説明

溶湯成分の濃度・温度調整方法及び鋼の製造方法

【課題】目標温度の制御性、妥当性の向上、及びダイレクトタップ操業へ対応する溶湯成分濃度・溶湯温度調整方法を提供する。
【解決手段】溶湯成分濃度・溶湯温度調整方法であって、目標温度を次工程の遅延状況に基づいて目標温度を算出し、溶湯温度、成分の濃度を測定又は予測して取得し、取得した成分濃度、目標成分濃度、設定した各添加材の組成、求めるべき各添加材の投入量から定式化した需給関係を表す式と、取得した溶湯の温度、目標温度、設定した各添加材の温度特性、及び求めるべき各添加材の投入量から定式化した添加材投入による熱損失、出湯に伴う熱損失、温度変化の許容量の関係を表す式と、各添加材の最大及び最小投入量を制約条件とし、添加材のコストを最小化し、添加材投入後の溶湯温度を目標温度に近付ける目的関数による数理計画法に基づき、投入添加材、投入量を求めて投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯に添加材を投入してその成分濃度及び温度を目標成分濃度及び目標温度に調整する溶湯成分濃度・溶湯温度調整方法及び該方法を用いた鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉吹錬終了後に転炉から取鍋に出湯した溶湯に、成分濃度を調節するために合金鉄等の添加材を投入する工程がある。また、出湯した溶湯の温度を目標温度に調整する必要もある。溶湯に投入する添加材には複数の種類が存在し、それらの組成は互いに異なる。また、添加材は複数組み合わせて投入することもある。一方、添加材を添加するに際して費やされるコストはできる限り低い方が好ましい。
【0003】
このような添加材を投入する工程において、添加材に費やされるコストが可及的に低くなるように添加材を選択し、その投入量を決定する溶湯成分濃度及び溶湯温度調整方法が特許文献1に開示されている。この方法は、溶湯の温度、複数種類の成分の濃度及び溶湯重量を測定し、測定した各成分濃度、溶湯重量、各目標成分濃度、予め設定した各添加材の組成、及び求めるべき各添加材の投入量から定式化した各成分の需給関係を表す式と、測定した溶湯の温度、目標温度、予め設定した各添加材の温度特性及び求めるべき各添加材の投入量から定式化した添加材投入による熱損失と温度変化の許容量との関係を表す式と、各添加材の最大投入量及び最小投入量とを制約条件とし、添加材を投入した後の溶湯の温度を目標温度に近付けることを目的とする目的関数による数理計画法に基づき投入すべき添加材及びその投入量を求めることにより溶湯の成分濃度及び温度の調整をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3640122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製鋼プロセスにおいて、転炉からの出湯後の後工程(二次精錬、連続鋳造等)での安定した生産のためには、特に溶湯温度を精度よく管理することが重要である。溶湯温度の精度良い管理のためには溶湯成分濃度及び溶湯温度調整方法を適用するとともに、取鍋へ出湯する温度の目標温度への制御性を高めることが重要である。そのためには操業変動等に対応した妥当性のある目標温度を用いることが必要である。上記した従来の方法では、各添加材を添加することによる成分の変動と同時に、溶湯に及ぼす熱損失を考慮することによって目標温度への制御性を高めている。しかしながら、転炉から取鍋に出湯に要する時間(出湯時間)の変化に伴う熱損失の変動を考慮できていない。さらに目標温度に関しては、操業変動が生じた場合に目標温度の修正が考慮されておらず、妥当性が不十分になる場合があった。
【0006】
また、転炉操業の能率向上のために、転炉吹錬終了時(終点)でのサブランス測定を省略して溶湯温度及び成分を測定せずに取鍋に出湯するダイレクトタップ(未確認出湯)操業が行われる場合がある。この操業が適用された場合には、従来の方法では対応することができなかった。
【0007】
そこで本発明は、溶湯に添加材を投入してその成分濃度及び温度を目標成分濃度及び目標温度に調整する溶湯成分濃度・溶湯温度調整方法、及び鋼の製造方法において、目標温度の制御性、妥当性の向上することを課題とする。また、ダイレクトタップ操業へ対応することもできるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意検討した結果、次の知見を得て本発明を完成させた。
まず、後工程(二次精錬、連続鋳造機)の操業予定からの遅延状況に基づいて目標温度を修正することにより、従来よりも妥当性のある目標温度を用いることを可能とした。
具体的には、製鋼プロセスでは、現在処理中以外のチャージの影響を将来の後工程(例えば現時点が転炉であれば連続鋳造の段階)から受ける可能性があり、操業状況に応じて妥当な出湯後の目標温度が変化する可能性がある。そこで、この目標温度を決定する際に、次工程(二次精錬、連続鋳造機)の操業予定からの遅延状況の情報に基づいて目標温度を修正する機能を考慮して、目標温度自体の妥当性を高めた。
【0009】
また、修正した目標温度、予め設定した各添加材の温度特性、求めるべき各添加材の投入量から定式化した添加材投入による熱損失と、出湯に伴う熱損失に基づいて定めた転炉吹止め目標温度を用いて転炉吹錬制御を行うとともに、転炉終点時の温度・成分予測モデルで転炉終点時の温度・成分を予測することにより、ダイレクトタップ操業への対応を可能とした。
具体的には、上記修正された妥当性のある目標温度、予め設定した各添加材の温度特性、求めるべき各添加材の投入量から定式化した添加材投入による熱損失と出湯に伴う熱損失に基づいて定めた転炉吹止目標温度を設定する。そして当該転炉吹止目標温度に基づいて吹錬制御を行うとともに、転炉終点時の温度・成分予測モデルに基づいて転炉終点時の温度・成分を予測し、溶湯の温度、成分としてこの予測値を用いることによりダイレクトタップ操業に対応する。
【0010】
さらに、出湯時間の正確な予測方法について検討し、一般的に用いられているような出湯孔の使用回数だけでなく、転炉の使用回数をも含む情報を活用することにより出湯時間を高精度に予測できることを見出した。これにより転炉から取鍋に出湯するための時間の変化に伴う熱損失の変動の正確な把握が可能となり、出湯工程における目標温度への制御性を向上することができた。
【0011】
