説明

溶着方法

【課題】熱可塑性合成樹脂部材を、その材質に関わらず他の合成樹脂部材に溶着することが可能な溶着方法を提供する。
【解決手段】基材41を第2表皮材32に溶着する溶着方法であって、基材41の表面41Aに、水50を塗布する加熱媒体塗布工程と、水50を挟む形で基材41及び第2表皮材32を配した状態で、電磁波によって水50を加熱することで、水50を介して、基材41を加熱溶融し、第2表皮材32に溶着する溶着工程と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂部材を他の合成樹脂部材に取り付ける手段としては、例えば、接着剤が用いられている。接着剤を用いる場合、接着剤の塗布工程や乾燥工程などが必要となり、作業スペースが大きくなりやすいという問題点がある。また、接着剤を塗布する際に、接着箇所以外の箇所に接着剤が付くことで、接着剤の使用量が多くなったり、工程を汚したりする事態も懸念される。このため、接着剤を用いない取り付け手段として、熱可塑性合成樹脂部材を、他の合成樹脂部材に溶着させる溶着方法が提案されている。このような溶着方法の一例として、下記特許文献1に記載された方法が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の溶着方法では、一対の電極間に、熱可塑性合成樹脂部材(表皮材のトップ層)と、他の合成樹脂部材(パッド材)とを重ねた状態で配し、一対の電極間に高周波電流を通電する。これにより発生した電磁波によって、熱可塑性合成樹脂部材が加熱溶融され、他の合成樹脂部材に溶着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3090245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電磁波によって、熱可塑性合成樹脂部材を加熱させる場合、その加熱のしやすさは、材質によって異なる。具体的には、加熱対象である熱可塑性合成樹脂部材の誘電損失が小さいと、電磁波によって、熱可塑性合成樹脂部材を加熱させにくくなり、溶融させることが困難となる。つまり、電磁波によって、熱可塑性合成樹脂部材を溶着させる溶着方法においては、溶着できる材質が、制限されてしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、熱可塑性合成樹脂部材を、その材質に関わらず他の合成樹脂部材に溶着することが可能な溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の溶着方法は、熱可塑性合成樹脂部材を他の合成樹脂部材に溶着する溶着方法であって、前記熱可塑性合成樹脂部材または前記他の合成樹脂部材のうち、いずれか一方の表面に、水または水溶液からなる加熱媒体を塗布する加熱媒体塗布工程と、前記加熱媒体を挟む形で前記熱可塑性合成樹脂部材及び前記他の合成樹脂部材を配した状態で、電磁波によって前記加熱媒体を加熱することで、前記加熱媒体を介して前記熱可塑性合成樹脂部材を加熱溶融し、前記他の合成樹脂部材に溶着する溶着工程と、を備えたことに特徴を有する。
【0008】
本発明においては、加熱媒体を介して熱可塑性合成樹脂部材を加熱溶融することで、熱可塑性合成樹脂部材を他の合成樹脂部材に溶着することができる。一般的に、電磁波によって物質を加熱する場合は、物質の誘電損失が高い程、加熱させやすい。本発明においては、誘電損失の大きい物質である水(または水溶液)を加熱媒体とすることで、熱可塑性合成樹脂部材自体の誘電損失に関わらず熱可塑性合成樹脂部材を効果的に加熱溶融させることができる。
【0009】
このように、電磁波加熱によって、熱可塑性合成樹脂部材を溶着する構成とすれば、従来、熱可塑性合成樹脂部材の接合に用いていた接着剤を削減でき、コストを低減させることができる。また、接着剤の塗布及び乾燥工程を削減でき、工程の省スペース化を図ることができる。さらに、接着剤によって、工程を汚すこともなく作業環境を向上させることができる。また、熱可塑性合成樹脂部材と他の合成樹脂部材とを接着剤で取り付ける構成と比べて取付強度を高くすることができる。
【0010】
上記構成において、前記熱可塑性合成樹脂部材は、車両用トリム部材であって、前記他の合成樹脂部材は、前記車両用トリム部材を覆う表皮材であるものとすることができる。このようにすれば、接着剤などを用いることなく表皮材と車両用トリム部材とを接合することができる。
【0011】
