説明

溶銑の脱燐処理方法

【課題】 混銑車、溶銑鍋等の溶銑搬送容器に収容された溶銑を脱燐処理するにあたり、ソーダ灰等の高価な造滓剤を使用せず、且つ、滓化促進剤としてフッ素化合物を使用することなく、安価なCaO含有物質を造滓剤として使用し、溶銑中燐濃度を0.010質量%以下まで安定して低下する。
【解決手段】 搬送容器1に収容された溶銑3に酸化剤及び媒溶剤を供給して溶銑中の燐を酸化除去する溶銑の脱燐処理方法において、前記媒溶剤としてフッ素化合物を含有しないCaO含有物質を使用し、前記酸化剤とは独立して気体酸素を前記溶銑上に存在するスラグ4に吹き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混銑車(「トピードカー」ともいう)、溶銑鍋等の溶銑搬送容器に収容された溶銑に酸化剤及び媒溶剤を供給して溶銑中の燐を酸化除去する溶銑の脱燐処理方法に関し、詳しくは、媒溶剤の滓化促進剤であるフッ素化合物を使用せずに、脱燐反応に支障を来たすことなく、溶銑中燐濃度が0.010質量%以下となるまで安定して脱燐することのできる脱燐処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材に対する要求品質は益々厳格化しており、燐や硫黄に代表される不純物元素の低減が求められている。このような要求に対応するために、製鋼工程では、溶銑段階において脱燐処理を行うことが一般的となっている。この脱燐処理は、気体酸素(酸素ガス)或いは酸化鉄等の固体の酸素源を酸化剤として溶銑に供給し、この酸化剤中の酸素で溶銑中の燐を酸化し、生成される燐酸化物(P25)を脱燐精錬用のスラグに吸収することで行われている。脱燐精錬用のスラグを形成するための媒溶剤としては、安価であることから生石灰、石灰石等のCaO含有物質を使用することが一般的である。この脱燐処理は、混銑車や溶銑鍋等の溶銑搬送容器内の溶銑であっても、また、転炉内の溶銑であっても行うことができ、フリーボードが小さいことから強攪拌ができず、脱燐反応効率が転炉に比べてやや劣るものの、設備的な制約が少ないことから、溶銑搬送容器においても一般的に行われている。
【0003】
脱燐処理前の溶銑には、0.09〜0.16質量%程度の燐が含有されており、従って、処理後の溶銑中燐濃度を0.020質量%以下、更には、0.010質量%以下の低い領域まで脱燐処理する場合には、媒溶剤の添加量が必然的に多くなるのみならず、溶銑の燐含有量低下に伴う脱燐反応速度の低下によって処理時間が長くなり、媒溶剤への顕熱ロスや大気中への放熱により溶銑の温度降下が大きく、脱燐処理末期においては、低温での処理を余儀なくされる。媒溶剤による燐酸化物の吸収は、媒溶剤が滓化した状態において進行することから、低燐濃度まで脱燐処理を行うときには、従来、媒溶剤の滓化促進を目的として蛍石(CaF2)等のフッ素化合物が使用されていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、混銑車等の容器に収容された溶銑を脱燐する際に、CaO粉、CaF2粉及び酸化鉄粉を混合した脱燐剤を、空気を搬送用ガスとして浸漬ランスを介して溶銑中に吹き込むとともに、気体酸素吹き込みランスから溶銑上のスラグ表面に向けて、溶銑の裸面を露出させない範囲に吹き付け圧力を抑制して気体酸素を吹き付けて脱燐する方法が提案されており、また、特許文献2には、混銑車、溶銑鍋等の容器内で脱燐処理を行う際に、ミルスケール等の酸化剤、CaO、CaF2等の媒溶剤を気体酸素とともにインジェクションランスを介して溶銑中に吹き込み、一方、気体酸素の一部をランスから溶銑浴面上に吹き付けて脱燐する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2は、滓化促進剤としてフッ素化合物を使用するにも拘わらず、処理後の溶銑中燐濃度は0.010〜0.030質量%であり、十分に脱燐されておらず、燐濃度を0.010質量%以下まで安定して低下させる技術としては不充分である。また、特許文献1及び特許文献2は、滓化促進剤としてフッ素化合物を使用しており、生成されるスラグは必然的にフッ素を含有する。製鋼工程で発生するスラグは、通常、路盤材等の土木工事材料としてリサイクル利用されるが、フッ素を含有するスラグを路盤材等の土木工事材料としてリサイクルすると、スラグからフッ素が溶出して環境がフッ素で汚染される虞がある。このために、フッ素を含有する脱燐スラグは、路盤材等の土木工事材料としてのリサイクル利用が制限され、産業廃棄物として埋立処分する等の処理をせざるを得ず、フッ素化合物を使用することは、かえって製造コストを上昇させる要因となる。
