説明

溶融還元方法

【課題】 溶融還元方法において、バーナー機能を有する鉱石投入ランスを介して鉱石を装入するにあたり、バーナー火炎の輻射熱を最大限に鉱石に伝達させ、安価原料である鉱石の使用量を更に増加する。
【解決手段】 鉄浴型溶融還元炉2に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランス3とは別に、粉粒状の鉱石を前記炉内に装入する鉱石投入ランス4を設置し、該鉱石投入ランスの先端部に鉱石15の流通孔を設けるとともに燃料及び酸素ガスを吹き込む噴射孔からなるバーナーを設け、前記鉱石を前記バーナーにより形成される火炎16の中を通過させて加熱し、加熱した鉱石を前記炉内に装入して溶融還元し、前記鉱石中の金属が含有される溶湯を溶製する溶融還元方法において、前記鉱石の表面に該鉱石よりも輻射率の高い物質を予め塗布し、この輻射率の高い物質を塗布した鉱石を前記鉱石投入ランスから前記炉内に装入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉などの鉄浴型溶融還元炉にて金属酸化物や酸化物系鉱石の粉体または粒体を還元して金属溶湯を得る溶融還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高価な合金鉄の代わりに安価な鉱石(例えばクロム鉱石)を、炭材(例えばコークスなど)とともに転炉などの鉄浴型溶融還元炉に装入して、鉱石を炉内で溶融還元して鉱石中の有価金属(例えばクロムなど)を回収し、この有価金属を含有する溶湯を溶製する技術は、溶融還元法と呼ばれている。溶融還元法では粒径の小さい粉粒状の鉱石が使用されるが、その鉱石中の有価金属を溶湯として回収するためには、金属酸化物や酸化物系鉱石の還元反応は吸熱反応であることから大量の熱エネルギーを必要とするばかりでなく、大規模な還元反応を生起させる必要がある。
【0003】
この溶融還元法における熱源としては、従来、炉内に酸素ガス(O2)を供給することによって炉内に装入された炭材を燃焼(所謂「一次燃焼」)させて得られる熱エネルギーと、この一次燃焼によって発生する一酸化炭素(CO)を更に燃焼(所謂「二次燃焼」)させて二酸化炭素(CO2)を生成することによって得られる熱エネルギーと、が使用されている(例えば、特許文献1を参照)。有価金属を含有する溶湯の溶製コストを削減するべく、安価原料である鉱石の装入量を増加すると、大量の熱エネルギーが消費されるので、一次燃焼及び二次燃焼を促進させる必要がある。
【0004】
一次燃焼及び二次燃焼を促進させるためには、炉内に供給する酸素ガス供給量を増加することが有効である。しかしながら、酸素ガスの供給量を増加することは、上吹きランスから供給する酸化性ガスの流量を増加させることを意味しており、それによる、ダスト発生量の増加や有価金属の歩留りの低下などの問題を招く。また、COやCO2の発生量が増加するので炉内の上昇気流の風量も増大し、粉粒状の鉱石を炉内に装入することが困難になるという問題も発生する。
【0005】
このような問題点を解決するために、特許文献2には、鉄浴型溶融還元炉の軸心上に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を炉内に装入するための鉱石投入ランスを設置し、該鉱石投入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料及び酸素ガスを吹き込む噴射孔からなるバーナーを設け、該バーナーにより火炎を発生させ、前記鉱石をこの火炎の中を通過させて加熱し、加熱した鉱石を炉内に供給することによって炉内の溶湯への着熱量を増加させ、それにより鉱石の装入量を増加させる技術が提案されている。
【0006】
この特許文献2により、炉内に装入される鉱石に燃料の燃焼熱を効率良く伝達することが可能となり、その結果、ダストの発生や耐火物の溶損を助長させることなく溶湯への着熱効率が向上し、安価原料である鉱石を大量に使用することが達成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−280314号公報
【特許文献2】特開2007−138207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献2によって溶融還元法の溶製コストは大幅に低下したが、特許文献2においても未だ改善の余地がある。即ち、特許文献2では、燃料の燃焼により形成される火炎の中を通して鉱石を供給しているが、鉱石の輻射率は1よりも小さいために、火炎からの輻射による熱が鉱石に十分に伝わらず、この輻射熱を鉱石の加熱に十分に利用できていないという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、バーナー火炎の輻射熱を最大限に鉱石に伝達させ、安価原料である鉱石の使用量を更に増加することのできる溶融還元方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するべく、本発明者らは、燃料の燃焼により形成されるバーナー火炎の中に鉱石を投じ、鉱石を効率的に加熱することのできる手段を研究した。その結果、鉱石表面に鉱石よりも輻射率の高い物質を塗布することによって着熱効率が向上することを見出した。つまり、鉱石表面の輻射率を高めることによって、火炎からの輻射熱が効率良く鉱石に伝達され、溶湯への着熱効率が向上し、溶融還元法における鉱石の使用量を増加できるとの知見を得た。
