説明

溶鋼タンディッシュ用吹付け還元材

【課題】薄層の形成でも優れた接着強度を有し、且つ付着率が高く、しかも十分な還元効果を備えた溶鋼タンディッシュ用吹付け還元材を提供すること。
【解決手段】使用後の連続鋳造用タンディッシュの内張り表面に対して還元材を吹付けた後、ガスバーナをもって予熱を行う連続鋳造用溶鋼タンディッシュの操業方法において使用される前記の還元材であって、粒度調整された石炭コークス45〜85質量%およびマグネシア10〜50質量%と結合剤とを含み、且つ組成全体に占める割合で、粒度75μm以下のマグネシアの割合を少なくとも10質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼タンディッシュの内張り表面に付着した地金の酸化を防止することにより、溶鋼介在物の低減を図る吹付け還元材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材に要求される品質は年々厳しく、かつ多様化してきており、より清浄で機能性に富む鋼を製造する技術の開発が強く望まれている。それには、鋼材の品質低下の原因となる溶鋼介在物を低減させることが必要である。
【0003】
一方、タンディッシュの稼動率の向上と熱エネルギーの低減化等の目的から、タンディッシュの熱間回転操業が知られている(特許文献1)。この操業は、鋼の連続鋳造後にタンディッシュから、残留した溶鋼・スラグを熱い状態で排出し、タンディッシュに付随するノズル類交換等のメンテナンスを行った後、このタンディッシュを高温残熱の状態で次の鋳造に使用するものである。タンディッシュを一旦冷却して次の使用に回す方法に比べて、操業上の熱損失および時間的ロスが少ない利点がある。
【0004】
この熱間回転操業において、タンディッシュの内張りに付着した地金(Fe)がタンディッシュ使用前に行うガスバーナによる予熱の際、COガス雰囲気で酸化され、Fe酸化物を生成する。そして、このFe酸化物は次回に鋳込む溶鋼中の脱酸元素によって還元され、さらにこれと相対して溶鋼中の脱酸元素が酸化されることでAlが生成される。Alは溶鋼介在物となって鋼の品質低下を招くだけでなく、浸漬ノズルのノズル詰まり、鋳片の表面疵やブレークアウトの誘発等の原因となる。
【0005】
この問題の解決策として、地金が付着した使用後の連続鋳造用タンディッシュに対し、その内張り表面に、炭素あるいは燃焼により炭化する有機物の還元材、またはAl金属・Al合金を付着させた後、ガスバーナをもって予熱する方法が提案されている(特許文献2、3)。
【0006】
この方法において、炭素あるいは燃焼により炭化する有機物の還元材を内張り表面に付着させた場合、予熱時に還元材が燃焼し、この燃焼で発生するCOガスが内張り表面部に還元雰囲気を形成し、予熱に伴う地金の酸化を防止する。内張り表面にAlまたはAl合金粒を付着させた場合は、予熱温度で溶融したAlまたはAl合金が地金の表面に拡散し、酸化は表層のAlまたはAl合金に留まり、地金の酸化が防止される。
【特許文献1】特開平4−351251号公報
【特許文献2】特開平11−129057号公報
【特許文献3】特開2000−158101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タンディッシュの熱間回転操業において、内張り表面に前記した炭素系還元材あるいはAl・Al合金粒を付着させる場合、熱間回転の目的を損なわせないために、その施工には迅速さが要求される。また、地金の酸化防止の効果をより確実なものにするには、内張りの少なくとも溶鋼と接する箇所全面に付着させる必要がある。
【0008】
熱間回転操業による高温下で、前記の広範囲への迅速な付着には、吹付け施工が好ましい。ただし、地金の酸化防止に必要な還元雰囲気あるいは酸化防止被膜の形成は、地金が付着した内張り表面全体に行う必要がある。しかも、吹付けには前記のとおり迅速さが要求される。したがって、この吹付け施工による付着層の厚さは自ずと薄いものとなる。
【0009】
