれば、この高温(擬似)層流プラズマ5への酸素の拡散・混入を有利に阻止することができる点から好ましい。更に、必要に応じて、アノード23の先端部23aから、高温(擬似)層流プラズマ5にホウ化物の微粉末を供給する構成とすれば、水素より高い還元性を得ることができる点から好ましい。
【0019】
本発明に係る電縫鋼管の製造方法では、プラズマトーチ20に用いるカソード(電極)21において、少なくとも陰極点が生成される部位、具体的にはカソード先端部21aに、炭素(C)からなる材料を用いる。また、プラズマトーチ20のカソード21において、陰極点が生成される部位は、通常、カソード先端部21aであることから、その他の部位、特に、カソード21のカソード基部21bは、冷却構造(例えば水冷構造)を有する金属製基部(例えば銅製基部)とするのが好ましい。カソード21において、陰極点が生成されるカソード先端部21aを炭素材料で構成することにより、従来から用いられているタングステン(W)製のカソードに比べ、以下に説明するような大きな効果が得られる。
【0020】
まず、カソードを導電率の高い炭素材料から構成することにより、高電圧を印加できる一方で電流値を低くすることができるので、カソードが劣化し難く長寿命となる。
また、CH等の炭素を含むプラズマ作動ガスを用い、カソード21表面に炭素が堆積する条件である場合でも、カソード21が炭素材料から構成されるため、プラズマの放電状態が不安定になるようなことが無く、長期間に亘って安定したものとなる。これにより、CH等の炭素を含むガスをプラズマ作動ガスに使用し易いというメリットが得られる。
ここで、タングステン製のカソードを用いた場合であっても、炭素を含むプラズマ作動ガスを使用することは可能であるが、この場合には、炭素がタングステン製のカソード表面に堆積するため、安定したプラズマ放電を長期間に亘って行なうことが困難となる。これに対し、本発明では、少なくとも、陰極点が生成される部位であるカソード先端部21aが炭素からなるカソード21を用いる方法としているため、カソード21表面に炭素が堆積した場合でも、長期間に亘って安定したプラズマ放電が得られる。またさらに、カソード先端部21が炭素からなるカソード21の表面に堆積した炭素により、むしろ電極としての寿命が向上するという効果が得られる。
【0021】
なお、本発明においては、カソード21に用いる炭素材料としてグラファイト(カーボングラファイト)を採用することが、上記効果が一層顕著に得られる点からより好ましい。
【0022】
また、本発明において、プラズマトーチ20のカソード21とアノード23との間に配設されたカスケード22は、6〜8段の範囲で設けられた構成とすることが好ましい。図1に示す例においては、カスケード22が6段で設けられた構成とされている。カソード−アノード間におけるカスケードの段数が6段未満だと、(擬似)層流プラズマジェットが発生し難くなり、また、発生するプラズマジェットが細くなり過ぎる。
【0023】
「プラズマ作動ガス」
本発明に係る電縫鋼管の製造方法においては、上記構成とされたプラズマトーチ20を用い、プラズマ作動ガスとして、少なくともCOガス及びCHガスを含む混合ガスからなるとともに、残部が不可避的不純物ガスからなり、且つ、前記COガス及びCHガスの合計流量が、前記プラズマトーチのアノード内径における単位面積あたりで、0.2(lpm/mm)超0.8(lpm/mm)未満の範囲とされたガスを用いることが好ましい。
【0024】
プラズマ作動ガスとして、CHガス(炭化水素ガス)を含む混合ガスを用いる理由としては、まず、陰極点が生成される部位であるカソード先端部21aが炭素(C)からなるカソード21表面に炭素を自己堆積させることにより、電極寿命を延ばす効果が得られることが挙げられる。
また、CHガスを含む混合ガスを用いることにより、プラズマトーチ20のエンタルピー及び熱伝導度が大きくなるので、電縫溶接時の加熱効率が高められるという効果が得られる。
また、CHガスを含む混合ガスを用いることで、プラズマ放電時の電気的効率を高めることが可能となる。ここで、上記混合ガスに含まれる炭化水素ガスとしては、特にCHガスで無くとも電気的効率向上の効果は得られるが、CHガスは比較的安価に入手可能な点や、爆発等が生じるリスクが低い点から好ましい。
また、CHガスを含むプラズマ作動ガスを用いた場合、プラズマ放電時にプラズマ作動ガスが水素を放出するため、詳細を後述するような、溶接品質向上(還元)効果が得られる。
