説明

溶融塩化物から金属を製造する方法及び電解セル

本発明は、塩化亜鉛を含む溶融塩から亜鉛を電解製造する方法及びセルに関する。セルは、電解質を含有する少なくとも1つの電解チャンバ(2)と、少なくとも1つの隔壁(7,8)によって該電解チャンバと分離される少なくとも1つの隣接チャンバ(1)とを有する。電解チャンバ内の環境は、少なくとも1つの隔壁によって隣接チャンバ内の環境と分離される。電解質は、電解質の液位よりも低い位置の隔壁における少なくとも1つの開口部を通って、電解チャンバと隣接チャンバとの間を流れるように誘導される。生成される亜鉛金属は、セルの底部で回収される。電解質流れは、実質的に層流に制御されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化亜鉛を含有する溶融塩化物電解質から液体亜鉛と塩素ガスとを製造する方法、及び当該方法を実施する電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化亜鉛からの亜鉛の電解製造に関する幾つかの特許及び他の文献が存在している。これらの特許及び報告は基本的に、全電極を包含する単一区画を有する電解セルを記載している。他方、本発明は、少なくとも2つの区画を有する電解セルを記載しており、その少なくとも1つの区画は電極を包含し(電極チャンバ)、その少なくとも1つの区画は、電極チャンバに隣接して設けられる。それらのチャンバは、電解質を区画間で流動させることを可能とする隔壁によって分離されている。電極は、垂直であるか、水平であるか、又は幾らかの角度で傾斜している。
【0003】
鉱山局の報告書8133及び報告書8524(米国内務省)は共に、ZnCl2溶融塩セルからの亜鉛の電解採取を記載している。報告書8133は、2つの単極(monopolar)電極を用いた電解の結果を示しているのに対し、報告書8524は、単極(monopolar)セル及び双極(bipolar)セルの両方における電解に関するものである。全セル内の電極は、水平であるか又は水平位置からわずかに傾斜している。
【0004】
特許文献1は、傾斜した電極を有する双極電解セルにおける溶融ZnCl2からの亜鉛と塩素との製造を記載している。
【0005】
さらに、セルの設計は、マグネシウムの電解製造から既知であり、マルチ単極(multi-monopolar)電極(特許文献2)及びマルチ双極(multi-bipolar)電極(特許文献3)の両方に使用されている。しかしながら、マグネシウム金属は電解質よりも軽く、その上部に浮き上がるのに対し、亜鉛は電解質よりも重いので、セルの底部で回収される。このため、亜鉛の電解製造用の2つ以上の区画を有するセルの設計は、マグネシウムの製造用の電解セルとかなり異なる。
【0006】
特許文献4は、溶融フッ化物/酸化物電解質からアルミニウムと酸素とを製造するための、非消耗性アノードを備えた電解セルを記載している。記載されているセルは、別個の区画、即ち、電極用の1つの区画と1つの気体分離チャンバとを有する。気体分離チャンバの目的は、電解質からの酸素の効率的な除去を確実にすることである。製造されたアルミニウムはセルの底部へと沈下し、ここで、アルミニウムは、第3の金属回収区画へと入り、電解質中に溶解する酸素から保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/074552号
【特許文献2】米国特許第4,308,116号明細書
【特許文献3】英国特許第8800674号明細書
【特許文献4】欧州特許第1364077号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
添付の特許請求の範囲に規定される本発明によれば、電解質中の適切な流れ条件を保証する、亜鉛を製造する新規な方法及び電解セルが提示される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
セルの設計及び当該セルを作動させる対応の方法により、アノード(3)上に生成される塩素気泡の上方流れが、電解質に抗力を作り出し、それがアノードとカソードとの間の上方流れをもたらす。単一区画セルでは、この流れにより、特に乱れが大きい電解質流れを有する容量部分(セルの上部)、及びほぼ0の流れ速度を有する容量部分(電極の下側)がもたらされ得る。両方の状況とも望ましいものではない。高乱流はセルの磨耗及び塩素と亜鉛との再結合を増大させるおそれがあるのに対し、低速度ではスラッジが堆積する可能性がある。以下で、実施例及び図面によって本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による2つの区画を有するセルの基本構成部材の断面端面図である。