【0006】
一方、フッ素化合物を使用することによる問題を解消するために、フッ素化合物を使用せずに、溶銑を脱燐する方法も提案されている。
【0007】
例えば、特許文献3には、単一の溶銑予備処理容器を用いて溶銑の予備処理を行うにあたり、主として脱珪と脱燐を行う前段予備処理段階と、該前段予備処理段階に引き続いて行う除滓と、該除滓に引き続いて行う後段予備処理段階と、を順次行って溶銑を脱珪、脱燐、脱硫する方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、この方法における後段予備処理段階は、主に脱硫を目的とするが、媒溶剤としてソーダ灰を使用して同時に脱燐も行っており、フッ素化合物を使用していないものの、高価なソーダ灰による製造コストの上昇が問題となる。また、この方法では、前段予備処理、除滓、後段予備処理の複数の工程が必要であり、処理が煩雑である。
【0009】
特許文献4には、ランスインジェクションによるフッ素化合物を用いない溶銑の脱燐処理において、造塊滓を含む脱燐用フラックスを用いて、脱燐処理後のスラグの塩基度(CaO/SiO2)=2.5〜5.0、且つAl23=2〜10質量%、且つT.Fe=2質量%以上となるように制御した脱燐方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献4の実施例を見る限り、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は0.010〜0.014質量%であり、燐濃度を0.010質量%以下まで安定して低下させる技術としては不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−180345号公報
【特許文献2】特開平4−280909号公報
【特許文献3】特開2002−220613号公報
【特許文献4】特開2003−3208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、混銑車、溶銑鍋等の溶銑搬送容器に収容された溶銑を脱燐処理するにあたり、ソーダ灰等の高価な媒溶剤を使用せず、且つ、滓化促進剤としてフッ素化合物を使用することなく、生石灰等の安価なCaO含有物質を媒溶剤として使用し、溶銑中燐濃度を0.010質量%以下まで安定して低下することのできる、溶銑の脱燐処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するべく脱燐処理における脱燐精錬用スラグの性状について検討・研究を重ね、その結果、脱燐精錬用のスラグの流動性を確保することが溶銑の燐濃度の低い領域において安定的に脱燐反応を進行させるのに重要であることを知見した。更に、脱燐精錬用のスラグの流動性を確保する手段として、スラグ中に気体酸素を吹き込む方法が最適であることを知見した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づくものであり、上記課題を解決するための第1の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、搬送容器に収容された溶銑に酸化剤及び媒溶剤を供給して溶銑中の燐を酸化除去する溶銑の脱燐処理方法において、前記媒溶剤としてフッ素化合物を含有しないCaO含有物質を使用し、前記酸化剤とは独立して気体酸素を前記溶銑上に存在するスラグ中に吹き込むことを特徴とする。
【0015】
第2の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1の発明において、前記酸化剤の当該脱燐処理で供給する予定量の70質量%以上を溶銑に供給した後に、前記気体酸素のスラグ中への吹き込みを行うことを特徴とする。
【0016】
第3の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1または第2の発明において、脱燐処理後の溶銑の燐濃度が0.010質量%以下となるまで脱燐することを特徴とする。
【0017】
