説明

溶液中の異物の検査方法、及び溶液中の異物検査用ろ過膜

【課題】溶液中に含まれる異物の組成を簡易かつ安価に分析し、これによって前記異物を簡易かつ安価に同定する新規な方法を提供する。
【解決手段】孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する基材及びこの基材上に、前記貫通孔を残存させた状態で形成された無機膜を含むろ過膜に溶液を通液して、前記ろ過膜の表面に前記溶液中の異物を残存させ、前記ろ過膜の前記表面上に残存した前記異物の組成を分析して、同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中に含まれる異物の検査方法、及びこの検査方法に使用するろ過膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、研磨用スラリー中に含まれる異物や、その他溶液中に含まれる顔料やバクテリアなどの異物を同定すべく、種々の方法が試みられている。このような異物を同定するためには、最初に、前記異物に対して径の大きな所定の貫通孔を有するろ過膜を準備し、このろ過膜に対して溶液を通液させ、前記異物のみを前記ろ過膜上に残存させた後、前記異物に対して組成分析を行うことによって実施している。
【0003】
一方、組成分析法としては、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析(SEM−EDX)を挙げることができる。この方法は、微小領域の成分分析に適しているが、均一な表面の成分分析ができるのみであり、観察表面に付着した微小な異物の分析では、電子線が被検体を透過するため表面成分を強く検出し、被検体の成分を正確に測定することが困難である。
【0004】
例えば、ニュクリポアーメンブレンフィルター(NPMF:ポリカーボネート)上の異物をEDX分析する場合、バックグラウンドであるNPMFの有機成分を検出してしまい、測定する異物が有機物なのか無機物なのか判別が困難である。
【0005】
また、従来の有機物分析方法として、赤外線分光法やラマン分光法等があるが、微小な物質の組成を測定することが困難である。TOF−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析法)を用いていることで、微小な有機物の同定が可能であるが、非常に高価なため限られた研究機関でなければ所有することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、溶液中に含まれる異物の組成を簡易かつ安価に分析し、これによって前記異物を簡易かつ安価に同定する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、
孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する基材及びこの基材上に、前記貫通孔を残存させた状態で無機膜を形成し、これにより作製されたろ過膜に溶液を通液して、前記ろ過膜の表面に前記溶液中の異物を残存させるステップと、
前記ろ過膜の前記表面上に残存した前記異物の組成を分析するステップと、
を具えることを特徴とする、溶液中の異物の検査方法 (第1の検査方法)に関する。
【0008】
また、本発明は、
孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する前記ろ過膜に溶液を通液して、前記ろ過膜の表面に前記溶液中の異物を残存させ、前記溶液中の前記異物の形態を特定するステップと、
前記ろ過膜上にその貫通孔を残存させた状態で無機膜を形成して第2のろ過膜を得、この第2のろ過膜に前記溶液を通液して、前記第2のろ過膜の表面に前記溶液中の前記異物を残存させるとともに前記形態から特定して、前記異物の組成を分析するステップと、
を具えることを特徴とする、溶液中の異物の検査方法(第2の検査方法)に関する。
【0009】
上記第1の検査方法においては、孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する基材上に、前記貫通孔が残存するように無機膜を形成してろ過膜を作製している。したがって、前記ろ過膜に、溶液を通液した場合において、前記貫通孔の孔径よりも大きな異物は、前記ろ過膜の表面に残存するようになる。
【0010】
一方、前記基材は一般に高分子などの有機物等から構成されるので、その内部には炭素や酸素等の元素が多量に含まれてしまう。このため、前記基材のみをろ過膜として用いた場合には、前記異物に対して、例えば走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置を用いた組成分析、すなわちSEM−EDXによる組成分析を実施した場合において、得られた検出結果中には、前記基材中の炭素や酸素等の成分が多量に含まれてしまう。したがって、検出された炭素等が前記異物に起因するような場合であっても、かかる事実を明確に特定することができない。
