説明

溶液の濃縮方法と濃縮装置

【課題】ミストの霧化効率を高くしながら、混合流体からミストを効率よく回収して、少ないエネルギーでより高濃度に濃縮する。
【解決手段】溶液の濃縮方法は、目的物質を含む溶液を霧化機1でミストに霧化して、目的物質を含むミストと搬送気体との混合流体とする霧化工程と、この霧化工程で得られる混合流体からミストを回収する回収工程とからなる。この濃縮方法は、搬送気体に、水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスを使用する。さらに、この濃縮方法は、回収工程において、ミストに含まれる目的物質を通過させないが水素とヘリウムの少なくともいずれかを含む搬送気体を通過させるポアサイズの搬送気体透過膜7を使用し、この搬送気体透過膜7に搬送気体を透過させてミストを含む混合流体から搬送気体を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的物質を含む溶液を霧化してミストとし、ミストを回収して高濃度の目的物質を含む溶液を分離する溶液の濃縮方法と濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、溶液を霧化して高濃度のアルコールを分離する濃縮装置を開発した。(特許文献1参照)この濃縮装置は、アルコール溶液を閉鎖構造の超音波霧化室に充填し、この超音波霧化室のアルコール溶液を超音波振動子で超音波振動させてミストに霧化し、霧化されたミストを凝集させて回収して高濃度のアルコール溶液を分離する。この濃縮装置は、霧化されたミストのアルコール濃度が原液よりも高くなることを利用して、アルコールを濃縮する。この濃縮装置は、溶液を加熱しないで高濃度のアルコール溶液を分離する。このため、アルコールを高濃度に濃縮しながら、加熱しないのでアルコール等の目的物質を変質させることなく分離できる。
【0003】
さらに、本発明者は、以上の濃縮装置に空気透過膜を組み合わせて、より効果的に高濃度に濃縮する装置を開発した。(特許文献2参照)
【0004】
特許文献2の濃縮装置は、目的物質を含む溶液を入れる霧化室と、この霧化室の溶液を空気中にミストとして飛散させて溶液のミストと空気の混合流体を発生させる霧化機と、この霧化室に連結されて混合流体から空気を分離する空気分離機とを備える。空気分離機は、目的物質を通過させないが空気を通過させるポアサイズの空気透過膜で内部を区画して、混合流体を通過させる一次側通路と、空気を排気する二次側排気路とを内部に設けている。この空気分離機は、空気透過膜の一次側表面の圧力を二次側表面よりも高くし、混合流体に含まれる空気を空気透過膜に透過させて一次側通路を通過する混合流体から空気を分離する。
【特許文献1】特開2001−314724号公報
【特許文献2】特開2005−279457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の濃縮装置は、混合流体に含まれる空気を空気透過膜で分離するので、効率よく目的物質を高濃度に濃縮できる。しかしながら、目的物質を含む溶液をミストに霧化して、これを回収することで高濃度に濃縮する装置は、微細なミストに霧化する効率を高くするために搬送気体量を多くする必要がある。しかしながら、搬送気体量を多くするとミストの回収効率が低下する。それは、搬送気体に含まれるミストの濃度が低下し、ミストを多量の搬送気体から分離することになるからである。このため、搬送気体の流量を多くして溶液をミストに霧化する効率を高くすると、混合流体からミストを回収する効率が低下する。このように、溶液の霧化効率とミストの回収工程とは互いに相反する特性となって両方を満足するのが難しい。
【0006】
本発明は、独特方法で互いに相反するこの難しい課題を解決することに成功したものである。本発明の大切な目的は、ミストの霧化効率を高くしながら、混合流体からミストを効率よく回収して、少ないエネルギーでより高濃度に濃縮できる溶液の濃縮方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶液の濃縮方法は、目的物質を含む溶液を霧化機1でミストに霧化して、目的物質を含むミストと搬送気体との混合流体とする霧化工程と、この霧化工程で得られる混合流体からミストを回収する回収工程とからなる。この濃縮方法は、搬送気体に、水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスを使用する。さらに、この濃縮方法は、回収工程において、ミストに含まれる目的物質を通過させないが水素とヘリウムの少なくともいずれかを含む搬送気体を通過させるポアサイズの搬送気体透過膜7を使用し、この搬送気体透過膜7に搬送気体を透過させてミストを含む混合流体から搬送気体を分離する。
【0008】
本発明の請求項2の溶液の濃縮方法は、霧化機1が、溶液を超音波振動させてミストに霧化する。
【0009】
本発明の請求項3の溶液の濃縮方法は、回収工程において、搬送気体透過膜7で搬送気体を分離した混合流体を冷却してミストを回収する。
【0010】
本発明の請求項4の溶液の濃縮方法は、回収工程において、霧化工程で霧化されたミストを含む混合流体を冷却してミストを回収した後、この混合流体を搬送気体透過膜7に透過させて搬送気体を分離し、さらに、搬送気体の分離された混合流体を冷却してミスト成分を回収する。
【0011】
本発明の請求項5の溶液の濃縮方法は、回収工程において、搬送気体透過膜7で搬送気体の分離された混合流体を冷却してミストを回収し、ミストの回収された混合流体を霧化機1に供給する。
【0012】
本発明の請求項6の溶液の濃縮方法は、回収工程において、搬送気体透過膜7で搬送気体の分離された混合流体を冷却してミストを回収し、ミストの回収された混合流体を搬送気体透過膜7の供給側に循環させる。
【0013】
本発明の請求項7の溶液の濃縮方法は、回収工程において、搬送気体透過膜7で搬送気体の分離された混合流体のミストを第2の搬送気体で搬送しながら冷却してミストを回収し、ミストの回収された第2の搬送気体を搬送気体透過膜7の供給側に循環させている。この第2の搬送気体には、搬送気体よりも分子量の大きなガスを使用している。さらに、本発明の請求項8の溶液の濃縮方法は、第2の搬送気体をアルゴンとしている。
【0014】
本発明の請求項9の溶液の濃縮方法は、回収工程において、混合流体に含まれる搬送気体を搬送気体透過膜7で分離して霧化機1に供給する。
【0015】
さらに、本発明の請求項10の溶液の濃縮方法は、回収工程において、搬送気体透過膜7を加熱している。
【0016】