付着層が厚い場合は、付着層は下方からの積層支持も加わって接着保持されるが、薄いとその接着強度は付着層自身の接着性に頼らざるを得ない。従来方法で使用される炭素系還元材あるいはAl・Al合金粒は、接着性が不十分なことで、吹付け施工による厚さの薄い付着層の形成では、その付着は内張りの底部と底部近傍にとどまり、側壁内張りに対する付着は容易でなかった。
【0010】
例えば結合剤としてのリン酸塩、ケイ酸塩、セメント類等を多量に添加しての吹付けも考えられるが、付着層が薄いために僅かな熱衝撃で剥離を生じる。また、炭素、燃焼により炭化する有機物、あるいはAl金属・Al合金粒は、吹付け時の飛散が原因して付着率に劣る。このため、従来の還元材を吹付け施工した場合、タンディッシュの特に側壁部に対する付着が不十分となって、還元材がもつ地金の酸化防止の効果を十分に発揮することができない。
【0011】
本発明の目的は、薄層の形成でも優れた接着強度を有し、且つ付着率が高く、しかも十分な還元効果を備えた溶鋼タンディッシュ用吹付け還元材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、使用後の連続鋳造用タンディッシュの内張り表面に対して還元材を吹付けた後、ガスバーナをもって予熱を行う連続鋳造用溶鋼タンディッシュの操業方法において使用される前記の還元材であって、粒度調整された石炭コークス45〜85質量%およびマグネシア10〜50質量%と結合剤とを含み、且つ組成全体に占める割合で、粒度75μm以下のマグネシアの割合を少なくとも10質量%とした溶鋼タンディッシュ用吹付け還元材である。
【0013】
本発明は、還元材として石炭コークスを使用する。石炭コークスは比重が小さいことから、単にこれに結合剤を添加した材質では吹付けの際の飛散が著しく、付着率の改善を図ることができない。これに対し、本発明はこの石炭コークスに対して、特定の粒度のマグネシア微粉を組み合わせたことで、付着率が大幅に改善される。その理由は以下のとおりと考えられる。
【0014】
マグネシアは比重の大きい原料である。一方、石炭コークスの組織は多孔質である。石炭コークスとマグネシア微粉との組み合わせでは、石炭コークス表面の細孔にマグネシア微粉が介在し、吹付けの際に比重の大きなマグネシアが石炭コークスを牽引する形となる。これにより、本発明の還元材は石炭コークスの飛散が抑制され、付着性が向上する。
【0015】
石炭コークスの主成分は炭素である。結合剤とは化学的結合を生じない。しかし、本発明における還元材は、マグネシア微粉が石炭コークス表面の細孔に挟入し、この挟入したマグネシア微粉同士が結合剤と化学的に結合し、さらに結合剤が被施工面に接着することで還元材組織が被施工面に付着する。また、マグネシアは熱膨張が大きな原料であり、石炭コークス表面の細孔に挟入したマグネシア微粉がその熱膨張応力で石炭コークス表面の細孔内に係止されやすいことが、接着強度に大きく寄与する。
【0016】
同じ炭素原料であっても、多孔質でない例えば黒鉛、ピッチ類等は、マグネシア微粉と組み合わせても前記した付着性、接着強度の効果に乏しい。Al金属・Al合金は気孔を有していないことから、Al金属・Al合金とマグネシア微粉との組み合わせの場合も同様に付着性、接着強度の効果に劣る。また、Al金属・Al合金は石炭コークスと比べて原料価格が高く、広範囲への吹付けは経済的にも好ましくない。
【0017】
マグネシアと同様に比重の大きな原料として、アルミナがある。しかし、アルミナ(Al)は鋼の品質低下の原因となる溶鋼介在物成分であり、使用できない。しかも、マグネシアに比べて熱膨張が小さく、石炭コークス表面の細孔内への係止の作用が不十分なためか、本発明の接着強度の効果が得られない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の還元材によれば、垂直面あるいは傾斜面の内張りに対しても十分な付着性と接着性を発揮する。その結果、タンディッシュの内張りの溶鋼が接する全面に対しての付着が可能となり、地金の酸化防止による溶鋼介在物低減の効果をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の還元材において使用する石炭コークスは、粘結炭を1000℃以上の高温で蒸し焼きにしたものである。石炭ガスが抜け出た痕跡によって多孔質である。一般には、冶金、炭素材、燃料等に使用されている。
