説明

滅菌検知インジケータ組成物

【課題】高圧蒸気による滅菌処理の際に用い、必要に応じエチレンオキサイドガスによる滅菌処理の際にも簡便に用いることができ、明瞭な色調の変化で滅菌処理の完了を表示でき、悪臭を生じない衛生的で簡易な滅菌検知インジケータ組成物、及びそれが確りと付される滅菌検知インジケータを提供する。
【解決手段】滅菌検知インジケータ組成物は、糖類と、モノアゾ染料とを含有する。滅菌検知インジケータ1は、この滅菌検知インジケータ組成物が、基材5又は被滅菌物に付されて、変色層4を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品を高圧蒸気で滅菌したり、医療用の器具をエチレンオキサイドガスで滅菌したりする際に、滅菌の完了を検知するインジケータに用いられる組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
診療の際に用いられる医薬品や医療器具等は、無菌状態で使用するため、予め滅菌される。輸液のような医薬品、ガーゼのような衛生用品は、オートクレーブ中、高圧蒸気雰囲気下で、またカテーテル、注射針、診察機器のプローブ等の医療器具は、エチレンオキサイドガス雰囲気下で、夫々滅菌処理される。
【0003】
その際、医薬品や医療器具等の被滅菌物の間に、高圧蒸気やエチレンオキサイドガスに反応して変色するケミカルインジケータを介在させ、そのインジケータの変色を目視することにより、滅菌が十分であるかを確認している。
【0004】
高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとの何れの滅菌でも変色するインジケータ用の組成物として、特許文献1に、モノアゾ染料と、有機酸やその金属塩とを含有する組成物が開示されている。特許文献1の組成物は、短時間での高圧蒸気による滅菌を検知する場合、モノアゾ染料を昇華させて変色させるのに大量に含有させなければならない極性の有機酸やその金属塩が、非極性バインダーや溶媒に分散し難く塗布され難いため、インキとなる組成物を調製できない所為で、検知できる滅菌条件が極めて限定されたものとなってしまう。
【0005】
また、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとで変色するインジケータ用の組成物として、特許文献2に遷移金属化合物と、硫黄化合物や硫黄と、モノアゾ染料と、有機酸やその金属塩とを含有する組成物が開示され、特許文献3にニコチン酸アミド、イソニコチン酸ヒドラジド、ビスマス化合物、硫黄もしくは硫黄化合物、ポリアミド/ニトロセルロース樹脂、アクリル/繊維素系樹脂を含有する組成物が開示されている。
【0006】
さらに、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとのみならず、過酸化水素低温プラズマとホルマリンとの何れの滅菌でも変色するインジケータ用の組成物として、特許文献4にビスマス化合物、硫黄を含む硫黄化合物、有機酸化合物、ウレタン/ニトロセルロース樹脂、ポリアミド/ニトロセルロース樹脂、アクリル/アルキッド/ニトロセルロース樹脂を含有する組成物が開示されている。特許文献2〜4に記載の組成物は、特に高圧蒸気滅菌の際に硫黄や硫黄化合物に由来する硫黄臭が発生したり、有彩色から黒ずんだ色調乃至黒色への比較的目視し難い色調へ変化したりする。
【0007】
【特許文献1】特開平3−138864号公報
【特許文献2】特開平3−138865号公報
【特許文献3】特開2002−322315号公報
【特許文献4】特開2002−323451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、主として高圧蒸気による滅菌処理の際に用い、さらに必要に応じエチレンオキサイドガスによる滅菌処理の際にも簡便に用いることができ、明瞭な色調の変化で滅菌処理の完了を表示でき、悪臭を生じない衛生的で簡易な滅菌検知インジケータ組成物、及びそれが確りと付される滅菌検知インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、糖類と、モノアゾ染料とを含有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記モノアゾ染料が、ベンゾチアゾールアゾベンゼン類、及び/又はアゾベンゼン類であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、請求項2に記載されたものであって、
【0012】
前記モノアゾ染料が、下記化学式(I)
【化1】

(式(I)中、Rは、水素原子、水酸基、メチルスルホ基(CH3SO2-)のような炭素数1〜4のアルキルスルホ基、炭素数1〜4のアルコキシル基、ハロゲン基、アミノアシル基又はニトロ基、Rは、水素原子、水酸基、メチルスルホ基のような炭素数1〜4のアルキルスルホ基、硝酸基、炭素数1〜4のアルキル基、アシルオキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、シアノ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、又はハロゲン基、RおよびRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、又はアシルアミノ基、RおよびRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、硝酸基、炭素数1〜4のアルキル基、アシルオキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、シアノ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、又はヒドロキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされる前記ベンゾチアゾールアゾベンゼン類、又は