本発明の溶液の濃縮装置は、目的物質を含む溶液を入れる霧化室4と、この霧化室4の溶液を、水素とヘリウムの少なくともいずれかを含む搬送気体中にミストとして飛散させて溶液のミストと搬送気体の混合流体を発生させる霧化機1と、この霧化室4に連結されて混合流体から搬送気体を分離する搬送気体分離機6とを備える。搬送気体分離機6は、目的物質を通過させないが水素とヘリウムの少なくともいずれかを含む搬送気体を通過させるポアサイズの搬送気体透過膜7で内部を区画して、混合流体を通過させる一次側通路8と、搬送気体を排気する二次側排気路9とを内部に設けている。この搬送気体分離機6は、搬送気体透過膜7の一次側表面の圧力を二次側表面よりも高くして、混合流体に含まれる搬送気体を一次側通路8から二次側排気路9に透過させて混合流体から搬送気体を分離する。
【0017】
本発明の請求項12の溶液の濃縮装置は、搬送気体分離機6が、二次側排気路9に強制排気機11を連結しており、この強制排気機11でもって二次側排気路9の搬送気体を強制的に排気して、搬送気体透過膜7の一次側表面の圧力を二次側表面よりも高くしている。
【0018】
本発明の請求項13の溶液の濃縮装置は、搬送気体分離機6が、一次側通路8に、霧化室4の混合流体を加圧して供給する圧縮機12を連結しており、この圧縮機12が霧化室4の混合流体を一次側通路8に圧入して、搬送気体透過膜7の一次側表面の圧力を二次側表面よりも高くしている。
【0019】
本発明の請求項14の溶液の濃縮装置は、搬送気体透過膜7を、セラミックの表面にゼオライトをコーティングしてなるろ過材としている。
【0020】
本発明の請求項15の溶液の濃縮装置は、搬送気体分離機6が、搬送気体透過膜7を加熱する加熱器30を備えている。
【0021】
本発明の請求項16の溶液の濃縮装置は、霧化機1が、溶液を超音波振動でミストに霧化する超音波振動子2と、この超音波振動子2に接続されて超音波振動子2に高周波電力を供給して超音波振動させる超音波電源3とを備えている。
【0022】
本発明の請求項17の溶液の濃縮装置は、搬送気体分離機6の排出側又は吸入側に、サイクロン、パンチング板、デミスター、シェブロン、スクラバー、スプレー塔、静電回収機のいずれを連結してミストを回収している。
【0023】
本発明の請求項18の溶液の濃縮装置は、搬送気体分離機6に設けている一次側通路8の排出側に、混合流体からミストを凝集させて回収する回収室5を連結している。
【0024】
本発明の請求項19の溶液の濃縮装置は、回収室5に冷却用熱交換器13を設けており、この冷却用熱交換器13で混合流体を冷却してミストを凝集して回収している。
【0025】
本発明の請求項20の溶液の濃縮装置は、回収室5を霧化室4に連結しており、搬送気体分離機6で搬送気体を分離し、さらに回収室5でミストの分離された混合流体を霧化室4に供給している。
【0026】
本発明の請求項21の溶液の濃縮装置は、搬送気体分離機6の一次側通路8を回収室5に連結すると共に、一次側通路8と回収室5には、搬送気体よりも分子量の大きなガスである第2の搬送気体を循環させている。この濃縮装置は、搬送気体分離機6で搬送気体が分離された混合気体のミストを第2の搬送気体で回収室5に搬送し、回収室5でミストを凝集して回収すると共に、ミストの回収された第2の搬送気体を搬送気体分離機6の一次側通路8に供給している。さらに、本発明の請求項22の溶液の濃縮装置は、第2の搬送気体をアルゴンとしている。
【0027】
本発明の請求項23の溶液の濃縮装置は、搬送気体分離機6の二次側排気路9を霧化室4に連結して、搬送気体分離機6の搬送気体透過膜7で混合流体から分離した搬送気体を霧化室4に供給している。
【発明の効果】
【0028】
本発明の溶液の濃縮方法と濃縮装置は、ミストの霧化効率を高くしながら、ミストを効率よく回収して、少ないエネルギーでより効率よく高い濃度に濃縮できる特徴がある。すなわち、本発明は、搬送気体を水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスとすることで、ミストの霧化効率を高くしながら、搬送気体透過膜でもって混合流体から搬送気体をより効果的に分離するふたつの理由によって、溶液を効率よく、より高濃度に濃縮できる。溶液が搬送気体中にミストに霧化する効率は、搬送気体の分子量に影響を受ける。乾燥した搬送気体が含むことができる最大のミスト気化量は、搬送気体の分子量が小さくなると大きくなる。たとえば、従来の搬送気体に使用される空気は、分子量が約29であるが、水素の分子量は2、ヘリウムの分子量は4と空気に比較して極めて小さい。このため、水素やヘリウムは1kgの乾燥ガスに含むことができる最大のミスト気化重量が空気に比較して極めて大きくなる。すなわち、水素やヘリウムは、多量の溶液を気体の状態で含むことができる。この搬送気体は、溶液をミストに霧化できる効率が極めて高くなる。したがって、本発明は、搬送気体を水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスとすることで、溶液をミストに霧化できる効率を高くできる。この混合流体は、搬送気体透過膜を使用して効率よくミストを回収できる。それは、搬送気体透過膜に透過する搬送気体量を少なくして、ミストを回収できるからである。さらに、搬送気体透過膜は、空気よりもさらに効率よく水素やヘリウムを分離できる。それは、水素やヘリウムが、空気に比較して小さいことから、搬送気体透過膜をスムーズに透過するからである。ガスの分子量は分子の大きさを特定するひとつのパラメータで、分子量の小さい水素やヘリウムは空気よりも小さく、搬送気体透過膜を空気よりもスムーズに透過する。このため、搬送気体を水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスとする本発明は、搬送気体透過膜でもって効率よく混合流体から搬送気体を分離できる。搬送気体透過膜で搬送気体の分離された混合流体は、ミストに含まれる目的物質が過飽和な状態となるので、極めて効率よく目的物質を高濃度に回収できる。以上のように、本発明は、溶液を効率よくミストに霧化しながら、搬送気体透過膜に効率よく透過でき、さらに搬送気体透過膜で分離される混合流体の搬送気体量を少なくできることで、全体の効率を相当に向上できる。
【0029】
とくに、本発明の請求項3ないし6の濃縮方法と請求項19の濃縮装置は、搬送気体透過膜で一部の搬送気体を分離した混合流体を、冷却してミストを凝集させて回収するので、冷却のためのエネルギー消費を少なくしながら、効率よく目的物質を回収できる。それは、搬送気体透過膜で搬送気体の除去された混合流体は搬送気体量が少なくなっており、冷却するときに、少ない冷却量で能率よく目的物質を回収できるからである。
【0030】
