説明

溶融金属接触材及びコーティング膜

【課題】アルミニウム合金等の溶融金属に対する耐食性に優れる溶融金属接触材及びコーティング膜を提供する。
【解決手段】本発明の溶融金属接触材は、溶融金属に接触する物に用いられるものであって、RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類(例えば、チタン酸イットリウム等)を含む。また、本発明のコーティング膜は、溶融金属に接触する部分にコーティングされるものであって、RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類(例えば、チタン酸イットリウム等)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属接触材及びコーティング膜に関する。更に詳しくは、アルミニウム合金等の溶融金属に対する耐食性に優れる溶融金属接触材及びコーティング膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造プロセス等の溶融金属が用いられる分野において、アルミニウム合金溶湯等の溶融金属と接触する鋳造用治工具等(例えば、ラドル等)を構成する溶融金属接触材には、一般的に鋳鉄が使用されていた。しかしながら、鋳鉄製の接触材は、アルミニウム合金溶湯との接触回数が増大するにつれて、溶湯に対する非濡れ性が大きく低下してしまい、接触材の表面にアルミニウム合金の固着等による腐食が生じる等の不具合があり、問題となっていた。
【0003】
そのため、近年では、アルミニウム合金溶湯に対する耐食性が鋳鉄よりも優れるチタン酸アルミニウム焼結体(AlTiO)やサイアロン焼結体等のセラミックスの溶融金属接触材への適用が検討されつつある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−139369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルミニウム合金溶湯を用いた鋳造プロセスにおいて、前記チタン酸アルミニウム焼結体の耐食性は、鋳鉄よりも優れているとはいえ、未だ十分に満足できるものではない。更に、マグネシウム合金等の他の溶融金属を用いた鋳造プロセスにおいては、耐還元性に劣り、十分に腐食を抑制することができていないのが現状である。
そのため、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の溶融金属が用いられる鋳造プロセス等の分野においては、より耐食性に優れた溶融金属接触材が望まれている。
【0006】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム合金等の溶融金属に対する耐食性に優れる溶融金属接触材及びコーティング膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるパイロクロア型酸化物(チタン酸希土類)が、優れた耐還元性を有していることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下の通りである。
[1]溶融金属に接触する物に用いられる溶融金属接触材であって、
RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類を含むことを特徴とする溶融金属接触材。
[2]前記溶融金属が、アルミニウム、マグネシウム、銅、又はそれらの合金を主成分とする前記[1]に記載の溶融金属接触材。
[3]前記チタン酸希土類を含むチタン酸希土類含有部と、
前記チタン酸希土類含有部の表面に形成されたマグネシア膜と、を有する前記[1]又は[2]に記載の溶融金属接触材。
[4]前記マグネシア膜の表面にスピネル膜を有する前記[3]に記載の溶融金属接触材。
[5]溶融金属に接触する部分にコーティングされるコーティング膜であって、
RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類を含むことを特徴とするコーティング膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明の溶融金属接触材は、溶融金属(特に、アルミニウム、マグネシウム、銅、又はそれらの合金を主成分とする溶融金属)に接触する物に用いられるものであり、特定のチタン酸希土類を含んでいるため、耐還元性に非常に優れており、優れた耐食性が得られる。そのため、鋳造プロセス等の溶融金属が用いられる分野において、溶融金属と接触するラドル等の鋳造用治工具やその材料として好適に用いることができ、且つそれらを長寿命化することができる。更には、鋳造品の機械的特性に悪影響を及ぼす治工具成分(例えば、鉄等)の溶湯中への溶解を抑制し、鋳造品の性能を向上することができる。