【0011】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1) 鉄浴型溶融還元炉に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を前記炉内に装入する鉱石投入ランスを設置し、該鉱石投入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料及び酸素ガスを吹き込む噴射孔からなるバーナーを設け、前記鉱石を前記バーナーにより形成される火炎の中を通過させて加熱し、加熱した鉱石を前記炉内に装入して溶融還元し、前記鉱石中の金属が含有される溶湯を溶製する溶融還元方法において、前記鉱石の表面に該鉱石よりも輻射率の高い物質を予め塗布し、この輻射率の高い物質を塗布した鉱石を前記鉱石投入ランスから前記炉内に装入することを特徴とする溶融還元方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶融還元法において、炉内に装入される鉱石に燃料の燃焼熱を効率良く伝達することができるので、ダストの発生や耐火物の溶損を助長させることなく溶湯への着熱効率が向上し、安価原料である鉱石の配合量を従来に比較して大幅に増加することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の溶融還元方法を行うための鉄浴型溶融還元設備の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0015】
鉱石を炭材とともに鉄浴型溶融還元炉に装入し、装入した鉱石を加熱・溶融するとともに、溶融した鉱石を炭材で溶融還元して前記鉱石中の金属を含有する溶湯を溶製する溶融還元法において、所定量の鉱石を還元するには、その還元反応に相当する分の熱エネルギーを溶湯に着熱させる必要がある。特許文献2の方法は、炭材の一次燃焼熱及び二次燃焼熱によって鉱石を加熱すると同時に、バーナー火炎によって鉱石を直接加熱しており、従来の一次燃焼熱及び二次燃焼熱のみを熱源とする溶融還元法に比較して、熱エネルギーの溶湯への着熱効率がはるかに高い。
【0016】
本発明者らは、このような特許文献2の技術に着目し、火炎から鉱石へ伝熱される熱量を更に高める手段について検討した。その結果、鉱石の輻射率は1よりも小さいことから、特許文献2では火炎の輻射熱が鉱石の加熱に十分に利用されておらず、従って、鉱石の表面を鉱石よりも輻射率の高い物質で塗布することで、輻射熱の利用が促進されるとの知見を得た。
【0017】
そこで、本発明者らは図1に示す装置を用いて実験を行った。尚、図1は、本発明に係る溶融還元方法を行うための溶融還元設備の概略図であり、図1において、符号1は鉄浴型溶融還元炉設備、2は鉄浴型溶融還元炉設備の炉本体、3は上吹きランス、4は鉱石投入ランス、5は鉄皮、6は耐火物、7は底吹き羽口、8は酸化性ガス供給管、9は鉱石搬送用管、10は燃料供給管、11は酸素ガス供給管、12は溶湯、13はスラグ、14は酸化性ガス、15は鉱石、16は火炎である。上吹きランス3は、炉本体2の軸心上に設置されており、また、炉本体2の軸心から離れた位置に設置した鉱石投入ランス4の先端部の中心には、搬送用ガスとともに鉱石15を炉内に吹き込むための流通孔(図示せず)が設けられ、且つ、燃料及び酸素ガスを吹き込む噴射孔(図示せず)からなるバーナーが、鉱石15を炉内に吹き込むための流通孔の周囲に設けられている。即ち、バーナーから吹き込まれる燃料及び酸素ガスによって形成される火炎16の中を、鉱石15が搬送用ガスとともに通過して炉内に装入されるように構成されている。
【0018】
図1に示す装置を用いて、鉱石15としてクロム鉱石を使用し、クロム鉱石よりも輻射率の高い物質としてカーボンブラックを選定し、カーボンブラックの塗布されたクロム鉱石を、窒素ガスを搬送用ガスとして鉱石投入ランス4から火炎16を通して、溶湯12として溶銑を予め収容した炉本体2に供給し、溶融還元実験を行った。その結果、火炎の燃焼熱の鉱石15への熱伝導に加えて、火炎の輻射熱が効率的にクロム鉱石に着熱し、上吹きランス3からの酸化性ガスの供給量は同一であるにもかかわらず、鉱石15への着熱量が高まり、溶湯12への着熱効率が向上した。これにより、上吹きランス3からの酸化性ガスの供給量を増加しなくても鉱石15の装入量を増加することが可能であること、或いは、鉱石15の装入量を一定とする場合には熱源である炭材の使用量を削減することが可能であることが分かった。炭材を削減する場合には、炭材の使用量削減に伴って、上吹きランス3からの酸化性ガスの供給量を削減でき、上吹きランス3からの酸化性ガスの供給量を削減した場合には、ダスト発生量が削減される。
【0019】
本発明は、これらの試験結果に基づきなされたものであり、鉱石15の表面に鉱石15よりも輻射率の高い物質を予め塗布し、この輻射率の高い物質が塗布された鉱石15を、バーナーによる火炎16を形成させた鉱石投入ランス4から炉本体2に装入することを特徴とする。
【0020】