【0013】
下記化学式(II)
【化2】

(式(II)中、RおよびRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン基又はアシルアミノ基、RおよびR10は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、R11およびR12は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、シアノ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、又はアシルオキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされる前記アゾベンゼン類
から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記糖類が、遊離のアルデヒド基若しくはヘミアセタール基を少なくとも一つ有する還元性の単糖類、又は該単糖類を構成単位とする多糖類であることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記糖類が、澱粉、デキストリン、アルギン酸、カラギーナン、アラビアゴム、寒天、アガロース、ガラクタン、ペクチン、グルコース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、それらの誘導体の何れかであることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、請求項5に記載されたものであって、前記誘導体が、塩又はエステルであることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたものであって、有機酸を含有することを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載された滅菌検知インジケータ組成物は、請求項7に記載されたものであって、前記有機酸が、脂肪族カルボン酸、又は芳香族カルボン酸であることを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載された滅菌検知インジケータは、請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物が、基材又は被滅菌物に付されて、変色層を形成していることを特徴とする。
【0020】
請求項10に記載された滅菌検知インジケータは、請求項9に記載されたものであって、前記基材が、紙製又はプラスチック製で、カード、テープ、シート又は袋であることを特徴とする。
【0021】
請求項11に記載された滅菌検知インジケータは、請求項9に記載されたものであって、前記変色層が、プラスチックフィルム保護膜で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の滅菌検知インジケータ組成物は、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとの何れに晒されたときにも夫々、感度良く目視し易い異なる色調へ明瞭に変化する。この組成物は、滅菌時間や高圧蒸気温度やエチレンオキサイドガス濃度の滅菌条件に応じて所定の異なる色調に変化する。また、この滅菌検知インジケータ組成物は、硫黄や硫黄化合物を含んでおらず、それに由来する硫黄臭が発生しないため、衛生的に優れている。
【0023】
このような組成物を付した滅菌検知インジケータは、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスによる何れの滅菌の際にも滅菌の完了の確認に用いることができる。そのため、わざわざ滅菌方法毎に別なインジケータを用意しなくてすみ、簡便である。しかもこの組成物の印刷や塗布により、簡便に効率よく確りと滅菌変色層を形成したインジケータにすることができるので、歩留まりがよく、安価であって経済的に優れている。
【0024】
このインジケータを用いて滅菌を確認する際、変色層は、滅菌時間の長短、高圧蒸気温度の高低、エチレンオキサイドガス濃度の濃淡に応じ、滅菌前後で大きな色差を示すから、滅菌の完了を目視可能な明瞭な色調により表示する。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
本発明を適用する滅菌検知インジケータ組成物を調製した例について説明する。
【0027】
色素としてモノアゾ染料と、糖類と、必要に応じて溶剤、樹脂、又はそれらを含むインキビヒクルとを、混練機により均一に混練して、滅菌検知インジケータ組成物を調製する。
【0028】
溶剤や樹脂のようなインキ成分を含んでいるインキビヒクル100重量部に対し、モノアゾ染料を0.01〜50重量部好ましくは0.01〜5重量部、糖類を0.1〜50重量部を、用いてもよい。
【0029】
糖類は、遊離のアルデヒド基やヘミアセタール基を有する還元性の単糖類であってもよく、この還元性の単糖類を繰返構成単位とする多糖類であってもよく、この還元性の単糖類と別な単糖類とを構成単位とする多糖類であってもよい。
【0030】
