説明

溶融塩電解槽及び低融点金属の精製方法

【課題】運転操作が容易であり、低融点金属を含む合金の供給および抜き出しが容易であり、長期間に亘って溶融塩の劣化を抑制でき、有用な低融点金属の純度を高められる溶融塩電解精製装置およびその低融点金属の精製方法を提供する。
【解決手段】陽極室1、低融点金属を含む合金の液状物を貯える空間、陽極室底部と接触させるように配置した内筒2、内筒の内部に配置された陰極室8、及び陽極室に外付けされた直流電源発生装置13とを少なくとも含んでなる低融点金属を精製回収する溶融塩電解槽であり、また、前記溶融塩電解槽を用い、電解精製することで有用な低融点金属を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点金属であるインジウム、スズ、ガリウムなどを含む合金から、有用な低融点金属を精製回収する溶融塩電解槽及び低融点金属の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融塩電解法は、通常の水溶液電解では電解析出が難しいナトリウム、マグネシウム、アルミニウムなどの卑な金属の精製方法として古くから研究され、多くの実用例がある。又、比較的融点が低い金属を含む合金を溶融陽極とし、陰極に精製した溶融金属を電解析出させる方法についても多くの研究がなされその成果が開示されている。これら溶融塩電解法に共通する課題は、溶融塩は吸湿性が顕著なため、運転操作中に大気との接触を回避できる電解槽構造とすることである。
【0003】
例えば、低融点金属の一種である金属インジウムは、金属インジウムを含む合金から溶融塩を電解質とした電解精製にて回収でき、その電解槽構造及びその精製方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。その電解槽の構造は、陰極室の中央部に陽極室である坩堝を配し、坩堝内には金属インジウムを含む合金を保持させ、精製した金属インジウムを坩堝の外周部に電解析出させるものである。確かに、この電解槽により金属インジウムを回収できるが、中央に配した陽極室内では、電解が進行するにしたがってスズをはじめとする不純物成分が濃縮されるため、坩堝の取り出し作業が必須となる。これは運転を停止し、溶融塩が固化しない高温状態で作業するため、溶融塩が大気と接触し、水分を吸収し劣化し、長期間の安定運転ができなかった。
【0004】
別の電解槽として、底部に陰極を配し、該陰極上に溶融塩浴の層を保持し、その上に多孔質体からなる容器中に陽極を保持した電解槽が開示されている(例えば、特許文献2参照)。確かに、この電解槽により合金から金属インジウムなどの有用成分を電解析出できる。しかしながら、通常の電解槽には用いない特殊な多孔質体が必要なため設備コストが高く、運転操作においても多孔質体の破損トラブルがないよう細心の留意が必要であった。又、多孔質体からなる容器中に保持している陽極は多孔質体の孔から漏出し、陽極と陰極が短絡し、運転を停止せざるを得なくなることがあった。更に、多孔質体の強度に関係するが、スケールアップが難しいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2006−046800号公報
【特許文献2】特開昭57−207185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、前記従来法の問題点を解決できる効果的、効率的な溶融塩電解槽、即ち低融点金属を含む合金の供給および抜き出しを含めた運転操作が容易であり、溶融塩と大気との接触を回避することで、長期間に亘って溶融塩の劣化を抑制でき、また特殊な多孔質体などを使用することなく、有用な低融点金属の純度を高められる溶融塩電解槽および低融点金属の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、低融点金属を含む合金から、有用な低融点金属を陰極に電解析出させ、精製回収する技術について鋭意検討した結果、溶融塩電解精製に用いる電解槽構造を適正化することで、運転操作が容易であり、低融点金属を含む合金の供給および抜き出しが容易であり、有用な低融点金属の純度を高め、長期間に亘って溶融塩の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、低融点金属を精製回収する溶融塩電解槽であって、