さらに、炭素が鋼板の溶接面に付着すると、その部位の電気抵抗が高くなり、ジュール発熱を助長するので、溶接面の加熱効率が向上するという効果も奏する。
加えて、電縫溶接部の脱炭を抑制できるため、溶接部の軟化を緩和できるという効果がある。
【0025】
また、プラズマ作動ガスとして、COガスを含む混合ガスを用いる理由としては、まず、プラズマを安定した状態で発現させることができることが挙げられる。
また、COガスを含むプラズマ作動ガスを用いることで、例えば、Ar含有ガスの場合と比べ、プラズマの長さを長くすることが可能となる。
また、COガスを含むガスを用いた場合、プラズマ放電時にプラズマ作動ガスが酸素を放出することにより、カソード21表面に炭素が過度に体積するのを抑制することが可能となる。
また、炭化水素ガスと同様、プラズマトーチ20のエンタルピー及び熱伝導度が大きくなるので、電縫溶接時の加熱効率が高められるという効果が得られる。
またさらに、COガスを含むガスを用いることで熱効率が向上するため、電縫溶接時の加熱効率が高められるという効果が得られる。
【0026】
また、プラズマ作動ガスを構成するCOガス及びCHガスの合計流量は、アノード23の内径に依存するが、このアノード23の内径Dにおける単位面積あたりで、0.2(lpm/mm)超0.8(lpm/mm)未満の範囲であることが好ましい。この合計流量が0.2(lpm/mm)以下だと、カソード21及びアノード23に与える電極ダメージが大きくなる虞があり、また、0.8(lpm/mm)以上だと、プラズマ放電が不安定となり、条件によってはプラズマが発現しなくなる虞がある。
【0027】
また、プラズマ作動ガス中におけるCHガスの混合比は、20体積%超40体積%未満の範囲であることが好ましい。CHガスの混合比が20体積%以下だと、上述した加熱効率や電極寿命向上の効果が得られず、また、プラズマ作動ガス中における水素含有量が少なくなるため、溶接品質向上効果が得られ難くなる。また、CHガスの混合比が40体積%以上だと、発現するプラズマの長さが短く、且つ、不安定な状態となる虞がある。なお、この場合のプラズマ作動ガスの残部は、不可避的不純物ガスの他、Arガス等からなる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法によれば、少なくとも、陰極点が生成される部位であるカソード先端部21aが炭素からなるカソード21が備えられ、該カソード21とアノード23との間にカスケード22が配設されてなるカスケード型のプラズマトーチ20を用い、少なくともCOガス及びCHガスを含む混合ガスからなり、これらの合計流量が、プラズマトーチ20のアノード23の内径Dにおける単位面積あたりで、0.2(lpm/mm)超0.8(lpm/mm)とされた条件のプラズマ作動ガスを用いて鋼板1の突合せ端面4を電縫溶接する方法なので、CHを含むプラズマ作動ガスによってカソード21表面に炭素が堆積した場合であっても、長期間に亘って安定したプラズマ放電が得られる。また、カソード21のカソード先端部21aが導電率の高い炭素材料からなり、電圧値を高める一方で電流値を低くすることができるので、カソード21が劣化し難く長寿命となる。従って、長期に亘って優れた品質で溶接を行なうことができ、溶接部品質に優れる電縫鋼管を、コストアップを招くことなく高い生産性で製造することが可能となる。
また、上記製造方法によって得られる電縫鋼管は、格段に優れた溶接部品質を有するものとなる。
【0029】
なお、本実施形態においては、高周波コイル2によって鋼板1を誘電加熱する場合を例にして説明しているが、これには限定されず、コンタクトチップにより直接通電加熱する方法を採用することも可能である。
【0030】
[第2の実施形態]
以下に、本発明に係る電縫鋼管の製造方法の第2の実施形態について説明する。
なお、以下の説明において、第1の実施形態の電縫鋼管の製造方法と共通する構成については同じ符号を付与し、その詳しい説明を省略するとともに同じ図面を用いて説明する。
【0031】
本実施形態の電縫鋼管の製造方法は、第1の実施形態で説明した構成のプラズマトーチ20を用いて、前記プラズマ作動ガスとして、COガス及びCHガスに、さらに、1体積%以上20体積%未満のHガスを加えた構成のガスを用いる方法である。
【0032】
プラズマ作動ガスにおけるHガスの添加を1体積%超にするのは、水素(H)による還元効果を発現するためであり、20体積%未満にするのは、20体積%以上だと発現するプラズマの長さが短く、且つ、不安定な状態となるためである。