第4の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記酸化剤として酸化鉄及び気体酸素を使用し、該気体酸素を搬送用ガスとして前記酸化鉄を溶銑中に浸漬ランスを介して吹き込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、媒溶剤として、フッ素化合物を含有しないCaO含有物質を使用して溶銑を脱燐処理するにあたり、溶銑上に存在する脱燐精錬用のスラグに気体酸素を吹き込むので、スラグ中に含まれる粒鉄と気体酸素とが反応し、粒鉄の酸化反応による発熱と生成する鉄酸化物によるスラグの融点低下効果とによってスラグの固相率が低下し、脱燐処理末期であってもスラグの流動性が確保され、溶銑の燐濃度を0.010質量%以下まで安定して脱燐することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】溶銑上に存在するスラグ中に気体酸素を吹き込むと同時に、混銑車に収容された溶銑を脱燐処理する例を示す図である。
【図2】溶銑上に存在するスラグ中に気体酸素を吹き込むと同時に、混銑車に収容された溶銑を脱燐処理する他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0021】
本発明では、混銑車や溶銑鍋等の搬送容器で溶銑を脱燐処理する場合に、溶銑上に存在する脱燐精錬用のスラグ中に気体酸素を吹き込む。つまり、高炉から出銑された溶銑を混銑車や溶銑鍋等の搬送容器で受銑し、この搬送容器に収容された溶銑に、気体酸素或いは酸化鉄等の固体の酸素源を脱燐用の酸化剤として供給するとともに、フッ素化合物をCaOの滓化促進剤として使用することなく、生石灰(CaO)、石灰石(CaCO3)などのCaO含有物質を媒溶剤として供給し、酸化剤中の酸素で溶銑中の燐を酸化し、生成した燐酸化物(P25)をCaO含有物質の滓化によって生成される脱燐精錬用のスラグに吸収させて脱燐処理する際に、溶銑中に吹き込む脱燐用の酸化剤とは独立して溶銑上に存在するスラグ中に気体酸素を吹き込む。
【0022】
高炉から出銑された溶銑には、0.09〜0.16質量%程度の燐が含有されており、この溶銑を、フッ素化合物を滓化促進剤として使用することなくCaO含有物質を媒溶剤として使用し、溶銑の燐濃度が0.010質量%以下となるまで脱燐処理すると、従来、CaO含有物質への顕熱及び潜熱、酸化鉄の分解反応熱、更には、長時間に亘る脱燐処理中での大気への熱放散等によって、溶銑及びスラグの温度が降下し、この温度降下により、スラグの固相率が上昇して流動性が低下し、溶銑中の燐と酸化剤との反応、並びに、酸化された燐がスラグに取り込まれる反応が、ともに阻害され、脱燐処理の後半から末期にかけて脱燐反応が停滞していた。
【0023】
本発明では、脱燐用の酸化剤とは独立して溶銑上に存在する脱燐精錬用のスラグ中に気体酸素を吹き込むので、スラグ中に含まれる粒鉄と吹き込まれた気体酸素とが反応し、粒鉄の酸化反応による発熱と、生成した鉄酸化物(FeO)によるスラグの融点低下効果とにより、スラグの固相率が低下し、脱燐処理末期であってもスラグの流動性が確保される。また、これにより、溶銑の燐濃度を0.010質量%以下にまで安定して脱燐することが実現される。
【0024】
スラグ中に気体酸素を吹き込む手段としては、鋼管やステンレス鋼管の外面に耐火物が被覆された吹き込みランスを用い、ランス先端をスラグ中に浸漬させる方法が好適である。図1に、溶銑上に存在するスラグ中に気体酸素を吹き込むと同時に、混銑車に収容された溶銑を脱燐処理する例を示す。図1において、符号1は混銑車、2は混銑車炉体、3は溶銑、4は脱燐精錬用のスラグ、5は気体酸素吹き込みランス、6は浸漬ランスであり、図1に示すように、混銑車炉体2に収容された溶銑3の上に存在するスラグ4に、気体酸素吹き込みランス5から気体酸素を吹き込むと同時に、浸漬ランス6を介して搬送用ガスとともに酸化鉄を溶銑3に吹き込んで溶銑3を脱燐処理する。図1において、気体酸素は、スラグ4の浴面に対して垂直に浸漬される気体酸素吹き込みランス5の下端部側面に設けられたノズル孔から水平方向に向けて噴射されている。ここで、気体酸素をスラグ4に的確に吹き込むためには、溶銑3の上面位置を公知の方法(例えば、渦流式距離計による溶銑3の上面位置の測定等)によって測定し、その位置よりも気体酸素吹き込みランス5の先端が上方になるように気体酸素吹き込みランス5の位置を調節することが好ましい。
【0025】
図2は、スラグ4に気体酸素を吹き込む方法の他の例を示す図であり、気体酸素吹き込みランス5Aをスラグ4に対して斜め上方から浸漬させ、気体酸素は、気体酸素吹き込みランス5Aの先端に設けられたノズル孔から斜め下方に向けて噴射されている。図2において、その他の構造は図1と同一構造となっており、同一の部分は同一符号により示し、その説明は省略する。
【0026】
