説明

溶融炉

【課題】焼却灰の処理性能を低下させることなく、溶融メタルを排出できる溶融炉を提供する。
【解決手段】溶融炉1は、焼却灰を溶融して溶融スラグを生成するための溶融チャンバ3と、この溶融チャンバ3を加熱するための溶融チャンバヒータ5と、その上部に溶融スラグを排出するための溶融スラグ排出口23が設けられ、且つその下部に溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを排出するための溶融メタル排出口25が設けられており、溶融チャンバに連結され該溶融チャンバ3内で生成された溶融スラグを受け入れるための溶融スラグ受入チャンバ17と、この溶融スラグ受入チャンバ17を加熱するための受入チャンバヒータ19とを備え、所定の時期に受入チャンバヒータ19によって溶融スラグ受入チャンバ17を加熱して溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを溶融メタル排出口25から排出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉に関し、特に、焼却灰を溶融して溶融スラグを生成するための溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、焼却灰を溶融して溶融スラグを生成するための溶融炉として、特許文献1に記載されたものが知られている。このような溶融炉では、焼却灰が投入される溶融室と、補助溶融室を壁によって隔て、溶融室を主電極のジュール熱によって加熱し、さらに補助溶融室を補助電極のジュール熱によって加熱するように構成されている。一般的に、焼却灰を溶融して溶融スラグを生成すると、焼却灰中に含まれるメタル成分と溶融灰が分離して、溶融スラグ中に溶融メタルが含まれる。そして、特許文献1の溶融炉では、溶融メタルが溶融室の底に溜まったときに、主電極と補助電極を用いてアーク放電を行い、溶融メタルの流動性を高めて、溶融メタルを溶融室の下部に設けられた排出口から排出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−270834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来用いられていた溶融炉では、溶融室の底に溜まった溶融メタルを排出するときに、溶融スラグの生成を一旦停止しなければならない。すなわち、溶融チャンバの底に溜まった溶融メタルを排出するためには、溶融スラグを生成するために使用している電極の作動モードを切り替えてアーク放電を行い、これにより溶融チャンバの底に溜まった溶融メタルを溶融する必要がある。このように従来用いられていた溶融炉では、溶融メタルを排出するために、電極の作動モードを切り替える必要があるので、アーク放電を行っている間は溶融スラグを生成することができず、結果として焼却灰の処理性能が低下してしまうという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、焼却灰の処理性能を低下させることなく、溶融メタルを排出できる溶融炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、焼却灰を溶融して溶融スラグを生成するための溶融チャンバと、この溶融チャンバを加熱するための溶融チャンバ加熱手段と、その上部に溶融スラグを排出するための溶融スラグ排出口が設けられ、且つその下部に溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを排出するための溶融メタル排出口が設けられており、溶融チャンバに連結され該溶融チャンバ内で生成された溶融スラグを受け入れるための溶融スラグ受入チャンバと、この溶融スラグ受入チャンバを加熱するための受入チャンバ加熱手段とを備え、常時又は所定の時期に受入チャンバ加熱手段によって溶融スラグ受入チャンバを加熱して溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを溶融メタル排出口から排出するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
