説明

溶液製膜方法及び溶液製膜設備

【課題】フイルムを効率よく製造する。
【解決手段】走行する周面82bへの流延ドープ51の流出により、流延膜53が形成される。流延膜53は、冷却され、自己支持性を有する。剥取ローラ83は、流延膜53を剥ぎ取り第1湿潤フイルム55として渡り部63へ送る。渡り部63等を経た第1湿潤フイルム55は、第1乾燥室67へ案内される。第1乾燥室67では、水蒸気を含む湿潤気体400を第1湿潤フイルム55にあてる。水分子が第1湿潤フイルム55に吸収される。第1湿潤フイルム55に吸収された水分子は、第1湿潤フイルム55の網目構造の目を押し広げる。第1湿潤フイルム55に含まれる溶媒化合物の拡散が促進され、溶媒化合物の放出が容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法及び溶液製膜設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルム(以下、フイルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フイルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフイルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフイルム用の支持体として利用されている。また、TACフイルムは光学等方性に優れることから、市場が急激に拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フイルム,光学補償フイルム,視野角拡大フイルムなどの光学機能性フイルムに用いられている。
【0003】
フイルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフイルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フイルムの厚さの精度を調節することが難しく、また、フイルム上に細かいスジ(ダイライン)ができやすいため、光学機能性フイルムとして使用することができるような高品質のフイルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流延し、流延膜を形成し、流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フイルムとし、湿潤フイルムを乾燥しフイルムとして巻き取る方法である。この溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフイルムを得ることができるため、フイルム、特に光学機能性フイルムの製造方法として、溶液製膜方法が採用されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−306052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年において、液晶表示装置の需要の急速な増加に伴い、生産効率の高い溶液製膜方法が強く望まれている。溶液製膜方法において、フイルム製造に要する時間の大部分が、流延膜や湿潤フイルム等に残留する溶媒を除去する乾燥工程で占められている。したがって、溶液製膜方法における生産効率の向上のために、乾燥工程に要する時間を短縮化することが検討されている。
【0005】
特許文献1に記載される溶液製膜方法によれば、乾燥の進行の度合いに応じて、湿潤フイルムの表面温度を調節することにより、乾燥工程に要する時間の短縮について一定の効果が得られるとしているが、湿潤フイルムの膜厚が厚くなると、湿潤フイルムの表面温度のみを調節する乾燥工程では、湿潤フイルムの表面から離れた、すなわち湿潤フイルムの内部に潜り込んだ溶媒を除去することが困難となり、結果として、乾燥時間を短縮することができなかった。特に、湿潤フイルムの膜厚が100μmを超えると、乾燥時間の長期化が深刻な問題となっている。
【0006】
このように、湿潤フイルムの内部に潜り込んだ溶媒を除去するためには、湿潤フイルムの乾燥処理をより高温で行う方法が知られている。しかしながら、乾燥処理の高温化は、フイルムの原料となるポリマーの熱分解などを誘発し、結果として、フイルムの光学特性や機械特性等の劣化の原因となるため、好ましくない。したがって、特許文献1における溶液製膜方法やその他の公知技術を用いて、厚さが一定値以上のフイルムを効率よく製造することには限界がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、フイルムを効率よく製造することのできる溶液製膜方法及び溶液製膜設備を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フイルムとして剥ぎ取り、前記湿潤フイルムを乾燥して、フイルムを得る溶液製膜方法において、前記溶媒をなす溶媒化合物よりもモル体積が小さい小体積化合物を含む乾燥気体中で、前記湿潤フイルムを乾燥する乾燥工程を備えることを特徴とする。
【0009】
前記溶媒を構成する化合物のうち、最もモル体積が小さい化合物を前記溶媒化合物とすることが好ましい。また、前記乾燥気体における前記小体積化合物の飽和蒸気量をMSとするときに、前記乾燥気体が0.3MS以上MS以下の前記小体積化合物を含むことが好ましい。前記乾燥気体の温度が、前記小体積化合物の沸点(℃)以上前記沸点(℃)の3倍以下であることが好ましい。
【0010】
前記溶媒化合物が、メチレンクロライド、メタノール、エタノール、ブタノールのうち少なくとも1つを含み、前記小体積化合物が水、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0011】
テンタ式乾燥機により乾燥処理を施された前記湿潤フイルムに、前記乾燥工程を行うことが好ましい。また、前記乾燥工程を経た前記湿潤フイルムに熱風をあてる熱風乾燥工程を有することが好ましい。
【0012】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フイルムとして剥ぎ取り、前記湿潤フイルムを乾燥して、フイルムを得る溶液製膜設備において、前記溶媒をなす溶媒化合物よりもモル体積が小さい小体積化合物を含む乾燥気体中で前記湿潤フイルムを乾燥する乾燥手段を備えることを特徴とする。
【0013】
前記乾燥手段は、前記湿潤フイルムを巻きかけ、搬送する複数のローラと、前記ローラを収納する乾燥室と、前記乾燥室内で前記乾燥気体を循環させる乾燥気体供給ユニットとを有することが好ましい。また、前記乾燥手段の上流側に配され、前記湿潤フイルムの両側縁部を把持して、搬送し、乾燥気体をあてるテンタ式乾燥機を備えることが好ましい。そして、前記乾燥手段の下流に配され、前記乾燥手段を経た前記湿潤フイルムに熱風をあてる熱風乾燥手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶液製膜方法によれば、小体積化合物を含む乾燥気体中で、湿潤フイルムを乾燥するため、小体積化合物が湿潤フイルムに吸収される。前記湿潤フイルムに吸収された小体積化合物は、ポリマーの網目構造の目を押し広げるため、湿潤フイルム中に残存する溶媒化合物が、乾燥が頻繁に行われる表面近傍まで容易に拡散し、結果として、溶媒の除去が容易になる。したがって、本発明によれば、高温域での乾燥処理を行わずに、前記湿潤フイルム中に残存する溶媒化合物の拡散を向上させることができるため、ポリマー分子等の熱分解などを回避しつつ、効率よくフイルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0016】
(ポリマー)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0017】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0018】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0019】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基により置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0020】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0021】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0022】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0023】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0024】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0025】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0026】
(ドープ製造方法)
図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ製造ライン10には、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどとを混合するための溶解タンク13と、溶解タンク13にTACを供給するためのホッパ14、添加剤液を貯留するための添加剤タンク15と、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置18と、調製されたドープの温度を調整する温調機19と、ドープを濾過する濾過装置20と、ドープを濃縮するフラッシュ装置21,濃縮後のドープを濾過する濾過装置22などが備えられている。また、溶媒を回収するための回収装置23と、回収された溶媒を再生するための再生装置24とが備えられている。また、溶解タンク13の下流にはポンプ25が設けられ、フラッシュ装置21の下流にはポンプ26が設けられる。ポンプ25は溶解タンク13中の膨潤液44を加熱装置18に送り、ポンプ26はフラッシュ装置21中の濃縮後のドープを濾過装置22に送る。そして、濾過装置20,22の下流側には、ストックタンク30が接続する。ドープ製造ライン10は、ストックタンク30を介してフイルム製造ライン32に接続されている。
【0027】