【0020】
本発明において、石炭コークスの使用割合は、45質量%未満では還元作用に乏しい。85質量%を超えるとマグネシアあるいは結合剤の割合が少なくなって本発明の付着性、接着強度の効果が得られない。さらに好ましくは50〜80質量%である。
【0021】
石炭コークスの最大粒度は例えば1〜5mmとし、これ以下の範囲で粗粒、微粒に調整する。粒度が大き過ぎると、吹付け時の跳ね返りが多くなって付着性に劣る。
【0022】
マグネシアは耐火原料として知られている。具体的には焼成マグネシア、電融マグネシア、天然マグネシアが挙げられる。その使用割合は、10質量%未満では本発明の付着性、接着性の効果が得られない。50質量%を超えるとマグネシアの熱膨張が過度になって接着性が低下する。マグネシアのさらに好ましい割合は、15〜45質量%である。
【0023】
本発明においては、還元材全体の組成に占める割合で、粒度75μm以下のマグネシア微粉を少なくとも10質量%含むことが必要である。10質量%未満では還元材の付着性および接着性に劣る。さらに好ましくは20質量%以下の範囲で含むように調整する。
【0024】
マグネシアの最大粒度は、石炭コークスと同様に例えば1〜5mm以下が好ましい。マグネシアのすべてを粒度75μm以下としてもよい。
【0025】
なお、本発明で規定した各原料の粒度は、例えばJISふるい目開きで定めることができる。ここでいうマグネシアの粒度75μm以下とは、75μmの篩で篩い分けたものに限らず、75μmの篩の篩下に含まれる粒度が対象となる。したがって、例えば45μmの篩いを用いた篩下も対象となる。また、例えば粒度1mmの篩いの篩下にも一般に75μm以下の粒度が含まれているから、この1mmの篩いの篩下における75μm以下も本発明で規定した粒度75μm以下の割合の対象となる。
【0026】
結合剤の種類は特に限定されるものではない。例えばピロリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、リン酸カリ、リン酸カルシウムなどのリン酸塩、珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、珪酸カリなどの珪酸塩、あるいはアルミナセメント、ポルトランドセメント等である。その割合は特に限定されるものではないが、好ましくは1〜20質量%の間で、結合剤の種類に合わせて適宜決定する。さらに好ましくは3〜12質量%である。
【0027】
結合剤の種類によっては、さらに硬化促進剤を組み合わせてもよい。硬化促進剤の割合は、還元材組成全体に占める割合で、例えば5質量%以下の範囲で使用する。硬化促進剤の具体例としては、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム等のカルシウム塩である。
【0028】
必要によっては、さらに揮発性シリカ、粘土、繊維類、乳酸アルミニウム類等を組み合わせてもよい。これらは、付着性または乾燥性の向上に効果がある。その好ましい割合は、還元材組成全体に占める割合で5質量%以下が好ましい。
【0029】
以上の配合組成よりなる本発明の還元材は、任意の吹付装置を使用し、例えば乾式法にて施工する。すなわち、還元材を吹付装置にてノズルへ搬送し、ノズルあるいはノズル近傍にて施工水を添加して吹付け、タンディッシュの内張り表面に、5〜30mm程度の薄層を形成する。この吹付けの際には、発塵防止のために施工水の一部を予め還元材に添加してもよい。
【0030】
吹付け施工の時期は、例えばタンディッシュの熱間回転操業において、タンディッシュを使用後、地金が付着した高温状態で行う。
【0031】
予熱はタンディッシュの次回の使用に備えてのものである。前記還元材を吹付け後に、ガスバーナをもって行う。還元材はこの予熱の際、地金表面に還元雰囲気を形成し、地金の酸化を防止する。
【実施例】
【0032】