具体的には、出湯時の温度変化を予測する際に用いる出湯時間の予測精度を高めた。一般的には、出湯時の出湯孔の使用回数に伴う出湯孔径の変動を考慮するために、出湯孔の使用回数を出湯時間の予測に使うことが多い。これに対し本発明では、さらに出湯用スリーブのスリーブ長さ自体が転炉の炉回数に伴い変化することに着目して、転炉の炉回数を考慮することにより、高精度な出湯時間の予測を実現できることを見出した。これにより転炉から取鍋に出湯するための出湯時間の変化に伴う熱損失の変動の正確な把握が可能となり、出湯工程における目標温度への制御性を高めた。
【0012】
本発明は、取鍋中の溶湯の温度、及び複数種類の成分の濃度をそれぞれ目標温度及び目標成分濃度にするために溶湯に投入すべき複数の添加材及びその投入量を求め、これらを溶湯に投入してその成分濃度及び温度を調整する溶湯成分濃度・溶湯温度調整方法であって、目標温度を次工程である二次精錬、又は連続鋳造機の操業予定からの遅延状況に基づいて修正して算出し、溶湯の温度、複数種類の成分の濃度を測定又は予測することにより取得し、取得した成分の濃度、目標成分濃度、予め設定した各添加材の組成、及び求めるべき各添加材の投入量から定式化した各成分の需給関係を表す式と、取得した溶湯の温度、目標温度、予め設定した各添加材の温度特性、及び求めるべき各添加材の投入量から定式化した、添加材投入による熱損失、出湯に伴う熱損失、及び温度変化の許容量の関係を表す式と、各添加材の最大投入量及び最小投入量を制約条件とし、添加材のコストを最小化し、添加材を投入した後の溶湯の温度を目標温度に近付けることを目的とする目的関数による数理計画法に基づき、投入すべき添加材及びその投入量を求め、これを溶湯に投入してその成分濃度及び温度を調整することを特徴とする溶湯成分濃度・温度調整方法を提供することにより前記の課題を解決する。
【0013】
上記溶湯成分濃度・温度調整方法では、目標温度、予め設定した各添加材の温度特性、各添加材の投入量に基づいた添加材投入に伴う熱損失、及び出湯に伴う熱損失に基づいて定めた転炉吹止目標温度を用いて転炉吹錬制御を行ってもよい。
【0014】
また、出湯に伴う熱損失を転炉の使用回数及び出湯孔の使用回数を含む情報に基づいて定めてもよい。
【0015】
さらに、本発明では上記の溶湯成分濃度・温度調整方法を含む工程を有して生産される鋼の製造方法により前記の課題を解決する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶湯成分濃度・溶湯温度調整において、添加材に費やされるコストが可及的に低くなり、かつ、妥当性のある目標温度への溶湯温度の追従性が高まり、多大な製造コストの低減効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】1つの実施形態に係る溶湯成分濃度・溶湯温度調整装置の構成を示すブロック図である。
【図2】演算装置における溶湯成分濃度・溶湯温度調整処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】目標温度及び転炉吹止目標温度を決定する処理手順を示すフローチャートである。
【図4】添加材の組み合わせ及びその投入量を決定する処理手順を示すフローチャートである。
【図5】添加材の組み合わせ及びその投入量を決定する処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0019】
図1は1つの実施形態に係る溶湯成分濃度・溶湯温度調整方法を適用する調整装置100の概念を示す図である。調整装置100は、入力装置101、測定装置102、演算装置103、及び投入装置104を備えている。
入力装置101は各種設定値を入力する装置である。これには例えばキーボード等を挙げることができる。
測定装置102は溶湯の温度、成分の濃度等の必要な物理量を測定する装置である。これには各種センサを挙げることができる。
演算装置103は入力装置101及び測定装置102から得た情報に基づいて各種演算処理を行う装置である。演算の内容については後で詳しく説明する。
投入装置104は演算装置103による投入すべき添加材の組み合わせ、及びその投入量情報に基づき添加材を投入する装置である。
【0020】
図2は上記した演算装置103で行われる溶湯成分濃度・溶湯温度調整処理方法S0(以下、「処理方法S0」と記載することがある。)の処理手順を示すフローチャートである。処理方法S0は、入力受付工程S1、目標温度演算工程S2、溶湯温度・成分の設定工程S3、定数の設定工程S4、添加材及び投入量の演算工程S5、各添加材の分取を指令する工程S6、及び各添加材の添加を指令する工程S7を備えている。
【0021】
入力受付工程S1は、管理データD1、溶銑データD2、操業予定データD3、操業実績データD4、動浴測定データD5等の入力されたデータを受け付ける工程である。
ここで、管理データD1とは、チャージ毎の転炉終点目標温度、目標成分(C、Si、Mn等)、材質コード毎に整理された各種添加材投入量基準値、連続鋳造時基準温度等のデータである。ただし、ここでの終点目標温度は材質コード毎に設定された基準値を意味する。
溶銑データD2は、チャージ毎の溶銑重量、溶銑成分(C、Si、Mn等)、溶銑温度、溶銑率、スクラップ重量等の溶銑条件に関するデータ、及び出湯孔の使用回数並びに転炉炉回数のデータを含んでいる。
操業予定データD3は、二次精錬及び連続鋳造の処理開始・終了予定時刻等から構成されるデータである。
操業実績データD4は、二次精錬及び連続鋳造の処理開始・終了実績時刻等から構成されるデータである。
動浴測定データD5は、吹錬途中でサブランス測定した溶湯の温度(動浴温度)と炭素濃度(動浴C濃度)のデータである。
【0022】
目標温度演算工程S2は、上記入力受付工程S1で受け付けられた各種データに基づいて目標温度、及び転炉吹止め目標温度を演算する工程である。図3にフローチャートを示した。目標温度演算工程S2は、目標温度の演算S21、出湯時間予測値の演算S22、転炉吹上目標温度の演算S23、及び吹練制御モデルによる酸素量、冷却指示S24を含んでいる。
【0023】
目標温度の演算S21では、操業予定データD3、操業実績データD4、管理データD1の連続鋳造時基準温度の情報に基づいて目標温度を算出する。具体的には、転炉以降の搬送中の溶湯温度の変化量を考慮して、連続鋳造設備で鋳込開始時に管理データD1の連続鋳造時基準温度となるように、式(1)に従って出湯目標温度(Ttap,aim)を算出する。
【0024】
【数1】