浸漬ランス6の搬送用ガスとしては、気体酸素、空気、窒素、アルゴンガス、及び、これらの混合ガス等を使用することができ、浸漬ランス6から、媒溶剤である生石灰等のCaO含有物質を酸化鉄とともに吹き込むことも可能である。スラグ4は、媒溶剤として添加されたCaO含有物質の一部が酸化鉄と反応して滓化したものである。当然、スラグ4には、未滓化のCaO含有物質が含有される。また、浸漬ランス6から供給する酸化鉄としては、鉄鉱石、ミルスケール、鉄鉱石の焼結鉱粉などを使用し、媒溶剤として使用するCaO含有物質としては、生石灰、石灰石、消石灰、ドロマイトなどを使用する。
【0027】
スラグ中に気体酸素を吹き込む時点は、脱燐処理の全期間に亘って連続して吹き込む或いは断続的に吹き込んでも構わないが、少なくとも、溶銑3及びスラグ4の温度が低下する脱燐処理の後半から末期にかけて吹き込むことが好ましい。具体的には、脱燐処理末期のスラグ4の流動性を確保するために、脱燐用の酸化剤の70質量%以上を溶銑中に供給した以降に、気体酸素のスラグ中への吹き込みを行うことが好ましい。また、スラグ中に気体酸素を吹き込む時点が余りにも脱燐処理の末期になると、それまでの脱燐反応が遅延して脱燐処理時間が長くなることから、脱燐用の酸化剤の90質量%を溶銑に供給する時点までには、スラグ中への気体酸素の吹き込みを開始することが望ましい。
【0028】
気体酸素のスラグ中への吹き込みを開始した以降、脱燐処理の終了まで吹き込みを継続することが好ましいが、所定量の気体酸素の吹込みが終了したなら、気体酸素のスラグ中への吹き込みを終了してもよい。これは、気体酸素のスラグ中への吹き込みを終了しても、直ちにスラグ4の固化が始まることはなく、脱燐用の酸化剤の70質量%以上を溶銑中に供給した以降に所定量の気体酸素をスラグ4に吹き込むことで、脱燐処理終了までスラグ4の流動性を確保することができるからである。
【0029】
具体的な吹込み方法としては、脱燐処理前の溶銑中燐濃度と目標とする処理後の溶銑中燐濃度との差に応じて、当該脱燐処理で溶銑に供給する予定の脱燐用酸化剤の量(予定量)を事前に決定し、酸化剤としては酸化鉄及び気体酸素があるが、これら酸化剤中の酸素原子の質量を基準として、70質量%以上の量を吹き込んだ以降に、スラグ中に気体酸素を吹き込めばよい。脱燐用の酸化剤として酸化鉄のみを用いる場合には、酸化鉄の吹き込み量が、質量比で事前に定めた吹き込み量の70質量%以上になった時点で、スラグ4への気体酸素の吹き込みを開始することができる。尚、脱燐処理の前半のみにスラグ中への気体酸素の吹き込みを実施した場合には、引き続く脱燐処理の過程でスラグ4の固相率上昇が起こる可能性がある。
【0030】
スラグ中に吹き込む気体酸素は、0.05〜0.5Nm3/溶銑−tであることが好ましい。更に、スラグ中に吹き込む気体酸素を、0.10〜0.5Nm3/溶銑−tとすれば、脱燐処理後の溶銑中燐濃度を0.010質量%以下となるまで脱燐可能となるので、より好ましい。0.05Nm3/溶銑−tよりも気体酸素の吹きこみ量が少ない場合には、充分な効果が得られない可能性があり、一方、0.5Nm3/溶銑−tよりも多い場合には気体酸素の吹き込み量が過剰となり、経済的に不利益となる。尚、吹き込む気体酸素は、純酸素を用いることが最も好ましいが、脱燐処理及び溶銑に悪影響を及ぼさないガス種(窒素ガス、炭酸ガス、希ガス等)を含有していても構わない。
【0031】
また、スラグ中に気体酸素を吹き込むときには、浸漬ランス6を溶銑3から引き上げ、酸化鉄及び気体酸素などの吹き込みを一旦停止し、その状態でスラグ中に気体酸素を吹き込むようにしてもよい。この場合には、所定量の気体酸素をスラグ中に吹き込んだなら、浸漬ランス6を溶銑3に浸漬させ、酸化鉄や気体酸素などの吹き込みを再開する。
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、媒溶剤として、フッ素化合物を含有しないCaO含有物質を使用して溶銑3を脱燐処理するにあたり、溶銑上に存在するスラグ4に気体酸素を吹き込むので、スラグ中に含まれる粒鉄と気体酸素とが反応し、粒鉄の酸化反応による発熱と生成する鉄酸化物によるスラグ4の融点低下効果とによってスラグ4の固相率が低下し、脱燐処理末期であってもスラグ4の流動性が確保され、溶銑3の燐濃度を0.010質量%以下まで安定して脱燐することが実現される。
【0033】