さらに、本発明の請求項5の濃縮方法と請求項20の濃縮装置は、搬送気体透過膜で一部の搬送気体を分離した後、冷却してミストを凝集させて分離した混合流体を霧化室に循環させているので、エネルギー消費を少なくしながら能率よくミストを発生できる。それは、冷却量の少ない混合流体を霧化室に循環させるので、霧化室において、溶液を加温するエネルギー消費を少なくしながら、溶液をミストに霧化できるからである。
【0031】
さらに、本発明の請求項9の濃縮方法と請求項23の濃縮装置は、搬送気体透過膜で混合流体から分離した搬送気体を霧化室に供給するので、霧化室で効率よくミストを霧化できる特長がある。それは、混合流体から分離された搬送気体が目的物質を含んでいないからである。また、搬送気体透過膜で混合流体から分離された搬送気体は、霧化室でミスト発生に最適な温度にコントロールされた搬送気体であるので、これを霧化室に供給することでミストを効率よく発生できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための溶液の濃縮方法と濃縮装置を例示するものであって、本発明は溶液の濃縮方法と濃縮装置を以下のものに特定しない。
【0033】
さらに、この明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0034】
本発明の溶液の濃縮方法と濃縮装置は、目的物質を含む溶液をミストに霧化した後、ミストを回収して目的物質の溶液を濃縮する。本発明は、母液に目的物質を溶解している溶液から、目的物質の濃縮の高い溶液を得る、すなわち目的物質の濃度を高くして濃縮するものであるが、溶液に含まれる目的物質と母液を特定するものではない。母液は、主として水やアルコール等の溶媒である。たとえば、溶液であるアルコール水溶液は、母液を水、目的物質をアルコールとする。また、アルコールに香料などを溶解した溶液にあっては、母液をアルコール、目的物質を香料とする。さらに、種々の沸点の揮発性石油留分を含むガソリンにあっては、低沸点の揮発性石油留分を目的物質とし、この揮発性石油留分よりも高沸点の揮発性石油留分を母液とする。すなわち、本明細書において、目的物質とは、溶液をミストに霧化し、これを回収して濃度が高くなる物質を意味するものとする。さらに、本明細書において、「ミスト」とは、霧化された微細粒子のみでなく、霧化された微細粒子が気化された状態のものも含む意味に使用する。
【0035】
目的物質を含む溶液は、例えば以下のものである。以下の溶液において、母液は主として水又は溶媒である。目的物質は溶液をミストに霧化し、これを回収して濃縮が高くなる物質である。
(1) バイオマスアルコール
(2) 清酒、ビール、ワイン、食酢、みりん、スピリッツ、焼酎、ブランデー、ウイスキー、リキュール。
(3) ピネン、リナロール、リモネン、ポリフェノール類などの香料、芳香成分ないし香気成分を含む溶液。これらの溶液において、母液は水又はアルコールなどの溶媒である。
(4) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合した物質を含む溶液。
(5) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基をハロゲンによって置き換えた物質を含む溶液。
(6) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基を水酸基によって置き換えた物質を含む溶液。これらの溶液においても母液は溶媒である。
(7) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基をアミノ基によって置き換えた物質を含む溶液。
(8) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基をカルボニル基によって置き換えた物質を含む溶液。
(9) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基をカルボキシル基によって置き換えた物質を含む溶液。
(10) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基をニトロ基によって置き換えた物質を含む溶液。
(11) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基をシアノ基によって置き換えた物質を含む溶液。
(12) 飽和炭化水素であるアルカン、シクロアルカン、不飽和炭化水素であるアルケン、シクロアルケン、アルキン、もしくはエーテル、チオエーテルあるいは芳香族炭化水素のうちいずれかに属する有機化合物、もしくはそれらの結合体の少なくとも一つの水素原子もしくは官能基をメルカプト基によって置き換えた物質を含む溶液。
(13) 前述の(4)〜(12)の目的物質に含まれるいずれか一つ以上の原子を金属イオンによって置換した物質を含む溶液。
(14) 先述の(4)〜(12)の目的物質に含まれる分子のうち任意の水素原子、炭素原子もしくは官能基を(4)〜(12)の分子のうち任意の分子で置き換えた物質を含む溶液
【0036】
母液に目的物質を溶解している溶液は、搬送気体中にミストにして霧化し、これを凝集して回収すると、目的物質の濃度を高くできる。すなわち、溶液から高濃度の目的物質を含む溶液を分離できる。本発明は、表面の溶液をミストに霧化する霧化機を特定するものではないが、この霧化機は、溶液を超音波振動させるもの、溶液をキャピラリーから排出して、これを電極で静電霧化するもの等が使用できる。
【0037】
以下、母液を水、目的物質をアルコールとするアルコール水溶液から、超音波振動でミストを発生させて高濃度なアルコールを得る装置と方法を示す。ただし、本発明は、目的物質をアルコールに特定せず、ミストに霧化し、これを回収して濃度を高くできる全ての目的物質を分離できる。また、溶液をミストに霧化する霧化機を、超音波振動による霧化機に特定せず、たとえば静電霧化等も使用できる。
【0038】
図1ないし図5に示す濃縮装置は、溶液が供給される閉鎖構造の霧化室4と、この霧化室4の溶液をミストに霧化する霧化機1と、霧化室1で霧化されたミストと搬送気体との混合流体から搬送気体を分離する搬送気体分離機6と、この搬送気体分離機6で一部の搬送気体を分離した混合流体を、さらに凝集させて回収する回収室5と、混合流体を移送する強制搬送機10とを備える。
【0039】