このように構成された本発明によれば、溶融チャンバ加熱手段によって溶融チャンバを加熱して焼却灰から溶融灰及び溶融メタルを含む溶融スラグを生成し、この溶融スラグを、溶融スラグ排出口が設けられた溶融スラグ受入チャンバ内に送る。この溶融スラグ受入チャンバは、溶融チャンバ加熱手段とは別の受入チャンバ加熱手段によって加熱できるようになっているので、溶融チャンバ加熱手段による溶融チャンバ内の加熱と並行して、溶融スラグ受入チャンバ内を加熱することができる。また、溶融スラグ受入チャンバ内の溶融スラグ中に含まれる溶融メタルは、溶融灰よりも比重が大きいので、溶融スラグ受入チャンバの底部に溜まり溶融メタル層を形成するが、本発明による溶融炉は、溶融チャンバ加熱手段、及び保持チャンバ加熱手段を並行して作動させることができるので、溶融チャンバ内で溶融スラグを生成しながら、溶融スラグ受入チャンバ内を加熱して溶融メタル層を加熱して溶融メタルの流動性を高めた上で溶融メタル排出口から排出することができる。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、溶融スラグ受入チャンバは、その下部に、溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを溜めるための溶融メタル溜まりを備え、溶融メタル排出口は、溶融メタル溜まり内に溜まった溶融メタルを排出するように構成されている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、溶融チャンバから溶融スラグ受入チャンバ内に送られた溶融スラグに含まれる溶融灰よりも比重が大きい溶融メタルを、溶融メタル溜まりに溜めることができる。そしてこれにより、溶融スラグ受入チャンバ内に溜まった溶融メタルが、溶融スラグ受入チャンバ内での溶融スラグの流れを妨げるのを防止することができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、溶融チャンバと溶融スラグ受入チャンバを連結するための連結管を備え、この連結管は、溶融チャンバの底近傍に接続されている。
【0011】
このように構成された本発明によれば、焼却灰よりも比重が大きい溶融スラグを溶融室の底に向けて移動させ、底近傍に連結された連結管を通して比重の大きい溶融スラグだけを溶融スラグ受入チャンバに送ることができ、一方で、比重が小さい未溶融のスラグは完全に溶融されるまで溶融スラグ受入チャンバには送られない。
【0012】
また、本発明において好ましくは、連結管は、溶融スラグ受入チャンバの底近傍に接続されている。
【0013】
このように構成された本発明によれば、溶融チャンバから流れ込んだ溶融スラグを、溶融スラグ受入チャンバの底近傍から溶融スラグ受入チャンバ内に流入させることができる。そして、これにより、溶融スラグ中に含まれる比重の大きい溶融メタルを溶融スラグ受入チャンバ内の底部に残し、比重の小さい溶融灰を溶融スラグ受入チャンバの上部に向けて流し、溶融スラグ受入チャンバ内で溶融灰と溶融メタルを分離することができる。そしてこれにより、比重の大きい溶融メタルが溶融スラグ受入チャンバの上方に向けて流れ、溶融スラグ受入チャンバの上部に設けられた溶融スラグ排出口から溶融メタルが排出されるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、焼却灰の処理性能を低下させることなく、溶融メタルを排出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態による溶融炉の立断面図である。
【図2】図1の断面A−A’における平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による溶融炉について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる溶融炉を示す立断面図であり、図2は、図1のA−A’断面の平断面図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、溶融炉1は、焼却灰を加熱して溶融スラグを生成するための溶融チャンバ3と、溶融チャンバ3を加熱するための溶融チャンバヒータ5とを備える。溶融チャンバ3は、黒鉛材によって形成されており、これにより、溶融チャンバ3内を還元雰囲気に保ったままで、溶融スラグを生成することができる。そしてこの溶融スラグには、焼却灰を溶融した溶融灰、及び焼却灰中に含まれる鉄、アルカリ金属等の残留物からなる溶融メタルが含まれている。
【0018】
また、溶融チャンバヒータ5は、ヒータ端子7を介して制御装置(図示せず)に接続されており、この制御装置によって制御される。そしてこれら溶融チャンバ3及び溶融チャンバヒータ5は、断熱壁9によって囲まれており、溶融チャンバヒータ5の輻射熱が溶融炉1外部に漏れないようになっている。
【0019】
溶融チャンバ3の天井部分には、溶融スラグを生成するときに生じる排ガスを排出するための排気管11が連結されている。そしてこの排気管11には、焼却灰をペレット状に加工した固形灰13の投入口15が設けられており、投入口15に投入された固形灰13は、排気管11を通って溶融チャンバ3内部に落下するようになっている。
【0020】