また、チタン酸希土類を含むチタン酸希土類含有部と、このチタン酸希土類含有部の表面に形成されたマグネシア膜(MgO膜)とを有する場合には、より耐食性に優れる溶融金属接触材となる。更には、マグネシウム合金溶湯が用いられる場合においても、耐還元性に非常に優れており、優れた耐食性を発揮する。
更に、マグネシア膜の表面にスピネル膜(MgAl膜)を有する場合には、より耐食性に優れる溶融金属接触材となる。更には、マグネシウム合金溶湯が用いられる場合においても、耐還元性に非常に優れており、優れた耐食性を発揮する。
本発明のコーティング膜は、溶融金属(特に、アルミニウム、マグネシウム、銅、又はそれらの合金を主成分とする溶融金属)に接触する部分にコーティングされるものであり、特定のチタン酸希土類を含んでいるため、耐還元性に非常に優れており、優れた耐食性が得られる。そのため、鋳造プロセス等の溶融金属が用いられる分野において、溶融金属と接触するラドル等の鋳造用治工具等のコーティング膜として好適に用いることができ、且つそれらを長寿命化することができる。更には、鋳造品の機械的特性に悪影響を及ぼす治工具成分(例えば、鉄等)の溶湯中への溶解を抑制し、鋳造品の性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】仮焼粉末及び焼結体の各X線回折パターンを示す図である。
【図2】耐食性の試験方法の説明図である。
【図3】試験片(720℃×100時間)の断面組織及びEDSプロファイルを示す図である。
【図4】試験片(800℃×100時間)の断面組織及びEDSプロファイルを示す図である。
【図5】試験片(900℃×100時間)の断面組織及びEDSプロファイルを示す図である。
【図6】試験片(720℃×100時間)のX線回折パターンを示す図である。
【図7】試験片(800℃×100時間)のX線回折パターンを示す図である。
【図8】試験片(900℃×100時間)のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
[1]溶融金属接触材
本発明の溶融金属接触材は、溶融金属に接触する物に用いられるものであって、RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類を含むことを特徴とする。
【0012】
前記「溶融金属接触材」の形状は特に限定されず、溶融金属に接触する物全体を構成していてもよいし、その物の一部を構成する部材であってもよい。
前記「溶融金属に接触する物」としては、例えば、ラドル、ストーク、樋、管路、溶湯搬送容器、湯だまり等の鋳造用治工具等が挙げられる。本発明の溶融金属接触材は、優れた耐食性を有しているため、これらの鋳造用治工具等を長寿命化することができる。更には、鋳造品の機械的特性に悪影響を及ぼす治工具に含有されている成分(例えば、鉄等)の溶湯中への溶解を抑制し、鋳造品の性能を向上することができる。
【0013】
また、前記「溶融金属」の種類は特に限定されないが、具体的には、例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、又はそれらの合金を主成分とする溶融金属を挙げることができる。
【0014】
前記アルミニウム合金の種類は特に限定されず、一般的に、アルミニウム合金の鋳造プロセスにおいて用いられているものを挙げることができる。例えば、主成分であるアルミニウム(Al)と、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)及びスズ(Sn)等から選ばれる少なくも1種の金属との合金が挙げられる。
具体的には、一般用アルミニウム合金ダイカスト、特殊用アルミニウム合金ダイカスト等が挙げられる。一般用アルミニウム合金ダイカスト(JIS記号)としては、ADC10、ADC10Z、ADC12、ADC12Zが挙げられる。特殊用アルミニウム合金ダイカスト(JIS記号)としては、ADC1、ADC3、ADC5、ADC6、ADC14が挙げられる。
【0015】
また、前記マグネシウム合金の種類は特に限定されず、一般的に、マグネシウム合金の鋳造プロセスにおいて用いられているものを挙げることができる。例えば、主成分であるマグネシウム(Mg)と、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及び鉄(Fe)等から選ばれる少なくも1種の金属との合金が挙げられる。
