説明

溶解炉の出銑口構造およびその補修方法

溶解炉の出銑口構造
【課題】出銑口の寿命の延長を図ることができ、また出銑口の補修時間の短縮を図ることができる溶解炉の出銑口構造およびその補修方法を提供する。
【解決手段】 炉壁レンガに形成した出銑用孔部内に、耐火レンガ製のスリーブを配置し、該スリーブと出銑用孔部との隙間にスタンプ材を充填して固定した溶解炉の出銑口構造。また、スタンプ材2の摩耗部分を炉壁の外面側から内面側に向けて直線状に解体・除去した後、この直線状の解体面4とスリーブ2との隙間に新たなスタンプ材5を充填して封止するようにした出銑口の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出銑口の寿命の延長を図ることができ、また出銑口の補修時間の短縮を図ることができる溶解炉の出銑口構造およびその補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉱石等の溶解に用いる溶解炉やキューポラ等の溶解炉の出銑口構造としては、特許文献1に示されるように、炉壁レンガに形成した孔部内に隙間充填材である耐火性のスタンプ材を充填し、これに出銑用の孔を開口して出銑口としたものが知られている。その他、前記孔部内に鉄パイプをセットし、その周囲を耐火性のスタンプ材で埋めて固定したものや、出銑孔付きのプレキャスト部材を準備し、これを炉壁レンガの孔部内に装着するもの等も知られている。
【0003】
前記出銑口は、溶解炉で溶解処理した溶銑を炉外へ流出させるための流路であり、出銑口およびこの内周面近傍は高温の溶銑が常に接触している。このため、溶銑による摩耗や溶損が常に発生して出銑口の寿命を極めて短くしているという問題点があり、特に鉄パイプ製の出銑口の場合は摩耗も激しかった。また、出銑口および周辺部の溶損等が生じて出銑口の径が拡大すると、溶解炉内部のガスが溶銑といっしょに炉外へ噴出して非常に危険であるという問題点もあった。
そのため、出銑口については5〜6日で交換を強いられており、また出銑口の内周面についても10日前後で補修してやる必要があり、頻繁な補修作業が不可欠であった。
【0004】
一方、出銑口の補修作業としては、摩耗した個所にアルミナ・シリコンカーバイト系セラミックスを水とともに流し込む熱間流込方式や、出銑口付近を別成形した出銑孔付きのプレキャスト部材で交換するプレキャスト方式が一般に採用されていた。
このうちプレキャスト方式は、解体部分が大きくなるとともに補修日数も長期間となり、更に費用的にも高くなるという欠点を有しているため、そのような欠点のない熱間流込方式が一般に普及している。
【0005】
しかしながら、熱間流込方式の場合は、炉の内周面近傍の補修を完全に行うことは難しいという問題があり、また、補修しても耐久性がなく、頻繁に補修作業を強いられるという問題が残されていた。
図5に、熱間流込方式の補修方法の概略を示す。(a)は初期状態を示す図、(b)は初回の損傷を示す図、(c)は初回の補修をした状態を示す図、(d)は2回目の補修をした状態を示す図である。図5において、21は炉壁レンガ、21aはこれに形成した出銑用孔部、22は出銑用孔部21a内に配置される鉄製のパイプ、23はパイプと出銑用孔部との隙間に充填されるスタンプ材である。
【0006】
このような熱間流込方式においては、(b)のようにスタンプ材23に損傷が生じると、(c)のように炉外に熱間流込用金枠24をセットして、この中へアルミナ・シリコンカーバイト系セラミックスからなる流込材25を投入して補修を行う。しかしながら、炉内部はガス圧がかかっているとともに、解体後の残骸物も散乱しているため、流込材25が奥の方まで入っていかず空隙部26が形成されて完全な修復はできないこととなる。更には、(d)のように空隙部26がどんどん大きくなるが、これを防ぐことはできない。
このように、熱間流込方式の補修方法では耐久性がなく、補修作業も頻繁に強いられるため、出銑口の寿命を延長することができる新たな出銑口構造およびその補修方法の開発が強く要望されていた。
【特許文献1】実開昭62−194748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決して、出銑口の寿命の延長を図ることができ、また出銑口の補修時間を短縮することができ、更には炉内側の修復も行うことができる溶解炉の出銑口構造およびその補修方法を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の溶解炉の出銑口構造は、炉壁レンガに形成した出銑用孔部内に、耐火レンガ製のスリーブを配置し、該スリーブと出銑用孔部との隙間にスタンプ材を充填して固定したことを特徴とするものである。
【0009】
耐火レンガ製のスリーブが、アルミナグラファイトレンガよりなることが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0010】