また、溶融炉1は、溶融チャンバ3に連結された溶融スラグ受入チャンバ17を備える。この溶融スラグ受入チャンバ17は、溶融チャンバ3と同様に黒鉛材によって形成されている。また、溶融スラグ受入チャンバ17の周りには、溶融スラグ受入チャンバ17を加熱するための受入チャンバヒータ19が設けられている。そしてこの受入チャンバヒータ19も、溶融チャンバヒータ5と同様にヒータ端子21を介して制御装置に接続されており、この制御装置によって制御される。そしてこれら、溶融スラグ受入チャンバ17及び受入チャンバヒータ19も、断熱壁9によって囲まれている。
【0021】
溶融スラグ受入チャンバ17は、その上部に設けられた、溶融スラグを排出するための溶融スラグ排出口23と、その下部に設けられた、溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを排出するための溶融メタル排出口25と、溶融メタル溜まり33を備える。
【0022】
溶融スラグ排出口23は、溶融スラグ受入チャンバ17の側壁の最上部に設けられており、溶融スラグ受入チャンバ17で受け入れた溶融スラグを排出するように構成されている。溶融スラグ受入チャンバ17は、いわゆるオーバーフロー方式によって溶融スラグを溶融スラグ受入チャンバ17から排出するようになっており、溶融スラグ受入チャンバ17内に保持されている溶融スラグは、溶融チャンバから新たに流れ込んだ溶融スラグによって、溶融スラグ排出口23から押し出されるようになっている。
【0023】
溶融メタル排出口25は、溶融スラグ受入チャンバ17の側壁の最下部に設けられており、溶融スラグ受入チャンバ17の底に設けた溶融メタル溜まり33に溜まった溶融メタルを排出するように構成されている。この溶融メタル排出口25内には、溶融メタル排出口25を塞ぐためのプラグ27が嵌め込まれており、このプラグ27を溶融メタル排出口25から抜くことで溶融メタル排出口25が開口して、溶融メタル溜まり33の底に溜まった溶融メタルが溶融スラグ受入チャンバ17から排出され、溶融メタル排出口25の下に設けられたダンパ29を通って外部に排出される。
【0024】
また、溶融炉1は、溶融チャンバ3と溶融スラグ受入チャンバ17を連結するための連結管31を備える。連結管31は、溶融チャンバ3の底近傍と、溶融スラグ受入チャンバ17の底近傍を相互に連結し、溶融チャンバ3内の溶融スラグを、溶融スラグ受入チャンバ17に送るように構成されている。具体的には、連結管31は、溶融チャンバ3の側壁の最下部と、溶融スラグ受入チャンバ17の側壁のとの間で延びて熔融チャンバ3と熔融スラグ受入チャンバ17とを連結するように構成されている。
【0025】
溶融メタル溜まり33は、溶融スラグ受入チャンバ17の底面及びその周囲の側壁によって構成される。この溶融メタル溜まり33は、連結管31が溶融スラグ受入チャンバ17に連結されている箇所よりも下側における溶融スラグ受入チャンバ17の一部によって構成されている。そして、上述の溶融メタル排出口25は、この溶融メタル受入チャンバ17の最下部に形成されている。
【0026】
次に、上述の溶融炉1の作用について詳述する。
【0027】
先ず、溶湯が入れられた溶融スラグを、溶融チャンバヒータ5を用いて1400℃前後に加熱して、固形灰13が、投入口15を介して溶融チャンバ3内に投入されると、固形灰13が溶融され、溶融灰と溶融メタルを含む溶融スラグが生成される。この溶融灰と溶融メタルは、溶湯や未溶融灰よりも比重が大きいので、重力により溶融チャンバ3の底に沈むように移動し、比較的比重の小さい溶湯や未溶融灰等は、溶融チャンバ3の上方に移動する。そして溶融スラグは、溶融チャンバ3の底近傍に連結された連結管31を通って、溶融スラグ受入チャンバ17に流れる。
【0028】
連結管31を通った溶融スラグは、溶融スラグ受入チャンバ17の底近傍から溶融スラグ受入チャンバ17内に流入する。このとき溶融スラグ受入チャンバ17は、受入チャンバヒータ19によって1400±50℃前後に加熱されている。そして、このとき溶融スラグ中の比重が大きい溶融メタルは、連結管31から溶融スラグ受入チャンバ17内に流入して下向きに流れ、溶融スラグ受入チャンバ17の溶融メタル溜まり33に溜まる。一方で比重が小さい溶融灰は、連結管31から溶融スラグ受入チャンバ17内に流入して上向きに流れ、溶融スラグ受入チャンバ17の上方に移動する。そして溶融スラグ受入チャンバ17内の溶融スラグの頂面が溶融スラグ排出口23の高さに到達すると、溶融スラグは、溶融スラグ排出口23から溶融炉1外に排出される。
【0029】