また、前記熱可塑性合成樹脂部材は、ポリオレフィン系樹脂であって、前記他の合成樹脂部材は、ポリウレタン系樹脂であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱可塑性合成樹脂部材を、その材質に関わらず、他の合成樹脂部材に溶着することが可能な溶着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の溶着方法が適用されるオーナメントを有するドアトリムを示す斜視図。
【図2】本実施形態の加熱媒体塗布工程を概略的に示す断面図。
【図3】本実施形態の溶着工程を概略的に示す断面図。
【図4】本実施形態の溶着工程が完了した状態を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図1ないし図4によって説明する。図1は、本実施形態の溶着方法が適用されるオーナメント40を有する車両用のドアトリム10を示す斜視図である。図1に示すように、ドアトリム10は、合成樹脂等によって板状に形成されたドアトリム本体12、アームレスト20などを備えている。アームレスト20は、合成樹脂等によって形成され、ドアトリム本体12の車室内側に張り出す形で配されている。また、ドアトリム10は、スピーカグリル16、ドアポケット18などを備えている。
【0015】
ドアトリム本体12において、アームレスト20の上方には、オーナメント40が取り付けられている。オーナメント40は、図1に示すように略矩形状をなし、基材41(車両用トリム部材)と、基材41の車室内側の面を覆う表皮材30と、を備えている(図4参照)。基材41は、例えば、ポリプロピレン(ポリオレフィン系樹脂)等の熱可塑性合成樹脂によって形成されている。
【0016】
表皮材30は、基材41に合致する形状をなし、2枚の表皮材(第1表皮材31及び第2表皮材32)を積層することで構成されている。なお、本実施形態では、表皮材30と基材41とをほぼ同じ大きさとしてあるが、これに限定されない。例えば、表皮材30の周端部を、基材41の端末を覆うべく折り返し可能とするために、表皮材30を平面視において、基材41よりも大きくしてもよい。
【0017】
第1表皮材31は、ドアトリム10を車両(図示せず)に取り付けた状態において、車室内側に配される。第1表皮材31は、例えば、ポリエステル繊維からなる織布、編布、不織布とされ、具体的には、織物、トリコット、丸編、ニードルパンチ等を例示することができる。一方、第2表皮材32(他の合成樹脂部材)は、例えば、スラブウレタン(ポリウレタン系樹脂)などの発泡樹脂材を例示することができる。
【0018】
本実施形態では、第1表皮材31と第2表皮材32とを溶着や接着などの接合手段によって接合することで、表皮材30が構成されている。そして、基材41と表皮材30における第2表皮材32とを、本実施形態の溶着方法(後述)によって溶着することでオーナメント40が形成されている。
【0019】
次に、本実施形態において、表皮材30(第2表皮材32)と基材41とを溶着する溶着方法について、図2〜図4を参照しながら詳細に説明する。本実施形態の溶着方法は、加熱媒体塗布工程と、加熱媒体塗布工程の次に行われる溶着工程と、を備えている。
【0020】
加熱媒体塗布工程では、図2に示すように、基材41における表面41A(第2表皮材32との溶着面、一方の表面)の全面に水50(加熱媒体)を塗布する。水50は、図2に示すように、例えば霧吹き51を用いて基材41に塗布される。水50の塗布量は、例えば、10〜100g/mの範囲で設定される。
【0021】
次の溶着工程では、高周波誘電加熱(電磁波による加熱の一例)によって、基材41と表皮材30とを溶着する(言い換えると、基材41を表皮材30に溶着する)。まず、水50が塗布された状態の基材41と、表皮材30とを積層させ、対向配置された一対の電極60A,60Bの間に配する(図3参照)。具体的には、水50を挟む形で、基材41と、第2表皮材32とを配する。なお、一対の電極60A,60Bは図示しない駆動手段(シリンダやモーターなど)によって、互いに接近及び離間が可能な構成とされ、一対の電極60A,60Bによって、基材41及び表皮材30を挟持することが可能な構成となっている。また、一対の電極60A,60Bは、高周波発振器52と、それぞれ電気的に接続されている。
【0022】
一対の電極60A,60B間に配された基材41及び表皮材30とを、一対の電極60A,60Bによって、所定の圧力で挟持する。この際の圧力は、第1表皮材31が起毛性部材である場合は、表面の毛倒れが生じない程度の小さい圧力で挟持することが好ましく、
例えば、0.05〜5.0kg/cmの間で設定することが好ましい。