【0033】
ここで、本実施形態の電縫鋼管の製造方法で用いるプラズマトーチ20は、上述したように、カソード21、カスケード22及びアノード23が備えられ、これら各々の間が絶縁され、また、個別に水冷される構成とされている。そして、カスケード21を通過するカソードガス24、及びアノードガス25を供給し、カソード21とアノード23との間に電圧を印加してプラズマを発生させる。上述のようなカスケード22は、従来のプラズマトーチには備えられていない構成であり、本実施形態では、カスケード22が設けられることでカソード21上の陰極点とアノード23上の陽極点との距離が長くなるため、電圧が高くなり、(擬似)層流プラズマジェットが形成しやすくなる。また、カソードガス24とアノードガス25からなるプラズマ作動ガスには、水素を含有させることが、高温(擬似)層流プラズマ5に還元性を付与することができる点から好ましい。また、必要に応じて、アノード23の先端部23aから、高温(擬似)層流プラズマ5を囲むようにサイドシールドガス11を噴射する構成とすれば、この高温(擬似)層流プラズマ5への酸素の拡散・混入を有利に阻止することができる点から好ましい。更に、必要に応じて、アノード23の先端部23aから、高温(擬似)層流プラズマ5にホウ化物の微粉末を供給する構成とすれば、水素より高い還元性を得ることができる点から好ましい。
【0034】
本実施形態の電縫鋼管の製造方法においては、上記構成のプラズマトーチ20を用いることにより、プラズマジェットを層流又は擬似層流としているため、上記特許文献2(特開2006−026691号公報)に記載の技術に比べ、大気の巻き込みを大幅に低減できる。これにより、溶接部の酸化物量を低減して、酸化物に起因する溶接欠陥の割合(溶接欠陥率)を0.01%以下とすることが可能となり、また、溶接時に発生するプラズマジェット音も低減することができる。
なお、本発明において説明する「溶接欠陥率」とは、溶接面積に対するペネトレーター(酸化物に起因する溶接欠陥)の面積率である。また、「擬似層流」とは、プラズマジェットのプラズマコア部は層流で、プラズマ外側の数mmの範囲が乱流である状態をいい、鋼管内面よりも遠方(鋼管の突合せ端面4よりも管内側)のプラズマジェットが乱流であるか、(擬似)層流であるかは問わない。
【0035】
本実施形態で使用するプラズマ作動ガス中に含まれるHガスは、熱伝達係数を高めるとともに還元性雰囲気とし、突合せ端面4aにおける酸化反応を抑制する効果がある。しかしながら、プラズマ作動ガス中のHガス含有量が1体積%未満の場合、上述した効果が得られない。一方、プラズマ作動ガス中のHガス含有量が20体積%以上になると、プラズマが不安定になる。よって、プラズマ作動ガス中のHガス含有量は1体積%以上20体積%未満とする。
【0036】
上述した高温層流プラズマまたは高温擬似層流プラズマ(プラズマ5)は、例えば、工業的に広く用いられている溶射用の直流プラズマ発生装置を用いて生成することができる。これによって生成されたプラズマは、通常のガスバーナー等で生成される燃焼炎よりもガス温度が高く、高温域のプラズマ長さが60mm以上で、かつプラズマ径が5mm以上であるという特徴をもつため、電縫溶接時のシーム倣い性が良好で、シーム位置変化に比較的容易に追従できる熱源である。
【0037】
また、上述した効果を充分に得るためには、高温層流プラズマまたは高温擬似層流プラズマ(プラズマ5)の温度を1400℃以上にすることが好ましい。特に、電縫鋼管の製造過程で生成しやすいMn−Si−Oの複合酸化物の融点は1250〜1410℃、Cr酸化物の融点は2300℃であることから、これらの酸化物を溶融させるためには、高温層流プラズマまたは高温擬似層流プラズマ(プラズマ5)の温度を2300℃以上にすることがより好ましい。
【0038】
一方、高温層流プラズマまたは高温擬似層流プラズマ(プラズマ5)の温度が高温になる程、既に生成していた酸化物を高温状態で突合せ端面4aから溶融・排出させる作用が促進され、溶接欠陥が低減する。このため、高温層流プラズマまたは高温擬似層流プラズマ(プラズマ5)の温度の上限は、特に限定する必要はない。
【0039】