初めに、溶媒タンク11と溶解タンク13とを接続する配管に設けられたバルブ35を開き、溶媒を溶媒タンク11から溶解タンク13に送る。次に、ホッパ14に入れられているTACを計量しながら溶解タンク13に送り込む。添加剤タンク15と溶解タンク13とを接続する配管に設けられたバルブ36の開閉操作を行って、必要量の添加剤溶液を添加剤タンク15から溶解タンク13に送り込む。なお、添加剤は溶液として送り込む方法以外にも、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク13に送り込むことも可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ14を用いて溶解タンク13に送り込むことも可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、多数の添加剤タンク15を用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンク13に送り込むこともできる。
【0028】
前述した説明においては、溶解タンク13に入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。TACを計量しながら溶解タンク13に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク13に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物に混合させることもできる。
【0029】
溶解タンク13には、その外面を包み込むジャケット37と、モータ38により回転する第1攪拌翼39とが備えられている。さらに、溶解タンク13には、モータ40により回転する第2攪拌翼41が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌翼39は、アンカー翼であることが好ましく、第2攪拌翼41は、ディゾルバータイプのものを用いることが好ましい。ジャケット37に伝熱媒体を流して溶解タンク13内を−10℃以上55℃以下の範囲に温度調整することが好ましい。第1攪拌翼39,第2攪拌翼41を適宜選択して回転させることでTACが溶媒中で膨潤した膨潤液44を得ることができる。
【0030】
膨潤液44をポンプ25により加熱装置18に送液する。加熱装置18は、ジャケット付き配管を用いることが好ましく、更に膨潤液44を加圧できる構成であることが好ましい。膨潤液44を加熱または加圧加熱条件下でTACなどを溶媒に溶解させてドープを得る。なお、この場合に膨潤液44の温度は、0℃以上97℃以下であることが好ましい。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に十分溶解させることが可能となる。温調機19によりドープの温度を略室温とした後に、濾過装置20により濾過を行いドープ中の不純物を取り除く。濾過装置20の濾過フィルタの平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/時以上であることが好ましい。濾過後のドープは、バルブ46を介してストックタンク30に入れられる。
【0031】
前記ドープは、後述する原料ドープとして用いることが可能である。しかしながら、膨潤液44を調製した後にTACを溶解させる方法は、TACの濃度を上昇させるほど時間がかかりコストの点で問題が生じる場合がある。その場合には、目的とするTAC濃度より低濃度のドープを調製した後に目的とする濃度のドープを調製する濃縮工程を行うことが好ましい。濾過装置20で濾過されたドープを、バルブ46を介してフラッシュ装置21に送液する。フラッシュ装置21内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発した溶媒は、凝縮器(図示しない)により液体とした後に回収装置23で回収する。その溶媒は再生装置24によりドープ調製用の溶媒として再生を行い再利用することがコストの点から有利である。
【0032】
濃縮されたドープをフラッシュ装置21からポンプ26を用いて抜き出す。さらに、ドープ中の泡抜きを行うことが好ましい。泡抜きは、公知のいずれの方法により行っても良く、例えば超音波照射法が挙げられる。その後に濾過装置22に送液して異物の除去を行う。なお、この際にドープの温度が0℃以上200℃以下であることが好ましい。そして、ストックタンク30にドープを入れる。
【0033】
これらの方法により、TAC濃度が所定の範囲のドープを製造することができる。なお、製造されたドープ(以下、原料ドープと称する)48は、ストックタンク30に貯蔵される。
【0034】
なお、ドープ製造ライン10において、原料ドープ48に用いるポリマーとしてTACを用いたが、本発明におけるポリマーとしては、TACに限らず、その他のセルロースアシレートを用いてもよい。
【0035】
上述したドープ製造ライン10での、素材、原料、添加剤の溶解方法、濾過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0036】
(フイルム製造工程)
次に、本発明のフイルム製造工程50について説明する。図2のように、フイルム製造工程50は、上記で得られた原料ドープ48から流延ドープ51を調製する流延ドープ調製工程52と、流延ドープ51を走行する支持体上に流延して流延膜53を形成する流延工程54と、自己支持性を有する流延膜53を支持体から剥ぎ取って第1湿潤フイルム55とする剥取工程56と、溶媒をなす化合物(以下、溶媒化合物と称する)が残留する第1湿潤フイルム55を、溶媒化合物よりもモル体積の小さい化合物(以下、小体積化合物と称する)を含む第1乾燥気体と接触させて、前記溶媒化合物を放出し、第2湿潤フイルム57とする第1乾燥工程58と、第2湿潤フイルム57に残留する小体積化合物や溶媒化合物を放出させる第2乾燥気体を、第2湿潤フイルム57に接触させる第2乾燥工程60とを有する。なお、第2乾燥工程60の後に、このフイルム59をロールに巻き取り、フイルムロールとする巻取工程を行っても良い。
【0037】
(溶液製膜方法)
図3に、本実施形態で用いるフイルム製造ライン32の概略図を示す。フイルム製造ライン32は、流延室62と渡り部63とピンテンタ64と耳切装置65と第1乾燥室66と第2乾燥室67と冷却室68と巻取室69とを有する。
【0038】
ストックタンク30には、モータ30aで回転する攪拌翼30bとジャケット30cとが備えられており、その内部にはフイルム59の原料となる原料ドープ48が貯留されている。ストックタンク30は、常時、その外周面に設けられているジャケット30cにより、原料ドープ48の温度が略一定となるように調整されるとともに、攪拌翼30bが回転されているので、ポリマーなどの凝集を抑制しながら、原料ドープ48の均一な品質が保持されている。
【0039】
ストックタンク30は、配管71により、流延室62と接続する。配管71には、ギアポンプ73と濾過装置74とインラインミキサ75とが備えられている。配管71のインラインミキサ75の上流側には添加剤供給ライン78が接続する。添加剤供給ライン78は、所定量の紫外線吸収剤、マット剤やレターデーション制御剤などの添加剤、或いはこれらを含む高分子溶液(以下、これらを混合添加剤と称する。)を、配管71中の原料ドープ48へ添加する。インラインミキサ75は、原料ドープ48と混合添加剤とを攪拌混合し、流延ドープ51を調製する。
【0040】
ギアポンプ73は、流延制御部79と接続する。流延制御部79の制御の下、ギアポンプ73は、流延ドープ51を所定の流量で、流延室62内に配される流延ダイ81へ送る。
【0041】
流延室62には、流延ドープ51を流出する流延ダイ81と、支持体であり、流延ドープ51から流延膜53を形成するキャスティングドラム(以下、流延ドラムと称する)82と、流延ドラム82から流延膜53を剥ぎ取る剥取ローラ83と、流延室62の内部温度を所定の範囲に保つ温調設備86と流延室62内で気化している溶媒を凝縮して液化するための凝縮器(コンデンサ)87と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置88とが備えられている。凝縮液化した溶媒は、回収装置88により回収され再生させた後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。こうして、回収装置88は、流延室62内の雰囲気に含まれる溶媒の蒸気圧を、所定の範囲に保つ。
【0042】
(流延ダイ)
流延ダイ81の先端には、流延ドープ51を流出する流出口を備える。流出口は、その下方に配置される流延ドラム82の周面82b上に流延ドープ51を流延する。このとき、この流延ダイ81から流延された流延ドープ51は、流延ドラム82の周面82bにかけて、流延ビードを形成し、周面82b上の流延ドープ51は流延膜53となる。
【0043】
流延ダイ81の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ81の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いられる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ81を作製することが好ましい。これにより流延ダイ81内を流延ドープ51が一様に流れ、後述する流延膜にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ81の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流出口のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ81のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ81内部における剪断速度が1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されていることが好ましい。このような流延ダイ81を用いることにより、スジ及びムラのない流延膜53を流延ドラム82の周面82b上に形成することができる。
【0044】
流延ダイ81の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフイルムの幅の1.1倍〜2.0倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ81に温調機(図示しない)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ81にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ81の幅方向において所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ81に備えられていることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりギアポンプ73の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フイルム製造ライン32中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて製品フイルムの幅方向の任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0045】