【0011】
しかしながら、上記第1の検査方法においては、基材上に無機膜を形成してろ過膜としているので、前記異物は前記無機膜上に残存することになる。したがって、上記のようにSEM−EDXによる組成分析を実施した場合においても、前記無機膜の組成成分や厚さ等を適切に制御することによって、分析に使用するX線が前記無機膜を透過して前記基材にまで達する割合が減少し、あるいはほぼ完全に抑制できるようになる。
【0012】
したがって、得られた検出結果中には、前記基材中の炭素や酸素等の成分をほとんど含まなくなる。このため、検出された炭素等はほぼ前記異物に起因するものであることが明らかとなり、他の検出元素等を考慮することによって、前記異物の組成を分析でき、前記異物を同定できるようになる。
【0013】
また、上記第2の検査方法においては、孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有するろ過膜に、溶液を通液した場合において、前記貫通孔の孔径よりも大きな異物は、前記ろ過膜の表面に残存するようになる。この際、前記ろ過膜表面を走査型電子顕微鏡等によって観察することにより、前記異物の形態を予め同定することができるようになる。しかしながら、この状態では、上述したように、前記異物の組成分析は、主として有機物から構成される前記ろ過膜に含まれる炭素等の存在によって確定することができない。
【0014】
したがって、次の工程において、上述した基材上に上記同様の無機膜を形成して第2のろ過膜を形成し、再度第2のろ過膜に前記溶液を通液させると、前記貫通孔の孔径よりも大きな異物は、前記第2のろ過膜の表面に残存するようになる。この際、前記異物の形態は、先の走査型電子顕微鏡による観察によって特定されているので、本ステップにおいては、前記異物に対して直接的にX線照射を行い、SEM−EDXによる組成分析を行うことができる。この結果、前記異物を同定することができるようになる。
【0015】
なお、第1の検査方法でも述べたように、後者のステップにおいては、前記無機膜の組成成分や厚さ等を適切に制御することによって、分析に使用するX線が前記無機膜を透過して前記基材にまで達する割合が減少し、あるいはほぼ完全に抑制できるようになる。したがって、得られた検出結果中には、前記基材中の炭素や酸素等の成分をほとんど含まなくなる。このため、検出された炭素等はほぼ前記異物に起因するものであることが明らかとなり、他の検出元素等を考慮することによって、前記異物の組成を分析でき、前記異物を同定できるようになる。
【0016】
上記第1の検査方法と第2の検査方法とを比較した場合、第2の検査方法においては、予め異物の形態を特定しておくことができるので、無機膜の表面形態が平坦でなく、凹凸を有するような場合においても、前記異物に対してより正確な組成分析を行うことができるようになる。
【0017】
なお、本発明の一例において、前記無機膜は、金属を主成分とすることが好ましい。具体的には、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、白金、金、銀、パラジウムから選択される少なくとも1種の金属から構成することが好ましい。このような金属は比較的X線を透過しにくいという性質を有し、下方に位置する基材あるいはろ過膜からの炭素等の検出度合いを減少させることができるようになる。また、特殊な環境下にしか存在しない金属であるために、上述したSEM−EDX等による組成分析を実施しても、上記金属にかかわる検出元素は異物に起因したものでないことが明白となる。したがって、前記異物の同定をより正確に行うことができる。
【0018】
また、本発明の一例において、前記異物の組成は、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析することができる。これによって、前記異物の同定を簡易かつ安価に行うことができるようになる。
【0019】
さらに、本発明の一例においては、孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する無機成分からなる追加のろ過膜に対して前記溶液を通液して、前記追加のろ過膜の表面に前記溶液中の前記異物を残存させ、前記異物の組成分析を行うステップを具えることができる。この場合、上記基材の影響を排除した組成分析を行うことができるので、前記異物の同定をより正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、高価な装置を使用するTOF−SIMS等によらず、溶液中の異物の組成を簡易に分析し、これによって前記異物を簡易に同定する新規な方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について説明する。
【0022】
(第1の検査方法)