搬送気体は、水素又はヘリウムである。ただ、搬送気体は、水素とヘリウムを混合したガス、水素と空気の混合ガス、ヘリウムと空気の混合ガス、あるいはまた、水素とヘリウムと空気の混合ガスも使用できる。このように、搬送気体として、水素又はヘリウムを使用し、あるいは、水素とヘリウムの混合ガスを使用し、あるいはまた、水素又はヘリウムと空気との混合ガスを使用することにより、装置内及びその周辺の酸素濃度を低減できるので、防爆対策としても有用である。
【0040】
溶液は、図6に示すように、ポンプ20で霧化室4に供給される。霧化室4は、供給される全ての溶液をミストとして霧化させない。全ての溶液を霧化して回収室5で回収すると、霧化室4に供給する溶液と、回収室5で回収される溶液のアルコール等の目的物質濃度が同じになるからである。霧化室4に供給された溶液は、ミストとして霧化して容量が少なくなるにしたがって、目的物質の濃度が低下する。このため、ミストに含まれる目的物質の濃度も次第に低下する。霧化室4の溶液は、目的物質濃度が低下すると新しいものに入れ換えられる。
【0041】
霧化室4は、たとえば、目的物質の濃度が10〜50重量%である溶液を霧化して、目的物質の濃度が低下した後、溶液を新しいものに入れ換える。一定の時間経過すると溶液を新しいものに入れ換える方法、すなわちバッチ式に溶液を交換する。ただ、霧化室4に、ポンプ20を介して溶液を蓄えている原液槽21を連結し、原液槽21から連続的に溶液を供給することもできる。この装置は、霧化室4の溶液を排出しながら、原液槽21から溶液を供給して、霧化室4の溶液のアルコール等の目的物質濃度が低下するのを防止する。また、図6の矢印Aで示すように、霧化室4の溶液を原液槽21に循環することなく外部に排出して、原液槽21に含まれる目的物質の濃度が低下するのを防止することもできる。
【0042】
霧化室4の溶液は、霧化機1でミストに霧化される。霧化機1で霧化されたミストは、溶液よりも目的物質濃度が高くなる。したがって、霧化機1で溶液をミストに霧化し、ミストを凝集して回収することで、高濃度な溶液を効率よく分離できる。
【0043】
霧化機1は、複数の超音波振動子2と、この超音波振動子2に高周波電力を供給する超音波電源3とを備える。霧化機1は、好ましくは1MHz以上の周波数で超音波振動されて、溶液を霧化する。この霧化機1を使用すると、溶液を極めて微細なミストに霧化して、より高濃度に濃縮できる特長がある。本発明は、霧化機を超音波振動によるものに特定するものではないが、超音波振動による霧化機においては、振動周波数を1MHzよりも低くすることが可能である。
【0044】
溶液を超音波振動させる霧化機1は、溶液を、霧化室4の溶液よりも高濃度なミストとして溶液面Wから飛散させる。溶液が超音波振動されると、溶液面Wに液柱Pができ、この液柱Pの表面からミストが発生する。霧化機1は、溶液を充填している霧化室4の底に、霧化機1の超音波振動子2を上向きに配設している。超音波振動子2は、底から溶液面Wに向かって上向きに超音波を放射して、溶液面Wを超音波振動させて、液柱Pを発生させる。超音波振動子2は、垂直方向に超音波を放射する。霧化機は、図示しないが、複数の超音波振動子を設けて、これ等の超音波振動子を超音波電源で超音波振動させて、目的物質を含む溶液をより効率よくミストに霧化できる。
【0045】
霧化室4の溶液が超音波振動子2や超音波電源3で高温に過熱されると、品質が低下することがある。この弊害は、超音波振動子2を強制的に冷却して解消できる。さらに、好ましくは超音波電源3も冷却する。超音波電源3は直接には溶液を加熱することはないが、周囲を加熱して間接的に溶液を加熱する。超音波振動子2や超音波電源3は、これ等に冷却パイプを熱結合する状態で配設、すなわち、冷却パイプを接触させる状態で配設して冷却できる。冷却パイプは、冷却機で冷却した液体や冷媒、あるいは地下水や水道水等の冷却水を流して超音波振動子と超音波電源を冷却する。
【0046】
さらに、図6に示す霧化室4は、溶液の温度を制御する温度制御機構22を備える。温度制御機構22は、溶液の温度が所定の温度となるように溶液を冷却する冷却器23を備える。この温度制御機構22は、霧化室4に貯溜された溶液の温度を温度センサー24で検出すると共に、冷却器23を制御して溶液の温度を30℃以下に保持する。このように、温度制御機構22を備える霧化室4は、溶液の温度を管理して、品質の低下を少なくできる。ただ、霧化機は、必ずしも霧化室に温度制御機構を備える必要はない。
【0047】
溶液の温度は、超音波振動で溶液をミストに霧化する効率に影響を与える。溶液の温度が低くなると、ミストに霧化する効率が低下する。溶液は温度を低くして、品質の低下を少なくできる。ただ、溶液温度が低いとミストに霧化する効率が低下するので、溶液の温度は、目的物質が温度で変化する特性を考慮しながら、効率よくミストに霧化できる温度に設定される。温度が高くなっても品質の低下が少なく、あるいは問題にならない目的物質は、溶液の温度を高くして効率よくミストに霧化することができる。
【0048】
さらに、濃縮装置は、図示しないが、霧化室において、超音波振動されて溶液面にできる液柱に搬送気体を風を吹き付ける送風機構を設けることもできる。この送風機構には、たとえば、液柱に搬送気体を吹き付けるファンが使用できる。このように、送風機構で液柱に搬送気体を吹き付ける濃縮装置は、液柱の表面から効率よくミストに霧化できる特長がある。ただ、濃縮装置は、必ずしも送風機構を設けて液柱に搬送気体を吹き付ける必要はない。
【0049】
搬送気体分離機6は、霧化室4から供給された混合流体から搬送気体を分離する。この搬送気体分離機6は、搬送気体透過膜7で内部を一次側通路8と二次側排気路9とに区画している。一次側通路8は、霧化機1に連結されて混合流体を通過させる。二次側排気路9は、搬送気体透過膜7に透過させて混合流体から分離した搬送気体を排気する。
【0050】
搬送気体透過膜7は、搬送気体のみを通過させて、目的物質を通過させない。したがって、この搬送気体透過膜7は、目的物質を通過させないが搬送気体を通過させるポアサイズの膜であるモレキュラーシーブを使用する。目的物質をアルコールとしてこれを濃縮する装置は、この搬送気体透過膜7のポアサイズを、好ましくは0.4nm〜0.5nmとする。この搬送気体透過膜7は、ポアサイズよりも大きいエタノール等の目的物質を通過させないが、ポアサイズよりも小さい、水素、ヘリウム、又は水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスからなる搬送気体を通過させる。以上のポアサイズの搬送気体透過膜7は、たとえば、セラミックの表面にゼオライトをコーティングして製作される。
【0051】