流延ダイ81のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ81と密着性が良く、流延ドープ51との密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al23 ,TiN,Cr23などが挙げられるが、なかでも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0046】
(流延ドラム)
流延ダイ81の下方には、略円柱状または略円筒状に形成される流延ドラム82が設けられる。流延ドラム82は、流延制御部79と接続する軸82aを有する。流延制御部79の制御の下、流延ドラム82は軸82aを中心に回転し、周面82bは走行方向Z1に所定速度で走行する。
【0047】
また、流延ドラム82の周面82bの温度を所望の範囲内で略一定に保つために、流延ドラム82に伝熱媒体循環装置89が取り付けられている。この伝熱媒体循環装置89にて所望の温度に保持されている伝熱媒体が、流延ドラム82内の伝熱媒体流路を通過することにより、周面82bの温度を所望の範囲に保持することができる。
【0048】
流延ドラム82の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。周面82bの表面粗さは0.01m以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。周面82bの表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であることが好ましい。流延ドラム82の回転に伴う周面82b上下方向の位置変動は200μm以下であることが好ましい。流延ドラム82の速度変動を3%以下とし、流延ドラム82が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は3mm以下とすることが好ましい。
【0049】
流延ドラム82の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム82の周面82bは、クロムメッキ処理が施されていることが好ましい。これにより、周面82bは、流延ドープ51の流延に十分な耐腐食性と強度を有する。
【0050】
(剥取ローラ)
剥取ローラ83は、走行方向Z1からみて流延ダイ81より下流側、流延ドラム82の周面82bの近傍に配される。剥取ローラ83は、流延ドラム82上の流延膜53を剥ぎ取り、第1湿潤フイルム55とする。
【0051】
減圧チャンバ90は、走行方向Z1からみて流延ダイ81より上流側の周面82b近傍に配される。減圧チャンバ90は、図示しない制御部に接続する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ90は、流延ビードの背面側を−10Pa以上−2000Pa以下の範囲で減圧することができる。減圧チャンバ90にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。減圧チャンバ90の温度は特に限定されるものではないが、ドープに含まれる溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。
【0052】
流延室62の下流には、第1湿潤フイルム55を乾燥する渡り部63及びピンテンタ64、並びに、耳切装置65とが順次設けられている。
【0053】
渡り部63には、流延室62から送り出された第1湿潤フイルム55を案内する多数のローラなどが設けられる。
【0054】
ピンテンタ64は、第1湿潤フイルム55の固定手段である複数のピンを有する。これらのピンは、環状のチェーンに取り付けられる。このチェーンの走行により、ピンは無端走行する。ピンテンタ64は、剥取ローラ83から送られた第1湿潤フイルム55の両側縁部を、それぞれピンで突き刺して、第1湿潤フイルム55を固定する。そして、ピンテンタ64は、2つのチェーンを所定方向へ搬送する。ピンテンタ64には図示しない乾燥気体供給装置が設けられる。乾燥気体供給装置は、所定の条件に調節された乾燥気体をピンテンタ64内で循環させる、或いは、第1湿潤フイルム55にあてて、第1湿潤フイルム55を乾燥する。
【0055】
ピンテンタ64と第1乾燥室66との間には耳切装置65が設けられている。この耳切装置65には、クラッシャ95が備えられている。耳切装置65は、第1湿潤フイルム55の両側縁部を切断し、切断した両側縁部をクラッシャ95に送る。クラッシャ95は、切断した両側縁部を粉砕し、フイルム細片とする。このフイルム細片は、原料ドープ48の原料として再利用される。
【0056】
なお、ピンテンタ64と耳切装置65との間に、第1湿潤フイルム55の両側縁部を把持して、第1湿潤フイルム55を乾燥させながら、第1湿潤フイルム55の幅方向または長さ方向に延伸するクリップテンタ97を設けても良い。クリップテンタ97は、第1湿潤フイルム55の把持手段としてクリップを有する乾燥装置である。クリップテンタ97の所定条件下の延伸処理によって、第1湿潤フイルム55に所望の光学特性を付与することができる。
【0057】
第1乾燥室66には、耳切装置65から送り出された第1湿潤フイルム55を案内する多数のローラなどが設けられる。第1乾燥室66では、ローラにより案内される第1湿潤フイルム55に、所定の気体をあてて、第2湿潤フイルム57とし、第2乾燥室67に送る。第1乾燥室66の詳細については、後述する。
【0058】
第2乾燥室67には、多数のローラ100と吸着回収装置101とが備えられている。さらに、第2乾燥室67に併設された冷却室68の下流には、強制除電装置(除電バー)104が設けられている。また、本実施形態では、強制除電装置104の下流側に、ナーリング付与ローラ105を設けている。
【0059】
第2乾燥室67では、第2湿潤フイルム57は、ローラ100に巻き掛けられながら搬送される。第2乾燥室67で第2湿潤フイルム57から蒸発した溶媒化合物は、吸着回収装置101により、第2乾燥室67内の気体とともに回収される。吸着回収装置101は、回収した気体から溶媒化合物を吸着回収する。溶媒化合物が除去された気体は、第2乾燥室67の内部に乾燥気体として再度送風される。なお、第2乾燥室67は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、第1乾燥室66と第2乾燥室67との間に予備乾燥室(図示しない)を設け、第2湿潤フイルム57を予備乾燥することにより、第2乾燥室67における第2湿潤フイルム57の急激な温度上昇を防止することができる。これにより、第2湿潤フイルム57或いはフイルム59の変形を抑制することができる。
【0060】
冷却室68は第2湿潤フイルム57を略室温まで冷却する。なお、第2乾燥室67と冷却室68との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。調湿室で第2湿潤フイルム57に所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付ける。これにより、第2湿潤フイルム57のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制できる。冷却室68を経た第2湿潤フイルム57は、フイルム59として強制除電装置104へ送られる。
【0061】
強制除電装置104は、搬送されているフイルム59の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV以上+3kV以下)にする。さらに、ナーリング付与ローラ105は、フイルム59の両縁にエンボス加工でナーリングを付与する。ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0062】
巻取室69の内部には、巻取ローラ107とプレスローラ108とが備えられている。
巻取ローラ107は、プレスローラ108で所望のテンションを付与しつつ、所定の巻取速度でフイルム59を巻き取る。
【0063】
(第1乾燥室)
図4のように、第1乾燥室66は、千鳥状に配される複数のローラ131を有する。ローラ131は、耳切装置65から送られた第1湿潤フイルム55を、第2乾燥室67へ案内する。第1乾燥室66は、通気ダクト(図示しない)及び送風ダクト(図示しない)が設けられ、これら通気ダクト及び送風ダクトを介して、湿潤気体供給設備125と接続する。湿潤気体供給設備125は、通気ダクトを介して、第1乾燥室66の内部の気体を回収気体300として回収し、所定の条件に調節された湿潤気体400をつくり、送風ダクトを介して、湿潤気体400を第1乾燥室66に供給する。
【0064】
(湿潤気体供給設備)
次に、湿潤気体供給設備125についての詳細について説明する。
【0065】
図5のように、湿潤気体供給設備125は、軟水410を加熱して、水蒸気411をつくるボイラ151と、乾いた空気420を送風するブロア152と、ブロア152によって送られた空気420を加熱する熱交換器153と、熱交換器153を経た空気420と水蒸気411とを混合して、湿潤気体400をつくる混合装置154と、湿潤気体400を加熱して、第1乾燥室66へ送る加熱装置155と、第1乾燥室66から回収した回収気体300を凝縮し、加熱気体310と凝縮液320とをつくる凝縮装置161とを有する。
【0066】
また、ボイラ151と混合装置154とを接続する配管には、水蒸気411の圧力を所定の値まで減圧する減圧弁165及び水蒸気411の流量の調節を行う流量調節弁166が設けられる。また、制御装置170は、流量調節弁166と、加熱装置155と接続する。制御装置170は、湿潤気体400の流量及び温度の調節を行う。湿潤気体400の流量及び温度の調節は、通気ダクトや送風ダクト等に設けられるセンサ(図示しない)から読み取った値M1に基づいて行っても良いし、溶液製膜方法における製造条件に応じたM1に基づいて調節してもよい。値M1は、単位体積当たりの湿潤気体400に含まれる水分子の質量である。
【0067】
凝縮装置161には、冷却装置174が接続する。冷却装置174は、凝縮装置161に冷水330を送る。凝縮装置161に送られた冷水330は、回収気体300の凝縮に用いられる。回収気体300の凝縮により、冷水330は、温水331となる。冷却装置174は、回収した温水331に冷却処理を施して、再び、冷水330として、凝縮装置161に送る。
【0068】
凝縮装置161によって生成する加熱気体310の一部は、ブロア181により熱交換器153に送られ、熱の再利用が行われる。また、余剰の加熱気体310は廃棄される。
【0069】