前記低融点金属を含む合金の液状物を収容し、陽極用導線を挿入可能な開口を有する陽極室と、
収容された前記液状物上に前記低融点金属のハロゲン化物の溶融塩層を保持し、当該溶融塩層を外部に流出させずに前記陽極室内で前記液状物を連通させるための内筒と、
精製後の前記低融点金属の導入口及び導出口を有し、当該導入口が前記溶融塩層内に位置するように配置されており、陰極用導線を挿入可能で内部が前記低融点金属で充填された陰極室と、を備える溶融塩電解槽及び前記溶融塩電解槽を用いた低融点金属の精製方法である。
【0009】
以下、本発明の溶融塩電解槽の一例について、図1及び2に基づいて説明するが、下記で説明する溶融塩電解槽はあくまで本発明の態様の一つであり、当然ながら本発明は下記の内容に限定されるものではない。
【0010】
図1に示すように、本発明における溶融塩電解槽100は陽極室1、内筒2及び陰極室8から構成される。陽極室1は、低融点金属を含む合金の液状物(陽極液9)を収容するための開放された容器である。内筒2は、この容器内に、開口を有する端面が、陽極室1内部の底面と対向するように配置されている。そして、内筒2の壁面及び上記開口を有する端面の反対側の面が、陽極室1に収容された低融点金属を含む合金の液状物(陽極液9)の一部を覆っている。陰極室8は、低融点金属を導入する導入口3及び当該低融点金属を導出する導出口7を有し、導入口3が内筒2の内部に配置されており、低融点金属を導出する導出口7が内筒2の外部に配置されている。また、陰極室8の内部は低融点金属(陰極液11)で充填されている。溶融塩電解槽は、ヒーター12上に配置され、陽極室1の下部よりヒーター12にて加熱しながら電解を実施してもよい。
【0011】
陽極室1は低融点金属を含む合金の液状物(陽極液9)を保持するための容器であり、陽極室1と内筒2により形成される空間には、陽極液9の投入や陽極用導線14の挿入が可能である。電解の運転操作を長時間継続すると、合金を構成する電解されなかった成分が陽極室1中にて濃縮されるので、陽極液9の組成を一定に保つために、当該開口から精製後の合金、すなわち、使用した陽極液9を導出することもできる。精製後の合金を導出するために、陽極室1には、別途導出口が設けられていてもよい。当該導出口は、陽極室1と内筒2の間の隙間に配置されていてもよい。導出口には、抜き出しノズル4が形成されていてもよく、精製後の合金を間欠的あるいは連続的に抜き出すことがより好ましい。なお、陽極液9に含まれる低融点金属の含有量が30重量%以下、好ましくは50重量%以下となった時点で抜き出しノズル4を開けると、低融点金属の純度がより高いものを得ることができる。陽極液9の供給も連続であっても間欠的であっても良く、合金の供給場所は陽極室1と内筒2との間の隙間からでも、あるいは別途供給部を設けても構わない。
【0012】
陽極室1の材質は保持している合金と反応しないものであれば特に限定されない。好ましくは、破損のおそれがほとんどない、黒鉛や金属材料であり、具体的にはステンレス、ニッケル基合金、鉄、鉄基合金、チタン、チタン基合金である。中でも、ステンレス、鉄、チタン及び黒鉛から選ばれた1種以上から構成された材料が好ましく、耐食性、経済性の面からステンレスがより好ましい。
【0013】
陽極室1の形状は、円筒型、角型、多角形型など特に限定されない。好ましくは、製作が容易で、機械的強度が高い円筒型、角型である。
【0014】
内筒2は、下部が開口し、例えば、上部に開閉可能な不活性ガス導入口5及び排ガス排出口6を有している。内筒2の上部が閉じられていることにより、溶融塩10表面と外気との接触が遮断できるため、溶融塩10の劣化原因である大気中の水分の混入を防止でき、長期間の安定運転が可能となる。溶融塩10と接触している気相部に導入する不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスなどが挙げられる。