図1及び図2は、第1の検査方法を説明するための概略図である。最初に、図1に示すように、図示しない孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する基材11を準備し、この基材11上に、前記貫通孔を残存させた状態で無機膜12を形成してろ過膜10を構成する。次いで、ろ過膜10に対して所定の溶液を通液させる。すると、図2に示すように、前記溶液はろ過膜10の図示しない貫通孔を透過し、この貫通孔よりも大きな異物19のみがろ過膜10上に残存するようになる。
【0023】
次いで、異物19に対して例えばX線を照射して、SEM−EDXによる組成分析を実施する。この場合、基材11上に無機膜12を形成してろ過膜10としているので、異物19は無機膜12上に残存することになる。したがって、上記のようにSEM−EDXによる組成分析を実施した場合においても、無機膜12の組成成分や厚さ等を適切に制御することによって、分析に使用するX線が無機膜12を透過して基材11にまで達する割合が減少し、あるいはほぼ完全に抑制できるようになる。
【0024】
以下に示すように、基材11は主として高分子化合物等の有機物から構成されるため、上記X線が基材11に達した場合、基材11中に含まれる炭素及び酸素等が検出結果に反映されてしまい、前記炭素等が異物19に起因したものであるのか、基材11に起因したものであるのかが判別できず、異物19の同定を正確に行うことができない。
【0025】
これに対して本実施形態では、X線が基材11にまでほとんど達しないので、検出結果中に含まれる基材11の炭素及び酸素等の割合が減少する。したがって、もし炭素等が検出された場合においても、その炭素等は異物19に起因することが明らかとなるので、異物19の組成分析を正確に行うことができ、同定できるようになる。
【0026】
なお、上記溶液は、異物19を含むような任意のものを用いることができる。例えば、研磨スラリーや、顔料を含む塗料、その他バクテリア等を含む溶液等とすることができる。
【0027】
また、基材11は、対象とするスラリーの性質により、精密ろ過(MF)膜(孔径:0.1〜100μm)、限外ろ過(UF)膜(孔径:2nm〜0.1nm)、ナノろ過(NF)膜(孔径:0.5nm〜2nm)、逆浸透(RO)膜(孔径:0.1nm〜1nm)、平膜、管状膜、中空糸膜など孔径、形状、使用方法を選定するが限定されるものではない。
【0028】
さらに、基材11(ろ過膜10)の貫通孔の孔径は、均一に形成されていない場合には安定して異物の除去を行うことができないおそれが高いため、均一に形成されたものであることが好ましい。このため、例えば、樹脂フィルムをトラックエッチング法により処理して得られるトラックエッチ・メンブレンフィルターであることが特に好ましいものである。
【0029】
このトラックエッチ・メンブレンフィルターの製造方法は、アクセラレーターで加速した高エネルギーの重イオンを薄い樹脂フィルムに照射して、イオンがフィルムを貫通して形成されたトラック(軌跡)を、フィルムエッチング液に浸漬してトラック部分を優先的に溶解させて孔を形成するトラックエッチング法が挙げられる。この方法によれば、重イオンの数量とフィルムの巻き取り速度により単位面積当たりのトラック数(孔密度)をコントロールし、エッチング条件の選択により孔径をコントロールすることができる。
【0030】
ここで、基材11(ろ過膜10)の孔密度は、1×10〜6×10個/cmの範囲、開孔率は<15%であることが、それぞれ好ましく、さらに厚さは6〜11μmであることが好ましい。
【0031】
さらに、基材11(ろ過膜10)の材質は、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられ、ポリカーボネート又はポリエステルであることが、ろ過膜表面が平滑なフィルムを得ることが容易である点で好ましい。このときのろ過膜表面の平滑度、すなわち表面粗さRa=0.01〜1μmの範囲であることが好ましい。この表面粗さは、後の異物検査工程での検査の容易さ、検査結果にも影響を与えるものである。なお、ここでRaは、算術平均高さを示すものであり、JIS B 0601−2001に準拠するものである。
【0032】
以上のことに鑑みると、好ましい基材11(ろ過膜10)として、ニュクリポアー・トラックエッチ・メンブレン(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、商品名:ニュクリポアー・ポリカーボネート・トラックエッチ・メンブレン)が挙げられる。このトラックエッチ・メンブレンフィルターは、孔径が均一でシャープな孔径分布で表面が平滑であるという特徴を持つため、孔径よりも大きな粒子を表面に捕捉し、検査を行うという本発明で求められる機能を有する好ましいものである。
【0033】