【0023】
次に、高周波発振器52を駆動させ、一対の電極60A,60B間に高周波電流を通電させる。なお、高周波発振器52の駆動出力は、例えば、5〜100kWの範囲内で設定される。また、一対の電極60A,60B間に通電される高周波電流の電圧値は、例えば、5000〜9300Vの範囲内で設定され、電流値は、例えば、4〜6.5Aの範囲内で設定される。また、高周波発振器52の駆動時間(発振時間)は、例えば3〜20sの間で設定され、高周波電流の周波数は、例えば、13.56、27.12、40.46、41.14MHzのうち、いずれかの定格の周波数で設定される。
【0024】
一対の電極60A,60B間に高周波電流を通電させると、電磁波によって、基材41と第2表皮材32との間(つまり、互いの溶着面)に介在された水50の分子が振動(又は回転)する。このため、隣接する各水分子が互いに摩擦される結果、加熱される。これにより、水50の温度が上昇し、水50の熱が、水50と接触している基材41及び第2表皮材32の双方に伝熱される。なお、水50は、電磁波により加熱される過程で沸点を超え、水蒸気になり、さらに加熱される(過熱水蒸気の状態)。
【0025】
これにより、水50を介して基材41及び第2表皮材32が加熱され、基材41及び第2表皮材32の各融点に達すると、それぞれ溶融する。これにより、基材41及び第2表皮材32の接触部分が混融される。そして、高周波発振器52の駆動を停止した後、基材41及び第2表皮材32の混融部分が固化することで、基材41と第2表皮材32とが強固に結合する。以上の過程により、基材41と第2表皮材32との溶着が完了する(図4参照)。
【0026】
また、この溶着工程において、基材41及び第2表皮材32との間に介在されている水50は、基材41及び第2表皮材32の双方を加熱すると同時に温度上昇に伴い蒸発する。このため、水50が基材41及び第2表皮材32の接触を妨げることがなく、両部材の混融が可能となる。
【0027】
なお、本実施形態では、基材41(例えば、ポリプロピレン)の融点は、例えば約170℃とされ、第2表皮材32(スラブウレタン)の融点は、例えば約220℃とされる。なお、高周波電流を通電させる過程において、基材41と第2表皮材32との間の温度(水蒸気となった水50の温度)を熱電対にて測定した所、少なくとも約160℃〜170℃まで温度上昇したことを確認できた。
【0028】
以上、説明したように、本実施形態の溶着方法は、基材41を第2表皮材32に溶着する溶着方法であって、基材41の表面41Aに、水50を塗布する加熱媒体塗布工程と、水50を挟む形で基材41及び第2表皮材32を配した状態で、高周波誘電加熱(電磁波)によって水50を加熱することで、水50を介して、基材41を加熱溶融し、第2表皮材32に溶着する溶着工程と、を備えている。
【0029】
本実施形態においては、水50を介して、基材41を加熱溶融することで、基材41と第2表皮材32とを溶着することができる。一般的に、電磁波によって物質を加熱する場合は、物質の誘電損失が高い程、加熱させやすい。本実施形態においては、誘電損失の大きい水を加熱媒体とすることで、基材41(又は第2表皮材32)自体の誘電損失に関わらず基材41(又は第2表皮材32)を効果的に加熱溶融させることができる。
【0030】
このように、電磁波加熱によって、基材41と第2表皮材32とを溶着させる構成とすれば、従来、基材41と表皮材30との接合に用いていた接着剤を削減でき、コストを低減させることができる。また、接着剤の塗布及び乾燥工程を削減でき、工程の省スペース化を図ることができる。さらに、接着剤によって、工程を汚すこともなく作業環境を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態においては、加熱媒体として、水50を用いている。このようにすれば、接着剤などを塗布する方法と比較して、材料コストを大幅に低減でき、作業性も良好となる。
【0032】
さらに、水の沸点は、本実施形態における溶着対象である基材41及び第2表皮材32の融点よりも低い。このため、溶着過程において水が蒸発し、水50が基材41及び第2表皮材32の間に残ることを抑制できる。このため、基材41及び第2表皮材32の溶着面をより確実に接触させ、溶着させることができ、溶着ムラなどを抑制できる。
【0033】
上記構成において、熱可塑性合成樹脂部材は、基材41(車両用トリム部材)であって、他の合成樹脂部材は、基材41を覆う表皮材30とされる。このようにすれば、接着剤などを用いることなく表皮材30と基材41とを接合することができる。