【0025】
ここで、式(1)のtimeRH,stは二次精錬処理の開始予定時刻、timeRH,endは二次精錬処理の終了予定時刻を示している。timeCC,stは連続鋳造における鋳込開始予定時刻を表している。また、TCC,aimは、連続鋳造における目標温度、timetap,endは、出湯予定時刻を表している。いずれも操業スケジューラ等から得られる情報である。
また、パラメータh、h、hは、搬送時における溶湯の温度降下速度(℃/分)を表しており、過去の実績データを使って予め求めておく。
【0026】
ここで、ある操業予定に対して、現時点で転炉処理を実施している際に、出湯済みのチャージの二次精錬開始時刻が何らかのトラブルでΔt遅延したという操業実績データが得られた場合には、その情報に基づいて現在の転炉処理中のチャージの鋳込開始予定時刻timeCC,stをtime’CC,stへ修正し、式(1)に基づいて目標温度を算出しなおす。このように転炉以外の製鋼プロセスの操業予定データ及び操業実績データを活用することによって、より妥当性のある目標温度を算出可能となる。
【0027】
出湯時間予測値の演算S22は、出湯孔の使用回数(n)や表1に示す炉回数に応じて変化するスリーブ長さ(l)の情報を用いて出湯時間を予測する。
【0028】
具体的には、式(2)に従って出湯時間予測値(ttap)を算出する。式(2)中のα及びβは、式(3)、式(4)より得られた値を用いる。式(3)、式(4)からわかるように、α及びβは出湯孔のスリーブ長さに応じて変化する。
【0029】
【数2】