具体的には、一般用マグネシウム合金ダイカスト、特殊用マグネシウム合金ダイカスト等が挙げられる。一般用マグネシウム合金ダイカスト(JIS記号)としては、MDC1B、MDC1Dが挙げられる。特殊用マグネシウム合金ダイカスト(JIS記号)としては、MDC2B、MDC3B、MDC4が挙げられる。
【0016】
また、前記銅合金の種類は特に限定されず、一般的に、銅合金の鋳造プロセスにおいて用いられているものを挙げることができる。例えば、主成分である銅(Cu)と、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)及びニッケル(Ni)等から選ばれる少なくも1種の金属との合金が挙げられる。
【0017】
前記「チタン酸希土類」は、RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるものである。
前記希土類元素(RE)は特に限定されないが、Y、Yb、Er、Dy、Ho、Tm及びLuのうちの少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはY、Er、Ho及びTmのうちの少なくとも1種であり、更に好ましくは、Yである。
【0018】
本発明の溶融金属接触材は、チタン酸希土類を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
また、溶融金属接触材におけるチタン酸希土類の含有割合は、溶融金属接触材を100質量%(但し、不可避不純物は除く)とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは70〜100質量%である。
【0019】
前記チタン酸希土類を製造する方法は特に限定されないが、例えば、錯体重合法、共沈法、ゾルゲル法及び固相法等の公知の複合酸化物の合成法を用いて製造することができる。
チタン酸希土類の製造に用いられるチタン源としては、例えば、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムブトキシド等のチタニウムアルコキシドやルチル等が挙げられる。
また、チタン酸希土類の製造に用いられる希土類源としては、例えば、硝酸希土類、酢酸希土類、炭酸希土類、希土類酸化物等が挙げられる。
【0020】
また、本発明の溶融金属接触材を製造する方法は特に限定されないが、例えば、上述の方法により製造したチタン酸希土類の粉末、若しくは市販のチタン酸希土類の粉末を用いて所望形状の成形体を作製し、得られた成形体を焼成することにより製造することができる。更には、得られた焼結体を、切削加工等により所望形状に加工することにより製造することができる。
尚、成形方法は特に限定されず、ホットプレス法等の公知の方法を用いることができる。また、焼成条件は特に限定されず、例えば、焼成温度は約1200〜1400℃、焼成雰囲気は、大気雰囲気や、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等とすることができる。更に、焼結体の製造には、公知の焼結助剤等の添加剤を用いることができる。
【0021】
また、本発明における溶融金属接触材は、チタン酸希土類を含むチタン酸希土類含有部と、このチタン酸希土類含有部の表面に形成されたマグネシア膜(MgO膜)と、を有するものとすることができる。更には、前記マグネシア膜の表面にスピネル膜(MgAl膜)を有するものとすることができる。このように、溶融金属接触材が、チタン酸希土類含有部の表面に、マグネシア膜や、スピネル膜を表面に備えるマグネシア膜を備える構成である場合、より優れた耐食性を得ることができる。更には、接触することになる溶融金属がマグネシウム合金溶湯であっても、耐還元性に非常に優れており、優れた耐食性を発揮することができる。
【0022】
前記「チタン酸希土類含有部」は、前述の「チタン酸希土類」を含有していればよく、その形状等は特に限定されない。
【0023】
前記チタン酸希土類含有部の表面に形成される「マグネシア膜」の厚みは特に限定されず、適宜調整することができる。具体的には、例えば、0.1〜3μm、特に0.5〜2μmとすることができる。
また、前記マグネシア膜の表面に形成される「スピネル膜」の厚みは特に限定されず、適宜調整することができる。具体的には、例えば、0.1〜3μm、特に0.5〜2μmとすることができる。
【0024】
前記マグネシア膜の形成方法は特に限定されないが、例えば、チタン酸希土類焼結体等のチタン酸希土類基板を、アルミナ等の容器中において、マグネシウムを含むアルミニウム等の低融点合金塊を加熱し溶融する際に、500℃以上で発生するマグネシウムガスに曝すことで形成することができる。