凝縮された水、溶媒、またはこれらの混合物である凝縮液320は、貯水タンク183へ送られる。貯水タンク183には、溶媒の濃度を検出する濃度センサが設けられる。凝縮液320は、所定の処理を経て廃棄される。
【0070】
次に、以上のようなフイルム製造ライン32を使用してフイルム59を製造する方法の一例を以下に説明する。図3のように、ストックタンク30内の原料ドープ48は、攪拌翼30bの回転により常に均一化されている。原料ドープ48には、この攪拌の際にも可塑剤などの添加剤を混合させることもできる。また、ジャケット30c内に伝熱媒体が供給されており、原料ドープ48の温度を25℃以上35℃以下の範囲で略一定に保持している。
【0071】
流延制御部79の制御の下、ギアポンプ73は、濾過装置74を介して、原料ドープ48を配管71へ送る。濾過装置74では、原料ドープ48が濾過される。添加剤供給ライン78は、マット剤液及び紫外線吸収剤溶液などを含む混合添加剤を配管71に送液する。インラインミキサ75が、原料ドープ48と混合添加剤とを攪拌混合して、流延ドープ51をつくる。このインラインミキサ75において、原料ドープ48の温度が、30℃以上40℃以下の範囲で略一定に保持されていることが好ましい。原料ドープ48とマット剤液と紫外線吸収剤溶液との混合比は特に限定されるものではないが、90重量%:5重量%:5重量%〜99重量%:0.5重量%:0.5重量%の範囲であることが好ましい。そして、流延ドープ51は、ギアポンプ73により、流延室62内の流延ダイ81へ送られる。
【0072】
回収装置88は、流延室62内の雰囲気に含まれる溶媒の蒸気圧を、所定の範囲で略一定に保持する。温調設備86は、流延室62内の雰囲気の温度を−10℃以上57℃以下の範囲で略一定に保持する。
【0073】
流延制御部79の制御の下、流延ドラム82は軸82aを中心に回転する。この回転により、周面82bは、所定の速度(50m/分以上200m/分)で走行方向Z1へ走行する。また、伝熱媒体循環装置89により、周面82bの温度は、−10℃以上10℃以下の範囲内で略一定に保持される。
【0074】
流延ダイ81は、流出口から流延ドープ51を周面82bへ流出する。周面82b上には流延膜53が形成される。流延膜53は、周面82b上での冷却によりゲル化が進行する。ゲル化の結果、流延膜53には自己支持性が発現する。
【0075】
流延膜53は、自己支持性を有するものとなった後に、第1湿潤フイルム55として剥取ローラ83で支持されながら周面82bから剥ぎ取られる。剥取ローラ83は、第1湿潤フイルム55を渡り部63へ案内する。渡り部63では、所定の条件に調節された乾燥気体を、第1湿潤フイルム55にあてる。
【0076】
渡り部63を経た第1湿潤フイルム55は、ピンテンタ64に案内される。ピンテンタ64に送られた第1湿潤フイルム55は、その入口でピンなどの固定手段により両側縁部を保持される。この固定手段により、第1湿潤フイルム55は、ピンテンタ64内を搬送されながら、所定の条件で乾燥処理が施される。そして、固定手段からの固定から開放された第1湿潤フイルム55は、クリップテンタ97に送られる。クリップテンタ97では、その入口でクリップなどの担持手段により両側端部を担持される。この担持手段により、第1湿潤フイルム55は、クリップテンタ97内を搬送されながら、所定の条件で乾燥処理が施される。クリップテンタ97による搬送中の第1湿潤フイルム55には、担持手段による延伸処理が所定方向に施される。
【0077】
第1湿潤フイルム55は、クリップテンタ97などで所定の残留溶媒量まで乾燥された後、耳切装置65に送り出される。第1湿潤フイルム55の両側縁部は、耳切装置65により切断される。切断された側縁部は、図示しないカッターブロワによりクラッシャ95に送られる。クラッシャ95により、第1湿潤フイルム55の両側縁部は粉砕されてフイルム細片チップとなる。このフイルム細片チップは、ドープの調製の際に、再利用される。
【0078】
両側縁部を切断除去された第1湿潤フイルム55は、第1乾燥室66に送られる。第1乾燥室66では、第1乾燥工程58が行われる。第1乾燥室66での第1乾燥工程58を経た第1湿潤フイルム55は、第2湿潤フイルム57として第2乾燥室67に案内される。第1乾燥室66における第1乾燥工程58の詳細は後述する。
【0079】
第2乾燥室67では、第2湿潤フイルム57に第2乾燥工程60が施される。第2乾燥工程60では、第2湿潤フイルム57を、乾燥空気と接触させて、乾燥し、フイルム59とする。第2乾燥室67における第2乾燥工程60の詳細は後述する。第2乾燥室67における乾燥空気の温度は、特に限定されるものではないが、80℃以上180℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましい。
【0080】
第2乾燥工程60により、フイルム59の残留溶媒量が、乾量基準で5重量%以下であることが好ましい。この乾量基準による残留溶媒量は、サンプリング時におけるフイルム重量をx、そのサンプリングフイルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。十分に乾燥したフイルム59は、冷却室68に送られる。フイルム59は、冷却室68で略室温まで冷却される。
【0081】
また、強制除電装置104により、フイルム59が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)とされる。ナーリング付与ローラ105は、フイルム59の両縁にエンボス加工でナーリングを付与する。最後に、プレスローラ108で所望のテンションを付与しつつ、フイルム59を巻取室69内の巻取ローラ107で巻き取る。なお、巻き取り時のテンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。
【0082】
巻取ローラ107に巻き取られるフイルム59は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム59の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましく、2500mmより大きい場合にも本発明の効果が発現する。
【0083】
また、フイルム59の厚みが20μm以上200μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0084】
次に、第1乾燥工程58の詳細について説明する。
【0085】
図4のように、湿潤気体供給設備125は、第1乾燥室66を所定の条件に調節された湿潤気体400で満たす。複数のローラ131は、耳切装置65から送り出された第1湿潤フイルム55を、巻きかけながら、搬送し、第2乾燥室67に案内する。こうして、第1乾燥室66では、所望の条件の湿潤気体400を用いた第1乾燥工程58が行われる。そして、第1乾燥工程58が十分に行われると、第1湿潤フイルム55は第2湿潤フイルム57となる。
【0086】
湿潤気体400を用いた第1乾燥工程58を行うことにより、湿潤気体400に含まれる水分子が第1湿潤フイルム55に吸収される。水分子の吸収により、第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57中における溶媒化合物が拡散しやすくなるため、溶媒化合物が第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57の表面近傍へ到達しやすくなり、結果として、第1乾燥工程58や第2乾燥工程60において、第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57に残留する溶媒化合物が外部へ放出されやすくなる。そして、第2乾燥工程60では、乾燥空気との接触により、第2湿潤フイルム57から、残留した溶媒化合物とともに、水分子が放出される。水分子は、溶媒化合物にくらべモル体積が小さく、第2湿潤フイルム57中でも拡散しやすいため、水分子が第2湿潤フイルム57に潜り込んでしまっても、外部へ容易に放出させることができる。この第1乾燥工程58及び第2乾燥工程60により、従来の乾燥空気のみを用いる乾燥工程に比べて、乾燥温度をより低温で、且つ、乾燥処理全体に要する時間を短縮することができる。
【0087】
水分子の吸収により、第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57中における溶媒化合物が拡散しやすくなる原因は次のように考えられる。
【0088】
第1湿潤フイルム55或いは第2湿潤フイルム57の乾燥は、第1湿潤フイルム55或いは第2湿潤フイルム57の表面近傍に存在する溶媒化合物や小体積化合物の放出によって行われる。したがって、乾燥処理の初期段階では、表面近傍に存在する溶媒化合物等がそのまま外部へ放出するプロセス(以下、恒率乾燥状態と称する)が主となるが、乾燥処理の中盤以降では、第1湿潤フイルム55或いは第2湿潤フイルム57の中に存在する溶媒化合物等が、表面近傍まで拡散した後に外部に放出するプロセス(以下、減率乾燥状態と称する)が主となる。
【0089】
一定の乾燥処理が施され、ゲル化が進行した第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57には、ポリマー分子による網目構造が形成されている。この網目構造の目には、溶媒化合物などの他の化合物が存在する。第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57に残留する溶媒化合物の大きさ、すなわちモル体積は、網目構造の目に比べて大きいため、第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57において溶媒化合物は拡散しにくい。したがって、第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57の内部に深く潜りこんでしまった溶媒化合物の放出をすることが困難になる。溶媒化合物の拡散を促進させるためには、乾燥工程における温度を高くする方法が知られているが、第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57の高温乾燥はポリマーの熱分解などを誘発するため好ましくない。
【0090】
ところが、本発明の第1乾燥工程58のように、第1湿潤フイルム55に湿潤気体400をあてて、モル体積が溶媒化合物よりも小さい水分子が第1湿潤フイルム55に吸収されると、水分子がこの網目構造の目を押し広げる働きをする。網目構造の目が押し広げられることにより、低温域でも、溶媒化合物の拡散が起こりやすくなり、結果として、第1湿潤フイルム55や第2湿潤フイルム57中に深く潜りこんでしまった溶媒化合物の放出が容易になる。
【0091】
