説明

溶着された樹脂成形体の設計方法

【課題】溶着された樹脂成形体において、溶着部からの破壊を低減し、溶着部の信頼性を向上させる成形体の設計方法および該溶着成形体を提供する。
【解決手段】少なくとも2種類の熱可塑性樹脂AおよびBからなる成形体を溶着して得られる成形体において、樹脂Aで形成される成形品の少なくとも一部の厚みtが下記式を満足する溶着製品の設計方法。t≦((b×L)×σWAB×η)/(σ×L)。t:溶着された成形品の溶着部位に垂直に位置する、最も肉薄部分の厚み、b:溶着部幅、Lw:溶着部の長さ、σWAB:樹脂Aと樹脂Bの溶着強度、安全係数η=0.05〜1、L:t部分の長さ、σ:樹脂Aの強度、σ:樹脂Bの強度、E:樹脂Aの縦弾性率、E:樹脂Bの縦弾性率、ε:樹脂Aの伸び、ε:樹脂Bの伸び。ただし、樹脂強度σ≦σ、樹脂縦弾性率E≦E、樹脂の伸びε≦ε、5%≦ε≦150%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
溶着された樹脂成形体において、溶着部からの破壊を低減し、溶着部の信頼性を向上させる成形体の設計方法および該設計より作られた熱可塑性樹脂溶着成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルタンク、燃料タンク、バルブ部品等の容器類やパイプ部を有する複雑形状の自動車吸気管等に振動摩擦、回転摩擦、超音波、レーザ溶着等様々な溶着方法が適用され、製品化されている。しかしながら溶着された製品の溶着部分の強度は最大でも樹脂母材強度である。また溶着条件により溶着強度は大きく影響される。これは日々変動する溶着機械のコンディションや環境条件によっても影響受け、安定的に母材強度を発現することは現実的に不可能である。さらに溶着部分の形状は製品形状に依存し、このため溶着される成形体同士がすべての溶着面において均一に垂直に加圧圧着することは困難であり、安定的に理想的な溶着強度の発現は不可能である。これらのことから溶着された製品において、気体や液体による内力、また予期せぬ衝突等による外力を受けた場合、溶着部位から破壊が生じてしまうのが現実である。このような溶着強度を向上させる手段としては、溶着部面積を増大させ、溶着強度の絶対値を向上させるのが一般的である。しかしながら溶着強度は溶着部面積を増大させても期待したほど増加しない。これは溶着部における溶融樹脂の温度分布が均一でなくなるためと考えられる。さらに溶着強度を改善しても、結果的には溶着部からの破壊は避けられないのが実情である。
【0003】
また、振動溶着法と接着剤を併用する方法が提案されている。これは、振動溶着による接着部分に加え、エポキシ系熱硬化型接着剤等を併用することにより実質的に接着部面積を増加させ、絶対的な接合強度を向上させる方法である。しかしながら本方法は、成形体溶着部位に事前に接着剤の塗布が必要であり、塗布工程、塗布装置の増加によるコスト上昇は避けられない。またポリエチレン等の樹脂では十分な接着性を有する接着剤の選定が困難な場合がある(例えば、特許文献1参照。)。
またポリアミド樹脂の振動摩擦溶着において、ガラス繊維の含有量が異なるポリアミド樹脂すなわち弾性率が異なるポリアミド樹脂の組み合わせにより溶着強度を改善する方法が提案されている。しかしながら通常、ガラス繊維を含有する樹脂の溶着において、溶着部位ではガラス繊維の補強効果が発現しない。したがって溶着強度は最大でもガラス繊維を含まないポリアミド樹脂の母材強度となる。さらにガラス繊維を含有するポリアミド樹脂の伸びは、おおよそ3%以下であり、結果として溶着部位に応力が集中し、溶着部位から破断してしまう(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平8−132529号公報
【特許文献2】特開平8−118474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、溶着された樹脂成形体において、溶着部からの破壊を低減し、溶着部の信頼性を向上させる熱可塑性樹脂溶着成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、樹脂の物理特性を検討した結果、溶着部位の機械特性を特定することにより上記課題を解決することを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、
1.少なくとも2種類の熱可塑性樹脂AおよびBからなる成形体を溶着して得られる成形体において、樹脂Aで形成される成形品の少なくとも一部の厚みtが下記式を満足することを特徴とする溶着製品の設計方法、
≦((b×L)×σWAB×η)/(σ×L
::溶着された成形品の溶着部位に垂直に位置する、最も肉薄部分の厚み、
:溶着部幅、
Lw:溶着部の長さ、
σWAB:樹脂Aと樹脂Bの溶着強度、
安全係数η=0.05〜1、
:t部分の長さ、
σ:樹脂Aの強度、
σ:樹脂Bの強度、
