説明

溶融塩電池

【課題】アルミニウムの腐食が発生しにくい電解質を用いることにより、サイクル寿命が向上した溶融塩電池を提供する。
【解決手段】本発明の溶融塩電池は、溶融塩からなる電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度を0.1重量%以下、望ましくは0.01重量%以下としてある。電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が小さいことにより、アルミニウムで形成された電極の集電体の腐食が抑制され、溶融塩電池のサイクル寿命が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質として溶融塩を用いた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーの利用が進められている。自然エネルギーを利用して発電を行った場合は発電量が変動し易いので、発電した電力を供給するためには、蓄電池を用いた充電・放電により、供給電力を平準化することが必要となる。このため、自然エネルギーの利用を促進させるためには、高エネルギー密度・高効率の蓄電池が不可欠である。このような蓄電池として、特許文献1に開示されたナトリウム−硫黄電池がある。他の高エネルギー密度・高効率の蓄電池として、溶融塩電池がある。
【0003】
溶融塩電池は、電解質に溶融塩を用いた電池であり、溶融塩が溶融した状態で動作する。溶融塩電池の動作中の温度は、溶融塩の融点以上に保たれており、通常、リチウムイオン電池等の他の電池よりも高温となっている。従来のリチウムイオン電池では、正極の集電体としてアルミ箔を用い、負極の集電体として銅箔を用いており、各集電体に各電極の活物質が担持されている。溶融塩電池では、両電極の集電体にアルミニウムを用いていることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−273297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電池の電解質に鉄又はニッケルのイオンが含まれている場合、電解質に接触するアルミニウム製の集電体が腐食する可能性がある。リチウムイオン電池ではアルミニウムの腐食は大きな問題にはなっていないものの、リチウムイオン電池よりも動作温度が高く両電極でアルミニウム製の集電体を使用している溶融塩電池は、集電体が腐食することにより劣化する虞がある。特に、アルミニウムの内部に孔が浸食するように腐食が進行する孔食が発生した場合は、集電体が破断しやすくなり、溶融塩電池のサイクル寿命が短くなる。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、アルミニウムの腐食が発生しにくい電解質を用いることにより、サイクル寿命が向上した溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶融塩電池は、電極の集電体がアルミニウム製であり、電解質として溶融塩を用いた溶融塩電池において、電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が、0.1重量%以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、溶融塩電池の電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度を0.1重量%以下とすることにより、アルミニウムで形成された電極の集電体の腐食が抑制される。
【0009】
本発明に係る溶融塩電池は、前記電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が、0.05重量%以下であることを特徴とする。
【0010】
また本発明においては、溶融塩電池の電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度を0.05重量%以下とすることにより、アルミニウムで形成された電極の集電体の腐食がより抑制される。
【0011】
本発明に係る溶融塩電池は、前記電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が、0.01重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
更に本発明においては、溶融塩電池の電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度を0.01重量%以下とすることにより、アルミニウムで形成された電極の集電体の腐食が更に抑制される。
【発明の効果】
【0013】
本発明にあっては、アルミニウムで形成された電極の集電体の腐食が抑制され、溶融塩電池のサイクル寿命が向上する。サイクル寿命が向上することにより、溶融塩電池の繰り返し利用が可能となり、溶融塩電池の実用性が向上する等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。
【図2】孔食が発生した正極集電体を示す模式的断面図である。
【図3】溶融塩電池の電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度と溶融塩電池のサイクル寿命との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。図1には、溶融塩電池を縦に切断した模式的断面図を示している。溶融塩電池は、上面が開口した直方体の箱状の電池容器51内に、正極1、セパレータ3及び負極2を並べて配置し、電池容器51に蓋部52を冠着して構成されている。電池容器51及び蓋部52はアルミニウムで形成されている。正極1及び負極2は矩形平板状に形成されており、セパレータ3はシート状に形成されている。セパレータ3は正極1及び負極2の間に介装されている。正極1、セパレータ3及び負極2は、重ねられ、電池容器51の底面に対して縦に配置されている。
【0016】
負極2と電池容器51の内側壁との間には、波板状の金属からなるバネ41が配されている。バネ41は、アルミニウム合金からなり非可撓性を有する平板状の押え板42を付勢して負極2をセパレータ3及び正極1側へ押圧させる。正極1は、バネ41の反作用により、バネ41とは逆側の内側壁からセパレータ3及び負極2側へ押圧される。バネ41は、金属製のスプリング等に限定されず、例えばゴム等の弾性体であってもよい。充放電により正極1又は負極2が膨脹又は収縮した場合は、バネ41の伸縮によって正極1又は負極2の体積変化が吸収される。
【0017】
正極1は、アルミニウムからなる矩形板状の正極集電体11上に、NaCrO2 等の正極活物質とバインダとを含む正極材12を塗布して形成してある。なお、正極活物質はNaCrO2 に限定されない。負極2は、アルミニウムからなる矩形板状の負極集電体21上に、錫等の負極活物質を含む負極材22をメッキによって形成してある。負極集電体21上に負極材22をメッキする際には、ジンケート処理として下地に亜鉛をメッキした後に錫メッキを施すようにしてある。負極活物質は錫に限定されず、例えば、錫を金属ナトリウム、炭素、珪素又はインジウムに置き換えてもよい。負極材22は、例えば負極活物質の粉末に結着剤を含ませて負極集電体21上に塗布することによって形成してもよい。セパレータ3は、ケイ酸ガラス又は樹脂等の絶縁性の材料で、内部に電解質を保持でき、またナトリウムイオンが通過できるような形状に形成されている。セパレータ3は、例えばガラスクロス又は多孔質の形状に形成された樹脂である。