【0025】
また、前記スピネル膜の形成方法は特に限定されないが、例えば、マグネシア膜が形成されたチタン酸希土類焼結体等のチタン酸希土類基板を、アルミナ等の容器中において、マグネシウムを含むアルミニウム等の低融点合金を、800℃以上で溶融した際に発生するマグネシウムガスと酸化アルミニウムガスの共存環境に曝すことで形成することができる。
【0026】
[2]コーティング膜
本発明のコーティング膜は、溶融金属に接触する部分にコーティングされるものであって、RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類を含むことを特徴とする。尚、「溶融金属」及び「チタン酸希土類」については、それぞれ、前記[1]溶融金属接触材における「溶融金属」及び「チタン酸希土類」の説明をそのまま適用することができる。
【0027】
本発明のコーティング膜は、チタン酸希土類を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
また、コーティング膜におけるチタン酸希土類の含有割合は、コーティング膜を100質量%(但し、不可避不純物は除く)とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは70〜100質量%である。
【0028】
本発明のコーティング膜は、例えば、基材上に、ゾルゲル法、化学蒸着法等の公知の酸化物被膜の製造技術を用いて形成することができる。
具体的には、例えば、チタニウムテトラ−iso−プロポキシド[Ti(O−iPr)]と、エチレングリコールと、無水クエン酸とを混合した後、硝酸イットリウム・6水和物[Y(NO・6HO]を追加し、無色透明になるまで混合し、それを基材上にコーティングする。その後、130℃でエステル化反応させた後、1300℃以上で加熱することで、チタン酸イットリウム膜を形成することができる。
【0029】
前記コーティング膜が形成される「基材」は特に限定されないが、例えば、ラドル、ストーク、樋、管路、溶湯搬送容器、湯だまり等の鋳造用治工具を構成する基材を挙げることができる。
前記基材の材質は、コーティング膜をその表面に形成可能であればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、チタン酸アルミニウム、サイアロン等のセラミックス;鋳鉄等の金属等が挙げられる。
【0030】
前記コーティング膜の膜厚は特に限定されず、用途や目的に応じて適宜調整することができる。具体的には、例えば、0.5〜3μm、特に1〜2μmとすることができる。
【0031】
また、本発明におけるコーティング膜は、チタン酸希土類を含むチタン酸希土類層と、このチタン酸希土類層の表面に形成されたマグネシア膜と、を有するものとすることができる。更には、前記マグネシア膜の表面にスピネル膜を有するコーティング膜とすることができる。このように、コーティング膜が、チタン酸希土類層の表面に、マグネシア膜や、スピネル膜を表面に備えるマグネシア膜を備える構成である場合、より優れた耐食性を得ることができる。更には、接触することになる溶融金属がマグネシウム合金溶湯であっても、耐還元性に非常に優れており、優れた耐食性を発揮することができる。
【0032】
前記チタン酸希土類層の厚みは特に限定されず、用途や目的に応じて適宜調整することができる。具体的には、例えば、0.5〜3μm、特に1〜2μmとすることができる。
尚、「マグネシア膜」及び「スピネル膜」については、それぞれ、前記[1]溶融金属接触材における「マグネシア膜」及び「スピネル膜」の説明をそのまま適用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。ここで、部は、特記しない限り質量基準である。
【0034】
[1]チタン酸イットリウム焼結体の製造
<実施例1>
チタニウムテトラ−iso−プロポキシド[Ti(O−iPr)]と、エチレングリコールと、無水クエン酸とを混合した。更に、無色透明になるまでビーカー内で混合して(50℃×1時間)、硝酸イットリウム・6水和物[Y(NO・6HO]をビーカー内に追加し、無色透明になるまで混合した(50℃×1時間)。尚、各成分の配合割合はモル比[チタニウムテトラ−iso−プロポキシド:硝酸イットリウム・6水和物:エチレングリコール:無水クエン酸]で、0.2:0.2:4:1である。その後、130℃×5時間の条件にて、エステル化反応させた後、マントルヒーターを用いて、350℃×5時間の条件にて熱分解した。