さらに、搬送気体分離機6は、好ましくは、搬送気体透過膜7のガス分離表面を加熱する。図2の搬送気体分離機6は、搬送気体透過膜7のガス分離表面を加熱する加熱器30を備える。図に示す加熱器30は、搬送気体透過膜7の表面に赤外線を照射して加熱する赤外線ヒーターである。ただ、加熱器には、搬送気体透過膜の表面に熱結合させて加熱する面状ヒーターも使用できる。このように、ガス分離表面を加熱器30で加熱する搬送気体透過膜7は、より効率よく搬送気体を通過させて、混合流体から搬送気体を効率よく分離できる。さらに、この濃縮装置は、加熱器30で加熱される搬送気体透過膜7に通過させた搬送気体を霧化室4に循環させるので、霧化室4に供給する搬送気体の温度を高くして、霧化室4における搬送気体へのエタノールの含有量を増加できる特徴もある。
【0052】
搬送気体分離機6は、一次側通路8を霧化室4に連結して、搬送気体透過膜7の一次側表面に混合流体を接触させる。さらに、図1ないし図3、及び図5の装置は、二次側排気路9を強制排気機11に連結し、図2と図4の装置は、一次側通路8に圧縮機12を連結して、一次側表面の圧力を反対側の二次側表面よりも高くして、混合流体の搬送気体を搬送気体透過膜7に透過させて、混合流体の搬送気体の一部あるいは全部を分離している。
【0053】
図1ないし図3、及び図5に示す強制排気機11は、搬送気体を強制的に吸引して排出する真空ポンプ等の吸引ポンプである。強制排気機11は、吸入側を二次側排気路9に連結して、二次側排気路9の搬送気体を強制的に排気する。搬送気体が排気される二次側排気路9は、圧力が大気圧よりも低くなって、一次側通路8よりも低くなる。すなわち、一次側通路8の圧力が二次側排気路9よりも相対的に高くなる。この状態になると、混合流体に含まれる搬送気体は、搬送気体透過膜7を透過して、一次側通路8から二次側排気路9に通過して、混合流体から分離される。
【0054】
図2と図4の装置は、圧縮機12で混合流体を一次側通路8に圧入する。圧縮機12は、吸入側を霧化室4に連結している。図4に示す装置は、搬送気体分離機6の二次側排気路9を、大気に開放している。図2に示す装置は、搬送気体分離機6の二次側排気路9に強制排気機11を連結して、二次側排気路9の圧力を大気圧以下に減圧している。圧縮機12は、混合流体を大気圧以上に加圧して一次側通路8に圧入して、一次側通路8の圧力を二次側排気路9よりも高くする。この状態で、混合流体に含まれる搬送気体は、一次側表面と二次側表面の圧力差で搬送気体透過膜7を透過する。搬送気体透過膜7を透過する搬送気体は、一次側通路8から二次側排気路9に移送されて、混合流体から分離される。この構造は、搬送気体透過膜7の一次側表面と二次側表面の圧力差を大きくできる。このため、混合流体の搬送気体を速やかに分離できる。圧縮機12が、高い圧力で混合流体を一次側通路8に圧入できるからである。
【0055】
圧縮機12には、ピストン式の圧縮機、ロータリー式の圧縮機、ダイヤフラム式の圧縮機は、リショルム式の圧縮機等を使用できる。圧縮機12には、好ましくは混合流体を0.2〜1MPaの圧力に圧送できるタイプのものを使用する。
【0056】
搬送気体分離機6で分離された搬送気体は、目的物質を含まない搬送気体である。図1ないし図3、及び図5の装置は、搬送気体分離機6で分離した搬送気体を霧化室4に供給している。搬送気体分離機6で分離した搬送気体を霧化室4に供給する装置は、霧化室4で効率よくミストを霧化できる。それは、搬送気体分離機6で混合流体から分離された搬送気体が目的物質を含まないからである。また、搬送気体分離機6で分離された搬送気体は、霧化室4でミスト発生に最適な温度にコントロールされた搬送気体であるから、これを霧化室4に供給して、ミストを効率よく発生できる。さらにまた、搬送気体分離機6で分離した搬送気体を霧化室4に供給するので、水素、ヘリウム、又は水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスからなる搬送気体を装置外に排気することなく、霧化室4と搬送気体分離機6とに循環させて繰り返し利用できる。このため、作業環境を悪化させることなく安全に使用できると共に、ランニングコストを低減できる特徴もある。
【0057】
さらに、図4に示す装置は、搬送気体分離機6の二次側排気路9を、大気に開放している。この装置は、搬送気体分離機6で分離した搬送気体を装置外に排気するので、混合流体を移送する搬送気体を補充している。図の装置は、霧化室4に搬送気体を供給する搬送気体供給部25を設けている。この搬送気体供給部25は、搬送気体生成部26と気体搬送機27とからなる。搬送気体生成部26は、例えば、水素発生器である。気体搬送機27は、搬送気体生成部26で生成された搬送気体を霧化室4に強制送風する送風機や圧縮機である。この搬送気体供給部25は、搬送気体生成部26である水素発生器で生成された水素を霧化室4に供給し、あるいは、水素発生器で生成された水素を空気に混合して霧化室4に供給する。
【0058】
搬送気体分離機6で搬送気体の分離された混合流体は、搬送気体の含有量が少なく、いいかえると、搬送気体に対するミスト量が多くなって、ミストの目的物質が過飽和な状態となるので、回収室5において効率よくミストを回収できる。回収室5に供給される混合流体は、搬送気体分離機6で搬送気体を分離しているので、霧化室4から排出される混合流体に比較して搬送気体量が少なくなっている。
【0059】
搬送気体分離機6で一部の搬送気体が分離された混合流体は回収室5に移送される。混合流体は、送風機又は圧縮機からなる強制搬送機10で回収室5に供給される。強制搬送機10は、搬送気体分離機6から回収室5に混合流体を供給するために、搬送気体分離機6と回収室5との間に連結される。強制搬送機10は、搬送気体分離機6で搬送気体の一部を分離した混合流体を回収室5に供給する。
【0060】
図4と図5に示す装置は、強制搬送機10に圧縮機16を使用している。この圧縮機16には、前述の圧縮機12と同じタイプのものが使用できる。強制搬送機10に圧縮機16を使用すると、混合流体を大気圧以上に加圧して回収室5に供給できる。この濃縮装置は、回収室5において、気相中の目的物質の飽和蒸気分圧を大気圧下における飽和蒸気分圧よりも低下させて、ミストをより効果的に凝集させて回収できる。
【0061】
強制搬送機10に圧縮機16を使用して、回収室5の圧力を高くする装置は、回収室5の排出側に絞り弁17を連結する。ただし、圧縮機が回収室に供給する混合流体の流量が多い場合、必ずしも回収室の排出側に絞り弁を設ける必要はない。回収室の排出側の通過抵抗が大きい場合、圧縮機が多量の混合流体を回収室に供給して、回収室の圧力を大気圧以上にできるからである。ただ、回収室の排出側に絞り弁を連結して、効率よく回収室を大気圧以上に加圧できる。絞り弁17は、回収室5から排出される混合流体の通過抵抗を大きくして、回収室5の圧力を高くする。絞り弁17には、開度を調整して混合流体の通過抵抗を調整できる弁、あるいはキャピラリーチューブ等の細管でもって混合流体の通過抵抗を大きくしてなる配管、あるいはまた配管内に混合流体の通過抵抗を大きくする抵抗材を充填しているもの等を使用できる。絞り弁17が通過抵抗を大きくするほど、回収室5の圧力は高くなる。