【0015】
内筒2には、その内側に低融点金属を含む合金の液状物(陽極液9)が収容され、当該液状物上に低融点金属のハロゲン化物の溶融塩層10が保持されている。陽極液9の上部に浮遊状態で溶融塩層10を形成させるには、具体的には、内筒2の底部に陽極液9を貯え、不活性ガス導入口5及び排ガス排出口6から溶融塩を注ぎ込む、又は、内筒の中に粉末状の金属塩を入れておき、陽極液9の上で内筒2をひっくり返し、加熱を行って前記金属塩を溶融させる方法などが挙げられる。
【0016】
また、当該溶融塩層10を外部に流出させること無く、内筒2の内側と外側とで陽極液9を移動可能にするため、例えば、内筒2の下方部側面の一部がスリット状に切り欠かれている。これにより、陽極液9が内筒2の内部と外部とで行き来でき、陽極液9の組成が均一化できる。
【0017】
内筒2の材質は、内部に保持されている溶融塩、低融点金属を含む合金と反応しないものであれば、特に限定されない。価格、製作の容易さから好ましくはガラス、セラミックス、フッ素樹脂から選ばれた1種以上から構成され、より好ましくは石英ガラス、セラミックスである。
【0018】
陰極室8は、内部が低融点金属11で充填されるものであり、内筒2の外部に配置された部分には、陰極用導線15を挿入することができる。電析を行う前に陰極室8に予め充填される低融点金属11の純度は、低融点金属の含有量が90重量%以上であることが好ましい。
【0019】
陰極室8における導入口3は設備の大きさによって、1個又は複数個の容器から構成される。導入口3が、複数の容器から構成される場合、導入口3の表面で電解析出した精製低融点金属の液状物(陰極液11)は、連結された配管によって集合され、導出口7から連続的に、または間欠的に排出され、回収される。また、導入口3の配置は特に限定されないが、図2に示すように、溶融塩層10中、導入口3を均等に分散させるほど陽極の合金から低融点金属の酸化溶解が均一となり、即ち電流密度が小さくできるので好ましい。導入口3の断面積、即ち陰極液11と溶融塩10との界面の面積が大きいほど電解析出できる面積が大きくなり、電気抵抗が小さくなるので好ましいが、大きすぎると結果として溶融塩10の断面積(図2の溶融塩10の面積)が小さくなり、そのため溶融塩10の電気抵抗が増すことになる。好ましくは導入口3の断面積が内筒断面積の30〜70%、より好ましくは40〜60%とすることである。
【0020】
また、陰極室8は絶縁体から形成されることを必須とする。絶縁体のなかでも、好ましくは溶融塩や低融点金属に対し耐食性が高いガラス、セラミックス、フッ素樹脂であり、より好ましくは製作が容易で、耐熱性が高く、安価なガラスであり、更には石英ガラスが好ましい。
【0021】
陰極室8の形状は、低融点金属が電解析出できる形状であれば特に限定されない。好ましくは立方体、直方体、円柱である。
【0022】
続いて、本実施形態に係る低融点金属の精製方法について説明する。当該低融点金属の精製方法では、上記の溶融塩電解槽100において、陽極室1にインジウム、スズ及びガリウムから選ばれる1種以上の金属を含む合金を収容し、内筒2内の当該合金の液状物上に、上記金属に対応する金属ハロゲン化物の溶融塩を保持させる。そして、陽極用導線14及び陰極用導線15を挿入した状態で電圧を印加することにより、溶融塩電解させ、陰極室8の導出口7から、精製されたインジウム、スズ及びガリウムから選ばれる1種以上の金属を導出させる。
【0023】
上記精製方法により、インジウム、スズ及びガリウムから選ばれた1種以上の金属を含む合金を精製することができる。中でも、インジウムを含む合金は、融点が比較的低く、溶融塩電解精製での生産効率が良いため、本実施形態に係る精製方法によって好適に精製される。なお、合金とは金属元素及び/又は非金属元素からなる金属様の物質をいい、その結合状態などについては特に限定しない。低融点金属の含有量についても特に限定しない。すなわち、低融点金属が主成分であっても、微量含まれるものであっても好適に用いることができる。低融点金属の精製度合い、回収率、生産性から、合金中の低融点金属の含有量は好ましくは100wtppmから99.999wt%、より好ましくは1wt%から99.99wt%、更に好ましくは60wt%から99.9wt%である。