次いで、得られた熱分解物をアルミナ鞘に移し、大気中(0.3L/分の酸素気流中)において、5℃/分で1300℃まで昇温し、その温度を1時間保持することによって仮焼した後、粉砕し、目開き100μmの篩いを通すことにより、調整粉末(仮焼粉末)を得た。尚、分析装置(型式「RINT2000、(株)リガク」)を用いてX線回折分析を行った結果、得られた仮焼粉末は、YTiの単相であることが確認できた(図1参照)。
【0035】
その後、得られた調整粉末を、カーボン型[寸法;23×23(mm)]を用いて25MPaの圧力で一軸加圧成形し、成形体を得た。次いで、ホットプレス法(圧力:50MPa)により、Ar雰囲気下(1atm)(2L/分のAr気流中)において、10℃/分で1300℃まで昇温し、その温度を1時間保持することによって焼成した。焼成後、大気炉を用いて大気中において、5℃/分で1300℃まで昇温し、その温度を1時間保持することによってアニールした。アニール後、25℃まで降温させることによって、チタン酸イットリウム(YTi)焼結体を得た。
尚、前記分析装置にてX線回折を行った結果、得られた焼結体は、YTiの単相であることが確認できた(図1参照)。また、相対密度は96%であった。
【0036】
[2]チタン酸イットリウム焼結体の耐食性について
実施例1のチタン酸イットリウム焼結体を切削加工し、試験片1〜3[各寸法;10×20×6(mm)]を形成した。そして、図2(浸漬前)に示すように、アルミナ坩堝にアルミナ棒を配設し、その上に前記試験片を配置し、更にその上にアルミニウム合金塊[「ADC12」、組成(質量%);Si:11、Cu:2、Fe:0.9、Zn:0.8、Mg:0.3、Al:残り]を配置した。尚、この際における、各試験片と、アルミニウム合金塊との体積比(アルミニウム合金塊/試験片)は、50である。
その後、100cc/分のAr気流中、下記の処理条件にて加熱処理を行い、アルミニウム合金塊を溶融させて、試験片である焼結体の底面以外の表面を溶融アルミニウム合金と接触させた。
次いで、5℃/分で25℃まで降温し、溶融アルミニウム合金を凝固させた。
【0037】
<加熱処理条件>
試験片1;5℃/分で720℃まで昇温し、その温度を100時間保持
試験片2;5℃/分で800℃まで昇温し、その温度を100時間保持
試験片3;5℃/分で900℃まで昇温し、その温度を100時間保持
【0038】
その後、下記のようにして、試験片1〜3における、溶融アルミニウム合金との接触側(図2(浸漬後)における試験片の上辺側)と、溶融アルミニウム合金との非接触側(図2(浸漬後)における試験片の下辺側)の観察及び解析を行い、耐食性について評価した。
【0039】
<断面組織の観察及びEDSプロファイル測定>
アルミニウム合金が付着した状態(図2(浸漬後)参照)で試験片を切断し、樹脂(スペシフィックス冷間埋込樹脂、丸本ストルアス(株))に埋め込み固定し、切断面を鏡面仕上げして、電界放出型走査電子顕微鏡(型式「S4500、(株)日立製作所」)を用いて、試験片とアルミニウム合金との境界近傍を観察し、顕微鏡に付属されるエネルギー分散型X線分析装置(型式「EMAX−7000、(株)堀場製作所」)を用いてEDS分析した。その結果を図3〜図5に示す。
【0040】
<X線回折分析>
試験片に固着したアルミニウムを10%NaOH溶液浸漬により除去して、試験片における溶融アルミニウム合金との接触側及び非接触側を、分析装置(型式「RINT2000、(株)リガク」)を用いてX線回折分析を行った。その結果を図6〜図8に示す。
尚、試験片1(720℃での加熱処理)では、固着したアルミニウムが自然に剥離したため、10%NaOH溶液浸漬による除去は行っていない。
【0041】
[3]測定結果
試験片1(720℃加熱処理)は、断面組織の観察及びEDSプロファイル測定(図3参照)並びにX線回折分析の結果(図6参照)によれば、溶融アルミニウム合金との接触面、非接触面ともに、表面にマグネシア(MgO)が生成されていたのみであり、優れた耐還元性を有しており、溶融アルミニウム合金に対する耐食性に優れていることが確認できた。
尚、このマグネシアは、アルミニウム合金の溶融の際に生じるMg(気体)によって、アルミナ治具が還元したと考えられる。しかしながら、このマグネシアは試験片の表面のみに形成されており、チタン酸イットリウム焼結体を腐食するものではない。逆に、マグネシアは耐食性に優れるものであるため、溶融マグネシウム合金に対しても、優れた耐食性が得られると考えられる。
【0042】
試験片2(800℃加熱処理)は、断面組織の観察及びEDSプロファイル測定(図4参照)並びにX線回折分析の結果(図7参照)によれば、試験片1と同様に、溶融アルミニウム合金との接触面、非接触面ともに、表面にマグネシアが生成されていた。