耐火レンガ製のスリーブが筒状体、または炉内側端部が斜めにカットされた筒状体、または円筒体の下面がカットされた蒲鉾型の筒状体のいずれかであることが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0011】
また、本発明の出銑口の補修方法は、出銑時においてスタンプ材が摩耗して出銑口が拡大した出銑口の補修方法であって、前記スタンプ材の摩耗部分を炉壁の外面側から内面側に向けて直線状に解体・除去した後、この直線状の解体面とスリーブとの隙間に新たなスタンプ材を充填して封止することを特徴とするものである。
【0012】
解体時において、摩耗損傷した古いスリーブに換え、円筒体の下面がカットされた蒲鉾型の筒状体からなる新たな耐火レンガ製のスリーブを配置することが好ましく、これを請求項5に係る発明とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の出銑口構造は、炉壁レンガに形成した出銑用孔部内に、耐火レンガ製のスリーブを配置し、該スリーブと出銑用孔部との隙間にスタンプ材を充填して固定した構造であり、耐火レンガ製のスリーブを用いるので、従来のような鉄パイプ比べて大幅に耐久性を向上させることが可能となる。
【0014】
耐火レンガ製のスリーブを、アルミナグラファイトレンガよりなるものとした場合は、特に耐久性に優れていて摩耗や溶損を抑えることが可能となる。
【0015】
耐火レンガ製のスリーブを筒状体、または炉内側端部が斜めにカットされた筒状体、または円筒体の下面がカットされた蒲鉾型の筒状体のいずれかとした場合は、出銑口への装着を容易に行えることとなる。
【0016】
また、本発明の出銑口の補修方法では、スタンプ材の摩耗部分を炉壁の外面側から内面側に向けて直線状に解体・除去した後、この直線状の解体面とスリーブとの隙間に新たなスタンプ材を充填して封止するようにしたので、補修時間を短縮することができ、更には炉内側の修復も行うことができることとなる。
【0017】
解体時において、摩耗損傷した古いスリーブに換え、円筒体の下面がカットされた蒲鉾型の筒状体からなる新たな耐火レンガ製のスリーブを配置する場合は、スリーブの装着を容易に行うことができることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は本発明の補修方法の概略を示すもので、(a)は初期状態を示す図、(b)は初回の損傷を示す図、(c)は初回の補修をした状態を示す図、(d)は2回目の補修をした状態を示す図である。
図1において、1は炉壁レンガ、1aはこれに形成した出銑用孔部、2は出銑用孔部1a内に配置される耐火レンガ製のスリーブ、3はパイプと出銑用孔部との隙間に充填されるスタンプ材である。
【0019】
本発明の出銑口は、図1(a)に示されるように、炉壁レンガ1に形成した出銑用孔部1a内に、耐火レンガ製のスリーブ2を配置し、該スリーブ2と出銑用孔部1aとの隙間にスタンプ材3を充填して固定した構造である。
このように、耐火レンガ製のスリーブ2を用いることで、従来の鉄パイプ比べて大幅に耐久性を向上させることが可能となる
【0020】
前記耐火レンガ製のスリーブは、特にアルミナグラファイトレンガ(AGレンガと称される)よりなるものが好ましい。このアルミナグラファイトレンガは、一例として重量%で、Al:68%、SiC:3%、C:28%のセラミックス原料からなるものであり、耐火性および耐摩耗性に優れているため、溶銑に対しても耐久性を発揮して摩耗や溶損を極力少なくすることができる。
また、隙間充填剤であるスタンプ材は、例えば重量%で、Al:65%、SiO:5%、SiC:24%、C:2%のセラミックス原料からなるものであり、前記耐火レンガ製のスリーブはスタンプ材と熱膨張係数も近似しており、相性がよく接合面で隙間が生じることもなく、また施工性も良好である。
【0021】
耐火レンガ製のスリーブの形状は、図2に示すような筒状体を用いることができる。また、図3に示すような炉内側端部が斜めにカットされて傾斜部2aを有した筒状体や、図4に示すような円筒体の下面がカットされて水平面2bを有し、かつ炉内側端部が斜めにカットされて傾斜部2aを有した蒲鉾型の筒状体を用いることもできる。
図3〜図4に示すような、炉内側端部が斜めにカットされて傾斜部2aを有するものは、出銑用孔部1a内に配置する際に先端側が尖っているので差込やすいという利点があり好ましい。
【0022】
次に、出銑口の補修方法について説明する。
図1(b)は、初回の損傷状態を示す図であるが、出銑口の損傷はスリーブ2だけでなく、スタンプ材3も顕著に摩耗・溶損される。スリーブ2の耐久性の向上については、前述したように、耐火レンガ製のスリーブを用いることである程度の改善が見られることがわかった。しかし、スタンプ材3の摩耗・溶損に対しては、従来から熱間流込方式やプレキャスト方式しかなく、耐久性、補修期間、費用等の面から全てを満足する方法は存在しなかった。また、スタンプ材3の摩耗・溶損は、溶解炉内部のガスが溶銑といっしょに炉外へ噴出して非常に危険であり、新しいスタンプ材の補修方法の開発が待たれていた。
【0023】