【0034】
また、基材41は、ポリオレフィン系樹脂であって、第2表皮材32は、ポリウレタン系樹脂であるものとすることができる。
【0035】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0036】
(1)上記実施形態では、高周波誘電加熱によって、水を加熱する方法を例示したが、これに限定されない。電磁波によって水(加熱媒体)を加熱させる方法であればよく、例えば、マイクロ波を用いて、水を加熱してもよい。
【0037】
(2)上記実施形態では、基材41及び第2表皮材32の双方を熱可塑性合成樹脂とし、両部材を混融させることで、溶着する構成としたが、これに限定されない。基材41、表皮材30の材質は適宜変更可能であって、基材41及び第2表皮材32のうち、いずれか一方が熱可塑性合成樹脂であればよい。例えば、基材41が熱可塑性合成樹脂、第2表皮材32が熱硬化性合成樹脂である場合、基材41を溶融させることで、溶融された基材41が第2表皮材32の表面に入り込む(アンカー効果)。このようなアンカー効果によって、基材41を第2表皮材32に溶着することができる。
【0038】
(3)上記実施形態では、オーナメント40における基材41と第2表皮材32とを溶着する場合を例示したが、これに限定されない。上記実施形態の溶着方法は熱可塑性合成樹脂部材と、他の合成樹脂部材との溶着に関して適用することができる。
【0039】
(4)上記実施形態では、加熱媒体として、水50を例示したが、これに限定されない。加熱媒体としては、水を含んでいればよく、例えば、水溶液などを用いてもよい。
【0040】
(5)上記実施形態において、基材41への水50の塗布量は適宜変更可能である。なお、水50の塗布量が少なすぎると、基材41における表面41Aの全面に水50が塗布されにくい。このため、溶着工程において、基材41に加熱されやすい箇所とされにくい箇所が生じてしまい、溶着のムラが発生しやすくなる。また、水50の塗布量が多すぎると、水50が溶着工程において、一対の電極60A,60B側に垂れてしまいスパークの原因となるため好ましくない。以上のことから、上記実施形態では、水50の塗布量を10〜100g/mの範囲で設定することとした。
【0041】
(6)上記実施形態において、水50の塗布手段として、霧吹きを例示したが、これに限定されない。例えば、刷毛やローラーなどを用いて、水を塗布してもよい。
【0042】
(7)上記実施形態においては、加熱媒体塗布工程において、基材41の表面41Aに水50を塗布する構成としたが、これに限定されない。例えば、水50を第2表皮材32の表面(基材41との溶着面)に塗布してもよい。
【0043】
(8)高周波発振器52の出力、高周波電流の電圧、電流、周波数などは、上記実施形態で例示した範囲に限定されず、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
32…第2表皮材(他の合成樹脂部材、ポリウレタン系樹脂、表皮材)
41…基材(熱可塑性合成樹脂部材、ポリオレフィン系樹脂、車両用トリム部材)
41A…基材の表面(いずれか一方の表面)
50…水(加熱媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂部材を他の合成樹脂部材に溶着する溶着方法であって、
前記熱可塑性合成樹脂部材または前記他の合成樹脂部材のうち、いずれか一方の表面に、水または水溶液からなる加熱媒体を塗布する加熱媒体塗布工程と、
前記加熱媒体を挟む形で前記熱可塑性合成樹脂部材及び前記他の合成樹脂部材を配した状態で、電磁波によって前記加熱媒体を加熱することで、前記加熱媒体を介して前記熱可塑性合成樹脂部材を加熱溶融し、前記他の合成樹脂部材に溶着する溶着工程と、を備えたことを特徴とする溶着方法。
【請求項2】
前記熱可塑性合成樹脂部材は、車両用トリム部材であって、
前記他の合成樹脂部材は、前記車両用トリム部材を覆う表皮材であることを特徴とする請求項1に記載の溶着方法。
【請求項3】
前記熱可塑性合成樹脂部材は、ポリオレフィン系樹脂であって、
前記他の合成樹脂部材は、ポリウレタン系樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−66459(P2012−66459A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212522(P2010−212522)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】