尚、上記説明は、溶銑搬送容器として混銑車1を用いた例であるが、溶銑鍋であっても上記に沿って本発明を適用することができる。また、上記説明では、脱燐用の酸化剤(酸化鉄及び気体酸素)の全てを溶銑中に吹き込んでいるが、気体酸素を上吹きランスから溶銑浴面に向けて吹き付ける、或いは、酸化鉄を溶銑浴面に上置き添加する等、脱燐用の酸化剤の一部または全部を溶銑浴面に供給するようにしても構わない。
【実施例】
【0034】
容量300トンの混銑車で溶銑を受銑し、この溶銑に対して、図1に示すように、溶銑上のスラグ中に気体酸素(純酸素)を吹き込む工程を有する脱燐処理を施した(本発明例1〜6)。
【0035】
スラグに対して略垂直な方向に酸素ガス吹き込みランスを浸漬させ、酸素ガス吹き込みランスの下端部側面に設けたノズルから水平方向に向けて気体酸素をスラグ中に吹き込んだ。また、脱燐用の酸化剤としては、酸化鉄(鉄鉱石)と気体酸素(純酸素)とを併用し、脱燐用の酸化剤の全てを浸漬ランスから溶銑中に吹き込んだ。また、脱燐精錬用のスラグを形成するための媒溶剤であるCaO含有物質として生石灰を使用し、生石灰の一部は処理開始前に溶銑に上置き添加し、残りは酸化鉄とともに浸漬ランスから溶銑中に吹き込み添加した。CaF2等のフッ素化合物は使用しなかった。溶銑温度の測定及び溶銑成分分析用試料の採取を、脱燐処理開始の直前及び脱燐処理終了の直後に行った。
【0036】
脱燐のために溶銑中に吹き込んだ酸化鉄及び気体酸素の量、スラグ中に吹き込んだ気体酸素の量、流量及び吹き込みを開始したタイミング、脱燐処理前後の溶銑温度、並びに、脱燐処理前後の溶銑中燐濃度を表1に示す。尚、表1には、比較のために、スラグ中に気体酸素を吹き込まない従来の方法で脱燐処理(比較例1〜3)を行った結果も併せて示した。
【0037】
【表1】

【0038】
スラグ中へ気体酸素の吹き込みを行わない比較例1〜3では、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は0.013〜0.020質量%であった。これに対して、脱燐用酸化剤の83質量%を吹き込んだ直後に0.05Nm3/溶銑−tの気体酸素をスラグ中に吹き込んだ本発明例1では、脱燐処理後の燐濃度が0.011質量%となり、スラグ中に気体酸素を吹き込むことによる効果が現れた。本発明例2では、脱燐用酸化剤の52質量%を吹き込んだ直後に0.15Nm3/溶銑−tの気体酸素をスラグへ吹き込んだが、スラグへの吹き込みが終了した後の脱燐処理末期にスラグの固化が起こり、スラグ中に気体酸素を吹き込むことによる効果は少なかった。一方、脱燐用酸化剤の70質量%を吹き込んだ後にスラグへの気体酸素の吹き込み量を0.10〜0.5Nm3/溶銑−tとして吹き込みを行った本発明例3〜6では、何れも処理後の溶銑中燐濃度を0.010質量%以下まで低下することができ、大きな脱燐効果が認められた。
【符号の説明】
【0039】
1 混銑車
2 混銑車炉体
3 溶銑
4 スラグ
5 気体酸素吹き込みランス
6 浸漬ランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送容器に収容された溶銑に酸化剤及び媒溶剤を供給して溶銑中の燐を酸化除去する溶銑の脱燐処理方法において、前記媒溶剤としてフッ素化合物を含有しないCaO含有物質を使用し、前記酸化剤とは独立して気体酸素を前記溶銑上に存在するスラグ中に吹き込むことを特徴とする、溶銑の脱燐処理方法。
【請求項2】
前記酸化剤の当該脱燐処理で供給する予定量の70質量%以上を溶銑に供給した後に、前記気体酸素のスラグ中への吹き込みを行うことを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱燐処理方法。
【請求項3】
脱燐処理後の溶銑の燐濃度が0.010質量%以下となるまで脱燐することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶銑の脱燐処理方法。
【請求項4】
前記酸化剤として酸化鉄及び気体酸素を使用し、該気体酸素を搬送用ガスとして前記酸化鉄を溶銑中に浸漬ランスを介して吹き込むことを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の溶銑の脱燐処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92387(P2012−92387A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240348(P2010−240348)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】