このように、本発明は、従来の乾燥工程に代えて、上記のような第1乾燥工程58を行うため、高温域での乾燥処理を行わずに、乾燥処理時間の短縮化を図ることができる。特に、減率乾燥状態の第1湿潤フイルム55に、第1乾燥工程58を行うことにより、本発明の効果はより顕著に発揮される。
【0092】
フイルム製造工程50(図2参照)において、第1湿潤フイルム55が、減率乾燥状態であるか否かの判断手法としては、(1)流延膜53や第1湿潤フイルム55の残留溶媒量が所定の範囲内であるか否かで判断する方法(2)支持体から剥ぎ取った時点での第1湿潤フイルム55を減率乾燥状態とするなどが挙げられる。
【0093】
(1)の方法は、条件が一定である乾燥実験において、流延膜53や第1湿潤フイルム55の乾燥速度、すなわち図6のようなプロット図における勾配が略一定となる状態を恒率乾燥状態C1とし、恒率乾燥状態以降の状態を減率乾燥状態C2としてもよい。図6のプロット図は、流延膜53からフイルム59になるまでに、乾燥処理が施された時間(経過時間)と残留溶媒量の変化を示すものである。図中の点P1は、支持体に形成直後の流延膜53を表し、点P2は、フイルム59を表す。なお、プロット図を用いずに、例えば、残留溶媒量が10重量%以下の状態を減率乾燥状態C1としてもよい。
【0094】
第1乾燥工程58開始時における第1湿潤フイルム55の厚さが、30μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、第1乾燥工程58開始時における第1湿潤フイルム55の厚さの上限は、特に限定されないが、例えば、100μm以下であることが好ましい。
【0095】
第1乾燥工程58で用いられる湿潤気体400は、水分子をより多く含み、温度が高く、相対湿度が高いことが好ましい。特に、第1湿潤フイルム55に水分子を効率よく吸収させるためは、湿潤気体400の温度が高く、且つ、相対湿度が高いことがより好ましい。
【0096】
湿潤気体400における水の飽和蒸気量をMSとするときに、湿潤気体400に含まれる水分子の質量M1は、0.3MS以上MS以下であることが好ましく、0.31MS以上0.5MS以下であることがより好ましい。湿潤気体400に含まれる水分子の質量M1が、0.3MS未満の場合には、第1湿潤フイルム55に含まれる水分子が少ないため、ポリマー分子の網目が十分に押し広げられず、結果として、第1湿潤フイルム55の乾燥効率が向上しないため好ましくない。
【0097】
湿潤気体400の温度は、小体積化合物の沸点BP(℃)以上3BP(℃)以下であることが好ましく、BP(℃)以上2BP(℃)以下であることがより好ましく、1.1BP(℃)以上1.7BP(℃)以下であることがより好ましい。湿潤気体400の温度が、ポリマー分子の融点を超えると、ポリマー分子の熱分解が起こり、フイルムの光学特性や機械特性が劣化するため好ましくない。
【0098】
上記実施形態では、小体積化合物として水を用いたが、本発明はこれに限られない。小体積化合物は、流延ドープ51に含まれる溶媒をなす化合物(以下、溶媒化合物と称する)より小さいモル体積の化合物をいう。小体積化合物のモル体積が、網目構造の目にくらべてより小さくなるほど、この網目構造の目を押し広げ、溶媒化合物の拡散を促進する効果がより顕著に発揮される。この小体積化合物のモル体積は、ポリマーの組成にもよるが、温度が0℃、気圧1atmの環境下において、5(cm3 /mol)以上150(cm3 /mol)以下であることが好ましく、10(cm3 /mol)以上100(cm3 /mol)以下であることがより好ましい。ただし、第1湿潤フイルム55における小体積化合物の残留量を抑えるためには、溶媒化合物のモル体積はより小さいほうが好ましい。
【0099】
また、小体積化合物が溶媒と相溶する場合には、小体積化合物への溶解により、第1湿潤フイルム55中における溶媒化合物の拡散が行われやすくなるため、好ましい。
【0100】
小体積化合物としてポリマーと相溶しない化合物(水など)を用いる場合には、第1湿潤フイルム55に結露が生じない条件、すなわち、第1湿潤フイルム55の温度を、湿潤気体400の露点より高い条件で、第1乾燥工程58を行う必要がある。流延膜53や第1湿潤フイルム55中の水分子が、最終的なフイルムの形状(例えば、表面の平滑性等)に悪影響を与えるためである。
【0101】
また、流延ドープ51に含まれる溶媒が、一つの化合物からなる場合には、当該化合物を溶媒化合物とするが、流延ドープ51に含まれる溶媒が、複数の化合物の混合物である場合には、除去対象である当該化合物の中で最もモル体積の小さい化合物を溶媒化合物とすればよい。
【0102】
上記実施形態では、小体積化合物として水を用いたが、本発明はこれに限られず、有機化合物、水と有機化合物との混合物、または複数の有機化合物の混合物を小体積化合物として用いることができる。
【0103】
水として、硬水、軟水や純水などを用いることができる。ボイラ151の保護の観点から軟水を用いることが好ましい。第1湿潤フイルム55への異物混入は、製品としてのフイルム59の光学特性や機械特性の劣化の原因となるため、できるだけ異物の少ない水を用いることが好ましい。したがって、第1湿潤フイルム55への異物混入を防ぐためには、小体積化合物として、軟水や純水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。
【0104】
なお、本発明に明細書における純水とは、電気抵抗率が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンの含有濃度は1ppm未満、塩素、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満の含有濃度を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。
【0105】
小体積化合物として用いられる有機化合物としては、メタノール、アセトンやメチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0106】
小体積化合物として用いられる有機化合物を用いる場合は、湿潤気体供給設備125に代えて、図7のような湿潤気体供給設備240を用いることができる。湿潤気体供給設備240は、有機化合物である有機溶媒460を加熱して、溶媒蒸気461をつくる熱交換器251と、乾いた空気470を送風するブロア252と、ブロア252によって送られた空気470を加熱する熱交換器253と、熱交換器253を経た空気470と溶媒蒸気461とを混合して、湿潤気体402をつくる混合装置254と、湿潤気体402を加熱して、第1乾燥室66へ送る加熱装置255と、第1乾燥室66から回収した回収気体302を凝縮し、凝縮液360と廃液361とをつくる蒸留塔261とを有する。なお、湿潤空気402は、有機化合物を含むものの水分を含まない空気を指す。
【0107】
また、熱交換器251と混合装置254とを接続する配管には、溶媒蒸気461の圧力を所定の値まで減圧する減圧弁265及び溶媒蒸気461の流量の調節を行う流量調節弁266が設けられる。また、制御装置270は、流量調節弁266と、加熱装置255と接続する。制御装置270は、値M1に基づいて湿潤気体402の流量及び温度の調節を行う。
【0108】
蒸留塔261には、冷却装置271が接続する。冷却装置271は、蒸留塔261に冷水350を送る。蒸留塔261に送られた冷水350は、回収気体302の凝縮に用いられる。回収気体302の凝縮により、冷水350は、温水351となる。冷却装置271は、回収した温水351に冷却処理を施して、再び、冷水350として、蒸留塔261に送る。蒸留塔261によって生成する凝縮液360の一部は、熱交換器251に送られ、熱の再利用が行われる。また、余剰の凝縮液360や、その他の廃液361は、所定の処理を経て廃棄される。
【0109】
湿潤気体供給設備240は、第1乾燥室66内の気体を回収気体302として回収し、所定の条件に調節された新たな湿潤気体402を第1乾燥室66へ供給する。湿潤気体供給設備240により、第1乾燥室66では、湿潤気体402を用いた第1乾燥工程58(図2参照)が行われる。
【0110】
上記実施形態では、空気420、470を用いたが、本発明はこれに限られず、空気420、470に代えて、窒素やHeやArなどの不活性ガスを用いても良い。なお、空気420に含まれる不純物の量は、小体積化合物と同様に、できるだけ少ないことが好ましい。
【0111】
上記実施形態では、第1乾燥室66では湿潤気体400を用いたゾーン乾燥を行ったが、本発明はこれに限られず、湿潤気体400をあてる乾燥方法や、その他公知の乾燥方法、並びにこれらの組合せにより、第1乾燥室66にて、第1乾燥工程58を行うことが可能である。
【0112】
上記実施形態では、第1乾燥室66において、第1乾燥工程58を行うとしたが、本発明はこれに限られず、渡り部63、ピンテンタ64やクリップテンタ97の乾燥処理として、第1乾燥工程58と同様の処理を行っても良い。
【0113】
次に、第1乾燥工程58を行う渡り部188について説明する。図8のように、渡り部188は、ローラ191a〜191cと、送風ダクト192a、192bとを有する。ローラ191a〜191cは、流延室62から送り出された第1湿潤フイルム55を、ピンテンタ64に案内する。送風ダクト192a、192b及び渡り部188に設けられる通気ダクト(図示しない)は、湿潤気体供給設備190と接続する。湿潤気体供給設備190は、上述した湿潤気体供給設備125と同様の構成を有し、通気ダクトを介して、渡り部188の内部の空気を回収気体304として回収し、所定の条件に調節された湿潤気体404をつくり、湿潤気体404を送風ダクト192a、192bに供給する。送風ダクト192aは、湿潤気体404を外部に送るスリット195aを有する。同様にして、送風ダクト192bは、湿潤気体404を外部に送るスリット195bを有する。送風ダクト192aは、第1湿潤フイルム55の表面のうち、周面82bと接触していた面(以下、剥離面と称する)55aとスリット195aとが対向するように配される。送風ダクト192bは、剥離面55aと反対側の面(以下、空気面と称する)55bとスリット195bとが対向するように配される。
【0114】
湿潤気体供給設備190は、所定の条件に調節された湿潤気体404を、送風ダクト192a、192bを介して、第1湿潤フイルム55にあて、第1湿潤フイルム55を乾燥することができる。
【0115】
上記実施形態では、渡り部188において、湿潤気体404を第1湿潤フイルム55にあてる送風ダクト192a及び192bを用いたが、本発明はこれに限られず、送風ダクト192a及び192bとともに、第1湿潤フイルム55にあてられた湿潤気体404を回収する吸気ダクトを用いても良い。
【0116】
上記実施形態では、流延ドラム82での冷却により、流延膜53に自己支持性を発現させる溶液製膜方法について述べたが、本発明はこれに限られず、流延膜53の乾燥により自己支持性を発現させる溶液製膜方法においても同様の効果を得ることが可能である。また、本発明は、流延ドラム82の替わりに、回転ローラに掛け渡されて移動する流延バンドを用いる溶液製膜方法にも適用可能である。