【0062】
図7は、回収室5が大気圧以上に加圧されるにしたがって、混合流体である搬送気体に含まれる目的物質のエタノール量が減少する状態を示している。このグラフからわかるように、混合流体の搬送気体は、温度が高くなるにしたがって、気体の状態で含有できるエタノール量が増加する。しかしながら、圧力が高くなると気体の状態で含有できるエタノール量は急激に減少する。たとえば、30℃において、乾燥搬送気体に含有できるエタノール量は、圧力を大気圧の0.1MPaから0.5MPaと高くすると、含有できるエタノール量は約1/5と著しく少なくなる。気体の状態で含有できる最大エタノール量が少なくなると、最大エタノール量よりも多量のエタノールは、全て過飽和なミストの状態となって、効率よく回収できる。気体の状態で含有されるエタノールは、これをミストにしないかぎり凝集して回収できない。また、超音波振動が目的物質をミストの状態に霧化しても、これが気体の状態に気化してしまうと、凝集して回収できなくなる。このため、超音波振動でミストになった目的物質は、これを気化させることなく、ミストの状態として回収することが大切である。また、ミストが気化しても、過飽和な状態として再び液化させて回収できる。すなわち、目的物質を効率よく回収するためには、ミストになった目的物質を混合流体に気化させる量をできるかぎり少なくすることが大切である。本発明は、ミストを含む混合流体を大気圧以上に加圧して、目的物質の飽和蒸気分圧を低くし、これによって混合流体に含まれる目的物質を気体の状態でなくてミストの状態として効率よく回収する。混合流体を冷却することで飽和蒸気分圧を低くすることもできるが、加圧する方法は、圧縮機でもって極めて簡単に、しかも少ないエネルギーで効率よく飽和蒸気分圧を低くできる特徴がある。さらに、冷却しながら加圧することで、目的物質の飽和蒸気分圧をさらに低くして、目的物質をさらに効率よく回収するとも可能となる。
【0063】
圧縮機16が混合流体を圧縮すると、混合流体は断熱圧縮されて発熱する。また、混合流体が絞り弁17を通過すると、断熱膨張して冷却される。圧縮機16から回収室5に供給される混合流体は、ミストを効率よく回収するために冷却するのがよく、発熱すると回収効率が悪くなる。この弊害を少なくするために、図5の装置は、絞り弁17の排出側と、圧縮機16の排出側であって回収室5の流入側とを熱交換する排熱用熱交換器18を設けている。この排熱用熱交換器18は、絞り弁17の排出側で断熱膨張して冷却される混合流体でもって、圧縮機16で断熱圧縮して加熱された混合流体を冷却する。
【0064】
排熱用熱交換器18は、循環パイプ19の内部に冷媒を循環させている。循環パイプ19は、一方を絞り弁17の排出側に熱結合して、他方を圧縮機16の排出側に熱結合している。循環パイプ19を循環する冷媒は、絞り弁17の排出側で冷却される。ここで冷却された冷媒が圧縮機16の排出側を冷却する。循環パイプ19は、図示しないが、熱結合させる部分を二重管構造として、混合流体と冷媒とを熱結合している。
【0065】
さらに、図5に示す装置は、絞り弁17の排出側を、冷却用熱交換器13を冷却する凝縮器29に連結する第2排熱用熱交換器28を備える。この第2排熱用熱交換器28は、前述の排熱用熱交換器18と同じ構造で、絞り弁17の排出側で冷媒を冷却し、この冷却された冷媒で凝縮器29を冷却して、凝縮器29の内部を循環する冷媒を液化させる。
【0066】
図1ないし図5に示す回収室5は、ミストを冷却して凝集させる冷却用熱交換器13を内蔵している。冷却用熱交換器13は、図示しないが、熱交換パイプにフィンを固定している。熱交換パイプに冷却用の冷媒や冷却水を循環させて、冷却用熱交換器13を冷却する。霧化室4で霧化されたミストは、一部が気化して気体となるが、気体は回収室5の冷却用熱交換器13で冷却され、結露して凝集されて回収される。回収室5に流入されるミストは、冷却用熱交換器13に衝突し、あるいは互いに衝突して大きく凝集し、または冷却用熱交換器13のフィン等に衝突して大きく凝集して溶液として回収される。ミストと気体を冷却用熱交換器13で凝集して回収した混合流体は、循環ダクト14を介して、再び霧化室4に循環され、あるいは、搬送気体分離機6の一次側通路6に循環され、あるいはまた、霧化室4と搬送気体分離機6の間に循環される。
【0067】
図1、図4、及び図5の装置は、霧化室4と搬送気体分離機6と回収室5とを循環ダクト14で連結して、混合流体を霧化室4と回収室5とに循環させる。これらの装置は、回収室5の排出側を、循環ダクト14を介して霧化室4に連結している。これらの装置は、搬送気体分離機6で搬送気体の分離された混合流体を回収室5で冷却してミストを回収し、さらに、ミストの回収された混合流体を霧化機1に供給する。
【0068】
また、図2と図3の装置は、霧化室4の排出側と搬送気体分離機6の供給側とを循環ダクト14で連結し、さらに、搬送気体分離機6の排出側と回収室5の供給側とを循環ダクト14で連結するが、回収室5の排出側と霧化室4の供給側とを循環ダクトで連結しない。これらの装置は、搬送気体分離機6で分離した搬送気体を霧化室4に循環させ、搬送気体分離機6で搬送気体が分離された混合気体を回収室5に循環させる。
【0069】
図2に示す装置は、回収室5の排出側を、循環ダクト14を介して搬送気体分離機6の一次側通路8に連結している。この装置は、回収室5でミストが回収された混合流体を、再び搬送気体分離機6の一次側通路8の供給側に供給する。搬送気体分離機6の一次側通路8に循環される混合流体は、搬送気体を搬送気体透過膜7に透過させて分離した後、回収室5に移送されて、さらにミストが回収される。
【0070】
さらに、図3に示す装置は、回収室5の排出側を、循環ダクト14を介して、霧化室4と搬送気体分離機6の間に連結している。とくに、この装置は、霧化室4と搬送気体分離機6の間に回収室15を設けており、この回収室15と霧化室4との間に循環ダクト14を介して回収室5の排出側を連結している。この装置は、回収室5でミストが回収された混合流体を、再び、回収部15と搬送気体分離機6の一次側通路8とに循環させる。
【0071】