【0024】
合金中の低融点金属以外の金属の種類は特に限定しないが、例を挙げるとLi,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ge,As,Se,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,Sb,Te,Cs,Ba,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Tl,Pb,Biから選ばれた1種以上である。
【0025】
これらの中で溶融塩電解における低融点金属との分離精製が良好な金属は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,Cs,Ba,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Tl,Pb,Biであり、特にCu,Fe,Niは、分離精製が容易であり好ましい。
【0026】
内筒2に保持される溶融塩10は、精製対象となる金属に対応する金属ハロゲン化物を含み、かつ、陽極室1に保持されている低融点金属を含む合金よりも比重が小さく、溶融塩電解の操作が可能な溶融塩電解質であれば特に限定されない。例えば、精製対象となる金属に対応する金属ハロゲン化物とハロゲン化亜鉛との混合溶融塩、精製対象となる金属に対応する金属ハロゲン化物とハロゲン化アルミニウムとの混合溶融塩が挙げられる。より具体的には、精製対象がインジウムを含む合金である場合には、塩化亜鉛と一塩化インジウムの混合溶融塩や、臭化アルミニウムと一臭化インジウムの混合溶融塩などを好適に用いることができる。
【0027】
なお、精製される金属の純度の視点から、精製対象となる金属に対応する金属ハロゲン化物は、混合溶融塩全量を基準にして、50重量%より多くすることが好ましく、65重量%以上とすることが好ましく、75重量%以上とすることがより好ましい。また、溶融塩中の水分含有量は、0.7重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましく、0.4重量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
上記溶融塩電解槽を用いることにより、本実施形態に係る精製方法においては、高い電流密度にて電解することができる。電流密度は1〜200A/dmが好ましい。1A/dm未満で運転すると、単位電極面積当たりの生産速度が低下することがある。生産性の面からは電流密度は高いほど良いが、200A/dmを超える電流密度では陰極に有用な低融点金属が電解析出する際、不純物を取り込み、純度が低下することがある。電流密度として、より好ましくは2〜150A/dm、更には3〜100A/dmである。
【0029】
また、溶融塩電解の操作温度は、電解質浴、低融点金属を含む合金および低融点金属の全てが溶融状態であれば特に限定しない。装置材質の腐食、溶融塩電解の運転操作面から溶融塩の温度は50℃〜400℃が好ましく、90℃〜350℃であることがより好ましい。
【0030】
本発明において、陽極には低融点金属を含む合金を用いる。本発明における低融点金属とは、インジウム、スズ、ガリウムのうち一種以上を含むものを指す。
【0031】
以上述べた適正な運転条件にて電解することで、陰極に高純度な低融点金属を電解析出することができるが、該低融点金属が目標とする純度にまで達成していない場合は、同様の操作で溶融塩電解を更に1回以上実施して目標とする純度に達するまで精製しても良い。
【発明の効果】
【0032】
本発明の溶融塩電解槽によれば、陰極室に電解析出した有用な低融点金属を連続的に回収でき、陽極室への合金の供給および抜き出しも電解操作を停止することなく実施できる。又、溶融塩の劣化原因である水分や酸素ガスの混入も防止できる。更に、電流密度の偏りを防止できるので、精製した金属の純度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る溶融塩電解槽の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のI−I線に沿って切断した断面図である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0035】