【0117】
上記実施形態では、軟水410を含む湿潤気体400を用いて、第1乾燥工程58を行ったが、湿潤気体400に代えて、軟水410などの小体積化合物を含む液を、流延膜53や第1湿潤フイルム55に接触させても良い。製造工程や製造設備の簡易化の点では、上記実施形態の方が好ましいが、前記液を流延膜53或いは第1湿潤フイルム55に接触させる形態でも、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。流延膜53或いは第1湿潤フイルム55と、液とを接触させる方法として、液を流延膜53或いは第1湿潤フイルム55に塗布する他、液中に流延膜53或いは第1湿潤フイルム55を浸漬する方法などが挙げられる。
【0118】
次に、小体積化合物を含む液を、流延膜53や第1湿潤フイルム55に接触させる実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同一の部品、部材などには同符号を付すと共に、上記実施形態と異なる事項についてのみ詳細の説明をする。
【0119】
図9に、フイルム製造ライン200の一部を示す。フイルム製造ライン200は、流延室201と、流延ダイ81と、支持バンド202、送風ダクト203a〜203cとドラム204a、204bとが設けられる。また、上記実施形態同様に、各装置86〜89が流延室201に設けられる。支持バンド202は、ドラム204a、204bに掛け渡される。ドラム204a、204bの回転により、支持バンド202が所定の方向に走行する。
【0120】
支持フィルム205は、ロール形態で送出機212に装填されており、この送出機212から支持フィルム205が支持バンド202に送り出される。支持バンド202に送り出された支持フイルム205は、支持バンド202の走行に従って搬送された後、巻取機213に巻き取られる。
【0121】
ドラム204bの近傍には、支持フィルム205に接近して流延ダイ81がセットされている。流延ダイ81は、走行中の支持フィルム205の表面上に、流延ドープ51を流延する。支持フィルム205の表面上の流延ドープ51は流延膜214となる。
【0122】
送風ダクト203a〜203cは、支持フイルム205の近傍に配される。送風ダクト203a〜203cは、乾燥気体を流延膜214にあてる。
【0123】
ドラム204bと巻取機213との間には、液450が貯留する浴槽220が設けられる。図示しない温調機により、浴槽220中の液450の温度が所定の範囲で略一定になるように保持される。液450は、小体積化合物を含む液である。
【0124】
浴槽220は、ガイドローラ221を有する。ガイドローラ221は、支持バンド202とともに走行する支持フイルム205及び流延膜214を液450中に案内した後、液450から取り出す。
【0125】
浴槽220と巻取機213との間には、剥取ローラ230が設けられる。剥取ローラ230は、液450中を浸漬した流延膜214を支持フィルム205から剥ぎ取り、湿潤フイルム235として、渡り部63へ送る。
【0126】
フイルム製造ライン200では、流延膜214に液450を接触させ、流延膜214に小体積化合物を吸収させることができる。そして、渡り部63や第1乾燥室67などを経て、第2乾燥室67(図3参照)にて、小体積化合物を含む湿潤フイルム235に第2乾燥工程60(図2参照)と同様の工程を施すことにより、湿潤フイルム235に含まれる溶媒化合物を容易に放出することができる。
【0127】
なお、流延室201内において、乾燥気体の代わりに、湿潤気体400を用いて、流延膜214を乾燥させてもよい。
【0128】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0129】
減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0130】
[性能・測定法]
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
【0131】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0132】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0133】
さらに前記セルロースアシレートフイルムをベースフイルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0134】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。セルロースアシレートフイルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0135】
(用途)
前記セルロースアシレートフイルムは、特に偏光板保護フイルムとして有用である。セルロースアシレートフイルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用できる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフイルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフイルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフイルムとして光学補償フイルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フイルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用できる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0136】
また、本発明は、上記のような光学フイルムのほか、溶液製膜方法で製造されるポリマーフイルムであってもよい。例えば、燃料電池に用いられるプロトン伝導材料としての固体電解質フイルムなどがある。なお、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではなく、公知のポリマーを用いることができる。
【0137】
次に、本発明の実施例について説明する。以下各実施例及び比較例について、詳細の説明は実施例1で行い、実施例2〜10及び比較例1〜5については、実施例1と同じ条件の箇所の説明は省略し、異なる部分のみを説明する。
【実施例1】
【0138】
次に、本発明の実施例1について説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0139】
[ドープの調製]
原料ドープ48の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープ48を調製した。なお、原料ドープ48のTAC濃度は略23重量%になるように調整した。原料ドープ48を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク30に入れた。
【0140】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0141】
[マット剤液の調製]
下記の処方からマット剤液を調製した。
シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972) 0.67重量%
セルローストリアセテート 2.93重量%
トリフェニルフォスフェート 0.23重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.12重量%
ジクロロメタン 88.37重量%
メタノール 7.68重量%
上記処方からマット剤液を調製して、アトライターにて体積平均粒径0.7μmになるように分散を行った後、富士フイルム(株)製アストロポアフィルタにてろ過した。そして、マット剤液用タンクに入れた。
【0142】
[紫外線吸収剤溶液の調製]
下記の処方から紫外線吸収剤溶液を調製した。
2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert―ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 5.83重量%
2(2´−ヒドロキシ3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 11.66重量%
セルローストリアセテート 1.48重量%
トリフェニルフォスフェート 0.12重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.06重量%
ジクロロメタン 74.38重量%
メタノール 6.47重量%
上記処方から紫外線吸収剤溶液を調製し、富士フイルム(株)製のアストロポアフィルタにてろ過した後に紫外線吸収剤液法用タンクに入れた。
【0143】
フイルム製造ライン32を用いてフイルム59を製造した。ギアポンプ73は、その1次側を増圧する機能を有しており、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモータによりギアポンプ73の上流側に対するフィードバック制御を行い送液した。ギアポンプ73は容積効率99.2%、流出量の変動率0.5%以下の性能であるものを用いた。流延制御部79の制御の下、ギアポンプ73は、原料ドープ48をインラインミキサ75へ送った。濾過装置74では原料ドープ48を濾過した。
【0144】
添加剤供給ライン78では、紫外線吸収剤溶液にマット剤液を混合し、インラインミキサで混合攪拌して混合添加剤を得た。添加剤供給ライン78は、混合添加剤を配管71内に送液した。インラインミキサ75は原料ドープ48と混合添加剤とを混合攪拌して流延ドープ51を得た。
【0145】
流出装置として、体積変化率0.002%の析出硬化型のステンレス鋼から形成された流延ダイ81を用いた。接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であった。流延ドープ51の温度を略34℃に調整するために、流延ダイ81にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の温度を調節した。
【0146】