【0030】
【数3】

【0031】
【数4】

【0032】
ここでlはスリーブ長さを表し、これは、炉回数によって表1のように変動する。
【0033】
【表1】

【0034】
このようなスリーブ長さの変動に着目した定式化によって、高精度な出湯時間の予測が可能となった。また、式(3)、(4)及び表1中のパラメータ(a、a、b、b、c、c、…)は実績データを使って予め求めておく。
【0035】
転炉吹上目標温度の演算S23では、出湯時間予測値の演算S22で算出した出湯時間予測値(ttap)及び表2に示す出湯中添加材投入量基準値(管理データD1)や各種操業要因に基づいて出湯中の溶湯温度変化量(ΔTtap)を式(5)に従って算出する。
【0036】
【表2】

【0037】
【数5】

【0038】
ここで、Xは表2に示した操業要因である。λ及びkはモデルパラメータで予め過去の実績データに基づいて重回帰分析等で求めておく。そして、ΔTtapと目標温度の演算S21で算出した目標温度(Ttap,aim)に基づいて式(6)に従って転炉吹止目標温度(TCV,aim)を算出する。
【0039】
【数6】

【0040】
吹練制御モデルによる酸素量、冷却指示S24では、吹錬制御モデルによって転炉終点目標温度(TCV,aim)を満足する酸素量・冷材の指示を行う。吹錬制御モデルは酸素収支と熱収支をベースとしたモデル式から構成される。式(7)に酸素収支式を示す。
【0041】
【数7】