ここで、鉱石よりも輻射率の高い物質としては、粉状の黒鉛(輻射率=1)を用いることができる。粉状の黒鉛としては、上記のカーボンブラックの他に、鱗状黒鉛粉、土壌黒鉛粉などを使用することができる。特に、カーボンブラックは超微粉で且つ活性であり、鉱石15と混合するだけで鉱石15の表面を被覆することから、カーボンブラックを用いることが好ましい。また、黒鉛に限らず、木炭、石炭、コークスなどの炭素質物質の微粉を、鉱石よりも輻射率の高い物質として使用することができる。黒鉛を含めてこれらの炭素質物質は、溶融還元においては還元材として機能するので、鉱石15への炭素質物質の塗布は問題にならない。
【0021】
炉本体2に予め装入する溶湯12としては溶銑を使用し、上吹きランス3から供給する酸化性ガスとしては、空気、酸素富化空気、酸素ガスなどを使用する。底吹き羽口7から供給するガスとしては、空気、酸素富化空気、酸素ガスなどの酸化性ガス、或いは、窒素ガス、Arガスなどの非酸化性ガスを使用し、燃料供給管10から供給する燃料としては、炭化水素ガス、コークス炉ガス、転炉ガス、重油などを使用する。還元用の炭材としては、コークス、石炭、木炭などを使用する。
【0022】
このように、本発明によれば、炉内に装入される鉱石15に燃料の燃焼熱を効率良く伝達することができ、これによって、ダストの発生量を増加させることなく、且つ、耐火物6の溶損を助長することなく、溶湯12への着熱効率を向上することが可能となり、安価原料である鉱石15の配合量を従来に比較して大幅に増加することが可能となり、鉱石中の金属を含有する溶湯の溶製コストを削減することが実現される。
【実施例】
【0023】
図1に示す鉄浴型溶融還元炉設備の炉本体(炉本体容量5トン)に溶湯(即ち溶銑)4トンを装入した後、下記の手順でクロム鉱石の溶融還元を行った。
【0024】
即ち、上吹きランスから供給する酸化性ガスの流量を酸素ガス量に換算して15Nm3/分、底吹き羽口から供給する酸化性ガスの流量を酸素ガス量に換算して5Nm3/分として吹錬を開始した。その後、炭材としてコークスを適宜添加しながら、溶湯を1600℃まで昇温して、鉱石投入ランスから、予めカーボンブラックを塗布した粉粒状のクロム鉱石の装入を開始するとともに、鉱石投入ランスの先端部に設けたバーナーから燃料(即ちコークス炉ガス)と酸素ガスとを炉内に吹込んで、溶融還元を行った。
【0025】
このようにして溶融還元を行いながら溶湯の温度を測定し、溶融還元に好適な1600℃を維持するように、鉱石の装入速度を調整した。所定の時間(=60分)が経過した後、鉱石、燃料及び酸素ガスの供給を停止して鉱石投入ランスを上昇させた。その後、上吹きランス及び底吹き羽口から酸化性ガスのみを供給して吹錬を3分間継続した後、溶融還元を終了し、溶製したクロム含有溶湯を炉本体から保持容器に出湯した。これを本発明例とする。
【0026】
一方、比較例として、カーボンブラックを塗布していない粉粒状のクロム鉱石を用いて溶融還元を行った。その他の条件は本発明例と同一とした。
【0027】
表1に、本発明例及び比較例における、総発熱量、溶湯への着熱効率、クロム鉱石の総装入量を示す。尚、表1では、比較例のデータを100とする指数を用いて示している。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、本発明例では、比較例に比べて溶湯への着熱効率が向上し、クロム鉱石の総装入量が増加した。このように、本発明によれば、炉内に装入される鉱石への着熱効率が高められ、これによって溶湯への着熱効率が向上した。その結果、安価原料である鉱石を大量に使用するが可能となり、しかもダストの発生や耐火物の溶損を抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0030】
1 鉄浴型溶融還元炉設備
2 炉本体
3 上吹きランス
4 鉱石投入ランス
5 鉄皮
6 耐火物
7 底吹き羽口
8 酸化性ガス供給管
9 鉱石搬送用管
10 燃料供給管
11 酸素ガス供給管
12 溶湯
13 スラグ
14 酸化性ガス
15 鉱石
16 火炎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄浴型溶融還元炉に設置された酸化性ガスを供給する上吹きランスとは別に、粉粒状の鉱石を前記炉内に装入する鉱石投入ランスを設置し、該鉱石投入ランスの先端部に鉱石の流通孔を設けるとともに燃料及び酸素ガスを吹き込む噴射孔からなるバーナーを設け、前記鉱石を前記バーナーにより形成される火炎の中を通過させて加熱し、加熱した鉱石を前記炉内に装入して溶融還元し、前記鉱石中の金属が含有される溶湯を溶製する溶融還元方法において、前記鉱石の表面に該鉱石よりも輻射率の高い物質を予め塗布し、この輻射率の高い物質を塗布した鉱石を前記鉱石投入ランスから前記炉内に装入することを特徴とする溶融還元方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−153921(P2012−153921A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12473(P2011−12473)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】