図3と図4の装置は、霧化室4と搬送気体分離機6の一次側通路8との間に、回収室15を設けている。この回収室15も、前述の回収室5と同様32に、ミストを冷却して凝集させる冷却用熱交換器13を内蔵している。これらの装置は、霧化室4において霧化されたミストを含む混合流体を回収室15で冷却してミストを回収する。すなわち、これらの装置は、霧化室4から移送される混合流体から搬送気体を分離する前工程として、混合流体に含まれるミストを回収室15で回収する。これらの装置は、回収室15で一部のミストを回収した混合流体を搬送気体分離機6に供給し、混合流体から搬送気体を分離する。
【0072】
さらに、図2の装置は、搬送気体分離機6の内部に、水素やヘリウムよりも分子量の大きな気体を充満させると共に、この気体を、搬送気体が分離された混合気体を回収室5に循環させる第2の搬送気体として、回収室5に循環させることもできる。この装置は、たとえば、水素やヘリウム、あるいは、水素とヘリウムの混合ガスからなる搬送気体を霧化室4と搬送気体分離機6とに循環させて、この搬送気体よりも分子量の大きな気体、例えばアルゴン等の気体を第2の搬送気体として、搬送気体分離機6と回収室5とに循環させる。この装置は、水素やヘリウムからなる搬送気体と、アルゴン等である第2の搬送気体とのガスの比重差によって、それぞれの循環路に循環させるガスを分離させることができる。すなわち、図2において、矢印Aで示すように、第1の循環路31に循環させる搬送気体を比重の小さな水素やヘリウムからなるガスとし、矢印Bで示すように、第2の循環路32に循環させる第2の搬送気体を比重の大きなアルゴン等のガスとして、これらのガスを分離させた状態で循環できる。
【0073】
この装置は、分子量の小さな気体である水素やヘリウムを搬送気体として霧化室4に循環させることで、搬送気体に含むことができるミスト気化重量を大きくして、極めて効率よく溶液をミストに霧化しながら搬送し、搬送気体分離機6においては、空気に比較して小さい粒子である水素やヘリウムを、搬送気体透過膜7にスムーズに透過させて混合気体から分離できることに加えて、搬送気体分離機6で搬送気体から分離されたミスト成分を第2の搬送気体で回収室5に搬送して効率よく回収できる。とくに、第2の搬送気体は、搬送気体よりも分子量の大きな気体で構成しているので、搬送気体から分離されて液化したミストを気化させることなく、あるいは気化させる量を少なくしながら回収室5に搬送し、回収室5における回収効率を高くできる。すなわち、分子量の小さい水素やヘリウムからなる搬送気体を霧化室4に循環させて、搬送気体よりも分子量の大きい気体からなる第2の搬送気体を回収室5に循環させることで、これらの気体の特性を有効に利用して、極めて効率よく溶液をミストに霧化しながら搬送して、さらに効率よく回収できる。
【0074】
以上の濃縮装置は、回収室5、15として、混合流体を冷却してミストを凝集させて回収する構造としている。ただ、回収室は、必ずしもミストを冷却して凝集させる機構には特定しない。本発明の濃縮装置は、搬送気体分離機6で搬送気体を分離する前工程でミストを回収する回収室として、サイクロン、パンチング板、デミスター、シェブロン、スクラバー、スプレー塔、静電回収機のいずれかを連結してミストを回収することもできる。さらに、濃縮装置は、図示しないが、搬送気体分離機6の排出側と回収室5との間に、サイクロン、パンチング板、デミスター、シェブロン、スクラバー、スプレー塔、静電回収機のいずれを連結してミストを回収することもできる。
【0075】
さらに、本発明の濃縮装置は、回収室として、溶液を噴霧するノズルを設けて、回収された溶液をこのノズルから噴霧し、回収室内に浮遊するミストに接触させて落下させて、効率よく速やかに回収することもできる。また、回収室は、内部に複数枚の邪魔板を垂直に配設すると共に、混合流体を強制送風して撹拌するファンを設けて、撹拌されるミストを互いに衝突させて凝集し、あるいは、邪魔板の表面に衝突させて凝集して、速やかに回収することもできる。さらにまた、回収室は、ミストを振動して互いに衝突する確率を高くするミスト振動器を設けて、ミスト振動器でミストを激しく振動させて、効率よく衝突させて、速やかに回収することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施例にかかる溶液の濃縮装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の他の実施例にかかる溶液の濃縮装置を示す概略構成図である。
【図3】本発明の他の実施例にかかる溶液の濃縮装置を示す概略構成図である。
【図4】本発明の他の実施例にかかる溶液の濃縮装置を示す概略構成図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかる溶液の濃縮装置を示す概略構成図である。
【図6】超音波霧化室と超音波霧化機の一例を示す概略断面図である。
【図7】加圧下における搬送気体中の絶対エタノール量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1…霧化機
2…超音波振動子
3…超音波電源
4…霧化室
5…回収室
6…搬送気体分離機
7…搬送気体透過膜
8…一次側通路
9…二次側排気路
10…強制搬送機
11…強制排気機
12…圧縮機
13…冷却用熱交換器
14…循環ダクト
15…回収室
16…圧縮機
17…絞り弁
18…排熱用熱交換器
19…循環パイプ
20…ポンプ
21…原液槽
22…温度制御機構
23…冷却器
24…温度センサー
25…搬送気体供給部
26…搬送気体生成部
27…気体搬送機
28…第2排熱用熱交換器
29…凝縮器
30…加熱器
31…第1の循環路
32…第2の循環路
W…溶液面
P…液柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物質を含む溶液を霧化機(1)でミストに霧化して、目的物質を含むミストと搬送気体との混合流体とする霧化工程と、この霧化工程で得られる混合流体からミストを回収する回収工程とからなり、
搬送気体には水素とヘリウムの少なくともいずれかを含むガスを使用すると共に、回収工程においては、ミストに含まれる目的物質を通過させないが水素とヘリウムの少なくともいずれかを含む搬送気体を通過させるポアサイズの搬送気体透過膜(7)を使用し、この搬送気体透過膜(7)に搬送気体を透過させてミストを含む混合流体から搬送気体を分離する溶液の濃縮方法。
【請求項2】
前記霧化機(1)が、溶液を超音波振動させてミストに霧化する請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項3】
前記回収工程において、搬送気体透過膜(7)で搬送気体を分離した混合流体を冷却してミストを回収する請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項4】