【0042】
式(7)のΔOは吹錬中に使用する酸素量を表し、右辺第1項のf(Cini,Cend)は溶湯中の炭素濃度がCiniからCendへ変化する際に要する酸素量を表す関数で、第2項は補正項である。補正項のYは表3に示す種々の操業要因であり、γはYに対応したパラメータで予め過去の実績データより求めておく。
【0043】
【表3】

【0044】
式(8)には熱収支式を示す。
【0045】
【数8】

【0046】
式(8)の左辺が溶湯温度の変化量(TiniからTendまでの変化量、ΔT=Tend−Tini)を表し、右辺第1項は酸素の吹込みにともなう溶湯温度の上昇量を表す関数である。右辺第2項は補正項である。補正項のYは表3に示す種々の操業要因であり、ηはYに対応したパラメータで予め過去の実績データより求めておく。
【0047】
酸素量・冷材量は具体的に次のように求める。吹錬前に実施するスタティック制御の場合、酸素量は、式(7)のCiniに溶銑C成分濃度を、Cendに目標C成分濃度を設定して算出する。その後、熱収支式である式(8)の左辺におけるTiniとして溶銑温度を、TendとしてS23で求めた転炉吹止目標温度を設定する。続いて、右辺の第1項に算出しておいた酸素量を適用し、式(8)の左辺が右辺よりも大きければ、式(8)の等式条件が成立するように酸素量を増加する。また、この操作を行う場合には、式(7)のCendを式(8)の等式条件を満足するように再計算する。これは一般的に、吹下げと呼ばれる操作である。
逆に熱収支式に関する式(8)の左辺が右辺よりも小さければ、等式を満たすように操業要因の中の冷材投入量を算出する。この場合には、冷材に含まれる酸素分(固酸)を式(7)で求めておいた酸素量から差し引いて最終的な酸素量を算出する。
【0048】
一方、ダイナミック制御の場合、Ciniとして吹錬途中でサブランス測定した動浴C濃度を設定し、Tiniとして吹錬途中でサブランス測定した動浴温度を設定すれば、他の計算手順は上記したスタティック制御の場合と同じである。
【0049】
図2に戻り処理方法S0の説明を続ける。溶湯温度・成分の設定工程S3は、測定装置102により測定された溶湯の温度、各成分濃度、又はモデル式に基づいて予測した溶湯の温度、各成分濃度の入力を受け付ける工程である。
【0050】
例えば溶湯の温度及びC成分濃度に関しては、吹錬制御モデルの上記したモデル式(7)、式(8)を使って予測可能である。他の成分iの予測値に関しても、例えば式(9)に示すような主要な操業要因を説明変数とする重回帰式モデル等を予め作成しておくことによって対応できる。Yは表3に示す種々の操業要因であり、ωはYに対応したパラメータで予め過去の実績データより求めておく。
【0051】
【数9】

【0052】
ここでCはi成分の最終予測値を示している。
【0053】
定数の設定工程S4は、受け付けた入力値に基づき各定数の値を設定する工程である。
添加材及び投入量の演算工程S5は、値を設定した各定数に基づいて制約条件及び目標関数を設定し、数理計画法により投入すべき添加材の組み合わせ及びその投入量を演算する工程である。図4、図5にフローチャートを示した。当該フローチャートを参照しつつ説明する。
【0054】
数理計画法による求解のために必要な設定値、具体的には制約条件の緩和に係る所定の許容濃度差及びその緩和の程度を表す所定の緩和係数nの入力を受け付ける(S501)。受け付けた設定値及び定数の設定工程S4において設定した各定数に基づいて目標関数を設定し(S502)、また制約条件を設定する(S503)。
S502の目標関数、及びS503の制約条件は次のようなものである。
【0055】
【数10】