単糖類は、グルコース、ガラクトース、マンノース、アラビノース等のアルドヘキソースが挙げられる。それらを修飾した誘導体であってもよい。
【0031】
多糖類は、冷水又は熱水に対して可溶性の多糖類とりわけ天然多糖類であることが好ましい。このような水可溶性の多糖類は安全性が高く、また高圧蒸気滅菌を施す際に高圧蒸気を変色層内に保持する作用を示し、またその温度範囲において、部分的に加水分解を起こし易いものである。
【0032】
多糖類は、具体的には、単糖分子の還元基と他の単糖分子のアルコール性水酸基とが結合した基を有する多糖類、より具体的には、澱粉、デキストリン、アルギン酸、カラギーナン、アラビアゴム、寒天やその一成分であるアガロース、ガラクタン、ペクチンが挙げられる。それらを修飾した誘導体であってもよい。
【0033】
中でも、多糖類は、分子内に酸性基としてスルホン酸基やカルボン酸基を有しているカラギーナンや寒天やアルギン酸であると、短時間の高圧蒸気滅菌を施す場合に、有機酸が少量であってもその分子内に存する酸性基により高圧蒸気で加水分解して多糖類との反応を惹き起こし易くしていることにより、鋭敏に反応して、変色を起こすことができるため、好ましい。
【0034】
糖類は、それらの塩やエステルであってもよい。具体的には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸エステルが挙げられる。
【0035】
モノアゾ染料は、高圧蒸気下で、遊離のアルデヒド基を有する単糖類や、ヘミアセタール基を有する単糖類、部分的に加水分解した多糖類と反応して変色し、又、エチレンオキサイドガスと反応して変色する色素である。
【0036】
モノアゾ染料は、芳香環と芳香環/複素環とがモノアゾ基で結合したものが好ましく、置換基を有していてもよいベンゼン環と、置換基を有していてもよい別なベンゼン環又はベンゾチアゾール環とが、モノアゾ基を介して結合したものであると一層好ましい。中でも、モノアゾ染料は、前記化学式(I)(II)で表わされるものであるとなお一層好ましい。モノアゾ染料は、より具体的には、C.I.(カラーインデックス)ディスパースレッド58、C.I.ディスパースレッド88、C.I.ディスパースレッド110、C.I.ディスパースレッド117、C.I.ディスパースレッド137、C.I.ディスパースバイオレット38、C.I.ディスパースバイオレット43、C.I.ディスパースブルー102、ディスパースレッド152、ディスパースレッド153、ディスパースレッド154が挙げられる。
【0037】
組成物中のモノアゾ染料が0.01重量部未満であると、組成物で形成した変色層の色調が薄くなってしまい、一方、5重量部より多いと、変色前後の変色層の色調がいずれも濃すぎるため、僅かな色調の変化が目視し難くなってしまう。
【0038】
滅菌検知インジケータは、モノアゾ染料と糖類との反応の促進剤および多糖類の加水分解反応の促進剤として、有機酸を最大で50重量部含んでいてもよい。有機酸として、塩酸・硫酸・硝酸よりも酸性度が低く、かつ弱酸でないカルボン酸類が挙げられる。
【0039】
カルボン酸類として、脂肪族カルボン酸や芳香族カルボン酸が挙げられる。また、それら脂肪族カルボン酸や芳香族カルボン酸の誘導体、例えばアリール基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基又はオキソ基のような置換基を有する飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸やその塩、アルキル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基又はオキソ基のような置換基を有する芳香族カルボン酸やその塩が挙げられる。
【0040】
脂肪族カルボン酸やその誘導体として、例えばアクリル酸、アジピン酸、L−アスパラギン酸、アゼライン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸、クエン酸、グルタコン酸、ジグリコール酸、DL−酒石酸、セバシン酸、ソルビン酸、ナフテン酸、馬尿酸、バルビツール酸、ピバリン酸、ピルビン酸、フマル酸、ベンジル酸、マレイン酸、マロン酸、およびメタクリル酸が挙げられる。
【0041】
芳香族カルボン酸やその誘導体として、例えば、芳香族モノカルボン酸、より具体的には、安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸、2,3,4−トリメチル安息香酸、2,3,5−トリメチル安息香酸、2,4,5−トリメチル安息香酸、2,4,6−トリメチル安息香酸、3,4,5−トリメチル安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、メトキシ安息香酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸、2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸、2−ヒドロキシ−4−メチル安息香酸、2−ヒドロキシ−5−メチル安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸、3−ヒドロキシ−4−メトキシ安息香酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、2,3−ジメトキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ−6−メチル安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシ安息香酸、2,4,5−トリメトキシ安息香酸、2−(カルボキシメチル)安息香酸、3−(カルボキシメチル)安息香酸、4−(カルボキシメチル)安息香酸、2−(カルボキシカルボニル)安息香酸、3−(カルボキシカルボニル)安息香酸、4−(カルボキシカルボニル)安息香酸、アントラニル酸、サリチル酸、ニコチン酸;