また、試験片2では、溶融アルミニウム合金との接触面、非接触面ともに、スピネル(MgAl)が生成されていた。スピネルは、下記の系の存在により、生成すると考えられる。
4AlO(気体)+Mg(気体)=MgAl+6Al(気体)
そして、このスピネルは、耐食性に優れるものであるため、チタン酸イットリウム(YTi)の耐還元性には何ら問題がなく、溶融マグネシウム合金に対しても、優れた耐食性が得られると考えられる。
尚、図4において、溶融アルミニウム合金との非接触側は、試験片を固定するための樹脂が完全に流れ込まなかったため空隙となっている。また、この試験片2では、溶融アルミニウム合金との非接触面に、チタン酸イットリウム(YTi)が多少還元し、YTiOが生成されているが(図7参照)、分解には至っておらず、耐食性は十分に保たれると考えられる。また、溶融アルミニウム合金との接触面にAl(OH)が生成しているが(図7参照)、これは、試験片に固着したアルミニウムを10%NaOH溶液浸漬により除去した際に生成したものである。
以上より、この試験片2は、優れた耐還元性を有しており、溶融アルミニウム合金に対する耐食性に優れていることが確認できた。
【0043】
試験片3(900℃加熱処理)は、断面組織の観察及びEDSプロファイル測定(図5参照)並びにX線回折分析の結果(図8参照)によれば、試験片1と同様に、溶融アルミニウム合金との接触面、非接触面ともに、表面にマグネシアが生成されていた。また、試験片2と同様に、溶融アルミニウム合金との接触面、非接触面ともに、スピネル(MgAl)が生成されていた。
尚、図5において、溶融アルミニウム合金との接触側は、アルミニウムが固着したままであったため樹脂ではなくAlとなっている。また、この試験片3では、溶融アルミニウム合金との非接触面に、チタン酸イットリウム(YTi)が多少還元し、YTiOが生成されているが(図8参照)、分解には至っておらず、耐食性は十分に保たれると考えられる。また、溶融アルミニウム合金との接触面にAl(OH)が生成しているが(図8参照)、これは、試験片に固着したアルミニウムを10%NaOH溶液浸漬により除去した際に生成したものである。
以上より、この試験片3は、優れた耐還元性を有しており、溶融アルミニウム合金に対する耐食性に優れていることが確認できた。
【0044】
前述の結果から、溶融アルミニウム合金中において、チタン酸イットリウム焼結体は非常に優れた耐還元性を有しており、溶融アルミニウム合金に対して優れた耐食性を発揮することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の溶融金属接触材は、耐還元性に非常に優れており、優れた耐食性が得られる。そのため、鋳造プロセス等の溶融金属が用いられる分野において、溶融金属と接触するラドル等の鋳造用治工具やその材料として好適に用いることができ、且つそれらを長寿命化することができる。更には、鋳造品の機械的特性に悪影響を及ぼす治工具成分(例えば、鉄等)の溶湯中への溶解を抑制し、鋳造品の性能を向上することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属に接触する物に用いられる溶融金属接触材であって、
RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類を含むことを特徴とする溶融金属接触材。
【請求項2】
前記溶融金属が、アルミニウム、マグネシウム、銅、又はそれらの合金を主成分とする請求項1に記載の溶融金属接触材。
【請求項3】
前記チタン酸希土類を含むチタン酸希土類含有部と、
前記チタン酸希土類含有部の表面に形成されたマグネシア膜と、を有する請求項1又は2に記載の溶融金属接触材。
【請求項4】
前記マグネシア膜の表面にスピネル膜を有する請求項3に記載の溶融金属接触材。
【請求項5】
溶融金属に接触する部分にコーティングされるコーティング膜であって、
RETi(但し、REは希土類元素を示す。)で表されるチタン酸希土類を含むことを特徴とするコーティング膜。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207730(P2011−207730A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79421(P2010−79421)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、委託研究(知的クラスター創成事業(第二期):Al鋳造システム部材の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】