【0056】
ここでSijは添加材jの含有成分iの含有率、Gは添加材jの投入量、Xは成分iの成分濃度上昇狙いを表している。また、Wは溶鋼重量、Nは調整対象成分の種類、及びMは添加材の種類を示している。式(10)においてXは成分iの目標成分濃度と転炉終点における測定成分濃度又はモデル式に基づいた予測値との差を表す。式(10)の各左辺は投入する添加材に含まれる成分iの総重量を表し、対応する各右辺は成分iの投入すべき重量を表す。即ち、式(10)は取鍋に投入する添加材に含まれる成分iの総重量と成分iの投入すべき重量とを等しくすることを示す。
【0057】
下に示した式(11)は、添加材投入による熱損失と出湯に伴う熱損失と温度変化の許容量との関係による制約条件を表す式である。
【0058】
【数11】

【0059】
ここでΔtは、添加材jの投入による溶湯の温度変化量、ttapは出湯時間予測値、λは出湯単位時間当たりの温度変化量を表す。Ttap,aimは目標温度、Tは溶湯温度である。式(11)の左辺は添加材を投入することと、出湯自体に伴う温度の総変化量を表し、右辺は目標温度と出湯前(添加材投入前)の溶湯の温度との温度差を表す。すなわち、式(11)は出湯時に添加材を投入した時の温度変化により、溶湯の温度が目標温度を下回らないようにすることを示す。
【0060】
下に示した式(12)は、添加材の最大投入量及び最小投入量による制約条件を表す式である。
【0061】
【数12】

【0062】
ここで、gj,lは添加材jの最小投入量、gj,uは添加材jの最大投入量である。最大投入量gj,uには、添加材jの準備してある分量を設定する。また最小投入量gj,lは基本的に0を設定するが、在庫管理等の目的で優先的に使用したい添加材がある場合、0より大きい値を設定する。
【0063】
以下に示した式(13)、(14)は添加材の最大投入量の制限、具体的には添加材の在庫分量の有無又は添加材を投入する装置の補修作業等に起因する添加材の投入制限に係る制約条件を表す式である。
【0064】
【数13】

【0065】
【数14】

【0066】
式(13)において、変数y(j=1,2,…N)は、添加材jを組合せの候補とするか否かをそれぞれ1又は0により表す。また、式(14)において、変数nは組み合わせる添加材の種類の数を表す。すなわち、式(14)による制約条件を設けることにより、組み合わせの候補とする添加材、及びその組み合わせに含まれる添加材の種類の数を詳細に指定することができる。
【0067】
以下に示す式(15)は、投入する添加材に費やされるコストを削減すること及び前記添加材を投入することにより溶湯の温度を目標温度へ近付けることを目的とする目標関数を表す式である。
【0068】
【数15】