また、溶融スラグが溶融スラグ受入チャンバ17内に流れ込み続けると、溶融メタル溜まり33内に溶融メタル層が形成される。従って、溶融炉1は、所定の時期、例えば所定の時間間隔や、生成した溶融スラグの量に応じて溶融メタルを排出するための処理を行う。この処理は溶融メタルの成分、灰に含まれる金属分が多く、溶融スラグに溶融メタルが多く含まれている場合には、溶融メタルを常時排出するために、プラグ27の開度を小さくし、これにより溶融メタルを連続的に排出するようにする。一方で、溶融スラグに溶融メタルが多く含まれていない場合には、所定の時間が経過して溶融メタル溜まり33が満杯になった時点でプラグ27を開放して溶融メタルの排出を行う。また、溶融メタル中の金属の粘度が高く、溶融メタルの流動性が低い場合は受入チャンバヒータ19の温度を上げて溶融スラグ受入チャンバ17を加熱することにより、その中の溶融メタルの流動性を高めて排出を行う。
尚、溶融メタル溜まり33の周囲に、溶融チャンバヒータ5及び受入チャンバヒータ19から独立して作動するメタル溜まりヒータを配置してもよい。
【0030】
このように、上述の溶融炉1によれば、溶融チャンバ3と溶融スラグ受入チャンバ17を、それぞれ独立した加熱手段5,19によって加熱制御することができるので、溶融チャンバ3内で溶融スラグを生成しながら、溶融スラグ受入チャンバ17内で溶融メタルを加熱して排出する処理を行うことができる。また、溶融チャンバ3と溶融スラグ受入チャンバ17を、それぞれ独立したチャンバとし、これらの底近傍を互いに連結することで、溶融チャンバ3から溶融スラグ以外のものが溶融スラグ受入チャンバ17に流れ込むのを防止することができる。また、溶融スラグ受入チャンバ17が、上部に溶融スラグ排出口23を備え、下部に溶融メタル排出口25を備える構成となっているので、溶融スラグ受入チャンバ17内で、比重の差を利用して溶融灰と溶融メタルを分離することができる。さらに、溶融メタル受入チャンバ17の下部にメタル溜まり33を設けることにより、比重の大きい溶融メタルが溶融メタル受入チャンバ17の下方に溜まるようにし、これにより、溶融メタルが、連結管31から溶融メタル受入チャンバ17内に流れ込む溶融スラグの流れを妨げるのを防止することができる。
【0031】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0032】
例えば、上述の実施形態、特に図面では、連結管が水平に延びるものとして示しているが、この連結管を上流(溶融チャンバ)から下流(溶融スラグ受入チャンバ)に向けて下向きに傾斜させるようにしてもよい。これにより、より効率的に溶融スラグを溶融スラグ受入チャンバに送ることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 溶融炉
3 溶融チャンバ
5 溶融チャンバヒータ
17 溶融スラグ受入チャンバ
19 受入チャンバヒータ
23 溶融スラグ排出口
25 溶融メタル排出口
31 連結管
33 溶融メタル溜まり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰を溶融して溶融スラグを生成するための溶融チャンバと、
この溶融チャンバを加熱するための溶融チャンバ加熱手段と、
その上部に溶融スラグを排出するための溶融スラグ排出口が設けられ、且つその下部に溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを排出するための溶融メタル排出口が設けられており、前記溶融チャンバに連結され該溶融チャンバ内で生成された溶融スラグを受け入れるための溶融スラグ受入チャンバと、
この溶融スラグ受入チャンバを加熱するための受入チャンバ加熱手段とを備え、
常時又は所定の時期に受入チャンバ加熱手段によって前記溶融スラグ受入チャンバを加熱して前記溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを前記溶融メタル排出口から排出するように構成されていることを特徴とする溶融炉。
【請求項2】
前記溶融スラグ受入チャンバは、その下部に、溶融スラグ内に含まれる溶融メタルを溜めるための溶融メタル溜まりを備え、前記溶融メタル排出口は、前記溶融メタル溜まり内に溜まった溶融メタルを排出するように構成されている、請求項1に記載の溶融炉。
【請求項3】
前記溶融チャンバと前記溶融スラグ受入チャンバを連結するための連結管を備え、この連結管は、前記溶融チャンバの底近傍に接続されている、請求項1又は2に記載の溶融炉。
【請求項4】
前記連結管は、前記溶融スラグ受入チャンバの底近傍に接続されている、請求項3に記載の溶融炉。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−132631(P2012−132631A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286158(P2010−286158)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000219750)東海高熱工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】