芳香族ポリカルボン酸、より具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸が挙げられる。
【0042】
インキビヒクルは、インジケータの変色特性を損なわず、かつ被印刷物への付着性が優れた樹脂であり、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、ブチラール樹脂、アクリル酸エステル樹脂やメタクリル酸エステル樹脂のようなアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、及びロジン変性マレイン酸樹脂等が挙げられ、これら樹脂に溶剤が含まれたものであってもよく、市販のインキ用ビヒクルであってもよい。
【0043】
滅菌検知インジケータ組成物は、さらに、別な有色色素、防さび剤、界面活性剤、発色増強剤のような通常のインジケータ組成物に用いられる添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
滅菌検知インジケータ組成物が、添加剤としてシリカ、硫酸バリウム、クレイ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等を含んでいると、高圧蒸気やエチレンオキサイドガスの透過性を向上させる。また、耐熱性、耐ガス性に優れた色素を含んでいると、変色前後の色調を目視し易く自在に調整できる。
【0045】
溶剤は、必要に応じて樹脂と共に用いられるもので、滅菌検知インジケータ組成物がインキとしての優れた印刷性能を発現するためのものである。溶剤は、例えば、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、ブチルセロソルブ、トルエン、キシレンのような有機溶媒;桐油、アマニ油、大豆油、ヒマシ油、乾性油、及びこれらの混合物のような乾性油を、含んでいてもよい。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0046】
滅菌検知インジケータ組成物は、ボールミル、ロールミル、サンドミル等の混練機を用いて混合して、インキとして調製されたものであってもよい。
【0047】
この滅菌検知インジケータ組成物を用いた滅菌検知インジケータを製造した例について、図1を参照して説明する。
【0048】
滅菌検知インジケータ組成物をインジケータ基材5に印刷し、変色層4を形成させる。すると、滅菌検知インジケータ1が得られる。
【0049】
滅菌検知インジケータは、上質紙やクレープ紙のような紙、プラスチック、合成紙、布帛、又は不織布で形成された基材、例えばカード、テープ、シート、袋に印刷したり、紙、プラスチック、合成紙、布帛、又は不織布で形成された被滅菌物用包装基材、例えば紙製包装シート、紙製包装袋に印刷したりされる。被滅菌物に直接印刷されていてもよい。
【0050】
この滅菌検知インジケータは、以下のようにして使用される。
【0051】
被滅菌物をオートクレーブに入れて並べ、その間の随所にカード状の滅菌検知インジケータを配置する。オートクレーブを閉め、高圧蒸気を充満させて、被滅菌物を滅菌する。すると、変色層内のモノアゾ染料が高圧蒸気で反応し、変色する。
【0052】
また、高圧蒸気に代えて、被滅菌物を滅菌用タンク中、エチレンオキサイドガスで滅菌する場合、滅菌検知インジケータ上の変色層内のモノアゾ染料がエチレンオキサイドガスに反応し、変色する。
【0053】
この滅菌検知インジケータインキ組成物を印刷した変色層が、高圧蒸気雰囲気下、又はエチレンオキサイドガス雰囲気下で、色調の変化を起こす反応メカニズムの詳細は、必ずしも明らかでないが、以下のように推察される。
【0054】
単糖類としてグルコースと、前記化学式(I)で示されるモノアゾ染料と、有機酸とが含まれている滅菌検知インジケータインキ組成物で変色層を形成させた滅菌検知インジケータの場合を説明する。このインジケータを高圧蒸気に曝すと、水蒸気存在下で有機酸から生じたプロトンが単糖類に作用する。これにより、モノアゾ染料のモノアゾ基窒素と、単糖類のアルデヒド基とが、有機酸から発生したプロトンを触媒として反応し、モノアゾ染料の電子密度の変化を生じる結果、変色層が例えば赤色から緑色へ変色する。
【0055】
また、別な例として、多糖類としてD−グルコースがα−1,4グリコシド結合したアミロースとα−1,6グリコシド結合したアミロペクチンとを主成分とする澱粉と、前記化学式(I)で示されるモノアゾ染料と、有機酸とが含まれている滅菌検知インジケータインキ組成物で変色層を形成させた滅菌検知インジケータの場合を説明する。このインジケータを高圧蒸気に曝すと、水蒸気存在下で有機酸から生じたプロトンが多糖類に作用する。これにより、多糖類の一部であってグルコース環状異性体であるグルコピラノース基が、加水分解されて開環することにより、アルデヒド基を生成する。モノアゾ染料のモノアゾ基窒素と、生成したアルデヒド基とが、有機酸から発生するプロトンを触媒として反応し、モノアゾ染料の電子密度の変化を生じる結果、変色層が例えば赤色から緑色へ変色する。
【0056】