なお、本発明における溶融塩中の水分含量の測定方法は、溶融塩を脱水メタノール溶媒に溶解し、一部をサンプリングし、カールフィッシャー試薬(シグマアルドリッチ社製、商品名「ハイドラナールコンポジット5」)にて滴定して算出した。
【0036】
実施例1
図1に示した溶融塩電解精製装置を用いて、以下の装置構成および溶融塩組成にて、金属インジウムを含む合金を陽極室に供給し、陰極室に精製した金属インジウムを電解析出させた。
【0037】
1.装置構成
1)陽極室
大きさ:縦280mm×横350mm×深さ140mm、厚み5mm
材質:ステンレス鋼(SUS304)
形状:角槽(陽極液抜き出しノズル付き)
2)内筒
大きさ:縦250mm×横250mm×高さ250mm、厚み3mm
材質:石英ガラス
形状:角槽(底部:開口、側面下部:30mm×30mmのスリット各面2ヶ所、
上部:ノズル2ヶ所付)
3)陰極室
大きさ:縦30mm×横200mm×深さ30mm、厚み3mm、5個
材質:石英ガラス
形状:角槽5個
2.溶融塩浴
組成:一塩化インジウム:塩化亜鉛=78:22(モル%)
塩化インジウム 80重量% 水分含量 0.4wt%
電解温度:300℃
陽極室1に供給した金属インジウム含有合金(陽極液9)の組成は、金属インジウム90.3wt%、金属スズ9.7wt%であり、電解運転開始時に80.1kgを仕込んだ。直流電源発生装置13(菊水電子工業(株)製、商品名「PAS10−105」)にて100Aを通電、陽極の電流密度は16A/dm、陰極の電流密度は33A/dmにて連続運転を実施した。陰極室8に電解析出した金属インジウムは1日当り平均10.2kgで、導出口7から連続的に回収できた。陽極室1には前記組成の合金を1日当り10.2kgずつ供給した。運転開始14日目に、陽極室1に保持しているインジウム含有合金のスズ含量がやや高くなってきたため、電解運転を継続したまま、抜き出しノズル4から陽極液9を40.2kgを抜き出し、代わりに前記組成の合金40.2kgを溶融状態で供給し、電解を継続した。この陽極液交換の際、溶融塩10は大気と接触することなく操作でき、溶融塩10の変色や固化などの劣化は全く見られなかった。
【0038】
この14日間の溶融塩電解精製によって陰極に電解析出した金属インジウム中のスズ含量は580wtppm、抜き出しノズル4から抜き出した陽極液中のスズ含量は25.6wt%であった。又、溶融塩中の水分含量は0.3wt%であった。
【0039】
比較例1
特許文献1記載の溶融塩電解槽を製作し、実施例1と同じ生産速度での金属インジウムの電解精製を実施した。装置構成および溶融塩浴組成は以下の通りとした。
【0040】
1.装置構成
1)本体(陰極室)
大きさ:内径400mmφ×深さ300mm、内容積37.7L、厚み5mm
材質:ステンレス(SUS316)
形状:円筒、陰極液抜き出しノズル付き、上部は原料供給ノズルを備えた蓋。
【0041】
2)陽極室
大きさ:内径260mmφ×深さ140mm、内容積7.4L、厚み5mm
材質:アルミナ
形状:円筒ルツボ
3)本体内側の絶縁カバー(上部)
大きさ:内径380mmφ×深さ250mm、厚み5mm
材質:石英ガラス
形状:円筒
2.溶融塩浴
組成:一塩化インジウム:塩化亜鉛=78:22(モル%)、水分含量0.6wt%
電解温度:300℃