そこで本発明では、図1(c)に示すように、スタンプ材の摩耗部分を炉壁の外面側から内面側に向けて直線状に解体・除去した後、(d)に示すように、この直線状の解体面4とスリーブ2との隙間に新たなスタンプ材5を充填して封止することとした。なお、前述の炉壁の外面側から内面側に向けて直線状に解体は、単純な形状への解体であるので、一般的な解体用重機を利用することができ工期の短縮を図ることができる。
これにより、炉壁の外側から内側まで全てスタンプ材を充填することができて初期状態に修復することができるため、熱間流込方式のように炉壁内側の充填ができないという現象はなく、完全な修復が可能となる。しかも、プレキャスト方式と異なり工期は短く、費用も安価に行うことができる。
【0024】
また解体時において、摩耗損傷した古いスリーブに換え、図4に示されるような、円筒体の下面がカットされた蒲鉾型の筒状体からなる新たな耐火レンガ製のスリーブ2を配置すれば、解体後の空隙部内に瓦礫などの屑が残存していたとしても、先端の傾斜部2aに案内されてスムーズに挿入されることとなり容易に装着できることとなる。
【0025】
以上に説明したように、本発明の溶解炉の出銑口構造では、炉壁レンガに形成した出銑用孔部内に、耐火レンガ製のスリーブを配置し、該スリーブと出銑用孔部との隙間にスタンプ材を充填して固定した構造としたので、従来の鉄パイプに比べて耐久性を大幅に向上させることが可能になった。
また、本発明の出銑口の補修方法では、スタンプ材の摩耗部分を炉壁の外面側から内面側に向けて直線状に解体・除去した後、この直線状の解体面とスリーブとの隙間に新たなスタンプ材を充填して封止するようにしたので、補修時間を短縮することができ、更には炉内側の修復も行うことができることとなる。
【0026】
なお、以上に説明した出銑口構造では、14日経過後においてもスリーブおよび出銑口周囲の溶損などの損傷は見られず、また十分な強度を有しており、従来は1週間以内で交換を強いられていたのに比べて大幅に寿命を延長できることが確認できた。また、炉壁内周の損傷については90日以上の寿命を達成できることが確認されている。また、補修時間についても24時間以内を達成することができた。
【0027】
以上の説明からも明らかなように、本発明は出銑口の寿命の延長を図ることができ、また出銑口の補修時間を短縮することができ、更には炉内側の修復も行うことができる溶解炉の出銑口構造およびその補修方法を提供するものとして、産業の発展に寄与するところ極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の補修方法の概略を示す説明図であり、(a)は初期状態を示す図、(b)は初回の損傷を示す図、(c)は初回の補修をした状態を示す図、(d)は2回目の補修をした状態を示す図である。
【図2】本発明のスリーブを示す斜視図である。
【図3】その他のスリーブを示す斜視図である。
【図4】その他のスリーブを示す斜視図である。
【図5】熱間流込方式の補修方法の概略を示す説明図であり、(a)は初期状態を示す図、(b)は初回の損傷を示す図、(c)は初回の補修をした状態を示す図、(d)は2回目の補修をした状態を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 炉壁レンガ
1a 出銑用孔部
2 リング部材
2a 傾斜部
2b 水平面
3 スタンプ材
4 直線状の解体面
5 新たなスタンプ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁レンガに形成した出銑用孔部内に、耐火レンガ製のスリーブを配置し、該スリーブと出銑用孔部との隙間にスタンプ材を充填して固定したことを特徴とする溶解炉の出銑口構造。
【請求項2】
耐火レンガ製のスリーブが、アルミナグラファイトレンガよりなる請求項1に記載の溶解炉の出銑口構造。
【請求項3】
耐火レンガ製のスリーブが、筒状体、または炉内側端部が斜めにカットされた筒状体、または円筒体の下面がカットされた蒲鉾型の筒状体のいずれかである請求項1または2に記載の溶解炉の出銑口構造。
【請求項4】
出銑時においてスタンプ材が摩耗して出銑口が拡大した出銑口の補修方法であって、前記スタンプ材の摩耗部分を炉壁の外面側から内面側に向けて直線状に解体・除去した後、この直線状の解体面とスリーブとの隙間に新たなスタンプ材を充填して封止することを特徴とする出銑口の補修方法。
【請求項5】
解体時において、摩耗損傷した古いスリーブに換え、円筒体の下面がカットされた蒲鉾型の筒状体からなる新たな耐火レンガ製のスリーブを配置する請求項4に記載の出銑口の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−62601(P2009−62601A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233631(P2007−233631)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】