一方、これらのインジケータをエチレンオキサイドガスに曝すと、エチレンオキサイドが、モノアゾ染料と反応して共鳴構造が変化し、さらに有機酸の共存によるプロトンの発生で一層促進される結果、変色層が例えば赤色から青色へ変色する。
【0057】
なお、被滅菌物の管理すべき滅菌条件に応じて、組成物中の糖類、モノアゾ染料および有機酸の種類や濃度を調整することにより、変色後の色調、色の濃淡および変色速度の調節が可能である。
【0058】
図2に、本発明を適用する別な滅菌検知インジケータ1が示されている。図2に示すように、滅菌検知インジケータ1の変色層4は、粘着層7を介してプラスチックフィルム保護膜9によって被覆されていてもよい。これにより、インジケータ組成物やその組成成分が被滅菌物に付着して汚染してしまうのを、防ぐことができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の滅菌検知インジケータ組成物及びそれを用いた滅菌検知インジケータを作製した実施例と、本発明を適用外の組成物及びインジケータを作製した比較例とについて、説明する。
【0060】
(実施例1A〜1I、及び比較例1a)
表1に示す配合物を、ボールミルで24時間混練してスクリーン印刷用の滅菌検知インジケータ組成物としてインキを得た。これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、134℃で8分間、高圧蒸気滅菌処理した。実施例1A〜1Iのインジケータは、赤から緑へ色調が変化した。
【0061】
また、これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、137℃で30分間、恒温槽中で滅菌処理した。実施例1A〜1Iと比較例1aのインジケータは、色調が赤のままであった。
【0062】
また、同様にこれらのインキで上質紙に印刷した別な滅菌検知インジケータを、240分間、エチレンオキサイドガス滅菌処理した。その滅菌処理条件は、炭酸ガス混合20%エチレンオキサイドガス、給ガス量100kPa、温度50℃、相対湿度50%とするものである。実施例1A〜1Iと比較例1aのインジケータは、120〜240分経過時に、赤から青へ色調が変化した。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例2A,2B、及び比較例2a)
表2に示す配合物を、ボールミルで24時間混練してスクリーン印刷用の滅菌検知インジケータ組成物としてインキを得た。これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、134℃で1分間、高圧蒸気滅菌処理した。実施例2Aと2Bのインジケータは、赤から緑へ色調が変化した。
【0065】
また、これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、137℃で30分間、恒温槽中で滅菌処理した。実施例2A,2Bと比較例2aのインジケータは、色調が赤のままであった。
【0066】
また、同様にこれらのインキで上質紙に印刷した別な滅菌検知インジケータを、240分間、エチレンオキサイドガス滅菌処理した。その滅菌処理条件は、炭酸ガス混合20%エチレンオキサイドガス、給ガス量100kPa、温度50℃、相対湿度50%とするものである。実施例2A,2Bと比較例2aのインジケータは、120〜240分経過時に、赤から青へ色調が変化した。
【0067】
【表2】

【0068】
(実施例3A、及び比較例3a)
表3に示す配合物を、ボールミルで24時間混練してスクリーン印刷用の滅菌検知インジケータ組成物としてインキを得た。これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、134℃で1分間、高圧蒸気滅菌処理した。実施例3Aのインジケータは、赤から緑へ色調が変化した。
【0069】
また、これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、137℃で30分間、恒温槽中で滅菌処理した。実施例3Aと比較例3aのインジケータは、色調が赤のままであった。
【0070】
また、同様にこれらのインキで上質紙に印刷した別な滅菌検知インジケータを、240分間、エチレンオキサイドガス滅菌処理した。その滅菌処理条件は、炭酸ガス混合20%エチレンオキサイドガス、給ガス量100kPa、温度50℃、相対湿度50%というものである。実施例3Aのインジケータは、120〜240分経過時に、赤から青へ色調が変化した。
【0071】
【表3】

【0072】
表1〜3から明らかな通り、本発明を適用する滅菌検知インジケータは、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとに、所定の滅菌時間で明瞭に変色した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の滅菌検知インジケータインキ組成物は、医療器具や医薬品、レトルト食品のような加工食品等の滅菌の完了を確認するインジケータを作製するのに有用である。
【0074】
この組成物で印刷して変色層を形成した滅菌検知インジケータは、高圧蒸気滅菌及びエチレンオキサイドガス滅菌のいずれかの滅菌を確認するのにも有用である。
【0075】
この滅菌検知インジケータは、変色層として数字や文字や図柄を印刷したカード、シール又はラベルの形状にして、滅菌の完了を確認したり、その証拠として保存したりするのに、用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明を適用する滅菌検知インジケータを示す模式断面図である。