また、無機膜12は、上述のようにSEM−EDX等の組成分析を行う場合、基材11の構成成分を検出しないように、X線をなるべく透過しないような材料及び厚さ等に設定する。さらに、異物19に同定を簡易に実行すべく、通常の環境下にはあまり存在しないような材料から構成することが好ましい。このような観点から、無機膜12は、金属を主成分とする、具体的には、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、白金、金、銀、パラジウムから選択される少なくとも1種の金属から構成することが好ましい。
【0034】
また、無機膜12の厚さは、3nm〜100nmとすることが好ましい。
【0035】
なお、無機膜12は、抵抗過熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法、イオンめっき法、イオンビームデポジション法、及びスパッタ蒸着法から選択される少なくとも1種の方法を用いて形成することができる。これによって、無機膜12を基材11上に簡易かつ密着性良く形成することができる。なお、無機膜12が比較的厚い場合は、接着剤(例えば両面テープ)等で基材11に固定することもできる。
【0036】
また、異物19の組成分析をSEM−EDX法によって実施する場合、走査型電子顕微鏡(SEM)は、ろ過膜表面の孔、異物の形態を観察するのに十分な分解能をもっていればよく、特に限定されるものではないが、最小粒径1nmを測定する分解能を有していることが好ましい。
【0037】
走査型電子顕微鏡は、真空中で細く絞った電子線を試料の表面に走査しながら照射し、試料の表面から反射又は透過する電子線の電子光学的結像を陰極線管上で観察する装置である。この際、電子線を照射するため、試料が被導電性の場合には、照射された電子が蓄積し、正しい像が得られなくなるため、表面に導電性の薄膜を形成して電子の蓄積を防ぐ必要がある。導電性薄膜を形成する方法としては、真空蒸着法とイオンスパッタリング法を用いることができる。
【0038】
また、測定時の倍率は500〜50000倍で行うようにすればよい。ろ過膜表面の孔や孔より大きい異物を観察する場合(最小粒径 1μm程度)には、500〜10000倍の倍率で行うことが好ましく、スラリー粒の凝集状態を観察したり、異物の表面状態を観察したりする場合(最小粒径 10nm程度)には、10000〜50000倍の倍率で行うことが好ましい。
【0039】
なお、本実施形態においては、SEM−EDX法によって異物19の同定を実施しているが、必要に応じて適宜任意の分析方法を用いることができる。
【0040】
また、本実施形態においては、上述のようにして分析を実施した後、図示しない孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する金属からなる追加のろ過膜を準備し、この追加のろ過膜に対して再度同じ溶液を通液させ、上記異物19を前記追加のろ過膜上に残存させることができる。この場合、前記追加のろ過膜は、金属から構成されることに起因して、その表面は粗く凹凸状を呈するので、この状態で目的とする異物19を十分に特定することは困難である。しかしながら、ろ過膜10を用いた観察によって、異物19の形状は予め分かっているので、かかる情報から、前記追加のろ過膜上での異物19を特定できるようになる。
【0041】
一方、前記追加のろ過膜を用いた場合は、ろ過膜10の基材11の影響を排除できるので、異物19の同定をより正確に行うことが可能となる。
なお、上記追加のろ過膜は、Agメンブレンフィルターとすることができる。
【0042】
(第2の検査方法)
図3〜6は、第2の検査方法を説明するための概略図である。最初に、図3に示すように、図示しない孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有するろ過膜21を準備し、このろ過膜21に所定の溶液を通液させる。すると、図4に示すように、前記溶液はろ過膜21の図示しない貫通孔を透過し、この貫通孔よりも大きな異物29のみがろ過膜21上に残存するようになる。
【0043】
このとき、異物29を例えば走査型電子顕微鏡で観察し、その形態を予め特定しておく。
【0044】
次いで、図5に示すように、ろ過膜21上に、前記貫通孔を残存させた状態で無機膜22を形成して第2のろ過膜20を構成する。次いで、第2のろ過膜20に対して上記溶液を再度通液させる。すると、図6に示すように、前記溶液は第2のろ過膜20の図示しない貫通孔を透過し、この貫通孔よりも大きな先と同じ異物29のみが第2のろ過膜20上に残存するようになる。
【0045】
このとき、先のろ過膜21のみを使用した場合において、異物29の形態が予め特定されているので、SEM−EDXによる組成分析を実施する際に、X線を異物29に対して正確に照射することができるようになる。したがって、上記のようにSEM−EDXによる組成分析を実施した場合において、異物29の組成分析を正確に実施することができるようになる。
【0046】