【0018】
電池容器51内では、正極1の正極材12と負極2の負極材22とを向かい合わせにし、正極1と負極2との間にセパレータ3を介装してある。セパレータ3には、溶融塩からなる電解質を含浸させてある。セパレータ3に含浸されている電解質は、正極1の正極材12と負極2の負極材22とに接触している。電池容器51の内面は、正極1と負極2との短絡を防止するために、絶縁性の樹脂で被覆する等の方法により絶縁性の構造となっている。蓋部52の外側には、外部に接続するための正極端子53及び負極端子54が設けられている。正極端子53と負極端子54との間は絶縁されており、また蓋部52の電池容器51内に対向する部分も絶縁皮膜等によって絶縁されている。正極集電体11の一端部は、正極端子53にリード線55で接続され、負極集電体21の一端部は、負極端子54にリード線56で接続される。リード線55及びリード線56は、蓋部52から絶縁してある。蓋部52は、溶接によって電池容器51に冠着されている。
【0019】
セパレータ3に含浸されている電解質は、溶融状態で導電性液体となる溶融塩である。溶融塩の融点以上の温度で、溶融塩は電解液となり、溶融塩電池は二次電池として動作する。融点を低下させるために、電解質は、複数種類の溶融塩が混合していることが望ましい。例えば、電解質は、ナトリウムイオンをカチオンとしFSA(ビスフルオロスルフォニルアミド)をアニオンとしたNaFSAと、カリウムイオンをカチオンとしFSAをアニオンとしたKFSAとの混合塩である。なお、図1に示した溶融塩電池の構成は模式的な構成であり、溶融塩電池内には、内部を加熱するヒータ、又は温度センサ等、図示しないその他の構成物が含まれていてもよい。また、図1には正極1及び負極2を一対備える形態を示したが、本発明の溶融塩は、セパレータ3を間に介して複数の正極1及び負極2を交互に重ねてある形態であってもよい。
【0020】
電解質に鉄イオン又はニッケルイオンが含まれている場合、接触するアルミニウムが腐食する。即ち、電解質に接触するアルミニウム製の正極集電体11及び負極集電体21が腐食する。正極集電体11及び負極集電体21が全体的に均一に腐食した場合は問題は少ないものの、内部に孔が浸食するように腐食が進行する孔食が発生した場合は、正極集電体11及び負極集電体21が破断しやすくなる。図2は、孔食が発生した正極集電体11を示す模式的断面図である。図2中の6は孔食部分を示す。孔食部分6は、腐食が進行するに従って、電解質と接触する部分から正極集電体11の内部へ浸食する。ある程度孔食が正極集電体11の内部へ浸食した後は、衝撃が加わった場合に正極集電体11は容易に破断する。同様に、負極集電体21にも孔食は発生する。溶融塩電池では、動作中の内部温度がリチウムイオン電池等の他の電池よりも高温であるので、孔食が発生しやすい。このように、電解質に鉄イオン又はニッケルイオンが含まれている溶融塩電池では、孔食の発生により正極集電体11及び負極集電体21は劣化して破断しやすくなり、サイクル寿命が短くなる。従って、溶融塩に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの濃度は可及的に小さいことが望ましい。本発明の溶融塩電池は、電解質中に不純物として含有される鉄イオン及びニッケルイオンの濃度を小さくすることによって、サイクル寿命を向上させたものである。
【0021】
図3は、溶融塩電池の電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度と溶融塩電池のサイクル寿命との関係を示す図表である。図3には、電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度を調整した溶融塩電池のサイクル寿命を測定した結果を示す。図3に示すように、電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が0.15重量%である場合は、溶融塩電池のサイクル寿命は50サイクル以下となり、溶融塩電池の実用性は低い。サイクル寿命を50サイクル以上とし、溶融塩電池の実用性を向上させるためには、電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度を少なくとも0.1重量%以下にする必要がある。
【0022】
また図3に示すように、電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が0.05重量%である場合は、溶融塩電池のサイクル寿命は500〜1000サイクルとなる。従って、サイクル寿命を500〜1000サイクル以上とし、溶融塩電池の実用性を向上させるために、溶融塩電池の電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度は0.05重量%以下であることが望ましい。更に図3に示すように、電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が0.01重量%以下である場合は、溶融塩電池のサイクル寿命は3000サイクル以上となる。サイクル寿命が3000サイクル以上である溶融塩電池は、十分な実用性を有する。従って、サイクル寿命を3000サイクル以上とし、溶融塩電池の実用性を十分に向上させるために、溶融塩電池の電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度は0.01重量%以下であることが望ましい。以上のように、電解質に不純物として含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度を0.1重量%以下、望ましくは0.01重量%以下とすることにより、アルミニウム製の正極集電体11及び負極集電体21の腐食が抑制され、溶融塩電池のサイクル寿命が向上する。サイクル寿命が向上することにより、溶融塩電池の繰り返し利用が可能となり、溶融塩電池の実用性が向上する。
【符号の説明】
【0023】
1 正極
11 正極集電体
2 負極
21 負極集電体
3 セパレータ
41 バネ
51 電池容器
52 蓋部
6 孔食部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の集電体がアルミニウム製であり、電解質として溶融塩を用いた溶融塩電池において、
電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が、0.1重量%以下であることを特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が、0.05重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記電解質に含まれる鉄イオン及びニッケルイオンの合計の濃度が、0.01重量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−89423(P2012−89423A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236822(P2010−236822)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】