【図2】本発明を適用する別な滅菌検知インジケータを示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1は滅菌検知インジケータ、4は変色層、5はインジケータ基材、7は粘着層、9はプラスチックフィルム保護膜である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類と、モノアゾ染料とを含有することを特徴とする滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項2】
前記モノアゾ染料が、ベンゾチアゾールアゾベンゼン類、及び/又はアゾベンゼン類であることを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項3】
前記モノアゾ染料が、下記化学式(I)
【化1】

(式(I)中、Rは、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキルスルホ基、炭素数1〜4のアルコキシル基、ハロゲン基、アミノアシル基又はニトロ基、Rは、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキルスルホ基、硝酸基、炭素数1〜4のアルキル基、アシルオキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、シアノ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、又はハロゲン基、RおよびRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、又はアシルアミノ基、RおよびRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、硝酸基、炭素数1〜4のアルキル基、アシルオキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、シアノ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、又はヒドロキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされる前記ベンゾチアゾールアゾベンゼン類、又は
下記化学式(II)
【化2】

(式(II)中、RおよびRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン基、又はアシルアミノ基、RおよびR10は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、R11およびR12は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、シアノ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基、又はアシルオキシ置換された主鎖炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされる前記アゾベンゼン類
から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項2に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項4】
前記糖類が、遊離のアルデヒド基若しくはヘミアセタール基を少なくとも一つ有する還元性の単糖類、又は該単糖類を構成単位とする多糖類であることを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項5】
前記糖類が、澱粉、デキストリン、アルギン酸、カラギーナン、アラビアゴム、寒天、アガロース、ガラクタン、ペクチン、グルコース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、それらの誘導体の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項6】
前記誘導体が、塩又はエステルであることを特徴とする請求項5に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項7】
有機酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項8】
前記有機酸が、脂肪族カルボン酸、又は芳香族カルボン酸であることを特徴とする請求項7に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物が、基材又は被滅菌物に付されて、変色層を形成していることを特徴とする滅菌検知インジケータ。
【請求項10】
前記基材が、紙製又はプラスチック製で、カード、テープ、シート又は袋であることを特徴とする請求項9に記載の滅菌検知インジケータ。
【請求項11】
前記変色層が、プラスチックフィルム保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項9に記載の滅菌検知インジケータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−31273(P2009−31273A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166236(P2008−166236)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】