次に、本実施形態の電縫鋼管の製造方法においては、さらに、プラズマトーチ20のアノード22の前面又は前方外周に、中心軸からの距離が前記アノードの内半径の1.5〜3.5倍の位置で、向きがプラズマ中心軸方向から外側に10〜30°の範囲の軸対称方向に向いた噴射口を設け、この噴射口からArガス、Nガス及びHeガスからなる群から選択された1種または2種以上の不活性ガス及び不可避的不純物ガスからなるサイドシールドガスを、プラズマのガス流量の1〜3倍のガス流量で、鋼板1における加熱温度が650℃以上となる領域6に向けて噴射することが好ましい。
【0040】
さらに、溶接金属部に脱窒素、脱炭素がある場合は、プラズマ作動ガスよりこれらの元素を添加することも可能である。但し、過剰な水素が吸収されると水素脆化割れが発生する場合があるので、これを抑制するには溶接後シームノルマ処理を行うことが好ましい。
【0041】
以上説明したような本実施形態の電縫鋼管の製造方法によれば、上記第1の実施形態の電縫鋼管の製造方法と同様に、CHを含むプラズマ作動ガスを用い、カソード21の表面に炭素が堆積した場合であっても、長期間に亘って安定したプラズマ放電が得られ、また、カソード21が劣化し難く長寿命となる。また、プラズマ作動ガスとして、COガス及びCHガスに、さらに、1体積%以上20体積%未満のHガスを加えた構成のガスを用いることにより、高温(擬似)層流プラズマ5に効果的に還元性を付与することができる。
従って、長期に亘って優れた品質で溶接を行なうことができ、溶接部品質に優れる電縫鋼管を、コストアップを招くことなく高い生産性で製造することが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明に係る溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0043】
本実施例においては、表1に示す鋼成分を有する鋼板を使用し、還元性プラズマ作動ガスとして、CHガスとCOの混合ガス、あるいはこれにHを添加した混合ガスを使用して、上述した図1に示すような方法で電縫鋼管を製造し、溶接部の溶接欠陥の発生率を調査した。
この際の電縫溶接条件は、下記表2に示すような範囲の条件とした。
【0044】
また、溶接欠陥は、溶接後の電縫鋼管の溶接部からシャルピー衝撃試験片を切り出して、その溶接突合せ部に先端半径0.25mm、深さ0.5mmのノッチを形成し、シャルピー衝撃試験を実施した後、延性破断した部分の破面観察を行い、溶接面積に対するペネトレーター(酸化物に起因する溶接欠陥)の面積率を測定し、その値を溶接欠陥率として評価した。そして、溶接欠陥率が0.01%以下のものを良好、0.01%を超えるものを不良とした。
以上の結果を、総合評価として下記表2に併せて示す。なお、下記表2中においては、合格を「○」印、不合格を「×」印で示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、本発明で規定する条件で鋼板を電縫溶接することにより、電縫鋼管を製造した本発明例1〜6においては、溶接欠陥率が非常に低く、また、プラズマトーチ寿命及びプラズマ安定性に非常に優れたものとなり、全ての本発明例において総合評価が「○」の評価となった。
【0048】
これに対し、本発明で規定する条件に対し、何れかの項目が範囲外とされた条件で鋼板を電縫溶接し、電縫鋼管を製造した実験例1〜7においては、溶接欠陥率、プラズマトーチ寿命及びプラズマ安定性の何れかの項目が本発明例に比べて劣り、全ての実験例において総合評価が「×」の評価となった。
【0049】
実験例1においては、プラズマトーチのカソード先端部に炭素が用いられているため、プラズマトーチ寿命及びプラズマ安定性については問題なかったものの、混合ガスの流量が本発明で規定する範囲外のため、生成されたプラズマが乱流のためにシールド効果が低くなり、溶接欠陥率が1%と、欠陥率の高い結果となった。
実験例2においては、実験例1と同様、カソード先端部に炭素が用いられているため、プラズマトーチ寿命及びプラズマ安定性については問題なかったものの、CHの含有量が少ないためにシールド効果が低くなり、溶接欠陥率が0.7%と、欠陥率の高い結果となった。
実験例3においては、プラズマ作動ガス中に示すCHガスの割合が本発明の規定範囲から逸脱しており、プラズマが不安定であるために、溶接欠陥率が0.3%と、欠陥率の高い結果となった。
【0050】
実験例4においては、実験例1等と同様、プラズマトーチ寿命及びプラズマ安定性については問題なかったものの、プラズマ作動ガスの流量が少ないために水排除効果が低くなり、溶接欠陥率が0.6%と、欠陥率の高い結果となった。