また、無機膜22の組成成分や厚さ等を適切に制御することによって、分析に使用するX線が無機膜22を透過してろ過膜21にまで達する割合が減少し、あるいはほぼ完全に抑制できるようになる。以下に示すように、ろ過膜21は主として高分子化合物等の有機物から構成されるため、上記X線がろ過膜21に達した場合、ろ過膜21中に含まれる炭素等が検出結果に反映されてしまい、前記炭素等が異物29に起因したものであるのか、ろ過膜21に起因したものであるのかが判別できず、異物29の同定を正確に行うことができない。
【0047】
これに対して本実施形態では、X線がろ過膜21にまでほとんど達しないので、検出結果中に含まれるろ過膜21の炭素等の割合が減少する。したがって、もし炭素等が検出された場合においても、その炭素等は異物29に起因することが明らかとなるので、異物29の組成分析を正確に行うことができ、同定できるようになる。
【0048】
すなわち、本実施形態では、異物29の特定と、ろ過膜等に起因した炭素等の成分元素割合の減少との相乗効果によって、異物29の組成分析をより正確に行うことができ、同定することができる。
【0049】
なお、上記溶液は、異物29を含むような任意のものを用いることができる。例えば、研磨スラリーや、顔料を含む塗料、その他バクテリア等を含む溶液等とすることができる。
【0050】
なお、ろ過膜21は、対象とするスラリーの性質により、精密ろ過(MF)膜(孔径:0.1〜100μm)、限外ろ過(UF)膜(孔径:2nm〜0.1nm)、ナノろ過(NF)膜(孔径:0.5nm〜2nm)、逆浸透(RO)膜(孔径:0.1nm〜1nm)、平膜、管状膜、中空糸膜など孔径、形状、使用方法を選定するが限定されるものではない。
【0051】
また、ろ過膜21の貫通孔の孔径は、均一に形成されていない場合には安定して異物の除去を行うことができないおそれが高いため、均一に形成されたものであることが好ましい。このため、例えば、樹脂フィルムをトラックエッチング法により処理して得られるトラックエッチ・メンブレンフィルターであることが特に好ましいものである。
【0052】
このトラックエッチ・メンブレンフィルターの製造方法は、アクセラレーターで加速した高エネルギーの重イオンを薄い樹脂フィルムに照射して、イオンがフィルムを貫通して形成されたトラック(軌跡)を、フィルムエッチング液に浸漬してトラック部分を優先的に溶解させて孔を形成するトラックエッチング法が挙げられる。この方法によれば、重イオンの数量とフィルムの巻き取り速度により単位面積当たりのトラック数(孔密度)をコントロールし、エッチング条件の選択により孔径をコントロールすることができる。
【0053】
ここで、ろ過膜21の孔密度は、1×10〜6×10個/cmの範囲、開孔率は<15%であることが、それぞれ好ましく、さらに厚さは6〜11μmであることが好ましい。
【0054】
さらに、ろ過膜21の材質は、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられ、ポリカーボネート又はポリエステルであることが、ろ過膜表面が平滑なフィルムを得ることが容易である点で好ましい。このときのろ過膜表面の平滑度、すなわち表面粗さRa=0.01〜1μmの範囲であることが好ましい。この表面粗さは、後の異物検査工程での検査の容易さ、検査結果にも影響を与えるものである。なお、ここでRaは、算術平均高さを示すものであり、JIS B 0601−2001に準拠するものである。
【0055】
以上のことに鑑みると、好ましいろ過膜21として、ニュクリポアー・トラックエッチ・メンブレン(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、商品名:ニュクリポアー・ポリカーボネート・トラックエッチ・メンブレン)が挙げられる。このトラックエッチ・メンブレンフィルターは、孔径が均一でシャープな孔径分布で表面が平滑であるという特徴を持つため、孔径よりも大きな粒子を表面に捕捉し、検査を行うという本発明で求められる機能を有する好ましいものである。
【0056】
また、無機膜22は、上述のようにSEM−EDX等の組成分析を行う場合、ろ過膜21の構成成分を検出しないように、X線をなるべく透過しないような材料及び厚さ等に設定する。さらに、異物29に同定を簡易に実行すべく、通常の環境下にあまり存在しないような材料から構成することが好ましい。このような観点から、無機膜22は、金属を主成分とする、具体的にはアルミニウム、亜鉛、ニッケル、白金、金、銀、パラジウムから選択される少なくとも1種の金属から構成することが好ましい。
【0057】
また、無機膜22の厚さは、3nm〜100nmとすることが好ましい。
【0058】
なお、無機膜22は、抵抗過熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法、イオンめっき法、イオンビームデポジション法、及びスパッタ蒸着法から選択される少なくとも1種の方法を用いて形成することができる。これによって、無機膜22をろ過膜21上に簡易かつ密着性良く形成することができる。なお、無機膜22が比較的厚い場合は、接着剤(例えば両面テープ)等でろ過膜21に固定することもできる。