以下に実施例とその比較例を示す。試験は、60tタンディッシュの熱間回転操業において、使用後のタンディッシュに対し、地金が付着し且つ約800〜1000℃の内張り表面に各例の還元材を厚さ8〜12mmに吹付けた後、次の受鋼に備えてガスバーナにて約1300℃で予熱した。タンディッシュの内張り材質は、アルミナ−シリカ質の流し込み不定形耐火物とした。吹付けは、吹付装置としてロテクターガンを使用し、乾式法にて行った。施工水は還元材100質量部に対して28〜30質量部添加した。
【0033】
各例で使用した還元材の配合組成と、吹付け時の発塵の程度、タンディッシュの側壁内張りに対する付着性および接着強度を表1、2に示す。石炭コークスは、C成分が約93質量%のものを使用した。
【0034】
表1、2に示した石炭コークスとマグネシアの粒度において、5〜1mmは、5mmの篩いによって篩い分け、さらにこれを1mmの篩いを通すことで、1mm未満をカットしたものである。1mm以下、75μm以下、45μm以下は、それぞれ1mm、75μm、45μmの篩いの篩下である。また、1mmの篩下にはそれ以下の例えば75μm以下あるいは45μm以下を含んでいることから、還元材全体に占めるマグネシアの75μm以下の合計量と45μm以下の合計量も併せて示した。
【0035】
発塵の程度は還元材を吹付けた際、目視で判定した。付着率は還元材の吹付け量からリバウンドロス分を引いて求めた。接着強度は還元材について吹付け後、あるいは予熱時において内張り表面からの剥離の程度を目視判定し、剥がれの程度が小さい場合は、接着強度大、剥がれの程度が大きい場合は、接着強度小と示した。
【表1】

【表2】

本発明実施例の還元材は付着性、接着強度共に優れ、タンディッシュの側壁部においても十分な強度をもって還元材を付着させることができる。その結果、タンディッシュの底部あるいは底部近傍だけでなく、側壁を含めた少なくとも溶鋼と接触する部位全体への還元材の付着が可能となる。これにより、還元材による地金の酸化防止効果がいかんなく発揮され、鋼の清浄化に大きく貢献することができる。
【0036】
これに対し比較例1は、マグネシアを使用せず、石炭コークス主体の還元材を吹付けたものである。吹付け時の発塵が著しく、還元材の付着状況の確認が容易でない。しかも、付着性、接着強度共に大きく劣り、実質的に側壁部への付着が困難であった。
【0037】
比較例2、3、4はいずれも石炭コークスとマグネシア微粉とを組み合わせた還元材を使用したものである。しかし、比較例2はマグネシア微粉の割合が少ないため、付着性、接着強度に劣る。比較例3はマグネシアの総量を満たすが、粒度75μm以下のマグネシア微粉の割合が少ないことが原因し、付着性、接着強度に劣る。比較例4はマグネシアの使用量が多すぎることで、接着強度に劣る。
【0038】
比較例5は、石炭コークスとアルミナ微粉を組み合わせた還元材の使用である。接着強度に劣る。加えて、アルミナが溶鋼介在物であるAlの供給源となり、還元材がもつ溶鋼汚染防止の目的が達せられない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用後の連続鋳造用タンディッシュの内張り表面に対して還元材を吹付けた後、ガスバーナをもって予熱を行う連続鋳造用溶鋼タンディッシュの操業方法において使用される前記の還元材であって、粒度調整された石炭コークス45〜85質量%およびマグネシア10〜50質量%と結合剤とを含み、且つ組成全体に占める割合で、粒度75μm以下のマグネシアの割合を少なくとも10質量%とした溶鋼タンディッシュ用吹付け還元材。
【請求項2】
硬化促進剤、粘土、繊維類、乳酸アルミニウム化合物から選ばれる一種以上をさらに含む請求項1記載の溶鋼タンディッシュ用吹付け還元材。

【公開番号】特開2007−160339(P2007−160339A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358506(P2005−358506)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】