実験例5においては、溶接欠陥率については問題なかったものの、カソード先端部にタングステン(W)を用いた従来の構成のプラズマトーチを用いているため、カソード(電極)の損傷が著しく、プラズマトーチの寿命が短いことが明らかとなった。
実験例6においては、溶接欠陥率については問題なかったものの、プラズマ作動ガスに含まれるArガスが過多のため、カソードの損傷が著しく、プラズマトーチの寿命が短いことが明らかとなった。
実験例7においては、プラズマ作動ガスに含まれる水素ガスが過多のため、プラズマが不安定であるとともに、カソードの損傷が著しく、プラズマトーチの寿命が短いことが明らかとなった。
【0051】
また、実験例8〜11においては、溶接欠陥率は低いものの、混合ガスの合計流量が本発明で規定する範囲を下回っているため、混合ガスに含有されるCHの量も少なくなってシールド効果が低下し、電極寿命が不安定になるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、鋼板を管状に成形加工してその突合せ部を電縫溶接する製造工程において、少なくとも陰極点が生成される部位が炭素からなるカソードを具備するとともに、該カソードとアノードとの間にカスケードが配設され、カソードとアノードとの間に電圧を印加することでプラズマジェットを形成するカスケード型のプラズマトーチを適用し、さらに、規定の流量とされた、少なくともCOガス及びCHガスを含む混合ガスからなるプラズマ作動ガスを用いることにより、長期間に亘って安定したプラズマ放電が得られ、また、カソードが劣化し難く長寿命となる。従って、長期に亘って優れた品質で溶接を行なうことができ、溶接部品質に優れる電縫鋼管を、コストアップを招くことなく高い生産性で製造することが可能となることから、その産業上の効果は計り知れない。
【符号の説明】
【0053】
1…鋼板、4、4a…突合せ端面、5…プラズマ(高温層流プラズマ、高温擬似層流プラズマ)、8…インピーダー、9…溶接点、11…サイドシールドガス、20…プラズマトーチ、21…カソード、21a…カソード先端部、22…カスケード、23…アノード、K…電縫鋼管、D…内径(アノード)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を管状に成形加工し、その突合せ端面を電縫溶接する電縫鋼管の製造方法において、
少なくとも陰極点が生成される部位が炭素からなるカソードを具備するとともに、該カソードとアノードとの間にカスケードが配設され、前記カソードとアノードとの間に電圧を印加することでプラズマジェットを形成するカスケード型のプラズマトーチを用い、
プラズマ作動ガスとして、少なくともCOガス及びCHガスを含む混合ガスからなるとともに、残部が不可避的不純物ガスからなり、且つ、前記COガス及びCHガスの合計流量が、前記プラズマトーチのアノード内径における単位面積あたりで、0.2(lpm/mm)超0.8(lpm/mm)未満の範囲とされたガスを用いて、前記鋼板の突合せ端面に向けてプラズマジェットを噴射しながら、前記突合せ端面を電縫溶接することを特徴とする溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記カソードをなす炭素がグラファイトであることを特徴とする請求項1に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記プラズマ作動ガス中におけるCHガスの混合比が、20体積%超40体積%未満の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記プラズマトーチは、前記カソードとアノードとの間に配設される前記カスケードの段数が6〜8段の範囲とされていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ作動ガスが、さらに、1体積%以上20体積%未満のHガスを含むことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の溶接部品質に優れた電縫鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−82697(P2010−82697A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202605(P2009−202605)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】