:樹脂Aの縦弾性率、
:樹脂Bの縦弾性率、
ε:樹脂Aの伸び、
ε:樹脂Bの伸び、
ただし、樹脂強度σ≦σ、樹脂縦弾性率E≦E、樹脂の伸びε≦ε、5%≦ε≦150%である。
2.上記1に記載の設計方法によって得られることを特徴とする樹脂成形体、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、溶着された樹脂成形体において、溶着部からの破壊を低減し、溶着部の信頼性を向上させた成形体を得られるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下具体的に説明する。
樹脂(以下、樹脂母材あるいは母材とも略す)AとBとの関係は、樹脂母材Aの引張強度(以下、母材強度ともいう)σが樹脂母材Bの引張強度σより等しいかか小さく、かつ樹脂母材Aの縦弾性率(以下、母材弾性率ともいう)Eが樹脂母材Bの縦弾性率Eより等しいか小さく、かつ樹脂母材Aの伸びεが樹脂母材Bの伸びεより等しいか大きく、かつεが5%以上である組み合わせである。より好ましくは樹脂母材Aの弾性率EとBの弾性率Eの関係において、樹脂母材A側の弾性率を低くすることが好ましい。これにより樹脂母材A側に応力を集中、樹脂母材Bにくらべ、より低い応力で降伏を示すことにより、溶着部への応力集中を低減し、溶着部からの破壊を低減できる。
【0008】
また少なくとも母材Aの伸びεは5%以上であり、好ましくは10%以上である。また、伸びεは100%以下であり、好ましくは60%以下、さらに好ましくは30%以下である。
伸びεが、上記の範囲であることにより、樹脂母材A側に応力を集中、降伏伸びにともなうエネルギ吸収により溶着部位の応力集中を低減し、溶着部位からの破壊を低減できる。
本発明に用いられる樹脂A、Bの母材強度σ、σ、母材縦弾性率E、E、伸びε、εは、ASTMやISOに準じる一般的な試験方法から求められる。またこれら物性は、溶着された成形体の使用環境を考慮した条件下で試験されることが好ましい。
また少なくとも樹脂母材Aで形成される成形品の少なくとも一部の厚みtは下記式で表される。
≦((b×L)×σWAB×η)/(σ×L
【0009】
本発明のtは、樹脂母材Aで形成される成形体において、溶着された成形品の溶着部位に垂直に位置する、最も肉薄部分の厚みを示す。
本発明のηは、溶着強度の信頼性を確保するための安全係数であり、通常ηは0.05〜1の範囲である。
安全係数ηは、樹脂母材A、Bの溶着において、溶着方法によって異なるが、例えば振動摩擦溶着法であれば、摩擦時間、加圧圧力等、熱板溶着法であれば加熱プレート温度、加熱時間、加熱プレートと被溶着物とのクリアランス等、レーザ溶着法であればレーザ出力、レーザの走査速度等の条件をふった溶着試験片を作製し、溶着強度を測定、そのバラツキを考慮した値を用いることができる。安全係数ηは、要求される溶着強度の信頼性のレベルにより任意に用いることができ、η=0.05〜1、好ましくは0.1〜0.9の範囲で選択される。
【0010】
また、Lは成形体に占める厚みt部分の長さを示す。
本発明のbは溶着部幅であり、Lは溶着部分の長さを示す。
また、σWABは樹脂母材Aと樹脂母材Bの溶着強度である。樹脂母材Aの溶着強度σは、樹脂母材A同士を溶着、溶着部位を引っ張り破断することにより求める。また樹脂母材Bの溶着強度σは、樹脂母材B同士を溶着、溶着部位を引っ張り破断することにより求める。同様に樹脂母材AとBを溶着、溶着部位を引っ張り破断することにより溶着強度σWABを求めることができる。
溶着部位の面積b×Lと母材Aのt部が占める製品部断面積t×Lが同じ場合、一般的に溶着部強度は母材A強度にくらべ低いため、溶着部位で容易に破壊が生じてしまう。したがって母材A強度と母材AとBの溶着強度を考慮しtを求め、製品デザインに反映させることで、樹脂母材A側のt部位に応力を集中、樹脂母材Aが降伏を示すことにより、溶着部への応力集中を低減し、溶着部からの破壊を低減できる。
【0011】
すなはち、樹脂母材Aと樹脂母材Bを溶着し、それぞれの端面を掴み溶着部に引張応力を発生させた場合、またタンク形状等において内部から圧力を受けた場合、また落下等により外部から圧力を受けた場合、樹脂母材Aの厚みtの部分に変形を集中させることができ、該部分において内力、外力によるエネルギを吸収することができ、溶着部からの破壊を低減し、溶着部の信頼性を向上させることができる。
用いる母材樹脂Aおよび母材樹脂Bは、上記の物性の関係を満たせば特に制限はなく、オレフィン系、スチレン系、ポリカーボネート、ポリアミド系、変性ポリフェニレンエーテル、PBT、PET、PPS、ポリアセタール樹脂等用いることができる。またポリマーアロイ樹脂等であっても特に制限はないが、母材樹脂A、Bを形成するマトリックス樹脂は相溶性や接着性を有するものが好ましい。
これらのポリマーに滑剤、結晶核剤、熱安定剤、耐候剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、無機フィラー等添加することができる。