まず、陽極室に実施例1に用いた金属インジウム含有合金(金属インジウム90.3wt%、金属スズ9.7wt%)を45.2kg仕込み、電解槽の中央部に置いた。引き続き、本体内側の絶縁カバーと陽極室の間に金属インジウム40.3kg仕込み、上記組成の溶融塩32.9kgを入れ、通電棒をセットし、直流電源発生装置13(菊水電子工業(株)製、商品名「PAS10−105」)にて100Aを通電した。陽極の電流密度は19A/dm、陰極の電流密度は18A/dmで、連続運転を実施した。陰極室に電解析出した金属インジウムは1日当り平均10.2kgで、連続的に回収できた。陽極室には前記組成の合金を1日当り10.2kgずつ供給するため、電解槽上部の蓋に設置した原料供給ノズルを開放し、溶融状態で流し込んだ。このように、短時間ではあるが、電解槽の気相部には大気中の水分が混入した。運転開始6日目に、陽極室に保持している金属インジウム含有合金のスズ含量が高まったため、電解運転を停止し、温度が280℃と高いうちに陽極室(坩堝)を取り出した。陽極液34.8kgを抜き出し、代わりに前記組成の合金を45.2kgを溶融状態で仕込み、電解槽の中央部に戻し、電解を再開した。この陽極液交換の際、溶融塩は大気と接触したため、溶融塩の上層部が一部固化し、溶融塩の劣化が認められた。この一連の操作を実施例1と同様、14日間継続した。
【0042】
この14日間の溶融塩電解精製によって陰極に電解析出した金属インジウム中のスズ含量は平均1530wtppm、陽極室から抜き出した陽極液中のスズ含量は平均26.7wt%で、実施例1に比べ陰極に電解析出した金属インジウム中のスズ含量が約3倍と高く、品質面で不十分であった。また、14日間経過した溶融塩の上層には淡黄色の固形物が浮遊しており、溶融塩中の水分含量0.9wt%で劣化が顕著であった。
【0043】
比較例2
特許文献2記載の溶融塩電解槽を製作し電解精製を実施した。装置構成および溶融塩浴組成は以下の通りとした。
【0044】
1.装置構成
1)本体
大きさ:内径300mmφ×深さ300mm、厚み5mm
材質:ステンレス(SUS316)
形状:円筒、陰極液抜き出しノズル付き
2)本体内側のカバー
大きさ:内径280mmφ×深さ280mm、厚み5mm
材質:石英ガラス
形状:円筒
3)陽極室
大きさ:内径250mmφ×深さ180mm、内容積8.8L、厚み10mm
材質:多孔質アルミナ
形状:円筒ルツボ
2.溶融塩浴
組成:一塩化インジウム:塩化亜鉛=78:22(モル%)
電解温度:300℃
陽極室に実施例1に用いた金属インジウム含有合金(金属インジウム90.3wt%、金属スズ9.7wt%)を50.9kg仕込み、電解槽の本体にセットした。引き続き、本体内側の絶縁カバーと陽極室の間から金属インジウム22.5kg仕込み、上記組成の溶融塩16.6kg仕込み、温度300℃とした。通電棒をセットし、直流電源発生装置13(菊水電子工業(株)製、商品名「PAS10−105」)にて100Aを通電した。陽極の電流密度は20A/dm、陰極の電流密度は16A/dmで、運転をスタートした。運転開始8時間経過した頃から電解槽電圧が急激にアップしたため、電解運転を停止し電解槽をチェックした。その結果、陽極室の多孔質アルミナの側壁にも溶融塩が浸透し、陽極と陰極の間の溶融塩保持量が減少し、陽極室の底面の一部が電解液と接触していない状態となったため、電気抵抗がアップしたと判明した。
【0045】
実施例2
実施例1に示した装置構成にて、金属スズを含む合金(陽極液9)を陽極室1に供給し、陰極室8に精製した金属スズを電解析出させた。なお、溶融塩10の組成は、塩化スズ76wt%、塩化亜鉛24wt%の混合溶融塩とし、電解温度は350℃とした。
【0046】
陽極室1に供給した金属スズ含有合金の組成は、金属スズ95.3wt%、金属鉛4.7wt%であり、電解運転開始時に80.3kgを仕込んだ。直流電源発生装置13(菊水電子工業(株)製、商品名「PAS10−105」)にて100A通電し連続運転を実施した。陰極室8に電解析出した金属スズは1日当り平均5.3kgで、導出口7から連続的に回収できた。陽極室1には前記組成の合金を1日当り5.3kgずつ供給した。運転開始14日目に、陽極室1に保持しているスズ含有合金の鉛含量が高まってきたため、電解運転を継続したまま、抜き出しノズル4から陽極液9を41.2kg抜き出し、前記組成の合金を41.2kg供給し、電解を継続した。
【0047】