前記回収工程において、霧化工程で霧化されたミストを含む混合流体を冷却してミストを回収した後、この混合流体を搬送気体透過膜(7)に透過させて搬送気体を分離し、さらに、搬送気体の分離された混合流体を冷却してミスト成分を回収する請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項5】
前記回収工程において、搬送気体透過膜(7)で搬送気体の分離された混合流体を冷却してミストを回収し、ミストの回収された混合流体を霧化機(1)に供給する請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項6】
前記回収工程において、搬送気体透過膜(7)で搬送気体の分離された混合流体を冷却してミストを回収し、ミストの回収された混合流体を搬送気体透過膜(7)の供給側に循環する請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項7】
前記回収工程において、搬送気体透過膜(7)で搬送気体の分離された混合流体のミストを第2の搬送気体で搬送しながら冷却してミストを回収し、ミストの回収された第2の搬送気体を搬送気体透過膜(7)の供給側に循環させており、この第2の搬送気体には、搬送気体よりも分子量の大きなガスを使用する請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項8】
第2の搬送気体がアルゴンである請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項9】
前記回収工程において、混合流体に含まれる搬送気体を搬送気体透過膜(7)で分離して霧化機(1)に供給する請求項1または7に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項10】
前記回収工程において、搬送気体透過膜(7)を加熱する請求項1に記載される溶液の濃縮方法。
【請求項11】
目的物質を含む溶液を入れる霧化室(4)と、この霧化室(4)の溶液を、水素とヘリウムの少なくともいずれかを含む搬送気体中にミストとして飛散させて溶液のミストと搬送気体の混合流体を発生させる霧化機(1)と、この霧化室(4)に連結されて混合流体から搬送気体を分離する搬送気体分離機(6)とを備え、
搬送気体分離機(6)は、目的物質を通過させないが水素とヘリウムの少なくともいずれかを含む搬送気体を通過させるポアサイズの搬送気体透過膜(7)で内部を区画して、混合流体を通過させる一次側通路(8)と、搬送気体を排気する二次側排気路(9)とを内部に設けており、
この搬送気体分離機(6)は、搬送気体透過膜(7)の一次側表面の圧力を二次側表面よりも高くして、混合流体に含まれる搬送気体を一次側通路(8)から二次側排気路(9)に透過させて混合流体から搬送気体を分離するようにしてなる溶液の濃縮装置。
【請求項12】
前記搬送気体分離機(6)が、二次側排気路(9)に強制排気機(11)を連結しており、この強制排気機(11)でもって二次側排気路(9)の搬送気体を強制的に排気して、搬送気体透過膜(7)の一次側表面の圧力を二次側表面よりも高くしている請求項11に記載される溶液の濃縮装置。
【請求項13】
前記搬送気体分離機(6)が、一次側通路(8)に、霧化室(4)の混合流体を加圧して供給する圧縮機(12)を連結しており、この圧縮機(12)が霧化室(4)の混合流体を一次側通路(8)に圧入して、搬送気体透過膜(7)の一次側表面の圧力を二次側表面よりも高くしている請求項11に記載される溶液の濃縮装置。
【請求項14】
前記搬送気体透過膜(7)が、セラミックの表面にゼオライトをコーティングしてなるろ過材である請求項11ないし13のいずれかに記載される溶液の濃縮装置。
【請求項15】
前記搬送気体分離機(6)が、搬送気体透過膜(7)を加熱する加熱器(30)を備える請求項11ないし13のいずれかに記載される溶液の濃縮装置。
【請求項16】
前記霧化機(1)が、溶液を超音波振動でミストに霧化する超音波振動子(2)と、この超音波振動子(2)に接続されて超音波振動子(2)に高周波電力を供給して超音波振動させる超音波電源(3)とを備える請求項11ないし13のいずれかに記載される溶液の濃縮装置。
【請求項17】
前記搬送気体分離機(6)の排出側又は吸入側に、サイクロン、パンチング板、デミスター、シェブロン、スクラバー、スプレー塔、静電回収機のいずれを連結してミストを回収する請求項11ないし13のいずれかに記載される溶液の濃縮装置。
【請求項18】
前記搬送気体分離機(6)に設けている一次側通路(8)の排出側に、混合流体からミストを凝集させて回収する回収室(5)を連結している請求項11ないし13のいずれかに記載される溶液の濃縮装置。
【請求項19】
回収室(5)に冷却用熱交換器(13)を設けており、この冷却用熱交換器(13)で混合流体を冷却してミストを凝集して回収する請求項18に記載される溶液の濃縮装置。
【請求項20】
回収室(5)を霧化室(4)に連結しており、搬送気体分離機(6)で搬送気体を分離し、さらに回収室(5)でミストの分離された搬送気体を霧化室(4)に供給する請求項18に記載される溶液の濃縮装置。
【請求項21】
前記搬送気体分離機(6)の一次側通路(8)を回収室(5)に連結すると共に、一次側通路(8)と回収室(5)には、搬送気体よりも分子量の大きなガスである第2の搬送気体を循環させており、搬送気体分離機(6)で搬送気体が分離された混合気体のミストを第2の搬送気体で回収室(5)に搬送し、回収室(5)でミストを凝集して回収すると共に、ミストの回収された第2の搬送気体を搬送気体分離機(6)の一次側通路(8)に供給する請求項11ないし13のいずれかに記載される溶液の濃縮装置。
【請求項22】
第2の搬送気体がアルゴンである請求項21に記載される溶液の濃縮装置。
【請求項23】
搬送気体分離機(6)の二次側排気路(9)を霧化室(4)に連結して、搬送気体分離機(6)の搬送気体透過膜(7)で混合流体から分離した搬送気体を霧化室(4)に供給する請求項11ないし13、及び21のいずれかに記載される溶液の濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−142717(P2009−142717A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320219(P2007−320219)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(503268143)超音波醸造所有限会社 (20)
【Fターム(参考)】