また、たとえば図3に示したタンク形状等の溶着製品の設計において、樹脂母材AおよびBを、上下いずれに用いるかは、製品の使用環境、予想される外力を考慮し任意に選択できる。
【実施例】
【0012】
本発明を実施例に基づいて説明する。
使用した樹脂の23℃絶乾状態における母材特性を表1に示す。樹脂はいずれも旭化成ケミカルズ株式会社製ポリアミド66樹脂を用いた。
樹脂(1) レオナ1402S
樹脂(2) レオナ1402G
樹脂(3) レオナTR160
樹脂(4) レオナTR380
溶着強度は、熱板溶着により試験片を作製、評価した。
熱板溶着機 タカギセイコー株式会社製テストピース熱板溶着機。
試験片はISOダンベルを中央部で溶着面が平行になるように精密カットソーにより切断、該切断面を溶着した。
試験片の溶着部寸法は、厚みb=約3.92mm 幅L=約9.83mm、したがって溶着部面積は約0.385cmである。
溶着条件は、
加熱板温度600℃
加熱板と溶着面のクリアランス 1.3mm
加熱時間 23sec
とし溶着強度は5本測定した平均を用いた。
【0013】
[比較例1〜7]
表2の樹脂の組み合わせにおいてISO試験片を用い溶着、溶着強度、伸びを測定した。いずれも溶着部位で破壊し、伸びも低い結果であった。
同じ材質であっても大きな伸びが期待できないことがわかる。
【0014】
[実施例1]
表3樹脂の組み合わせにおいて、σ=77MPa、σWAB=59MPa、bw=0.392cm、L=L=0.983cm、安全率ηを0.8とし、樹脂A側の薄肉部tを求めた。あらかじめ溶着しておいたISOダンベル試験片のA側の溶着部から約10mm離れた位置にR10、成形体厚みがtになるように切削加工を施し、5mm/minの引張速度で引張試験を実施した。試験片は溶着部位で破断せず10%以上の伸びを示し、厚みt部での降伏強度は樹脂母材Aの降伏強度と一致した。
【0015】
[実施例2]
表3の樹脂の組み合わせにおいて、σ=53MPa、σWAB=24MPa、bw=0.392cm、L=L=0.983cm、安全率ηを0.8とし、樹脂A側の薄肉部tを求め、実施例1と同様に評価した。試験片は溶着部位で破断せず10%以上の伸びを示し、厚みt部での降伏強度は樹脂母材Aの降伏強度と一致した。
【0016】
[実施例3]
表3の樹脂の組み合わせにおいて、σ=53MPa、σWAB=23MPa、bw=0.392cm、L=L=0.983cm、安全率ηを0.8とし、樹脂A側の薄肉部tを求め、実施例1と同様に評価した。試験片は溶着部位で破断せず10%以上の伸びを示し、厚みt部での降伏強度は樹脂母材Aの降伏強度と一致した。
【0017】
[実施例4]
表3の樹脂の組み合わせにおいて、σ=68MPa、σWAB=58MPa、bw=0.392cm、L=L=0.983cm、安全率ηを0.8とし、樹脂A側の薄肉部tを求め、実施例1と同様に評価した。試験片は溶着部位で破断せず10%以上の伸びを示し、厚みt部での降伏強度は樹脂母材Aの降伏強度と一致した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、溶着された樹脂成形体において、溶着部からの破壊を低減し、溶着部の信頼性を向上させることができ、家電、OA、自動車用途等の分野において好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】熱板の溶着例である
【図2】樹脂母材A側t部の加工例である。
【図3】タンク形状での溶着例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の熱可塑性樹脂AおよびBからなる成形体を溶着して得られる成形体において、樹脂Aで形成される成形品の少なくとも一部の厚みtが下記式を満足することを特徴とする溶着製品の設計方法。
≦((b×L)×σWAB×η)/(σ×L
:溶着された成形品の溶着部位に垂直に位置する、最も肉薄部分の厚み、
:溶着部幅、
Lw:溶着部の長さ、
σWAB:樹脂Aと樹脂Bの溶着強度、
安全係数η=0.05〜1、
:t部分の長さ、
σ:樹脂Aの強度、
σ:樹脂Bの強度、
:樹脂Aの縦弾性率、
:樹脂Bの縦弾性率、
ε:樹脂Aの伸び、
ε:樹脂Bの伸び、
ただし、樹脂強度σ≦σ、樹脂縦弾性率E≦E、樹脂の伸びε≦ε、5%≦ε≦100%である。
【請求項2】
請求項1に記載の設計方法によって得られることを特徴とする樹脂成形体

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−289685(P2006−289685A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111054(P2005−111054)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】