この14日間の溶融塩電解精製によって、陰極に電解析出した金属スズ中の鉛含量は12wtppm、抜き出しノズル4から抜き出した陽極液中の鉛含量は8.7wt%であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の課題は、有用な低融点金属の純度を高め、長期間に亘って溶融塩の劣化を抑制でき、そして低融点金属を含む合金の供給および抜き出しが容易であって、長期間に亘って溶融塩の劣化を抑制でき、有用な低融点金属の純度を高められる溶融塩電解精製装置および低融点金属の精製方法に関するものである。
【符号の説明】
【0049】
1:陽極室
2:内筒
3:導入口
4:抜き出しノズル
5:不活性ガス導入口
6:排ガス排出口
7:導出口
8:陰極室
9:陽極液
10:溶融塩
11:陰極液
12:ヒーター
13:直流電源発生装置
14:陽極用導線
15:陰極用導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点金属を精製する溶融塩電解槽であって、
前記低融点金属を含む合金の液状物を収容し、陽極用導線を挿入可能な開口を有する陽極室と、
収容された前記液状物上に前記低融点金属のハロゲン化物の溶融塩層を保持し、当該溶融塩層を外部に流出させずに前記陽極室内で前記液状物を連通させるための内筒と、
精製後の前記低融点金属の導入口及び導出口を有し、当該導入口が前記溶融塩層内に位置するように配置されており、陰極用導線を挿入可能で内部が前記低融点金属で充填された陰極室と、を備える溶融塩電解槽。
【請求項2】
前記内筒がガラス、セラミックス及びフッ素樹脂から選ばれた1種以上から構成されることを特徴とする請求項1記載の溶融塩電解槽。
【請求項3】
前記内筒に不活性ガス導入口及び排ガス排出口を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩電解槽。
【請求項4】
前記陰極室がガラスで構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融塩電解槽。
【請求項5】
前記陰極室が前記導入口を複数有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶融塩電解槽。
【請求項6】
前記陽極室がステンレス、鉄、チタン及び黒鉛から選ばれた1種以上から構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の溶融塩電解槽。
【請求項7】
前記陽極室がステンレスから構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の溶融塩電解槽。
【請求項8】
前記陽極室が、精製後の前記低融点金属を含む合金を導出するための導出口をさらに有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の溶融塩電解槽。
【請求項9】
前記陽極室における、前記導出口にノズルが形成されていることを特徴とする請求項8記載の溶融塩電解槽。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の溶融塩電解槽において、
前記陽極室にインジウム、スズ及びガリウムから選ばれる1種以上の金属を含む合金を収容し、前記内筒内の当該合金の液状物上に、前記金属に対応する金属ハロゲン化物の溶融塩を保持させ、陽極用導線及び陰極用導線を挿入した状態で電圧を印加することにより、溶融塩電解させ、前記陰極室の導出口から、精製されたインジウム、スズ及びガリウムから選ばれる1種以上の金属を導出させることを特徴とする低融点金属の精製方法。
【請求項11】
溶融塩電解する際の操作温度が50℃〜400℃であることを特徴とする請求項10記載の低融点金属の精製方法。
【請求項12】
溶融塩電解する際の電流密度が1〜200A/dmであることを特徴とする請求項10または11に記載の低融点金属の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−132033(P2012−132033A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282385(P2010−282385)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】