温調機により、製膜中における流延ダイ81と配管71との温度は略34℃に保温した。流延ダイ81は、コートハンガータイプのダイを用いた。流延ダイ81には、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは、予め設定したプログラムによりギアポンプ73の送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フイルム製造ライン32に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものを用いた。端部20mmを除いたフイルムにおいては、50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下となるように調整した。また、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0147】
流延ダイ81を用いて、幅が1600m〜2500mであり乾燥されたフイルムの膜厚TH1が60μmとなるようにて流延工程を行った。
【0148】
また、流延ダイ81の1次側には、この部分を減圧するための減圧チャンバ90を設置した。この減圧チャンバ90の減圧度は、流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差が生じるように調整され、この調整は流延速度に応じてなされる。その際に、流延ビードの長さが20mm〜50mmとなるように流延ビードの両面側の圧力差を設定した。減圧チャンバ90の内部温度を所定の温度で一定にするためにジャケット(図示しない)を取り付けた。そのジャケット内には略35℃に調整された伝熱媒体を供給した。また、減圧チャンバ90は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものを用いた。ドープ流出口におけるビードの前面部、背面部にはラビリンスパッキン(図示しない)を設けた。
【0149】
流延ダイ81の形成材料として、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の析出硬化型のステンレス鋼を用いた。これは、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものであった。また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有していた。流延ダイ81の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。流延ダイ81のリップ先端の接液部の角部分については、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されているものを用いた。流延ダイ81内部での流延ドープ51の剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)の範囲であった。また、流延ダイ81のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイト)コーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0150】
支持体として幅3.0mのステンレス製の円柱体を流延ドラム82として利用した。流延ドラム82の周面82bは、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨されている。流延ドラム82の材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものを用いた。流延ドラム82の径方向の厚みムラは0.5%以下であった。流延ドラム82は、流延制御部79の制御の下、軸82aの駆動により回転させた。周面82bの走行方向Z1における速度は、50m/分以上200m/分以下とした。このときに、周面82bの速度変動を0.5%以下とした。また1回転の幅方向の蛇行が、1.5mm以下に制限されるように流延ドラム82の両端位置を検出して制御した。流延ダイ81の直下におけるダイリップ先端と周面82bとの上下方向の位置変動は200μm以下にした。流延ドラム82は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室62内に設置した。
【0151】
流延ドラム82は、周面82bの温度の調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。伝熱媒体循環装置89は、流延ドラム82に、−10℃以上10℃以下の伝熱媒体を流した。流延直前の流延ドラム82中央部の表面温度は0℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延ドラム82には、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であるものを用いた。
【0152】
流延ドラム82上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。また、流延室62内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)87を設け、その出口温度を−3℃に設定した。流延ダイ81近傍の静圧変動は、±1Pa以下に抑制した。
【0153】
流延ダイ81は、流延ドープ51を周面82b上に流延し、周面82bに流延膜53を形成した。冷却により、流延膜53が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ83を用いて、流延ドラム82から流延膜53を第1湿潤フイルム55として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム82の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。流延室62内で気化した溶媒化合物は略−3℃の凝縮器87で凝縮液化して回収装置88で回収した。回収された溶媒は、水分量が0.5%以下となるように調整した。また、溶媒が除去された乾燥気体は、再度加熱して乾燥気体として再利用した。
【0154】
剥取ローラ83は、第1湿潤フイルム55に渡り部63に案内した。渡り部63に設けられるローラ121a〜121cは、第1湿潤フイルム55をピンテンタ64に案内した。渡り部63では、温度が略60℃の乾燥気体を第1湿潤フイルム55にあてた。
【0155】
ピンテンタ64に送られた第1湿潤フイルム55は、ピンでその両端を担持されながら、ピンテンタ64内に設けられる各区画を順次通過した。ピンテンタ64内の搬送の間、第1湿潤フイルム55に所定の乾燥処理を施した。ピンテンタ64における乾燥気体の温度は略120℃となるように調節した。その後、第1湿潤フイルム55を耳切装置65へ送り出した。
【0156】
ピンテンタ64内で蒸発した溶媒は、凝縮回収用に凝縮器(コンデンサ)を設け、−3℃の温度で凝縮させ液化して回収した。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5重量%以下に調整されて再使用された。
【0157】
ピンテンタ64の出口から30秒以内に第1湿潤フイルム55の両端の耳切を耳切装置65で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ95に風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。
【0158】
耳切装置65を経た第1湿潤フイルム55を、第1乾燥室66に送った。耳切装置65から送り出された第1湿潤フイルム55の残留溶媒量が略10重量%であった。第1乾燥室66では、湿潤気体400を第1湿潤フイルム55にあてて、第1乾燥工程58を一定の時間SP1だけ行い、第1湿潤フイルム55から第2湿潤フイルム57を得た後、第2湿潤フイルム57を第2乾燥室67へ送った。
【0159】
湿潤気体供給設備125は、第1乾燥室66から回収気体300を回収し、新たな湿潤気体400を第1乾燥室66へ供給し、第1乾燥室66内の雰囲気条件を一定に保った。軟水410として水を用いて、空気420として空気を用いた。湿潤気体400の温度DT1は、略120℃であり、湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1は550(g/m3 )であった。本実施例では、時間SP1を7分とした。
【0160】
第2乾燥室67では、第2湿潤フイルム57に温度が略140℃の乾燥気体をあて、第2乾燥工程60を一定の時間SP2だけ行い、第2湿潤フイルム57からフイルム59を得た。
【0161】
第2乾燥室67に設けられるローラによるフイルム59の搬送テンションを100N/mとして、最終的に残留溶媒量が0.3重量%になるまで約5分間、第2湿潤フイルム57を乾燥した。ローラのラップ角度(フイルムの巻き掛け中心角)は、80°〜190°とした。ローラの材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラの表面形状はフラットなものとディンプル加工したものとを用いた。ローラの回転によるフイルム位置の振れは、全て50μm以下であった。また、テンション100N/mでのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0162】
乾燥気体に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置101を用いて吸着回収除去した。ここに使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量を0.3重量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥気体には、溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち、凝縮法で回収する溶媒量は90重量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0163】
乾燥したフイルム59を第1調湿室(図示しない)に搬送した。第2乾燥室67と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥気体を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フイルム59のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフイルム59を搬送した。第2調湿室では、フイルム59に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0164】
調湿後のフイルム59は、冷却室68で30℃以下に冷却した後に耳切装置(図示しない)で再度両端の耳切りを行った。搬送中のフイルム59の帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置104を設置した。さらにフイルム59の両端にナーリング付与ローラ105でナーリングの付与を行った。ナーリングはフイルム59の片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフイルム59の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラ105による押し圧を設定した。