【図2】図1に示されるセルの基本構成部材の上断面図である。
【図3】図1に示されるセルの基本構成部材の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照すると、電解チャンバ2と1つの隣接チャンバ1とを有する電解セルが断面図に示されている。図2は、同じ参照符号を有するカソードの位置における同じセルの上面図を示す。幾つかのチャンバ構成が可能であることを理解されたい。1つのチャンバ構成は、例えば、中央に位置する共通の隣接チャンバを共有する2つの分離した電解チャンバを有し得る。図中、参照符号3及び参照符号4はそれぞれアノード及びカソードである。示される実施形態において、アノード3は上部から挿入されるのに対し、カソード4は側面から挿入される。上部から挿入される電極のみを有する構成、側面から挿入される電極のみを有する構成、又は底部から挿入される電極を有する構成のように異なる構成も同様に可能であることを理解されたい。底部又は側面から挿入される電極では、セルからの電解質の漏洩を避けるために電極ヘッドの適切な冷却が重要となる。双極電極の構成も可能である。その場合、端面カソード及び端面アノードをセルに挿入する必要がある。双極電極は電解質中に完全に浸漬される。双極電極では電極を傾斜させることも可能である。略水平の電極構成に対する傾斜も可能である。傾斜電極では、塩素は下方に向いている電極面上に生成され、Znは上方に向いている電極面上に生成される。
【0012】
さらに、図1を参照すると、参照符号5がZn溜まりを示している。Znは生成されるとセルの底部で回収されるため、一般的な金属湯出しが必要とされる。セルの上部には、塩素の排気口6が設けられている。金属は開口部9を通して除去することができ、ZnCl2の添加は一開口部10を通して行うことができる。セルの底部とセルの蓋との間の高さに応じて、金属をセルから吸い出すか又は送り出す(pump out)ことができる。Znの密度に起因して、吸引は約1.5m未満の高さの場合のみ効率的である。高さがこれよりも高ければ、ポンプ輸送が要求される。通常ZnCl2は電解質よりも高い密度を有するため、ZnCl2を電解チャンバ内へ添加することが好ましい。電解チャンバ内の対流がより強力であるため、ZnCl2の混合は、隣接チャンバよりも電解チャンバ内で有効である。しかしながら、隣接チャンバへのZnCl2の添加も可能である。液体又は固体のいずれとしてもZnCl2を供給することができる。参照符号7及び参照符号8は、電解チャンバを隣接チャンバと分離させる隔壁を(断面図で)示している。
【0013】
図3は、図1及び図2と同様の参照符号を有する隔壁に沿った側面図を示す。隔壁8の十分な浸漬によって、2つのチャンバ内の環境の分離が達成される。そのため、電解チャンバは主に塩素を含有するのに対し、隣接チャンバは主に空気又は好適な不活性ガスを含有する。隔壁7は、図1中の矢印で示される電解質の循環流れの発生を促す。電解質の速度は、隔壁7と隔壁8との間隙及び/又は隔壁7とセルの底面との間隙を調節することによって制御することができる。図3を参照すると、参照符号11及び参照符号12は、上側の隔壁及び下側の隔壁の支柱を示す。
【0014】
亜鉛を生成する2つ以上の区画を有するセルの設計の目的は、セル内において電解質の制御可能な流れを確立することである。アノード(3)に対して生成される塩素気泡の上方流れが、電解質に抗力を作り出し、それがアノードとカソードとの間の上方流れをもたらす。2つ以上の区画を有するセルでは、電解質の上方流れを電極区画2から隣接区画1へと誘導することができ、隣接区画から電極より下の電極区画へと電解質が逆流することにより、循環流れが生じる。隣接チャンバ内の下方流れは、電極チャンバ内の上方流れよりも遅いことが好ましく、これは隣接チャンバ内の流れ断面を大きくすることによって達成することができる。
【0015】
この循環流れには幾つかの利点がある。電解質流れは実質的に層流の性質(laminar nature)を有することがあり、隣接チャンバを通る流れは、小さい塩素気泡と電解質との効率的な分離を可能にする。徐々に沈降する小さい金属滴は、電極上の乱流中の塩素と再結合するよりもむしろ隣接チャンバ内で沈降する。電解質中における低密度の酸化物固体粒子の滞留時間が長くなり、より効率的な塩素化(MxO+Cl2=MCl2+O2)が可能となり、それによってスラッジの形成が低減される。電極チャンバと分離しているチャンバは、金属の除去及び塩素の抽出を分けることができるという利点をも有する。そうでなければ、金属の除去中にセルからのCl2の漏洩を避ける特別な手段を実施しなければならない。
【0016】