【0059】
また、異物29の組成分析をSEM−EDX法によって実施する場合、走査型電子顕微鏡(SEM)は、ろ過膜表面の孔、異物の形態を観察するのに十分な分解能をもっていればよく、特に限定されるものではないが、最小粒径1nmを測定する分解能を有していることが好ましい。
【0060】
また、測定時の倍率は500〜50000倍で行うようにすればよい。ろ過膜表面の孔や孔より大きい異物を観察する場合(最小粒径 1μm程度)には、500〜10000倍の倍率で行うことが好ましく、スラリー粒の凝集状態を観察したり、異物の表面状態を観察したりする場合(最小粒径 10nm程度)には、10000〜50000倍の倍率で行うことが好ましい。
【0061】
なお、本実施形態においては、SEM−EDX法によって異物29の同定を実施しているが、必要に応じて適宜任意の分析方法を用いることができる。
【0062】
また、本実施形態においても、上述のようにして分析を実施した後、図示しない孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する金属からなる追加のろ過膜を準備し、この追加のろ過膜に対して再度同じ溶液を通液させ、上記異物19を前記追加のろ過膜上に残存させることができる。この場合、前記追加のろ過膜は、金属から構成されることに起因して、その表面は粗く凹凸状を呈するので、この状態で目的とする異物19を十分に特定することは困難である。しかしながら、第2のろ過膜20を用いた観察によって、異物19の形状は予め分かっているので、かかる情報から、前記追加のろ過膜上での異物19を特定できるようになる。
【0063】
一方、前記追加のろ過膜を用いた場合は、第2のろ過膜20のろ過膜(基材)21の影響を排除できるので、異物19の同定をより正確に行うことが可能となる。
なお、上記追加のろ過膜は、Agメンブレンフィルターとすることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、本実施例においては、上述した第2の検査方法を用いて異物の同定を実施した。
【0065】
ホルダーに孔径3.0μmのニュクリポアーメンブレンフィルター(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、商品名:ニュクリポアー・ポリカーボネート・トラックエッチ・メンブレン)をろ過膜としてセットし、シリンジに5mLの純水を採取してホルダー上部より注入して空気を抜いた。空気抜きはろ過ムラを生じさせないために行うものである。
【0066】
次いで、コロイダルシリカスラリー(シグマ―アルドリッチ社製:LUDOX TM-40 コロイダルシリカ 40wt%水溶液)をシリカ濃度1%になるように希釈して試験試料とした。希釈処理を行ったスラリーを10mL シリンジに採取し、シリンジをホルダー上部にセットし、手押しでろ過を行った。
【0067】
試料のろ過後、フィルターに純水50mLをシリンジにて供給、ろ過し、フィルター表面の洗浄を行った。これによりスラリー溶解成分の洗浄を行い、フィルター表面に残っていた砥粒はフィルター孔径より小さいため、フィルター表面から除去され、表面には異物が捕捉された。
【0068】
次に、異物が表面に捕捉されたフィルターを走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S−4100型)の試料台に両面テープで固定し、SEM観察をして、異物の形態を特定した。
【0069】
次に、上記ニュクリポアーメンブレンフィルター上にPt-Pdを厚さ30nmにスパッタリング法により形成し、第2のろ過膜を形成した。次いで、上述した試験試料を段落[0066]と同様にろ過を行った。
【0070】
試料のろ過後、第2のろ過膜に純水50mLをシリンジにて供給、ろ過し、第2のろ過膜表面の洗浄を行った。これによりスラリー溶解成分の洗浄を行い、第2のろ過膜表面に残っていた砥粒はフィルター孔径より小さいため、第2のろ過膜表面から除去され、表面には異物が捕捉された。
【0071】
次に、エネルギー分散型X線分析装置(EDX;エダックス・ジャパン株式会社製、商品名:Genesis)によって、予め形態が特定されている前記異物に対してX線照射を実施し、組成分析を実施した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
次いで、Agメンブレンフィルターを追加のろ過膜として準備し、次いで、上述した試験試料を段落[0066]と同様にでろ過を行った。
【0074】
試料のろ過後、前記追加のろ過膜に純水50mLをシリンジにて供給、ろ過し、前記追加のろ過膜表面の洗浄を行った。これによりスラリー溶解成分の洗浄を行い、前記追加のろ過膜表面に残っていた砥粒はフィルター孔径より小さいため、前記追加のろ過膜表面から除去され、表面には異物が捕捉された。
【0075】