【0165】
そして、フイルム59を巻取室69に搬送した。巻取室69は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室69の内部には、フイルム59の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。最後に、プレスローラ108で所望のテンションを付与しつつ、フイルム59を巻取室69内の巻取ローラ107で巻き取った。
【実施例2】
【0166】
湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1を500(g/m3 )としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルム59を製造した。
【実施例3】
【0167】
湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1を400(g/m3 )としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルム59を製造した。
【実施例4】
【0168】
湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1を300(g/m3 )としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルム59を製造した。
【0169】
[比較例1]
第1乾燥室66では、湿潤気体400に代えて水蒸気を含まない乾燥気体を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルムを製造した。なお、第1乾燥室66における乾燥気体の温度は120℃であり、第1乾燥室66における乾燥工程を施した時間は7分とした。
【実施例5】
【0170】
フイルム59の膜厚TH1が80μmとなるようにして流延工程54を行ったこと、湿潤気体400の温度DT1を、略140℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてフイルム59を製造した。
【実施例6】
【0171】
湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1を500(g/m3 )としたこと以外は、実施例5と同様にしてフイルム59を製造した。
【実施例7】
【0172】
湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1を400(g/m3 )としたこと以外は、実施例5と同様にしてフイルム59を製造した。
【実施例8】
【0173】
湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1を300(g/m3 )としたこと以外は、実施例5と同様にしてフイルム59を製造した。
【0174】
[比較例2]
第1乾燥室66では、湿潤気体400に代えて水蒸気を含まない乾燥気体を用いたこと以外は、実施例5と同様にしてフイルムを製造した。なお、第1乾燥室66における乾燥気体の温度は120℃であり、第1乾燥室66における乾燥工程を施した時間は7分とした。
【0175】
[比較例3]
フイルムの膜厚TH1が10μmとなるようにして流延工程54を行ったこと以外は、実施例6と同様にしてフイルムを製造した。
【0176】
[比較例4]
フイルムの膜厚TH1が10μmとなるようにして流延工程54を行ったこと以外は、比較例2と同様にしてフイルムを製造した。
【0177】
[比較例5]
第1乾燥室66における乾燥工程を施した時間を15分としたこと以外は、比較例2と同様にしてフイルムを製造した。
【実施例9】
【0178】
湿潤気体供給設備125に代えて湿潤気体供給設備240を用いたこと、水に代えてメタノールを用いたこと、湿潤気体402に含まれるメタノールの含有量VM1が900g/mであったこと以外は、実施例1と同様にしてフイルムを製造した。
【実施例10】
【0179】
メタノールに代えてアセトンを用いたこと、湿潤気体402に含まれるアセトンの含有量VM1が1800g/mであったこと以外は、実施例9と同様にしてフイルムを製造した。
【0180】
〔フイルムの評価〕
上記実験において、第1乾燥室66から送り出された第2湿潤フイルム57について、残留溶媒量測定、及び含有水分量測定を行った。なお、以下の測定は、上記実施例及び比較例全てに共通であり、各実施例での評価結果を纏めて表1に示す。なお、表1における評価結果の番号は、以下の各評価項目に付した番号に対応する。
【0181】
1.残留溶媒量測定
各実施例及び比較例で得られたフイルムから、測定用試料として、7mm×35mmのフイルム片を切り取った。残留溶媒気化装置(Teledyne Tekmar社製)及びガスクロマトグラフィー(ジーエルサイセンス社製)を用いて、測定用試料の残留溶媒量を測定した。
【0182】
2.含有水分量測定
各実施例及び比較例で得られたフイルムから、測定用試料として、7mm×35mmのフイルム片を切り取った。水分気化装置及び水分測定器(メトローム・シバタ社製)を用いて、カールフィッシャー法で、水分の質量を測定した。そして、測定された水分の質量を測定用試料の質量(g)で除したものを、含有水分量とした。
【0183】
【表1】

【0184】
湿潤気体400を用いる第1乾燥工程58及び第2乾燥工程60によれば、従来の乾燥処理に比べ、効率よく、溶媒化合物を放出することができたことがわかる。また、湿潤気体400に含まれる水蒸気量VM1が大きくなるほど、溶媒化合物を容易に放出することができることがわかった。そして、含有する水分量は、第1乾燥工程58を行わなかったフイルムと略同量であることから、第1乾燥工程58により小体積化合物が残留してしまう新たな弊害がないことがわかった。また、本発明の効果は、第1乾燥工程58開始時におけるフイルムの厚さが一定以上の場合では、顕著に現れることがわかった。したがって、本発明により、厚手のフイルムを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】原料ドープをつくるドープ製造ラインの概要を示す説明図である。
【図2】フイルム製造工程の概要を示す説明図である。
【図3】第1のフイルム製造ラインの概要を示す説明図である。
【図4】第1乾燥室における第1乾燥工程の概要を示す説明図である。
【図5】第1の湿潤気体供給設備の概要を示す説明図である。
【図6】流延膜がフイルムになるまでに要する乾燥処理時間と残留溶媒量の推移の概要を示す説明図である。
【図7】第2の湿潤気体供給設備の概要を示す説明図である。
【図8】渡り部における第1乾燥工程の概要を示す説明図である。
【図9】第2のフイルム製造ラインの要部の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0186】
32 フイルム製造ライン
48 原料ドープ
50 フイルム製造工程
51 流延ドープ
53 流延膜
54 流延工程
55 第1湿潤フイルム
56 剥取工程
57 第2湿潤フイルム
58 第1乾燥工程
59 フイルム
60 第2乾燥工程
63 渡り部
66 第1乾燥室
67 第2乾燥室
400 湿潤気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フイルムとして剥ぎ取り、前記湿潤フイルムを乾燥して、フイルムを得る溶液製膜方法において、
前記溶媒をなす溶媒化合物よりもモル体積が小さい小体積化合物を含む乾燥気体中で、前記湿潤フイルムを乾燥する乾燥工程を備えることを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記溶媒を構成する化合物のうち、最もモル体積が小さい化合物を前記溶媒化合物とすることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記乾燥気体における前記小体積化合物の飽和蒸気量をMSとするときに、
前記乾燥気体が0.3MS以上MS以下の前記小体積化合物を含むことを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記乾燥気体の温度が、前記小体積化合物の沸点(℃)以上前記沸点(℃)の3倍以下であることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記溶媒化合物が、メチレンクロライド、メタノール、エタノール、ブタノールのうち少なくとも1つを含み、前記小体積化合物が水、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
テンタ式乾燥機により乾燥処理を施された前記湿潤フイルムに、前記乾燥工程を行うことを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
前記乾燥工程を経た前記湿潤フイルムに熱風をあてる熱風乾燥工程を有することを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項8】
ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を湿潤フイルムとして剥ぎ取り、前記湿潤フイルムを乾燥して、フイルムを得る溶液製膜設備において、
前記溶媒をなす溶媒化合物よりもモル体積が小さい小体積化合物を含む乾燥気体中で前記湿潤フイルムを乾燥する乾燥手段を備えることを特徴とする溶液製膜設備。
【請求項9】
前記乾燥手段は、
前記湿潤フイルムを巻きかけ、搬送する複数のローラと、
前記ローラを収納する乾燥室と、
前記乾燥室内で前記乾燥気体を循環させる乾燥気体供給ユニットと
を有することを特徴とする請求項8記載の溶液製膜設備。
【請求項10】
前記乾燥手段の上流側に配され、
前記湿潤フイルムの両側縁部を把持して、搬送し、乾燥気体をあてるテンタ式乾燥機を備えることを特徴とする請求項8または9記載の溶液製膜設備。
【請求項11】
前記乾燥手段の下流に配され、前記乾燥手段を経た前記湿潤フイルムに熱風をあてる熱風乾燥手段を備えることを特徴とする請求項8ないし10のうちいずれか1項記載の溶液製膜設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−78549(P2009−78549A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217619(P2008−217619)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】