セルにおいて、幾つかの材料の選択を行うことができる。アノードは好ましくは炭素材料である。比較的低い電気抵抗のためにグラファイトが好ましい。カソードも炭素材料であってよいが、TiB2等の導電性セラミックを使用することもできる。Mo、W及びNb等の不活性金属又は略不活性金属を適用することができる。炭素に比して、導電性セラミック及び金属の利点は、炭素が液体Znに湿潤しないのでZnが非常に微細な液滴として生成される点である。現行の効率及び金属の回収の両方の観点からZn液滴が大きいほど有益である。
【0017】
セル自体は、アルミナ系、シリカ系、炭素材料、窒化ケイ素系、炭化ケイ素系、窒化アルミニウム系又はこれらの組合せ等の好適な煉瓦壁(brickwork)によって裏打ちされた鋼殻(steel shell)から作製され得る。
【0018】
電解質はZnCl2を含有していなければならない。ZnCl2は好ましくは、水分、酸化物及び水酸化物を含まないが、幾らかの混入物を許容することもある。また、導電性を高め、ZnCl2の粘性、吸湿性及び蒸気圧を下げるために1つ以上の他の塩化物を使用することが好ましい。添加される典型的な塩化物は、LiCl、NaCl及びKClであるが、アルカリ土類金属塩化物及び他のアルカリ金属塩化物を使用することもできる。ZnCl2の濃度は、数重量パーセントから80重量%までの範囲であり得る。電解温度はZnの融点(420℃)以上の範囲であり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を含有する少なくとも1つの電解チャンバ(2)と、少なくとも1つの隔壁(7,8)によって該電解チャンバと分離される少なくとも1つの隣接チャンバ(1)とを有する電解セルの使用によって、塩化亜鉛を含む溶融塩から亜鉛を電解製造する方法であって、
前記電解チャンバ内の環境が、前記少なくとも1つの隔壁によって前記隣接チャンバ内の環境と分離されており、且つ前記電解質が、前記電解質の液位よりも低い位置の前記隔壁における少なくとも1つの開口部を通って、前記電解チャンバと前記隣接チャンバとの間を流れるように誘導し、且つ生成される亜鉛を前記セルの底部で回収することを特徴とする塩化亜鉛を含む溶融塩から亜鉛を電解製造する方法。
【請求項2】
前記生成される液体亜鉛は前記セルから送り出される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体又は液体のZnCl2を連続的に又は半連続的に供給する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
塩化亜鉛を含む溶融塩から亜鉛を電解製造する電解セルであって、該セルは、電極を有する少なくとも1つの電解チャンバ(2)を備えると共に電解質を含有し、且つ少なくとも1つの隔壁(7,8)によって前記電解チャンバと分離される少なくとも1つの隣接チャンバ(1)をさらに備え、
前記少なくとも1つの隔壁が、前記電解チャンバ内の環境を前記隣接チャンバ内の環境と分離するように配置され、且つ前記隔壁における少なくとも1つの開口部が、前記電解質の液位よりも低く配置されて、前記電解チャンバと前記隣接するチャンバとの間に前記電解質を流れさせ、且つ前記セルの底部が、生成される亜鉛を回収するようになっていることを特徴とする塩化亜鉛を含む溶融塩から亜鉛を電解製造する電解セル。
【請求項5】
前記セルが、2つ以上の単極電極を備えることを特徴とする請求項4に記載の電解セル。
【請求項6】
前記セルが、2つの単極電極と、1つ以上の双極電極とを備えることを特徴とする請求項4に記載の電解セル。
【請求項7】
前記単極電極が、水のような冷媒によって冷却されることを特徴とする請求項5又は6に記載の電解セル。
【請求項8】
前記セルが、グラファイト材料をベースとする電極を備えることを特徴とする請求項4に記載の電解セル。
【請求項9】
前記セルの裏打ち材料が、95%を超えるSiO2を含有することを特徴とする請求項4に記載の電解セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−504432(P2010−504432A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529141(P2009−529141)
【出願日】平成19年9月17日(2007.9.17)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000327
【国際公開番号】WO2008/035980
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(591237869)ノルスク・ヒドロ・アーエスアー (24)
【氏名又は名称原語表記】NORSK HYDRO ASA
【住所又は居所原語表記】0240 OSLO,NORWAY
【Fターム(参考)】