次に、エネルギー分散型X線分析装置(EDX;エダックス・ジャパン株式会社製、商品名:Genesis)によって、予め形態が特定されている前記異物に対してX線照射を実施し、組成分析を実施した。結果を表2に示す。なお、参考のため、上記ニュクリポアーメンブレンフィルター上に残存した異物の組成分析結果に関して表3に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
表1から明らかなように、多量に検出されたPt及びPdは、上述のようにして形成したPt−Pd膜に起因するものと考えられる。同様に多量に検出されたSi及びOは、主として上記異物に起因するものであると考えられる。なお、表1と表3との比較から、本実施例においては、基材である上記ニュクリポアーメンブレンフィルターからの炭素成分が減少し、検出感度が増大していることが分かる。
【0079】
また、表2から明らかなように、Agメンブレンフィルターを用いた分析では、多量に検出されたAgは、前記Agメンブレンフィルターに起因するものと考えられる。一方、同様に多量に検出されたSi及びOは、主として上記異物に起因するものであると考えられる。なお、微量に検出された炭素は、上記Ag、Si及びOに比較して極めて微量であるので、組成分析において不可避的に混入した何らかの有機不純物等に起因すると考えられる。
【0080】
以上のことから、上記異物は主としてSi及びOから構成されることが推定され、その割合は、Si:O=27/28(Siの原子量):35/16(Oの原子量)=1:2.3であることが分かる。したがって、上記異物は、ほぼSiOであることが分かる。
【0081】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1の検査方法を説明するための概略図である。
【図2】同じく、第1の検査方法を説明するための概略図である。
【図3】第2の検査方法を説明するための概略図である。
【図4】同じく、第2の検査方法を説明するための概略図である。
【図5】同じく、第2の検査方法を説明するための概略図である。
【図6】同じく、第2の検査方法を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0083】
10 ろ過膜
11 基材
12 無機膜
19 異物
20 第2のろ過膜
21 ろ過膜
22 無機膜
29 異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する基材及びこの基材上に、前記貫通孔を残存させた状態で無機膜を形成し、これにより作製されたろ過膜に溶液を通液して、前記ろ過膜の表面に前記溶液中の異物を残存させるステップと、
前記ろ過膜の前記表面上に残存した前記異物の組成を分析するステップと、
を具えることを特徴とする、溶液中の異物の検査方法。
【請求項2】
前記異物の組成は、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析することを特徴とする、請求項1に記載の溶液中の異物の検査方法。
【請求項3】
孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有するろ過膜に溶液を通液して、前記ろ過膜の表面に前記溶液中の異物を残存させ、前記溶液中の前記異物の形態を特定するステップと、
前記ろ過膜上にその貫通孔を残存させた状態で無機膜を形成して第2のろ過膜を得、この第2のろ過膜に前記溶液を通液して、前記第2のろ過膜の表面に前記溶液中の前記異物を残存させるとともに前記形態から特定して、前記異物の組成を分析するステップと、
を具えることを特徴とする、溶液中の異物の検査方法。
【請求項4】
前記微小異物の組成は、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析することを特徴とする、請求項3に記載の溶液中の異物の検査方法。
【請求項5】
孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する無機成分からなる追加のろ過膜に対して前記溶液を通液して、前記追加のろ過膜の表面に前記溶液中の前記異物を残存させ、前記異物の組成分析を行うステップと、
を具えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の溶液中の異物の検査方法。
【請求項6】
孔径が0.1nm〜100μmの貫通孔を有する基材と、前記基材上に、前記貫通孔を残存させた状態で形成された無機膜とを含むことを特徴とする、溶液中の異物検査用ろ過膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−139109(P2009−139109A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312787(P2007−312787)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】