【0069】
ただし、Hは以下の式(16)により表される。
【0070】
【数16】

【0071】
ここで、Hは添加材jの単価、hは耐火物溶損コスト係数を表している。式(16)における耐火物溶損コスト係数hは、単位温度差当たりの取鍋の溶損コストを表す。すなわち、式(16)は添加材の総コスト及び取鍋の溶損コストが可及的に小さくなるような添加材の組み合わせ及びその投入量を決定することを示す。
【0072】
図4に戻り説明を続ける。次にシンプレックス法に基づき最適解を探索し(S504)、最適解が存在するか否かを判別する(S505)。最適解が存在しないと判別したとき、成分濃度上昇狙いXが最も小さい成分iを、制約条件を緩和する対象として選択する(S506)。そして、選択した成分濃度上昇狙いXに所定の許容値、すなわち目標成分濃度に前記許容濃度差を加えた和を緩和係数nで割った値を上乗せする(507)。これによって上記式(10)に表される制約条件が緩和される。以下、処理をS503に戻して以降の手順を繰り返す。
【0073】
一方、S505において最適解が存在すると判別したとき、図5に示したフローに移動する。はじめにその最適解が整数条件を満たすか否かを判別する(S511)。整数条件を満たすと判別したとき、その最適解を求めるべき解として、添加材及び投入量を決定する(S519)。整数条件を満たさないと判別したときは、分枝限定法に基づいて与えられた問題を部分問題に分解する(S512)。分解した部分問題を一つ選択し(S513)、再度シンプレックス法に基づき最適解を探索し(S514)、最適解が存在するか否かを判別する(S515)。最適解が存在すると判別したとき、その最適解が整数条件を満たすか否かを判別し(S517)、整数条件を満たすと判別したとき、その最適解を求めるべき解として、添加材及び投入量を決定する(S519)。S517において整数条件を満たさないと判別したとき、整数条件を満たす最適解が得られるように分枝状態の再設定、すなわち前述の部分問題を分解して新たな部分問題を設定し(S518)、処理をS513に戻して、上記と同様の手順を繰り返す。またS515において最適解が存在しないと判別したとき、探索深さの再設定、即ち先程の部分問題を以降の考慮から除外して(S516)、処理をS513に戻して、上記と同様の手順を繰り返す。
【0074】
図2に戻り、処理方法S0について説明を続ける。各添加材の分取を指令する工程S6は、上記添加材及び投入量の演算工程S4の演算結果に基づき、添加材を所定分量だけ分取する工程である。そして各添加材の添加を指令する工程S7は、実際に取鍋に投入させるべく投入装置104に指令する工程である。
【0075】
以上の調整装置100、及びここで行われる上記処理手順に従って演算することにより、目標温度への制御性を高めるとともに、目標温度自体の妥当性を向上し、さらにダイレクトタップ操業への対応を可能とすることができる。これに加えて、式(10)から式(14)までに示した制約条件の下で式(15)に示した目的関数を満たすような、すなわち投入する添加材に費やされるコストが可及的に低く、しかも前記添加材を投入した後の溶湯の温度を目標温度に可及的に近付けるような添加材の組み合わせが決定される。
【0076】
以上、現時点において実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う、溶湯成分濃度・温度調整方法、及び鋼の製造方法も本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0077】
100 調整装置
101 入力装置
102 測定装置
103 演算装置
104 投入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋中の溶湯の温度、及び複数種類の成分の濃度をそれぞれ目標温度及び目標成分濃度にするために前記溶湯に投入すべき複数の添加材及びその投入量を求め、これらを前記溶湯に投入してその成分濃度及び温度を調整する溶湯成分濃度・溶湯温度調整方法であって、
前記目標温度を次工程である二次精錬、又は連続鋳造機の操業予定からの遅延状況に基づいて修正して算出し、
前記溶湯の温度、及び複数種類の成分の濃度を測定又は予測することにより取得し、
前記取得した成分の濃度、前記目標成分濃度、予め設定した各添加材の組成、及び求めるべき各添加材の投入量から定式化した各成分の需給関係を表す式と、前記取得した溶湯の温度、前記目標温度、予め設定した各添加材の温度特性、及び求めるべき各添加材の投入量から定式化した、添加材投入による熱損失、出湯に伴う熱損失、及び温度変化の許容量の関係を表す式と、各添加材の最大投入量及び最小投入量を制約条件とし、添加材のコストを最小化し、添加材を投入した後の溶湯の温度を前記目標温度に近付けることを目的とする目的関数による数理計画法に基づき、投入すべき添加材及びその投入量を求め、
これを前記溶湯に投入してその成分濃度及び温度を調整することを特徴とする溶湯成分濃度・温度調整方法。
【請求項2】
前記目標温度、前記予め設定した各添加材の温度特性、前記各添加材の投入量に基づいた添加材投入に伴う熱損失、及び前記出湯に伴う熱損失に基づいて定めた転炉吹止目標温度を用いて転炉吹錬制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の溶湯成分濃度・温度調整方法。
【請求項3】
前記出湯に伴う熱損失を転炉の使用回数及び出湯孔の使用回数を含む情報に基づいて定めることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶湯成分濃度・温度調整方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の溶湯成分濃度・温度調整方法を含む工程を有して生産される鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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